思惟石

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『心は孤独な狩人』村上翻訳文庫ラストです

2022-07-07 14:07:05 | 日記
『心は孤独な狩人』
カーソン・マッカラーズ
村上春樹:訳

村上春樹氏若かりし頃の愛読書の中で、
いつか翻訳したいと考えていた小説たちの
「最後の一冊」だそうです。

そして著者は、若干23歳でこの小説を書いたのだとか。

どちらにもビックリだ!

舞台は1930年代のアメリカ南部の貧しい街。
聾者の男性(シンガーさん)を中心に、
よそ者のアル中労働者、カフェのマスター、
下宿屋の娘、黒人医師たちの群像劇のような、ある日の点描のような、
彼らの「今日」が紡がれていく。

村上春樹は訳者あとがきで
「マッカラーズの小説世界は、言うなれば個人的に閉じた世界でもある」
と書いており、
作家本人も、自作についてのエッセイで
「精神の孤独は、私が扱う大半のテーマのもとになっている」
と語っている通り、
登場人物たちは他者からの意見や理解を拒むような雰囲気がある。

順繰りに描かれる4人の物語は、
家族や友人や仕事に囲まれているけれど、とにかく精神的に孤独だ。

なにしろ、読者である私が「拒否られてる〜」と感じるくらい
ヤツらは殻に閉じこもっている笑

そして唯一、ろう者のシンガーさん「だけ」が、
理解してくれていると、登場人物たちは信じ込んでいる。


読みながら、「シンガーさんになんでもかんでも
押し付けんじゃありません!」と思いますね笑

そして中盤、シンガーさん主観パートにて、
彼の戸惑いが吐露される手紙が登場します。
その戸惑っている感は、唯一、私が「わかる〜!!」と
ほっこり共感したパートでした。
シンガーさんと握手したい。

そんなシンガーさんが唯一、心の拠り所にしているのは、
もちろん登場人物の4人ではない。
冒頭の「町には二人の啞が住んでいた」という一行も素晴らしいけれど、
その二人の物語(主要パートではないし、大して描かれない)に
私は心を揺さぶられる。

いや、主人公的な4人に魅力がないわけじゃないんです。
とはいえ彼らの孤独や悩みは、どこからどう見ても
自らが答えを出さなきゃいけないものなので、
私は一緒に考えたり悩んだりできないんだな。
彼らには、がんばって生きろよ!としか言えない。

でもシンガーさんとは、握手したい。

この作品、総じて、村上春樹を感じない文章でして。
チャンドラーを読んで「村上作品に繋がってるな〜」と感じたのとは、
ちょっと違いますね。
まあ、村上ルーツを探らなくても良いんだけど。
ファンだから、すみませんね。

ページ数がかなりあるのですが、
複数いる登場人物の「ある日」が積み重なる印象なので、
少しずつ読み進めるのでも良いかも。

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