常識について思うこと

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アキレスとカメの行方

2009年08月17日 | 科学

アキレスとカメという話があります。この話については、以前、仮説の重要性を説明する中で、取り上げています(「「仮説と検証」のすすめ」参照)が、ここではあらためて、アキレスとカメの話に焦点を絞って、整理してみたいと思います。

アキレスとカメというは、以下のような話です。

足の速いアキレスという人と、ノロノロ歩くカメがいます。アキレスは、カメの後ろにいて、前を歩いているカメを追いかけるようなかたちで、同じ方向に進んでいます。この時、これを次のように考えます。

  1. アキレスが、カメがいた場所に辿り着く
  2. アキレスが、カメがいた場所に辿り着いた時、カメはそれよりも前に進んでいる
  3. さらにアキレスが、そのカメのいた場所に辿り着く
  4. アキレスが、カメがいた場所に辿り着いた時、カメはそれよりもさらに前に進んでいる
  5. またさらにアキレスが、そのカメのいた場所に辿り着く・・・

これを繰り返していると、アキレスは永遠にカメに追いつかないことになります。当たり前のことながら、そんなことはあり得ません。では、この問題を解いてみます。

-実際、アキレスはカメに追いつくのではないか?-

もともとのアキレスとカメの話からすると、あり得ない話です。しかし、もともとの話が不自然である以上、それを超える仮説を置いてみるのです。さらにここでは、アキレスはカメの2倍の速度で歩くと仮定して、時間軸について考えてみることにします。

まず、最初の状態は、スタートなのでT(時間)=0とします。そこから、アキレスがカメに追いつくまでの時間を、仮にT=1と考えます。こうすると、T=1までの残り時間の半分で、常にアキレスはカメがいた場所に辿り着くことになります。少々、分かり難いかもしれませんので、それを図示すると以下の通りとなります。

直感的に分かっていただけるかも分かりませんが、この「T」の小数点以下の桁数は、どんどんと長くなっていきます。そして、同時に「1」に近づいていきます。それは下に示すとおりです。

============
T=0.500000000000
T=0.750000000000
T=0.875000000000
T=0.937500000000
T=0.968750000000
T=0.984375000000
T=0.992187500000
T=0.996093750000
T=0.998046875000
T=0.999023437500
T=0.999511718750
T=0.999755859375
============

この数字は、延々と長くなり続けるのですが、よく見れば、結局、「T=1」までの差分を、細かく切っているだけなのです。従って、この計算を繰り返す限り、このT値は限りなく「1」に近づいていきながらも、けっして「1」にはなり得ないということになります。このことが、この話において「アキレスは永遠にカメに辿り着けない」という論拠になるのです。

この問題を考えるにあたって面白いことは、計算能力を高めることが、問題の本質的な解答に結びつかないということです。いくら計算能力を高めても、所詮、計算できる桁数が増えるだけで、それが指し示すところは、「アキレスはカメに追いつかない」ということに変わりないというところがポイントです。

このように出口が見えない問題があるときには、それを超える仮説を置くということが、極めて重要です。上記の例で言えば、「アキレスはカメに追いつく」、「T=1は存在する」という仮説を立てることが、この問題の本質的な解決のための鍵になるということです。ただし、この解決によって、「アキレスがカメに追いつかない」という、もともとのアキレスとカメの話が、全て否定されるわけではありません。もともとのアキレスとカメの話は、単に「T<1の世界」における論理であり、それがこの話の論理的限界であるという解釈が、最も的を射ているように考えます。そして、実際には「T≧1」の世界が存在するのであり、それを認められる仮説を立てられたとき、アキレスは優にカメを抜き去っていくという、もともとのアキレスとカメの話ではあり得なかった現象が明らかになるわけです。

こうした問題は、アインシュタインを始めとする科学の話にも通じるものがあると考えます。即ち、近年、アインシュタインの論理に不備があるとし、それを否定するような論調のものも散見されるのですが、それはアインシュタインが考える世界観(T<1の世界)における限界があるだけで、それが全否定されるようなものでもないだろうということです(「優等生なアインシュタイン」参照)。

アインシュタインが持つ世界観(T<1の世界)や論理には限界があり、それを超える世界(T≧1の世界)が存在することを仮説として置き、その検証が進んでいけば、科学はさらに飛躍的な進歩を遂げるようになるのでしょう。仮説を置き、それを検証していくことの繰り返しこそが、科学の最先端で行われていることである以上、まだ残されている世界の多くの謎は、科学によって、いずれきちんと解明されていくのだろうと思います。

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