しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

辺境5320年-宇宙年代記2 光瀬龍著 ハヤカワ文庫

2018-03-28 | 日本SF
本書が昨年(2017年)最後に読了した本となります。

消滅の光輪」で締めようと思っていたのですが、思わぬ速さで読み終わってしまったため本書が締めの1冊となりました。

本書は「宇宙救助隊2180年」に続いて、SFマガジンに掲載されていた宇宙年代記もの短編をまとめた「宇宙年代記2」という位置づけです。

Kindle版で買った「宇宙年代記合本版」に収載されているのですが....。
つい紙の本が欲しくなりamazonで古本を購入しました。

この後同じくハヤカワ文庫版の「カナン5100年」も勢いでamazonの古本で入手してしまったので、Kindleで買ったのはほぼ「東キャナル文書」と「喪われた都市の記録」のためだけという感じになってしまいました....。

なかなか21世紀人になりきれません。

「宇宙救助隊2180年」の感想でも書きましたが、光瀬龍の「宇宙年代記」なんとも滋味深くしみじみと楽しめます。
「男臭い」ワンパターンではあるのですが、今読んでもかなりのレベルだと思うのでお薦めです。

各編内容紹介と感想など-()内はSFマガジン掲載年月です。

○巡視船2205年(1963.10)
1人での長い巡視船航海に飽き飽きしてきたなか遭難船を発見し....。

星新一の「妄想銀行」の感想で書きましたが同書収載の「遭難」と設定似ています。
「オチ」はショート・ショート的ワンアイディアですが、最初の飽き飽き感と遭難者の壊れ具合パニック感が絶妙でその辺を楽しむ作品です。

○落陽2217年(1964.8)
火星の東キャナル市で観光写真を売るサイボーグはかつて有名なキャプテン・シライだが...。

本作と「市2020年」「戦場2291年」似たような世界観で書かれています。
宇宙開発に大きな役割を果たしたサイボーグたちが受難で「人間」ともめる。
地球で戦争がはじまりそう、本作ではまだほのめかしですが結果いいように使われるというパターン。
本作はキャプテン・シライの「男」の美学的な味わいを楽しむ作品かと。

○市(シティ)2220年(1969.5)
東キャナル市で労働を強いられるサイボーグたちは「市民権」を条件に地球の戦争への協力を求められるが...。

人権ですねぇ....。サイボーグ優等生「トーゴ」のインサイダー感と運命がなんとも哀しい。

○戦場2291年(1963.4)
地球の戦場で戦うサイボーグによみがえる海底での作業、宇宙での作業の記憶とは....。
そして最後に対峙した相手は?

フラッシュバック的効果とサイボーグ、戦場という設定を使った「うまい」作品ですが本質的に中身はあるのだろうか? 味わいはあるんですが...。

○スーラ2291年(1962.11)
第二次統合戦争の後見捨てられた宇宙植民地に着いた調査船が見たものはサイボーグ化された...。

設定はショート・ショート的です。
それなりに味わい深いのですが...初期作品だけに煮詰め方が甘い来ました升。

○エトルリア2411年(1969.1)
遭難した宇宙船に残った老宇宙士を救助したがその正体は?

ミステリ風味で気持ちはわかるのですが、話がわかりにくく難解にしすぎかと。

○連邦3812年(1963.3)
外惑星連合の宇宙船に厳しく当たる地球の秘密とは?

「なんだかひどいやつだなぁ」という地球政府主席代理クンヌイ・ハンの苦悩最高でした。
本書では一番好きな作品です。

○カビリア4016年(1963.6)
シティから脱出した元部下を追う調査局長に神文のようなメッセージがどこからともなく...。

これまた難解なような....まぁこちらは理解を求めていない感じがありますが....。
電子頭脳の問題なのか人の心の問題なのか....。

○辺境5320年(1963.9)
地球連邦が惑星連合に求めた譲歩はなんなく認められた、その秘密とは、サシャシティで見たものは....。

クラークの「都市と星」の安直なぱくりのような....。

個別に書くと結構けなしていますが....。
設定は安直感のある作品もありますが、独特の「男臭さ」「男の哀しさ」的な世界は楽しめます。
女性向かどうかは「???」です。

個別の感想にも書きましたが本書では「連邦3812年」が一番ひびきました。
そこも含めて完全に整合性は取れていないのですが、全編読んだうえで「宇宙年代記」での世界観を楽しむのも一つの楽しみ方な気がしました。

あまりにサイボーグの哀しみを強調しすぎる感はありましたが....。
まぁそれも個性かと。

↓「哀戦士」....は違う話ですね、よろしければ下のバナークリックいただけるとありがたいです!!!コメントも歓迎です。
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消滅の光輪1-3 眉村卓著 ハヤカワ文庫

2018-03-25 | 日本SF
ほんとうは小松左京全集の「SFってなんだっけ?/SFへの遺言/未来からのウィンク」を図書館で借りて読んだのでそちらを書かなきゃなぁとも思っていたのですがなんとも書く気がおきなかったので「小松左京自伝」とそれほど感想変わらないので、記事には書かないで割愛します。

さて本書、「覆面座談会事件」流れで興味を持った日本SF作家第一世代の作品として手に取りました。
もっとも本書の発刊は1979年と覆面座談会事件の10年後の作品です。
SFマガジン連載は1976年2月-1978年10月、当初は中編のつもりで連載したらしいですが延々と連載が続けられ結果大長編となったそうです。(元ネタwikipedia司政官シリーズ

覆面座談会で俎上に上げられていた「EXPO'87」を読んで厳しめなことを書いていて「眉村卓こんなものではないだろう」という思いもあり代表作である本作を手に取りました。

SFマガジン国内長編オールタイムベストで'06年28位'14年でも28位と安定した人気をもつ作品です。

本作はこれまで未読でしたが、図書館通いをしていた小学生高学年の頃(80年頃)分厚い単行本の本書を読もうとして何度か借り出した記憶があります。
(ハヤカワ文庫の初版が昭和56年-1981年-なので当時は文庫出ていなかったような気がします)
眉村卓はジュブナイルのイメージが強くなんとなく親しみやすい気がしていたのですが....。

当時の私には歯が立たずでそのたび数ページ読んで返すが続いていました。
私にとっては今回当時のリベンジともなったので感慨深いものがありました。

本自体はブックオフと古本屋1と2,3別々に見かけて108円・100円でハヤカワ文庫版を購入。

現在は創元で文庫2分冊で発売されており容易に入手が可能なようです。

司政官シリーズは1971年から中短編7作品が書かれており創元文庫で2008年「司政官全短編」としてまとめられておりこちらも割と容易に入手できるようです。

本書と並ぶ長編、1996年星雲賞受賞の「引き潮のとき」(1983年ー1995年SFマガジン連載)は(こちらも長いようで早川で単行本5分冊で刊行)文庫ではでていないのでamazonで調べたら一冊辺り6000円前後とかなり高い....。
文庫化かKindle化を望みたいところです。

本作冒頭の献辞に「アイザック・アシモフ氏へ」とあります。
3の鏡明氏の解説から引きますが「最初に<アイザック・アシモフ氏>へと書いたのは、アシモフ氏の「宇宙気流」で住民を退避させる話があるでしょう、一年かそこいらで。あれを読んであれっと思ったことがあるんです。そういう作業が現実に可能であるかどうか」(SF宝石創刊号での矢野徹と伊藤典夫との対談で著者が語ったとのこと)
ということが動機で書き出されたようです。

アシモフの作品の中でも割とお気楽な作品である(私の個人的感想)「宇宙気流」を読んでそんな感想をいだく発想が素晴らしい。
確かに大変でしょうね....。
その辺の回答は確かに本書を読むとよくわかります。(笑)

それを自分事と捉え、組織の人間として実現する立場として描いた著者のインサイダーSF論の象徴的作品といえるのではないでしょうか。

ちなみにインサーダ-SF論興味をもって調べたら覆面座談会事件の1年前のSFマガジン1968年2月号の日本作家特集の「新春SF放談会 SF人がこう評価する」にその源があるようで思わず入手してしまいました。

眉村氏熱く「インサイダーSF論」を語っているのですが誰にも理解されずで可哀想な気がしました。

なお座談会の他の部分で評論家の斉藤守弘氏が山本周五郎とSF作家比較的な話やら「最近のSFには発見性がない」などと発言して険悪なムードになりかけていいました、この辺が1年後の火種になってくるんでしょうねぇ..。

内容紹介(裏表紙記載)
1:
若き司政官マセは、初めての担当惑星となる1325星系唯一の惑星、ラクザーンについての情報を受けとっていた。最初の入植以来、わずか50年で異常なまでに繁栄しているラクザーン。だが、まもなくラクザーンの運命も終焉を迎える。太陽が新星化するというのだ。全住民、全企業体のすみやかな異星への移住---それは、かざりものとなりさがってしまっている司政官にとって、とてつもなく困難に思えた・・・・・惑星を覆う壮大なドラマを背景に、体制内で真摯に生きるひとりの司政官の生きざまを見事に描き出し、泉鏡花文学賞に輝いたSF巨編。
2:
太陽新星化にともなう全住民退避という課題を与えられた惑星ラグザーンの司政官マセは、かざりものの司政官から、絶対権力者たる司政官へと変貌をとげた。
そして緊急事態対策会議を乗りきり、住民投票により移住先を決定することに成功する。投票日当日、ロボット完了から次々に送られてくる投票経過報告。だが先住者ラクザーハはひとりとして投票所に現れない。結局、投票は植民者だけで終わった。やがて、ラクザーハ説得のため、マセは科学センターのランとともに先住者居住区を訪れたのだが・・・・・・泉境花文学賞受賞に輝く眉村SFの白眉
3:
1325星系の惑星ラクザーンの司政官マセは、太陽の新星化による全住民退避計画を推し進めていた。 すでに390万人の住民が移住先の惑星ノジランに旅立っていった。だが、通貨ラックスは日ごとに下落し、ロボット官僚や司政設備は頻繁に暴徒に襲われるようになっている。そして、ついに首都ツラツリットに大規模な暴動が起きた。治安部隊はすでに辺境地の暴徒鎮圧に赴き、いない。堅固な司政庁の壁も多勢の反乱者によってつぎつぎと打ち破られていく。しかも、反乱者たちは連邦軍の装備を身につけていた・・・・・・泉鏡花賞受賞に輝くSF巨編ここに完結


読後の感想、とても面白かったです。

時間が取れたこともあり1-3ほぼ1日で読み通してしまいました。(小学生のころが嘘のよう)

「もったいない」とも思ったのですが....手を止めることができませんでした...(笑)
日本SFの歴史に是非残して欲しい作品と思います。

筒井康隆の文学的才気あふれる作品とも小松左京のスケールの大きさもないですし、今どきの作家の「うまさ・たくみさ」もないかと思いますし、ヒロイン ランとのラブストーリーも何ともぎこちなくなのですが....。

ただただひたすら真面目に「インサイダー」の人間として奮闘を続ける司政官マセの姿を描いていく内容にはなんとも身につまされるものがあります。

50近いサラリーマンの私から見ると青臭いところもあるのですが、30前後くらいのちょっと大きい仕事を任されたサラリーマンにはかなり共感するところがあるのではないでしょうか。

無理矢理移民を進めていって最後の暴動が起こる辺りでは「どうなっちゃうの?」とはらはらしましたがまさか、ああいう風にもってくとは....。

あそこまでマセに頑張らせた後のベテラン司政官カデットのざっくり感...全部ひっくりかえしちゃう展開はなんともやりきれないところがありますが...。
まぁその辺もこの作品の味ですね。

ラスト近くの挫折感含め全体的に新人司政官の成長物語としても読めますね。

上記のとおり全体的にはよくできたすばらしい作品だと思うのですが何点か気になったところ。

冒頭、先住者ラクザーハと人類は「混血可能」との記述があったのですが...。
混血児はどこにいってしまったのでしょう?

そもそも現代の生物学(人類学?)の常識からするとかなり近接した種でないと混血できないはずなのですが...。
ラクザーハは太古の昔に移住した人類の設定????。
全体からすると細かい話なのですが気になってしまいました。
当初中編のつもりだっとのことなのでその辺深く考えていなかったのかもしれませんね。

ラストのラクザーハの話。
「移住できない」謎についてはいいと思うのですが、人類との哲学的な生き方の違いというか、精神体・超越者的概念を持ってくるところは日本SFにありがちともいえる「幼年期の終わり」的抹香臭さで私的にはいただけませんでした。

この部分もっとぼかしてか「そんなことも考えられるかなぁ」くらいにほのめかす程度でスマートに処理すれば現代でも十分通用する不朽の名作になったと思うのですが....。
ここ部分があることでなんとも古臭い感じがしました、大長編(「果てしなき流れの果に」「百億の昼と千億の夜」と同様)

にしてしまったのでついつい書いてしまった、もしくはもともとこの辺のテーマを中心に書こうとしていたのか?

最後ちょっとけなしたようですが....とても面白い作品です。

おじさん目線でのお薦め読書層は30前後のサラリーマンなのですが、ほんとにウケるかどうかは「???」です。(主人公と一体化するとどっと疲れるとは思いますが...。)

最後になりますが、ロボット官僚機構を使って植民惑星を司政官を統治するというスタイル。
著者はかなり頭をしぼったのでしょうがなんとも興味深い設定です、他の司政官シリーズも是非読んでみたいなと思います。
(そのうちですが....)

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ブルー・マーズ キム・スタンリー・ロビンスン著 大島豊訳 創元推理文庫

2018-03-03 | 海外SF
昨年読んだ本の感想が本書除いてあと3冊(うち1冊は小説でないので書かないかもしれない)、今年も昨年に引き続き前年分書き終わるのは3月末になりそうです....。

さて「覆面座談会事件」がらみで日本SF関係を続けて読んでいましたが「たまには海外SFも読まなくちゃー」ということで本書を手に取りました。

本書は「レッド・マーズ」「グリーン・マーズ」に続く火星三部作完結編となります。
本自体はブックオフで見かけて入手していました。

「グリーン・マーズ」読んでからあまり間が空くと登場人物やら設定やら忘れてしまいそうだなぁというのもあり読みました。

1996年発刊、1997年のヒューゴー賞・ローカス賞を受賞しています。
シリーズで累計11冠を達成したアメリカSF屈指のシリーズです。

前作「グリーン・マーズ」の創元推理文庫での初版は2001年、その巻末では続編の本書「ブルー・マーズ」は「近刊予定」となっていたのですが...長年発刊されず「もはや翻訳出ないのでは」という「幻」の作品と化していたようですが、昨年(2017年)やっと翻訳が発刊されました。

「火星の人」やら日本では「テラフォーマーズ」やらの影響で微妙に火星ブームなのが影響してるんですかねぇ。

内容紹介(裏表紙記載)
上巻
地球の治安部隊は火星の軌道上にまで撤退し、無血革命は成功するかに思われた。だが和平交渉中、過激な一分派が宇宙エレヴェーターに攻撃を開始する。第一次火星革命の悪夢が繰り返されてしまうのか? 壮大な火星入植計画をリアルに描きつくしてSF史に不滅の金字塔を打ち立てた「レッド・マーズ」「グリーン・マーズ」に続く<火星三部作>完結編。 ヒューゴー賞、ローカス賞受賞。
下巻
憲法を制定した火星政府は、地球との交渉の末ついに念願の独立を勝ち取った。人びとは自由を謳歌し多様な文化が共生する火星ならではの社会システムと新たな文明を発展させていくが・・・・・・。赤い荒野から緑の大地へそして青い大洋を持つ人類の第二の故郷へと劇的に変容していく火星の姿を、人びとの綾なす人間ドラマとともに壮大なスケールで描き上げた大河三部作堂々完結。


読後のとりあえずの感想「疲れた」。
そもそも上下巻合せて1200ページを超える大作ではあるのですが...。

それ以上に疲れた気がします、一応エンターテインメント寄りな作品かと思うのですが読むのにかかった時間は「ダールグレン」とほぼ同じくで上下巻で2ケ月を要しました....。

長年翻訳が出なかった理由がわかったような気がしました。
まぁ端的にいうと.....「退屈」です。

上巻の前半くらいまでは「グリーン・マーズ」の最後で火星の独立を勝ち取れそうになった展開からの最後の戦いでストーリーの展開も早く楽しめました。

その先、独立後の憲法制定やら地球との交渉やら立ち上がった政府のどたばたやらもまぁちょっと理想論というか、作者の理念というかが強すぎて入り込みにくいところもあったのですがまぁ楽しめたのですが....。

が...そこからなんとも盛り上がらないというか、長編小説として完結させようという感じが見えず散文を読んでいるようでつらかったのです。
文章の書き込みはかなり丁寧(すぎる?)で気合は感じたんですけどねぇ。

火星から太陽系、恒星への旅などを現実的に描くハードSF的な部分も大したものだとは思いますが...。
ニルガルやらの火星第三世代以降の人間が活躍するのかなぁ...と思わせておいて、その流れをブチッと切れて結局最初の百人だのみのストーリー展開にしてしまうのはどうにもいただけなかったです。

ネット上の反応見ても似たようなことを書いている人が多かったですが....。
文句言いながらも途中で投げずに全部読んでしまっているので、まぁ読ませる作品なのかもしれません(笑)

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