思惟石

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宇月原晴明『黎明に叛くもの』

2020-02-14 21:22:17 | 日記
山本周五郎賞も獲った『安徳天皇漂海記』が
めちゃおもしろい宇月原晴明の初期作品です。

『安徳天皇〜』の鎌倉時代+それ以前の
ちょっと古雅な時代が似合う感じの作者ですが、
デビュー以来の3作は、戦国時代が舞台。

で、『黎明に叛くもの』が小説3作目。
戦国時代ものの3作目でもあります。

物語の中心にいるのは
“爆死武将”で有名な(私の中でですが)松永久秀です。
おいおい、どんな爆死するんだよ。
って、アホみたいな期待とともに読みましたが、
まあ、爆死は「スケキヨの足」レベルの些事ですね。

おもしろいのは、松永久秀と斎藤道三が
ペルシアの暗殺術(と作中では明言しないけど)の
「破山(はさん)」の法を受け継ぎながらも、
天下取りを夢見て山を降りる…
って、なんだかイマドキの少年漫画みたいな設定だな。

と突っ込みつつも、なんか、おもしろい。
ぐいぐい読んじゃう。
マムシの道三と、サソリの久秀弾正。
「蛇蝎の如く嫌われる」の“蛇蝎”コンビです。
それだけでもおもしろい。

この兄弟弟子の、若かりし(青臭い)時代と、
信長が台頭し始める時代が絡み合って物語が進みます。
なにげにページ数が通勤読書人につらい京極レベルなんですが、
(中公文庫版の余白の無さ!密度すごい!!
 なにがなんでも一冊にしてやらあ!っていう気概を感じる
 男前な字詰めです。読みにくい笑)
時制もあっちこっち飛ぶし、
現と幻と夢もあっちこっち飛ぶので
覚悟を決めて一気読みした方が楽しめるし、混乱は少ないと思います。

一冊にまとめたらあ!!と思った初代編集さん(?)は
間違ってないですよ!!

ラノベっぽい版(Cノベルス)では
豪気に全4巻に分冊されたみたいですが、
「つづく!」みたいな優しさは皆無なので、
素直に一気読みすることを個人的には勧めます。

んで。
道三の甥っ子(説)の明智光秀と、
道三の娘婿である信長が
「道三は兄者!大好き!」な久秀を中心に
何かと登場するわけですが。

やっぱり道三はおもしろい人だ。
一方で、相変わらず私は、明智光秀に好意を持てない…。

何考えてるのかわからないし、
なんでその結論になるのかもわからない。
うーむ。
相性かな…?

そうそう、作者の好み、初期作品から変わらないようで
作者の大好きな「神器」が出てきます。
今回は、金の独鈷と銀の独鈷だよ。
土蜘蛛の方がよっぽどやることなすこと神がかってますが、
まあ、由緒正しき(?)『古事記』『日本書紀』系の伝説のやつのようです。

あと、この作品は漢詩や歌が多く引用されてますね。
澁澤っぽいな〜相変わらず〜と思いましたが。
今作は司馬遼太郎『国盗り物語』へのオマージュだそうです。
司馬だと…?
個人的には、あまり、司馬先生とのリンクを感じなかったな…。
だから困ることは何もないけど。

小説としては『ふたり道三』よりは全然楽しめた!
とはいえ抗えない「歴史」というものがあり、
そこへお迎えに行くファンタジーストーリーという
後手な書き方を感じるところもあった。
ファンタジー的な突拍子の無さが、
歴史ファクトありきだからオチが見えてワクワクできないというか。

と、厳しいこと言いつつ、楽しかったです!
ほんと、この作者さん、変な人!(褒めてます)

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