しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

聖者の行進 アイザック・アシモフ著 池 央耿訳 創元推理文庫

2014-01-29 | 海外SF
本年第3段も年末実家から持ってかえってきた本書を読みました。
これまた小中学生のころ愛読した本です。

本書11編の中短編を収載していますが、「バイセンテニアル・マン」(映画にもなったアンドリューNDR114の原作ですね)のイメージが強くロボットものの作品集のイメージがあったのですが、ロボットものは「女の直感」「心にかけられたる者」「バイセンテニアル・マン」「三百年祭事件」の4編しかありませんでした。

またスーザン・カルビン女史が登場していた記憶があったので、比較的初期の作品集なイメージでしたが70年代に書かれた作品をまとめて76年に発刊されていたものでした
(原書の表題作「バイセンテニアル・マン」は76年)
記憶というのは怪しいものですね。

この頃以降のアシモフの他の短編集と同様、アシモフ自身による作品成立経緯など簡単な紹介文付となっています。
これも記憶になかった….。

内容(扉記載)
アンドリュウの彫った木のペンダントは芸術の域に達するほどのものだった。 だが、彼はロボットなのだ・・・・・・USロボット社が彼を作った頃は、地球上にほとんど数えるほどのロボットしかいなかった。まだ実験段階にあったポジトロン頭脳が、およそロボット離れした才能を彼に付与したのだった。やがて彼は“人間”への道を歩みはじめる。法的自由を求め、衣服を求め、そして人間と寸分もたがわぬ体(ボディ)を求めたロボットが人間となるために最後に求めたものは? 表題作ほか11篇、巨匠アシモフの最新短編集。

とりあえずの感想「良くも悪くもアシモフらしい短編集」
アシモフ作品は一昨年かなり集中して読んだので、全体的に新鮮味がなく「いかにもアシモフ」だなぁという感想になってしまいました。
そういう意味では、「がっくり」したというのが正直な感想ではあります。

小六か中一位で初めて読んだとき「バイセンテニアル・マン」読了後しばらくボーとして「こんなSFもあるんだ・・・」と感動に打ち震えた記憶があるのでちょっとさびしいですが…。

でも40代で今回読んだ「バイセンテニアル・マン」も「ちょっとベタだなぁ」とも思いましたがサー、リトルミスとの死別、最後辺りは思わず涙腺が緩みました….。

この作品集では「バイセンテニアル・マン」が飛びぬけた出来で、あとは「まぁそれなり」というように感じました。
アシモフの短編は他にもいえますが、結構当たり外れがある気がします。
結構適当に書いてるんだろうなぁ・・・・・。

解説でその辺の事情がちらりと書いてあり、本人は確信犯だったようです。
それだけに時々出てくる「バインセンテニアル・マン」のような「大当たり」作品を手にした編集者は原稿貰った時うれしいだろうなぁなどというようなことを思ったりしました。

そうはいいながらも「バイセンテニアル・マン」以外もロボットものはそれなりに力作で楽しめるとは思います。
また軽い感じですが「マルチバックの生涯とその時代」もアシモフらしいユーモア精神あふれて好きな作品です。

各編紹介と感想など。

○女の直感 Feminine Intuition
隕石で破壊された直感的にものを考えるように作られた「女性」ロボットが見つけた事実は....?
スーザン・カルヴィン最後の事件。

典型的な(?)陽電子ロボットもの、ミステリー仕立てで楽しめる作品です。
最後にカルヴィン女史が出てくるのは「名探偵登場」という感じで「おっ」となります。
でも最初に飛行機が隕石で破壊されたことについて思わせぶりな「ふり」をしていたのに、謎解きがなかったのが気になりました。

○ウォータークラップ Waterclap
 月世界から深海に来た男の目的は?

「科学者」アシモフらしい作品だと思いますが、消化しきれていないような気がしました。

○心にかけられたる者 That Thou Art Mindful of Him
人間について考え続けたロボットの出した結論は...。

人間がロボットを恐れる対策をロボットに考えさせていく過程は楽しく、その中で「人間」について考えだしてしまうという話ですが、最後の部分はちょっと書きすぎかなぁと感じました。
この作品「ある意味アシモフのロボットものの究極」と言われているようですが、この辺の発想が後のロボットものと銀河帝国ものとの統合につながっていくことは感じられます。

○天国の異邦人 Stranger in Paradise
同じ父、母での兄弟が非常に珍しい未来で顔のそっくりな科学者兄弟は…。

この作品もロボットものに分類してもいいような気もしますがミステリ仕立てではありません。
「兄弟」で何かを成し遂げるという内容は、「ガニメデのクリスマス」収載の「遺伝」(1940年執筆)の焼き直しといっていいい内容。
その辺のイメージがあり「兄弟だからどうした?」という思いが頭から消えずどうも楽しめませんでした。
「前世紀の遺物」「三百年祭事件」でも同じテーマの作品を書きなおした的なことをアシモフ本人が書いていましたのでこの作品も意図的かもしれませんね。

○マルチバックの生涯とその時代 The Life and Times of Multivac
マルチバック反対運動者から孤立してしまった男の成し遂げたことは….。

「小品」といっていい作品で軽く、筋・オチも大体読める作品ですが….。
なんだかツボにはまりました。
人間ってこんな所ありますよねぇ「ほんとにやっちゃったのぉ」という感じ。

○篩い分け The Winnowing
博士が発明した物質は人それぞれ異なる細胞膜機構に作用できる仕組み。
国家は人工飽和状態の世界でそれを活用しようとするが…。

これも短く力が入っていない感じですが、最後博士がキレてしまう所が結構好きです。

○バイセンテニアル・マン The Bicentennial Man
ロボット、アンドリュー・マーチンは木彫りに芸術的才能を示し、その他にもロボットばなれした能力をもち人間化していくが最後は…。

12年ローカス誌オールタイムベスト中編部門第4位のSF史上に残る名作です。

前述しましたが、結構ベタベタな作品で、「アンクル・トム」的なありがちな話ではあります。
ロボットの「人権」は「鉄腕アトム」で手塚治虫が書いているテーマでもあります。
(多分アトムの方が先)
本当にありがちな話だとは思うのですが.....。
要所要所で涙が出そうになりました。
こういう話弱いんですよねぇ。

他の雑誌向けに書かれた本作を読んだ女性編集者は「この作品を嫌いになろうと努力したがどうしてもできなかった」そうです。
アメリカ建国200年記念のアンソロジーのために軽く書いた作品のようですが、ノッたんでしょうね…「アシモフ」時々ものすごい作品が出てきます。

○聖者の行進 Marching In
精神病医からトロンボーン奏者・作曲家が相談を受け音楽を作ることに。

なるほどねぇ…。という作品

○前世紀の遺物 Old-fashioned
小惑星帯で事故にあった二人の男が助けを求める通信手段は….。

作者によると37年前に書いた「ヴェスタの遭難」=「真空漂流」(「アシモフのミステリ世界」収載から宇宙観がどれだけ変化したかを見せたくて同じような状況を書いたとのこと。
アシモフらしいお遊びですが、まぁ作品の出来はそれなりです。

○三百年祭事件 The Tercentenary Incident
建国300年祭りで握手していた大統領が白煙化して消えてしまった….。

これも作者いわく30年前の「証拠」(「わたしはロボット」収載)と同様の主題で書いたとのこと。
「証拠」より手慣れている感じですが、前作の方が緊張感があって…。
でもまぁアシモフ氏いわく「進歩したと思われない限り手紙は下さいませんように」とのことなのでやめておきましょう。(笑)

○発想の誕生 Birth of a Notion
SF愛読者の物理学者は発明したタイムマシンで遡るが、知能が後退してしまいそこで出会った人物は….。

これも小品です。
「SFファン」が知能が後退しても「SFファン」なところが笑えます。

解説で興味深い話が書いてあったのでご紹介。

アシモフは評論などで作品に「自分のスタイルがない」「深みがない」と批判されていて、また一部で「そんなことはなく実は深い意味がある」と反論している意見がることに対し
アモフ自身の自己分析してこんなことを書いています。

1.あまりにも多作であること
いっぱい書いているのに「どうして物語に深みや複雑さを付け加える深遠で複雑な思想にふける時間があろう。」だそうです。

2.あまりにも若かった
最初のロボットものを書いたのが19歳、「夜来る」を書いたのが20歳、「銀河帝国の興亡」を書き始めたのが21歳。
「そのような若さと環境でどうして繊細さなどが生まれよう。」

3.あまりも無知であること
「経済、心理学、社会学、音楽、美術、現代文学などについては何も知らない」

ので作者が意図して隠された意味とか深い意味など書いていないといっています。
これだけだと開き直りとも取れますが…。(笑)

さらに、「たとえ作者が気づいていなくても読者の方には読み取ることのできる」といっています。
(作者も気が付かなかった効果を指摘され「なるほど」と思うことがあるそうです)

1.多作について
「才能を持っているのではなくて、才能に私が所有されて」「私の中の守護神がいて」「守護神が微妙さや複雑さを付け加えているのかもしれない」

2.若さについて
11歳からものを書いていて最初からいつでも物語の語り方だけは知っていた。

3.無知
完全な無知ということはなくいろんなものを読み、抜群の記憶力があれば聞きかじりでなんとかなる。「心理歴史学」など。

ということで、アシモフはあくまで「おもしろい話を書こうとつとめ」「深い意味付けや印象的な微妙さなどは意図的に追わないようにして」「物語ることを忘れたりすることは絶対に起こって欲しくない」そうです。

アシモフの論理的で明瞭な作風を考えるとよくわかる話のような気がします。
それでアシモフ作品はときどき「守護神」が降りてきて「すごい!」作品が出てくる。

ハインラインのように「政治だ!」「宗教だ!」と力いっぱい語られるより好きかもしれない…。

お涙ちょうだい話が好きな方も、守護霊がおりてくる方も。
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都市 クリフォード・D・シマック 著 林克己・他訳 ハヤカワ文庫

2014-01-22 | 海外SF
今年二作目として「発狂した宇宙」と同様実家から年末に持って帰ってきた「都市」を読みました、これまた小中学生の頃とても好きな作品でした。

シマックの作品は本作しか読んでいないのですが、この1作だけで「俺はシマックファンだ!」などと中学生らしい思い込みをした記憶があります。
(恥ずかしい記憶だ)
他のシマック作品、当時売っていなかったような記憶があります。
(今は本作すら売っていませんが…。)

繰り返し読んでいたのでカバーもボロボロ…。
本作も30年ぶりくらいの読み返しなので、これまた読み返すのが楽しみなような怖いような…。

12年ローカス誌オールタイムベスト40位、1952年の発刊。
分解された男」「幼年期の終わり」「人間以上」の第一回ヒューゴー賞争い作品の前年の発刊です、まさにSF黄金時代だったんですねぇ。

内容(裏表紙記載)
機械文明の超高度な発達の結果は、皮肉にも人類に広場恐怖症を蔓延させた。 やがて人々は都市を離れ、次第に郊外へと、宇宙へと、そして異世界へと旅立っていった。 都市はいつしか廃墟となり、幾所世紀を重ねる間に人類の存在さえ一つの神話化して膨大な時の流れのなかに見失われてしまった。 いまや地球の支配は、かつて人間によって開発され、優秀な頭脳を持つに到った犬族へと移っていた。 かれらはわずかに残る古代の文献の整理、校訂することで、幻の人類伝説の再構成を試みたもだが・・・・・・。 1953年度国際幻想文学賞の受賞に輝く、シマックの古典的名作ついに登場!

国際幻想文学賞は1951年-57年の間イギリスのSF大会で選考されていた賞。
1954年には「人間以上」、1957年には「指輪物語」が受賞しています。
選ばれている作品はすごい(?)のですが、継続性を考えると権威があるようなないような....。

8編の中短編をつないだ形式の作品ですが、つなぎ方も絶妙で各編毎の出来もすばらしく
それぞれに様々なSF的仕掛けが入り破綻なく情感たっぷりに仕上げています。
同じような形式で構成されている「火星年代記」や「わたしはロボット」よりもつなぎが良く、一つの作品としてまとまっていますように感じました。

さて本作を読んだとりあえずの感想ですが…。
「なんとも名作らしい名作」
感想ともいえない感想ですが、とにかく最初に出てくる感想はそうなりました。
欠点は「欠点がないこと」という位で、難をいえば「とがったところ」がないとも言えるかもしれませんが、素直に読めば誰が読んでも「名作だ」となるんじゃないかなぁという作品です。
しかも小中学生が読んでも40親父が読んでも楽しめる、スゴイ。

内容については「人間以上」+「幼年期の終わり」+「バイセンテニアル・マン」×0.9+αというようにも感じました。
「人間以上」の小説としての巧みさ、人類の変容の描写×0・9
「幼年期の終わり」の人類の終末観とスケールの大きさ×0.9
「バイセンテニアル・マン」の長寿命ロボットと人間との関係性の情感×0.9
それぞれの要素かなりスゴイのですが、ちょっと足りない(笑)

それを補って余りまではない気がしますが…+αがあります、名作ですね。

第一話 都市と第二話 密集地、第三話 人口調査、第四話 逃亡者の一部、長年の間存在し続ける執事ロボット、犬が出てきたのは覚えていましたがほぼ忘れていました。
第五話 パラダイスでの木星の出来事辺りから先は全然覚えておらず、豊かな発想に今回読んでいて終始圧倒されました。
小中学生の私にはよくわからなかった良さだったんだろうと思います。

また本作犬好きにはお勧めです。(笑)

絶版ではありますが、amazonで見たら700円から売られていました、もしお読みでなければ読んで絶対損はない作品かと思います。

私もまた他のシマック作品が読みたくなりました。
(30年ぶりの気持ちだ!)

名作好きな方も、犬好きな方も。
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発狂した宇宙 フレドリック・ブラウン著 稲葉明雄訳 ハヤカワ文庫

2014-01-16 | 海外SF
2014年最初に読んだ本です。

一昨年辺りから海外SFを積極的に読みだしていますが、それまではほぼ中高生くらいで海外SF読書体験は止まっていました。

その頃は、今回実家から持ってきた本書「発狂した宇宙」「都市」「聖者の行進」と「夏への扉」「星を継ぐ者」「わたしはロボット」「鋼鉄都市」の評価が私の中では飛びぬけて高く何回も読み返していた記憶があります。

昨年は「わたしはロボット」「鋼鉄都市」を久々に読み返し当時の輝きが感じられなかったという悲しい思いをしたので若干怖いのですが、今年1発目は「発狂した宇宙」としました。

読むのは多分中学生のとき以来だからざっと30年ぶりくらい。

1949年発刊、指標にしている’12年ローカス誌オールタイムベストではベスト100に入っておらず340位です。
私は本作歴史的名作だと思うのですが、評価が低いなぁ。
「パラレルワールド」ものの定番となっている作品ですし。
‘06年SFマガジンでもベスト入りしていない…。

納得いかないですが…まぁしょうがないですね(笑)

内容(裏表紙記載)
第一次月ロケットの計画は失敗に終わった! 不運にも墜落地点にいたSF雑誌<サプライジング・ストーリーズ>の編集者キース・ウィンストンの遺体は、粉微塵に吹き飛ばされたのか、ついに発見されなかった。 ところが、彼は生きていた―――ただし、なんとも奇妙な世界に。 そこでは通貨にクレジット紙幣が使われ、身の丈7フィートもある月人が街路を闊歩し、そのうえ地球は、アルクトゥールス星と熾烈な宇宙戦争を繰り広げていたのだ! 多元宇宙ものの古典的名作であると同時に、“SF”の徹底したパロディとして、SFならでは味わえぬ痛快さと、奇想天外さに満ちた最高傑作!

何度も読んだので覚えているかと思っていたのですがさすが30年ぶり、細部はほとんど覚えていませんでした。
(大きな流れは覚えていましたが)

今回読了後のとりあえずの感想「ブラウンは奇才だ…。」
ストーリーそのものは陳腐といえば陳腐ですし、文章もうまいような下手なような微妙な感じもないではないのですが、発想とシニカルさが尋常ではない…。

なんとも唖然としながら、楽しく読める作品です。
人を食った形ですがハッピーエンドですし。

ディックとブラウンの作品の裏表紙内容紹介にはよく「奇才」と書かれてますが、私はディックは「天才」でブラウンは本当に「奇才」な人な気がしました。
いわゆるパラレルワールドものの古典的作品なのですが、徹底的「SF」をバカにした(愛はある??)世界を造形しています。

基本いわゆるスペースオペラを馬鹿にしているのですが、「なんでもあり」のハチャメチャな設定をSF的論理では批判できないように仕組んで書いておりハードSFも含めSFというジャンル全体を茶化しています。

一方でストーリーはブラウンらしく軽妙で楽しく、シニカルで素直に読んでいても楽しめるようになっています。

中高生頃は「楽しい作品」の方で評価していたと思うのですが、今回読み返してみてSFというジャンルへの茶化し方がなんともツボにはまりました。

例を挙げれば
○恒星間飛行発見
ミシン改良をしようとして偶然発見
それを知るのがH.G.ウェルズの「世界史概観」を読んで。

○月に空気があって「月人」がいる。
当時のSFでもさすがに月には空気はないだろうというのが主流だったようです。
当然火星人も金星人もガニメデ人もいる。

○元の世界で主人公が編集していた「宇宙の驚異」誌はこの世界では冒険小説。
SF雑誌は他にあり、タイムマシンものなどを掲載している。

○この世界のヒーロー「ドペル」
超絶的頭脳の科学者にして、高い身体能力、素晴らしい容姿、司令官としての能力を持つ人物。
17歳にしてハーヴァード大で設けている全ての講座を残らずとり優を取り、フットボール部の主将として活躍、余暇に冒険小説を書いてたちまちベストセラーという人物。
23歳で全太平洋宇宙艦隊の司令長官。
作中主人公キースはドペルを評して
「あまりにも完璧、あまりにも空想的で、実在人物にはとてもなりがたい。大衆雑誌に登場する人物としてさえ不相応なのだ。正常なこころをもつ編集者なら、こんな現実離れした登場人物をあつかった作品を採用するはずない。漫画本の編集者はいざ知らず・・・・」
と言っています。(笑)
確かにライトノベルでもここまでの人物は出てこないし、出てくるのは幼児向け漫画くらいかなぁ、「出木杉くん」でもここまでではないですが…。

こんな世界でも人物でも「あり」なところがこの作品宇宙の「発狂」しているところですね、しかもこんな宇宙でもSF的論理ではまったく破綻していない。(笑)
いやー馬鹿にしている。

他、宇宙連邦警察を向こうに回しピストルを奪う場面、ベティの服装などにやりとりなど思わず「ニヤリ」とする場面多数でした。
昔はこの辺の楽しさわかっていませんでした。
いやーこどもだったんだですねぇ。

あとこの作品で記憶に残っていたのは「霧」の場面でしたがこれも期待通り印象的でした。

ブラウンといえば短編の名手といわれていますが、本作は短編より伸び伸びと余裕たっぷり書かれているように感じました。
もしかしたら長編の方が向いていたのかも知れませんね。
この作品が処女長編らしいですが素晴らしい出来です。

読みながら「誰が解説を書いていたんだっけなぁ?」と気になっていたのですが、楽しみに読了まで見ないで置いたら....。

解説は「筒井康隆」でした。
まさに適任、いいこと書いていました。
確かに「筒井康隆のパロディ精神も本作のブラウンほどではないかもしれないなぁ」などと感慨にふけってしまいました。
筒井康隆が本作についてasahi.comに書いているのも見つけました。ほぼ本解説と同様)

他ネットで見ていたらwikipediaでは本作について
フィリップ・K・ディックは後にこれをモデルとして、独自の現実と虚構が交錯する小説を生み出した。
などと書かれていました。

本当か嘘かは「?」ですがなるほどねーです。

福島正実氏が、SF入門的な本で本作と「夏への扉」をパラレルワールドとタイムマシンもの作品の例として紹介していて、「タイムトラベルで歴史を改変するということはある意味パラレルワールドに移行したともいえる」的なことを書いていた記憶があります。
そういわれてみると「夏への扉」も基本構造が本作とよく似ています。

タイムマシンもパラレルワールドも何でもありではありますが、それだけに逆に構造が似てくるのかもしれませんね。

しかし書けば書くほどスゴイ作品だと思うのですが、これほどの傑作が新品で手に入らないのは残念です。
SFへの入口ににこれほど最適な作品はないと思うのですが。

パラレルでなくボーゲン(?)という方も、スペースオペラ上等!という方も。
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実家での本漁り(日本SF編)

2014-01-09 | 日本SF
年末実家に帰った時の本漁り海外SFに続き日本編です。

日本SFは現在のところ重点分野にないので持ってくるか悩んだのですが、あまり実家に帰らないので(親不孝だ...)この際持って帰ってきました。

豊田有恒作品が「パチャカマに落ちる陽」「倭王の末裔」などなどかなり、筒井康隆作品も「48億の妄想」「霊長類南へ」「筒井順慶」などあまり評価されていないで絶版の作品もかなりありましたが今回とりあえず見送りました。

この二人結構好きだったんだなぁとあらためて感じました。

で持ち帰ったものは

○星新一
ショート・ショートは今回持ち帰らないことにして(絶版じゃないし)この5冊。
「進化した猿たち 1,2,3」面白そうなので。
「きまぐれフレンドシップpart1」parat2を読んで気になっていたので。
「祖父小金井良精の記」好きな作品なので、河出文庫で出ているんですが高いですし。
全部SFじゃないですが....。
まぁ星新一は存在そのものが日本SFということで。

○日本SFベスト('06年SFマガジン長編オールタイムベスト上位もの
・小松左京

オールタイムベスト2位「果てしなき流れの果てに」、34位「継ぐのは誰か」

小松左京後半力尽きるんですが...まぁ。

・「産霊山秘録」

オールアイムベスト8位
これも後半力尽きているような記憶もありますがまぁとりあえず。

半村良は他にも「亜空間要塞の逆襲」他伝奇物もありましたがこれだけ持ち帰りました。
この人は他の余り長くない伝奇ものの方が面白い気はします。

・光瀬龍
「百億の昼と千億の夜」オールタイムベスト1位

この作品も竜頭蛇尾感あるんですが...。
あと面白かった記憶のある「征東都督府」これも後半破綻しますが、光瀬龍では「征東都督府」の方が出来がいいと思うのですが評価されていないですね。

○矢野徹

いろいろありましたがとりあえずこの2冊。
「地球0年」はいまいちだと思いますが、「折紙宇宙船の伝説」は小松左京の諸作がベスト入りしているくらいならランクインしてもいいと思うのですが....

矢野徹氏のファンで全冊コンプリートを目指していたりします。
迷いましたがその他も結局持って返ってきてしまった。
また機会があればご紹介します。

○「家族八景」

上でも書きましたが筒井康隆いろいろあったのですがとりあえずこれを持ってきました。
絶版でもなく、ランクインもしていない本作を持ってきたのは....面白そうだから。
七瀬シリーズは、どんどんつまらなくなっていった記憶があるのですがこれは純粋に面白かった。
本作と「富豪刑事」は余計なことを考えず「面白さ」だけを追求している作品な気がします。

○「続・時をかける少女」

筒井康隆ではなく、NHKのドラマ用に書かれた作品。
私の「時をかける少女」体験は実はこちらから(笑)
小学校の頃図書館で借りて読んで、その後古本屋で見つけて購入。

本家「時をかける少女」が映画化されて有名なのにずっこけるほど小品なのに対し、それなりに長いです。
「こりゃぁ間違いなく絶版だろう」と思っていたのですがamazonで見たら「復刊ドットコム」で出ていました
私以外にも好きな人いるんですねぇ。
NHKのドラマ用に書かれた作品ですが面白かった記憶がうっすらと。
「ラベンダーの香り」う~ん懐かしい。

「時をかける少女」で、「あなた~私のもと~からー♪」と浮かんだ方も、それ以外の方も。
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異星の客 ロバート・A・ハインライン著 井上一夫訳 創元推理文庫

2014-01-08 | 海外SF
'13年に読んだ感想積み残し第三弾。
これで'12年の積み残しは終わり、ということで昨年最後に読んだ本です。

細かい活字で10ページから始まり778ページまで本文の続く大作。
読み終わるまで15日間かかりました。

所有せざる人々」でも書きましたが、本作を読むと'12年ローカス誌SF長編オールタイムベスト2位~16位まで既読になるため入手して読み出しました。

ブックオフで見つからなかったためamazonで新品を購入1,600円。
本屋にはあまり並んでいないようなので品薄なのでしょうか?


ということで本作、'12年ローカス誌長編オールタイムベスト11位。
ハインラインの作品のなかでは最上位です、1961年発刊。
ヒューゴー賞受賞。

ハインラインが意図したかしないか謎ですが本作は60年代後半にヒッピーの聖書とされていたようです。
ということでwikipediaによると
ブライアン・アッシュの『SF百科事典』によれば、「SF界で最も有名な、というよりおそらくは最も悪名高い作品の一つに急速にのし上がってしまった長編」。
と書かれています。
宇宙の戦士」の2年後、「月は無慈悲な夜の女王」5年前の作品ですがハインラインの中でも特殊な位置を占める作品といえそうです。
(私がそんなにハインラインを知っているわけではありませんが....。)

内容(裏表紙記載)
宇宙船ヴィクトリア号で帰った”火星から来た男”は、第一次火星探検船で火星で生まれ、ただひとり生き残った地球人だった。 世界連邦の法律によると、火星は彼のものである。 この宇宙の孤児をめぐって政治の波が押し寄せた。 だが”火星から来た男”には地球人とは異なる思考があり、地球人にはない力があったのだ。 巨匠ハインラインがその思想と情熱のかぎりを注ぎ込んだ超大作。

とりあえずの感想、「とにかく長い」と「小説=物語としては破綻しているなぁ」ということ。

SF的アイディアはそれなりに詰め込まれているので巨匠ハインラインであればもっと話を膨らませて面白くできそうなものですが、意図的なのかブツブツ切っていて薀蓄話にあふれていて面白くならない。

それが延々750ページ以上書かれている。
かなり読むのに苦労しました。

前段の火星から来た男マイクの権利を確保する辺りまで(第二部まで)は、ハインラインの知識のひけらかすための人物的な老学者ジュバル・ハーショーの超人性が鼻につき、いささか雑な展開ですがSF小説していますが、(ジュバルはハインラインの分身的人物設定らしいです)後半は小説の形を借りた宗教論的展開になってきます。

思想をストーリーに昇華させないで登場人物に語らせる、しかも作者の分身的人物に....。
なんとも鼻もちならない感があるのですが、なんだかんだ読んでしまうと印象には残ってしまう(笑)内容にはなっています。

作中何度も出てくる火星語「グロク」=「認識」が頭の中にこびりついて来て、本作を読んでいる最中に「グロクした」とかうっかりいいそうになったりしました。
あとトンデモ的展開として平井和正の「幻魔大戦」のこが頭に浮かびました、崩れかたは「幻魔大戦」の方が上かと思いますが...。

ハインラインがどこまで本気で登場人物に語らせているかは「?」ですが、宗教について何か語りたかったんでしょうね。
あとは異なる前提を持つものどうしが分かり合えるか=グロクできるか?ということがテーマでしょうか。
この辺を思いっきりストレートに書いています。

宗教については「所有」と「愛」、「宗教」が並存できるかどうか?というテーマを書いているのかなぁと感じました。
この辺端的にでているのがジュバル・ハーショーが新聞記者ベン・カクストンに最後の方で語った「愛とは、他人の幸福が自分自身にとって欠くことのできない状態」、愛とは嫉妬と相いれない感情としています。

この辺「所有」の概念をグロクできない火星から来た男マイクのことばを借りて突っこまさせています。

モーゼの十戒の「汝姦淫するなかれ」「汝盗むなかれ」も「所有」という概念がなければ成り立ちませんしねぇ。
(私は成り立たないような気がするですが...宗教は詳しくないです)

他、異なる存在どうしのグロクについてもいろいろ書いています。
この辺でフリーセックス的な表現も多く出てきますね。

まぁ両者とも壮大な問いなので答えが出るはずもなく、あの世=天国的存在を戯画的に書いたりして答えを濁してはいます。

なんとも印象に残る作品ではありますが、エンターテインメントという感じでもなく、芸術的作品とも違う気がする、なんとも微妙な位置の作品ですね。

ハインラインの「薀蓄小説」とでもいうのが一番合うような...。
この作品がオールタイムベストの11位にランクされているのは私的には「???」ですが、アメリカ社会では前述のように「悪名」でインパクトがあった作品のようですのでその辺が評価されているのと、アメリカ人はマッチョなハインラインが好きなんだろうなぁ。

「月は無慈悲な夜の女王」も「革命」やら「政体」やら薀蓄たっぷりな作品だったような気もしますし(これも老学者=ハインラインの分身? が重要な役割果たしていた)、「宇宙の戦士」「暴力」に対する薀蓄がかなり含まれている作品なので60年代以降のハインラインはそういう傾向だったんでしょうかねぇ。
でも本作は上記二作ち比べてもはるかに「小説度」が薄い作品になっています。

ハインラインの長編は他に「夏への扉」(1957年'12年ローカス誌67位)しか読んでいないのでなんともいえませんが...。
(これは薀蓄小説ではなかったと思います)

よく「夏への扉」の評価が日本で高くアメリカでそれほど高くないことが日本人の未熟さ的に言われていますが、私的にはローカス誌オールタイムベストで上位にある「異星の客」「月は無慈悲な夜の女王」「宇宙の戦士」を読んでみて、やはり「夏への扉」の方が好きですねぇ。

アメリカ人の感性を批判するわけではないですが、日本人的感性があってもいいんじゃないかと思います。

ということで年の終わりに巨匠ハインラインの作品ということで楽しみに読んだ作品ですが、残念ながら「凄い楽しい」読書ではありませんでした。

でもまぁ「小説」という形態としてはかなり外れた作品のような気がしますがインパクトはありました。
「SF」いろんな作品がありますねー。

今年(14年)も海外SF読んでいきたいと思っています。

薀蓄はどうもという方も、グロクしたという方も。
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