しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

ゴッホ殺人事件 上・下  高橋克彦著 講談社文庫

2018-12-28 | 日本ミステリ

SFが続いたので目先を変えたくミステリーです。

といってもシックな作品ではないですが...。

浮世絵三部作(「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」)読んだあたりで気になってブックオフで108円棚で見かけて下巻を買ってからしばらくして上巻を買って揃えました。

現在は他の多くの高橋克彦作品と同様に紙版は絶版となっており、kinndle版だけとなっているようです、2002年刊行。

本来は美術史シリーズ三部作となる予定だったようで、次作となる予定の「ダ・ヴィンチ殺人事件」は2003年3月から講談社の雑誌IN★POCKETで連載されていたようですが…(解説に書いてあった)色々探して見ても現在完成した形で刊行はされていないようです。

高橋克彦、その頃から作品数激減している感じですが???です。

ということで浮世絵三部作の流れを次ぐ「美術史」がテーマの作品。

探偵役は浮世絵三部作でもお馴染みの塔馬双太郎となります。(登場は後半から)
内容紹介(裏表紙記載)
上巻:
貸金庫に母が遺した謎のリストは何を意味するのか。パリ在住の美術品修復家・加納由梨子は「ヴィンセント」の文字を手がかりに調査するうち、存在すら知られていない膨大なゴッホ作品のリストだと知る。さらにゴッホの死因についての衝撃的な新説にも辿り着く。だが同時に、由梨子の身に危険が忍び寄る。
下巻:
盗聴器を自宅に仕掛けられた元恋人・由梨子の身を案じ、塔馬双太郎はパリへ飛んだ。ゴッホ作品リストの周辺で次々と人が死んでいくなか、日本人画商からオルセーにゴッホの真贋鑑定の依頼が入る。塔馬は東京に戻り、数々の謎の真相に迫る。壮大な国際謀略サスペンスかつ、美術史を揺るがす傑作ミステリー。


読後のとりあえずの感想、読んでいてとても面白かったです。

さすがはベテラン作家かつ直木賞受賞作家「高橋克彦」先が気になる展開で読む人を飽きさせません。

が…動機といい人間関係といい全体的に「ベタ」な感じで新味は…ないかなぁ。

犯人や絵に関わるトリックも浮世絵三部作の使い回し感が濃かったです

類型的に登場する「モサド」やらナチスの残党刈りやら007シリーズではあるまいし21世紀の作品として道具立てとしてどうなんでしょう?

ただ信憑性やら裏付けはともかくゴッホの絵に関わる新説、ゴッホの絵が何故生前1枚も売れなかったかの考察、テオとの関係を書簡から推理するあたりは興味深かったです。

絵が売れなかったのは諸説あるようですが、ゴッホの死の直後テオも亡くなりその後まもなくゴッホの絵が評価されているところから見て本作の見解も「なくはないかなぁ」という感じにはなりました。
(結果から見ているので真実かどうかは???)

テオの仕送り額から推察するところなどは浮世絵三部作と同様過ぎて既読の場合引く面はありますが…。(絵の方の仕掛けもですが)

でもまぁ深く考えず時間をつぶすにはいい作品だと思いますし、ゴッホやその時代の美術界の雰囲気など感じるには良い作品かと思います。

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占星術殺人事件 島田荘司著 講談社文庫

2018-07-28 | 日本ミステリ
SFが続いたので、趣向を変えてミステリーを読みました。

本作、週刊文春の'12東西ミステリーベスト100で国内3位となっています。

1位が「獄門島」2位が「虚無への供物」ともはや古典と言っていい作品ですから、近年の作品としては最高の評価を得ている作品といえるでしょう。

本書は1981年発刊、江戸川乱歩賞の最終候補作に残った作品とのことで島田荘司氏のデビュー作となります。

”2014年1月イギリスの有力紙「ガーディアン」で本作が「世界の密室ミステリーベスト10」の第2位に選ばれた”りもしているようです(wikipedia
その他

本自体は数年前にブックオフで入手済み

近年改訂完全版も出版されているようですが....。
まぁオリジナル版でいいかなぁと。(どうなっているのかは気になりますが)

内容紹介(裏表紙記載)
怪事件は、ひとりの画家の遺書から始まった。その内容は「六人の処女炉から肉体各部をとり、星座に合わせて新しい人体を合成する、というもの。画家は密室で殺された。そしてー力月後には、六人の若い女性が行方不明!奇想天外の構想、トリツクで名探偵御手洗潔をデビユーさせた、衝撃的傑作。


かなり評価の高い作品なので期待の方もかなり高かったのですが....。

「おどろおどろしさ」と「トリック」の融合、個性的な名探偵といったところ、過去の事件を題材に解決不可能感を出す展開に感心はしましたが解決まで読んでみると「あれっ」という感は受けました。

それだけ明解な解決ではあるんでしょうが...。

最後の解決編の部分かなり引っ張っている気がします。

処女作=初登場の御手洗潔のキャラを表現したかったのかなぁとは思うのですが、あそこまで引っ張るとかなりの人が「こうなんだろう」というのが想像つくような...。

最初のおどろおどろしさと、不可能感に対して、動機のありきたり(不自然)感とトリックの単純さ感(これはいいことなのかもしれないですが)のギャップを感じました。

本作いわゆる「新本格」の勃興にかなり影響があったということになっているようなので、時代背景考えると当時としてはオリジナリティあったんでしょうが....。

松本清張の「東経139度線」で亀卜、鹿卜と組み合わせた理屈付け、高木彬光の「黄金の鍵」(昔読んだような記憶が...)を引いて小栗上野介と結びつけて東経138度48分線作品やら援用して過去作品のオマージュしたりと工夫している感は感じましたが、小説を根拠にしての推理はどうねんでしょう?

結局この辺はほとんど解決に関係のないミスリードなわけですが....。

「不朽の名作ミステリー」としてはどうかなぁなどとは感じました。

私の求める推理小説は細かいトリックよりも「やられた感」となんとも「怪しい情念」なのですが...それほど高い評価ではないかなぁ...。

小中学生のとき私がよく読んだ高木彬光はこのタイプな気がします、情念出すぎ感ありますが。

でもまぁ普通には面白いですし。私のようなミステリー門外漢にはわかる魅力もあるのでしょから是非ご一読を。


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広重殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-04-02 | 日本ミステリ
写楽殺人事件」「北斎殺人事件」に続く浮世絵三部作完結編です。
「北斎殺人事件」の三年後1989年6月発刊、私が大学2年生の時に発刊されています。

これまた単行本が出てすぐに買って読んだ記憶があります。
後述しますがいきなり「びっくりな展開」でその上での「まさかの展開」のため若干引いたような記憶はあります…。

今回も携帯性を考え文庫で買いなおしたものを読みました。(ブックオフ)


余談ですが「広重」私が学生の頃までは(この本でも)「安藤広重」が一般的だった気がしますが今は「歌川広重」が一般的なんですね。
永谷園のお茶漬けの付録に「東海道五十三次カード」が復活していたので、眺めていたら気づきました。

中学生の息子に確認したら教科書も「歌川広重」ということになっているようです。
時代時代で呼び名も変わるんですね….。
「安藤」は本名「広重」は浮世絵師としての号なので浮世絵師としては歌川広重が正しいことから来ているようです。

「歌川」だと本書にちらっとでていた「安藤広重、天童広重まぎらわしい」というような話が通らないので何やらさびしい...。(笑)

内容紹介(裏表紙記載)
広重は幕府に暗殺された? 若い浮世絵学者津田良平が“天童広重”発見をもとに立てた説は、ある画商を通して世に出た。だが津田は、愛妻冴子のあとを追って崖下に身を投げてしまう。彼の死に謎を感じた塔馬双太郎が、調べてたどりついた意外な哀しい真相とは? 深い感動の中で浮世絵推理三部作ついに完結!


「北斎殺人事件」でも書きましたが、「高橋克彦」は基本的に「推理小説家」じゃないんだろうなぁというのをあらためて感じました。

「北斎殺人事件」は伝奇小説が入っていましたが今回はホラー・ファンタジー…というか民話的運命論のような要素が入っています。

いきなり主人公津田良平の妻冴子が自殺してしまう場面から入るわけですが、自殺の場面も冴子の亡兄国分が呼びに来ています…。
もはや推理小説ではないような…。

主人公津田良平の方も自殺してしまうわけですが、これまたどんなものかという理由(自殺の理由はわかりますが、自殺に至ることをやった動機がどうも…)ですし….。
「運命論」やらなにやら独特な倫理論で作中人物を殺してしまうのもどうかと…。

ただ推理小説としてはどうかなぁと思いますが小説としてはこなれていて楽しめます。
偽画を見破る場面などは「なるほどー」と思わせるもので、天童あたりが紅花の産地だったことも併せて「うまいなー」と思いました。

探偵役としては前作から登場の塔馬双太郎がこれまた「マッチョ」に解決していくわけですが、「弱い」ながらも繊細な津田良平の「才気」を立てる発言を書いてはいますが、結局マッチョじゃなければ問題は解決できないし生きていけないという展開に感じてしまい「こんな一面的世界観はどんなもんかなぁ…」との思ってしまいました。

これまた前作でも登場していた敵役の画商 島崎もマッチョなキャラで悪役ながらも抜け目なくどこかにくめなく「タフな男」という感じのキャラに書かれていて、より津田良平の弱さが目立つ展開でした。

まじめで繊細な人間はマッチョな人間にかなわないんでしょうかねぇ…。
本作の世界観どうにも受け入れにくかったです。

あくまで推測ですが著者は処女作で出した「津田良平」のことを作家歴が進むにつれて扱いに困っていたのではないでしょうか?

繊細な人間が活躍する作風ではなくなっているような気がしますし(それほど多く高橋克彦作品読んだわけではないですが)邪魔になって本作で「殺し」てしまったのではなどと思わせるほど可哀想な扱いです…。

とけなしているようですが、前述のとおり「小説」としては処女作と比べこなれていてく楽しく読める作品ではあり、本作でも天童での広重の謎探索行なかなか楽しめました。
「写楽殺人事件」での秋田蘭画探索行、「北斎殺人事件」での小布施探索行と併せこの三部作共通で地方での探索行の描写、秀逸です。

塔馬双太郎、編集者の杉原、津田のいとこの真蒼女史との珍道中ぶり楽しめました。
本来主人公であるはずの津田良平がかわいそうなのがどうもですが…、

私は「天童広重」のことは本作で初めて知ったわけですし、「天童広重」の存在はこの作品で有名になった部分もかなりあるんじゃないかと思います。

作中で役所の人が「広重の美術館を建てたい」というようなことを語っていましたが、天童の広重美術館は1997年に開館です。
開館できたのにも本作の寄与あったんじゃないかなぁなどと感じます。
(天童は用事があり毎年行くのですが広重美術館にはなかなか行けていないのでこれまたいつか行きたい場所のひとつです)

本作のもう一つの側面、歴史ミステリーですが広重=勤王思想の持ち主の方はまぁ天童藩に肉筆画を大量に描いてあげているわけで、天童藩が「勤王思想」の強い藩なのであれば「ありかなー」とも思います。
広重は武士ですし時代的にも勤王思想が盛り上がりだしたころでしょうし。

ただ道目木の絵から「天童藩にいったはず」という推理(というか推測?)はかなり強引な気がしますし、広重が甲府行のとき酒折宮によったから「勤王」というのはちょっと強引なような….。
(酒折宮には「連歌発祥の地」という位置づけもあるようです。)

同様に遺書などから「広重が殺された」というのもちょっと強引かなーとは感じましたが、まぁ歴史ミステリーは証明はかなり難しいので楽しい説ならありなのかもしれません。

浮世絵三部作、高橋克彦の作家としての成長・変遷含めて楽しめました。
今回読んでみての私的感想ですが、初々しい「写楽殺人事件」が一番好みでした。
浮世絵師の謎の解決の納得感は「北斎」、偽画を見破る場面の印象深さは「広重」という感じでした。

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北斎殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-03-27 | 日本ミステリ
高橋克彦氏の浮世絵長編3部作の第2作です。
写楽殺人事件」発刊3年後の1986年12月発刊、翌1987年の日本推理作家協会賞受賞作です。
本記事書くためにwikipediaで「高橋克彦」の項を眺めてみましたが、氏の著作はミステリーより歴史・時代小説やホラー・ファンタジー系の方が多いんですね。

「写楽殺人事件」の記事でも書きましたが、この浮世絵長編三部作もいわゆる謎解きミステリー小説としての要素は「本格」とい感じではないので「乱歩賞」「日本推理作家協会賞」とミステリー界の錚々たる賞を受賞している作家ではありますがミステリー作家としての要素は薄めの作家だったんでしょうね。

これまた前にも書きましたが本作私的にかなり好きな作品でした。
発刊当時高校2年生の私は単行本をほぼ発刊と同時に入手し初読から三回くらい繰り返し読んだ記憶があります。
その後も折に触れ20代の時まで頻繁に読んでいましたが最近はご無沙汰でした。

これも当時の単行本も持っているのですが携帯性により今回文庫で入手して読みました。

内容(裏表紙記載)
ボストン美術館で殺された老日本人画家とは何者か。
一方日本では、謎の生涯を送った浮世絵師葛飾北斎の正体に迫ろうと研究家たちが資料を追う。北斎は隠密だった?
 日本とアメリカを結ぶキイはどの辺にあるのか、またキイを握る人物とは?
浮世絵推理の第一人者の「写楽殺人事件」に続く傑作。日本推理作家協会賞受賞作。

「小説」としては処女作である「写楽殺人事件」よりこなれていて、さすが「推理作家協会賞受賞作」と感じます。

主人公津田良平が線の細いキャラのため「写楽」では先輩にあたる国府がマッチョな探偵役を担って物語を進めていたわけですが、本作では「国府と面識があった」という塔馬がマッチョな役柄を担います。

「写楽」の時はマッチョキャラの国府は途中退場するので適度な感じで冷静な展開でしたが、本作では塔馬が全編通して殺人事件やら偽画疑惑の方は探偵役として活躍する形になっているのでマッチョ感(ちょっと強引と言い換えてもいいかもしれない)強めになっていのが気になりました。

前記の通り著者に伝奇小説的ホラーやファンタジーを好きな傾向があるためか「マッチョな登場人物が出て解決させる展開が好きなんだろうなぁ」というのをしみじみ感じました。

ただ「浮世絵師の謎」の追求では今回の「北斎の謎」の推理が三部作中では一番納得感があるような気がしました。

「北斎」=「隠密」というところまでは信じきれないところもありますが、戒名やら御用鏡師の養子になった経緯やら、二男を旗本に養子に入れていることやら傍証考えると北斎=武士というところまでは相当に説得力がありした。

ここから見て北斎の実父(本作では仏清=川村清七説をとっていますが諸説あるようです、ここが崩れればすべて崩れる説なんですが…)死去後の北斎の行動は「確かに謎が多い気がするなー」と思わせられます。
wikipediaで御庭番のページ引くと確かに「川村家」が出てきてなにやら意味深です。
(余談ですがお庭番出で幕末に新潟奉行等歴任した「川村 修就」が川村家出のお庭番としては有名なようです、中公新書で「幕末遠国奉行の日記 --御庭番川村修就の生涯」という本が出ているようで気になります…。修就の孫の川村清雄は洋画家として明治期名を馳せたようです-勝海舟の画など有名-、川村「清」雄….北斎とつながりあるのか???など妄想すると面白い)

「川村家」=御庭番の家柄ということでなにかしら関係があって、川村家の家督を継いだ後にちょっとしたミッションを担当したというのもありかなーという気にはなります。

歴史ミステリーとしてはこんな程度の説得力で十分ではないでしょうか?
高木彬光の「成吉思汗の秘密」などはもっと強引な推理ですし….。

まぁそれはともかく純粋に「推理小説」として謎を解いていくのを楽しむのであれば津田的な「強引でない」キャラがたんたんと推理を進めてくれた方が楽しめた気がします。

魔女的な執印摩衣子が津田を巻き込むあたりは半村良の伝記小説っぽく感じてどうも推理小説臭が薄いです。

ただ私的にこの作品で一番好きな場面は執印摩衣子と津田良平が小布施を旅するあたりで、この辺の「北斎」や「当時」をいとおしむところは今回読み返しても魅力的でした。
小布施・北斎館・岩松院の天井絵...「いつかは行きたいなぁ」と今回もしみじみ感じました。(家族受けしなそうなのでもしかしたら一生いけないかも....)

まぁ良平が魔女的な存在に魅入られながらも、浮世絵やらなにやらへの「純粋」さが勝ち妻に回帰していくというかなりベタな展開なのですが、それを楽しむ作品なんだと思います。
40代後半の私には素直に感動するには少し無理のある展開ではありますが、10代から20代の自分はそれなりに素直に感動できた作品です、若い人にお勧めです。

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写楽殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-02-18 | 日本ミステリ
クリプトノミコン」を読むのに苦労したので、楽しく疲れず読める本を読みたいと本書及び「北斎殺人事件」「広重殺人事件」を再読しました。
時間が取れたこともあって2日間で三冊読んでしまいました。

感想、「三冊いっしょにしちゃおうかなぁ」とも思ったのですが、それもなにやら失礼(?)な気がしたので分割で書きます。

本書は1983年、第29回乱歩賞受賞作品。
単行本出版が1983年の9月、当時中学2年生の私は、本屋で平積みにされた本書をドキドキしながら買って(新品の単行本買うのは単価的に勇気が必要であった)家に帰ってむさぼるように読んだ記憶があります、面白かったなぁ....。

本書をきっかけに中学時代に乱歩賞作品をいろいろ読みました、「虚無への供物」もその縁で知り読みました。
小峰元「アルキメデスは手を汚さない」、海渡英祐「伯林1888年」小林久三「暗黒告知」伴野朗「五十万年の死角」栗本薫「ぼくらの時代」とか懐かしいなぁ....。
「失われた北京原人の骨はどこにいったんだろう?」とか「栗本薫は乱歩賞作家だったんだなぁ」などと妄想が膨らみます。
なお当時の単行本も手元にあるのですが今回は携帯性考え文庫版で読みました。

内容(裏表紙記載)
謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。
第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。


現在ではいわゆる「写楽の謎」問題は「写楽本人説」が主流となりおさまっているようですが、本書発表当時は写楽別人説真っ盛りで松本清張氏やら池田満寿夫氏やらも説を発表していました。
本書が出てさらに盛り上がっていた気がします。

そんな背景のなか著者の高橋克彦氏の浮世絵研究者としての経歴を生かしたミステリーです。

読み返す前は著者の浮世絵長編3部作「写楽」「北斎」「広重」殺人事件の中では、筆がこなれながらも著者特有のマッチョな臭みが少ない「北斎」が一番の出来だと思っていました。
「北斎殺人事件」はかなり好きな作品で過去何度も読み返していて「私的日本小説番付」では番外ながら好きな作品にあげていましたが、今回読み返してみて3部作では本書「写楽殺人事件」が一番面白かったような気がします。

ちょっとこなれていない部分もありますが、真剣さと謎を追う視点の新鮮味がそれを上回り楽しめました、この辺自は分がオヤジ視点になっているんでしょうね...。

浮世絵研究のドロドロと浮世絵に対する「愛」も素直に伝わってきて、読後浮世絵が読みたくなる作品です。

-以下ネタバレ気にせずに書きます。-

このシリーズ共通にいえることかと思いますが、実際に起こる「殺人事件」の方の謎及びトリックはまぁ安直だったりします。

本作のトリックも時刻表やらなにやらを使ったアリバイトリックなのでまぁ目新しいものではないのですが...シリーズの中では殺人事件自体の謎・トリックを真面目に扱っているという点では一番な気がしました。

「犯人」や「偽画」をめぐる人の欲深さや、「浮世絵界」の名誉欲といったものが動機となりときにはアリバイの「綻び」になるという人間ドラマを楽しむのが本シリーズの特長でしょうかねぇ。

キーになる歴史ミステリーとしての写楽=秋田蘭画家説の展開自体は相当無理がある気がしましたが、まぁこれは自覚的なんでしょうね。
「秋田蘭画」なるものの存在、決して一般的ではないかと思いますが本書以来はかなり知名度が上がったんじゃないかと思います。
そんなことも著者の狙いだったんでしょうね。

また田沼意次やら寛政の改革やらを背景に蔦屋や写楽、当時の浮世絵界の状況を語っている場面も浮世絵に興味を抱くにはいいきっかけとなりそうな感じですね。

神田の古書市で古い画集を見つけるエピソードなども、浮世絵研修者ならではのマニアックな仕掛けですが、そんなディテールも妙に説得感があり楽しめました。

成熟した「名作」を求める人には物足りないでしょうが、ボージョレー・ヌーボー的な新鮮味を味わえる名作ですね。
(乱歩賞は基本「新人」向けなので受賞作共通にいえるかもしれません)

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