思惟石

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『夜毎に石の橋の下で』プラハ版遠野物語みたいだ

2021-05-06 10:59:44 | 日記
レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』。
垂野創一郎 訳。

16世紀のプラハが舞台。
幻想的で伝承物語のような連作短編集ですが、
すべての話が
「皇帝ルドルフ2世」
「ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスル」
に何らかの形で関わる物語になっています。

ルドルフ2世は画家アルチンボルドによる
野菜で構成された肖像画が有名な、
美術大好きクレイジー皇帝ですね。
ドイツの、ノイシュバンシュタイン城で有名な
ルートヴィッヒ2世(19世紀のバイエルン王)と混同しがちですが、
ルドルフ2世は16世紀ハプスブルク家の生まれで
神聖ローマ皇帝兼ローマ・ハンガリー・ボヘミア王。
肩書きがたくさんありますが、現チェコの首都でもある
プラハでひきこもり生活をしていました。
まあ、若干、キャラかぶってますけど。

『夜毎に石の橋の下で』は、
ルドルフ2世とマイスルの妻との「純愛」がこの小説最大の創作で
他は実際の伝承や史実がたっぷりの連作短編。
プラハ版遠野物語っぽい感じもある。
佐藤亜紀の空気も感じる。

冒頭の一章は、ユダヤ人街でこどもばかりがペストにかかるお話し。
その厄災は街に住む罪人の咎が原因で、という伝説は、
実際にユダヤ人街に伝わっているそうです。
罪人の部分に、この物語の創作が加わって、
全体のプロットに物語が組み込まれている仕組み。

こんな感じですべての章で語られる小話に
史実や民間伝承がふんだんに盛り込まれつつ、
大きな物語(プロット)が最終的に繋がる構成。

めちゃくちゃ面白い。
章ごとにプラハ民話っぽく読んでも楽しいし、
全体の構成を俯瞰してから各章を読み直してもいい。
最後にラビが自ら花を手折るのもいい。

作者のレオ・ペルッツは19世紀プラハ生まれのユダヤ系の人。
刊行が意外と古かったけど(1953年)、
新鮮な驚きと歓びのある傑作です。

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