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ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』

2019-02-07 16:58:35 | 日記
森嶋マリ 訳。

基本は、タイトル通りです。
貴重な「古書」の「来歴」の物語。
(いわゆるミステリではないですね)

色んな時代、色んな場所、色んな人が関わった、
一冊の「ハガター」の物語です。

ちなみに「ハガダー」というのは、
ユダヤ人家庭に一冊はある本で、
過越しの祭というイベントの晩餐時に
家族で広げて先祖のことを語り継ぐために使うらしい。

一家に一冊、ということで、廉価なものから高級なものまで
様々なようですが、この小説の中心となる本は
「サラエボ・ハガダー」と呼ばれる500年モノの稀覯本です。

この本を鑑定した主人公の古書鑑定家ハンナのストーリーと、
この本にまつわる各時代のエピソードが交互に語られています。
ハンナのパートは、母と子の物語であり、
自らの欠落(と恋)に向き合う物語としておもしろく読めます。

で、
章ごとに挿入される「古書の来歴」は、歴史的に暗く辛い話しが多く
その章の中心人物に救いが無さそうなものも多かったです。

読みながらつらつらと思ったのは、
たった一冊の本が様々なドラマに彩られているんだなあ、
というど平凡な感想を抱きつつ。
一方で、
ひとつのお話しとしてどうなのよ、との思いもありました。

そんでまた、読了すると感想がひっくり返るのですが。
それぞれの時代のユダヤ人やユダヤ文化にまつわる
苦難や状況を切り取ろうとこの作者が真摯に取り組んだ結果として、
こういう話しになるのが必然なのだな、と、納得するものがあります。

ちなみにこの作者ブルックス氏は元々ジャーナリストで
とことん取材を重んじている人のようなのです。

さらに、「サラエボ・ハガダー」という存在や、紛争からの焼失を逃れた経緯、
500年前のスペインで描かれたものらしい、等の
キーになるモチーフはノンフィクションとのこと。

ユダヤ人の歴史に思いを馳せずにはいられない一冊です。

第2回「翻訳ミステリー大賞」大賞

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