「クリプトノミコン」を読むのに苦労したので、楽しく疲れず読める本を読みたいと本書及び「北斎殺人事件」「広重殺人事件」を再読しました。
時間が取れたこともあって2日間で三冊読んでしまいました。
感想、「三冊いっしょにしちゃおうかなぁ」とも思ったのですが、それもなにやら失礼(?)な気がしたので分割で書きます。
本書は1983年、第29回乱歩賞受賞作品。
単行本出版が1983年の9月、当時中学2年生の私は、本屋で平積みにされた本書をドキドキしながら買って(新品の単行本買うのは単価的に勇気が必要であった)家に帰ってむさぼるように読んだ記憶があります、面白かったなぁ....。
本書をきっかけに中学時代に乱歩賞作品をいろいろ読みました、「虚無への供物」もその縁で知り読みました。
小峰元「アルキメデスは手を汚さない」、海渡英祐「伯林1888年」小林久三「暗黒告知」伴野朗「五十万年の死角」栗本薫「ぼくらの時代」とか懐かしいなぁ....。
「失われた北京原人の骨はどこにいったんだろう?」とか「栗本薫は乱歩賞作家だったんだなぁ」などと妄想が膨らみます。
なお当時の単行本も手元にあるのですが今回は携帯性考え文庫版で読みました。
![](https://c1.staticflickr.com/1/504/32114490036_950afaf6c3_n.jpg)
内容(裏表紙記載)
謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。
第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。
現在ではいわゆる「写楽の謎」問題は「写楽本人説」が主流となりおさまっているようですが、本書発表当時は写楽別人説真っ盛りで松本清張氏やら池田満寿夫氏やらも説を発表していました。
本書が出てさらに盛り上がっていた気がします。
そんな背景のなか著者の高橋克彦氏の浮世絵研究者としての経歴を生かしたミステリーです。
読み返す前は著者の浮世絵長編3部作「写楽」「北斎」「広重」殺人事件の中では、筆がこなれながらも著者特有のマッチョな臭みが少ない「北斎」が一番の出来だと思っていました。
「北斎殺人事件」はかなり好きな作品で過去何度も読み返していて「私的日本小説番付」では番外ながら好きな作品にあげていましたが、今回読み返してみて3部作では本書「写楽殺人事件」が一番面白かったような気がします。
ちょっとこなれていない部分もありますが、真剣さと謎を追う視点の新鮮味がそれを上回り楽しめました、この辺自は分がオヤジ視点になっているんでしょうね...。
浮世絵研究のドロドロと浮世絵に対する「愛」も素直に伝わってきて、読後浮世絵が読みたくなる作品です。
-以下ネタバレ気にせずに書きます。-
このシリーズ共通にいえることかと思いますが、実際に起こる「殺人事件」の方の謎及びトリックはまぁ安直だったりします。
本作のトリックも時刻表やらなにやらを使ったアリバイトリックなのでまぁ目新しいものではないのですが...シリーズの中では殺人事件自体の謎・トリックを真面目に扱っているという点では一番な気がしました。
「犯人」や「偽画」をめぐる人の欲深さや、「浮世絵界」の名誉欲といったものが動機となりときにはアリバイの「綻び」になるという人間ドラマを楽しむのが本シリーズの特長でしょうかねぇ。
キーになる歴史ミステリーとしての写楽=秋田蘭画家説の展開自体は相当無理がある気がしましたが、まぁこれは自覚的なんでしょうね。
「秋田蘭画」なるものの存在、決して一般的ではないかと思いますが本書以来はかなり知名度が上がったんじゃないかと思います。
そんなことも著者の狙いだったんでしょうね。
また田沼意次やら寛政の改革やらを背景に蔦屋や写楽、当時の浮世絵界の状況を語っている場面も浮世絵に興味を抱くにはいいきっかけとなりそうな感じですね。
神田の古書市で古い画集を見つけるエピソードなども、浮世絵研修者ならではのマニアックな仕掛けですが、そんなディテールも妙に説得感があり楽しめました。
成熟した「名作」を求める人には物足りないでしょうが、ボージョレー・ヌーボー的な新鮮味を味わえる名作ですね。
(乱歩賞は基本「新人」向けなので受賞作共通にいえるかもしれません)
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時間が取れたこともあって2日間で三冊読んでしまいました。
感想、「三冊いっしょにしちゃおうかなぁ」とも思ったのですが、それもなにやら失礼(?)な気がしたので分割で書きます。
本書は1983年、第29回乱歩賞受賞作品。
単行本出版が1983年の9月、当時中学2年生の私は、本屋で平積みにされた本書をドキドキしながら買って(新品の単行本買うのは単価的に勇気が必要であった)家に帰ってむさぼるように読んだ記憶があります、面白かったなぁ....。
本書をきっかけに中学時代に乱歩賞作品をいろいろ読みました、「虚無への供物」もその縁で知り読みました。
小峰元「アルキメデスは手を汚さない」、海渡英祐「伯林1888年」小林久三「暗黒告知」伴野朗「五十万年の死角」栗本薫「ぼくらの時代」とか懐かしいなぁ....。
「失われた北京原人の骨はどこにいったんだろう?」とか「栗本薫は乱歩賞作家だったんだなぁ」などと妄想が膨らみます。
なお当時の単行本も手元にあるのですが今回は携帯性考え文庫版で読みました。
![](https://c1.staticflickr.com/1/504/32114490036_950afaf6c3_n.jpg)
内容(裏表紙記載)
謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。
第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。
現在ではいわゆる「写楽の謎」問題は「写楽本人説」が主流となりおさまっているようですが、本書発表当時は写楽別人説真っ盛りで松本清張氏やら池田満寿夫氏やらも説を発表していました。
本書が出てさらに盛り上がっていた気がします。
そんな背景のなか著者の高橋克彦氏の浮世絵研究者としての経歴を生かしたミステリーです。
読み返す前は著者の浮世絵長編3部作「写楽」「北斎」「広重」殺人事件の中では、筆がこなれながらも著者特有のマッチョな臭みが少ない「北斎」が一番の出来だと思っていました。
「北斎殺人事件」はかなり好きな作品で過去何度も読み返していて「私的日本小説番付」では番外ながら好きな作品にあげていましたが、今回読み返してみて3部作では本書「写楽殺人事件」が一番面白かったような気がします。
ちょっとこなれていない部分もありますが、真剣さと謎を追う視点の新鮮味がそれを上回り楽しめました、この辺自は分がオヤジ視点になっているんでしょうね...。
浮世絵研究のドロドロと浮世絵に対する「愛」も素直に伝わってきて、読後浮世絵が読みたくなる作品です。
-以下ネタバレ気にせずに書きます。-
このシリーズ共通にいえることかと思いますが、実際に起こる「殺人事件」の方の謎及びトリックはまぁ安直だったりします。
本作のトリックも時刻表やらなにやらを使ったアリバイトリックなのでまぁ目新しいものではないのですが...シリーズの中では殺人事件自体の謎・トリックを真面目に扱っているという点では一番な気がしました。
「犯人」や「偽画」をめぐる人の欲深さや、「浮世絵界」の名誉欲といったものが動機となりときにはアリバイの「綻び」になるという人間ドラマを楽しむのが本シリーズの特長でしょうかねぇ。
キーになる歴史ミステリーとしての写楽=秋田蘭画家説の展開自体は相当無理がある気がしましたが、まぁこれは自覚的なんでしょうね。
「秋田蘭画」なるものの存在、決して一般的ではないかと思いますが本書以来はかなり知名度が上がったんじゃないかと思います。
そんなことも著者の狙いだったんでしょうね。
また田沼意次やら寛政の改革やらを背景に蔦屋や写楽、当時の浮世絵界の状況を語っている場面も浮世絵に興味を抱くにはいいきっかけとなりそうな感じですね。
神田の古書市で古い画集を見つけるエピソードなども、浮世絵研修者ならではのマニアックな仕掛けですが、そんなディテールも妙に説得感があり楽しめました。
成熟した「名作」を求める人には物足りないでしょうが、ボージョレー・ヌーボー的な新鮮味を味わえる名作ですね。
(乱歩賞は基本「新人」向けなので受賞作共通にいえるかもしれません)
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