しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

怪盗ジバコ 北杜夫著 新潮文庫

2015-09-21 | 日本小説
楡家の人びと」読んで読みたくなり本書を手に取りました。

こちらの方は「楡家の人びと」と異なり昔繰り返し読んだもの。
小学生時代に初読で高校生くらいまで、年数回は必ず読んでいた記憶があります。
なんともかんともばからしい設定がつぼにはまり大好きでした。
当時は「ある意味北杜夫の最高傑作ではないか?」などと思っていました。
当時読んだのは古本屋で200円で買ったこちら

一応初版です。

昭和42年刊。
書き込みがあったのですがこれが絶妙だったので何割かましで評価していたような感もあります。
今回はブックオフで入手した

新潮文庫版を読みました。(和田誠のイラストがいい..、埴谷雄高の解説も)
今回で「がっかりしそうだなぁ」と少々怖い思いもありながらも再読。

内容(裏表紙記載)
史上最強の怪盗が現れた! 全世界を股にかけ、これまでに盗んだ額は一国の国家予算をはるかに超える。南海の孤島のヤシの実から共産圏の金の延べ棒まで、盗めるものはなんでも盗む。48を超える国語を自由にあやつり、老若男女どんな人間にも姿を変え、その正体は誰も知らない――― ジェームズ・ボンドや明智小五郎もお手上げの「怪盗ジバコ」のユーモアあふれる活躍を描く連作8編


さすがに「大爆笑」とはいきませんでしたが...。
楽しめました。
徹底的にかっこつけないで意味性を排除した「ばかばかしい」ともいえるユーモア小説です。
若い人にはわからないでしょうが、クイズダービーで篠沢教授がいうような意味で「品がある」。
高みの見物」よりユーモアに徹している分純粋に楽しめます。

ただ「意味性」はないですが、解説で埴谷雄高が書いているように「意志性」は十分すぎる以上にあります。
「不純」な人物として描かれている人物もある意味「純粋」な意思を与えられて生かされている気がします。

登場人物すべてがなんとも愛おしい。
未読の方はお勧めです。(合わない人には徹底的に合わないかもしれませんが)

各編感想など
○怪盗ジバコ
怪盗ジバコのイントロダクション的内容。
北風に風呂敷広げています。

○クィーン監獄
フィジー諸島の小さな島に訪れたジバコをめぐる大騒動。

警察署長の名前が「ウォルター・キッコーマン」。
ちなみに巡査長は「ウナ・ギメーシ」(笑)
そこからしてなめていますが、その署長が推理小説好きで「もっとも怪しくない人物がジバコだ!」との捜査方針の中、拳銃やら機関銃やら落としながら入国するジバコの姿が印象的です。

○猿のパイプ
カラコルム登山隊に参加した作家・北杜夫氏はふとしたきっかけで伝説の猿のパイプを…。

著者得意の自虐ネタです。
カラコルムに向かう機内で北氏はご「ごはんにジャムを塗り、水に塩を入れて」食べ、横で「果物にミート・ソースを塗り、コーヒーにサラダのドレッシングをかけ」食事を食べている人間と出会うことになります。
あれやこれやありめでたく北氏はジバコの公式伝記作家となります。

感想書きにくいですが…くだらなさすぎて面白いです(笑)

○女王のおしゃぶり
日本の富豪が持つ「エリサベス1世のおしゃぶり」をめぐるジバコと日本警察陣・あの名探偵との知恵比べ。

大体「おしゃぶり」というのが馬鹿にしていますが….。
北杜夫の描く明智小五郎味わい深いです。
「それではさよならバイバイよ」で〆るのもなんとも人を食っていていい...。

○蚤男
デンマークの「蚤」のサーカス団のお話し。

本編よりも枕のヒトラーの話の方が笑えたりしますが…。
よくまぁ「蚤のサーカス」なんて発想でてきます。

○トプカピ宮殿
若きジバコのトルコでの奮闘。

これを読むと頭がシシカバブでいっぱいになります。(笑)

○007号出撃す
ジェームズ・ボンドとジバコの遭遇。

対決というか「遭遇」談でしょうか…。
007シリーズのワンパターン性を徹底的にちゃかしています。
昔は一番好きな作品でしたが今回読んで「いまいち」楽しめなかったのは年のせいでしょう。

○ジバコの恋
ジバコの組織も大きくなりすぎ末端ではいろいろ問題も…。
そんななかジバコは恋をする。

楽しい物語にも終わりは訪れます。
「007号出撃す」で007シリーズのワンパターン性を茶化していますが、変幻自在に書かれている「ジバコ」シリーズもあるパターンは出来てきます。
そこに対する反省・自戒を込めたラストでしょうか?

最後の組織すべてを捨て自力で挑むジバコの男気は印象に残ります。
この姿は意外と私の意識のかなり深いところに刻み込まれているかもしれません。
あとは「シシカバブー」も(笑)

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楡家の人びと 上下 北杜夫著 新潮文庫

2015-09-12 | 日本小説
高みの見物」を読んで感想を書き、改めて「北杜夫とは」などと考えていて…。
自分はいっぱしの北杜夫ファンの気がしていたのですが実は代表作である本書「楡家の人びと」を読んでいない。
「こりゃいかん」と思い本書を手に取りました。

中学時代に本書の単行本版(分厚い二段組みで白い装丁)を古本屋で入手したことがありました。
本書は古本屋でもなかなか安くならず当時1,000円以上して当時の小遣いでは買うのに思いっきりが必要だった記憶があります。
もっとも買うのに躊躇したのは値段だけではなく「果たして読むのかなぁ?」という気持ちもあったのですが…。

中学時代、夏休みのたびに読もうとしたことはあったのですが….。
毎回20~30ページ読んであきらめた記憶があります。

その後もなんとなく苦手意識が生じ未読のまま社会人になっても転居のたびに持ち歩いていましたが単行本はかさばるので「まぁ読むときは文庫を買おうと」30歳で結婚するときにブックオフ行きになった記憶があります。

ということで今回読むのは上下組の文庫版を2年前くらいに古本屋で買ったもの。

文庫は現在の版では第1,2,3部の3分冊になっているようです。

最近老眼が入ってきていますが、本は活字が細かくつまっている方が好きなのでこの上下版の方が好みだったりします。

内容紹介(裏表紙記載)

溢れる楽天性と包容力で患者からも一族からも信頼される、ドクトル基一郎が、誇大妄想な着想と明治生まれの絶大な精力で築いた、七つの塔と円柱の並び立つ楡脳病院。その屋根の下である者は優雅に、ある者は純朴に、ある者は漠とした不安にとまどいながら、歴史の流れの中に夢み、抗い、そして消えて行く。人間の俗人性、凡庸性を温かい心と冷徹な眼でとらえた名作。

戦時日本のまぼろしの昂揚と、続いて訪れる無一物の荒廃・・・・・。楡基一郎の築いた大病院につどう人人ののどかな呼吸も、永久に脈打つかに見えながら、いつともなく変わって、ドクトル・メジチーネの死後、才能を認められて長女龍子の夫とされた徹吉も、また、それぞれ個性豊かで愛すべき男たち、女たちも、ひとしく波濤に呑まれる。嵐の中によき市民時代への挽歌が響く。


前段でも書きましたが本書は北杜夫の代表作にして戦後日本文学全体の中でもとても評価の高い作品です。
星新一なども折に触れ「素晴らしい」と書いていた気がします。

もっと「難解」とされている作家ならともかく「北杜夫」ですからねぇ読めなかったのが永らくコンプレックスでしたが今回読了できて払拭されました。

まぁ私の成熟度では今(45歳)読まれるべき作品だったんでしょう。

感想をひとことでいえば素晴らしい作品。
日本文学の歴史に永く残る作品だと思います。

私の感想などより下巻の表紙折り返しに記載されている三島由紀夫の感想の方がよいかと思うのでご紹介。

戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によって、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち、小説というものの正統性を証明するのは、その市民性に他ならないことを学んだといえる。
これほど巨大で、しかも不健全な観念性をみごとに脱却した小説を、今までわれわれは夢想することもできなかった。
あらゆる行が具体的なイメージによって堅固に裏打ちされ、ユーモアに富み、追憶の中からすさまじい現実が徐々に立ち上がるこの小説は、終始楡一族をめぐって展開しながら、一脳病院の年代記が、ついには日本全体の時代と運命を象徴するものとなる。しかも叙述にはゆるみがなく、二千枚に垂らんとする長編が、尽きざる興味を以て読みとおすことができる。
初代院長基一郎は何という魅力ある俗物であろう。諸人物の幼年時代や、避暑地の情景には、何というみずみずしいユーモアと詩があふれていることだろう。戦争中の描写にさしはさまれる自然の崇高な美しさは何と感動的であろう。
これは北氏の小説におけるみごとな勝利である。これこそ小説なのだ。


いやまぁごもっともな感想で付け加えるところはあまりないような気がしますが…。

第一、二部は、ユーモア小説とも私小説とも純文学とも大衆小説にもならない非常に際どいところでバランスされた絶妙な展開。
それに比べ太平洋戦争に入る第三部は若干ステレオタイプの「戦争文学」的でもあった気もしますが...。
といって、終始市民目線から描かれる「戦争」はある意味新鮮なような(何を言っているんだか)

あと楡家の人びと(楡姓になっている人)基一郎以外、は女性が個性的で魅力的に描かれているように感じました。
対照的に男性はみんな情けない....。
この辺は著者の個性でしょうか?

手抜きな感想ですが、とにかく名作です。

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