思惟石

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『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』 珍味!

2023-01-13 15:14:06 | 日記
『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』
エミール・ハビービー
山本薫:訳

サイード(幸せな男)という名のパレスチナ人から
「先生(作家)」への書簡という構成の小説。
なんとも不思議なアイロニーとユーモアと
謎なテンションの文体です。

結構「なんだこれ?」と思いながらクセになるやつ。
お酒に合うというか。
タイトルからも滲み出てるけど、ヘンテコ珍味小説なのである。
しかしおもしろいのである。

サイードの先祖や生い立ちを交えつつ、
如何にして自分が「失踪」したかという話が
パレスチナの悲しい歴史と、尽きることのない諧謔とを
ごちゃまぜにして語られる。

いやもう、ほんと、何の話ししてんの?
と思いつつ、惹き込まれちゃう。

わかったようなわからないような不思議すぎる小説なのです。

ちなみに、パレスチナの歴史と現状に関しては、
平均的日本人には基礎知識がなかろうという訳者のケアにより、
ページの下3分の1が注釈スペースになっている、という珍しい形態。
パラパラっと見た時、注釈でセルフツッコミするスタイルかな?
と思いましたよ。
厳然たる訳注&補足情報だった…っ!!

この、ページ下部3分の1は、
パキスタン情勢の複雑さを示す面積と言えます。
パレスチナ人は、1948年のイスラエル建国(ユダヤ人の国)によって
国外に追放されたり住居を奪われたりしています。
48年当時は30万人以上の難民が生じたとか、
イスラエル建国後、パレスチナ人133万人のうち
留まったのはわずか16万人だったとか。
(逆に、120万人近くのパレスチナ人はどうなったんだ、
という問題でもある)

作者のハビービーは、故郷であるイスラエルの都市ハイファに留まった
「アラブ系イスラエル人」「イスラエル国籍パレスチナ人」。

現在、イスラエルはユダヤ系言語である「ヘブライ語」で、
パレスチナ系の「アラビア語」話者は苦労も多い。
イスラエルで活動しつつアラビア語で小説を書き続ける
ハビービーのような作家たちの存在は重要なのだと
解説にも書かれていた。

パレスチナの抱える問題に関してはめっちゃ勉強になりました。
パレスチナ情勢を一から学ぼうとしている人は、
解説書を読む前にこの小説を読むと良いと思います。

小説としては、珍味でシンプルにおもしろかった!

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