しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

新しい太陽のウールス

2015-04-25 | 海外SF
「新しい太陽の書」1-4を読み終わるのにまるまる1ケ月かかり、そのあと「どうしようかなぁ」とも思ったのですが「このタイミングで読まないと一生読まなそうだなぁ」とも思い本書を手に取りました。

「新しい太陽の書」を読んでいる最中に存在を知りブックオフで購入。
1987年発刊。
「新しい太陽の書」の続編でとりあえずの完結編的位置づけの作品です。

内容紹介(裏表紙記載)
今、ふたたび書き始めよう。失われし『新しい太陽の書』を―遍歴の後、首都ネッソスの“城塞”に独裁者として帰還を果たしたセヴェリアンは、時間の海を渡る巨大宇宙船に乗り組んで、新たな旅に出ることとなった。古い太陽の死を待つばかりの老いたる惑星ウールスに“新しい太陽”をもたらすために…。記念碑的傑作“新しい太陽の書”四部作で明かされなかった数々の謎が解き明かされる“ウールス・サイクル”完結篇。

「新しい太陽の書」で暗示されていたとおり“独裁者”となったセヴェリアンはウールスに「新しい太陽」をもたらすため宇宙船に乗って旅立ちます。

前半部分は宇宙船に乗っている間の出来事や、神聖書記の住む世界でのセヴェリアンと神聖奴隷・神聖書記との対話が書かれているのですが…。
とにかくわかりにくく読むのに非常に苦労しました…。
前半部は基本ミステリー仕立てだと思うのですが場面展開が早く不連続で理解するのに努力を必要とします。

後半、セヴェリアンがウールスに戻ってからは「新しい太陽の書」を読んでいる人でSF慣れしている人であればセヴェリアンがタイムスリップを繰り返し「新しい太陽」を取り戻す過程を「ここはこういうことだったのか」という興味もあり面白く読めると思います。
ちょっと都合よすぎる感じもしましたが...。

タイムスリップものかつパラレルワールドもの的設定かなぁという感じ。

後半部分、「新しい太陽」を取り戻す直前までがかなり緊迫感のある描写で、ハラハラしながら読んだのですが肝心の「新しい太陽」を取り戻す瞬間は書かれずで、その辺ちょっと肩すかし感がありました。

そこから先の部分はいろいろ謎解きなんでしょうが蛇足な感じも受けました。

ということで私の読書ペースは大体1冊/週なんですが本書は読むのにかなり苦労して2週間かかりました。
正直おもしろい作品ではないです。

「新しい太陽の書」を読んでなければ内容理解不能ですし…。

1ケ月半このシリーズとつきあったと思うと感慨深い…ようなそうでもないような(笑)

ただまぁ当分読み返したいとは思わないでしょうねぇ。

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新しい太陽の書1-4 ジーン・ウルフ著 岡部宏之訳 ハヤカワ文庫

2015-04-18 | 海外SF
‘12年ローカス誌オールタイムベスト「光の王」が23位でしたが、本書「新しい太陽の書」は24位にランクインしています。

4冊、昨年にはブックオフで購入し揃っていたのですが分量が多いのでなかなか手を出せないでいました。
「光の王」を読んだので本書を読めばローカス誌オールタイムベスト「1位から26位まで既読になる」ということで手にとりました。

なお本作は日本でも評価が高いようで’06年SFマガジンベストで12位、14年SFマガジンベストでは8位にランクインしています。

1-4巻通して1つのストーリーになっていますが、各巻ごと意図するところが違っているようなので最初は「各巻ごとに感想書こうかなぁ」とも思ったのですが、面倒なので….というわけでもなく(笑)全巻読んだ結果「全体通して見た方がいいかなぁ」と感じたのでまとめて書きます。
(4冊読み切るのに1ケ月かかりました….)

ということで1-4通しての感想なのでネタバレ多いかと思います。

1巻「拷問者の影」が1980年発刊<世界幻想文学大賞受賞>、以下「調停者の鉤爪」が1981年<ネピュラ賞受賞>、「警士の剣」が1981年<ローカス賞受賞>、とりあえずの完結編「独裁者の要塞」が1982年に発刊<キャンベル賞受賞>。

なお上記4冊に続く続編的な作品として「新しい太陽のウールス」が1987年に発刊されています。
(この感想書いている段階で「新しい太陽のウールス」も読了済)

内容紹介(裏表紙記載)
1:拷問者の影
遥か遠未来、老いた惑星ウールスで〈拷問者組合〉の徒弟として働くセヴェリアンは、反逆者に荷担した疑いで捕らえられた貴婦人セクラに恋をする。組合の厳格な掟を破り、セクラに速やかな死を許したセヴェリアンは、〈拷問者組合〉を追われ、死にゆく世界を彷徨することとなる…。巨匠ウルフが持てる技巧の限りを尽くし構築した華麗なる異世界で展開される、SF/ファンタジイ史上最高のシリーズ。新装版でついに開幕。

2:調停者の鉤爪
〈拷問者組合〉の掟に背いて〈城塞〉を追われたセヴェリアンは、新たな任地へ向かう途上、拉致され、深い森の奥へと連れていかれる。そこに設えられた玉座で待っていたのは、反逆者ヴォダルスだった! 謎の宮殿〈絶対の家〉で果たすべき密命を受けて、セヴェリアンは斜陽の惑星を旅しつづける。人知を超えた魔石〈調停者の鉤爪〉を携えて……。若き拷問者の魂の遍歴を綴るSF/ファンタジイ史上最高のシリーズ、第二弾

3:警士の剣
流刑の地スラックスで警士の任に就いていたセヴェリアンは、かつてネッソスを追放されたように、ある女性との問題から、ふたたびこの山岳都市を追われる身となってしまう。魔石〈調停者の鉤爪〉を主であるペルリーヌ尼僧団へと返す旅に出た彼は、道中、自らと同じ名を持つ少年セヴェリアンと出会い、ウールスの地をともに往くこととなった。名剣テルミヌス・エストをその護りとして……。巨匠が紡ぐ傑作シリーズ、第三弾

4:独裁者の要塞
ペルリーヌ尼僧団を追って北部へやってきたセヴェリアンは、いつしか共和国とアスキア人との紛争地帯に奥深く入りこんでいた。戦場を彷徨ううちに、共和国軍の一員として戦闘に参加することになったセヴェリアンだったが、重傷を負い倒れてしまう。やがて深い静寂の中で覚醒したセヴェリアンの前に〈独裁者〉が現われ、彼の新たな役割と〈新しい太陽〉の到来を語るのだった……。巨匠の歴史的傑作シリーズ、堂々の完結篇

表紙のカバーが「ファンタジー」な感じでかつ内容紹介が「活劇風」なので「そんな作品なのかなぁ」と思いながら読み出しましたが….。
描写にいろいろ引っかかる所が多くすっきりしゃっきり「活劇」を楽しむタイプの作品ではありません。

描写は妙に写実的なのですが、主人公の生業が「拷問者」であり、<拷問者組合>を追われながらも「拷問者」であることに誇りを持っているというよく考えると非現実的な設定ですし、決して物事を忘れない完全記憶者の主人公セヴェリアンが過去を振り返って一人称で書いているという体裁で、やっていることや起こっていることはすごいのですが視点は小市民的なので違和感がありですっきり感情移入しにくかったです。

全体的には、1巻が導入、2巻でちょっと変な世界に迷い込み、3巻で「ウールス」が異様な世界だということが示唆され謎が深まり、4巻で一応の解決という感じ。
「ウールス」は太陽の力が弱まった遠い未来の地球であることが暗示されていますが明確には書かれていません。
セヴェリアンが共和国の首都から1-2巻で旅たって戻ってまた旅たち、3-4巻でさらに遠くまで行ってまた戻ってくるという様式のロード・ストーリーでもあります。

1-4巻通してとりあえず普通にストーリーライン追って読んだ限りでは、前述のとおり主人公セヴェリアンに感情移入しにくかったというところはありますが、巧妙に仕組まれた異世界と奇妙な登場人物の奇妙な行動をそれなりに楽しめる作品と感じました。

ラストではもっとさまざまな謎がすっきりきれいに解決するか、大きな謎を残して終わるような展開を期待していたのですが...。
なんだかちっちゃく中途半端にまとめたような感じも受けました。

解説やらネットでの評価にもありましたが作中さまざまな伏線が張られているようで深く読みには1回読んだだけでは足りない作品でもあるようですね。
(といってしばらく再読する気にはならないなぁ…。)

以下各巻感想と内容紹介など

1巻「拷問者の影」は、登場人物紹介的な感じで拷問者組合を追われたセヴェリアンが美女と出会い波乱万丈の冒険をしながら旅をする一般的な活劇風の構成になっています。
SF臭は殆ど感じませんが、1巻で出てきた人たちのほとんどは巻が進むごとにパッと見ためと大きく異なる人(ときには人でさえない?)であることが明らかにされていきます。
そういう意味ではギャップを際立たせるために書かれた巻なんでしょうかねぇ。

2巻「調停者の鉤爪」は冒頭部分が1巻ラストで首都の城門を出る所から不連続で、その辺の事情がまったく説明されていないのに戸惑いました。
(何か意図があるのでしょうか?1巻と2巻は連続しているようでしていないとか….)
序盤は1巻の中世的な雰因気を受け継いでいますが、話が進むにつれこの世界がSF的「おかしな世界」であることが示唆されてきます。
1巻最後で何やら大変な目に会って首都を旅出ったようなのに、あっさり戻ったりもしています。
(戻るのはあっという間、何やらすごろくで振り出しに戻る感じ)

あれやこれや首都の独裁者の城でこの世界の「謎」を垣間見て、セヴェリアンは再び首都を出発します。
この巻最後では魔女が呼び出したものに出合いますが、ここの部分の存在する意味は最後まで読んでもわかりませんでした…..。
続編の「新しい太陽のウールス」を読んで「あーそういうことね」とは思いましたが、それでも必然性があるのかはいまだに理解できていません…。

このように普通に読んでいると意味のよくわからない場面が随所に出てきます。
この辺が「何回も読み返さないと理解できない作品」といわれているところなんでしょうね。

3巻「警士の剣」も2巻最後の「???」な流れからから不連続で始まりますが、この辺は1-2巻の間で体験済みなのでそれほど戸惑いませんでした。
序盤は可憐な美女ドルカスと共にスラックスに警士としてたどり着いたセヴェリアンは順調な仕事ぶり(拷問者ですが…)で穏やかに暮らしています。
その後いろいろあって再び辺境へ向けて旅立ちます。(逃げ出す)
道中で様々な人やら獣やら、宇宙人(?)やらに出会うのですが….。

この巻のほとんどを占める逃避行部分は描写が非常に観念的で分かりにくく、3巻が読むのに一番苦労しました。
内容紹介にあるセヴェリアン少年との「心のふれあい」的なところが普通に読むと「どうなるかな?」と興味を引かれましたが….。
セヴェリアン少年はあることであっさりいなくなってしまう…。

その他いろいろ謎が提示されここまで話を広げて「最後どう収拾をつけるのかな?」という期待感を持ち読了。

4巻「独裁者の要塞」は3巻最後での巨人との戦いでテルミヌス・エストを失い、「拷問者」としてのアイデンティティがあいまいになったセヴェリアンがひょんなことから死人を生き返らせて体をこわし、ペルリーヌ尼僧団に保護されます。
そこで共和国と交戦しているいかにも全体主義国家的なアスキア人捕虜と出会います。

セヴェリアンの属する「共和国」はアメリカがモデルなんでしょうが、その共和国とよくわからない戦闘を続ける「アスキア」はソ連がモデルなんでしょうね。
この辺はこの作品が書かれた80年代という時代背景を感じます。

ペルリーヌ尼僧団の一員として生きていくかに思われたセヴェリアンですが….。
なんだか意図のよくわからない使いに出され戻ってみると、ペルリーヌ尼僧団はきれいに消えてしまっている。
そんなこんな彷徨ううちに共和国軍に加わり戦場で倒れて…..。

そこから先は本書がセヴェリアンが「独裁者の要塞で回想して書いているものというもの」という設定なので、なんとなく「こうなるんだろうなぁ」という読み筋の展開ではありましたが場面展開が急で話の内容も抽象的描写が多く、私の頭では理解しきれませんでした。

でもまぁ理解できるところだけを追っていくと1巻冒頭と2巻途中で意味ありげに出てきていたヴォダルスが実は全然重要人物でなく道化的役割であることがわかったり、拷問者組合に帰ってきたセヴェリアンと師匠との対面、最後のドルカスとセヴェリアンの関係が明かされる辺りなどけっこうベタベタな展開であったりします。
「宇宙」と「太陽」の真実が語られている辺りもなんだか難しくは書かれてはいますが…。
SF的に陳腐といえば陳腐な「絶対者」を想定した宇宙論のような感じもしました。

テーマである「新しい太陽」はセヴェリアンが将来的にもたらすんだろうなぁ…というのが暗示されきれいに終わっているようでもあるのですが…。
なんだか全然納得できないラストでした。(笑)

もっとじっくり書いてくれると思っていたのですが甘かったですね。

1回読んだだけでは理解しきれない作品と思いますが、全4巻読了して正直徒労感がありました…。
4巻の大森望氏の解説どおり「セヴェリアンの絶倫ぶり」は妙に印象に残りました(笑)

なおいろいろ「???」な部分残りますが、「新しい太陽のウールス」読むとかなりの部分解決はされます。(がなんだか釈然としないのはそのままです)

名作なんだか迷作なのか私には判断できない作品ですが、「不思議な世界」を楽しめる作品ではあると思いました。

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ヒゲのウヰスキー誕生す 川又一英著 新潮文庫

2015-04-11 | ノンフィクション
「マッサン」終わってしまいましたが…。
(本書を読んだのは放映中の2月中旬)
朝の連ドラ好きなので「マッサン」も見ていたので買ってしまいました。
「マッサン」のモデル、ニッカの創業者・竹鶴政孝の伝記です。

ブックオフで買いましたが「マッサン」に合わせて再刊されたようです。(2014年7月発行)

内容紹介(裏表紙記載)
いつの日か、この日本で本物のウイスキーを造る――。大正7年、ひとりの日本人青年が単身スコットランドに渡った。竹鶴政孝、24歳。異国の地で、ウイスキー造りを学ぶ彼は、やがて生涯の伴侶となる女性リタと出会う。周囲の反対を押し切って結婚した二人。竹鶴は度重なる苦難にも負けず夢を追い、リタは夫を支え続けた。“日本のウイスキーの父”の情熱と夫婦の絆を描く。増補新装版。


前に読んだサントリー創業者の鳥居信次郎氏をモデルにした「美酒一代」を「文学的でない」的にけなしましたが、本作の方がさらに文学的でなく「ライターが書きました」的な内容です。

本書の著者もいろいろ人物伝書いている方のようですが、やはり杉森久英氏の方が作家として上な気がします。

杉森久英氏が書いた「竹鶴政孝」も読んでみたかったです。
波瀾万丈度では竹鶴氏の鳥井氏より上だった気がします。
(「美酒一代」では役割が矮小化され紹介されていますが….。)

いろいろ見方はあるんでしょうが造り酒屋を継ぐことを期待されながらも、摂津酒造に入社し英国に単身ウィスキー造りのために渡ってしまう。
(この辺は杉森氏の他作である「天皇の料理番」に通じるところかありますね)

「社長の婿に」という期待も裏切りスコットランド人の奥さんを連れて帰ってきて、摂津酒造でウィスキーを造らないとみるや鳥居商店に転職、気に入らないと自分で会社起こしてウィスキーを造ってしまう。

相当なバイタリティ...というか結構ひどい人のような気もします。
でも事業を起こそうとすれば出資者がつくわけですから魅力のある人ではあったんでしょうねぇ。

内容的にはスコットランドで竹鶴が学ぶ辺りのところが一番面白かったです。
スコッチウィスキーの歴史は意外と浅いんですね。
特にグレンウィスキーとのブレンドは20世紀に近くなってからのようで、竹鶴氏が学びに行ったときにはある意味最新知識だったのでしょう。

戦後もかなりウィスキーの質にこだわる竹鶴氏ですが、と氏とリタの食通ぶりも「美味しんぼ」的でなかなか興味深かったです。
そういえば昔「美味しんぼ」で竹鶴氏が紹介され山岡士郎がニッカウィスキー飲んでいましたね。

今「マッサン」効果でニッカウィスキー売れているようですがウィスキーが飲みたくなる1冊ではありました。
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光の王 ロジャー・ゼラズニィ著 深町真理子訳 ハヤカワ文庫

2015-04-05 | 海外SF
ヴォル・ゲーム」に続きSFです。

今年に入って「2010年宇宙の旅」から「ヴォル・ゲーム」まで比較的エンターテインメント寄りのSFを読んでいたのでボチボチ重め(と思われる)作品を読もうと本書を手に取りました。

本書の作者のロジャー・ゼラズニイはディレイニーらと並びアメリカのニュー・ウェーブSFの代表的作家ということになっているようです。

ゼラズニイ作品は小学校高学年の時に「わが名はコンラッド」の文庫本を図書館で何回か借り結局読まないで終わったのが記憶に残っています…。
ということで結局未読だった作家ですので今回が初ゼラズニイです。

知りませんでしたが「わが名はコンラッド」はギリシャ神話に題材を取り、本書はインド神話というように神話を題材とした作品が得意な作家のようです。

なお本書含めゼラズニイ作品現在すべて絶版の模様。
ということでブックオフで昨年購入

本書は‘12年ローカス誌SFオールタイムベスト23位、’06SFマガジンベスト38位にランクインしておりターゲット作品だったので購入していました。
1967年発刊1968年のヒューゴー賞を受賞しています。

内容紹介(裏表紙記載)
遙かな未来、人類は地球から遠く離れた惑星にインド神話さながらの世界を築いていた。地上の民衆は無知なまま原始的生活を送り、<天上都市>の不死となった<第一世代植民者>は科学技術を独占し、神として民衆を支配している。だが、シッダルタ、仏陀、サムなどの名で知られる男が、圧制下にある民衆を解放すべく、敢然として神々に戦いをいどんだ…たぐいまれな想像力で、SFと神話世界をみごとに融合した未来叙事詩。

俗っぽいシッダルダが出てくる点では光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」に似ていますが、まぁゼラズニイがマネをしたというわけではないでしょう。(百億の…の方が発表少し前)

なお「百億の昼と千億の夜」の方が話のスケールは大きいですが本書の方が丁寧にインド神話をなぞって破綻のないストーリーを展開している分緻密です。

本作のネット評価を見ると「読みやすい」とか「おもしろい」という評価だったのでそのつもりで読み始めたのですが….。

私的には第1章は全然説明もなく話が展開していき「???…」でした。

第2章は説明もなくいきなり「過去?」という話になるので、さらに「?????」となりましたが第2章の終わり辺りでなんとなく筋立てが見えてぐんと読みやすくなりました。

時系列的には最終章の直前が第1章という感じで、各章1つのエピソードに独立しています。
最初は面喰いましたが、なかなか効果的な構成です。
どういう展開で第1章の話につながっていくのか、わかるようでわからないようになっていて面白かったです。
特にヤマがいつどうやってサムと仲間になるのかの興味をうまくつないでいます。

仏教やらヒンドゥー神話と遠い星のSF的お話との融合もうまいもんだなぁと思いました。
私はあまりその辺詳しくなく手塚治虫の「ブッダ」で描かれたシッダルダやらのお話しか知りませんがその程度の知識でも「なるほどねー」と感心しました。

ちょっと調べたところ、例えば主要登場人物「ヤマ」は「閻魔」なんですね。
(中国で道教とくっついて閻魔大王になっていったようです。)
意外とヒンドゥー教の神々は日本にまで影響を及ぼしているんですね。

というように話しの流れはかなり凝ったつくりですが、根本的にはシッダルダ=サムの「民主主義」的な社会を志向する行動が、専制的な体制に対して最終的に勝利を収めるという単純な話でもあります。

第2章からシッダルダがいろいろと革命を仕込んでいるのですが「勝利」へのキーマンは圧倒的な技術開発力と戦力をもつヤマ。
ヤマの裏切り理由はシッダルダの力というよりも基本的にふられた恨み….。
とこの辺も意外と単純です。
この辺が「読みやすい」とされるところですかねぇ。

そうはいっても背景にある「転生することが可能な人間の命って何?」とか、インド神話と登場人物のキャラ付など深く考えるといろいろ思う所が出てくる作品でもありそうです。

あとあまり触れられていませんでしたが神々が転生するための人間の体って「もともとその体の持ち主の命はどうなっているんだろうか?」と気になったりしました。
取られちゃった人は可哀そうですよね…。
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