しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

文学賞メッタ斬り! 大森望・豊崎由美著 PARCO出版

2018-08-26 | 評論エッセイ等
大森望氏のことは「日本SF作家クラブ入会否決事件」のことなどで興味を持っていて(コニー・ウィリス作品の翻訳やSF関係の各種文章などももちろん)豊崎由美氏との対談形式での共著の本書の存在も認識していてちょっと気になっていました。
(豊崎氏の方は全然存じ上げませんでした。)

そんな中、今年春先に立ち寄ったブックオフで本書が200円で販売していて購入しました。

このブログ見ていただくとわかると思いますが、わたくし国内外問わず「最近」の文学事情に疎いのでちょっと「勉強しておきたいなぁ」というのもありました。

もっとも本書は2004年3月発刊なので、ほぼ2003年の国内文学ー文学賞事情が語られています。
15年前.....ですが私にはかなり新鮮な作家、作品が多く参考になりました。

文学賞事情も15年でかなり変わっているとは思いますが、その辺追いかけてないので特に問題なしです。(笑)

「文学賞メッタ斬り!」は本書を皮切りにシリーズ化され2012年まで5冊発刊されたようです。
最後の方はネタ切れ気味とのうわさもあるようですが、本書は最初なだけあり小気味よく二人の対談形式で進んでいるように思います。

好評だったのでシリーズ化されたんでしょうねぇ。

内容紹介(amazon記載)
文学賞って何? 文学賞をとると本は売れるのか? 文学賞とれば一人前か?? どの賞をとると偉いのか? 芥川賞や直木賞からメフィスト賞や星雲賞、さらに地方の文学賞(坊っちゃん文学賞やらいらっく文学賞など……)に至るまで、有名無名含め50を超える国内小説の賞について、稀代の読書家二人が徹底討論。小説好きの読者にはたまらない、文学賞ガイド。


最近(15年前ですが...)の作家、知らないとは思っていましたが見事に出てくる作家知らない...。
(もちろん古い人は何人かは知っているのですが)

あらためて自分の文学事情の疎さに気付かされました。

大学の1年後輩で本好きな友人がいて、私とは異なりいわゆる主流の文学事情に詳しくたまに本周りの話をすると馬鹿にされるのですが...。
まぁ読書時間も限られらていることでもあり今の古めな本を読む傾向を改める気はあまりありません。

いつかは今時な本も読みたいとは思うのですが....。

本書に紹介されている2003年頃の本を読むのは10年後くらいでしょうかねぇ。
現在(2018年現在)の文学は....生きているうちに読めるのだろうか?

さて本書ですが2003-2004年の日本の純文学系・エンタメ系の文学賞の歴史やら受賞作、審査員まで大森望氏と豊崎由美氏の独断で論じています。

豊崎氏はどちらかというと純文学系(本当は海外のスリップストリーム・メタフィクション系のニュー主流文学的なものがお好きなようですが)、大森氏がエンタメ系という役割分担のようです。

豊崎氏もエンタメ系ついていっていますが、大森氏が純文学も含めいろいろ読んでいるのに感心しました。
いっていることがすべて正しいわけではないんでしょうし、毀誉褒貶ある方のようですが才人ではあるんでしょうね。

内容の方は選考委員の石原慎太郎氏、宮本輝氏やらの巨匠をぼろくそにけなしたりと割と言いたい放題ですが....まぁご愛敬ですかねぇ。

2003年辺りといえばスマートフォンこそまだ登場していなかったかと思いますがインターネットやら携帯電話(i.モード?)やらが普及しだし「文学」というか「出版」そのものの先行きが不透明になり出した頃かと思います。

「文学賞」も何やら「高尚」なものの側面もありますが、本書にも書かれている通り出版社の販促の側面もあります。

本書のように権威を茶化してみたり、主観で受賞作を平易に語る本が読まれることで現代日本文学に興味を持つ層が少しでも広まり、出てきた作品を「読んでみようかなぁ」と思う人が増えればいいのではないか。

私も本書を読んで何人か、何冊か読みたい本が出てきましたのでそういう意味では成功かと思います。

ただ買うのがブックオフというのが出版文化に貢献していないような気がして....ちょっと反省です。
言い訳するとサイクル早すぎてすぐ絶版になってしまうのですけど....。

以下各章感想など。

〇純文学新人賞の最高峰は本当に芥川賞なのか。
村上春樹、島田雅彦(この辺はさすがに知っています)に上げ損ねたこと批判。

選考委員の石原慎太郎、宮本輝(この辺も知っています、宮本輝作品は読んだことがないですが..。)批判と作品評というところ。

綿矢りさの「蹴りたい背中」を推していましたが本当に受賞して本書末で「緊急対談」開かれています。
「蹴りたい背中」も未読ですが、金谷ひとみの「蛇とピアス」(これまた未読)とともに芥川賞を最年少で受賞したときのニュースは覚えています。
芥川賞と直木賞の文学賞としてのポピュラーさは書かれている通り別格ですね。

「蹴りたい背中」読みたくなりブックオフで探しました。

綿矢りさ受賞後も何作か出しているようですが...「蹴りたい背中」以外あまり見当たらない。
村上春樹や島田雅彦辺りと比べるのは...酷ですかねぇ、まぁ芥川賞らしいといえますでしょうか。

あとちらちらブックオフの文庫棚で見かける吉田修一氏が純文学の作家であることを知ったのが意外でした。

他お薦めの吉村萬壱の「クチュクチュバーン」(文學界新人賞)舞城王太郎を読んでみたいなぁと思いました、あと奥泉光(聞いたことなかった...)

「芥川賞」も新人賞ですからその作家の成長性には当たり外れありますよね。
また「超有名賞」ですから冒険もしづらいでしょうし...。
そんなこんなで村上春樹級は外れちゃったんでしょうね。。

〇エンターテインメント対決!直木賞vs山本賞
直近直木賞受賞の村山由佳「星々の舟」批判。

純文学の芥川賞(文春)に対しての三島賞(新潮)ということでエンタメでの直木賞(文春)に対し山本賞(新潮)を対峙させての対談。

直木賞の方が保守的、またタイングを外しがちとの評価。
宮部みゆき「理由」浅田次郎「鉄道員」など遅すぎとのこと。

私のイメージでは最近の「直木賞」はある程度売れて定評の定まったエンタメ作家への表彰という感じで「作品」そのものをアクチュアルに評価していないのでは?という感じなので「それを言ってもねぇ」という感想。

石田衣良、吉田修一、伊坂幸太郎、舞城王太郎などの名前が出てきてエンタメと主流文学の境界論が交わされていましたが現代日本文学(15年前?)の主流はこの辺の人たちなんでしょうかねぇ。

前述の大学の友人と5、6年(もう少し?)前に本のことで話をしたとき「今はエンタメが主流ですよ!」などと言われて単行本を見せられた記憶があります。

文庫、それもブックオフで買っているようでは波には乗れないでしょうねぇ...。

なお私の個人的評価はなんとなく山本賞受賞作品の方が読みたいなーという感じです。
純文学の方は...よくわかりません。

〇文芸誌主催の新人賞、えらいのはどれ?
純文学誌主催の新人賞比較。
正直いって私にはついて行けませんでしたが...。
「文學界」減点しにくい作品への傾向。
「群像」ダブル村上へ上げている点評価。
「文藝賞」はヤマッ気あり、場の雰因気を読む「アイコ16歳」とか」
「すばる文学賞」トンガっている。
というような評価。

エンタメ系新人賞は「短編」でもあり受賞後活躍する人少ない。
受賞後も活躍しているのは時代小説作家と石田衣良くらい?。

そういえば石田衣良も読んだことないです。
名前は知っていて気になってはいるんですけれどもねぇ。

最後の方で豊崎氏が「新人賞読む価値ない、同じお金出して単行本買うなら新海外の一線級の作品読む方が良い」ということでガルシア=マルケス(1928年生)イアン・マキューアン(1948生)の名前を挙げていました。

「百年の孤独」くらいは読んでいないと「小説読んでいます」といえない気がしてきました。
マキューアンは知らなかったので記憶しておきたいと思います。

〇選考委員と選評を斬る!
「もう1作見たい」と6回言われ続けた島田雅彦のことやら、渡辺淳一、石原慎太郎、宮本輝批判やら選考委員と選評を論ずる章、津本陽の選評が朴訥としていてかわいいなどなど。

山田詠美の選評は褒めていましたが....。
私の中では島田雅彦含め「今時」の作家なんですが、15年前にすでの選考委員の立場なんですね。(いまや大御所か?)

なお私的には山田詠美は昔数作読みましたが苦手気味、島田雅彦は数作読みましたが、合う合わない激しい感じ

〇傾向と対策の砦、江戸川乱歩賞
エンタメ系の新人賞で圧倒的知名度の「江戸川乱歩賞」ですが小説好きから見ると「つまらない」?全体的にレベルは高いがトガッた作品が取ることがない。
占星術殺人事件」やらの人工的な設定(名探偵とかとか)の本格ミステリは軒並み落とされている。

「選考委員がよく知らない世界のことをリアルに描きつつ-あるいは描いているように見せつつ-その興味で小説をひっぱって、そこに殺人事件が絡む」というような受賞作の傾向があるようで昔から応募者は対策とっていたようです。

栗本薫(「ぼくらの時代」24回)は狙って書いたと発言(関口苑生「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」)高橋克彦(「写楽殺人事件」第29回)が徹底的に傾向と対策を練って応募したのも有名な話とのこと。

岡嶋二人(「焦茶色のパステル」28回)の片割れだった井上夢人の「おかしな二人 岡嶋二人盛衰記」にも傾向と対策を二人で考えるシーンが書かれているそうです。

岡嶋二人と高橋克彦の乱歩賞受賞作品共通点が前出の「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」に下記の通り書かれているそうです。
・まず自分の熟知している世界が描かれている。
・死者が三人ぐらいいる。
・土地がかなり離れたところで、いろいろな事件が起きる。つまり場所が東京だけというように限定されてはおらず、むしろ広がる傾向がある。
・何らかの図版が入っている。
・小説とは別の自分の本音がある。ストーリーとは別の、主人公の苦悩が描かれている。
上記対策すれば...「江戸川乱歩賞」が取れる.....かもしれません。

首藤瓜於「脳男」第46回の受賞につき「変わる」といわれていたようだが...変わらない。
(「脳男」は話題だったので読んだような記憶があるのですがよく覚えていません)

なお受賞作で一番売れたのは藤原伊織「テロリストのパラソル」(41回-直木賞も受賞)だそうです以降部数出る作品はあまりない?

乱歩賞読む人にお薦め(20代へ)豊崎氏 福井敏晴「Twelve Y.O.」(第44回)大森氏 仁木悦子、「写楽殺人事件」「焦茶色のパステル」

〇ミステリ系老舗新人賞はどうなっている?
「横溝正史賞」パッとしない。
比べると江戸川乱歩賞すごい、直木賞作家排出率高い。
「サントリーミステリー大賞」やっぱり大したことはない。
垣根涼介はブレイクしそう。⇒まぁしましたね。
等々

〇ホラー小説大賞とホラサスの底力
ホラーブーム、江戸川乱歩賞のような存在感
ホラーブームそういえばありましたね...いまはどうなんだろう?

坂東眞砂子・篠田節子・恩田陸 和製モダンホラー御三家。
この辺は今でも活躍していますし遺産は残っているんでしょうね・

〇注目度NO.1メフィスト賞から≪ファウストへ≫
メフィスト賞、講談社ノベルズの賞。
大森・豊崎両氏ともお気に入りのよう、選考委員がいない編集者が選ぶ賞だから面白くなった?
気になった作品
・森博嗣「すべてがFになる」(1回)
・舞城王太郎「煙か土か食い物」(19回)
・西尾維新「クビキリサイクル」(23回)
・清涼院流水「コズミック」(2回)関連して麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲」(超弩級の怪作。
・殊能将之「ハサミ男」(13回)
・石黒耀「死都日本」(26回)日本沈没をやり直す作品。

「鮎川哲也賞」本格向け安定している。
近藤史江「凍える島(4回)、同時応募作貫井徳郎「慟哭」最終まで残る。
加納朋子「ななつのこ」(3回)

私感ですが、東京創元社はミステリー、SFともに真面目に取り組んでいるイメージありますね。
昔東京創元社の編集とかやったら楽しそうだなぁと夢想したことがあります。(実際やったら大変なんでしょうけれど)


〇続々登場!新興エンターテインメント新人賞の勝ち組は?
・NEXT賞 方向性わかりにくい。
・KAPPA-ONE 本格推理
・日本ミステリー文学大賞新人賞名前が大きいが
・「このミステリーがすごい!」大賞 評論家が評価

〇世界文学に最も近い?ファンタジーノベル大賞
スリップストリーム・メタフィクション・マジックリアリズム小説好きの豊崎氏お気に入りの賞ですが...。

第25回(2013年度)を機に一定の役割を終えたとして賞を休止していたようです。
(2017年再開。)

私は大賞作では佐藤亜紀「バルタザールの遍歴」(3回)銀林みのる「鉄塔 武蔵野線」(6回)読んでいます。
私の中でも「いい賞」なイメージがありますが...。

佐藤亜紀は新潮社ともめにもめたようですが、銀林みのるも以降作品発表していないですし、なんんだか「育てない」「育たない」と微妙に「変わった作家」が取る賞のイメージがあります。

本書発刊あたりでは西崎憲「世界の果ての庭」(14回)、粕谷知世「クロニカ 太陽と死者の記憶」(13回)が大賞とっていてお薦めだそうです。

大賞は取っていませんが 高野史緒、小野不由美、恩田陸、北野勇作など活躍している作家が優秀賞を取ったりしているようで、なまじ大賞取らない方が???

日本の小説はあんまり読まないけど海外文学はすごく読む人にお薦めとのこと。
もっとも豊崎氏いわく「国書刊行会≪文学の冒険≫シリーズの磯崎純一編集長によれば3000人しかいない。」そうですが...。

〇ようやく夜が明けてきた?SFの賞事情
日本SF大賞のこと。
有名な「太陽風交点」事件の紹介、早川と徳間の対立。
ジャンル外作家の作品、漫画でもゲームでも映画でも受賞できる。
SF冬の時代のことなど。
「小松左京賞」角川春樹の直観、本格SF
「日本SF新人賞」ライトノベルより。
「星雲賞」と日本SF大会のこと。

個人的見解ですがSF系の賞微妙ですね...。
日本SF大賞、ジャンル系の「小説」に限るか、ファンタジーノベル大賞になるような境界線の作品までにしていけばいいような気がします。
例えば押しも押されもしない「大作家」宮部みゆきの「蒲生邸事件」に授賞する意味がよくわかりません...。
評論や映画に上げるのも論点ずれるような.気がします、別途「賞」設ければいいのになぁなどと思います。
まぁ受賞作ほとんど読んで(見て)いない私が言うのもなんですが。
読んだことがあるのが第8回(1987年) - 荒俣宏 「帝都物語」(8回)第18回(1997年) - 宮部みゆき 「蒲生邸事件」、庵野秀明 「新世紀エヴァンゲリオン」(18回)第21回(2000年) - 巽孝之編「日本SF論争史』」(21回) 最相葉月 [星新一 一〇〇一話をつくった人」(28回)「シンゴジラ」(37回)まともなジャンルSFの受賞作読んでいない(笑)

〇ベテラン作家対象の文学賞の違いってなに?
「讀賣文学賞」ベテラン作家へのご苦労様賞。
「谷崎潤一郎賞」作品選び素晴らしい、昔の日本の小説何読んだらいいか悩んだら受賞作。
「吉川英治賞」エンタメ系ご苦労様賞。
「日本推理作家協会賞」本格には厳しい。
「泉鏡花賞」唯一SFに授賞している。個性的な文学賞、ファンタジーノベル大賞の後狙える賞はこれくらい。
等々。
上記、日本推理作家協会賞は微妙な気がしますが他はベテランに贈る賞は安心感ありますね。

〇新文学賞の提案、地方賞で文学賞甲子園!
いっそ文学賞を甲子園形式で競わせてみては?との妄想と併せて地方文学賞の紹介。

〇第百三十回芥川賞・直木賞受賞結果を緊急対談
芥川賞「蹴りたい背中」「蛇にピアス」、直木賞: 江國香織「号泣する準備はできていた』、京極夏彦『後巷説百物語』「号泣する準備は出来ていた」について。

・巻末付録'03~'04年版・文学賞の値うち
 福田和也の「作家の値うち」に倣い文学賞受賞作品を採点点数高い作品(どちらかが80点以上つけている)書いておきます。
大森氏と豊崎氏で調整していないらしいので評価が違うのが楽しいですね。
「本格小説」はブックオフで買って持っていますが未読です。
「アラビアの夜の種族」は日本SFのベストとしていつかは読まなきゃと思っています。
「終戦のローレライ」は大森氏によると史上最大最強のガンダム小説らしいので1stガンダム世代の私としてはいつか是非読みたいです。
福井晴敏後に「機動戦士ガンダムUC」も書いてますしね。
 「アラビアの夜の種族」古川日出男日本SF対象 大森氏92点 豊崎氏76点
 「本格小説」水村美苗讀賣文学賞 豊崎氏83点
 「容疑者の夜行列車」多和田葉子 谷崎潤一郎賞 豊崎氏84点大森氏66点
 「吾妹子哀し」青山光二 川端康成文学賞 豊崎氏86点、大森氏66点
 「スタンス・ドット」堀江敏幸 川端康成文学賞 豊崎氏86点大森氏66点
 「終戦のローレライ」福井晴敏 吉川英治文学新人賞 大森氏81点、豊崎氏61点
 「ハルビン・カフェ」打海文三 大藪晴彦賞 大森氏84点豊崎氏58点


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メモリー上・下 L.M.ビジョルド著 小木曽絢子訳 創元推理文庫

2018-08-19 | 海外SF
「天空の遺産」に続いてのヴォルコシガン・サガとなります。

本書の発刊は「天空の遺産」の直後、1996年となりますが時代設定は「ミラー・ダンス」の直後マイルズ29歳となります。(作中で30歳の誕生日を迎えます。)

‘12年ローカス誌オールタイムベストSF長編65位、1997年のヒューゴー、ネピュラ、ローカス三賞に輝く作品です。(とりあえずここにたどり着くためにヴォルコシガン・サガを読んできました)

これまた現在絶版なので、ブックオフで探し出して入手済みでした。(上下とも108円!)

内容紹介(裏表紙記載)
上巻
特命作戦の遂行中、マイルズは低温蘇生の後遺症による発作を起こし、救出すべき捕虜を死なせかけてしまう。だが彼は発作の一件を隠して機密保安庁に報告し・・・・・・結果、イリヤン長官から最悪というべき処分を受けた。失意のあまり館にひきこもるマイルズ。時まさに、青年皇帝の婚約話がもちあがり、周囲が慌ただしさを増すなか、新たな危機が―長官の身を思わぬ異変が襲ったのだ!
下巻
脳内の記憶チップが機能不全を起こし、記憶が混乱し暴れ出すイリヤン長官。彼に面会を求めるが、機密保安庁に拒まれつづけたマイルズは、なんと皇帝直属の聴聞卿という特権的な地位を手に入れる。それでも事実究明は困難をきわめた。やがて彼は、ひとつの手がかりにたどりつくが・・・・・奇怪にもそれをみつけた場所には、出入りしたはずのないマイルズの入室記録が残っていたのだ!

「ミラー・ダンス」ほどではありませんがちょっと重い展開です。

「ミラー・ダンス」はマイルズのクローンの弟マークの視点で書かれていましたが、本作は30歳を控え生来の障害に加え低温蘇生の後遺症も抱えることになったマイルズ視点での自分探しの物語となります。

これまで登場した人物も多数出てきて「青春」の終わりを迎えるマイルズの「人生の目的」探しを彩ります。

横軸に皇帝グレゴールの婚約、イリヤンを傷つける陰謀とその犯人探し、などを絡めて感動の涙あり、ハラハラドキドキあり、ちょっとした笑いありで楽しく読める作品となっています。

読後感はシリーズを通して読んできた人にとって感慨深いものになるかと思います。
ということで本作読む方はここままでのヴォルコシガンサガ読んでから読むことをお勧めいたします。

「天空の遺産」でセダガンダから贈られたメリット勲章も地味に小道具として出てきたりします。
この辺も知っていれば「ニヤリ」と出来ますが、多分知らないと「???」かと。

余談ですが...。
子供(小4)の夏休みの宿題の読書感想文の指導をしていて、ちゃんと筋を追って感想書くのは「大事かなぁ」と感じました。
ということで以下めずらしくわたしなりに筋見直しての感想です。(多分毎回は無理...)
出来がいいかはわかりませんが...。

17歳でデンダリィ自由傭兵艦隊を設立し(「戦士志願」)、20歳でバラヤー帝国士官学校を卒業し13年デンダリィ艦隊提督として、10年近くバラヤー士官として無我夢中で活躍してきたマイルズも本作で30歳を迎え、自らの「青春」の終わりを認識せざるを得ない状況となります。

冒頭の自らの後遺症による言い訳しようのない作戦行動指揮中の失敗。

10年以上かけて築いた副官かつ恋人エリ・クィンをはじめとする艦隊の部下たちからの信頼が揺らぎ、その上自らの障害をまだなんとか隠し通そうとする...。

実は確固たる自信を持った「自分」を確立していないので「いけない」とわかっていてもその事実を隠してしまう...。

幼馴染で初恋の人、エレーナにも去られマイルズの「青春」の終わりも暗示されます。

この時点でのマイルズの言葉「欲しいのは・・・・・・自分の天明なんだろうと思う。できるかぎり自分らしくある。または自分らしくなるってことだ」。
自分が何者か?何をしたいのか?どうなりたいのか?わからないまま無我夢中で進んで来てある程度自負できる成功体験と、信頼出来る仲間を得たマイルズが「居場所を失う」危機に陥ります。

失意のマイルズは父母がいなくなってがらんとしたバラヤーのヴォルコシガン館に帰り、しばらくして機密保安庁長官のイリヤンに呼び出されます。

そこで待っていたのは証拠を完璧に固められて言い訳しようのない厳しい糾弾と「医療退役」と...これまでマイルズに期待しその成長を楽しみにしていた「イリヤンの泪」。

何ものかになるための「すべて」であったバラヤー軍での「出世」というか「名誉」幼少時から30年の周りの期待を喪います。

抜け殻のようになって家で酩酊するマイルズを励ます従兄弟のイワンには大尉の徽章が光り中尉で除隊したマイルズはさらなるショックを受けます。
イワンからは「イリヤンの後任にマイルズを当てようとしていた」という話も聞き自分のやったことの結果の大きさを改めて認識します。

イワンの他、旧友のガレーニ大尉(「親愛なるクローン」で出てきます)からの慰めもあるなんとか生きていこうという気になったマイルズはあらためてヴォルとしてのヴォルコシガン家に目を向けます。

といった中皇帝とバラヤーが過去征服し微妙な関係にあるコマール出身のライザの婚約。

自分の周りが色々変化していく中で。「自分は何をなすべきか?」迷えるマイルズはヴォルコシガン領へ旅立ち「喪の山」(「無限の境界」収載)の舞台となったシルヴィー谷へ再訪し嬰児殺しの被害者であるレイナの墓を訪れようとしますが、墓のあった場所はダムとなり水没していました。
「ここも変わっている..」という思いを抱きながらも立ち寄ったマイルズが出会ったのは「旧知」の人々。

「旧知」といっても10年ぶりに訪れたシルヴィー谷です、12歳だった村長の息子ゼッド・カラールは22歳となり、レイナの父レム・クスリクは村長に、母ハラハは教師として村人たちのために献身して働いています。

この辺読んでいて不覚にも涙腺ゆるみました...「喪の山」読んでないとこの辺もでしょうね。

ハラへ自分の現在の境遇と苦悩を打ち明けるマイルズ。
ハラの言葉「さきへお行きなさい。ただ進むだけです。」

マイルズの中で「何をするべきか」答えは出ませんが「軍で活躍する」という意味での「英雄」ではなくとも「やるべきこと」勇気を持ち行う人たちの姿を見て心の中で何かが変わります。

ヴォルコシガン館に帰還したイワンに「デンダリィ隊に逃げ出さないの?」と言われても以前とは違う感情を持ちます。

そんな中イリヤンの不調が伝えられ「恩師」イリヤンをなんとか助けようとします。
しかしマイルズが機密保安局を去った後にはイリヤンの後継者最有力候補であり機密保安局のナンバー2であるハローチが何故かマイルズの関与を拒み対立関係となります。

「なんとかしなきゃ」という思いで、今までもらった数々の勲章(セダガンダから授与のメリット勲章含む)をつけ皇帝へ直談判するマイルズ。
結果、皇帝からバラヤーでは皇帝の代理として調査事項には全て関与出来る立場の臨時聴聞卿に任命されます。

再びハローチの前に聴聞卿として姿を表したマイルズはイリヤン問題解決に向け「すすみだし」輝き・ひらめきを取り戻していきます。(こに辺りはいつものパターン)

脳内に埋め込まれた記憶チップを破壊され苦しみ悶えるイリヤンとの再会の場面は泣かせますが...これもまたまぁ紋切り型ですかねぇ。
謎解きはミステリータッチですが謎解きミステリーほど厳密ではない感じです。

ということでマイルズの働きによりイリヤンは命を取り止め、イリヤンはヴォルコシガン館へ引き取られます。
チップを除去され人々から恐れられていた「完全記憶」を喪い40年間努めた機密保安庁の職も失おうとしているイリヤンですがマイルズの叔母(イワン)の母アリスとの仲が進展したりと淡々としています。

マイルズとイリヤンはヴォルコシガン領で会話し、改めてマイルズは自分の動機を自問します「自分のアイディンティが自分の動機?飢え」

チップ破壊の操作が進展しヴォルコシガン館に帰ったマイルズに家母からも、「機密保安庁をクビになったら逃げ出して提督になるかと思った」と言われ自分のアイディンティティに悩むマイルズ。

捜査の進展とともにハローチはマイルズへ接近していき、マイルズを機密保安庁へ復職させデンダリィ艦隊も再度任せ大尉への昇進も提案します。

マイルズの何より望む涎ものの提案に大興奮するマイルズですが、遅ればせながらハローチが犯人とわかり提案は賄賂だとわかり犯人がハローチであることに気付きます。
(読者はガレーニを逮捕したあたりではまぁ犯人はハローチだろうと気付くとは思います)

マイルズが「ぼくは・・・・・・自分自身になることを選ぶ」と選んだ結論は...。
ハローチの誘惑に乗らず逆にハローチを罠にかけて捕えます。

ハローチの尋問は皇帝グレゴール自ら行われ、機密保安庁に30年勤めてもまだまだ居座りそうなイリヤンに対する複雑な思いとともに自分を飛び越えてイリヤンの後継となりそうなマイルズへの嫉妬が語られます。

マイルズへ提示した「餌」のことも語られグレゴールはマイルズへ「何故乗らなかった」のかを尋ねます。
答え「心からの望みと引き換えることのできないものはただ一つ、心そのものです」。

その後色々ありますがマイルズが聴聞卿に推挙されるにあたり聴聞卿4人との対面し「なぜ賄賂になびかなかったのか?」と聞かれ、答えは「わたしの名前とわたしのからだを持った誰かが生き残るかもしれませんね。もはやそれは、わたしではないのです。それはわたしとは・・・・・・あまり似ていない人間になるでしょう」
父アラールからマイルズへ「君が生き延びて成長し、とうとう自分自身になったことを喜んでいる。それじゃ加齢とともに前進する力を失っていないんだね、きみは」

今後の人生、ネイスミス提督を消し去りバラヤーの聴聞卿として生きていくことを決めたマイルズはネイスミス提督の盟友クインとも対面し別れを告げます。

マイルズ=ネイスミス提督として生きた13年間、生死の境をさまよう大冒険を重ねてきたわけですが、イリヤンやハローチのように機密保安庁一筋で生きてきた人びと、クィンのように宇宙でしか生きていけないと決めた人たちと比べると「逃げ道がある」という点でどこか「大人」になりきれないところがあったんでしょうね。

大人になりきれないマイルズが上司になるのに頭に来るハローチの気持ちもわからないではないですが...。

いくら自分のアイディンティティを確立していても「心」がなければなにごとも成せないということを象徴的に見せているんでしょうね。

といってもマイルズには何回もか親しい人に進められている通り、バラヤーとの縁を切り、ネイスミス提督としてクィンと宇宙を住みかに暴れ回るという手もあったかと思うのですが...。

作戦遂行時には手段を選ばないマイルズですが「バラヤー帝国」としての大義名分がないと「動けない」という祖先から受け継いだ貴族ならではの「考え方」になってしまうんでしょうかねぇ...。

冒険を重ねて30歳で家に帰ってくる貴族の息子を描いているということではいろいろ書き込んでいますが保守的な話ではありますね。

ヴォルコシガン・サガは本作の後も聴聞卿としてのマイルズを描く作品が書かれていますがが、「体制」と「非体制」を揺れ動く「青春期」を描く作品は本作が最後かと思います。

本作以後のマイルズにも興味はありますが....まぁ読むのは大分先かなぁ。


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天空の遺産 L.Mビジョルド著 小木曽絢子訳 創元推理文庫

2018-08-16 | 海外SF
「SF」ヴォルコシガン・サガに戻りました、

本作の時代設定は「ミラー・ダンス」から6年ほど遡りマイルズ22歳。
遺伝子の使命」とほぼ同時期となります。

ただ発刊順は「ミラー・ダンス」(1994年)の直後、1995年となります。

時代設定では「ミラー・ダンス」の直後にあたる「メモリー」が1996年発刊ですので間にはさまれた形です。

「ミラー・ダンス」「メモリー」ともに割と重めな展開ですので、本作のように後に直面する大変な事態を知らないマイルズの大活劇を書いておきたかったんでしょうかねぇ、本作ではマイルズ大活劇がシンプルに楽しめます。
なお本作に「ネイスミス提督」としてのマイルズは出てきません、その辺の話が好きな人には物足りないかもしれません。

こちらも現在絶版のためamazonで古本で購入。

内容紹介(裏表紙記載)
敵星セタガンダ帝国の皇太后が急逝し、マイルズがバラヤー代表として派遣された。だが行く先々でトラブルを引きあてる彼のこと、今回も······。遺伝子管理によってセダガンダを支配してきた皇太后は、帝国のゆきづまりを察知し、密かに大きな睹けに出ていたという。そしてその死に乗じて銀河を揺るがす陰謀が。後宮に残された美女たちのため、彼は厳命を破って単独行勤に出るが?


まぁ内容紹介どおりの展開で、いつもどおり厄介毎に巻き込まれるマイルズとその協力者(いやいやながらも)の従妹イワンとの珍道中と事件解決の物語となります。

バラヤーの宿敵セダガンダのホート貴族 美女ライアンに立場をわきまえず恋してしまい、ついつい肩入れして事件に巻き込まれつつ機知と行動力を生かして事件を解決し悪人を退治。

マイルズとホート貴族の美女ライアンはほのかに「引かれあう?」感じながらも立場の違いは乗り越えられずで結局結ばれず。

美女ライアンはセダガンダ皇帝の皇后に選べれ(もっとも基本遺伝子を通じて交配するだけの結びつき)、皇帝はマイルズの働きに感謝し皇太后葬儀の式典でセダガンダの最高位のメリット勲章を授け、一同唖然。

ストーリー概略書いてみるとこんな感じかと思いますが・・・。
見事なまでにベタな騎士道物語の展開です。

ライアンが最後にマイルズにブレスレットを渡す所などなんともベタベタです。(笑)

読んでいるときにはそれなりにいろいろ工夫を凝らしてあって楽しいんですけれども...。

解説によるとセダガンダのゲム貴族とホート貴族の関係は平安時代の日本を参考にしているとのことです。
ゲム貴族=武家、ホート貴族=皇族・平安貴族階級という仕組み。

ホート貴族の女性は美しく着飾り皇帝のおめがねにかなうことを競い合い、ときにはよく働いたゲム貴族に褒章として与えられ結婚することもあるという設定。

もっともホート貴族の女性は「お飾り」だけでなくホート貴族の遺伝子を操りどのような子孫を残していくかを決める立場にあり中長期的な権力の実権を握っています。

ヴォルコシガン・サガ、シリーズでは頻繁に遺伝子関係の話が出てきます。
遺伝子で「決まる」もしくは「決められる」運命と、それに抗うマイルズやその他自由意志で運命を「変える」もしくは「変えたい」人たちというのが一貫して流れるテーマなんでしょうね。

あと違和感のあったのがこの後(時代設定的には)マイルズは「無限の境界」でセダガンダの無道な捕虜収容所からの脱出作戦を指揮・成功させるわけわけですが...。

その無慈悲かつ非人間的なセダガンダ人のイメージと本作で描かれる割と和やかなイメージがかみ合いませんでした。
まぁ本作の方が発刊がかなり後(「無限の境界」は1989年ですから6年後)ですからその辺のご都合主義はしょうがないんですかねぇ。
シリーズものは最初の悪人がだんだんいい人になる傾向がある気がします。(宇宙戦艦ヤマトのデスラーとか...)

「SF」的仕掛けをつかったハラハラドキドキをお約束の範疇で楽しむにはいい作品だと思いました。

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同時代ゲーム 大江健三郎著 新潮文庫

2018-08-14 | 日本小説
本作まぁ普通に考えると「SF」ではないのでしょうが....。

1979年の発刊で、発刊当時世間的に不評であったため、本作を高く評価していた当時日本SF作家クラブの事務局長の筒井康隆が本作に受賞させようと「日本SF大賞」を創設したという話があります。(wikipediaー日本SF大賞)結局第一回は小松左京が強く推す「太陽風交点」が受賞しましたが、第二回は井上ひさしの「吉里吉里人」が受賞と、ジャンルとしての「SFにこだわらない」姿勢は貫かれた感じです。

「太陽風交点」の受賞はその後早川と徳間の抗争の基になっていますし、「吉里吉里人」に受章させるくらいなら、もっと他の作品を評価した方が後のSFの発展につながったような気もするので成り立ちからこの賞ジャンルSFにとってどうか?という気がしますが...。

と余談はともかく、昨年後半日本SFに凝ったからみもあって前述のような展開にも興味を持ち本書を手に取りました。

あとは大江健三郎くらい多少は読んでいないと、小説について「偉そうな(?)こといえないなー」という感もありましたー(大江作品は「万延元年のフットボール」を昔読んだだけ、こちらは世評も高いですが私も読んでとても面白かった記憶があります。)

本自体は「読まなきゃなー」という感があり10年位前に古本屋で入手済み。


内容紹介(裏表紙記載)
海に向って追放された武士の集団が、川を遡って、四国の山奥に《村=匡家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入した!?壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、シリメ、「木から降りん人」等々、奇体な人物を繰り出しながら、父=神主の息子〈僕〉が双生児の妹に向けて語る、一族の神話と歴史。特異な作家的想像力が構築した、現代文学の収穫1000枚。

とりあえずの感想としては....。
ものすごい「面白い」とは言えない作品でしたかねぇ。

本書は四国の山奥の<村=国家=小宇宙>の歴史を語るべく、父=神主ののスパルタ教育を受けた語り手「僕」が第一部ではメキシコから、第二部以降は東京から<村=国家=小宇宙>にいる妹へ向けて、<村=国家=小宇宙>の歴史をつづった書簡の形の形を取っています。

第一の手紙はプロローグ的なもの、、第二の手紙で<村=国家=小宇宙>(しつこいですが本の趣旨にそいます....)の神話的な部分が語られます。

神話の部分がかなり長く感じたのですが....(イメージ半分くらい)見直すと意外と短いんですね。
<村=国家=小宇宙>の「藩」からの離脱、創設の物語、創設者たる壊す人の不死性、巨大化したという伝説、それに対峙した女性オシコメの伝説などが語られます。

第三の手紙は江戸後期~幕末あたりなのでまぁ歴史とも民話ともつかない感じ。

第四の手紙は第二次世界大戦直前、第五の手紙が主人公の家族をめぐる話、歴史...というか近所のホラ話に近い感じ。

第六の手紙が僕と父=神主の関係外来者と「村」、外来者たるアポ爺、ペリ爺と国家権力とそれを守らない「村」のリアルなお話。
そして「神話」「民話」「歴史」「ホラ話」と実際の「僕」とみたところの着地点というお話かと思いました。

まぁ、つまらないということもなくそれなりに読めるのですが、全体的に「旧い」感じがしました。

wikipediaでも
本作”文化人類学者の山口昌男の著書を下敷きにして書かれている。”と記載されていますが、この山口昌男氏が著作を発表してるのが1970年代。

「民族学やら神話に隠された真の歴史を読み解く」というような話が世の中でそれなりに一般化しだした時代だったのかなぁと。

「騎馬民族国家」が1967年、70年頃は邪馬台国ブームでしたし、高木彬光の「邪馬台国の秘密」が1973年。
松本清張るが古代史に興味を持ちだしたのも70年代、80年代前半まではそんな話がはやっていたような記憶があります。(高木彬光「古代天皇の秘密」は1986年。)

私もその辺の話好きなので当時いろいろ読んだ記憶があります。
そんあこんなもあり新鮮味を感じないのかもしれせん。
(最近の流行りは信長辺りの頃のヨーロッパ陰謀説、幕末期の幕府の当事者能力見直しというところ?)

また本書「民話」「神話」を「本当にあった歴史」として叙述していくという意味で、パロディでありそういう意味では斬新なんでしょうが...。

パロディとしては筒井康隆や清水義範の作品の方が徹底していて今読んでも楽しめそうな気がします。(「筒井順慶」とか「蕎麦ときしめん」とか、今読んで本当に楽しめるかは読んでないので???ですが...)。

政治思想的なもの、父子関係、土俗的意識と都市文化の対立、第二次世界大戦の意味、戦後の時代転換といったテーマがうっすらとではなくかなり鼻につくように思われるのがなんだか1960年代的で当時(1979年)としてもちょっと旧く感じられたんじゃないかと思うのですが....どうなんでしょう?

冒頭記載の通り文壇の一部からは本作ずいぶん不評をかったようですが...。

ほぼ同じテーマでのちに(1986年)著者は『M/Tと森のフシギの物語』を執筆した(MはMatriarch=オシコメ、TはTrickster=壊す人を意味するようです。)くらいですからこのテーマそうれなりに入れ込んでいたんでしょうね。

機会があればこちらも読んでみたいところですが....ずいぶん先かなぁ。

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コンプリート・ロボット(短編集未収録作品)アイザック・アシモフ著 小尾芙佐訳 ソニーマガジンズ

2018-08-11 | 海外SF
アシモフのSF短編集ほぼ制覇したのですが....。

本書「コンプリート・ロボット」はアシモフのロボットもの31編を集めた短編集ですが、その中で5編だけ他の短編集に収載されていない作品が入っています。

すでに絶版となっており、古本もamazonで調べると8,000円超えと高価です...。
図書館で借りようかなぁ...とも思ったのですが他ならぬ「アシモフ」ですので大人買いしました。

この手のamazonで古本が高い本はブックオフ・オンラインの方が安めな傾向があり本書もそちらで登録していたら5,000円台の出物があったのでそちらで購入しました。



内容紹介(amazon紹介文より)
巨匠アイザック・アシモフのロボット短篇全集!
「サイエンス・フィクションを書いていたというたったそれだけの理由で、わたしは自分では知らずして——世界の様相を変えつつある一連の事象の発端をきっていたのである」<アイザック・アシモフ>
7冊の短編集と単行本未収録作から、巨匠アイザック・アシモフのロボットSF全31篇を完全収録。幻の本邦初訳作を含む、初のロボット短篇全集!


折角買ったので全部読むのが本来「筋」だとは思うのですが....。

ここ数年で未収録作品全作読んでいるので、分厚い(2段組572ページ)本書を読む気にならず未収録作5作のみ拾い読みしました。

よって本書全体を読んでアシモフのロッボットものを「これでもかと読んで」「どのような感慨をもつか?」という視点とは無縁の感想となりますので悪しからずです。

ただ...かなり古い作品もあるのでわざわざ分厚い(繰り返しですが...)「本書を買って読む」という行動をする人はかなり少ないのではという気はしました。(私も買ったけど読まなかったし)

ということで未収録作品5作、各編の感想です。

〇親友 A Boy's Best Friend 1975年 小尾芙佐訳(邦訳本書初出)
 月面でロッボットーマット(ロボット犬)ロバットと楽しい日々を過ごす少年への贈り物は...。

 ショート・ショート的な長さですが、少年とロバットの関係がよく書かれている作品です。
 「機械」の立ち位置を考え続けたアシモフの佳品という感じ。


〇物の見方 Point of View 1975年(初出伊藤典夫訳 SFマガジン1995年12月号)
 巨大コンピューター マルチヴァックの技師の13歳の息子が父親の職場を訪れると、マルチヴァックにある問題が生じていた。息子は「子どもならでは」の意見を。

これまたショート・ショート的な作品。
まぁ...ワンアイディアな感じ。

〇考える! Think! 1977年 小尾芙佐訳(邦訳本書初出)
女性研究員ジェニーはマイ-コンピューター=マイクを使い、思考を電子的に読み取る研究をしており、幹部研究員にその意義を説明しているとあるアイディアが出て...。

これまた短い作品、なんとなーくオチはわかったのですが...。(アシモフ好みのコンピューターの神化)なんでそうなるかがよく理解できませんでした。
主人公の女性研究員がアシモフっぽくて魅力的ではありました。

〇ほんとうの恋人 True Love 1977年 小隅黎訳 講談社「ミニミニSF傑作展」1983年
マルチヴァックのプログラム ジョーを使って技師ミルトンはこっそり自分の恋人探しをするためジョーを改良していくが....。

ショート・ショート。
まぁワンアイディアですね....。前掲の「考える!」とよく考えると同系列??

〇ミラー・イメージ Mirror Image 1972年 風見潤 「ミステリマガジン1977年4月」 
イライジャ・ベイリ、R.ダニールものの短編。
宇宙船で神経生物物理学の恒星間会議に出席するために移動中のスペーサーの名声高い老数学者と新進気鋭の若手数学者が新発見をどちらが思いついたかで意見が食い違いそれを調査することになったイライジャは学者のそばにいたロボットそれぞれに質問した。
最初は全く同じ答え(ミラー・イメージ)であったが食い違いを見つけ...。

「鋼鉄都市」「はだかの太陽」が1950年代の作品、第3長編となる「夜明けのロボット」が1983年刊行ですから、その間に書かれた短編です。
アシモフもイライジャのことは結構気に入っていたんでしょうね。
ダニールの方は....アシモフ未来史のなかで重要な役割を果たすキャラですからまぁ推して知るべしなんでしょう。

日本での初出が「ミステリマガジン」であることからもわかると思いますが、このシリーズの他作品同様「ミステリー」となります。
もっともアシモフの「学者」「学会」もの、好きの傾向ももよく出ている作品ですので必ずしもイライジャーもダニールも出る必要なかった気もしますが....。
解決の最後のところの「人間」のベテラン刑事ならではの洞察はイライジャならではですかねぇ。
楽しめました。

「ミラー・イメージ」以外は短編集未収録なのもうなずける小品です...ので余程のアシモフマニアでなければ購入ではなく図書館の利用を薦めたいと思いますが、まぁ「この本1冊読み通したらどんな感想持つんだろう?」というのはちょっと興味があったりします。
この辺は老後の楽しみに~。

アシモフの作品その他にも邦訳されていて短編集に載っていないものはありある程度把握はしているんですが...。
どこまで読むかですね。
といいながらSFマガジンに載ったものは現時点で全部読んだんですが(その感想はまたの機会に(

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