しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

エンディミオン上、下 ダン・シモンズ著 酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫

2016-02-21 | 海外SF
なかなか感想を書くペースが上がらないので大長編読めば読了後感想書いてない本が減るかなぁなどとも思いながら分厚い本書を手に取りました。
これも本自体は「ハイペリオンの没落」読了後入手はしていました。

分厚い本上下巻なのとこれ読んだら絶対「エンディミオンの覚醒」を読まなきゃいけないんだろうなぁ(これまた分厚い)とも思い尻込みしていました。

本書前述のとおり「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」に続くハイペリオン四部作の三部となっております、1996年刊行。
「ハイペリオン四部作」は’06年SFマガジンオールタイムベストでは第8位’14年では12位と人気の高い作品です。

「SFちょっと好きなんですよねぇ」と人前で口にするためには読んでおきゃなきゃなぁという作品かなぁという意識もあり読み出しました。

内容紹介(裏表紙記載)
上巻:
連邦の崩壊から三百年あまり、人類はカトリック教会、パクスの神権政治のもとに統べられていた。惑星ハイペリオンの狩猟ガイド、青年エンディミオンはパクス法廷により冤罪で処刑される直前、一人の老人に命を救われた。なんと老人はかつてのハイペリオン巡礼者、詩人サイリーナスだった!老人は、まもなく開く“時間の墓標”から現われる救世主を守ってほしいと彼に依頼してくるが…傑作SF叙事詩、堂々の第三部。

下巻:
“時間の墓標”から現われる救世主の名はアイネイアー、12歳の少女だという。彼女こそサイリーナス老人のかつての巡礼仲間、女探偵レイミアの一人娘なのだ。だがその頃“時間の墓標”には教会の支配を脅かす存在となりうるアイネイアーを捕らえんと、パクスの大軍が集結しつつあった!老人から託されたホーキング絨毯を駆り、エンディミオンは旅立つ。少女アイネイアーをパクスの魔手から救いだし、守りぬくために…。


内容紹介にもあるとおり前作から三百年後の世界を舞台としており、前二部作を読了していなくても楽しめるとは思いますが、前作で訪れたことのある惑星も出てきたり、登場人物も関係のある人たちが随所に出てきたり、話に出てきたりしますのでまぁ前作読んでからの方が楽しめるでしょう。

現在私は「エンディミオンの覚醒」も読了しておりそれも踏まえた感想になりますが、この後半二部作の前二部作からみてのレベルの落ち具合(好き好きではあると思いますが)にがっくりしておりその辺の感情が文章に出てきてしまっているかと思います…。

ネットでいろんな人の感想を見ると私同様「がっくり来た人」と「面白かった」という人にはっきり分かれるようです。
「どちらがいい」というわけではなく好みが分かれる作品なんでしょうねぇ…。

冷静に考えれば本作、エンターテインメントSFとしてよくできた作品だとは思うのですがハイペリオン二部作の名作ぶりとのギャップが自分の意識の中で埋められません。

なお先走りますが「エンディミオンの覚醒」は私の中では「ちょっとこれは…」のレベルでした。
(あくまで好みの問題だと思うので面白く読んだ人で気を悪くされる人がいたらスイマセン、「ハイペリオン」を「なにが面白いんだかわからん」という人もいましたし。

主人公のエンディミオンはハイペリオンで裁判にかけられる辺りまでは、けっこうハードボイルド系キャラなのですが徐々に「人のいいちょいと抜けた青年」というかいかにもアメリカの田舎の好青年的キャラになってきます。
「アナと雪の女王」でいえばクリストフキャラです。

きっと体型も「クリストフ」っぽい感じなんだろうなぁ…。
ヒロインのアイネイネーも「いかにもヒロイン」な造形になっています。

本作の設定では前作までは詩人サイリーナスが書いた「詩編」なる文書いなっていることになっていて「伝説化」しています。
前作までと整合性取れない事象はアイネイネーいわくの「サイリーナスおじ様の勘違い」ということで修正されますが…これもちょっと興ざめだったりします…。

ただエンディミオンとアイネイネーが冒険する水の世界、氷の世界など様々な惑星の描写は想像力溢れるものですし、その冒険もハラハラドキドキ楽しめます。

「敵役」というかルパン三世でいえば銭型警部的な存在であるデ・ソヤ神父大佐の壮絶な追跡も見ものです。(銭型的物量作戦もイイ!)

ハイペリオンでは理不尽なまでに強かったシュライクにも敵役が登場し画的には最高な戦闘も繰り広げられます。

全体的に通俗的ハリウッド映画風な展開ではありますが冷静に考えれば本作、SF小説としてそれなりのレベルにあるとは思います。

まぁ面白いのですが….。
やっぱり「ハイペリオン」と比べてしまうと私的には「名作」とはいいにくいかなぁ。
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遠き神々の炎 上、下 ヴァーナー・ヴィンジ著 中原尚哉訳 創元推理文庫

2016-02-11 | 海外SF
本書は‘12年ローカス誌長編オールタイムベスト27位
課題としているオールタイムベスト完読に再び戻ろうということで手に取りました。

1992年刊、1993年のヒューゴー賞受賞作品です。

作者のヴァーナー・ヴィンジの名前は全然知りませんでした。
まぁ新しめのSF作家はほとんどしらないわけですが….。

まったく知らない人の作品を「読もう」という気になるのはリストから読む本を決めるメリットのひとつですね。

作者の経歴をちらっと調べましたが、SF作家であると同時に数学者でもあるようです。
才人ですねぇ

本自体は一昨年にブック・オフでみかけて購入済。


内容紹介(裏表紙記載)
上巻:
銀河の片隅で人類が発見した太古のアーカイヴ。だがそこに眠っていたのは人知を超えた強大な邪悪意識だった。解き放たれたそれは恐怖と混沌を巻き起こし、恐るべき規模で銀河文明を蝕んでゆく。一方この悪魔の星から、最後の希望となる手掛かりを積んで脱出した一隻の船があった。だが不時着した先の緑の星で、彼らは犬型の集合知性体が繰りひろげる抗争に巻き込まれてしまった。ヒューゴー賞受賞最新SF。

下巻:
奇妙な犬型集合知性体の星にとり残された人間の子供ふたり。対立勢力に別々に捕われ、人類のテクノロジーをめぐって抗争は激化する。一方大銀河では、強大な力をふるう邪悪意識が数多の文明を崩壊させ、機構の中枢まで壊滅させていた。虚偽と悪意の情報が乱れとぶ宇宙を、姉弟の救出にむかう人類=エイリアン共同船。だがそこにも魔の手が。絶賛を博したヒューゴー賞受賞巨篇。


この作品での銀河感は特殊な設定で銀河系の中心部から離れれば離れるほど、宇宙船の航行速度や情報処理速度が速くなるという設定。

ぱっとわかりにくいので上巻の解説で説明されていました。(解説読んでもわかりにくいのですが…)

「地球」は情報処理速度の遅い「低速圏」なる場所に位置し、そこから情報処理速度が速く技術の発達している際外圏に進出した人類やその他多数の知的生命体が割拠しているという設定。

銀河の最果て・外側は「超越界」と呼ばれ本作では神仙と呼ばれる超越者が君臨する世界となっており、そのすぐ近く上部際涯圏で人類が神仙へ至る道を開くために発掘していた太古のアーカイブから邪悪意識から解き放たれ、そこから逃げた家族が下部際涯圏にある犬型集団知性体が支配する惑星にたどり着きます。
そこにたどり着いた少年・少女の物語の軸と、中位際涯圏で働く人類女性を中心とした一団が邪悪意識の起こす災厄に巻き込まれて邪悪意識を封じ込めるための鍵をもつその少年・少女たちをめざす軸とを交互に描き、その二軸が最終的に交じり合うという構成。

少年・少女の物語の方は、冒険小説的要素と犬型集団知性体という秀逸なSF的発想をかみ合わせた割とオーソドックスなSFとなっています。
一方人類女性を描く軸ではワイドスクリーンバロック的な割と無茶な設定と意図的にレトロな仕掛けをつかったりユーモラスな宇宙人を混じることで変格的(?)SFを楽しめます。

「一粒で二度おいしい」というか、本書のアイディアで2作書けそうな贅沢な構成になっています。
SFの歴史を踏まえた構成なんでしょうがこの辺さすが90年代のSFですねぇモダンです。

少年・少女をめぐる軸では、犬型集団知性体の描写がとにかく楽しめました。
「斬伐者」とか「鋼鉄卿」のような悪役キャラ、「木彫師」「ウィクラクスカー」のような長老的善玉キャラが出てくるのですが、集団知性なので集団が切り離されたり、他の集団に近づきすぎたりすると「犬化」というか「動物化」してしまうのがなにやらかわいらしく親しみが持てました。
きっとこの作者犬好きなんだろうなぁ。

人類女性をめぐる方の軸は割と紋切型なSF的手展開をしているのですが、ところどころなにかの「パロディかなぁ」と思わせる場面もあったりで余裕たっぷり進めている感じでした。
植物質知性体のスクロードライダーがなんだかかわいらしくお気に入りです。
銀河系の中で情報処理やらの速度が変わってくるという設定が逃避行やラストに効いてくるわけですが「邪悪意識体」の正体が最後になってもよくわからないままなのがモヤモヤ感残ります。

でもまぁこの解決方法だと謎めかした方が余韻が残っていいのかもしれませんね。

この話が遠い未来なのか遠い過去なのかも「?」になる感じです。
我々はこの話の遠い未来に生きているのかもしれません....。

設定がややこしいので最初取っつきにくいかもしれませんが楽しめる作品だと思います。

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