ヴォルコシガン・サガシリーズ、'12年ローカス誌オールタイムベスト65位の「メモリー」にたどり着くため「遺伝子の使命」に続き本書を読みました。
本自体は3年前(2015年)にブックオフで入手済でした。
![](https://c2.staticflickr.com/2/1755/42515584632_cbe904518f_n.jpg)
この本も現在絶版中...。
1989年発刊。
本書の構成は、中編3編を間に「つなぎ」風の物語を挿入してまとめて長編風にしています。
この、間を「つなぐ」形式はアシモフの「わたしはロボット」に通じるものがあります。
「遺伝子の使命」の感想でもアシモフっぽさ感じたのですが...ビジョルド、アシモフファンだったのでしょうかねぇ。
収載中編各編の時代設定は「喪の山」(ヒューゴー/ネピュラ賞受賞)がマイルズが士官学校を卒業した直後、「戦士志願」と「ヴォル・ゲーム」の間あたり。
「迷宮」が「遺伝子の使命」「天空の遺産」と本書収載の「無限の境界」の間くらい。
「無限の境界」が「親愛なるクローン」の直前となります。
「喪の山」は他作品からある程度独立している内容ですが「無限の境界」はその直後が「親愛なるクローン」のはじまりにつながりますので読んでおいた方がいいでしょうし、「迷宮」のエピソードは「ミラー・ダンス」を読むのであればは必読なのではないかと思います。
内容紹介(裏表紙記載)
傭兵艦隊提督マイルズが回想する冒険の数々。機知と勇気だけを頼りに戦いを挑むマイルズの本領が発揮される。単身、敵星セダガンダ帝国の捕虜収容所に潜入しての、一万人の大脱走作戦を描いた表題作の他、故郷の山村で無知と偏見の故に起こった殺人事件の調査に赴く「喪の山」、悪徳と腐敗の商業惑星の遺伝子研究所に潜入する「迷宮」など、ヒューゴー賞/ネピュラ賞受賞作を収録。
読後の感想、直前に読んだ「遺伝子の使命」は「いまいち」感が強かった感想書きましたし、正直私がこれまで読んだ「ヴォルコシガン・サガ」シリーズの感想は、「いかにもアメリカ人好みの貴族趣味」と「正義」感、キャラクター頼みのご都合主義的展開とは感じていて「世間の評価ほどではないかなぁ」という印象でした。
というわけで本書もあまり期待しないで読んだのですが....。
いい意味で裏切られた感じで、本書収載の3中編どれも「大傑作だなぁ」と感じました。
解説ではビジョルドを「典型的な長編作家」として評価していましたが、本書読んで「中編の方が得意なんじゃないか?」などと思いました。
各編とても読みごたえがあり「ヴォルコシガン・サガはちょっと」という人にもお薦めです。(でも「戦士志願」くらいは読んでいないと世界観わからないかもしれません)
各編感想など
・喪の山
士官学校を卒業しヴォルコシガン領で休暇を取っていたマイルズのもとに訪れた女性は山奥での偏見故に起きた殺人事件を訴え、マイルズが現地へ捜査に赴くが...。
1990年ヒューゴー/ネピュラ 中長編部門受賞
果たしてこれはSFなのか....SFといってよいのか?というくらい中世チックな世界設定で、ミュータントの「まびき」問題を正面から向き合って描いています。
なんとも重苦しい展開ですが...星々を旅する時代になっても人間って...などと思いをはせる展開です。
ファンの選ぶヒューゴー賞だけでなくプロが選ぶネピュラ賞も受賞しているだけあって構成のしっかりした作品、ミステリー仕立てでもありマイルズの名推理と領主の名においての名裁きが光ります。
が....領主の名裁きって...SFとしてどうなんですかねぇとは思いました~。
・迷宮
悪徳商館が支配するジャクソン統一惑星に乗り込んだマイルズは、流れから遺伝子研究所に忍び込み...。
この後のシリーズ作品にも登場するタウラの「初」かつ衝撃の登場作です。
題名の「迷宮」はギリシャ神話のミーノータウロスに由来でしょう、「タウラ」も。(wikipedia)
安易な遺伝子改変への怒りとその結果に対する無責任さへの怒りと悲しみ・矛盾について考えさせる内容です。
そういう意味では「喪の山」とも通じるテーマですね。
両性具有者のデンダリィ艦隊参謀ベル・ソーンの遺伝子改変された「人間」を「人間」としてみないジャクソン統一惑星の商館主たちへの怒りなど脇筋も興味深い(後に「ミラー・イメージ」で大変なことになる...)ですが、本作で圧巻なのはなんといっても狼少女(?)「タウラ」とマイルズの「迷宮」での出会いと関係性でしょう。
素直に「すげぇ展開...」と思わされました。
各商館主たちのなんだかギャングチックなキャラも楽しめました~。
ヴォルコシガン・サガシリーズ本来のマイルズが大暴れするアクションとして長編よりテンポよく進んでいる分楽しめる作品でした。
「ジャクソン統一惑星とはこういう世界なんだ」ということは「遺伝子の使命」を読む前によんでおけばよかったかなぁとも思いました。
・無限の境界
セダガンダ帝国の捕虜収容所に捕虜として潜入したマイルズの脱走作戦は....。
テーマとキャラと展開の勢いで読ませた「迷宮」と対照的に、プロットをかなり作り込んだ作品と感じました。
極限状態の設定やらなにやらフレドリック・ブラウン風...。
なんとも独特な「地獄」の捕虜収容所からの一万人の大脱出劇、マイルズのあの行動やら、この行動やらが「こうつながるんだ」と最後に納得させられる展開です。
最後まで順調に大脱出させればいいのに....何ともやるせない展開とするのがビジョルドの憎らしい所です。
ベアトリーチェ可哀想です....。
マイルズの「哀しみ」もベタではありますがこれもこのシリーズの味ですね。
前述もしましたが本作直後から「親愛なるクローン」がスタートすることになっています。
3編それぞれ、ミステリー仕立て・アクション・緻密なプロットと味わいを変えながらも一貫して「マイルズ」「ネイスミス提督」が活躍するヴォルコシガン・サガシリーズならではのストーリーを展開する「なんともうまい」著者の手腕に感心しました。
タウラの登場する「迷宮」も捨てがたいですが、作品の出来としては重厚かつ中世を描いたような「喪の山」、軽い展開ながらも(最後は重いですが...)緻密なプロットの「無限の境界」の2編の出来が特に素晴らしく感じました。
ただ「SF」として考えると「無限の境界」が一番かなぁ。
ビジョルドの素晴らしさに気付かせていただいた作品でした~。
お薦めです。
↓シリーズもの好きの方もそうでない方もクリックいただけるとありがたいです!!!コメントも歓迎です。
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本自体は3年前(2015年)にブックオフで入手済でした。
![](https://c2.staticflickr.com/2/1755/42515584632_cbe904518f_n.jpg)
この本も現在絶版中...。
1989年発刊。
本書の構成は、中編3編を間に「つなぎ」風の物語を挿入してまとめて長編風にしています。
この、間を「つなぐ」形式はアシモフの「わたしはロボット」に通じるものがあります。
「遺伝子の使命」の感想でもアシモフっぽさ感じたのですが...ビジョルド、アシモフファンだったのでしょうかねぇ。
収載中編各編の時代設定は「喪の山」(ヒューゴー/ネピュラ賞受賞)がマイルズが士官学校を卒業した直後、「戦士志願」と「ヴォル・ゲーム」の間あたり。
「迷宮」が「遺伝子の使命」「天空の遺産」と本書収載の「無限の境界」の間くらい。
「無限の境界」が「親愛なるクローン」の直前となります。
「喪の山」は他作品からある程度独立している内容ですが「無限の境界」はその直後が「親愛なるクローン」のはじまりにつながりますので読んでおいた方がいいでしょうし、「迷宮」のエピソードは「ミラー・ダンス」を読むのであればは必読なのではないかと思います。
内容紹介(裏表紙記載)
傭兵艦隊提督マイルズが回想する冒険の数々。機知と勇気だけを頼りに戦いを挑むマイルズの本領が発揮される。単身、敵星セダガンダ帝国の捕虜収容所に潜入しての、一万人の大脱走作戦を描いた表題作の他、故郷の山村で無知と偏見の故に起こった殺人事件の調査に赴く「喪の山」、悪徳と腐敗の商業惑星の遺伝子研究所に潜入する「迷宮」など、ヒューゴー賞/ネピュラ賞受賞作を収録。
読後の感想、直前に読んだ「遺伝子の使命」は「いまいち」感が強かった感想書きましたし、正直私がこれまで読んだ「ヴォルコシガン・サガ」シリーズの感想は、「いかにもアメリカ人好みの貴族趣味」と「正義」感、キャラクター頼みのご都合主義的展開とは感じていて「世間の評価ほどではないかなぁ」という印象でした。
というわけで本書もあまり期待しないで読んだのですが....。
いい意味で裏切られた感じで、本書収載の3中編どれも「大傑作だなぁ」と感じました。
解説ではビジョルドを「典型的な長編作家」として評価していましたが、本書読んで「中編の方が得意なんじゃないか?」などと思いました。
各編とても読みごたえがあり「ヴォルコシガン・サガはちょっと」という人にもお薦めです。(でも「戦士志願」くらいは読んでいないと世界観わからないかもしれません)
各編感想など
・喪の山
士官学校を卒業しヴォルコシガン領で休暇を取っていたマイルズのもとに訪れた女性は山奥での偏見故に起きた殺人事件を訴え、マイルズが現地へ捜査に赴くが...。
1990年ヒューゴー/ネピュラ 中長編部門受賞
果たしてこれはSFなのか....SFといってよいのか?というくらい中世チックな世界設定で、ミュータントの「まびき」問題を正面から向き合って描いています。
なんとも重苦しい展開ですが...星々を旅する時代になっても人間って...などと思いをはせる展開です。
ファンの選ぶヒューゴー賞だけでなくプロが選ぶネピュラ賞も受賞しているだけあって構成のしっかりした作品、ミステリー仕立てでもありマイルズの名推理と領主の名においての名裁きが光ります。
が....領主の名裁きって...SFとしてどうなんですかねぇとは思いました~。
・迷宮
悪徳商館が支配するジャクソン統一惑星に乗り込んだマイルズは、流れから遺伝子研究所に忍び込み...。
この後のシリーズ作品にも登場するタウラの「初」かつ衝撃の登場作です。
題名の「迷宮」はギリシャ神話のミーノータウロスに由来でしょう、「タウラ」も。(wikipedia)
安易な遺伝子改変への怒りとその結果に対する無責任さへの怒りと悲しみ・矛盾について考えさせる内容です。
そういう意味では「喪の山」とも通じるテーマですね。
両性具有者のデンダリィ艦隊参謀ベル・ソーンの遺伝子改変された「人間」を「人間」としてみないジャクソン統一惑星の商館主たちへの怒りなど脇筋も興味深い(後に「ミラー・イメージ」で大変なことになる...)ですが、本作で圧巻なのはなんといっても狼少女(?)「タウラ」とマイルズの「迷宮」での出会いと関係性でしょう。
素直に「すげぇ展開...」と思わされました。
各商館主たちのなんだかギャングチックなキャラも楽しめました~。
ヴォルコシガン・サガシリーズ本来のマイルズが大暴れするアクションとして長編よりテンポよく進んでいる分楽しめる作品でした。
「ジャクソン統一惑星とはこういう世界なんだ」ということは「遺伝子の使命」を読む前によんでおけばよかったかなぁとも思いました。
・無限の境界
セダガンダ帝国の捕虜収容所に捕虜として潜入したマイルズの脱走作戦は....。
テーマとキャラと展開の勢いで読ませた「迷宮」と対照的に、プロットをかなり作り込んだ作品と感じました。
極限状態の設定やらなにやらフレドリック・ブラウン風...。
なんとも独特な「地獄」の捕虜収容所からの一万人の大脱出劇、マイルズのあの行動やら、この行動やらが「こうつながるんだ」と最後に納得させられる展開です。
最後まで順調に大脱出させればいいのに....何ともやるせない展開とするのがビジョルドの憎らしい所です。
ベアトリーチェ可哀想です....。
マイルズの「哀しみ」もベタではありますがこれもこのシリーズの味ですね。
前述もしましたが本作直後から「親愛なるクローン」がスタートすることになっています。
3編それぞれ、ミステリー仕立て・アクション・緻密なプロットと味わいを変えながらも一貫して「マイルズ」「ネイスミス提督」が活躍するヴォルコシガン・サガシリーズならではのストーリーを展開する「なんともうまい」著者の手腕に感心しました。
タウラの登場する「迷宮」も捨てがたいですが、作品の出来としては重厚かつ中世を描いたような「喪の山」、軽い展開ながらも(最後は重いですが...)緻密なプロットの「無限の境界」の2編の出来が特に素晴らしく感じました。
ただ「SF」として考えると「無限の境界」が一番かなぁ。
ビジョルドの素晴らしさに気付かせていただいた作品でした~。
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