満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

   FEIST   『THE REMINDER』

2007-10-15 | 新規投稿

いい歌が一杯詰まったCDを聴いた。
‘ソングライティングの時代の終焉’と幕引きするにはまだ早いかな。カナダの女性シンガーソングライターFEIST(ファイスト)の新作はポピュラーミュージックの王道を感じさせる既視感あふれる音楽。
メロディが耳にまっすぐ入る。確かな曲調があり、裸の歌がある。こんな音楽、こんなレベルのポップはもうないと勝手に思いこんでいただけに、ある意味、衝撃的。マリーザモンチ(ブラジル)に匹敵する才能だと感じる。

大量に資本投下された場所で作られる作為に満ちたチューインガムミュージック。作曲が音響に従属したムードメイクミュージック。どちらにも用はない。歌が聴きたい。息がきこえる歌、人の旋律そのものの歌が。
嘗て竹中労は「キューバと沖縄にしかもういい歌は残っていない」という極論を言った。そんな事あるかいと思うが、辺境にこそ<源歌>があるのは今となっては確か。私はブラジルこそが今、歌の宝庫だと思っている。欧米、特に英米の自由度、恵まれ度、或いは虚無を愛でる事が可能な精神の余裕度、シニシズム(英国で顕著)が歌を喪失させていると言えば暴論か。ただ、いい歌が生まれる背景的なものは決して無視できないものとしてあるとは思う。
FEISTは強い歌を歌っている。まるでホームパーティーミュージックから生まれ出るアメリカンポップスの黄金期を思わせる親近感や団欒の感覚。例えて言えばカーペンターズが未来に再登場したようなインパクトか。

メジャーなフレーズを哀調で歌ったり、インナーなバラッドを湿っぽくせずにアンビエント風味に仕上げたり(リバーブたっぷりのピアノはゴンザレス。この人、歌ものの方が生きるね)、工夫が随所に見られる。かなり練られたサウンド。完成度が高い。プロデュースの勝利だろう。FEISTの作曲能力が全体の緻密な制作でより浮き彫りになった。

線の細い声を震わせる歌唱法はテクニックではなく自然体の成せる技。けど拡がりも同時にある。彼女のブルースがそうさせているのだろう。等身大の自己表現である事は勿論、他者を感化させずにはおれない特別なものを内に持つ者のみに許された表現。人の資質として鑑賞に堪えうる客体を持つ者の表現がここにある。売れる、売れないは、あずかり知らぬところ。それは結果の事。FEISTの歌の本質、意義は別のところにある。歌の確かな伝播、継承、心への浸透という尊い道がここに開かれ、そこを歩いている。

2007.10.15
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