満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

「out of this world」と「blue world」

2019-10-17 | 新規投稿

ジョン・コルトレーンの新しい発掘音源リリースである「Blue World」の全体を覆う凡庸な内容は想定内だからいいとして、私が気になっていたタイトルナンバー「blue world」が明らかにその演奏時期の2年前である1962年に録音したカバーナンバー「out of this world」と同じテーマ、同じコード進行の曲にもかかわらずcomposition by john coltraneと記されている事への疑念は残った。オリジナル「out of this world」はHarold Arlen作曲, Johnny Mercer作詞による1944年の曲であり、コルトレーン以前にも多くの主にシンガーによって歌われている名曲である。私がコルトレーンの曲(というか演奏)で最も好きなナンバーの一つがこの「out of this world」で、正味、これまで何百回聴いているかわからない。これはImpule第一弾のアルバムである「coltrane」(62)のA面トップに収められたトラックだ。従って、「Blue World」を聴いていたらやはり、途端に「out of this world」が聴きたくなり、レコード棚に手を伸ばす私がいた。

ラブソングだが深遠さを秘めた同曲をコルトレーンは正しく世界の外に飛び出していくが如く上昇気流のような疾走感で表現して見せた。演奏時間は14分にも及ぶ。その一瞬一瞬が全く飽きさせない説得力を持ち、楽器のソロ、アドリブというのがここまで雄弁に表現される事があるのかと感嘆する。コルトレーンによるゆったりとしたテーマの後方で激しいアフロビートを叩きだすエルビン・ジョーンズ(ds)、音数少なくリズムを縦に刻むようなマッコイ・タイナー(p)のある種、ロック的なオンビートな演奏はドローンのような陶酔感を呼び覚ます。そしてコルトレーンは端正な歌から徐々に逸脱しながらアウトコードしてゆき、再び端正な泣き節に戻るという循環の中で14分に連なる一つの大きな歌を歌っているかのようだ。長い曲だが片時も無駄なフレーズがなく、演奏に集中して聴く事ができる稀有のトラック。それが「out of this world」だ。途中、サックスの音が擦り切れるような局面やぐひゃぐひゃと鳴る濁音のようなカオスを作るが、そこにすら濃厚なメロディを感じるのは恐らく私だけではないだろう。
ジャズのアコースティックなフォーマットで奏でられる宇宙的音楽。この世界の果てへと行きつくような拡張の感覚は60年代後半のマイルス・デイビスによるエレクトリック手法のスペーシーと対比され、歌う深遠さに於いてそれに勝る。どこまでもヒューマンな資質を残すのがコルトレーン節の象徴。
2019.10.16
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする