しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

オリエント急行の殺人 アガサ・クリスティ著 山本やよい訳 ハヤカワ文庫

2017-09-30 | 海外ミステリ
ブラックアウト/オールクリア」を読んでいて作中何度も「オリエント急行の殺人」が登場し、ついには著者のアガサ・クリスティ本人も出てきたりとしていたので気になっていました。

その頃に丁度会社の若者と本の話になり「最近アガサ・クリスティにはまってます」というような話になり「ミステリーは最後全部解決するすっきり感がいいんですよねー」とも言われ「なるほど」と思いミステリーが読みたくなったのもありました。
(そういえばSFはモヤモヤ感残るかもです)

海外ミステリーは中学生頃(80年代前半)「ベスト」と言われていた作品を読もうとした時期があり、クィーンの「Yの悲劇」やらヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」クリスティは「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」やらを読んだりしていましたがクリスティ作品の中でもメジャーな作品である本作は未読でした。

本作1934年刊行、‘12年週刊文春ミステリベスト11位’95年アメリカ探偵作家協会ベスト41位、英国推理作家協会ベストにランクインしてませんが本国で人気がないのでしょうか?

本は近所の本屋で丁度新訳出たのか平積みになっていたので入手。(新品です!)

また2017年11月公開でまた映画化されるんですね、クリスティは他のミステリー作家と別格で人気な気がします。(その辺のメジャー感はセイヤーズとえらい違いだ)

内容紹介(裏表紙記載)
真冬の欧州を走る豪華列車オリエント急行には、国籍も身分も様々な乗客が乗り込んでいた。奇妙な雰囲気に包まれたその車内で、いわくありげな老富豪が無残な刺殺体で発見される。偶然乗り合わせた名探偵ポアロが捜査に乗り出すが、すべての乗客には完璧なアリバイが……ミステリの魅力が詰まった永遠の名作の新訳版。


読後の感想、トリックは有栖川有栖氏が解説で「掟破り」度では「アクロイド殺し」に匹敵すると書いていましたが確かにそんな感じです。
読みながら「まさかなー」と思っていたのが本当にそうだったときのショック感はなかなか…。
解説では、チャンドラーが「こんな答えには鋭い知性を持った人が目を回すこと請けあいである。間抜けにしかわからないことだろう」と書いているとありましたがチャンドラーもだませれてくやしかったんでしょうね。

後から思えばポアロが丁寧に全員を尋問して「もしかしたらなー」とも思ったのですが…。
少しでも「ミステリー」かじったことがある人ほど騙されるというか「まさか」となるというなんとも人を食ったトリック、ミステリーの女王クリスティの面目躍如です。

オリエント急行殺人事件=「XXXXXがXXXなトリック」ということで定番化されているようですが…解説にもあるように知っていたら楽しみ半減するでしょうね。
知らないでよかったー。

「ブラックアウト/オールクリア」の感想でも書きましたが、ウィリスは本作のトリック、クリスティ作品のような掟破り感を出したかったのかもしれません。

でも「SF」でのお約束破りは納得できていない部分があるのですが…..。
ミステリーとしては本作のトリック「ありかなー」とは思いました。
(「なんでもあり」感ありますがミステリーはそうやって幅を広げてきたのかなーとも)

謎解き以外の部分では1930年代ならではの黄昏を迎えながらも誇り高い貴族たち、イスタンブール-フランス間の豪華国際列車の雰因気、その列車がユーゴスラビア山中で立ち往生するという、現代から見ればなんとも大時代な設定(それでも100年経っていないのが時代の流れの速さを感じます)も楽しめました。

ポアロのいかにもな名探偵ぶりも大時代でよかったです。

犯人発見後の結末は...「そんなんでいいのかよー」とも感じましたがそこも含めて古きよき名作を味わう作品なんでしょうね。

作中重要なエピソードとなるアームストロング事件はリンドバーグ愛児誘拐事件が下敷きになっているようですがそんな時事ネタを扱っていても古びないというか….時代の「味」になっている華麗な作品です。

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空襲警報 コニー・ウィリス著 大森望訳 ハヤカワ文庫

2017-09-23 | 海外SF
ブラックアウト/オールクリア」が面白かったため入手しました。
Amazonで新品購入。

本書はオックスフォード大学史学部シリーズの始まりとなっている標題作はじめ、ヒューゴー賞・ネピュラ賞を受賞した短編を集めた作品集です。
原書は“The Best of Connie wiliis:Award-Winning Stories”(全10編)として一冊で出されているものが2分冊となり本書と「混沌ホテル」としなっています。
(「混沌ホテル」の方を前に入手していたのですが、史学部シリーズ流れでこちらから読みました)

分冊にあたり原書とは構成を変え本書「空襲警報」はシリアスなもの5編「混沌ホテル」はコメディタッチのもの5編収録となっています。

「空襲警報」は「見張り」のタイトル(高林慧子訳)でウィリスの第一短編集「わが愛しき娘たちよ」に収載されていたものを改題し、大森望氏の新訳となっています。
「オールクリア」=空襲警報解除の対語として「空襲警報」としたようです。

各編末にアシモフばりの自作へのコメント入り、巻末にウィリスのSF大会でのスピーチも収載されておりこちらも楽しめます。


内容紹介(裏表紙記載)
オックスフォード大学史学部の大学院生は、時間遡行技術を使って研究する時代に赴き、各々観察実習を行っていた。第二次大戦の大空襲下のセントポール大聖堂で、火災監視をすることになったぼくは……史学部シリーズ開幕篇の表題作を、新訳で収録。短篇集初収録作「ナイルに死す」、終末SFの傑作「最後のウィネベーゴ」ほか、ウィリスのシリアス系短篇から、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作のみ全5篇を収録した傑作選。


読後の感想としては、なにせ「ベスト・オブ・コニー・ウィリス」ですからかなりのものを期待していたのですが...。
「それほどでなはいかなぁ…」と感じました。
私が合わないのか…ウィリスが長編向けの作家なのか...。

「SF」短編集としての出来はアシモフの「変化の風」の方が上と感じました。

各編紹介と感想
○クリアリー家からの手紙 A Lettrer from the Clearys 1982年7月
 1983年ネピュラ賞-ショート・ストーリー

ロッキー山脈の山間部の田舎町に住む少女は郵便局で見つけたクリアリー家からの手紙を持ち帰り家族の前で読み始めるが….。

「混沌ホテル」収載の著者の序文によるとウォード・ムーアの「ロト」に触発されて書いたとのこと。(終末テーマ)
冒頭ののどかな描写から一転しての緊迫した感じがよく出ているのですが...着想・展開とも型にはまりすぎているような気がしました….。
「SF」ならではの仕掛けも感じられずでどうも作品に入っていけませんでした。
 訳者あとがきでは「信頼できない語り手」によるストーリーをよく味わう作品のようですが…。

○空襲警報 Fire Watch 1982年2月
1983年ヒューゴー賞・ネピュラ賞・SFクロニカル賞

オックスフォード大学史学部の学生バーソロミューは時間遡行した実習で第二次大戦下のセント・ポール大聖堂で空襲監視をすることになるが….。

本作が史学部シリーズ第一作なのですが設定は「ドゥームズデイ・ブック」の後となっています。
「ドゥームズデイ・ブック」の主人公ギヴリンが本作の主人公バーソロミューのルームメイトとして登場おり、すでに中世への時間遡行済な設定です。

シリーズを貫くテーマ的なものがすでに出ているですが、なんだか骨組みだけ見させられているような気になってしましました。
「ブラックアウト/オールクリア」の感想でも書きましたが、作中バーソロミューをセント・ポール大聖堂で探し求める場面が出てくるのでその場面での対比が楽しめます。

猫が絶滅しているということは「犬は勘定に入れません」の方で詳しく語られますがその辺もこの第一作から触れられているので設定済だったというようなこともわかります。

ただちょっと本作の描写、全体的に薄めなので期待して読んだ割には...というところはありました。

○マーブル・アーチの風 The Winds of Marble Arch 1999年10月,11月
 2000年ヒューゴー賞

20年ぶりに夫婦でロンドンの大会(SF大会?)に訪れ、地下鉄に乗った主人公は正体不明の風に出会い...。

ウィリス54歳の作品ということでしのびよる「老い」と去りゆく「若さ」を郷愁でつつんで描いています。

「ブラックアウト/オールクリア」でも多く出てくるロンドンの地下鉄が出てきています、ウィリスのコメントによるとロンドンで一番のお気に入りはセント・ポール大聖堂で2番目は地下鉄のネットワーク全体とのこと。

独特の雰因気は楽しめましたが、ほぼ「SFではない」のでSFとして評価するとどうかなぁと思う作品ですね。


ナイルに死すDeath on the Nille 1993年3月
 1994年ヒューゴー賞・SFクロニカル賞-ショート・ストーリー

 エジプト行きの飛行機に乗りナイルへ向かうツアーの一行は…。

 これもSFではなくホラーという感じの作品。
 初期の筒井康隆(60年代?)の短編にありそうな話だなーという感想でした。
 ありきたりなツアーが徐々に異世界に引きずりこまれていく感じと、女性の描き方ウィリスならではと感心しました。。
 「死後の世界」という意味では後の「航路」につながってくるのかもしれません。
 

○最後のウィネベーゴ The Last of the Winnebagos 1988年7月
1989年ヒューゴー賞・ネピュラ賞・SFクロニカル賞・アシモフ誌読者賞

 犬が絶滅し世界がゆっくり下り坂に向かっているらしい近未来、ウィネベーゴを取材するカメラマン=記者は….。

 訳者あとがきで「ウィリスの中短編の中でも小説としての出来栄えではたぶんこれがベストであろう」と書かれています。
 確かに「?」な設定で年代も時折遡ったりして描かれるストーリーはなんとも巧みです。
 「ラストどうなってしまうのかなぁ」と思いましたがすべての伏線を回収して見事に解決する手腕には舌を巻きました。

 全体的に去りゆく者への郷愁漂い雰因気は感じたのですが…。
 本書全体に言えることですがSFならではの「とんでもない」状況やら道具立てのない話が多かった気がします。

 だからといって小説的にどうなのかというと私的にはそれほど入り込めませんでした。
 ウィリスが長編向きなのか私との相性の問題なのかは???です。

 作品的には「最後のウィネベーゴ」が一番楽しめましたが、「ウィネベーゴ」自体がいかにもアメリカなものなのが象徴的であくまで「アメリカン」な郷愁なのでそこが戸惑うところではありました。

〈付録〉
〇二〇〇六年世界SF大会ゲスト・オブ・オナー・スピーチ
〇グランド・マスター賞受賞スピーチ予備原稿
〇グランド・マスター賞受賞スピーチ

ウィリスはスピーチの名手でもあるそうです。
少女時代からどのような作品を読んできたのか等わかり楽しめました。

特に「ハインライン」に感謝していましたがアメリカ人にとって「ハインライン」それもジュブナイル作品は大きな影響があったんでしょうね。

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ブラックアウト オールクリア1・2 コニー・ウィリス著 大森望訳 早川書房

2017-09-10 | 海外SF
感想書く本がたまっていたこともあり(今もたまっていますが….)読む時間長い本がいいかなぁということもあり大長編である本作を手に取りました。

最近(21世紀)のSFは定番のSF作品を読了してから手に取ろうと思っているのであまり手に取らないようにしているのですが、本作は2010年刊行とばりばりの「21世紀SF」です。
‘12年ローカス誌21世紀ベスト長編16位、2011年のヒューゴー・ネピュラ・ローカス三賞受賞作です。

タイトルは「ブラックアウト」「オールクリア」と一応分けられていますが内容的には両方合わせて1編となっています。(賞も合せて取っています)

ウィリスのタイムマシンもの=オックスフォード史学部ものは「ドゥームズデイ・ブック」「犬は勘定に入れません」を読了していますが、本作はその後に起きた事件という設定です。
「続編」ではないので前二作を読まなくても楽しめと思いますが、エピソードやら登場人物やらの関係上読んでおいた方がより楽しめるとは思います。

前記長編2作に先立つ史学部ものの最初の作品「空襲警報(旧 訳名:「見張り」」という短編があり、本作で出てくる第二次世界大戦中のイギリスのセント・ポール大聖堂に降下しています。
こちらのエピソードは作中頻繁に引用されるので読んでおいた方が楽しめるかもしれません。(私は本作読了後に後付けで読みました)
内容的に本作で史学部ものはラストになるかと思いますので、起点に戻る感じで循環させてきれいにシリーズ終わらせているように思いました。

本作は現在どちらも最近ハヤカワで文庫化されていますが、「ブラックアウト」は文庫だと上下分割されているのでどうもかさばりそうなので、両作ともハヤカワSF版で入手しました。

「ブラックアウト」はブックオフで発見し購入。


「オールクリア1、2」はamazonで新品買いましたー。


とにかく....長い(笑)-「ブラックアウト」=737ページ「オールクリア」1=480ページ、2=485ページ すべて2段組みで1700ページですから...。

内容紹介(amazonより)
ブラックアウト
2060年、オックスフォード大学の史学生三人は、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた。メロピーは郊外の屋敷のメイドとして疎開児童を観察し、ポリーはデパートの売り子としてロンドン大空襲で灯火管制(ブラックアウト)のもとにある市民生活を体験し、マイクルはアメリカ人記者としてダンケルク撤退における民間人の英雄を探そうとしていた。ところが、現地に到着した三人はそれぞれ思いもよらぬ事態にまきこまれてしまう……続篇『オール・クリア』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞の三賞を受賞した、人気作家ウィリスの大作。

オールクリア1
2060年から、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた、オックスフォード大学の史学生三人--アメリカ人記者に扮してドーヴァーをめざしたマイク、ロンドンのデパートの売り子となったポリー、郊外にある領主館でメイドをしていたアイリーンことメロピーは、それぞれが未来に帰還するための降下点が使えなくなっていた。このままでは、過去に足止めされてしまう。ロンドンで再会した三人は、別の降下点を使うべく、同時代にいるはずの史学生ジェラルドを捜し出そうとするが……前篇『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞したウィリスの大作。

オールクリア2
第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生三人--マイク、ポリー、メロピーは、未来に帰還するための降下点が使えないことを知り、べつの降下点を探そうとしていた。だが、新たな問題も発覚した。ポリーがすでに過去に来ていたため、その時点までに未来に帰還できないとたいへんなことになる。史学生が危機に陥ったときには救出しにくるはずのダンワージー教授、万一のときは助けにいくとポリーに約束したコリンは、はたしてやってくるのか……前作『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した二部作、ついに完結。


読後の感想、稀代のストーリーテーラー コニー・ウィリスの作品だけあり、とにかく先が気になる展開で寝る間も惜しむ勢いでぐいぐい読んでしまいました。

おかげで溜まった感想を書く時間をあまり与えてくれませんでした。(笑)

本作のネットでの感想を読むと「長くて途中であきらめた」人もけっこういて、確かに「ブラックアウト」前半の展開は遅く、どうどうめぐりな感もありちょっとつらいとは思います。
まぁこの作者の特徴ですが…。

ただそこを乗り越えれば素晴らしく楽しい時間と感動が味わえると思います。
どうどうめぐりも、ボドビン姉弟とアイリーン(=メロピー)との死闘(?)も後でちゃんと意味があることがわかりますのでそこはウィリスの作家としての力量を信じて読み続けることをお薦めします。

私は「オールクリア2」の終盤、新幹線の中で読んでいたのですが涙が滲んで止まらず困りました....。

と手放しに褒めているようですが、反面史学性三人が閉じ込められた理由のご都合主義と非理性的なところ、なにやら押しつけがましく感じた倫理観には戸惑いました。
また「感動」はするのですが....子どもの描き方やらなにやら紋切型かなぁとは感じました。
その分真正面から主題に当たっているともいえるのかもしれません。

本作は2001年9.11のアメリカ同時多発テロが原動力のひとつになってコニー・ウィリスが10年の歳月を費やして書いた作品とのことなのでその辺も影響あるのかなぁ…。

ということで最高のエンターテインメント作品だとは思うのですが小説としては「ドゥームズデイ・ブック」「犬は勘定に入れません」の方が「上かなあ」という感じです。

史学性たち三人が第二次世界大戦中のイギリスという空襲もあってかなり危険な時代に閉じ込められた理由は、途中から物語中最大の「謎」としてミステリー仕立てで展開されるのでとても明かす気になりませんが….。

本作で何回も出てきたアガサ・クリスティ、その中でも一番言及が多かったのが「オリエント急行殺人事件」(アメリカ版ではタイトル「カレー行特急殺人事件」らしく作中何回も出てきます)を本作読後に読んでなんとなく納得したのは「オリエント急行殺人事件」を読書中「うすうすそうかなぁ」と感じながらも「まさかそんなバカな謎ときミステリーでやらないだろうなぁ」というのを本作でも踏襲しているのでは?と感じました。

「手だれのウィリス」ですから主題をそのまま「謎」にするような書き方ではなくもっとぼやかした展開にもできたような気もするのですが…。
本作ではあえて真向勝負に来た感じです。

メインの謎以外にも1700ページの間、三人の主人公のさまざまな時での活躍がカットバックで描かれ、どこでどうつながっていくのか?どうなってしまうのか?気になる構造になっています。

3人の名前も違っていたり、どの「降下」時点の場面か説明一切ないのでかなりわかりづらいのでこれで挫折する人もいるかもしれません….。

とくにマイク(=マイケル)の活動はわかりにくかった....。

相当なネタバレですが...第二次世界大戦中のイギリスに2回降下しているのはポリーだけでマイクとアイリーンは1回のみです。

ポリー、マイクは八面六臂の活躍をするわけですが、最後まで読むとアイリーンの強さ・すごさがしみじみと伝わってきます。
(思い出しただけで涙腺が....)

脇役陣のサー・ゴドフリー、ボドビン姉弟(両者は脇役レベル超えていますが….)冒頭ではひどい書かれようのレイディ・キャロラインの後の活躍、なんといってもアガサ・クリスティ....みんなキラリと光る活躍をしています。
(これまた涙腺が....)

あまりに真正面かつベタすぎる「謎」「ラスト」は賛否わかれるところかと思いますが、「涙腺」にはよくない(笑)作品であることは間違いありません。

あとちょっと気が付いたところ。

時を超えたカットバックの多用とイギリス軍の諜報活動、ブレッチリー・パークやチューリングが出てくるところ等、ニール・スティーヴンスンの「クリプトノミコン」を意識しているのではと感じました。

邦訳での「オールクリア」「1」の切り方、絶妙すぎました...解説にもありましたが「1」と「2」の刊行2ケ月空いて待っていた人気が狂いそうだったんじゃないでしょうか。(笑)

サー・ゴドフリーお気に入りのシェイクスピアの戯曲「テンペスト」、これまた本作の後読んだハインラインの「大宇宙の少年」のラストでも引用されています。
「大宇宙の少年」ウィリスが初めて読んだSF作品らしくお気に入りのようです。
同様に一般人が「世界を救う」話ですので、オマージュ的な部分があるのかもしれません。

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額田女王 井上靖著 新潮文庫

2017-09-09 | 日本小説
SFが続いたので少し息を入れようかなぁ(?)ということもあり手に取りました。

言の葉の庭」映画版ではヒロインの雪野先生が読んでいる本として大写しされ(たと思う)「小説 言の葉の庭」では雪野先生の愛読書として登場場面に大きくクローズアップされ本作が引用されています。

そんなこんな気になっていたところブックオフ108円棚で見つけて入手しました。

本作は「サンデー毎日」に1968年1月7日号から1969年3月9日号まで連載され、単行本は1969年12月に毎日新聞社より刊行されています。

井上靖氏は戦前(1936年)から作家活動をはじめ、戦後から活発に活動し1980年代まで続く執筆キャリアですが比較的後期の作品といえるでしょうかねぇ。

「闘牛」で1950年芥川賞を受賞していますが、「純文学」でもなくいわゆる「大衆小説」でもなく「中間」的な位置の独特な位置づけにあった作家かと思います。
「敦煌」や「天平の甍」は割と大々的に映画化されていますし「氷壁」等映像化され話題となった作品も多くあらためて考えてみるとポピュラーな作家だったんだなぁと思います。

私と井上靖氏作品ですが高校生あたりで「敦煌」と「あすなろ物語」を読みました。
「敦煌」はほぼ冒険小説として読んだ感じでしたがすごく面白かった記憶があります。

記憶があいまいですが、1980年にテレビ朝日で放送された「蒼き狼」が面白かったのもあり中学生くらいに「蒼き狼」も読んだ記憶があります。

「あすなろ物語」は藤子不二雄の「まんが道」で「あすはひのきになろう」の言葉がでていて印象に残っていて手に取った記憶があります。
自伝的話は好きなのでこれまた楽しく読めましたが….その後「風濤」を入手して、冒頭入り込めずで挫折し著者の他の作品を読もうという気にならなかった記憶があります。

1996、7年頃山登りに凝っていたので「氷壁」も入手して読もうと思ったのですがこれも挫折していました….。

ということで読み始めるまで期待と不安が入り混じった気分でしたが….。

内容紹介(裏表紙記載)
大化改新後の激動する時代、万葉随一の才媛で“紫草のにほへる妹”とうたわれた額田女王をめぐる大ロマン。朝鮮半島への出兵、蝦夷征伐、壬申の乱……と古代国家形成のエネルギーがくろぐろと渦巻く中で、天智・天武両天皇から愛され、恋と動乱の渦中に生きた美しき宮廷歌人の劇的で華やかな生涯を、著者独自の史眼で綴り、古代人の心を探った詩情ゆたかな歴史小説。


読後の感想、前記で「不安」と書いたのはまったくの杞憂でした。
とても楽しく読めました。
終盤読み終わるのがさびしくなったくらいでした。

大化の改新直後から壬申の乱までの激動の時代を描いています。

私は高校でも日本史選択でしたし日本史はそこそこ得意な方でしたが、この時代は都が点々とし、大きな事件だけでも大化の改新・白村江の戦い・壬申の乱と事件が多すぎて登場人物やら事柄を覚えるだけに終始してしまっていました。
今回本作を読んでこの時代をまるで同時代かのように認識することができて非常に身近に感じることができつようになりました。

中大兄皇子が田中角栄的な与党の実力派幹事長のように書かれているのが違和感感じる人には感じるでしょうけども,,,。(笑)

時の実力者、蘇我入鹿を殺してその一派を追い込んで「権力を握る」というのは現代の「天皇」像と相いれないわけですが、まぁ事実(真実)かどうかはともかく「歴史」ですからねぇ。
(日本書紀の記述や「大化の改新」が本当にあったのかどうか現在ではいろいろ説が出ているようです。)

本作では唐の制度にならって「日本」を強い国にしようと強い意志で豪族の力を奪い中央集権化を進め税制やらなにやらを整備していく中大兄皇子と中臣鎌足の姿が描かれています。

そのため中大兄皇子は天皇にならず皇太子に留まり豪族やら税に苦しむ民衆の恨みが直接的に来ないようにしています。
その上、傀儡としていた孝徳天皇と不仲になったら、せっかく遷都したばかりの難波の宮も見捨てて飛鳥に戻り、孝徳天皇が亡くなっても自分が立たず皇極天皇を立てたりと相当ひどいのですが…。

権力確保「だけ」のためならこんなことできないでしょうし、ここまで無茶すれば人もついていかないでしょうからまぁ求心力のあった人だったんだろうなぁと思わせます。

諸制度を整えかけたところで友好国百済が新羅に侵略されれ朝鮮半島に出兵して白村江の戦いでボロ負けして逃げ帰ってきます。
その上折角作りかけの飛鳥の宮を放棄してまったく田舎の大津宮に遷都して求心力を保つため天皇に即位….。

そんなこんなの間、最大の協力者である弟の大海人皇子の娘まで生んでいる額田女王を取り上げ情事を重ねるエネルギーは感嘆しますね。

大海人皇子は中大兄皇子に対する圧力を和らげる比較的「善玉」の役割となっているので、作中の中大兄皇子の「悪役」をいとわない迫力と比べると魅力的には少し落ちるように描かれています。

と、こんな風にこの時代を「同時代」かのように描いている空けですが、「敦煌」でもそうですしたがこの辺の能力の高さは井上靖の特長なんでしょうね。

同じ時代(白村江の戦い~壬申の乱)あたりを手塚治虫が「火の鳥 太陽編」で描いていますが本作の方が臨揚感ありました。

この激動の時代の中、宮中の神女として神の声を伝える「歌」を作る立場の額田女王は大海人皇子の娘を産みながらも、中大兄の求めにも応じ、その上でどちらの庇護も受けず「神秘的な歌人」の立場を守り通すわけですが….。

教え子にいじめられて引きこもってしまう「言の葉の庭」の雪野先生はどんな気持ちで本作読んだんでしょうね....。
「絶世の美女」で「歌」を愛することは共通でもそんなには強く生きられない…。

本作の「額田女王」男性作家目線で描いているわけですが女性目線で見て「額田女王」どう評価されるのかは気になりました。(「雪野先生」も男性・新海誠の妄想ですしね。)

ところどころ額田女王が歌を詠みますが古代は「歌」で奮い立つこともあったのかなぁとなにやら納得してしまう展開でした。

百済へ出兵のため九州に移る途中の松山出港の際詠んだ、
「熟田津(にきたつ)に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕(こ)ぎ出でな」
場面といい中大兄皇子との関係性といいしびれました….。

これに比べると、大津の都の標野での歌会で読んだ大海人皇子と天智天皇との三角関係をうたったとされる
茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」(額田女王)
紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも」(大海人皇子)

の場面はは迫力落ちる気がしましたが…。
この後、額田女王と大海人皇子の娘、十市皇女が大友皇子に嫁して、天智天皇没後壬申の乱が起こり....。

とドラマティックな展開でラストを迎えます。

「この通りのことが起こった」などという根拠はまったくないわけですが、「こんなこともあったかなぁ」もしくは「話としては面白いなぁ」と歴史を題材にして物語化された世界に浸る幸せな時間を過ごせました。


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未来世界から来た男 フレドリック・ブラウン著 小西宏訳 創元推理文庫

2017-09-03 | 海外SF
変化の風」でSF短編の良さを再確認したこともあって手にとりました。

本書を読めば一応ブラウンの邦訳されているSF短編集は全部読んだことになると思っています。
(アンソロジーの「SFカーニバル」日本独自(だと思う)の星新一訳「さぁ気違いになりない」除く)

本書は1961年刊行、日本では1963年9月に創元SF文庫(当時は創元推理文庫SFマーク、私の中では「創元推理文庫SF」のイメージが強いので創元の文庫SFはブログタイトル記載を「創元推理文庫」表記にしています)の第1弾として刊行された記念すべき1冊とのことです、解説も創元SFの推進者、厚木淳氏。

SFマガジンを1959年12月に創刊した早川書房でもSFで文庫を出したのは1970年8月ですから東京創元社気合い入っています。
(早川はポケットミステリのSF版は出していたわけですが)
1961年刊行の作品が2年後に邦訳されて刊行されたのは当時としては異例だったのではないでしょうか。
その辺事情は厚木淳氏インタビューに書かれています
http://www.princess.ne.jp/~erb/sf_izm.htm

星新一を読んでいた小学生時代の私は、星新一の評価の高いブラウンの作品で「一番薄い」ということで本書を買って読んだ記憶があります。

今回当時買ったものの

奥付確認したら1981年50版のものでしたから小学5、6年生頃ですね。

厚みは薄かったですが、ブラウンのSF短編集としては晩期のものであり、当時の私には理解できない作品が多いのを無理やり読んだ記憶があります。
当時はブラウンのSF短編集の中では一番苦手意識があった作品集でした。

今回再読にあたっては復刊された新しい版のものをブックオフでみつけて買っていたのでそちらの方で読みました。

昔のもののと比べると表紙が味気ないですが….(笑)

内容紹介(裏表紙記載)
悪魔から魔法のパンツをもらった好色漢。不死身の大統領の秘密。超光速で空間を渡った宇宙戦隊の行方。火星人の手から地球を救ったロバの話。タイム・マシンで大儲けを企んだ男の運命。20世紀の三大発明とは・・・・・・。奇抜な着想と見事な語り口で万人を魅了してやまぬ、SFショートショートの名手ブラウンの傑作集。趣向を凝らした戦慄と幻想の世界があなたの目の前に展開します!


読了後の印象、ブラウン きれっきれっです。
奇想天外な着想を意外な形で料理して「アッ」という作品に仕上げています。

アイディアだけで見るとそれほど意外ではない気もするのですが、いざ「思いつけ」といわれたら「思いつかないだろうなぁ」といもので、オチも決して意外でないのですが展開の妙と切れ味で「やられた」感じになり、なにやら異世界を垣間見たような気にもなります。

本作品集下ネタというか「性的欲望たっぷりの男性が欲望を満足させるために」という話が比較的多く、そこだけみると「俗」という見方もできると思いますが比較的あるふれた「色欲」がある状況に置かれてとんでもないことになったり、奇妙な状況に陥るというのも「人間」というものをなんだかいろいろ考えさせられます。
まぁ「これはどうかなぁ…」というのも何作かありましたし、何作かはきれ過ぎで理解できませんでした…..。(笑)

和文タイトルは「未来世界から来た男」ですが原題は“Nightmare and Geezensacks”
“Geezensacks” の方はラストに出てくる「人形」の原題“The Geezenstacks”からきているようですがネットで調べても意味出てこないので人名なんだと思います。
なおネット調べていたら「人形」を原作として映像化されたようなものがひっかかってきたのでアメリカではそれなりに有名な作品なのかもしれません。
(wikipediaでは映像化された作品リストに載っていませんでしたが…、掲載されていなくても映像化されてる作品まだありそうです「発狂した宇宙」とかも写真あるのに...)

原題で人名をわざわざタイトルに持ってきたのは「人形」を読んでその内容わかるとなんとなく見えるのですが、「読者」=「ギーゼンスタック家の人々」という雰因気でこの「悪夢」の短編集を終わらせたかったんではないでしょうか。

和文ではタイトルを変えていますからその辺の構成が伝わりづらくなっている気もしますが、創元として「SF」として発売する文庫のタイトルとしては「未来世界から来た男」にしたかったんでしょうね。

「未来世界から来た男」も原題は“Dark Interlude”直訳でつけると「黒い幕間」というのがふさわしい気もしますが…まぁこれもしょうがなかったんでしょうね。
冒頭の「二十世紀発明奇譚」“Greate Lost Discoveries”を「失われた偉大な発明」と訳すか、「タイム・マシンのはかない幸福」“The Short Happy Lives of Eustace Weaver”あたりはSFのタイトルとしてはいい気もしますが、表題作にするにはちょっと軽量級な気がしますし...。
 
他の作品もタイトルは原題と比べて「どうかなぁ」と感じたものがありました。
厚木淳氏の苦労談にもありましたが「SF黎明の時代」これまたしょうがなかったんでしょうねぇ。

構成は「SFの巻」と「悪夢の巻」の2部に分かれています。

「SFの巻」は一応科学で説明がつくもの「悪夢の巻」が魔法やらのファンタジーもありますがミステリー的なものも含めて様々な「悪夢」を描いています。

どちらもぶっとんでいるのですが、「悪夢の巻」の方が「科学」の説明もない分自由度高く「やられた」感が強かったです。

以下各編紹介と感想

第1部 SFの巻
〇二十世紀発明奇譚 Greate Lost Discoveries
1忍びの術 Invisibility
 忍び込んだはいいが…。
 
 直訳では「不視」でしょうか、「どうなるのかなー」と思っていたら、ラストがくだらなくて笑えます。
2不死身 Invulnerability
 核爆発にも難なく耐えたが…。
  
 直訳では「傷つかない」、これまたなんともくだらないのですが...大がかり、やられた感があります。
3不老不死の妙薬 Immortality
 使用したが….。

 直訳では「不死」、「2」では「傷つかない」でしたがエスカレートしています。
 この辺和訳のタイトルは工夫の余地があったような….。
 舞台設定がソ連というのが絶妙です。

 前二編を受けてどうなるかなぁと思ったのですが、「へー」というラスト。
 三篇とも容易に思いつきそうなのですが….さらっと書いているところが絶妙です。

〇雪女 Abominable
 雪山で遭難した美女を探しに来た男があった雪女の正体は…。
 
 Abominableは「忌まわしい」というような意味らしいですが、Abominable Snowmanでいわゆる「雪男」。
 この辺のニュアンス日本語では出しづらいですね。
 最後の主人公の男性の「えー」という感じが笑えますが...。
 後に出てくる「漫画家とスヌーク皇帝」の伝でいけば意外と幸せになったのでは? 

〇こだまガ丘 Rebound
 言葉で人を従わせることができる能力者は世界を支配することを考えるが….。

 直訳だと「はねかえり」話の内容的にはこの方がいいような気もします。
 「どうなるかなー」と思わせておいて「あれっ」と落とす技は「二十世紀発明奇譚
 と同様でやられた感があります。

〇ステーキ Unfortunately
 英語の読み書きのできる異星人の星に到着してステーキを頼んで。

 英文「ダジャレ」での不幸がくだらないのですがシンプルさがいいですね。

〇猫泥棒 Cat Burglar
 猫を盗む犯罪が頻発し…。

 原題が「空き巣」を意味するようで、オチはそこの”CAT“と何かをかけたダジャレなんだと思いますが私的には意味不明….。

〇第二のチャンス Second Chance
 アンドロイドたちが野球を観戦する未来社会とは….。
 
 SFにはありがちな発想かと思いました。

〇報復宇宙船隊 Vengeance Fleet
突然襲撃を受け被害を受けた地球は復讐のための宇宙戦隊を送り出すが…。
超光速で空間を渡った宇宙戦隊の行方は….。

なんともやり切れない話をとても短くまとめています。
このアイディアで長編書けそうな気がします。

〇タイム・マシンのはかない幸福 The Short Happy Lives of Eustace Weaver
 その1/その2/その3

 タイムマシンで一儲けを狙ったがその企みは…。

直訳だと「ユースタス・ウィーバーの短い幸せ」となりますがタイトル意訳してわかりやすくなってます。
一個一個の話は大した話ではないのですが、ホップ・ステップときて「カクッ」とくるところが楽しめました。

〇遠征隊 Experdition
 第一次火星遠征隊メンバーは抽選で選ばれ…女男比29対1
 
 まぁ下品なんですが…最初の質問が「女子学生」というところ含めて笑い話としては楽しめます。(今ならセクハラかとも….)

〇赤ひげ Bright Beard
 なにやら恐ろしげな夫の秘密とは…。

 ワンアイディアで安直とは思いました、こんな怪しい男を親が娘の結婚相手として認めるかも不自然ですね。

〇ジェイシー Jaycee
 単性生殖児が5000万人を占めるようになり…。

 これまたありがちなアイディアではありますが、キリスト教を思いっきりバカにしている感じですね。

〇接触 Contact
 滅び行く火星人はテレパシー能力を持ち、着陸準備に入った最初に到着する地球人を待ちわびていたが….。

 しょうもないですが…やるせないですね。
 人知れずこんなことで「大事なものが失われてしまうこともあるのかなぁ」と感慨持ちました。

〇身代わり Not Yet the End
 地球に来た異星人がつかまえた知的生物らしい2足歩行の雌雄は….。

 直訳すると「まだ終わりません」という感じでしょうか、直訳の方がわかりやすかなぁ….。
 話は安直ですが「おれとロバと火星人」の逆とも見えます。
 「雪女」「漫画家とスヌーク皇帝」も併せ種族・種類を超えた価値観の転換主題の作品を意図的に集めている気がしました。

〇未来世界から来た男(マック・レナルズとの共作)Dark Interlude
 未来から1950年代(?)のアメリカに来た男は、女性と出会い….。

 時代による価値観の違いを書いているわけですが...。
 最後にあっさり殺されてしまう未来人、殺される理由がシュールなような安直なような紙一重です。
 「よくこんなものを書くなぁ」と感心しました。

〇不死身の独裁者 Entity Trap
 ある日突然「不死身」となった大統領は….。

 直訳すると「実態の罠」罠に捉えられた方と捉えた方の視点ですね…。
 と書いていてどちらが捉えた方でどちらが捉えられた方なんだろう….。
 これまた価値観の転換を考えさせられる作品でもあります。
 ブラウンの他作品で「捉われる」作品何作かあったと思いますのでこのテーマ好きなんでしょうね。
 前半の壮絶さと最後の気味悪さを画的に想像するとなんとも不気味に感じました。

〇おれとロバと火星人 Me and Flapjack and the Martians
 おれとロバの前に現れた火星人は...。

 これまた安直なのですが…。
 人間が「未来世界から来た男」に出てくるような段階であるのであればロバの方がましなのかもしれません。

〇漫画家とスヌーク皇帝 Cartoonist
 売れない漫画家は異星の皇帝にその漫画を評価され….。
 
 まさに価値観の違いですね、売れない漫画家の都合のよさが笑えます。

〇おしまい The End
 時間の場を逆にする方法を発見し….。

 すごーく短いタイムマシンもの、英文で読みたいところですね。

第2部 悪夢の巻
「〇色の悪夢」はファンタジーでもなくSFでもないさまざまな悪夢を描いています。


〇灰色の悪夢 Nightmare in Gray
 爽快な気分で目を覚まし、フィアンセの家に訪問した男は….。
 
 オチ読むとありがちなんですが….「悪夢」ですね短いなかきれいにまとめています。

〇緑色の悪夢 Nightmare in Green
 妻との離婚を決意し、ローラと結ばれようと決心した男は….。

 これはしいて言えばミステリーでしょうか?話としては「悪夢」では….あるようなないような…「喜劇」?(笑)

〇白色の悪夢 Nightmare in White
 新婚家庭に夫の姉が泊まりその夜….。

 オチは陳腐なんですが…私的には意外かつ、実際にそうなったらと思うと「喜劇」なようで「悪夢」だろうなぁと考えさせられました。

〇青色の悪夢 Nightmare in White
 息子と朝の散歩に出かけたが…。

 これは間違いなく「悪夢」ですね….。
 この後死ぬでもなく、離婚するでもなく逮捕されるわけでもなく続きそうな悪夢ですから...よく考えるとゾッとします…。

〇黄色の悪夢 Nightmare in Yellow
 自分の誕生日時分に妻の殺人を行った男は…。

 「間が悪い」というのを悪夢化した作品ですね。(笑)分類すればミステリーでしょうか。
 主人公よりもラストの現場に居合わせた人の方が「悪夢」かもしれません。
 
〇ばあさまの誕生日 Granny’s Birthday
 ハルバリン家でのばあさまの誕生日に招かれた男は….。
 
 ミステリーですね。
 悪夢ですが….狭い価値観ではまぁそんなこともあるかと…。
 「未来世界から来た男」と構造はいっしょですね。

〇死信 Dead Letter
 ラバーティは議員を殺害し、その後届けられた手紙を….。
 
 これまたミステリー。
 星新一のショート・ショートにありそうな設定ですね。
 
〇忠臣 Recessional
 国王陛下(キング)に従い理由もわからない戦いを繰り広げた結果は…。
 
 これまた価値観の転換ですね、アイディアは安直かなぁ…。。
 「人形」につながるかと思いますが、それでは「我々は自由なのか?」という問いかけ含んでいる気はします。

〇毒薬 Hobbyist
 絶対見つからない毒薬を妻の殺害のために手に入れようとした男は…。

 これまたミステリー。
 また、これまた星新一のショート・ショートにありそうな設定。

〇魔法のパンツ Nasty
 悪魔から魔法のパンツをもらった好色漢はそのパンツの効果で元気になるが....。

 やっと悪魔が出てきてファンタジー化しますが、なんとも「俗」です。(笑)
 この後の「人魚物語」にも通じますが「やれやれ…」ですね。

〇魔法の指輪(ラブレーの作品よりややモダンにつくりかえた話)The Ring of Hans Carvel
 若い女性と結婚した60の男、妻の貞節を守るため悪魔から指輪を手に入れ…。
 
 16世紀フランスの作家(でもある)ラブレーの「ガルガンチュワとパンタグリュエル」の第三之の書のパロディでしょうか?
 すごくくだらない話なんだろうなーとまでは推察したのですが….私には意味不明でした。

〇インド奇術 Rope Trick
 結婚20年目の夫婦は二度目のハネムーンにでかけ、妻はインド奇術のメロディを試みるが….。

 これはよくわかりました! なんともくだらないですが大好きです。(笑)

〇大失敗 Fatal Error
 伯父を殺す完全犯罪を計画した男が実行したのは…。

 ミステリーですが、まぁワンアイディアですね。

〇熊の可能性 Bear Possibility
 人を動物に変える能力をもつ男の妻が動物園で熊の檻に落ちた妻に….。

 「魔法」をめぐるファンタジーなんでしょうが、「よくこんなこと考えつくなー」という話です。
 「俗」ではありますが...(褒めてます)

〇三羽のふくろう-寓話- Theree Little Owls
 「昼には遊びに出てはいけない」と言われていたふくろうの三兄弟は…。

 イソップ童話的話、何か裏がありそうですが….私には理解できませんでした。 

〇人魚物語 Fish Story
 美女の人魚と結婚することになった男は人魚となるが….。

 「魔法のパンツ」と同類です。
 これまたもっとも「俗」な人魚物語でしょう。(これも褒めています)
 
〇最後の恐竜 Runaround
 最後のティラノサウルスは獲物をもとめて彷徨し...。

 直訳だと「いいのがれ」とか「裏切り」で、ティラノサウルスと哺乳類の間のことを指しているんだと思いますが、まじめすぎてキレはないような気はしました。
 ニール・スティーヴンスンの「ダイヤモンド・エイジ」の恐竜の話はこの辺のイメージ使っているのかもしれないなぁとちらっと思いました。

〇殺人十課 Murder in Ten Lessons
 デュークは裏稼業に入り殺人をエスカレートさせていき最後は…。

 悪魔ものとミステリーの融合かと思いますが、真正面すぎて面白みには欠ける気がしました。

〇いとしのラム Little Lamb
 妻のラムが帰宅しないので近所を探しに行った夫は友人の画家の家で…。

 ポー風のホラーという感じ、読ませますがブラウン風ではないかなぁ。
 
〇悪ふざけ The Joke
 ノベルティのセールスマンは床屋の後他人そっくりになるマスクをかぶり愛人宅へ向かうが…。

 これはホラーとミステリーの融合という感じ。
 意外感は薄いかなぁ、

〇人形 The Geezenstacks
 妻の弟が手に入れた人形で娘が遊ぶと、その後….。

 本来の表題作ですね。
 「人形」の不気味さというのは洋の東西問わずあるんでしょうね、ラストの不気味さとこの作品集の悪夢とを重ねあわせたかったんではないかと。

私的には本作品集では「気合入れて書いたんだろう」作品よりも軽妙な作品が楽しめました。

ある意味一番好きなのは「インドの奇術」ですが...ばかばかしすぎるかもしれません。(笑)

SFの巻では「二十世紀発明奇譚」の発想と展開のぶっとび加減と「未来世界から来た男」のもしかしたら政治的に問題になりそうな思いっきりのいいラストに感心しました。

悪夢の巻では「〇色の悪夢」シリーズ、「魔法のパンツ」「インド奇術」「熊の可能性」「人魚物語」がよかったです。
こちらは「〇色の悪夢」以外はある意味全部お下劣ですが….なにやら人間の業のようなものを感じて哀しくも…おかしさを感じることができました。

ブラウン、すごい作家だと思います。

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