しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

日蝕 平野 啓一郎著 新潮文庫

2013-01-31 | 日本小説
「鏡の影」の流れで読もうということで入手。
こっちは「芥川賞作品」ということでブックオフにまぁあるだろうということで探して購入(250円)。

本作が芥川賞を取った時(1999年)に単行本を購入したのですが、途中まで読んで断念しました、探せば物置にありそうなんですが....。

挫折したのは同じような時期に村上春樹の「スプートニクの恋人」が出て読み出したためだったような記憶があります。
作品としての出来はともかく、面白さは村上春樹だったなぁ、などと思いながら読み出しました。


ということで
あらすじ(裏表紙記載)
現代が喪失した「聖性」に文学はどこまで肉薄できるのか。舞台は異端信仰の嵐が吹き荒れる十五世紀末フランス。賢者の石の創生を目指す錬金術師との出会いが、神学僧を異界に導く。洞窟に潜む両性具有者、魔女焚刑の只中に生じた秘蹟。華麗な文体と壮大な文学的探究で「三島由紀夫の再来」と評され、芥川賞を史上最年少で獲得した記念碑的デビュー作品。

物議をかもした(らしい)「三島由紀夫の再来」ですが、私はどうも三島由紀夫氏が苦手で読了した作品がないため、その点はわかりません。
読み出した動機の「鏡の影」との関係、中世ヨーロッパ、錬金術などの道具立てと漢字が
多いというところは似ていましたが、パクリとは私には感じられませんでした。
出来はともかく「鏡の影」の方が力作な気はしましたので、「日蝕」が大々的に売り出されて、同じような道具立ての片方が絶版になればいい気はしなかったかもしれませんね。
(なお文庫版の表紙の図はあおっているような気がしたんですが...)

で、本作の感想ですが、印象としてまず浮かんだのが斉藤智裕=水嶋ヒロ氏の「KAGEROU」、処女作ということで気負いがちなような気がするところ「似ているなー」というところ。
(パクリ云々ではありません)

出だしの錬金術者との出会いくらいまでは、不気味な感じと当時話題となった「擬古文調」もマッチしていてよかったと思います。
ただ「両性具有者」出現あたりからクライマックスの焚刑のあたりが、どうも入っていけませんでした。
現実離れした「両性具有者」をわざわざこの筋立てで出す必要がわからなかった。
(そういう意味ではKAGEROUの心臓を巻く「ゼンマイ」の方が斬新)
いっそのこと「両性具有者」=「異星人」とでもして、SF仕立てにした方が面白そうな気がしました。
もしかしてそういう筋立だったのだとしたら読みが足りなかったですが...、日食=太陽をUFOが隠したからだとか。(純文学にはならない気がしますが)

主人公もこの経験をしてもあまり変わっていないですし...(人間そんなに変わらないということを言いたかったのかもしれませんが)
錬金術者と両性具有者の関係も謎のままだったのも気になりました。
(これは余韻ということでいいのかもしれません)

処女作らしい新鮮さと雰因気を軽く楽しむにはいい作品かと思いますがあまり期待をもって読むとお勧めできないというのが本音の感想です。
物語としては「鏡の影」の方が面白いです。(すごくではないですが...)

まぁ「スプートニクの恋人」の方が面白いという結論で...(よくわからない結論ですが。)


↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

鏡の影 佐藤亜紀著 講談社文庫

2013-01-26 | 日本小説
「闇の左手」を読んでいたときに佐藤亜紀氏を思い出して、なんだか気になっていろいろネットで見てみました。

いまはアクティブでないようですがネット上にご自身のご意見を発信していた場を見つけてのぞいたのですが、これが面白い。
(wikipedlia辺りから入ると見られます)

基本主観をまったく抑えないでの言いたい放題ですが、素直に発信している感じが伝わってきて好感が持てました。

佐藤亜紀氏といえば前段に出たHPでも語られていますが、今回読んだ「鏡の影」と平野啓一郎氏のデビュー作にして芥川賞受賞作「日蝕」と新潮社を巻き込んだ「ぱくり」騒動は避けられない話題のとして出てきます。
件の騒動は佐藤亜紀氏が「日蝕」は「鏡の影」のぱくりで、新潮社はそれがバレないため鏡の影を絶版にしたと表明し新潮社から出版していた3作の版権を引き上げた、というもの。

私は別に佐藤亜紀氏のファンというわけではなく著作も「バルタザールの遍歴」を読み「1809」を半分くらい読んで途中のままという程度の読者ですが、なんとなく気になる作家で独特のスタイルは魅力的だなぁと思っています。
「日蝕」は芥川賞受賞のとき読み始めて挫折しただけで通読しておらず、その後も平野氏を特に気にしたことがないので、私は心情的に佐藤さん寄りかと思います。
ネット上の意見では芥川賞作家で体制寄りの平野氏よりも、「面白い」佐藤氏寄りの意見が多いですが....。
佐藤氏の行動と言動は第三者的に見ると騒ぎ過ぎなような気はしますね...。
誰も得しない話ですし。

ただ、佐藤氏のHPで「ぱくり」というか「下敷き」「参考」として他作を使うことがあるという話をしていて、自身の「バルタザールの遍歴」も萩尾望都氏の作品やらなにやらを参考にしているということを言明しています。
平野氏は「佐藤氏の作品など読んだことも聞いたこともない」と言明していますが、文学作品先人の業績の上で成り立っているのは否定できないとは思うので、平野氏の言明はちょっと硬すぎるような気もしますね。
ル.グィンの「闇の左手」でも、設定にアシモフやらハインラインの影響もあるでしょうし。(もっともアシモフもハインラインも文句つけたりはしないでしょうが...)
アシモフも「銀河帝国興亡史」は「ローマ帝国衰亡史」のぱくりだと堂々といっていますしね。

「先人の業績の上に作品が出来ている以上、同じような設定になることもあるが、私が仕上げた作品であり批評は自由にして貰って結構」くらいにすればいいのになーという気がしますした。
まぁデビュー作にケチをつけられて面白くない気持ちもわかりますが...。
行動はともかく理屈は佐藤氏の方に分があるような気がします。
(だからさらに頭に来るのかもしれませんけれども)

まぁそんなこんな考えていたら本作「鏡の影」がとても読みたくなり新品を本屋で購入してしまいました。

内容(裏表紙記載)
世界は何によって、どんな風にできているのか?百姓の小倅であるヨハネスは、ふいに彼を襲った疑問に憑かれて旅に出る。折しも異端審問やペスト、農民一揆に揺れる十六世紀初頭。ヨハネスは美少年シュピーゲルグランツを伴って迷い多き道を辿るのだった-。
圧倒的筆力で話題を攫った傑作長編小説。

文庫で450ページの大作です。

感想はあくまで私の主観ですが、期待外れ...でした。
佐藤氏の文章はもう少し「硬い」ル.グィン的文章なイメージだったのですが、この作品ではちょっと違う感じでした。
読んでいる途中で、読み通すのが苦痛というか「なにか無駄な時間を使っているなぁ」という気持ちを抑えて読み切る感じでした。
あくまで私の主観ですが新潮社が絶版にした気持ちもわかるような気がしました。

中世ヨーロッパやらキリスト教の知識は殆どないので、なにか比喩的な内容が含まれておりそれが「楽しみ方」というのなら私にはわかりませんが、どうも私的に受け付けなかったのは構成的な問題、まずは、

○主題は何なのか?どこに行ってしまったのか?
最初の主人公ヨハネスの発見「全世界を変えるにはある一点を変えるだけで充分であることを発見する」を巡る話のような気がするのですがそれが最後まで全然生かされていない。(ような気がする)
最終的には「悪魔」と「人間」との掛け合いが軸になっているようですが、伏線がなく唐突でなんとなく成り行きでそうなってしまったというような印象を受けました。

○場面が成り行きで転回していく。
前半、ヨハネスがいろいろ動いて、落ち着くかなぁと思うとガラッと転回してしまう。
とりあえず書いてみて広がらなかったら「場面を変えちゃえ」ということで書いているような印象を受けました。(週刊誌連載の少年漫画のよう?)
後半「ボーレンメント」に入ってからは話の方向が定まってきて読みやすくなってきますが前段の伏線が生かされていないような...。
前半でヒロインになりそうな感じで出てきたベアトリクス姫は後半ほったらかし...。
ラストで帳尻合わせ的に出てきますが(と見えた)なんだかなラストに感じました。

それでもとりあえず読ませてしまうのはこの作者の「筆力」なのかもしれませんが、私的には前半部分をもう少し整理した方がいいような感じを受けました。

「伏線を回収しなきゃ」などというのは凡人の発想なのかもしれませんが気になってしまうんですよね。
Amazonのレビューなど読むと高評価をつけている人が多いので私の読み方が悪いのかもしれませんが。

この後に書かれている「1809」はもう少し落ち着いた作品だったような気がします。
読了してないので機会を見つけて読んでみたいです。

でもまぁ話の流れで次は「日蝕」を読んでみようと思います。


↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

地球は空地でいっぱい アイザック・アシモフ著 小尾芙佐・他訳 ハヤカワ文庫

2013-01-22 | 海外SF
5-6年前にブックオフで購入(400円)。
その頃古本屋で「永遠の終わり」を見つけて久々に読み返してえらく感心しアシモフ作品を何冊か買ったのですが読まないまま本棚の肥やしになっていました。
この本は一回途中まで読んでいたのですがその時読み通せなかったので今回最初から読み直し。
先回の「闇の左手」が重い感じなので口直しな感じもあったりしますが、軽い感じで楽しく読めました。

(長く持ち歩いていたのでボロボロになってしまいました)

内容(裏表紙記載)
カルタゴの人身御供の儀式、クレオパトラの鼻、キリストの処刑、ニュートンのリンゴ……いかなる時代も場所も、クロノスコープを使えば自在に見ることができる。その使用許可がもらえなかった歴史学者は危険な賭けに挑んだが? あらゆる学問が政府の統制下におかれた未来を描く代表作「死せる過去」のほか、過去・現在・未来の地球を舞台に巨匠が奔放な想像力をくりひろげ、軽快な筆致で描きだす珠玉の17短篇を収録する。

1950年代(1953-1957)に書かれた短編をまとめたものです。

全体的に軽い感じで書かれている作品を集めている感じですが、小説家として脂がのりだしてきた時期の作品らしく、それぞれまとまりがよく読みやすい作品に仕上がっています。
50-60年前に書かれたものですからさすがに内容が古びてはいますが、テンポは速く現代的です。

それぞれ感想など
○死せる過去
内容は裏表紙に記載されたとおり。(もっとライトな感じですが)
ハードSF風な感じで、仕掛けそのものは今となれば大したものではないですが、登場する歴史学者・物理学者の「思い」が錯綜する感じがなかなか楽しめました。
学者生活が長いアシモフ博士ならではの描写ですね。

○SF成功の要諦
「SF」に関する詩です。
まぁ内容云々するものでもないような気がしますが、アシモフらしいファンサービスという感じ。

○投票資格
コンピューター「マルティヴァック」が全てを管理する社会での大統領選挙について。
コンピューターが選んだ代表1人が投票すればそれで終わりということになっており、それに選ばれた男性のお話。

今の日本の選挙でも開票率1%とかで「当確」が出たりしているんですから、そういう世の中も確かにありそうですね。
これもその男性のなんとも微妙な気持ちと、「こんな選挙でいいのかなぁ?」と漠然と考えさせるところが余韻となって楽しめます。

○悪魔と密室
悪魔と取り引きして願いをかなえた男性が、最後にどのようにするか?というお話。

このテーマも星新一が結構ショート・ショートで書いてましたね。
SF的解決方法で解決するのですが、最後はちょいと宗教的なことを考えさせようというところでしょうか。
この辺は非西欧人である我々には今一つわからないところですね。

○子供だまし
ファンタジー作家の前に現れた妖精をめぐる騒動についてのお話。

執筆中に現れた妖精の場面はなんだかブラウンの「火星人ゴーホーム」の冒頭を思い起こさせました。
「作家」の自虐ネタという感じですが、なんだかブラウン的な作品。
その辺狙っていたのかな?

○高価なエラー
地球に来訪した金星人と田舎町の保安官についてのショート・シュート。
これもブラウンあたりが書きそうだなぁ。
(解説でも草上 仁氏がアメリカSFにありがちなお話と書いていました)

○住宅難
多次元宇宙上の他の地球にマイホームを建設した地球人が直面した問題とは?という作品。

「多次元宇宙」の概念がスーと入ってこない人にはなんだかわからないだろうなぁという作品。
そういう意味ではSF上級者向けの作品。(この辺の設定も今となっては古いんでしょうが)
膨らませれば長編になりそうなアイディアですが短編でまとめてしまっています。
というわけで発想は楽しめますが、展開はちょっと雑かなぁと感じました。

○メッセージ
戦争のない30世紀から20世紀の戦場に送り込まれてきた者が残したメッセージとは?というショート・ショート。
まぁショート・ショートです。

○お気に召すことうけあい
「ロボットの時代」に収載されているものと同じです。

○地獄の火
原子爆弾に関するショート・ショート。
アシモフは原子爆弾嫌いなんだろうなぁという感じですね。

○最後の審判
ライトに書いていますが、タイトルどおり宗教色が強いお話ですね。
悪魔の要請で1957年に突然最後の審判の時を迎えた地球をめぐるドタバタとなんとか助けようとする天使のお話。

最後の審判ネタでパニック小説的に仕上げるとまぁ作品に仕上がるんでしょうねぇ。
死人がよみがえったりでステレオタイプになりますが...。
いろいろ書いていますが、アシモフの原子爆弾への嫌悪が現れている作品といえるのではないかと感じました。

○楽しみ
コンピューター社会が進み家でマシン相手に勉強しているこどもが、登校して「人」の先生がいる昔の学校を思うショート・ショート。
現代ではこの辺のネタは手垢が付き過ぎているような気もします。

○笑えぬ話
「投票資格」でも出てきたコンピューター「マルティヴァック」が出てくるお話。
マルティヴァックに質問した「ジョーク」に関わる真実とは...。
これも着想としてはブラウンの短編にありそうな感じですが、マルティヴァックが出てくるところ、質問する「グランド・マスター」の心理描写などはアシモフ的な作品で軽妙でしゃれた仕上がりになっていて好感が持てました。

○不滅の詩人
現代に読みだしたシェークスピアはどうなるか?というお話のシュート・ショート
アシモフらしいしゃれた仕上がりです。

○いつの日か
おとぎ話しか話せない機械仕掛けの「詩人」を少年たちはばかにするが....。
ロボットものに分類してもいい作品かもしれませんが三原則は語られていないのでなんだか怖いラストになっています。
「投票資格」「楽しみ」に通じるコンピューター社会への懸念が出ている作品。

○作家の試練
「作家」に関する詩です。
創作の苦悩を語っていて、解説では次に出てくる「夢を売ります」につながっていると書いていますが、つながっているかは私には「?」に感じられました。
詩は苦手なのでよくわかりません...。

○夢を売ります
ドリーマーが作り出す「夢」が商品となっている世の中で起こるいろいろ。

表現方法は違っても人々が楽しむ「創作」物にはいろいろ試練があるというお話。
「ドリーマー」「夢」を創る力はなくてもなんとかいいものが世に出ていくように奮闘する夢販売会社社長のウェイルがかっこよかったです。
アシモフの敬愛する編集者キャンベルあたりがモデルでしょうか。



解説にも書かれていますが、この短編集全体として「歴史に残る名作」という感じの作品はありませんがなかなか軽く楽しめる作品が並んでいます。
「“名作”以外読むのは時間の無駄だー」という人にはお勧めできませんが、こういうのも私は好きですねー。
みんな芸術的な名作ばかりでは疲れてしまいます。

私的には「死せる過去」「笑えぬ話」が、コンピューター社会やら原子爆弾についての啓蒙といった余計なものがなく、登場人物が魅力的で好感が持てました。
非日常的な展開で人がどんなことを感じるかというものを考えさせるのがアシモフの魅力なんでしょうね。


↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

闇の左手 アーシュラ・K・ル・グィン 小尾 芙佐訳 ハヤカワ文庫

2013-01-19 | 海外SF
しばらく(中学から高校生くらいだから20年くらい)SFから離れていて、最近のはやりがよくわからないため、ネットで「SF」「名作」で検索すると必ず上位に出てくるのがこの作品。
(ヒューゴー・ネピュラ ダブルクラウン!!-などという言葉も今更知った、スゴイ!ネット社会...社会の方がSF化しているような)
原書が1969年発行で、ハヤカワ文庫が1978年初版だから中学生の時にはすでに出ていたはずですし、その当時も評価高かったんでしょうが当時は存在すら知りませんでした。
当時(80年代前半くらい)の「SFこれを読め」的な本では、「幼年期の終わり」「夏への扉」「宇宙船ビーグル号」アシモフのロボットもの、「発狂した宇宙」「ソラリス」あたりの古典的なものが推奨されていてなんやかんや読んだつもりでいましたがそんなに読んでなかったんですねぇ。
本作、今回読んでみましたが、これは中学生の私には読み切れなかっただろうなぁと感じましたのでその頃出会わなくてよかったですが....。
ル・グィン自体は、ジブリで「ゲド戦記」が映画化された後「ゲド戦記」シリーズを一通り読んだので初体験ではありません。
(映画が2006年公開だからもう6~7年前ですね)

ということで気になっていたところ昨年末ふらりと寄ったブック・オフで見つけて購入しました。(400円)

あらすじ(裏表紙記載)
遥かなる過去に放棄された人類の植民地、雪と氷に閉ざされた惑星ゲセン。<冬>と呼ばれているこの惑星では、人類の末裔が全銀河に例をみない特異な両性具有の社会を形成していた。この星と外交関係をひらくべくやってきた人類の同盟エクーメンの使節ゲンリー・アイは、まずカルハイド王国を訪れる。だが、異世界での交渉は遅々として進まない。やがて、彼は奇怪な陰謀の渦中へと・・・・・・。ヒューゴー、ネピュラ両賞授賞の傑作

ハヤカワに裏表紙記載のあらすじはどれもそうなのか、これも今一つ作品の展開とずれているような....。
「人類の植民地」というのもちょっと違う気がするし、「奇怪な陰謀の渦中」というのはかなり違う気がします。
人類の同盟エクーメンの使節ゲンリー・アイの外交関係を開く苦労を描いたものというのはその通りですが....。

作品は、読み出しからかなり重い。
佐藤亜紀氏のヨーロッパものの展開(といってもメジャーじゃないですよね、そんなに読んでもいないのでよくわからないんですが・・・)という感じで、エンターテインメント的でないというか読者にわかりやすい説明的な展開がない状態で進んでいきます。

物語はエクーメンの使節ゲンリー・アイと、ゲセン人(カルハイド人)であるハルス・レム・イル・エストラーベンの二人を軸に展開していきます。

あらすじ的に書くと至極単純な話になりそうな話な気がしますが、ゲセンとエクーメンの外交関係を開くためのなんやかんやの経緯を濃密に書いており、それに民話風の話をまじえて、宗教・政治・性・人種を超えた「人と人とのわかりあい」の問題など、問いかけ風に書いていていろいろ考えさせるようになっています。
私に純文学の素養は殆どないですが、「SF」とか「エンターテインメント」の枠を超えた小説、純文学に近い(?)小説になっているのかなぁという感じ。
これと比べるとスタージョンなどはまだまだマニアックなエンターテインメントの枠に収まっていますし、アシモフなど読者サービスとバカ騒ぎに終始しているだけということになってしまうかもしれませんね。
SFとして読むと、世界観とかSF的カラクリとしては陳腐という評価にもなるかと思います。
(銀河中の単一種の人類というのはアシモフの設定ですね)
政治的な描写については発表が1969年ということで米ソ冷戦というのも背景にあるんだろうなぁということを感じました。
オルゴレインのモデルはソ連なんでしょねぇ、時代と無関係にはなかなかなれませんね。
米国はエクーメン、一部カルハイドといところでしょうか。

感心というか「すごいなぁ」と感じたのは、最後の方の主人公の氷原での逃避行の場面。
空想上の惑星なのにその自然やら地理やらのディテールへの凝り方はものすごいです。
ここまで描いて誰も読んでくれなかったらすごく虚しいだろうなぁ、などと余計なことを考えてしまいました。
植村直己氏の犬橇行をつい最近読んだ人間にも違和感ないぐらいですから相当な出来だと思います。
作者のル.グィン氏、相当粘着質な性格じゃないかと思いました、その他の場面も結構粘着質な気がしましたし。
(これに比べればゲド戦記の設定は結構いい加減な気がする)
エストラーベンのどのような状況でもめげない超人的な「力」も魅力的でした。
ラストも前回スタージョンの「夢見る宝石」で書いたような描き過ぎという甘さも感じませんでした。
最後に明かされた事実も「なるほどねー」というものでしたし。
惑星ゲセン=<冬>のとても「寒い」描写も見事でした、読んだのが冬というのもあり体感温度が数度下がったような気がします。
ただエストラーベンとゲイリーの関係は最後までもう少し緊張関係にあってもよかったような気もしますが、まぁこんな感じでいいんでしょうね。
SFのオールタイムベストの上位に来るのもわかります。

多分中学生から20代の私だったら読み通せなかった作品だと思いますが、40代の私は結構楽しめました。
ただ無条件に「素晴らしい作品」と称賛できるかというか30代ほど純真ではないのでなかなか難しいですね...。
なんだか作者のたくらみというか、「どうだすごいだろう」「考えさせるだろう」なんだか「文学だろう」と裏で作者が考えているような感じを受けました。
そういう意味ではこの作品よりも、ゲド戦記の最初の三冊(影との戦い1969年、こわれた腕環1971年、さいはての島へ1972年)の方が児童向けということもあり力が抜けていて好感が持てました。
(これが楽しめる児童というのもコワイ気がしますが...、特に最初の2冊のなんだかわからない感じが良かった、間をおいて書かれた続編はなんだか...)

アシモフが大衆向けに「いい感じでしょう」と作った工芸品、スタージョンが見巧者の旦那向け工芸品とすれば、ル.グィンの「闇の左手」は職人あがりの芸術家が二科展で賞を狙う油絵という感じを受けました。

職人の工芸品と芸術家が作るアートどちらが優れているのか??という話ですがどちらもいいものはいいという話なんですがねぇ。

解説にもありましたがSF史としてはエポック・メイキングな作品なんでしょうし、最初入っていければ面白い小説だと思います。

↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

夢見る宝石 シオドア・スタージョン 永井 淳訳 ハヤカワ文庫

2013-01-12 | 海外SF
アシモフ作品かなり続けて読んでちょっと満腹感が出てきたので、毛色の違ったSFに手を出しました。
SFを読むにはそれなりに「SF頭」にならないときつい感があったりもするのでとりあえずSFにしてみました。

本書は、昨年末ふらっと入ったブック・オフで105円で売られており、先日読んだ「人間以上」が面白かったのでスタージョンが気になっていたため迷わず購入したもの。

あらすじ(裏表紙記載より)
養父にひどい折檻をされ、家を飛び出したホーティ少年は、街を旅するカーニヴァルの一座に保護された。団長のモネトールは、奇形動物や奇妙な人間を集めるかたわら、不思議な能力をもつ水晶を探していた。一見なんの変哲もないその水晶は実は生きており、痛みや憎しみなどさまざまな感情を発する。そして水晶が夢見るとき、土の塊から花や昆虫が、小鳥や犬が生まれるのだった・・・・・・。幻想SFの巨匠がつむぎだす珠玉の名品

これを読むとなんだかメルヘンチックな展開を思い浮かべますが、暗いトーンで割とシュールな作品です。
裏表紙を読んだだけで買った人だと最初の数ページで読まなくなるかもしれません。

同じ「SF」ですが、読み出しからアシモフに慣れた頭を切り替えるのに苦労しました....。
「サイエンス」の要素がかなり薄く、「ファンタジー」の要素が濃厚な作品です。
アシモフが「理科系」アプローチだとすると「文科系」アプローチですね。

アシモフは初期作品集で「ファンタジーを書きたい」との意欲を語っていますが、アシモフはこっち系のアプローチは無理だろうなぁということを感じました。
初期作品集で試みている作品を何作か読みましたがとても成功しているとは思えないですし、純粋に理科系からアプローチしていって、そこから「人間」の問題が垣間見えてくるという展開がアシモフの小説の魅力なんじゃないかと思います。

ただ本好き一般の人は文系的アプローチの方がなじみ深いせいか、アシモフ全盛時に知名度では全然比較にならなかったスタージョンの作品、見直しの機運が出てきて結構人気のようです。(ネットでみた限りですが)
サービス精神豊富なアシモフよりいわゆる「文学的」でちょっとわかりにくいスタージョン的な作品の方がなんだか高級な感じがするような気もしますし。

余談が長くなりましたが本作、先日読んだ「人間以上」でも感じましたがとにかくうまいですね。
幻想的な世界の中でいろいろと場面が展開していきますが、最終的に「なるほど~」と思わせるような結末に向けてまとめていく力はとにかく感心しました。
序盤は若干重い展開でしたが、それがしっかり生きて中盤から終盤にかけてどうなるか先が気になってどんどんページが進みます。
全編通じて幻想的で切ない感じの世界観もとても好感が持てました
ただし最後のドタバタが終わってからのラストはちょっと書き過ぎな気がしました。
もう少し切り詰めた方が感動的だったような気がします。
この辺うまくやっていたらかなりの名作という評価になったのではないかと思います。

人間以上でもラストが「ちょっとどうかなぁ」とも感じたのでこの作者の特徴なのかもしれませんね。

スタージョン、長編の代表作は本作と「人間以上」のようです。
人間以上の方が完成度は上な感じがしますが、全編通じて割と重い展開なので、この作品のフワフワとしながらコンパクトにまとまった感じも好きな人は好きでしょうね
良書だと思いますし長く生き残りそうな気がしました。

でもアシモフ的アプローチも結構好きなのでこっちも今後とも生き残って欲しいと切に思っていたりもします。


↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村