しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

粗忽拳銃 竹内真著を読んで

2011-02-09 | 日本小説
この作者は結構好きで、何作か読んでいます。
青春ビルディング小説家ということでいうと昔で(?)いえば山本有三的な位置付けでしょうか?
前向きかつ素直な感じの作風が変にひねったりごまかしていない感じで好感がもてる作家だと思います。
ただこの作者の作品は一冊読んだらまたすぐ次というようようにはならないです。
よくいえば大事に読みたい、悪くいえばそれほど熱中しないという感じなのでしょうか。
この作者、個人的にはもっと売れてポピュラーになっていいと思っているのですが、いまいちマイナー感があるのはそんな作風だからでしょうか?
さてこの作品ですが全体の感想としてはいかにも「初期の作品」という感じで一部に粗いところがありました。

終盤あたりは「ちょっと無理があるかなぁ」という感じで序盤でまいた伏線を「活かしきれてないなぁ」と思いました。
(椎名の位置付け、可奈と天馬の関係など)

でもまぁ全体的にこの作者得意の青春ビルディング小説として仕上がっており安心感を持って面白く読めました。

切り詰めて前半部分を生かして半分くらいの分量にまとめたら小粋な中編にまとまりそうですが、作者の成長の過程ということでしょうかねぇ。
長編小説としての完成度(難点が少ない)ではこの後に書かれている「カレーライフ」の方が上だと思いますが意気込みは本作の方が上という感じです。

この前に書かれた「じーさん武勇伝」はいかにも短編なので、短距離選手が一生懸命長距離にチャレンジして前半ペースを上げすぎ後半ヘロヘロという感じでしょうか。

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ポーツマスの旗 吉村昭著を読んで

2011-02-01 | 日本小説
大河ドラマにちなみ、去年司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読み、年代順に氏の「翔ぶが如く」「坂の上の雲」を続けて読みました。(昨年10月頃読了)
その流れでこの「ポーツマスの旗」を読もうと昨年から考えていたのですがやっと果たせました。
この本も最初に読んだのは中学生の頃(奥付確認すると昭和58年5月なので多分2年生)
あまり中学生向けとも思えないこの本を読んだきっかけはこの本を原作としたNHKのスペシャルドラマを見たからだと記憶しています。(昭和56年12月放送)
小村寿太郎を石坂浩二が演じ、原作には出てこない明石元二郎を原田芳雄が演じていました。
当時小学生だった私ですが面白いドラマだったと思います。(もう一度見てみたいです)
今回改めて本を読んでみてドラマの場面の方がよく憶えているなぁと感じました。
さて、読んでみての感想ですが、初めの方の日露戦争の振り返りあたりは「坂の上の雲」を読んで間もないこともあり「新鮮味がないなぁ」という感想でした。
ポーツマスでの日露両全権の交渉場面は、昔読んだときにとても感心した気がするのですが、今回は「まぁ交渉というのはこんなもんだろうなぁ」という印象でした。
この辺は中学生と40おやじの差でしょうか。
ただ大詰めで交渉が決裂するかどうかのところは、交渉が最終的にまとまるのを知っていてもはらはらさせられました。
この辺は「坂の上の雲」効果か?
その後、歓迎されない日本への帰国となるのですが、小村寿太郎は騒動がおさまった後もまた外相になったり、侯爵まで上がったりで結構活躍してるんですね。
ドラマだと「小村はポーツマスで燃え尽きあとは陰遁生活」というようになっていた気がします。
この辺、ドラマの方がドラマチック(ありきたりな表現ですが)で記憶に残っているのでしょうね。
ということで、ポーツマス後の記述はまったく記憶がない状態で読んだのですが、なかなか考えさせる内容ですね。
著者もあとがきで述べていますが「講話成立が、後の太平洋戦争への起点」という感を受けます。
(著者がそういう印象で書いているというのがあるとは思いますが)
ポーツマスからの帰国後すぐに、決まりかかっていた南満州支線にアメリカ資本を入れる話を阻止したことなども、後の歴史展開を考えると阻止しないで「満州あたりにアメリカの影響があったらその後どうなったのだろう?」ということを考えます。(結局アメリカと戦争になったような気もしますが展開が違ったかも)
現在の、中国とアメリカの間で揺れる日本の状況を鑑みると日本の地理的なところからくる運命のようなものを感じます。
その後外相に返り咲き韓国併合に動くくだりなどは小村寿太郎の外交官としての「すごさ」を感じさせますが、この人の「理念」は時の富国強兵的なものしかなかったんだろうなぁというような感を受けました。
元勲を中心に国家意思が明確だったので「国家とはどのようにあるべきか」というような余計なことを考えないで働くことができたのは小村にとっては幸せだったんでしょうね。
現在の状況だったら国家意思がはっきりしない中で働きにくいだろうなぁ。
「はっきりして下さい」などと時の首相に詰め寄る小村外相(でも小村氏にはどうしたいという理念がなかったりする)というような場面が浮かびました。
現代はなかなか難しいですね。
考えさせられたのは上記のようなことですが、小説としての本作品の全体的感想としては、この作者の作品としては描写が粗めであっさりした印象。
今回は「明治国家が太平洋戦争に向かう起点としてのポーツマス条約」を振り返るという読み方になりました。
作者の意図もその辺にあるのでしょうか。
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