しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

メモリー上・下 L.M.ビジョルド著 小木曽絢子訳 創元推理文庫

2018-08-19 | 海外SF
「天空の遺産」に続いてのヴォルコシガン・サガとなります。

本書の発刊は「天空の遺産」の直後、1996年となりますが時代設定は「ミラー・ダンス」の直後マイルズ29歳となります。(作中で30歳の誕生日を迎えます。)

‘12年ローカス誌オールタイムベストSF長編65位、1997年のヒューゴー、ネピュラ、ローカス三賞に輝く作品です。(とりあえずここにたどり着くためにヴォルコシガン・サガを読んできました)

これまた現在絶版なので、ブックオフで探し出して入手済みでした。(上下とも108円!)

内容紹介(裏表紙記載)
上巻
特命作戦の遂行中、マイルズは低温蘇生の後遺症による発作を起こし、救出すべき捕虜を死なせかけてしまう。だが彼は発作の一件を隠して機密保安庁に報告し・・・・・・結果、イリヤン長官から最悪というべき処分を受けた。失意のあまり館にひきこもるマイルズ。時まさに、青年皇帝の婚約話がもちあがり、周囲が慌ただしさを増すなか、新たな危機が―長官の身を思わぬ異変が襲ったのだ!
下巻
脳内の記憶チップが機能不全を起こし、記憶が混乱し暴れ出すイリヤン長官。彼に面会を求めるが、機密保安庁に拒まれつづけたマイルズは、なんと皇帝直属の聴聞卿という特権的な地位を手に入れる。それでも事実究明は困難をきわめた。やがて彼は、ひとつの手がかりにたどりつくが・・・・・奇怪にもそれをみつけた場所には、出入りしたはずのないマイルズの入室記録が残っていたのだ!

「ミラー・ダンス」ほどではありませんがちょっと重い展開です。

「ミラー・ダンス」はマイルズのクローンの弟マークの視点で書かれていましたが、本作は30歳を控え生来の障害に加え低温蘇生の後遺症も抱えることになったマイルズ視点での自分探しの物語となります。

これまで登場した人物も多数出てきて「青春」の終わりを迎えるマイルズの「人生の目的」探しを彩ります。

横軸に皇帝グレゴールの婚約、イリヤンを傷つける陰謀とその犯人探し、などを絡めて感動の涙あり、ハラハラドキドキあり、ちょっとした笑いありで楽しく読める作品となっています。

読後感はシリーズを通して読んできた人にとって感慨深いものになるかと思います。
ということで本作読む方はここままでのヴォルコシガンサガ読んでから読むことをお勧めいたします。

「天空の遺産」でセダガンダから贈られたメリット勲章も地味に小道具として出てきたりします。
この辺も知っていれば「ニヤリ」と出来ますが、多分知らないと「???」かと。

余談ですが...。
子供(小4)の夏休みの宿題の読書感想文の指導をしていて、ちゃんと筋を追って感想書くのは「大事かなぁ」と感じました。
ということで以下めずらしくわたしなりに筋見直しての感想です。(多分毎回は無理...)
出来がいいかはわかりませんが...。

17歳でデンダリィ自由傭兵艦隊を設立し(「戦士志願」)、20歳でバラヤー帝国士官学校を卒業し13年デンダリィ艦隊提督として、10年近くバラヤー士官として無我夢中で活躍してきたマイルズも本作で30歳を迎え、自らの「青春」の終わりを認識せざるを得ない状況となります。

冒頭の自らの後遺症による言い訳しようのない作戦行動指揮中の失敗。

10年以上かけて築いた副官かつ恋人エリ・クィンをはじめとする艦隊の部下たちからの信頼が揺らぎ、その上自らの障害をまだなんとか隠し通そうとする...。

実は確固たる自信を持った「自分」を確立していないので「いけない」とわかっていてもその事実を隠してしまう...。

幼馴染で初恋の人、エレーナにも去られマイルズの「青春」の終わりも暗示されます。

この時点でのマイルズの言葉「欲しいのは・・・・・・自分の天明なんだろうと思う。できるかぎり自分らしくある。または自分らしくなるってことだ」。
自分が何者か?何をしたいのか?どうなりたいのか?わからないまま無我夢中で進んで来てある程度自負できる成功体験と、信頼出来る仲間を得たマイルズが「居場所を失う」危機に陥ります。

失意のマイルズは父母がいなくなってがらんとしたバラヤーのヴォルコシガン館に帰り、しばらくして機密保安庁長官のイリヤンに呼び出されます。

そこで待っていたのは証拠を完璧に固められて言い訳しようのない厳しい糾弾と「医療退役」と...これまでマイルズに期待しその成長を楽しみにしていた「イリヤンの泪」。

何ものかになるための「すべて」であったバラヤー軍での「出世」というか「名誉」幼少時から30年の周りの期待を喪います。

抜け殻のようになって家で酩酊するマイルズを励ます従兄弟のイワンには大尉の徽章が光り中尉で除隊したマイルズはさらなるショックを受けます。
イワンからは「イリヤンの後任にマイルズを当てようとしていた」という話も聞き自分のやったことの結果の大きさを改めて認識します。

イワンの他、旧友のガレーニ大尉(「親愛なるクローン」で出てきます)からの慰めもあるなんとか生きていこうという気になったマイルズはあらためてヴォルとしてのヴォルコシガン家に目を向けます。

といった中皇帝とバラヤーが過去征服し微妙な関係にあるコマール出身のライザの婚約。

自分の周りが色々変化していく中で。「自分は何をなすべきか?」迷えるマイルズはヴォルコシガン領へ旅立ち「喪の山」(「無限の境界」収載)の舞台となったシルヴィー谷へ再訪し嬰児殺しの被害者であるレイナの墓を訪れようとしますが、墓のあった場所はダムとなり水没していました。
「ここも変わっている..」という思いを抱きながらも立ち寄ったマイルズが出会ったのは「旧知」の人々。

「旧知」といっても10年ぶりに訪れたシルヴィー谷です、12歳だった村長の息子ゼッド・カラールは22歳となり、レイナの父レム・クスリクは村長に、母ハラハは教師として村人たちのために献身して働いています。

この辺読んでいて不覚にも涙腺ゆるみました...「喪の山」読んでないとこの辺もでしょうね。

ハラへ自分の現在の境遇と苦悩を打ち明けるマイルズ。
ハラの言葉「さきへお行きなさい。ただ進むだけです。」

マイルズの中で「何をするべきか」答えは出ませんが「軍で活躍する」という意味での「英雄」ではなくとも「やるべきこと」勇気を持ち行う人たちの姿を見て心の中で何かが変わります。

ヴォルコシガン館に帰還したイワンに「デンダリィ隊に逃げ出さないの?」と言われても以前とは違う感情を持ちます。

そんな中イリヤンの不調が伝えられ「恩師」イリヤンをなんとか助けようとします。
しかしマイルズが機密保安局を去った後にはイリヤンの後継者最有力候補であり機密保安局のナンバー2であるハローチが何故かマイルズの関与を拒み対立関係となります。

「なんとかしなきゃ」という思いで、今までもらった数々の勲章(セダガンダから授与のメリット勲章含む)をつけ皇帝へ直談判するマイルズ。
結果、皇帝からバラヤーでは皇帝の代理として調査事項には全て関与出来る立場の臨時聴聞卿に任命されます。

再びハローチの前に聴聞卿として姿を表したマイルズはイリヤン問題解決に向け「すすみだし」輝き・ひらめきを取り戻していきます。(こに辺りはいつものパターン)

脳内に埋め込まれた記憶チップを破壊され苦しみ悶えるイリヤンとの再会の場面は泣かせますが...これもまたまぁ紋切り型ですかねぇ。
謎解きはミステリータッチですが謎解きミステリーほど厳密ではない感じです。

ということでマイルズの働きによりイリヤンは命を取り止め、イリヤンはヴォルコシガン館へ引き取られます。
チップを除去され人々から恐れられていた「完全記憶」を喪い40年間努めた機密保安庁の職も失おうとしているイリヤンですがマイルズの叔母(イワン)の母アリスとの仲が進展したりと淡々としています。

マイルズとイリヤンはヴォルコシガン領で会話し、改めてマイルズは自分の動機を自問します「自分のアイディンティが自分の動機?飢え」

チップ破壊の操作が進展しヴォルコシガン館に帰ったマイルズに家母からも、「機密保安庁をクビになったら逃げ出して提督になるかと思った」と言われ自分のアイディンティティに悩むマイルズ。

捜査の進展とともにハローチはマイルズへ接近していき、マイルズを機密保安庁へ復職させデンダリィ艦隊も再度任せ大尉への昇進も提案します。

マイルズの何より望む涎ものの提案に大興奮するマイルズですが、遅ればせながらハローチが犯人とわかり提案は賄賂だとわかり犯人がハローチであることに気付きます。
(読者はガレーニを逮捕したあたりではまぁ犯人はハローチだろうと気付くとは思います)

マイルズが「ぼくは・・・・・・自分自身になることを選ぶ」と選んだ結論は...。
ハローチの誘惑に乗らず逆にハローチを罠にかけて捕えます。

ハローチの尋問は皇帝グレゴール自ら行われ、機密保安庁に30年勤めてもまだまだ居座りそうなイリヤンに対する複雑な思いとともに自分を飛び越えてイリヤンの後継となりそうなマイルズへの嫉妬が語られます。

マイルズへ提示した「餌」のことも語られグレゴールはマイルズへ「何故乗らなかった」のかを尋ねます。
答え「心からの望みと引き換えることのできないものはただ一つ、心そのものです」。

その後色々ありますがマイルズが聴聞卿に推挙されるにあたり聴聞卿4人との対面し「なぜ賄賂になびかなかったのか?」と聞かれ、答えは「わたしの名前とわたしのからだを持った誰かが生き残るかもしれませんね。もはやそれは、わたしではないのです。それはわたしとは・・・・・・あまり似ていない人間になるでしょう」
父アラールからマイルズへ「君が生き延びて成長し、とうとう自分自身になったことを喜んでいる。それじゃ加齢とともに前進する力を失っていないんだね、きみは」

今後の人生、ネイスミス提督を消し去りバラヤーの聴聞卿として生きていくことを決めたマイルズはネイスミス提督の盟友クインとも対面し別れを告げます。

マイルズ=ネイスミス提督として生きた13年間、生死の境をさまよう大冒険を重ねてきたわけですが、イリヤンやハローチのように機密保安庁一筋で生きてきた人びと、クィンのように宇宙でしか生きていけないと決めた人たちと比べると「逃げ道がある」という点でどこか「大人」になりきれないところがあったんでしょうね。

大人になりきれないマイルズが上司になるのに頭に来るハローチの気持ちもわからないではないですが...。

いくら自分のアイディンティティを確立していても「心」がなければなにごとも成せないということを象徴的に見せているんでしょうね。

といってもマイルズには何回もか親しい人に進められている通り、バラヤーとの縁を切り、ネイスミス提督としてクィンと宇宙を住みかに暴れ回るという手もあったかと思うのですが...。

作戦遂行時には手段を選ばないマイルズですが「バラヤー帝国」としての大義名分がないと「動けない」という祖先から受け継いだ貴族ならではの「考え方」になってしまうんでしょうかねぇ...。

冒険を重ねて30歳で家に帰ってくる貴族の息子を描いているということではいろいろ書き込んでいますが保守的な話ではありますね。

ヴォルコシガン・サガは本作の後も聴聞卿としてのマイルズを描く作品が書かれていますがが、「体制」と「非体制」を揺れ動く「青春期」を描く作品は本作が最後かと思います。

本作以後のマイルズにも興味はありますが....まぁ読むのは大分先かなぁ。


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