しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

きまぐれフレンドシップpart1 星新一著 集英社文庫

2014-03-30 | 評論エッセイ等

まだ熱があったので軽いものを…ということで本書を手に取りました。


前にPart2を読み気になっていたので昨年末実家から持ち帰ったもの。
昭和60年10月初版で買っています。
当時15歳、新品を買った記憶があります。
多分私の中で最後に新品で買った星新一作品です。

星新一氏には大変失礼な話のですが....中一終わりくらいから星新一を卒業しつつありましたので「久々」「懐かしい」という気分で本書を購入した記憶があります。

「星新一卒業体験」かなり多数の日本の小説好きの方が同じような体験しているのではないでしょうか?
今から思えばいかに自分が生意気だったのかわかるんですけれどもねぇ。

この前近所の方が小六の息子さんを連れてうちにいらっしゃったとき、息子さんが大人同士の会話に飽きたのか文庫本を読みはじめました。
私が「何読んでるの?」と聞くと...星新一「ご依頼の件」とのこと。
私が小学生の頃にはまだ文庫で出ていなかったショート・ショート集です。
「おじさんも星新一いっぱい読んだよー」と思わず声が高くなりそのお子さんには引かれましたが...(笑)

いまだに星新一の読者は誕生しているんですねぇ(うちの小五の息子はマンガしか読まない)スゴイ。

星新一の本って累計でどれくらい売れているんだろう?と調べたらwikipediaのベストセラーの項が引っかかってきました。
作家別累計ベスト10が載っていて星新一は2008年現在で新潮文庫のみで3000万部以上で9位。
なお10位が夏目漱石で新潮文庫で2700万部以上。
ちなみに8位は三浦綾子4000万部以上。
夏目漱石を超えた作家が9人しかいなくて間違いなくその一人は「星新一」
まだまだ増えていきそうですし考えてみればスゴイ。

内容(裏表紙記載)
生まれ育った本郷のこと、師と仰ぐ大下宇陀児氏のこと、学生時代の友人宮坂作平、打王業の城昌幸、小松左京、筒井康隆・・・・・・円盤研究会で知り合い、同人誌「宇宙塵」を作ることになった柴野拓美、矢野徹・・・少年時代から出会った人々やその作品について語る好エッセイ。解説・峯島正行

本の解説やら人物紹介をまとめたエッセイ集なんですが、いかにも星新一的視点で書かれていて楽しめました。(当たり前ですが)
この「視点」特徴としては、誰かがいったこととか世評で判断するのでなく、とにかくまずは「自分なりの視点」から評価して検討していること。
氏のショート・ショートなども「視点」があり、慣れてくると素直な結末でなくひねった結末の方が「ありがち」に感じられてくる。

エッセイ集では「意外性」に重きを置いているわけではないんでしょうがとにかく「自分なりの視点」で物事をみることを非常に新鮮に感じられます。
その「自分なりの視点」が結果として世間の評価と同じになったりもするのですがとにかく「自分」で考えるということが徹底されている。
このような見方を読書体験の初期で刷り込まれて影響を受けた人は日本国内に多くいるんじゃないでしょうか?
よく読むとそれなりに「毒」のある文章ですし、その毒がいずれ発症して日本は大変なことに...(ショート・ショート風・笑)


ということで私も不十分とは思っていますが物事や小説などをできるだけ「自分なりの視点」で評価したいなぁと考えているます。
星新一の影響がありそうです。

この本で激賞されている「黄土の奔流」などは影響を受けて読んだ記憶があります。
当時は「すばらしい作品」と感じましたが、5年前くらいに読み返した時は「ちょっと古いなぁ」と感じました。
日本の冒険小説もずいぶん進歩してきているので時代の流れには勝てなかったんでしょうね。
そんなこんな「星新一が書いているから絶対正しい」わけではないですすが、たとえどう書いてあっても「自分なりの視点」で物事をみるのが正しい星ファンな気がします。
ということで本書が読書の参考として今でも通用するかは???ですがなつかしい星新一的「視点」が楽しめました。

といいながら本書を読むといろいろ読みたい本が出てきます。
筆頭は星新一がショート・ショート作家としてやっていくきっかけの一つとなったと本書で書いている「怪奇製造人」(1993年国書刊行会で復刊)、また城昌幸の作品を星新一が選んだ「怪奇の創造」(1982年)「城昌幸」の存在を知らなかったので是非読んでみたくなりました。
矢野徹「カムイの剣」も久々読みたくなったりましたが...がっかりしたら悲しいので躊躇しています。
南条範夫「わが恋せし淀君」、今読んだら微妙そうな気がしますが...星新一の紹介を読んでいるととても読みたくなる。
河野典生も読んだことがないので「殺意という名の家畜」読みたくなりました。
河野典生...一時は星新一よりメジャーだったような気がしますが...今では思い切りマイナーな気がする、時の流れは...。

あとは筒井康隆・小松左京作品も久々読みたくなりました。

でも1番読みたくなったのは最相葉月の「星新一-1001話つくった人」で、筒井康隆の文学賞受賞式で星新一が乱れたところだけ読みたかったのですが...。
結局後半部分全部読んでしまい、熱があるのに睡眠時間が大幅短縮されました。
この本危険です、昔初めて読んだ時もちょっとだけ読むつもりが徹夜になった...。
そのうちキチンと再読して記事書きたいところです。

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天使と宇宙船 フレドリック・ブラウン著  小西宏訳 創元推理文庫

2014-03-26 | 海外SF

インフルエンザ(?)で熱が下がらない中で長編を読む気が起きず、ブラウンのSF短編集である本書を手に取りました。

本書はブラウンのSF短編集としては「宇宙をぼくの手の上に」(1951年)と「スポンサーから一言」(1958年)の間、1954年に刊行されています。

今回読んだものは昨年に川崎のブックオフで見かけて450円で入手した、

2005年6月第40版のものですが...。

私の中での本書のイメージはこちら、

年末に実家から持って帰ってきました。

奥付を見ると1981年7月刊ですから小学校6年生の時買ったものです。
そういえば当時新宿の紀伊国屋書店で本書を買ったのを思い出しました。

当時の購入動機は...ありがちですが星新一の影響です。
当時の私としては結構背伸びした読書だったような記憶が残っています。

今回読み返してみて「ミミズ天使」は明確に「不死鳥への手紙」「唯我論者」はうっすら覚えていましたが他は殆ど記憶にありませんでした。

なお本書収載の「ウァヴェリ地球を征服す (The Waveries)」はwikipediaによるとディックが“「これまでに生み出された最も重要なSFかもしれない」と評した。”作品だそうです。

内容(裏表紙記載)
二つの太陽の間を、8の字形の軌道を描く惑星上では何が起こるか? 18万年前に生まれた男からあなたに届いた手紙は何を語るか? 電力を失った20世紀文明はいかなる変貌をとげるか? シンシナティ市に発生した悪魔と坊やの大決戦の顛末は? 鬼才ブラウンのSFとファンタジィの名品16編を選りすぐった傑作集。ファンならずあらゆる人々に贈る、夢と幻想の世界!

上記ずいぶんネタバレ気味な内容紹介です...。

さて、とりあえずの感想「すばらしい短編集!」
ブラウンの短編集は「宇宙をぼくの手の上に」「スポンサーから一言」と読み返してきらりと光る発想を随所に感じましたが、現代から見ると厳しい作品もありました。
本書はそういう意味でのがっかり感がなく読み通せました。(1編私には意味が分からない抄編はありましたが...)。

作品の出来がいいというのもあるのでしょうが、序文から始まり各編の間に挿入されているショート・ショートを本書のために書き下ろしたりと、掲載順もかなり意図的に組んでいる感じで相当構成に凝っている感じを受けました。
「フレドリック・ブラウン」の世界を堪能できました。

まずは序文からご紹介、「SFとファンタジーの違い」を書いています。
ブラウンによるとSFは「人狼なり吸血鬼などが登場してもその存在について説明され、実体がいかなるものか描写されている。」とのこと。

例としてギリシャ神話のマイダス王の話を取り上げています。
神話の内容は「マイダス王がバッカス神に捧げものをし、願いを一つかなえてもらうことになり、王の手に触れるものはすべて金になることを望みその望みはかなえられるが...」というお話。

これをSFにすると...ということで、NYでギリシャ料理店を経営しているマイダス氏がひょんなことから異星人を助け、そのお礼としてマイダス氏の肉体の分子構造を変え彼の手が触れると変成効果が生じるような機械を作ってやったうんぬん。
になるというように書いています。

その上で「本書にはファンタジーとSFにほぼ等分でき、両者の中間が二三編」だそうで、意図的に「ファンタジー」と「SF」の境界線を意識してまとめているわけですが、そこはブラウン、読んでみてどっちに分類するか悩むような作品ぞろい。
こんな構成にして楽しんでいるんだろうなーというのを感じました。

ということで各編紹介と感想など。

1 悪魔と坊や (Armageddon)
 シンシナティ市の劇場に出現した悪魔はハービー坊やに...。
 
 のっけから悪魔が出て来て「サイエンス」はないのですが、悪魔の出現理由も悪魔を退治できた理由をきちん作中で説明しています。
 端からブラウンの定義だとSFかファンタジーか悩む(笑)
 まぁでも「サイエンス」がないので本作はファンタジーかな。
 作品自体は軽い仕上がりです。

2 死刑宣告 (Sentence)
 ショート・ショート、アンタレスの第二惑星で重大犯罪を犯したチャーリーは死刑犯罪を受けるがその惑星の夜は....。

 これは明確にSFでしょうね。
 まぁ結末ありきのありがちなショート・ショートではあります。

3 気違い星プラセット (Placet Is a Crazy Place)
 二つの太陽の間を、8の字形の軌道を描く惑星上では何が起こるか?

 これも明確にSFですが、二つの太陽が回っているときに起こる事態やら、怪鳥の存在がいかにもファンタジーっぽい。
 ブラウンらしい奇抜な発想と軽妙なストーリー展開が楽しめる作品です。

4 非常識 (Preposterous)
 ショート・ショート アウスタンテイング・ストーリーズ(SF雑誌)を読む息子を父親は非常識というが…。
 
 これも明確にSFですね、軽い仕上がりですがニヤリとさせられる。
 

5 諸行無常の物語 (Etaoin Shrdlu)
 なぞの呪文を打ち込むのに使用したライノタイプは自分の意思で動くようになり。
 
 ちょっとミステリー(サスペンス)的手法が入っているファンタジーですね。
 (ライノタイプが自分の意志で動くようになって理由が明確に説明されていない)
 結末は仏教を若干バカにしている感ありますが...後からキリスト教の神様も思いっきりちゃかしているのでまぁバランスとれていますね。
 「シカゴ・ブルース」のエド・ハンターも植字工ですし、ブラウンはタイプやら活字関係の話が好きですね。
 もともとそっち系出身だったんでしょうか?
 どんどんエスカレートするライノタイプにはらはらさせられます。
 
6 フランス菊 (Daisies)
 ショート・ショート マイクルスン博士は草花の思考をとらえれる機械を発明するが、それを使用した夫人は....。

 SFですね。
 か~るいショート・ショート

7 ミミズ天使 (The Angelic Angleworm)
 結婚式間近のチャーリーはある朝奇妙なミミズ天使を見てその後も奇妙な事態が...。

 ミステリータッチのファンタジーですね。
 SFの手法で書かれたファンタジーという感じでしょうか...。
 本「ファンタジー」と「SF」の境界という意味では本短編集の目玉なんでしょうね。
 英語で読まないとわからないトリック(?)で結末を知っていたのですが、究極の状況が面白くとても楽しく読めました。
 この作品の前にショート・ショートを挟んで「諸行無常の物語」を置いていたのも伏線だったんでしょうねぇ。
 ブラウンが相当楽しんで書いていそうな名作だと思います。

8 大同小異 (Pattern)
 ショート・ショート 巨大な宇宙人が出した蒸気の雲は...。

 「なるほど」という軽い作品、SFですね。

9 ユーディの原理 (The Yehudi Principle)
 「こびとがなにもかもやってくれる」という気分になる機械を発明したがその機械は…。

 SFともファンタジーともつかない境界線の作品ですね。
 なんだか不思議な気分にさせられます。

10 探索 (Search)
 ショート・ショート ファンタジーかつ天国の話なのですが私には意味不明でした...。

 キリスト教の知識があれば理解できるのでしょうか?
 本作以後「人間」とか「社会」をテーマにした作品に移行している気がします。
 でも「帽子の手品」は違うかなぁ? どういう意図の作品か謎です。

11 不死鳥への手紙 (Letter to a Phoenix)
 戦争で負傷した男はとても長い寿命を得て.....。

 SFですね。
 ありがちな設定といえば設定なのですが手堅くまとめている感じです。


12 回答 (Answer)
 ショート・ショート 全銀河のコンピューターを接続し質問して出てきた答えは...。
 
 SFですね。これもありがちといえばありがちなお話。
 星新一の「声の網」との類似点が指摘されている作品。

13 帽子の手品 (The Hat Trick)
 映画を見た後の男女は帰りにお酒を飲み、男達は手品を披露し始めるが…。

 ファンタジーなようなSFなような...不思議な味わいの作品です。

14 唯我論者 (Solipsist)
 ショート・ショート ウォルター・B・エホバは唯我論者だったある日彼はすべての存在を抹殺しようと決意するが...。

 ファンタジィ...かなぁ?、宇宙論的な話のような気もするのですが....「エホバ」ですしねぇ。
 主人公の名前が冒頭に出て、タイトルが唯我論者ですからストーリーは自動的に決まるわけです。
 オープンリーチぶりがいいですね、微妙に外したラストもさすがです。
 かなり好きかもしれない。

15 ウァヴェリ地球を征服す (The Waveries)
 電力を失った20世紀文明はいかなる変貌をとげるか?

 SFですね。
「不死鳥への手紙」同様ありがちといえばありがちですが....。
 意外とこういう発想はでてこないかもしれませんね。
 ある種のユートピアを描いているわけですが「まぁこういうこともあるかもなぁ」という気にはなります。
 ブラウンらしくないストレートな作品と感じました。

16 挨拶 (Politeness)
 ショート・ショート なかなかコミュニケーションが取れない金星人にある男が放った言葉は...。

 SFですね。
 深刻な話が続いたあと最後をかざる本作は...思いっきり軽い作品です。
 この作品が最後にくるのもありかなぁという気はしました。

ということで私のカウントだと16作中 SF=8作、ファンタジー4作、「?」=3作なんですが...。
ブラウンの勘定とちがいますね。(SF・ファンタジー半々)
どれが違うのか???。

といろいろな楽しみ方ができる短編集でした。
お薦めです。

ファンタジー好きな方も、SF好きな方も、違いがわからない(笑)方も
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球道くん1-19 水島新司著 少年ビッグコミックス

2014-03-22 | 漫画
時計じかけのオレンジ」を読んでいる途中からインフルエンザになり、熱が下がらないので込み入ったものを読む気にならず....。
こういうときはマンガだと思い久々に本作読み返しました。

本作を初めて読んだのは...今は(というかかなり昔に)なき「マンガくん」の創刊号(1977年1月10日)が家にあり、第一話を見たのが始まり。(自分が買ったのか兄が買ったのが覚えていない)
主人公の義父になる中西大介が雪の中バットを振っていた第一話ラストがとても印象に残っています。

Wikipediaで調べたら創刊号には藤子F氏の「エスパー魔美」なども載っていたようですがあまり記憶がない...。
(と書いていたら思い出しました!そういえば載っていた。記憶って不思議なものですね。)

そんなわけで水島新司の野球マンガの中ではかなり早くに存在を知っていたのですが全部読んだのは高校生くらいだったような気がする。

水島新司の野球マンガ「ドカベン」「野球狂の詩」など小・中学生のときよく読みました。
私の人格形成になにがしか影響与えているような気がします。

今持っているのは結婚してからただで入手したものです。

今回再読して感じたこと。

設定やら場所やらかなり頻繁に変わっているのは、掲載誌が「マンガくん」→「少年ビッグコミック」に変わったり、ターゲット読者層が変わったりしたのに影響を受けたんでしょうねぇ、ラストも無理やり終わらせた感ありますし...。

というわけで全体通すとストーリー的にかなり飛び飛びでになっていますが、一貫して描かれているのは「家族の絆」ということ。
インフルエンザで弱っているのもありましたが最後の方は目から涙がうるうるしました。
あとは「男らしさ」ということでしょうかねぇ。

ストーリーは無理やりに展開させられている感もありますが、主人公「中西球道」はとても魅力的です。
「大甲子園」でも決勝は明訓vs青田(中西球道)ですから、作者もかなり気に入っていたキャラなんでしょうね。

と結構おもしろく読み返したのですが、感想は面倒なので書くつもりはなかったのですが息子(小五)が風邪になったとき本作を貸したら夢中になって読んでいました。

名作は時代を超えますねぇ。

「大甲子園」が欲しくなってしまった。(喫茶店で通読したので持っていない、会社入ったころの20年前だ懐かしい...)

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時計じかけのオレンジ完全版 アントニイ・バージェス著 乾信一郎訳 ハヤカワ文庫

2014-03-19 | 海外SF
この本も昨年川崎のブックオフで買っていた本です、450円。

’12年ローカス誌オールタイムベストSF長編68位かつ、タイム誌が選ぶ英語小説100に選ばれていることもあり購入しましたが、なかなか手に取りませんでした。
なお本作1962年発刊。

2001年宇宙の旅」を読み、そういえば本書も「映画」かつ「キューブリック」で有名な作品だったなぁということで読み始めました。
ただこちらの方は映画を見ていません。(定番なのにねぇ)
本書は映画で描かれなかった章も含む「完全版」ということで文庫では2008年に発売されたものです。

内容(裏表紙記載)
近未来の高度管理社会。15歳の少年アレックスは、平凡で機械的な毎日にうんざりしていた。そこで彼が見つけた唯一の気晴らしは超暴力。仲間とともに夜の街をさまよい、盗み、破壊、暴行、殺人をけたたましく笑いながら繰り返す。だがやがて、国家の手が少年に迫る―――スタンリー・キューブリック監督映画原作にして、英国二十世紀文学を代表するベスト・クラシック。幻の最終章を付加した完全版。解説/柳下毅一郎

読んでみてとりあえずの感想「先駆者的なものときらりと光るものは感じるんだけどねぇ..。」
よくわからない感想ですが(笑)

ロシア語まじりのスラング「ナッドサッド」を創出し描かれる世界は優れて映像的で、後のサイバーパンクのはしりという感じでしょうか。
ただ「はしり」的作品の常として、後から出てきた作品の方がより純度が高くなるので現代の眼から見ると中途半端感とありがち感は否めないかなぁ。

書かれた1962年現在では「超」暴力だったんでしょうが、現代ではこんな暴力などは文学作品でも現実でも珍しくなくなっているような気がする。
少年マンガなどでもこれくらいは普通に表現されていますよねぇ...。

そういう意味ではパンチは薄れている気はします。
先駆者の運命なんでしょうが...。
印象に残っている場面は主人公アレックスが仲間と喉切りカミソリでやりあう場面。
かっこいいです。
このかっこいい主人公が、少年院で教誨師に媚びたりしていたり、洗脳されて矯正された後に足を踏まれたり、鼻をはじかれたりした相手に憐れみを乞う場面のギャップは楽しめました。
あと矯正に使用される映像で、ナチスのユダヤ人虐殺の場面にベートーヴェン交響曲5番の第4楽章が使われているところ。
クラシック好きな主人公ではないですが強烈な違和感があります、この組み合わせはスゴイ。

少年院を出てからはかつてのアレックスの仲間が警官になっていたり、アレックスの一団に妻をレイプされた作家が理想と個人的恨みの間で苦悩したりありながらも、一気に場面を展開させてラストまで持っていきます。

映画では最終章がない形で主人公の縛りが解け「これですべて元通り」というところで終わるようですが、この完全版では最終章で「俺も大人になったな...」ということで回心するような話があります。

最初に英国で出版されたときには最終章付きで出版されたようですが、米国で出版するときに省かれたようです。
映画はこの米国版を基にしているようです。

どちらがいいのか...はいろいろ意見があるでしょうが、「映画」であれば最終章の場面がない方がいい気がします。
最終章がないと人間なんて結局は汚い存在という感じで終わるイメージ(ご都合主義でアレックスを元通りにする大臣含めて)かつ観る人にいろいろ考えさせるラストですね。
最終章があると人間の中にある善性をある程度認めるイメージ。
アレックスの両親などで伏線は張ってはありますね。

私は、小説であれば....最終章があった方が好きかなぁ。

手塚治虫が本作のタイトルをもじった「時計仕掛けのりんご」という作品を書いていますが(本作と内容はかぶらない)、ブラックジャックで同じようなテーマを扱った作品を書いていたなーというのを読んでいて思い出しました。
内容は、
暴力行為を重ねる金持ち息子の不良少年に心臓疾患が見つかり、ブラックジャックが手術し一命を取り留めるが以後「カッと」なると心臓が痛み倒れてしまうようになってしまった。
「どういうことなんだー」と思い再び暴れようとするができず….。
最後は善に目覚め弱いものを守るために戦うことで自分の残り少ない命を散らす。
というような感じだったかと思います。(記憶あいまい)
若干は本作に影響を受けた作品だったんでしょうか?手塚治虫らしいヒューマニズムではありますね。

私は人間のなにか理性というか善性というものも信じたいような気がします。

解説によるとこの辺のことと、著者自身はこの作品が自分の代表作となると思っていなかったのに映画のせいであまりにも本作が有名になり過ぎたこととで著者とキューブリックは不仲だったようです。
映画版が広く普及したためか「本作に影響され青少年の暴力が増えた」と非難されたようですし。(時代なんでしょうけれどもねぇ....)

前述のように場面場面は陳腐といえば陳腐なのですが、なにやらとても鮮度というか光るものは感じましたが「不朽の名作か?」といわれると違うかなぁとも思いました。
しかし一読の価値のある作品であるだとは思います。

でも映画は見ていないのですが、キューブリックの映画の方が印象深いんだろうなぁという予感はします。
そういう意味では「2001年宇宙の旅」同様不幸な作品かもしれませんね。


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2001年宇宙の旅 アーサー・C・クラーク著 伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫

2014-03-14 | 海外SF
時をかける少女」に引き続き、映画が有名な作品ということで(笑)
昔読んだはずなのですが....実家にも見当たらず、川崎のブックオフで去年105円で購入したものを読みました。

表紙写真は映画のものですね。
昭和52年初版 昭和54年12月14刷のものです。

キューブリックの映画は中学生辺り(1980年代前半)にリバイバルで上映されていて映画館で見た記憶があります。
(当時ETやらがヒットしてアメリカのSF映画の市民権が結構あったんだと思います。)
映画には....圧倒された記憶があります。

セリフがあまりなく、ほぼイメージだけで構築される世界は斬新であまりにも恰好よかった。
いまでも歴史に残る「名作映画」だと思っています。

映画を見た後にクラークの本書も読んだのですが、あまりに映画の印象が強くて物足りなかった記憶があります。
クラークがかんでキューブリックが参加しなかった続編の映画「2010年」の出来がどうにも???だったのもあり、今に至るまで私の中でクラークのイメージはあまり良くないようです...。
(楽しみに見に行った「2010年」の冒頭ロイ・シャイダーのイメージがかみ合わずとてもがっかりした記憶がかなり鮮明に残っています。)

さて本作、クラークがキューブリックの求めに応じて協力しあって書いたものらしいですが、一応映画とは独立した話ということではあるとのこと。
本作はSF小説としても評価は高く’12年ローカス誌オールタイムベスト30位、’06年SFマガジンベストでは47位1968年刊です。

内容(裏表紙記載)
原始的な道具さえ使うすべを知らず、時代遅れになった本能の命ずるままに滅びの道をたどるヒトザルたち。しかし彼らは謎の石板によって進化の階梯へ一歩を踏み出した。そして三百万年の後、人類は月面に同じ石板を発見したのだった。この石板は人類にとって何を意味するのか? また、宇宙船ディスカバリー号のコンピューターハル9000は、なぜ人類に反乱を起こしたのか? ディスカバリー号の唯一の生存者ボーマンはどこに行き、何に出会い、何者に変貌したのか? なぜ・・・・・・? 巨匠クラークが、該博な科学知識を総動員してひとつの思弁世界を構築する現代SFの金字塔

とりあえずの感想「なかなかいい作品だ...」

昔読んで「いまいち」なイメージがあったのですが、今回一応先入観なく読みんだつもりです。
まとまった作品に仕上がっていてSFの良作といえる気がします。
少なくとも「時をかける少女」とは大違いだ。(笑)
クラークらしい細かい科学考証は大したもので、途中登場人物がタブレット端末で新聞を読んでいるところなどさすが正確な科学描写を得意とするクラークの面目躍如というところですね

HAL9000とボーマンの対決シーンなども緊迫感あふれ「小説」ならではの表現も楽しめました。
とけっこう楽しめたのですが….。

映画のイメージがあまりに強すぎて新鮮味は感じられなかった...。
別ものといいながらも基本的には映画と同様のストーリーラインになっているのでどうしても場面が頭に浮かんでしまう...。
小説版の方がいろいろなことがきちんと書かれていてわかりやすいんですけれども…。

例えば映画で最初の方に猿人が骨器を投げた瞬間に人工衛星に場面が切り替わるところなどのあまりに鮮やかな映像イメージがどうしても浮かんでしまって比べてしまう。

「映像」特有の表現をとことんまで追い込んで作った映画と比べると、損な役回りになっている作品といえそうな気がします。

あとラストが映画ではかなり暗示的ラストになっていますが、小説ではちょっと説明的に書き込んでいます。
ただちょっと中途半端かなぁと感じました。

クラークとしては映画と同じくあまりに暗示的に終わるのも面白くなく、といってあまり説明的ラストにしても映画との整合性がつかずで難しいところだったんでしょうね。

Wikipediaでは映画版「日本で公開されたとき筒井康隆、星新一は酷評した」というようなことを書いていました。
映画は活字側の人から見ると許せない部分があったんですかねぇ。
私は映画版名作だと思うのですが....。

映画を見ないで小説の方から読めば「けっこういいじゃん」となる作品だとは思うのですが...ちょっと可哀そうですね。
ただ「幼年期の終わり」の圧倒的名作感はないかなぁ。

映画好きの方も、小説好きの方も!
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