しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

侍女の物語 マーガレット・アトウッド著 斉藤英治訳 ハヤカワepi文庫

2016-05-07 | 海外SF
一応SFに分類しましたが本書はハヤカワ青背でなくepiで出ておりSF色の薄い作品ですが‘12年ローカス誌オールタムベスト38位にランクされており本作読むと未訳の34位「Stand on Zanzibar」を除くと40位まで既読となるということでAmazonでオーダーし入手し読みはじめました。

1985年刊行、1990年に映画化もされているようです。
永らく品切れだったようですが、2014年に第二刷が出ています。

まったく関係のない余談ですがハヤカワで最近「デューン」「宇宙の戦士」が新訳で出版されていますが、私の好きな矢野徹氏の訳本が消えていくのはなんだか寂しいです….。
矢野氏も「カムイの剣」がカドカワで映画化されているように角川とも縁が深そうなので「ハヤカワ的にはいまいち受け悪いのだろうか?」などと勘ぐってしまいました。
(まったくの邪推ですが...)

さて本作の作者マーガレット・アトウッドはカナダの女流作家。
本作でアーサー・C・クラーク賞を受賞していますが「SF作家」というよりも純文学系の作家のようです。
2000年に「昏き目の暗殺者」という作品で英文学の文学賞として権威のあるブッカー賞も受賞してたりします。

ということで本作もSFというよりもディストピア小説として名高いようです。

内容紹介(裏表紙記載)
ギレアデ共和国の侍女オブフレッド。彼女の役目はただひとつ、配属先の邸宅の主である司令官の子を産むことだ。しかし彼女は夫と幼い娘と暮らしていた時代、仕事や財産を持っていた昔を忘れることができない。監視と処刑の恐怖に怯えながら逃亡の道を探る彼女の生活に、ある日希望の光がさしこむが……。自由を奪われた近未来社会でもがく人々を描く、カナダ総督文学賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。解説/落合恵子


ある日突然アメリカで合法的に保守(多分)独裁政権が生まれ「女性は女性らしくつつましやかに」「男性は節度を持って政府に協力的に」というような感じで男女とも人権が大きく制限された世界を舞台にしています。

現在刺激的な言動が話題になっている共和党大統領候補のトランプ氏が多くの米国国民の支持を集めているようですが、米国の政治体制には本作の状況を想起させるような危うさが内在されているのかなぁなどと思うとある種の恐ろしさがあります。
トランプ政権が発足したらどうなるんだろう…。

というような世界観のもと物語は「徹底的に自由な」アメリカ市民であった女性がギレアデ共和国の侍女オブフレッドとして見聞きしたり体験したりしたこと、考えたことが描かれています。

あくまでオブフレッド目線なのでどのような事態でこんな世の中になったかとかこの世の中は全体的にどんな風なのかは類推するしかないので、はっきりと読者には見えないようになっています。

「女性は女性らしくつつましやかに」といいながらオブフレッドのように何やら罪を犯した子供を産む能力のあるだろう女性は、権力者の子供を産むための「道具」として配置されています。
もっともその性交は子供を産むためだけを目的とし快楽とは程遠いものなのですが…..。

反政府的人物は壁に吊るされたりして、自由が制限されなんともやりきれない世の中ではあるのですが…。
反面「自由になりすぎた(?)」米国(モデルは1985年の米国?)と比べて果たして幸せなのかどうか?という問いが繰り返し出されます。

主人公がお肌のお手入れにローション代わりにバターを塗る場面などありますが、これなども不幸なような…ある意味なにもなくて考えなくてよくて幸せなような…微妙です。

中世の女性などはもしかしたら本作と同程度に自由がなかったかとも思いますが、その一生が幸せの「かけら」もなかったとも言い切れないでしょう。

自由な時(自分の娘と過ごすことを含め)を過ごせるのは幸せなことですが、あまりに自由すぎるとその「幸せさ」というのが自覚できなくなるかもしれません…。
前述の例でいうと化粧品の氾濫する世の中で安物の化粧品で不満を持つより、人目を盗んでなんとか手に入れたバターの方が満足度は高いかもしれない。

作中「小母」なる体制に思いっきり取り込まれている中年女性が出てきますが、彼女たちなどは自由な世界ではそれほど恵まれてはいなかったような感じなので作中世界の方が幸せかもしれない。

というように「幸せ」が相対的なことを示していますが、権力者である男性の方も表向きは謹厳にしていますが、権力者向けの秘密のクラブで商売女との逢瀬を楽しんだりしている…。
主人公と異なり(主人公の母親と同様)徹底的に反抗していた友人のモイラなどはどんな世界でも反抗しているんだろうなぁなどと感じました。

突飛なシチュエーションを設定してはいますが、結局見慣れた光景が描かれていたりします。

主人公は主人公で自信の欲望の赴くままに行動し破局を迎えそうになるのですが…。

というようなお話で楽しくは読めましたが、解説でディストピア小説ということでオーウェルの「1984年」と比べていましたが「1984年」ほど頭の中をグラグラ揺すぶるほどの作品とは思えませんでした。

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