思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『おちび』 マダム・タッソーはエピソード濃すぎ

2023-08-23 10:38:08 | 日記
『おちび』
エドワード・ケアリー
古屋美登里:訳

蝋人形で有名なマダム・タッソーの物語。
フィクションの小説ではあるけれど、
おもしろい人生を送った人なのは事実っぽい。
(wikiを読むだけでもドラマチックが過ぎる!と思う)

エドワード・ケアリーは『堆塵館』の作者で、
アーティストでもある人(公式サイトこちら)。
というわけで今作も独特な挿絵がたっぷり。良い。

ところで、マダム・タッソーの蝋人形館といえば
私は「ロンドンの名所」というイメージでした。
が、マダムはスイス国籍のフランス育ちらしい。

なにしろフランス革命ど真ん中のパリに暮らした人なのである。
マダム、凄いところに居合わせてる〜!!

そんなマダムがマダムになる前の
おちび時代の物語です。

養父兼師匠のクルティウス先生は実在の人物で
(洋裁屋の未亡人はフィクションぽいけど)、
パリで共に蝋人形制作をしていたのも史実のようです。

さらには、ルイ16世の妹エリザベートに蝋人形を教えたり、
革命の余波で牢獄に捉えられたりしたのも史実らしい
(牢獄内では、ナポレオンの妻になるジョゼフィーヌと
知り合っているとか、エピソードが、悉く、濃い)。

とにかくベースとなるファクトが強いのだけど、
そこに味付けされたこの小説も強い。濃い。こってり。
ごんぶとでとてもとてもおもしろい。

主人公のおちびこと、マリー・グロシュルツの
我の強さがとにかく良いですね。
好みの分かれるところかもしれないけれど、私は好きだ。
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『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』 取材の鬼が来たぞ〜

2023-08-22 17:39:26 | 日記
『モンテレッジォ
小さな村の旅する本屋の物語』
内田洋子

モンテレッジォは、イタリア・トスカーナの
山奥にある小村だそうです。

何世紀にもわたり村の人が本の行商で生計を立て、
籠いっぱいの本を担いでイタリアじゅうを旅したといいう
不思議な伝統を持つ。

本の行商?
薬とかじゃなくて?

というオモシロネタの嗅覚が異常に鋭いのが
作者の内田さんである。
よく見つけるな。

内田さんがヴェネツィアにある古書店をきっかけに
村の存在を知り、取材しまくる、という一冊。

相変わらずの行動力と取材力だった
(行けば聞ける!という話しでもなかろうに)。
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『犬が星見た―ロシア旅行』 百合子ワールドを旅する本

2023-08-21 12:16:07 | 日記
『犬が星見た―ロシア旅行』
武田百合子

百合子さんの日記的エッセイ。

武田百合子・泰淳夫妻と、
泰淳の親友・竹内好の3人での
ロシア(ソ連)から北欧までの旅行記。

解説で色川武大が「文は人なり」と書いてある通りで、
もう、百合子さんの視座の絶妙さと、
それを言葉に定着させるセンスが素晴らしすぎて、
なにも言えない。
すごい。
ステキ。

旅行の道程と食べたもの、買ったもののメモ
といえばそうなのだけれど、
そうじゃないんだよ!
百合子なんだよ!

旅したのは、昭和44年(1969年)6月から7月にかけて。
ソ連領内は、団体旅行。
船で津軽海峡を通り大陸へ。
寝台列車に乗り、小型飛行機を乗り継ぎ、
ソ連の各地をめぐる。

なにこの旅、めちゃくちゃ過酷じゃない?
と思うけれど百合子さんの筆にかかれば
扉のないトイレだろうが、言葉の通じないガイドだろうが、
なんか楽しそうなのである。
全てはなんとかなりそうなのである。
私だったらなんとかならないけど。
もうね、本当に凄い(としか言えない)。

旅仲間のひとり「銭高老人」がまたおもしろい。
関西屈指の富豪である銭高老人、80歳を過ぎ、
家族の反対を押し切って単身海外旅行に参戦したという。
仮名かと思ったら本名だった。
銭高組(!)の会長だ。
百合子さん、引きが強いな!

泰淳は昔ながらの偉そうなオットなのだけれど、
だからと言って百合子さんは辛そうでも抑圧されてるわけでもなく
飄々と「百合子さん」で、ステキな人だなと思う。

そんな暴君泰淳、途中で竹内さんに怒られて拗ねたり。
竹内さんも黒海で泳いだ泰淳に負けたくないから、と
意地で泳ごうとしたり。
あんたら仲良いなあ。

特に計画もないのんびりした旅行に行きたいな、と思う一冊。
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『小さなことばたちの辞書』 OED編集室に暮らした女性の物語

2023-08-16 18:58:54 | 日記
『小さなことばたちの辞書』
ピップ・ウィリアムズ
最所篤子:訳


『オックスフォード英語大辞典』編纂室で育った
少女エズメの生涯を描く物語。
※史実に則った小説です。

19世紀前後、ヴィクトリア女王統治下の大英帝国時代。
イギリスでは女性参政権運動が盛んだった時代でもある。

オックスフォードの辞書編纂者の娘として
「中の中の上」くらいのエズメの視点で、
当時の社会が描かれているのがおもしろポイントかと。

エズメの世話を何かと焼いてくれる
マレー博士の家の女中リジー(身分的には下層側)と、
当時のインテリ女性最高峰にいる
エズメの名付け親ディータ(分かりやすい上流)が、
とても良いバランス。
この二人を描くことで、
当時の女性の両極とその生活が垣間見える仕組み。
エズメも、読者も、視野を広く持って処世を眺められるというか。

なかなか面白くよみました。

が。
この本、ちょっと予習が必要じゃないか?
当時の社会情勢や男女格差の空気感みたいなものが
与件とされていて、あまりにも説明がないのよ。
そういう小説です、でもアリだとは思うけど。
うーん、邦訳だから注釈つけよっか、とかなかったのかな?

さらには、OED編纂事業の特徴的な部分
(マレー博士は絶対的編集長ではないとか、
ボランティアから郵便で語釈や用例を集めるシステムとか、
出版計画が「途方もなく間違っていた(編纂開始から
最初の分冊出版まで27年かかっている。
2年くらいでできるっしょ、とか思ってたのに)とか)
は予備知識として知らないと、
「?」な部分が多い小説になっていないだろうか。

まあ、英語圏の人にはOEDあるあるは基礎常識なのかもしれません。

日本人は『博士と狂人』(OED編集主席のマレー博士と、
超優秀ボランティアスタッフのマイナーの物語)を読むか
「ゆる言語学ラジオ」のOED回を聴いてから
読むと良い一冊かもしれません。

テイストがぜんぜん違うというか、
求めてる読者層がぜんぜん違う気もするけど…。
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『ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下)』

2023-08-09 09:42:29 | 日記
『ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下)』
塩野七生


とうとうローマの逆襲のターン!
スキピオがあっという間にスペインを陥とすよ!
強いっ。

そしてポンコツ・カルタゴ本国がハンニバルを呼び戻すも、
まったく活用できない。
ぐぁ〜!ポンコツ政府め!

落日のカルタゴと、着実に帝国化するローマ。
そして、ここにきて偉そうな態度のギリシャ、マケドニア。
ん?
お前らどこから沸いてきた?

塩野先生曰く、
ヘレニズム文化のそもそもの中心は
ギリシャ・マケドニア・シリアなどであり。
彼らにとっては、ローマもカルタゴも「西の田舎」なのだという。
(実態は、すでに力関係が逆転しちゃってるけれど)

そう言われると、ギリシャの
偉そうな(割に視野が狭い)挙動も納得だな。
過去の栄光に縋る老害感が半端ない…。

そんなこんなでカルタゴ滅亡に続き、
マケドニアも滅びる。
ギリシャもぼこぼこにされて大人しくなる。
私はざまあ、と思う。
そしてローマは地中海の覇権国家となる。

スキピオはローマの異様な隆盛に対して
盛者必衰の感を抱いていたらしいけど。
ひとつの時代が終わったな、と思える下巻でした。

ちなみに私は「コテンラジオ」のハンニバル篇を
途中まで聴いて、ラストは取っておいたのです。
で、先に『ローマ人の歴史』を読了したのです。
なので、読後の感想は
「カルタゴ政府はポンコツ。だから自滅!」
でした。

その後に「コテンラジオ」もラストまで聴きました。
感想は
「ローマはヤクザ。カルタゴはヤカラに絡まれて滅亡したのねかわいそう…」
になった。

歴史って、語り手の視点を通して学ぶとわかりやすいのだけど、
どうしても歴史解釈の点で影響されちゃいますよね〜。

とはいえ、私の思考回路、主体性無さすぎか。
塩野先生かコテンラジオからなら、壺買っちゃうかもしれない。
(彼らは壺を売ってません)
メタ認知の難しさよ…。

しかしハンニバルはかっこいいな!
という思いはぶれなかったので、良し!
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