しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

文学賞メッタ斬り! 大森望・豊崎由美著 PARCO出版

2018-08-26 | 評論エッセイ等
大森望氏のことは「日本SF作家クラブ入会否決事件」のことなどで興味を持っていて(コニー・ウィリス作品の翻訳やSF関係の各種文章などももちろん)豊崎由美氏との対談形式での共著の本書の存在も認識していてちょっと気になっていました。
(豊崎氏の方は全然存じ上げませんでした。)

そんな中、今年春先に立ち寄ったブックオフで本書が200円で販売していて購入しました。

このブログ見ていただくとわかると思いますが、わたくし国内外問わず「最近」の文学事情に疎いのでちょっと「勉強しておきたいなぁ」というのもありました。

もっとも本書は2004年3月発刊なので、ほぼ2003年の国内文学ー文学賞事情が語られています。
15年前.....ですが私にはかなり新鮮な作家、作品が多く参考になりました。

文学賞事情も15年でかなり変わっているとは思いますが、その辺追いかけてないので特に問題なしです。(笑)

「文学賞メッタ斬り!」は本書を皮切りにシリーズ化され2012年まで5冊発刊されたようです。
最後の方はネタ切れ気味とのうわさもあるようですが、本書は最初なだけあり小気味よく二人の対談形式で進んでいるように思います。

好評だったのでシリーズ化されたんでしょうねぇ。

内容紹介(amazon記載)
文学賞って何? 文学賞をとると本は売れるのか? 文学賞とれば一人前か?? どの賞をとると偉いのか? 芥川賞や直木賞からメフィスト賞や星雲賞、さらに地方の文学賞(坊っちゃん文学賞やらいらっく文学賞など……)に至るまで、有名無名含め50を超える国内小説の賞について、稀代の読書家二人が徹底討論。小説好きの読者にはたまらない、文学賞ガイド。


最近(15年前ですが...)の作家、知らないとは思っていましたが見事に出てくる作家知らない...。
(もちろん古い人は何人かは知っているのですが)

あらためて自分の文学事情の疎さに気付かされました。

大学の1年後輩で本好きな友人がいて、私とは異なりいわゆる主流の文学事情に詳しくたまに本周りの話をすると馬鹿にされるのですが...。
まぁ読書時間も限られらていることでもあり今の古めな本を読む傾向を改める気はあまりありません。

いつかは今時な本も読みたいとは思うのですが....。

本書に紹介されている2003年頃の本を読むのは10年後くらいでしょうかねぇ。
現在(2018年現在)の文学は....生きているうちに読めるのだろうか?

さて本書ですが2003-2004年の日本の純文学系・エンタメ系の文学賞の歴史やら受賞作、審査員まで大森望氏と豊崎由美氏の独断で論じています。

豊崎氏はどちらかというと純文学系(本当は海外のスリップストリーム・メタフィクション系のニュー主流文学的なものがお好きなようですが)、大森氏がエンタメ系という役割分担のようです。

豊崎氏もエンタメ系ついていっていますが、大森氏が純文学も含めいろいろ読んでいるのに感心しました。
いっていることがすべて正しいわけではないんでしょうし、毀誉褒貶ある方のようですが才人ではあるんでしょうね。

内容の方は選考委員の石原慎太郎氏、宮本輝氏やらの巨匠をぼろくそにけなしたりと割と言いたい放題ですが....まぁご愛敬ですかねぇ。

2003年辺りといえばスマートフォンこそまだ登場していなかったかと思いますがインターネットやら携帯電話(i.モード?)やらが普及しだし「文学」というか「出版」そのものの先行きが不透明になり出した頃かと思います。

「文学賞」も何やら「高尚」なものの側面もありますが、本書にも書かれている通り出版社の販促の側面もあります。

本書のように権威を茶化してみたり、主観で受賞作を平易に語る本が読まれることで現代日本文学に興味を持つ層が少しでも広まり、出てきた作品を「読んでみようかなぁ」と思う人が増えればいいのではないか。

私も本書を読んで何人か、何冊か読みたい本が出てきましたのでそういう意味では成功かと思います。

ただ買うのがブックオフというのが出版文化に貢献していないような気がして....ちょっと反省です。
言い訳するとサイクル早すぎてすぐ絶版になってしまうのですけど....。

以下各章感想など。

〇純文学新人賞の最高峰は本当に芥川賞なのか。
村上春樹、島田雅彦(この辺はさすがに知っています)に上げ損ねたこと批判。

選考委員の石原慎太郎、宮本輝(この辺も知っています、宮本輝作品は読んだことがないですが..。)批判と作品評というところ。

綿矢りさの「蹴りたい背中」を推していましたが本当に受賞して本書末で「緊急対談」開かれています。
「蹴りたい背中」も未読ですが、金谷ひとみの「蛇とピアス」(これまた未読)とともに芥川賞を最年少で受賞したときのニュースは覚えています。
芥川賞と直木賞の文学賞としてのポピュラーさは書かれている通り別格ですね。

「蹴りたい背中」読みたくなりブックオフで探しました。

綿矢りさ受賞後も何作か出しているようですが...「蹴りたい背中」以外あまり見当たらない。
村上春樹や島田雅彦辺りと比べるのは...酷ですかねぇ、まぁ芥川賞らしいといえますでしょうか。

あとちらちらブックオフの文庫棚で見かける吉田修一氏が純文学の作家であることを知ったのが意外でした。

他お薦めの吉村萬壱の「クチュクチュバーン」(文學界新人賞)舞城王太郎を読んでみたいなぁと思いました、あと奥泉光(聞いたことなかった...)

「芥川賞」も新人賞ですからその作家の成長性には当たり外れありますよね。
また「超有名賞」ですから冒険もしづらいでしょうし...。
そんなこんなで村上春樹級は外れちゃったんでしょうね。。

〇エンターテインメント対決!直木賞vs山本賞
直近直木賞受賞の村山由佳「星々の舟」批判。

純文学の芥川賞(文春)に対しての三島賞(新潮)ということでエンタメでの直木賞(文春)に対し山本賞(新潮)を対峙させての対談。

直木賞の方が保守的、またタイングを外しがちとの評価。
宮部みゆき「理由」浅田次郎「鉄道員」など遅すぎとのこと。

私のイメージでは最近の「直木賞」はある程度売れて定評の定まったエンタメ作家への表彰という感じで「作品」そのものをアクチュアルに評価していないのでは?という感じなので「それを言ってもねぇ」という感想。

石田衣良、吉田修一、伊坂幸太郎、舞城王太郎などの名前が出てきてエンタメと主流文学の境界論が交わされていましたが現代日本文学(15年前?)の主流はこの辺の人たちなんでしょうかねぇ。

前述の大学の友人と5、6年(もう少し?)前に本のことで話をしたとき「今はエンタメが主流ですよ!」などと言われて単行本を見せられた記憶があります。

文庫、それもブックオフで買っているようでは波には乗れないでしょうねぇ...。

なお私の個人的評価はなんとなく山本賞受賞作品の方が読みたいなーという感じです。
純文学の方は...よくわかりません。

〇文芸誌主催の新人賞、えらいのはどれ?
純文学誌主催の新人賞比較。
正直いって私にはついて行けませんでしたが...。
「文學界」減点しにくい作品への傾向。
「群像」ダブル村上へ上げている点評価。
「文藝賞」はヤマッ気あり、場の雰因気を読む「アイコ16歳」とか」
「すばる文学賞」トンガっている。
というような評価。

エンタメ系新人賞は「短編」でもあり受賞後活躍する人少ない。
受賞後も活躍しているのは時代小説作家と石田衣良くらい?。

そういえば石田衣良も読んだことないです。
名前は知っていて気になってはいるんですけれどもねぇ。

最後の方で豊崎氏が「新人賞読む価値ない、同じお金出して単行本買うなら新海外の一線級の作品読む方が良い」ということでガルシア=マルケス(1928年生)イアン・マキューアン(1948生)の名前を挙げていました。

「百年の孤独」くらいは読んでいないと「小説読んでいます」といえない気がしてきました。
マキューアンは知らなかったので記憶しておきたいと思います。

〇選考委員と選評を斬る!
「もう1作見たい」と6回言われ続けた島田雅彦のことやら、渡辺淳一、石原慎太郎、宮本輝批判やら選考委員と選評を論ずる章、津本陽の選評が朴訥としていてかわいいなどなど。

山田詠美の選評は褒めていましたが....。
私の中では島田雅彦含め「今時」の作家なんですが、15年前にすでの選考委員の立場なんですね。(いまや大御所か?)

なお私的には山田詠美は昔数作読みましたが苦手気味、島田雅彦は数作読みましたが、合う合わない激しい感じ

〇傾向と対策の砦、江戸川乱歩賞
エンタメ系の新人賞で圧倒的知名度の「江戸川乱歩賞」ですが小説好きから見ると「つまらない」?全体的にレベルは高いがトガッた作品が取ることがない。
占星術殺人事件」やらの人工的な設定(名探偵とかとか)の本格ミステリは軒並み落とされている。

「選考委員がよく知らない世界のことをリアルに描きつつ-あるいは描いているように見せつつ-その興味で小説をひっぱって、そこに殺人事件が絡む」というような受賞作の傾向があるようで昔から応募者は対策とっていたようです。

栗本薫(「ぼくらの時代」24回)は狙って書いたと発言(関口苑生「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」)高橋克彦(「写楽殺人事件」第29回)が徹底的に傾向と対策を練って応募したのも有名な話とのこと。

岡嶋二人(「焦茶色のパステル」28回)の片割れだった井上夢人の「おかしな二人 岡嶋二人盛衰記」にも傾向と対策を二人で考えるシーンが書かれているそうです。

岡嶋二人と高橋克彦の乱歩賞受賞作品共通点が前出の「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」に下記の通り書かれているそうです。
・まず自分の熟知している世界が描かれている。
・死者が三人ぐらいいる。
・土地がかなり離れたところで、いろいろな事件が起きる。つまり場所が東京だけというように限定されてはおらず、むしろ広がる傾向がある。
・何らかの図版が入っている。
・小説とは別の自分の本音がある。ストーリーとは別の、主人公の苦悩が描かれている。
上記対策すれば...「江戸川乱歩賞」が取れる.....かもしれません。

首藤瓜於「脳男」第46回の受賞につき「変わる」といわれていたようだが...変わらない。
(「脳男」は話題だったので読んだような記憶があるのですがよく覚えていません)

なお受賞作で一番売れたのは藤原伊織「テロリストのパラソル」(41回-直木賞も受賞)だそうです以降部数出る作品はあまりない?

乱歩賞読む人にお薦め(20代へ)豊崎氏 福井敏晴「Twelve Y.O.」(第44回)大森氏 仁木悦子、「写楽殺人事件」「焦茶色のパステル」

〇ミステリ系老舗新人賞はどうなっている?
「横溝正史賞」パッとしない。
比べると江戸川乱歩賞すごい、直木賞作家排出率高い。
「サントリーミステリー大賞」やっぱり大したことはない。
垣根涼介はブレイクしそう。⇒まぁしましたね。
等々

〇ホラー小説大賞とホラサスの底力
ホラーブーム、江戸川乱歩賞のような存在感
ホラーブームそういえばありましたね...いまはどうなんだろう?

坂東眞砂子・篠田節子・恩田陸 和製モダンホラー御三家。
この辺は今でも活躍していますし遺産は残っているんでしょうね・

〇注目度NO.1メフィスト賞から≪ファウストへ≫
メフィスト賞、講談社ノベルズの賞。
大森・豊崎両氏ともお気に入りのよう、選考委員がいない編集者が選ぶ賞だから面白くなった?
気になった作品
・森博嗣「すべてがFになる」(1回)
・舞城王太郎「煙か土か食い物」(19回)
・西尾維新「クビキリサイクル」(23回)
・清涼院流水「コズミック」(2回)関連して麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲」(超弩級の怪作。
・殊能将之「ハサミ男」(13回)
・石黒耀「死都日本」(26回)日本沈没をやり直す作品。

「鮎川哲也賞」本格向け安定している。
近藤史江「凍える島(4回)、同時応募作貫井徳郎「慟哭」最終まで残る。
加納朋子「ななつのこ」(3回)

私感ですが、東京創元社はミステリー、SFともに真面目に取り組んでいるイメージありますね。
昔東京創元社の編集とかやったら楽しそうだなぁと夢想したことがあります。(実際やったら大変なんでしょうけれど)


〇続々登場!新興エンターテインメント新人賞の勝ち組は?
・NEXT賞 方向性わかりにくい。
・KAPPA-ONE 本格推理
・日本ミステリー文学大賞新人賞名前が大きいが
・「このミステリーがすごい!」大賞 評論家が評価

〇世界文学に最も近い?ファンタジーノベル大賞
スリップストリーム・メタフィクション・マジックリアリズム小説好きの豊崎氏お気に入りの賞ですが...。

第25回(2013年度)を機に一定の役割を終えたとして賞を休止していたようです。
(2017年再開。)

私は大賞作では佐藤亜紀「バルタザールの遍歴」(3回)銀林みのる「鉄塔 武蔵野線」(6回)読んでいます。
私の中でも「いい賞」なイメージがありますが...。

佐藤亜紀は新潮社ともめにもめたようですが、銀林みのるも以降作品発表していないですし、なんんだか「育てない」「育たない」と微妙に「変わった作家」が取る賞のイメージがあります。

本書発刊あたりでは西崎憲「世界の果ての庭」(14回)、粕谷知世「クロニカ 太陽と死者の記憶」(13回)が大賞とっていてお薦めだそうです。

大賞は取っていませんが 高野史緒、小野不由美、恩田陸、北野勇作など活躍している作家が優秀賞を取ったりしているようで、なまじ大賞取らない方が???

日本の小説はあんまり読まないけど海外文学はすごく読む人にお薦めとのこと。
もっとも豊崎氏いわく「国書刊行会≪文学の冒険≫シリーズの磯崎純一編集長によれば3000人しかいない。」そうですが...。

〇ようやく夜が明けてきた?SFの賞事情
日本SF大賞のこと。
有名な「太陽風交点」事件の紹介、早川と徳間の対立。
ジャンル外作家の作品、漫画でもゲームでも映画でも受賞できる。
SF冬の時代のことなど。
「小松左京賞」角川春樹の直観、本格SF
「日本SF新人賞」ライトノベルより。
「星雲賞」と日本SF大会のこと。

個人的見解ですがSF系の賞微妙ですね...。
日本SF大賞、ジャンル系の「小説」に限るか、ファンタジーノベル大賞になるような境界線の作品までにしていけばいいような気がします。
例えば押しも押されもしない「大作家」宮部みゆきの「蒲生邸事件」に授賞する意味がよくわかりません...。
評論や映画に上げるのも論点ずれるような.気がします、別途「賞」設ければいいのになぁなどと思います。
まぁ受賞作ほとんど読んで(見て)いない私が言うのもなんですが。
読んだことがあるのが第8回(1987年) - 荒俣宏 「帝都物語」(8回)第18回(1997年) - 宮部みゆき 「蒲生邸事件」、庵野秀明 「新世紀エヴァンゲリオン」(18回)第21回(2000年) - 巽孝之編「日本SF論争史』」(21回) 最相葉月 [星新一 一〇〇一話をつくった人」(28回)「シンゴジラ」(37回)まともなジャンルSFの受賞作読んでいない(笑)

〇ベテラン作家対象の文学賞の違いってなに?
「讀賣文学賞」ベテラン作家へのご苦労様賞。
「谷崎潤一郎賞」作品選び素晴らしい、昔の日本の小説何読んだらいいか悩んだら受賞作。
「吉川英治賞」エンタメ系ご苦労様賞。
「日本推理作家協会賞」本格には厳しい。
「泉鏡花賞」唯一SFに授賞している。個性的な文学賞、ファンタジーノベル大賞の後狙える賞はこれくらい。
等々。
上記、日本推理作家協会賞は微妙な気がしますが他はベテランに贈る賞は安心感ありますね。

〇新文学賞の提案、地方賞で文学賞甲子園!
いっそ文学賞を甲子園形式で競わせてみては?との妄想と併せて地方文学賞の紹介。

〇第百三十回芥川賞・直木賞受賞結果を緊急対談
芥川賞「蹴りたい背中」「蛇にピアス」、直木賞: 江國香織「号泣する準備はできていた』、京極夏彦『後巷説百物語』「号泣する準備は出来ていた」について。

・巻末付録'03~'04年版・文学賞の値うち
 福田和也の「作家の値うち」に倣い文学賞受賞作品を採点点数高い作品(どちらかが80点以上つけている)書いておきます。
大森氏と豊崎氏で調整していないらしいので評価が違うのが楽しいですね。
「本格小説」はブックオフで買って持っていますが未読です。
「アラビアの夜の種族」は日本SFのベストとしていつかは読まなきゃと思っています。
「終戦のローレライ」は大森氏によると史上最大最強のガンダム小説らしいので1stガンダム世代の私としてはいつか是非読みたいです。
福井晴敏後に「機動戦士ガンダムUC」も書いてますしね。
 「アラビアの夜の種族」古川日出男日本SF対象 大森氏92点 豊崎氏76点
 「本格小説」水村美苗讀賣文学賞 豊崎氏83点
 「容疑者の夜行列車」多和田葉子 谷崎潤一郎賞 豊崎氏84点大森氏66点
 「吾妹子哀し」青山光二 川端康成文学賞 豊崎氏86点、大森氏66点
 「スタンス・ドット」堀江敏幸 川端康成文学賞 豊崎氏86点大森氏66点
 「終戦のローレライ」福井晴敏 吉川英治文学新人賞 大森氏81点、豊崎氏61点
 「ハルビン・カフェ」打海文三 大藪晴彦賞 大森氏84点豊崎氏58点


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あなたもSF作家になれる わけではない 豊田有恒著 徳間文庫

2016-01-10 | 評論エッセイ等
本書は小学生時代(35年位前)図書館で単行本を借りて読み、なにやら気に入り何回も読んだ記憶があります。

当時日本のSF第一世代の作家の作品をよく読んでいた私には非常に面白く感じられたのだと思います。

この本の中に「飲み屋で見たトイレの鏡の自分の眼の汚さにハっとした」(細かいところ未確認)というような文章があり、これは自分が飲みすぎてトイレにいって鏡を見たときによく頭をよぎる文章になっていたりします。

そういう意味では今の自分を作っている本の一冊といっていい本です。

最近SFを読み始めたということで気になりAmazonで文庫の古本を購入。

もともとは1976年に奇想天外に連載されたものが1979年11月単行本ででたもの。
(私が昔読んだものこの版)
今回入手したのは徳間文庫版で1986年9月発行。

「文庫になった」というのはそれなりに人気があるんでしょうかねぇ。

またこの本、日本SF市場名高い(?)覆面座談会事件の資料としても有名なようです。
wikipediaで参考図書になっていた)

内容紹介(裏表紙記載)
SMとの混同にもめげずSFを志した〈苦闘の時代〉から、苦心の原稿をバッサリ切られてお礼を言ってしまった〈未曾有の時代〉、「鉄腕アトム」のシナリオに参加した〈映像の時代〉、「破壊された男」に衝撃を受けた〈翻訳の時代〉を経て、縦横無尽の〈創作の時代〉へ。日本SFの揺籃期から興隆期を自ら体験した著者が複眼多岐の視点から綴るインサイド・エッセイ。SFもまた、その個体発生は系統発生を繰り返す!?


内容としては「SF作家入門」の体を取った豊田有恒氏の半生記といったものになっています。
かなり偏った意見もあるかと思いますが、作者の「本音」かなり出ているのがいいところですね。
日本のSFやアニメ草創期の話も興味深いのですが、その中での作者の悪戦苦闘ぶりを素直に述懐しているのがとても味わい深い…。

この本にも書かれている通りアニメ原作者としてもSF作家としてもかなりな才人であるわけですが、どこか「自分は二流だ!」感を持っており全体的にその視点で書かれています。
私も豊田氏の作品昔結構読んだ人で面白かった記憶はあるのですが、SF作品は代表作である「モンゴルの残光」などすべて絶版のようですし、正直同じくSF作家第一世代とされる星新一、小松左京、光瀬龍、平井和正などと比べて2015年現在、忘れられ感は強い作家な気がします…。
(ジュブナイルの「時間砲計画」以外最近読み返していないので今視点で作品かどうかのコメントは差し控えます)

本書の中で自分でも書いていますがどこか「自分に確固とした軸」「発想の飛躍」がないというところの葛藤があったんでしょうね、その辺の葛藤と「それでもなんとかやってきたんだ」というところの入り混じった文章は同じような悩み(要は天才でない人すべて)を持つ中年として切なく、楽しく読めました。

今回調べてみたら豊田氏、現在はSF作家というよりも「嫌韓」「親原発」の人ということで有名なようで、そちらの本はいろいろ出ているようですがそちらは読んでいないのでこちらもコメントは差し控えます…。

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きまぐれ学問所 星新一著 角川文庫

2015-12-20 | 評論エッセイ等
これまた6月ころ読んだ本です。
(本書抜かして12冊読了済みで記事に上げていません…手抜き記事でもなんとかあげていきたいと思っています。)
転勤直後で余裕がなく軽く読めるものをということで手に取りました。
本自体はブックオフで見かけて購入したもの。

平成元年刊行ですから星新一としてはショート・ショート卒業後の晩年のエッセイ集です。
独自の視点から切り口を見つけてかく氏のエッセイは評判も高く(多分)私も好きでしたが、切り口の鮮やかさは本書でも随所に見られて堪能できました。

内容紹介(裏表紙記載)
本を読むのは楽しい。乱読して、片端から忘れていくのも楽しいけれど、テーマ別に集中して読めば、もっと楽しい。頭の中でまとまって、会話のネタにも不自由しません。
世界各地に住む異民族たちと仲よくなったり、李白、老子と遊んだり。ここと思えばまたあちら。のんびりと春風に吹かれていると、突然鋭く切りつけられる。油断のならない、思わず吹きだす辛口エッセイの数々。
ホシ式学問術の成果、ご一緒にどうぞ。


内容紹介にもあるとおり星氏が興味を持ったテーマに関して集中的に読んだ本の紹介とそのテーマについての考察をまとめたものです。
野生時代に隔月で連載したものをまとめたものとのことです。

今ではかなりの情報がインターネット経由で調べられるわけですが、この本が出た平成元年(1989年)はインターネット前の時代。
教養、知識は本を集めて読むほかには得られない時代。

この本に取りあげられているジプシーやらフランクリン、李白のことなども今ならネットでいろいろ調べられそうですが、このエッセイ集を読むとやはり「本」の乱読で得られた知識の方が「深く考えられるのではないかなぁ」などと改めて思いました。

いわゆる「学問的」ではないでしょうが星氏の独自の考察も興味深い。
「正しい」かどうかは別として物まねでないオリジナルの考え方から考察する姿勢がとても星新一らしい...。
晩年だけに発想が若干は固くなっているような感じもうけましたがその辺は健在な感じで楽しめました。

そもそも「李白」や「フランクリン」をこういう視点で調べようという発想はこの人でないとなかなか出てこないのではないでしょうか。
あとは「ジプシー」についての考察がとても記憶に残っています。
好エッセイ集です。

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きまぐれフレンドシップpart1 星新一著 集英社文庫

2014-03-30 | 評論エッセイ等

まだ熱があったので軽いものを…ということで本書を手に取りました。


前にPart2を読み気になっていたので昨年末実家から持ち帰ったもの。
昭和60年10月初版で買っています。
当時15歳、新品を買った記憶があります。
多分私の中で最後に新品で買った星新一作品です。

星新一氏には大変失礼な話のですが....中一終わりくらいから星新一を卒業しつつありましたので「久々」「懐かしい」という気分で本書を購入した記憶があります。

「星新一卒業体験」かなり多数の日本の小説好きの方が同じような体験しているのではないでしょうか?
今から思えばいかに自分が生意気だったのかわかるんですけれどもねぇ。

この前近所の方が小六の息子さんを連れてうちにいらっしゃったとき、息子さんが大人同士の会話に飽きたのか文庫本を読みはじめました。
私が「何読んでるの?」と聞くと...星新一「ご依頼の件」とのこと。
私が小学生の頃にはまだ文庫で出ていなかったショート・ショート集です。
「おじさんも星新一いっぱい読んだよー」と思わず声が高くなりそのお子さんには引かれましたが...(笑)

いまだに星新一の読者は誕生しているんですねぇ(うちの小五の息子はマンガしか読まない)スゴイ。

星新一の本って累計でどれくらい売れているんだろう?と調べたらwikipediaのベストセラーの項が引っかかってきました。
作家別累計ベスト10が載っていて星新一は2008年現在で新潮文庫のみで3000万部以上で9位。
なお10位が夏目漱石で新潮文庫で2700万部以上。
ちなみに8位は三浦綾子4000万部以上。
夏目漱石を超えた作家が9人しかいなくて間違いなくその一人は「星新一」
まだまだ増えていきそうですし考えてみればスゴイ。

内容(裏表紙記載)
生まれ育った本郷のこと、師と仰ぐ大下宇陀児氏のこと、学生時代の友人宮坂作平、打王業の城昌幸、小松左京、筒井康隆・・・・・・円盤研究会で知り合い、同人誌「宇宙塵」を作ることになった柴野拓美、矢野徹・・・少年時代から出会った人々やその作品について語る好エッセイ。解説・峯島正行

本の解説やら人物紹介をまとめたエッセイ集なんですが、いかにも星新一的視点で書かれていて楽しめました。(当たり前ですが)
この「視点」特徴としては、誰かがいったこととか世評で判断するのでなく、とにかくまずは「自分なりの視点」から評価して検討していること。
氏のショート・ショートなども「視点」があり、慣れてくると素直な結末でなくひねった結末の方が「ありがち」に感じられてくる。

エッセイ集では「意外性」に重きを置いているわけではないんでしょうがとにかく「自分なりの視点」で物事をみることを非常に新鮮に感じられます。
その「自分なりの視点」が結果として世間の評価と同じになったりもするのですがとにかく「自分」で考えるということが徹底されている。
このような見方を読書体験の初期で刷り込まれて影響を受けた人は日本国内に多くいるんじゃないでしょうか?
よく読むとそれなりに「毒」のある文章ですし、その毒がいずれ発症して日本は大変なことに...(ショート・ショート風・笑)


ということで私も不十分とは思っていますが物事や小説などをできるだけ「自分なりの視点」で評価したいなぁと考えているます。
星新一の影響がありそうです。

この本で激賞されている「黄土の奔流」などは影響を受けて読んだ記憶があります。
当時は「すばらしい作品」と感じましたが、5年前くらいに読み返した時は「ちょっと古いなぁ」と感じました。
日本の冒険小説もずいぶん進歩してきているので時代の流れには勝てなかったんでしょうね。
そんなこんな「星新一が書いているから絶対正しい」わけではないですすが、たとえどう書いてあっても「自分なりの視点」で物事をみるのが正しい星ファンな気がします。
ということで本書が読書の参考として今でも通用するかは???ですがなつかしい星新一的「視点」が楽しめました。

といいながら本書を読むといろいろ読みたい本が出てきます。
筆頭は星新一がショート・ショート作家としてやっていくきっかけの一つとなったと本書で書いている「怪奇製造人」(1993年国書刊行会で復刊)、また城昌幸の作品を星新一が選んだ「怪奇の創造」(1982年)「城昌幸」の存在を知らなかったので是非読んでみたくなりました。
矢野徹「カムイの剣」も久々読みたくなったりましたが...がっかりしたら悲しいので躊躇しています。
南条範夫「わが恋せし淀君」、今読んだら微妙そうな気がしますが...星新一の紹介を読んでいるととても読みたくなる。
河野典生も読んだことがないので「殺意という名の家畜」読みたくなりました。
河野典生...一時は星新一よりメジャーだったような気がしますが...今では思い切りマイナーな気がする、時の流れは...。

あとは筒井康隆・小松左京作品も久々読みたくなりました。

でも1番読みたくなったのは最相葉月の「星新一-1001話つくった人」で、筒井康隆の文学賞受賞式で星新一が乱れたところだけ読みたかったのですが...。
結局後半部分全部読んでしまい、熱があるのに睡眠時間が大幅短縮されました。
この本危険です、昔初めて読んだ時もちょっとだけ読むつもりが徹夜になった...。
そのうちキチンと再読して記事書きたいところです。

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「草枕」変奏曲 横田庄一郎著 朔北社

2013-12-02 | 評論エッセイ等
「明暗」を読みだす前にネットでいろいろ漱石について調べていところ、松岡正剛氏の千夜千冊で「漱石」「草枕」を取り上げているのを見つけました。

「草枕」自体の紹介よりも、カナダの天才ピアニスト グレン・グールドが「草枕」を愛読していたエピソードの記載が多く、私も興味をひかれました。
グールドが亡くなった時、「枕元には「聖書」とメモだらけの「草枕」のみが置かれていた」くらいの傾倒ぶりだったようです。

その辺の経緯は上述の千夜千冊でも読めますし、wikipediaのグレン・グールドの項でも詳しく書かれているので省きますが、その元ネタとなっているのが本書です。

なんちゃってではありますがクラシックファンでもある私としてはこの事実を知ってかなりびっくりしました。

グールドのバッハは正直私にはよくわかっていませんが、モーツァルトのピアノソナタの個性的な演奏や村上春樹の影響で聞いたバーンスタインと共演のブラームスピアノ協奏曲1番のなんとも個性的な演奏で「すごいピアニストだ!」という認識はありました。

数々の奇行の逸話と併せ、特に日本では「カリスマ」とされている人ですね。

漱石の初期の作品は国境を超える「価値」があるとは私も思いますが、あらためてこの組み合わせを見るとなんともかんとも意外感のある組み合わせです。

本書にもそんなわけでかなり興味はあったのですが、買うには至らず...。
地元の図書館でリクエストして借りました。

内容は漱石・草枕・グールド1/3づつという感じですが「草枕=漱石」的なところもあるため漱石に関する話が多いかなあという印象です。
(グールドのみのファンにはつらいかなぁという内容)

印象に残ったのは、最初の方に漱石夫人の鏡子氏の「漱石の思い出」の記載を紹介して「初期の作品「坊っちゃん」「草枕」などは漱石が勤め帰りに徹夜もしないで1週間くらいで書き上げた」部分。
漱石凄すぎますね....。

初期の作品は後に朝日新聞専属の職業文筆家としての漱石と違って「誰のためでもなく自分が書きたいものを書いた」ということで評価する意見もあるようです。
それもわかるような逸話ですね、書きたいものがどんどん迸り出ていたんでしょうね。

明治国家の枠組みから飛び出して朝日新聞に入社した漱石は「それから」の代助的な心情もあったのかなぁなどとちらりと考えました。

いろいろ評価はあるのでしょうが、職業文筆家となった漱石の作品はなんだか風通しが悪い感じはします。
(丸谷才一氏がどこかで書いていたもののぱくりです)

私も漱石は初期の作品の方が好きですねぇ。

あと印象に残ったのは、漱石作品では主人公が「横になっている」場面が意図的に表現されているというもの。
確かにそんなところがありますね。

主人公が横になっている場面から始まるパターンが多い気がします。
「明暗」でも「それから」でも主人公が横になっている状態から始まっています。

そんなこんな漱石好きかつグールド好きな人にはお勧め本です。

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