しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

親愛なるクローン L.M.ビジョルド著 小木曽絢子訳 創元推理文庫

2018-06-23 | 海外SF
またヴォルコシガン・サガシリーズに戻りました。
(一応、'12年ローカス誌オールタイムベスト65位の同シリーズ作品「メモリー」にたどり着くために読んでいます)

本作は中編「無限の境界」で一万人の捕虜脱出作戦に成功したデンダリィ傭兵艦隊がそのためにセタガンダ艦隊に追い回され、地球に逃げ込んだという設定になっています。

よって本作は「無限の境界」の直後(マイルズ24歳)からの始まりです。
原書の刊行も中編集「無限の境界」の直後1989年、となります。

ただ日本での翻訳の刊行の順番としては「戦士志願」につぐヴォルコシガン・サガシリーズの2作目となっています。

日本での発刊順と原書の刊行順と物語上の年代が異なるので混乱するのですが....。
この後原書の発刊順でいくと
・1990年発刊「ヴォル・ゲーム」マイルズ20歳
・1991年発刊「バラヤー内乱」マイルズ出生前マイルズの父母の物語。
・1994年発刊「ミラー・ダンス」マイルズ28歳
・1995年刊行「天空の遺産」マイルズ22歳
・1996年発刊「メモリー」マイルズ29歳
となります。

現段階で私は「メモリー」まで読了済です。

本作読む前に「無限の境界」は読んでおいた方がよいですし、発行年は本書の後ですが前半部分は中編として出されていた「ヴォル・ゲーム」は話の流れ上読んでおいた方がよいかなぁと思います。

またマイルズの年代順では本書の後「ミラー・ダンス」になりますが、こちらはかなり「家族」的な色彩が強いので「名誉のかけら」と「バラヤー内乱」は読んでおいたほうがよいかと....。

と書くとややこしいですが...翻訳が出そろっている現在では読む順番は漠然と原書刊行順に読むのがいいのかなぁ...ですが。

私は本書の直後「ミラー・ダンス」を読んでいて、これはこれでつなぎが良かったので...まぁ人それぞれですかねぇ。
(「名誉のかけら」と「バラヤー内乱」もつなぎがよい)

なお本書も現在絶版のためamazonで古本を購入。


内容紹介(裏表紙記載)
ある時は辺境惑星の一介の中尉、ある時は極秘任務に就いた傭兵艦隊の提督---二重生活を送るマイルズは、隠密作戦を成功させたが敵に追われ、艦隊を引き連れて地球まで逃げてきた。だが運悪くTVレポーターに正体を悟られる。とっさの機転で「あの傭兵提督は、わたしの非合法なクローンなんだ!」とでっちあげたまでは良かったのだが・・・・・・想像もしない災難が 痛快活劇第2弾


翻訳の刊行が「戦士志願」の後、第2弾として出ているのがわかるマイルズの大活劇なのですが...。

前述もしましたがシリーズの構成としては「無限の境界」「ヴォル・ゲーム」を出してからの方がマイルズやマイルズのクローンである”マーク”(マイルズがつけた名前ですが)のコンプレックスやらが日本の読者にわかりやすかったかもしれません。

物語的にはバラヤーに征服されたコマールの反乱分子のセル・ガレン、その息子でバラヤー軍の武官として地球大使館に駐在するダヴ・ガレーニ大尉の葛藤。

クローンである”マーク”のコンプレックスと人権問題など一応いろいろ伏線は張っているのですが、基本マイルズがいつも通り機知とタイミングと運(?)で絶対絶命のピンチを乗り越えるシンプルな大活劇です。

ミステリータッチの序・中盤、終盤の敵・味方入り乱れての大活劇は安定的に楽しめはしますがちょっと間延び感はありますた。

もう少し短く絞った方が良かったような...。(「無限の境界」の中編があまりによかったための感想でもあります)

マイルズはここから「ミラー・ダンス」までの4年間、デンダリィ傭兵艦隊提督としての全盛期となります。

が...ビジョルドは本作の後の「ネイスミス提督全盛期」を作品として書いていません。

単純なマイルズの「冒険活劇」はもうあまり書きたくなかったんでしょうかねぇ。

とにかく本作活劇としてはとても楽しめる作品でしたぁ。

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慶應本科と折口信夫- いとま申して2 北村薫著 文春文庫

2018-06-17 | 日本小説
SFが続くと違うものが読みたくなるので本書を手に取りました。

北村薫の「いとま申して三部作」の第二部となります。

第一部の「いとま申して 「童話」の人びと」を読み終わった段階で本書が単行本で発刊されていたのは認識していました。
でも単行本を買うまでの情熱がなくで...文庫が出たら買おうと思いながら忘れていたのですが最近ブック・オフで見かけて購入しました。

購入したのが「無限の境界」を読んでいる最中だったので珍しく入手してから時間空けずにの「読み」となりました。

北村薫作品では「円紫師匠とわたしシリーズ」の「太宰治の辞書」も「文庫出たら買おう」と思っていたのですが、現時点でも未入手なのが気になっています。
(ぼちぼちブックオフで出ていますが新刊で買おうと思っています)
こちらは単行本は新潮からで出ているのに、文庫が創元推理文庫からというのがなんとも北村薫らしいというか....もしくはなにか出版界の事情があるのか....。

また本記事を書くためちょっと調べたら、どうやら4月に「小萩のかんざし-いとま申して3」が出ているようです。
本書を読むのに「いとま申して」を読んでからかなり経っていて(2015年に読んでいたので3年くらい)人間関係などを忘れていて入りこむのに大変だったので「早めに読んだ方がいいかなぁ」とは思うのですが....。
やはり単行本を買うまでには至らないかなぁです。

内容紹介(裏表紙記載)
昭和4年。著者の父・宮本演彦は慶應の予科に通い、さらに本科に進む。教壇に立つのは西脇順三郎や折口信夫。またたびたび訪れた歌舞伎座の舞台には、十五代目羽左衛門、五代目福助が・・・・・・。父が遺した日記は、時代の波の中に浮かんでは消えていく伝説の人々の姿を捉えていた。<本の達人>が描く小さな昭和史。


前述もしましたが前作を読んでしばらく経っいたので家族構成やらなにやら忘れていたので入り込むのに若干苦労しました。
本作単独でもまぁ問題ないとは思いますが「いとま申して」を未読だと入り込むのに苦労するかもしれません。

「いとま申して」の感想にも書きましたが、近親者の日記を基に、周辺情報を調べて書き込んだり、自身(この場合息子として)の所感を書き込んだ形は星新一の「祖父・小金井良精の記」と重なるところがあります。

「業績」中心でなく「生活」の視点から日記を書いた人物の行動やら考えを追っていくスタイルでしみじみ楽しめました。

本書中、”星新一「きまぐれ暦」より引用”という記述もありで、北村薫自身もある程度「祖父・小金井良精の記」を意識はしていたんじゃないかと推察しています。

小中学生時代まだ新作の単行本が発刊され読んでいた「星新一」が時代を帯びてすらりと引用されるということは....自分も年を取ったんだなぁなどと感慨深かったです。

お話の方は弟の死、卒論の苦労など山場の話はありますが、主人公かつ北村薫の父である宮本演彦の慶應本科での昭和初期の学生生活が中心に描かれています。

著者自身も序で書いていますがこんな形でとらえた作品はあまりないかと思うので、昭和初期やら歌舞伎やら民俗学やらが嫌いでない人は楽しめると思います。

私自身、昭和初期も歌舞伎も民俗学も詳しくはないのですが....嫌いではないので楽しめました。
民俗学については本書に登場し名著とされる「花祭」是非読んでみたいものです。

なお民族学に関する個人的所感ですが、最近地元の神社の祭礼の手伝いなどちらちらやっていて思うのですが、祭礼のスタイルやらは「人」につくので移ろいやすいのではないかなぁと思っています。

昭和初期辺りはまだまだ江戸辺りまでのスタイルが残っていたのでしょうが、それがそのまま中世・古代までさかのぼれるのか....疑問な気はします。
その辺は地名も言葉もですが....。(まぁ素人の所管です)
と言って「文書」により現れる「歴史」だけではなく、人々の「暮らし」や「伝承」に着目する民族学の必要性を否定するわけではないのですが...。
そういえば「君の名は。」の三葉の父親も民族学者でしたねぇ。
私も小学生頃民族学にちょろっと憧れ柳田国男の著作「遠野物語」やら「海上の道」などを背伸びして読んだのを思い出しました、当時の私には難しくて苦痛でした...、今読んだらどうなんだろう?


他、「歌舞伎役者」をめぐる考察などは芸談として楽しめますし、卒論のための「吾妻鏡」を古書店を回ってそろえる辺りの考察など、読んでいていろいろなことに思いをはせるような記述もあり楽しめました~。

また比較的「裕福な家庭」であった宮本家が財政的なひっ迫していく様が作品通じて背景として全般に流れており「どうなるのかなー」というはらはら感がありました。

といっても倹約しようとしながらもそれほど倹約するわけでもなく、ガッツリ働くことに現実感のない演彦青年、時代とその当時の裕福な家の青年の気分としてはわかります。

私も、単行本買えないわけではいのですが...ちょっとした倹約で買っていません。
他でずいぶん無駄遣いしているのにねぇ。(笑)

まぁ単行本買わないのはスペースと通勤時の読みやすさの問題もあるのですが。
「小萩のかんざし」は文庫が出たら早めに買おう。
三部通して読みなおしたいような気もします。

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ミクロの決死圏2-目的地は脳 上・下 アイザック・アシモフ著 浅倉久志訳 ハヤカワ文庫

2018-06-16 | 海外SF
本書、アシモフの単著として日本で翻訳出版されているSF長編としては最後の未読作品となります。
(「永遠の終わり」は既読です最後に読んだのが10年ほど前で感想を書いていないのでいずれ読む予定です。)

本自体は近所の古本屋で上下セットのものを購入済み。


アシモフの作家活動としては晩年の1987年発刊、映画のノベライズとして書かれた「ミクロの決死圏」と異なりこちらの方は基本アシモフの着想で書かれていますが、映画化権とのからみでいろいろしばりはあったのかなぁという感じです。

その辺は解説に書いてありますが、最初アシモフが断りフィリップ・ホセ・ファーマーに話が行きと二転三転したようです。
結局本作を基にした映画は作られなかったわけですが...もう永遠に作られないような...。

内容紹介(裏表紙に記載)
上巻;
退屈な学会の講演にうんざりしていたアメリカの神経物理学者アルバート・モリスンは、ソ連の科学者ナターリャ・ボラノーワから意外な申し出を受けた。学会から異端視されているモリスンの画期的な脳波分析の方法を証明するためにソ連に招待するという。しかも驚きはそれだけではなかった。ソ連で開発中の物体ミクロ化実験に参加して脳のなかへ這入れというのだ。モリスンは実験への協力を断るが・・・・・・巨匠アシモフの話題作

下巻
物体ミクロ化実験への参加を拒否した神経物理学者モリスンは、誘拐同然にソ連の極秘研究所へ連行されてしまった。そこで見たのは想像を超えるミクロ化技術の実態だった。さらにモリスンはいやおうなく、実験に参加させられ、生きている人体の脳のなかへと旅立つことになったが・・・・・・アメリカ人科学者が体験する、スリルとサスペンスに満ちた人体内部の冒険の旅を、巨匠が該博な科学知識を駆使し、構想も新たに描いた話題作


読後の感想。
映画の「ノベライズ」ではないですが「映画化」前提に書かれていることもあり、アシモフも「長編」として意気込まずに気楽に書いているイメージがあります。

最後にアシモフの作品らしく「オチ」がついていますが...。
短編によく見られるような割と軽い「オチ」のように感じられるます。短編的な気楽さで書いたんじゃないかなぁと推測されます。

近未来を舞台にしていますが、米ソ冷戦が基調にあり、人間関係もまぁ冷戦的な陳腐さ。
SFとしての設定、アイディアもそれほど斬新なものではなく間延びする部分もあり「長編」として今日的に読む価値があるのどうかは疑問です。

主人公モリスンやら登場する科学者のキャラ立ちは楽しめたので中編として出したらそれなりに名作という評価になったのかもしれません。

でもまぁ適度にアクションと謎解きミステリー的要素もありで気楽に読む分には楽しめる作品ではあります。
内容的には小中学生にも楽しめそうですが....米ソ冷戦にニュアンスがわからないかもしえませんねぇ....。

前述もしましたが、主人公のアメリカの神経物理学者アルバート・モリスン。
冒頭からなんとも「めんどくさい」キャラ全開で主人公=アンチ・ヒーローな設定が楽しめました。

異端の説の発表はするが、それを立証する機会があっても「怖い」ので行かない。
といって文句は多く後悔する....。

この設定アシモフ相当気に入っていたんじゃないでしょうか?楽しんで書いている気がします。

ファウンデーションの彼方へ」の主人公トレヴィズもめんどくさいタイプでしたがそれよりさらにめんどくさいタイプに仕上がっています。

そのモリスンが最後には...「七日目に休みをとる」人間(?)となるわけですからまぁなんとも皮肉なアシモフらしいですね。

その他のソ連人科学者、リーダー格のボラノーワ、くせもの工学者デジニョーフ、美人電磁気学者カリーニナ、若き気鋭の神経物理学者コーネフもそれぞれキャラ立ちしていて楽しめましたがまぁ紋切型ですかねぇ。

カリーニナとコーネフの最後なども...。

「ミクロの決死圏」では学者でなく007ばりの「スパイ」が活躍していましたが、決して英雄タイプではない「学者が活躍する作品」というのもアシモフ博士の意思だったのかもしれません。

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無限の境界 L.M.ビジョルド著 小木曽絢子訳 創元推理文庫

2018-06-05 | 海外SF
ヴォルコシガン・サガシリーズ、'12年ローカス誌オールタイムベスト65位の「メモリー」にたどり着くため「遺伝子の使命」に続き本書を読みました。

本自体は3年前(2015年)にブックオフで入手済でした。

この本も現在絶版中...。

1989年発刊。
本書の構成は、中編3編を間に「つなぎ」風の物語を挿入してまとめて長編風にしています。

この、間を「つなぐ」形式はアシモフの「わたしはロボット」に通じるものがあります。
「遺伝子の使命」の感想でもアシモフっぽさ感じたのですが...ビジョルド、アシモフファンだったのでしょうかねぇ。

収載中編各編の時代設定は「喪の山」(ヒューゴー/ネピュラ賞受賞)がマイルズが士官学校を卒業した直後、「戦士志願」と「ヴォル・ゲーム」の間あたり。

「迷宮」が「遺伝子の使命」「天空の遺産」と本書収載の「無限の境界」の間くらい。

「無限の境界」が「親愛なるクローン」の直前となります。

「喪の山」は他作品からある程度独立している内容ですが「無限の境界」はその直後が「親愛なるクローン」のはじまりにつながりますので読んでおいた方がいいでしょうし、「迷宮」のエピソードは「ミラー・ダンス」を読むのであればは必読なのではないかと思います。

内容紹介(裏表紙記載)
傭兵艦隊提督マイルズが回想する冒険の数々。機知と勇気だけを頼りに戦いを挑むマイルズの本領が発揮される。単身、敵星セダガンダ帝国の捕虜収容所に潜入しての、一万人の大脱走作戦を描いた表題作の他、故郷の山村で無知と偏見の故に起こった殺人事件の調査に赴く「喪の山」、悪徳と腐敗の商業惑星の遺伝子研究所に潜入する「迷宮」など、ヒューゴー賞/ネピュラ賞受賞作を収録。


読後の感想、直前に読んだ「遺伝子の使命」は「いまいち」感が強かった感想書きましたし、正直私がこれまで読んだ「ヴォルコシガン・サガ」シリーズの感想は、「いかにもアメリカ人好みの貴族趣味」と「正義」感、キャラクター頼みのご都合主義的展開とは感じていて「世間の評価ほどではないかなぁ」という印象でした。

というわけで本書もあまり期待しないで読んだのですが....。

いい意味で裏切られた感じで、本書収載の3中編どれも「大傑作だなぁ」と感じました。

解説ではビジョルドを「典型的な長編作家」として評価していましたが、本書読んで「中編の方が得意なんじゃないか?」などと思いました。

各編とても読みごたえがあり「ヴォルコシガン・サガはちょっと」という人にもお薦めです。(でも「戦士志願」くらいは読んでいないと世界観わからないかもしれません)

各編感想など

・喪の山
士官学校を卒業しヴォルコシガン領で休暇を取っていたマイルズのもとに訪れた女性は山奥での偏見故に起きた殺人事件を訴え、マイルズが現地へ捜査に赴くが...。
1990年ヒューゴー/ネピュラ 中長編部門受賞

果たしてこれはSFなのか....SFといってよいのか?というくらい中世チックな世界設定で、ミュータントの「まびき」問題を正面から向き合って描いています。
なんとも重苦しい展開ですが...星々を旅する時代になっても人間って...などと思いをはせる展開です。
ファンの選ぶヒューゴー賞だけでなくプロが選ぶネピュラ賞も受賞しているだけあって構成のしっかりした作品、ミステリー仕立てでもありマイルズの名推理と領主の名においての名裁きが光ります。
が....領主の名裁きって...SFとしてどうなんですかねぇとは思いました~。

・迷宮
悪徳商館が支配するジャクソン統一惑星に乗り込んだマイルズは、流れから遺伝子研究所に忍び込み...。

この後のシリーズ作品にも登場するタウラの「初」かつ衝撃の登場作です。
題名の「迷宮」はギリシャ神話のミーノータウロスに由来でしょう、「タウラ」も。(wikipedia) 
安易な遺伝子改変への怒りとその結果に対する無責任さへの怒りと悲しみ・矛盾について考えさせる内容です。
そういう意味では「喪の山」とも通じるテーマですね。

両性具有者のデンダリィ艦隊参謀ベル・ソーンの遺伝子改変された「人間」を「人間」としてみないジャクソン統一惑星の商館主たちへの怒りなど脇筋も興味深い(後に「ミラー・イメージ」で大変なことになる...)ですが、本作で圧巻なのはなんといっても狼少女(?)「タウラ」とマイルズの「迷宮」での出会いと関係性でしょう。
素直に「すげぇ展開...」と思わされました。

各商館主たちのなんだかギャングチックなキャラも楽しめました~。
ヴォルコシガン・サガシリーズ本来のマイルズが大暴れするアクションとして長編よりテンポよく進んでいる分楽しめる作品でした。

「ジャクソン統一惑星とはこういう世界なんだ」ということは「遺伝子の使命」を読む前によんでおけばよかったかなぁとも思いました。

・無限の境界
セダガンダ帝国の捕虜収容所に捕虜として潜入したマイルズの脱走作戦は....。

テーマとキャラと展開の勢いで読ませた「迷宮」と対照的に、プロットをかなり作り込んだ作品と感じました。
極限状態の設定やらなにやらフレドリック・ブラウン風...。

なんとも独特な「地獄」の捕虜収容所からの一万人の大脱出劇、マイルズのあの行動やら、この行動やらが「こうつながるんだ」と最後に納得させられる展開です。

最後まで順調に大脱出させればいいのに....何ともやるせない展開とするのがビジョルドの憎らしい所です。
ベアトリーチェ可哀想です....。

マイルズの「哀しみ」もベタではありますがこれもこのシリーズの味ですね。
前述もしましたが本作直後から「親愛なるクローン」がスタートすることになっています。

3編それぞれ、ミステリー仕立て・アクション・緻密なプロットと味わいを変えながらも一貫して「マイルズ」「ネイスミス提督」が活躍するヴォルコシガン・サガシリーズならではのストーリーを展開する「なんともうまい」著者の手腕に感心しました。

タウラの登場する「迷宮」も捨てがたいですが、作品の出来としては重厚かつ中世を描いたような「喪の山」、軽い展開ながらも(最後は重いですが...)緻密なプロットの「無限の境界」の2編の出来が特に素晴らしく感じました。

ただ「SF」として考えると「無限の境界」が一番かなぁ。

ビジョルドの素晴らしさに気付かせていただいた作品でした~。

お薦めです。

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