思惟石

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伊藤計劃『ハーモニー』

2019-08-01 16:14:40 | 日記
34歳の若さで早逝した伊藤計劃(いとうけいかく)氏の
『虐殺器官』に続く2作目にして最後のオリジナル長編です。
(長編としては他に、ゲーム「メタルギアソリッド4」の
 ノベライズ作品もあります)

物語の舞台は、近未来の地球。
『虐殺器官』のラストが発端と考えられる
アメリカから始まった核戦争と世界的混乱<大災禍>後の
異様な程に、健全で、健康的で、平和な社会。

健やかすぎる医療福祉社会に違和感(というか怒り)を持つ
三人の少女がいまして。
その一人、霧慧(きりえ)トァンが物語の語り手です。

少女たちのリーダー役であり、少女のうちに自殺してしまった
ミァハの思い出を抱えながら
健全な世界でうまいこと不健全を嗜む大人になったトァン。
なんだかんだで日本に帰国する羽目になり
三人目の少女キアンに再会し、カプレーゼ食べようとしたら
おもむろに数千人規模の同時多発自殺に遭遇する、と。
で、調査を進めると…。という感じで物語が展開します。

<大災禍>によって世界の人口が激減した反動で
極端な「生命主義」になったとか、
体内に「WatchMe」と呼ばれる医療ナノマシンをインストール(?)して
健康状態の「恒常性」をマネジメントするとか
(「健やかなあるべき姿」をキープするものだから
成長過程にいるこどもはWatchMeで管理できない、とか
 おお、なるほど…と思う)
健やかな暮らしを提案する職業「ライフデザイナー」とか、
社会の仕組みやガジェットなどのディテールがおもしろいです。

こういうところの細やかさがSFってことなんでしょうか。
(未だにSF小説の定義がいまいちわからない)

(どうでもいいけど、
 『虐殺器官』では国籍とか名前が現代と地続きなんですが、
 『ハーモニー』はちょっと変わった語感の名前が多いのは
 何かSFチックな理由があるんでしょうかね)

難しいことは理解できてないのかもしれませんが、
ユートピアとディストピアは紙一重だな…と思える
「生府(せいふ)」社会の空気感は
おもしろくもあるし、ちょっとゾッとする。

この社会がユートピアなのかディストピアなのか、と同様に
ラストも、バッドエンドなのかハッピーエンドなのか。
読む人によって違うのかな。
なんだか、考えさせられます。

私はお酒大好きだし、迷うのも悩むのも悪くないと思うけど、
まあ、ほどほどの調和は尊重したいです。
ほどほどが一番むずかしいのかもしれないけど。

ところで、トァン。
少女時代に絶対的カリスマだったミァハに対して
心酔しすぎじゃないかなあと思わないでもないですが
(彼女が教えてくれた的な回想や、彼女ならこう考えるだろう的な思考など
傾倒の描写が多すぎる気がする)、
そういう思春期的(?)女子的(?)な呪縛も計算通りなのかな。

個人的には『虐殺器官』の方が好きですが、
ある種の続編として2冊を読み比べるとおもしろいと思います。

(『ハイペリオン』の続編を読むよりは明らかに有意義かと思います)

あと、2冊を通してもっとも健やかな人は、ウィリアムズだと思います。

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