しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

写楽殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-02-18 | 日本ミステリ
クリプトノミコン」を読むのに苦労したので、楽しく疲れず読める本を読みたいと本書及び「北斎殺人事件」「広重殺人事件」を再読しました。
時間が取れたこともあって2日間で三冊読んでしまいました。

感想、「三冊いっしょにしちゃおうかなぁ」とも思ったのですが、それもなにやら失礼(?)な気がしたので分割で書きます。

本書は1983年、第29回乱歩賞受賞作品。
単行本出版が1983年の9月、当時中学2年生の私は、本屋で平積みにされた本書をドキドキしながら買って(新品の単行本買うのは単価的に勇気が必要であった)家に帰ってむさぼるように読んだ記憶があります、面白かったなぁ....。

本書をきっかけに中学時代に乱歩賞作品をいろいろ読みました、「虚無への供物」もその縁で知り読みました。
小峰元「アルキメデスは手を汚さない」、海渡英祐「伯林1888年」小林久三「暗黒告知」伴野朗「五十万年の死角」栗本薫「ぼくらの時代」とか懐かしいなぁ....。
「失われた北京原人の骨はどこにいったんだろう?」とか「栗本薫は乱歩賞作家だったんだなぁ」などと妄想が膨らみます。
なお当時の単行本も手元にあるのですが今回は携帯性考え文庫版で読みました。

内容(裏表紙記載)
謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。
第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。


現在ではいわゆる「写楽の謎」問題は「写楽本人説」が主流となりおさまっているようですが、本書発表当時は写楽別人説真っ盛りで松本清張氏やら池田満寿夫氏やらも説を発表していました。
本書が出てさらに盛り上がっていた気がします。

そんな背景のなか著者の高橋克彦氏の浮世絵研究者としての経歴を生かしたミステリーです。

読み返す前は著者の浮世絵長編3部作「写楽」「北斎」「広重」殺人事件の中では、筆がこなれながらも著者特有のマッチョな臭みが少ない「北斎」が一番の出来だと思っていました。
「北斎殺人事件」はかなり好きな作品で過去何度も読み返していて「私的日本小説番付」では番外ながら好きな作品にあげていましたが、今回読み返してみて3部作では本書「写楽殺人事件」が一番面白かったような気がします。

ちょっとこなれていない部分もありますが、真剣さと謎を追う視点の新鮮味がそれを上回り楽しめました、この辺自は分がオヤジ視点になっているんでしょうね...。

浮世絵研究のドロドロと浮世絵に対する「愛」も素直に伝わってきて、読後浮世絵が読みたくなる作品です。

-以下ネタバレ気にせずに書きます。-

このシリーズ共通にいえることかと思いますが、実際に起こる「殺人事件」の方の謎及びトリックはまぁ安直だったりします。

本作のトリックも時刻表やらなにやらを使ったアリバイトリックなのでまぁ目新しいものではないのですが...シリーズの中では殺人事件自体の謎・トリックを真面目に扱っているという点では一番な気がしました。

「犯人」や「偽画」をめぐる人の欲深さや、「浮世絵界」の名誉欲といったものが動機となりときにはアリバイの「綻び」になるという人間ドラマを楽しむのが本シリーズの特長でしょうかねぇ。

キーになる歴史ミステリーとしての写楽=秋田蘭画家説の展開自体は相当無理がある気がしましたが、まぁこれは自覚的なんでしょうね。
「秋田蘭画」なるものの存在、決して一般的ではないかと思いますが本書以来はかなり知名度が上がったんじゃないかと思います。
そんなことも著者の狙いだったんでしょうね。

また田沼意次やら寛政の改革やらを背景に蔦屋や写楽、当時の浮世絵界の状況を語っている場面も浮世絵に興味を抱くにはいいきっかけとなりそうな感じですね。

神田の古書市で古い画集を見つけるエピソードなども、浮世絵研修者ならではのマニアックな仕掛けですが、そんなディテールも妙に説得感があり楽しめました。

成熟した「名作」を求める人には物足りないでしょうが、ボージョレー・ヌーボー的な新鮮味を味わえる名作ですね。
(乱歩賞は基本「新人」向けなので受賞作共通にいえるかもしれません)

↓よろしければ下のバナークリックいただけるとありがたいです!!!コメントも歓迎です。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

クリプトノミコン 1-4 ニール・スティーヴンスン著 中原尚哉訳 ハヤカワ文庫

2017-02-11 | 海外SF
再びSFに戻って…といいたいのですが、後述しますが本作「SFなのか?」という疑問を読んでいて非常に感じる作品でした。

1999年刊 ‘12年ローカス誌SFオールタイムベスト49位、2000年ローカス賞受賞作。

これまた現在絶版ですがブックオフで1冊ずつ買って揃えていました。

比較的流通している作品なんでしょうね。

作者のニール・スティーヴンスンは「スノウ・クラッシュ」の作者でSFのジャンル的には「サイバー・パンク作家」に位置付けられているような感がありましたが…。
本作でもネットやコンピューターは重要な位置づけになっていますが非現実的な仮想空間的な話はなく、いわゆる「サイバー・パンク」とは違う色合いでした。

自分の「スノウ・クラッシュ」の感想を読み返したらかなり酷評していましたが、本作読んでの感想としても私的にはちょっと「苦手」な作家かもしれないなぁと感じました。

本作かなり凝ったストーリー展開と人物構成の作品で「ものすごい才能のある作家なんだろうなぁ...」とは思ったのですが、どうも面白く感じられない….。
「頭」では「面白いしできた作品」と思うのですが感情がついてこない…。

相性なんでしょうねぇ、全4冊と長大なこともあり読了に2ケ月かかりました。

内容紹介(裏表紙記載)
1チュ-リング
第二次大戦前夜、プリンストン大学に学ぶ青年ローレンスは、数学への興味を同じくする英国人留学生チューリングと出会う。やがて彼らは、戦争の帰趨を左右する暗号戦の最前線で戦うことに…それから半世紀、ローレンスの孫ランディもネット技術者として暗号に関わっていた。彼は大戦との因縁深いある策謀に巻きこまれていくが!?暗号をめぐり、二つの時代―第二次大戦中と現代で展開される情報戦を描く冒険SF大作

2エニグマ
解読困難な暗号エニグマで通信を秘匿するUボートと戦う連合軍支援のため、英国のクフルム島に派遣されたローレンス。彼はこの島の沖で座礁したUボートを調査中、エニグマよりはるかに高度な新型暗号と金塊を発見する。時は移り現代、ランディはネット事業のためフィリピン沖で海底電線敷設中、沈没した大戦中の潜水艦を発見する。半世紀の時をへだてたこの二隻の関係は?そして、交錯する事件の裏に隠された秘密とは・・・・・・

3アレトゥサ
ローレンスがその存在を発見した新型暗号アレトゥサ。日独間の一部の通信文にしか出現しないこの特殊な暗号に歯がたたない情報部を尻目に、ローレンスは自ら考案した電子計算機を用いて解読に取りかかる。その半世紀後、親族会議出席のため帰郷したランディは、たまたま目にした祖父の遺品の中にアレトゥサの調査記録を発見する。謎めいた祖父ローレンスの業績を追い、ランディは歴史の闇に消えた事実を探りはじめたが・・・・・・

4データヘブン
アレトゥサ暗号の謎を追うローレンスは進撃する米軍に同行、暗号電文の発信地フィリピンへ向かった。彼は、その地で日本軍が隠した莫大な金塊とアレトゥサの意外な関係を知ることに・・・・・・半世紀後、ランディもアレトゥサに挑んでいた。彼は資金難のデータヘブン事業を救うため、祖父の遺した記録をたどり、日本軍の金塊探索に赴くが・・・・・・!? 半世紀の時をへだて、幾重にも交錯してきた謎と冒険の物語は、今ここに大団円を迎える。


冒頭にも書きましたが、本作「SF」に分類されているようですが宇宙人が出てくるわけでもなく、コンピューターやネット社会はかなり重要なパーツとなっていますが、なにやらとんでもない科学技術が関与しているわけでもないので「SF」というのには非常に違和感を感じました。

構造のよく似た村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の方が本作と比べればより「SF」といえるかもしれません…。

そういう意味では「純文学」とも言えそうですが…、一応エンターテインメントなつくりですし(特にラスト)「冒険小説」か第二次大戦パートは「戦争小説」という感じです。
カッチリ分類するなら題名通りの「暗号小説」なる分野をつくらばければいけないのかもしれません。

第二次世界大戦と本作執筆時点での現代を「暗号」を軸に交互に描いていくわけですが、序盤はお互いの時代で本筋と関係のなさそうな話が延々と繰り広げられるので「この作品どうなっちゃうんだろ?」という疑問を抱かされます。

ただ話が中盤・終盤と展開していくうちに二つの時代の「謎」が徐々に近づいていく様が破綻なく書かれていてその技は感心するしかありません。
快感ともいえるかなぁ。

また思い返してみると本作の主要登場人物、とても個性的かつ魅力的です。

私的にはなんとも「オタク」的かつシャイながら「女好き」で意外ともてる主人公の(多分?)ローレンスとランデイ両ウォーターハウスがお気に入りですが…。(ローレンスの方が...好きかなぁ)

いかにも海兵隊下士官な麻薬中毒者ボビー・シャフトー、「典型的」な「日本軍人」より少し冷静な後藤伝吉などなど魅力的でした。
ローレンスの奥さん=ランディのおばあちゃんはほんの少ししか出ていませんが強烈なキャラっぽく印象に残りました。
とくにローレンス時代の描写がいい...。

解説にも書いてあり、流れ的に物語の主旋律は現代側にあるのでしょうが、戦時中ということでドラマティックなためか第二次大戦側パートの登場人物の方が魅力的に感じました。
(後藤伝吉の漂流なども魅力的)

大戦中パートと現代パートでこれ見よがしに血縁者が出てきたり、最後の方では同一人物が時代を超え生き延びた姿で出てきたりとそれもまたかなりお遊びもある感じで楽しんで書いている感じが伝わりました。

実在の人物であるアラン・チューリング(暗号の世界では有名な人らしい)ととても脚色された(?)ダグラス・マッカーサー、チョイとしか出ませんがなんとも印象的な山本五十六なども日本人にとっては嬉しいかと思います。

こんな魅力的な人物が波乱万丈ストーリーを繰り広げられ楽しくないはずはないのですが...。

前段描いたように私にはなにか引っかかる感じがあり、手放しには楽しく読めませんでした。

原因が私の作者と相性の悪さなのか、純粋なエンターテインメント作品でなく「純文学」的に心にザラザラするものが残ったのかは「?」です。

後半の第二次大戦パートのボビー・シャフトー、後藤伝吉の動きが「怪人」ダグラス・マッカーサーがらみでなんとも不可解というか「夢」のようなところと最後のランディのビジネスパートナー アビ・ハラビーの激白の由来が理解できなかったことを除けばすべての謎を回収したきれいなラストになっていますが、その分「尻すぼみ感のあるラスト」と感じたのが頭で考えた欠点くらいで、本作好き嫌いはともかく作者の「才能」を感じられる傑作だと思います。

↓よろしければ下のバナークリックいただけるとありがたいです!!!コメントも歓迎です。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

忙しい蜜月旅行 ドロシー・L・セイヤーズ著 松下祥子訳 ハヤカワ文庫

2017-02-04 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第11長編1937年刊行です。

セイヤーズの手で完成されたピーター卿シリーズの長編としては最後の作品となります。
とりあえずこれで懸案のピーター卿シリーズ長編は完読。
感慨深いものがあります…。

なお未完の長編未完の長編でジル・ウォルシュが補筆し完成した“Thrones, Domination”なる作品がるようですが残念ながら未訳のようです、読んでみたいものです。

邦訳、第1作「誰の死体?」から第10作「学寮祭の夜」までは創元推理文庫で浅羽莢子氏の訳で出ていますが本作のみ早川版 松下祥子氏訳となります。

創元では本作含むピーター卿シリーズ全長編を浅羽莢子氏訳で出版予定だったようですが...。
残念なことに浅羽氏が2006年53歳の若さで急逝され果たせなかったようです。
(10作までお世話になった感があり…いまさらかもしれませんがご冥福を祈りたいと思います。)

割と個性的な名探偵である「ピーター卿」ですから訳者が違うことで違和感あるかなぁ...とも思いましたがそれほど違和感なく読めました。
浅羽訳ではピーター卿はパンターから「御前」と呼ばれていますが、松下訳では「閣下」と呼ばれているのが一番違和感かじる部分でしょうか?

本作ハヤカワではポケットミステリ版、深井淳訳で出ていてネットなどでみるとそちらの方が評価が高いようですが…そんなに酷評しなくてもとは思いました。

内容紹介(裏表紙記載)
劇的な出会いを果たしたハリエットとピーター卿はようやく結婚にこぎつけた。記者やうるさい親族を遠ざけて、新婦の故郷近くへハネムーンにでかけたものの、滞在先の屋敷には鍵が掛かり、出迎えるはずの屋敷の主人の姿は見あたらない。やがて、主人が死体で見つかると、甘く楽しいはずの蜜月の旅は一転、犯人捜しの様相を呈し・・・・・・本格ミステリ黄金時代を築き、後世の探偵小説に絶大なる影響を与えた著者の代表作。新訳版


本作はミュアリエル・セントクレア・バーンと共同で戯曲として出されたものを、セイヤズが改めて小説として出したものだそうです。

そのためか舞台映えするような設定になっている場面が随所に見られます。
舞台がほぼ新婚旅行先(であり新別荘)となるトールボーイズ屋敷に限定されていること、1階と2階でピーター卿・ハリエットがそれぞれで独白している場面などいかにも舞台向けです。

序文でセイヤーズ自身も書いていたように煙突掃除人もまぁ舞台受け用でしょう。

殺人トリックについてはチャンドラーが安直なトリックの典型ということで上げていたようですが、まぁ舞台受け狙ってあのようなトリックになったんでしょうね。

「学寮祭の夜」も途中で犯人の目星がついてしまいましたが、本作でも途中でほぼ犯人と殺人に使った道具の見当はついてしまいます。

前述の遠し謎解きの場面は舞台で上演したら映えるんだろうなぁという感じですが、まぁ予想通りで意外感はないのですが....。
「実際にそんなにうまくいくかねぇ」という感はぬぐえません。

作品世界は戯曲の小説版ということもあり肩の力が抜けているためか「学寮祭の夜」「ナイン・テイラーズ」のような重々しさがなく、全体的には軽い感じでコメディタッチで「誰の死体」から「ベローナクラブの不愉快な事件」あたりまでのテイストに戻った感があり、気楽に読めて楽しめました。
まぁその分物足りなさはあったりしましたが…。

ただ殺人事件とは別にピーター卿とハリエットの関係は「夫婦」へと深化していきます。

新婚旅行なのに殺人事件捜査に巻き込まれる夫ピーター卿に対しハリエットが「妻」として苦言を呈する場面などは「学寮祭の夜」から引き継がれたテーマの深化といえるのでしょう。

ラスト辺りでウィムジィ家の邸宅に巣食うご先祖様とハリエットの対面、ラストで人間としての弱さをハリエットにさらすせたピーター卿の姿はシリーズの大団円にふさわしくはありました。

なお「ピーター卿シリーズ長編」通しての感想ですが、一番「いいな」と感じたのは第2作「雲なす証言」です。
テンポの良さとピーター卿のカッコよさが際立つ作品ですね。

第1作「誰の死体?」第2作「雲なす証言」第3作「不自然な死」第4作「ベローナ・クラブの不愉快な事件」第5作「毒を食らわば」までが前期作に分類できるかと思いますが、いずれも重厚感はありませんがテンポがよくライトで楽しく読めました。

従僕のバンターやクリンプソン嬢など脇の個性的面々が活躍するのも読んでいて楽しめました。

第6作目以降のシリーズ後期の作品はそれぞれ個性派でした。

パズル的作品としては第6作「五匹の赤い鰊」が一番純粋に謎解きしていたように思います。
第7作「死体をどうぞ」もまぁ謎解きを楽しむ作品ですが、ハリエットとの恋愛の進展を楽しむ作品でしょうかねぇ。

第8作「殺人は広告する」はミステリーというより都市型サスペンス風、実験作?という感じ。

第9作「ナイン・テイラーズ」は英国田舎と中世を引きずったドロドロ感と重さの表現。

第10作「学寮祭の夜」は「女性」というもの中心に置いた心理小説。

第11作(本作)は軽いコメディタッチと大団円。

世間的には後期の作品、特に「ナイン・テイラーズ」「学寮祭の夜」の評判が高いようですし得難い「個性」は感じましたし相当力を入れて書いているんだろうなぁとも感じましたが現代的視点から見るとちょっとテンポが遅いかぁとも感じました。
クリスティの作品なども今読むと時代のズレのようなものは感じるので、まぁしょうがないことなんでしょうけどねぇ。

第1作「誰の死体?」はさすがにこなれていない感じがありましたが、前期作の方が純粋に娯楽小説していてトリックに古さは感じるもののアップテンポに話が進むので今読んでも十分楽しめる作品なのかなぁとも思います。

まぁとにかく本シリーズ読了(短編除く)うれしかったです。

↓よろしければ下のバナークリックいただけるとありがたいです!!!コメントも歓迎です。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村