しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

ソラリス スタニスワフ・レム著 沼野充義訳 ハヤカワ文庫

2016-01-25 | 海外SF
国書刊行会から発行されていた「ソラリス」が文庫化され本屋の平台に並んでいたのを見かけついつい購入しました。

本作は飯田規和訳で「ソラリスの陽のもとに」としてハヤカワ文庫で刊行されていましたが、従来版がロシア語からの訳で、本書はポーランド語から直訳というのが売りです。

ロシア語版でカットされていた部分を追加している「完全版」とのこと。
原書は1961年刊行です。

'12年ローカス誌オールタイムベストでは東欧圏の作品としては最上位の25位。
日本での人気はとても高く’06年、'14年ともにSFマガジンオールタイムベストで1位になっています。

私が中高生時代(1980年頃)も本作と「幼年期の終わり」「火星年代記」「夏への扉」辺りはベストを決めると上位に来ていた記憶があります。
息の長い作品ですねぇ。

昔から人気ではあったので従来版は高校生くらいの時(30年弱前)に買っていたのですがずっと未読でやっと読んだのが10年位前で結構感動した記憶があります。

そこから私の中で「SFブーム」になりそうにもなったのですが…。
その時はそのまま立ち消えここ2、3年の「マイSFブーム」に至っております。

内容紹介(裏表紙記載)
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。


10年前に読んだきりの作品ですから、読みだすまでほとんど内容を忘れていましたが読み始めると結構思い出しました。

ケルヴィンがソラリス上のステーションに到着直後のなんとも不可解な状況がミステリアスでハラハラした記憶があったのですが、今回筋立てはわかっていたので読み出しから今一つ作品を楽しむ気分になれませんでした。
そんなこんなのためか10年前くらいに読んだ時より全体的にインパクトは薄めでした。
ウリの「未訳分」はほとんどソラリス学のところのようで違いはそれほど感じられませんでした。
(詳細に比べてないのでかなりいい加減です)

「人間の心」の不可知性と決定的に異なる存在との意思疎通の不可能性、ひいては「超越した存在」の不可知性・存在可能性などを象徴的に描いている作で刊行された1961年という時代を考えるとインパクトのあった作品なんでしょうが、今日的に考えて「オールタイムで1位」というのは「ちょっとどうかなぁ?」とも感じました。
(私の読み方が浅いということはあるとは思います。)

全惑星的な生命体という点ではアシモフの「ネメシス」とかなりダブるのですが、アシモフがあくまで通俗的に「少女」と「人情味のある惑星生命体」との心のふれあいというテーマだったかと思うので「真逆だなぁ…」という意味では興味深かったです。

ある意味アシモフの方が「そんなことあるはずないよなぁ…」ということを描いている点ではシュールな気もします。(笑)

かなり「真剣」な作品でしたのでもっと「遊び」がある作品の方が私の好みなんでしょうねぇ。

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あなたもSF作家になれる わけではない 豊田有恒著 徳間文庫

2016-01-10 | 評論エッセイ等
本書は小学生時代(35年位前)図書館で単行本を借りて読み、なにやら気に入り何回も読んだ記憶があります。

当時日本のSF第一世代の作家の作品をよく読んでいた私には非常に面白く感じられたのだと思います。

この本の中に「飲み屋で見たトイレの鏡の自分の眼の汚さにハっとした」(細かいところ未確認)というような文章があり、これは自分が飲みすぎてトイレにいって鏡を見たときによく頭をよぎる文章になっていたりします。

そういう意味では今の自分を作っている本の一冊といっていい本です。

最近SFを読み始めたということで気になりAmazonで文庫の古本を購入。

もともとは1976年に奇想天外に連載されたものが1979年11月単行本ででたもの。
(私が昔読んだものこの版)
今回入手したのは徳間文庫版で1986年9月発行。

「文庫になった」というのはそれなりに人気があるんでしょうかねぇ。

またこの本、日本SF市場名高い(?)覆面座談会事件の資料としても有名なようです。
wikipediaで参考図書になっていた)

内容紹介(裏表紙記載)
SMとの混同にもめげずSFを志した〈苦闘の時代〉から、苦心の原稿をバッサリ切られてお礼を言ってしまった〈未曾有の時代〉、「鉄腕アトム」のシナリオに参加した〈映像の時代〉、「破壊された男」に衝撃を受けた〈翻訳の時代〉を経て、縦横無尽の〈創作の時代〉へ。日本SFの揺籃期から興隆期を自ら体験した著者が複眼多岐の視点から綴るインサイド・エッセイ。SFもまた、その個体発生は系統発生を繰り返す!?


内容としては「SF作家入門」の体を取った豊田有恒氏の半生記といったものになっています。
かなり偏った意見もあるかと思いますが、作者の「本音」かなり出ているのがいいところですね。
日本のSFやアニメ草創期の話も興味深いのですが、その中での作者の悪戦苦闘ぶりを素直に述懐しているのがとても味わい深い…。

この本にも書かれている通りアニメ原作者としてもSF作家としてもかなりな才人であるわけですが、どこか「自分は二流だ!」感を持っており全体的にその視点で書かれています。
私も豊田氏の作品昔結構読んだ人で面白かった記憶はあるのですが、SF作品は代表作である「モンゴルの残光」などすべて絶版のようですし、正直同じくSF作家第一世代とされる星新一、小松左京、光瀬龍、平井和正などと比べて2015年現在、忘れられ感は強い作家な気がします…。
(ジュブナイルの「時間砲計画」以外最近読み返していないので今視点で作品かどうかのコメントは差し控えます)

本書の中で自分でも書いていますがどこか「自分に確固とした軸」「発想の飛躍」がないというところの葛藤があったんでしょうね、その辺の葛藤と「それでもなんとかやってきたんだ」というところの入り混じった文章は同じような悩み(要は天才でない人すべて)を持つ中年として切なく、楽しく読めました。

今回調べてみたら豊田氏、現在はSF作家というよりも「嫌韓」「親原発」の人ということで有名なようで、そちらの本はいろいろ出ているようですがそちらは読んでいないのでこちらもコメントは差し控えます…。

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ネメシス 上・下 アイザック・アシモフ著 田中一江訳 ハヤカワ文庫

2016-01-09 | 海外SF
SFは‘12年ローカス誌オールタイムベスト100に挙げられているものを中心に読んでいますが、それとは別に密かに…というわけでもないのですがアシモフの邦訳されているSF作品全作読破を目指しています。

ということで「宇宙気流」「宇宙の小石」を読んだ流れで本書を手に取りました。
本作を読めばアシモフのSF長編で未読は「ミクロの決死圏」と「ミクロの決死圏2」のみになります。
いずれも入手済みですが読むのはいつになるかなぁ…。

本書、上巻は2,3年前にブックオフで見かけ購入、下巻は最近Amazonで古本を手に入れました。

1989年刊、アシモフのファウンデーション以外としては最後の長編SF作品です。
「巨匠アシモフ」ではありますが…まぁこの作品をわざわざいまどき読もうというのは相当好きものでしょうねぇ(笑)

内容紹介(裏表紙記載)
上巻:
時は2220年。植民衛星ローターの天文学者ユージニアは、太陽からわずか2光年のところに未知の恒星を発見した。おりしも地球からの独立を望んでいたローターの指導者ピットは、秘密裡に太陽系脱出を計画。独自に開発したハイパー・アシスト駆動を利用して、衛星の住民ごと新世界へ旅立った。だが、人類の新たな故郷になるはずのこの星―ネメシスは、やがて太陽系におそるべき打撃をもたらすことになる災厄の星だった!

下巻
平穏な軌道を描いていると思われたネメシスは、実は太陽に向かって直進しつづけていた!太陽系に達するのは5000年後だが、人類の避難はすぐにも始めねばならない。だがローターの独立に拘泥するピットは、この事実を地球に報告することを拒否。対立するユージニアとその娘をネメシス系の衛星エリスロに追放してしまう。しかし、そこには新たな驚異が・・・・・・巨匠アシモフが未来史の設定を離れて描いた最後の本格宇宙SF!


上記のとおりいわゆる「アシモフの未来史の設定を離れた」作品とされていますが両シリーズの重要な小道具であるハイパースペース・トラベルの開発がストーリーの一つの軸になっており、1993年刊の「ファウンデーションの誕生」の中でも本作のエピソードに言及しているなど一応関連づけられてはいるようです。

本作読んでのとりあえずの感想は….。
80年代のSF作品としてはものすごくキビシイものがありました…。

要素的には70年代後半から80年代のハードSFを一生懸命キャッチアップしている感じはあるんですが料理方法は昔ながらのアシモフなのでなんとも違和感古臭さを感じてしまう…。

いろいろ新味は出そうとしているのでしょうが、どれも「これ読んだよなぁ」とか「どこかで見たようなアイディアだなぁ」と感じてしまいました。
地球を情報局長が実質的に仕切っていたりするのも「宇宙の小石」とあまり変わらなかったりします….。
1950,60年代くらいまでは世界は割と単純だったんですが、80年代はもろもろ複雑になってきてますので背景を80年代SF風にしていしますうと

「巨匠」アシモフ、「若い者には負けん!」とがんばったのかもしれませんがちょっと無理があるように感じました。

作品名はぱっと出てきませんが手塚治虫の晩年の作品にもそんな感じのものがあったような...。

そうはいっても「アシモフ」ですから、まぁそれなりに面白い話にはなってはいますので「この作品を今読む意味はあるんだろうか?」とか難しいことを考えずに「暇つぶし」と割り切れば楽しんで読めます。

「新しさ」を出そうとした仕掛けはいただけませんが、惑星ローターのさえない老科学者ジェナールの味わい深さと、超光速航法を開発した美貌の女性物理学者テッサが「老い」を感じて葛藤するところなどは印象に残ります。

作者の「年齢なり」に話を作らないと厳しいということでしょうかねぇ…。

本作の前年1988刊の「ファウンデーションへの序曲」、アシモフ最後のSF長編1993年刊「ファウンデーションの誕生」は往年の冴えは感じませんでしたがなにせ年来慣れ親しんだ「ファウンデーション」ですからなかなか力作と感じましたし。
特に「誕生」の方はセルダンの「老い」もテーマの一つですからその辺はしびれた記憶があります。

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安土往還記 辻邦生著 新潮文庫

2016-01-02 | 日本小説
背教者ユリアヌス」を読んでちょっとがっくりもしたのですが、一作で辻邦生を評価するのも乱暴なような気もして手に取りました。
本作も「背教者ユリアヌス」同様に高校時代から読みかけで読み終わらないでいた作品です。

「背教者ユリアヌス」はあまりに長いため本作なら文庫で211ページと(字は小さいですが)読みやすそうな長さかつ、登場人物が馴染み深い「織田信長」ですから「読みやすいかなぁ」と思って買った記憶があります。
他にも辻邦生作品は何作か買ってあるのですがすべて未読です、読みたい作家だけど読めない作家というか…。

内容紹介(裏表紙記載)
争乱渦巻く戦国時代、宣教師を送りとどけるために渡来した外国の船員を語り手とし、争乱のさ中にあって、純粋にこの世の道理を求め、自己に課した掟に一貫して忠実であろうとする“尾張の大殿(シニューレ)”織田信長の心と行動を描く。ゆたかな想像力と抑制のきいたストイックな文体で信長一代の栄華を鮮やかに定着させ、生の高貴さを追求した長編。文部省芸術選奨新人賞を受けた力作である。


上記の内容紹介を読むといかにも面白そうな展開なので高校生の私も気軽に手に取った記憶があります。
といいながらも高校生の私には宣教師たちの心根などがちょっと難解に感じ読み切ることができなかったのですが今回は興味深く読むことができました。

未発見のヨーロッパの船員の手記という体裁をとっています。
こういうテーマ、描けそうで、いざ描こうとすると調べることも多くなかなか難しいんでしょうねぇ。
本当の手記のような雰因気を感じました。

信長と宣教師たちや語り手たるヨーロッパ人との交流にあたっての信長の心根の推定も自然な感じではありますが果たして本当かどうかは今となっては知る由はないですよねぇ。
その辺違和感感じると「信長」という日本史の超有名人物だけに読みにくいかもしれません。

私はまぁこういう考え方もありだなぁと楽しく読めました。
途中まで密度の濃い描写だったのが安土城に移ってから本能寺までのところが「ちょっと薄くなったのかなぁ」とも感じましたがまぁこの作品はこれでいいのかもしれません。
楽しめました。

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