しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

盤面の敵 エラリイ・クイーン著 青田勝訳 ハヤカワ文庫 

2017-10-16 | 海外ミステリ
オリエント急行の殺人」を読んで「ミステリーもいいなぁ」という気になり、数年前に入手していた本書を読みました。

本書入手の動機は、本作がエラリイ・クイーンのプロット担当ダネイのプロットで「人間以上」などで有名なSF作家であるシオドア・スタージョンが書いた作品らしいため。(wikipedia参照

1958年の「最後の一撃」以降のクイーン作品は執筆担当のリーの衰えのため他の作家に委ねるスタイルになっていたようです。

とはいっても本作はエラリイ・クイーンの大ファンである北村薫氏が本書のタイトルをもじって「盤上の敵」として一書著すなどもしており、この時期のクイーン作品としては評価の高い作品のようです、1963年刊行。

日本では一般的に初期の国名シリーズや当初バーナビー・ロス名義で発表された「X・Y・Zの悲劇」の方がポピュラーなようですが、海外では後期クィーンの作品の評価が高く架空の町ライツヴィルを舞台にした「災厄の町」(1942年)(日本では「配達されない3通の手紙」として映画化されています)など第三期の作品の評価が高いようです。

が、上記書いてから英米のベスト(1990英国推理作家協会・1995年アメリカ探偵作家協会ベスト)確認したら、エラリイ・クイーンが1作もランクインしていません。(ブログ見直したら私も気づいていたようですが…それほど問題にしていなかった)

日本では'12年週刊文春海外ミステリーベスト100で「Yの悲劇」が2位にランクインしている他、前記合わせて6作ランクインしている人気作家なのに….。

エラリイ・クイーン・ミステリ・マガジンを発行する等、編集者・アンソロジストとしてのクィーンは評価が高いようですが…英米では作家としての評価はそれほど高くないのでしょうか?

でも’12年週刊文春国内ミステリーベストに西村京太郎が入っていないようなものなのかもしれません。
また本書のように60年以降は代筆させたりしているのでその辺も評価されないところなのかもしれませんね。

内容紹介(裏表紙記載)
四つの奇怪な城と庭園とから成るヨーク館で発生した残虐な殺人-富豪の莫大な遺産の相続権をもつ甥のロバートが花崗岩のブロックで殺害されたのだ。エラリィは父親から事件の詳細を聞くや、俄然気負いたった。殺人の方法も奇怪ではあるが、以前からヨーク館には犯人からとおぼしき奇妙なカードが送り付けれれてきていたのだ。果たして犯人の真の目的は? 狡智にたけた犯人からの挑戦を敢然と受けて立つクィーン父子の活躍!

本作読んでの感想、実行犯及び仕掛けは初期の段階で読者には明示されているので、本格ミステリーというよりサスペンスのような作品。

「オリエント急行の殺人」とは異なり、ちょいと現代のミステリーを読みなれている人なら真犯人も物語の手前からあたりがつくのではないでしょうか?

国名シリーズでは颯爽とした生意気な若造エラリイ(以下は作者でなく作中の「名探偵」エラリィ・クイーンを指します)がやさぐれた中年男となって(ちょっとニート入っている)のを楽しむ作品という感じです。
やさぐれ名探偵と個性的なヨーク亭の人々との掛け合いは国名シリーズでの謎解きマシーンのようなクィーンと比べて人間的で楽しめます。

殺人事件の謎よりも捜査が進むにつれ各登場人物のかかえる「謎」が明かされていく過程の方が楽しめました。

「科学捜査」が進んで「恐るべき犯人」VS「名探偵」という構図が成立しない中で、「これぞ恐るべき犯人」と意気込んだエラリイの捜査の終盤までの空回り感もなんとも皮肉です…。

警察がしらみつぶしに探した真犯人から実行犯への指示メッセージを見つけるところで何とか「名探偵」としてのエラリイの対面を立ててはいますが…。
「科学捜査」が進んだ60年代ならこれくらいは警察が見つけられそうな気がするのですが….。
「名探偵」が生きにくい時代に名探偵ものにしなきゃいけない設定ではこんな感じになるのでしょうか?

ミステリーが密室トリックやアリバイ崩しのようなパズル的「謎解き」だけでなく、プロット自体、状況全体に含まれるなにやら異常な仕掛けを解決していくような方向に進化していっているのをキャッチアップした作品なのでしょう。

メイントリックは現代から見たらそれほど意外というものではないですが、その異常な状況で関係者が振り回されるのを楽しむ作品なのでしょう。

文章はスタージョンが書いたとのことですが、クイーン父子のやりとりなど他のクィーン作品と違和感なく、ダネイのプロットを丁寧に処理し、まだ存命のリーの助言も仰いだというのが推察できます。

記憶がなく知能的に「?」なヨーク家の下男、ヘンリー・ウォルトの怪しげな雰囲気がスタージョンぽかったかなぁ?というくらいでした。

「エラリイ・クイーン」していたんでしょうね。

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オリエント急行の殺人 アガサ・クリスティ著 山本やよい訳 ハヤカワ文庫

2017-09-30 | 海外ミステリ
ブラックアウト/オールクリア」を読んでいて作中何度も「オリエント急行の殺人」が登場し、ついには著者のアガサ・クリスティ本人も出てきたりとしていたので気になっていました。

その頃に丁度会社の若者と本の話になり「最近アガサ・クリスティにはまってます」というような話になり「ミステリーは最後全部解決するすっきり感がいいんですよねー」とも言われ「なるほど」と思いミステリーが読みたくなったのもありました。
(そういえばSFはモヤモヤ感残るかもです)

海外ミステリーは中学生頃(80年代前半)「ベスト」と言われていた作品を読もうとした時期があり、クィーンの「Yの悲劇」やらヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」クリスティは「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」やらを読んだりしていましたがクリスティ作品の中でもメジャーな作品である本作は未読でした。

本作1934年刊行、‘12年週刊文春ミステリベスト11位’95年アメリカ探偵作家協会ベスト41位、英国推理作家協会ベストにランクインしてませんが本国で人気がないのでしょうか?

本は近所の本屋で丁度新訳出たのか平積みになっていたので入手。(新品です!)

また2017年11月公開でまた映画化されるんですね、クリスティは他のミステリー作家と別格で人気な気がします。(その辺のメジャー感はセイヤーズとえらい違いだ)

内容紹介(裏表紙記載)
真冬の欧州を走る豪華列車オリエント急行には、国籍も身分も様々な乗客が乗り込んでいた。奇妙な雰囲気に包まれたその車内で、いわくありげな老富豪が無残な刺殺体で発見される。偶然乗り合わせた名探偵ポアロが捜査に乗り出すが、すべての乗客には完璧なアリバイが……ミステリの魅力が詰まった永遠の名作の新訳版。


読後の感想、トリックは有栖川有栖氏が解説で「掟破り」度では「アクロイド殺し」に匹敵すると書いていましたが確かにそんな感じです。
読みながら「まさかなー」と思っていたのが本当にそうだったときのショック感はなかなか…。
解説では、チャンドラーが「こんな答えには鋭い知性を持った人が目を回すこと請けあいである。間抜けにしかわからないことだろう」と書いているとありましたがチャンドラーもだませれてくやしかったんでしょうね。

後から思えばポアロが丁寧に全員を尋問して「もしかしたらなー」とも思ったのですが…。
少しでも「ミステリー」かじったことがある人ほど騙されるというか「まさか」となるというなんとも人を食ったトリック、ミステリーの女王クリスティの面目躍如です。

オリエント急行殺人事件=「XXXXXがXXXなトリック」ということで定番化されているようですが…解説にもあるように知っていたら楽しみ半減するでしょうね。
知らないでよかったー。

「ブラックアウト/オールクリア」の感想でも書きましたが、ウィリスは本作のトリック、クリスティ作品のような掟破り感を出したかったのかもしれません。

でも「SF」でのお約束破りは納得できていない部分があるのですが…..。
ミステリーとしては本作のトリック「ありかなー」とは思いました。
(「なんでもあり」感ありますがミステリーはそうやって幅を広げてきたのかなーとも)

謎解き以外の部分では1930年代ならではの黄昏を迎えながらも誇り高い貴族たち、イスタンブール-フランス間の豪華国際列車の雰因気、その列車がユーゴスラビア山中で立ち往生するという、現代から見ればなんとも大時代な設定(それでも100年経っていないのが時代の流れの速さを感じます)も楽しめました。

ポアロのいかにもな名探偵ぶりも大時代でよかったです。

犯人発見後の結末は...「そんなんでいいのかよー」とも感じましたがそこも含めて古きよき名作を味わう作品なんでしょうね。

作中重要なエピソードとなるアームストロング事件はリンドバーグ愛児誘拐事件が下敷きになっているようですがそんな時事ネタを扱っていても古びないというか….時代の「味」になっている華麗な作品です。

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忙しい蜜月旅行 ドロシー・L・セイヤーズ著 松下祥子訳 ハヤカワ文庫

2017-02-04 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第11長編1937年刊行です。

セイヤーズの手で完成されたピーター卿シリーズの長編としては最後の作品となります。
とりあえずこれで懸案のピーター卿シリーズ長編は完読。
感慨深いものがあります…。

なお未完の長編未完の長編でジル・ウォルシュが補筆し完成した“Thrones, Domination”なる作品がるようですが残念ながら未訳のようです、読んでみたいものです。

邦訳、第1作「誰の死体?」から第10作「学寮祭の夜」までは創元推理文庫で浅羽莢子氏の訳で出ていますが本作のみ早川版 松下祥子氏訳となります。

創元では本作含むピーター卿シリーズ全長編を浅羽莢子氏訳で出版予定だったようですが...。
残念なことに浅羽氏が2006年53歳の若さで急逝され果たせなかったようです。
(10作までお世話になった感があり…いまさらかもしれませんがご冥福を祈りたいと思います。)

割と個性的な名探偵である「ピーター卿」ですから訳者が違うことで違和感あるかなぁ...とも思いましたがそれほど違和感なく読めました。
浅羽訳ではピーター卿はパンターから「御前」と呼ばれていますが、松下訳では「閣下」と呼ばれているのが一番違和感かじる部分でしょうか?

本作ハヤカワではポケットミステリ版、深井淳訳で出ていてネットなどでみるとそちらの方が評価が高いようですが…そんなに酷評しなくてもとは思いました。

内容紹介(裏表紙記載)
劇的な出会いを果たしたハリエットとピーター卿はようやく結婚にこぎつけた。記者やうるさい親族を遠ざけて、新婦の故郷近くへハネムーンにでかけたものの、滞在先の屋敷には鍵が掛かり、出迎えるはずの屋敷の主人の姿は見あたらない。やがて、主人が死体で見つかると、甘く楽しいはずの蜜月の旅は一転、犯人捜しの様相を呈し・・・・・・本格ミステリ黄金時代を築き、後世の探偵小説に絶大なる影響を与えた著者の代表作。新訳版


本作はミュアリエル・セントクレア・バーンと共同で戯曲として出されたものを、セイヤズが改めて小説として出したものだそうです。

そのためか舞台映えするような設定になっている場面が随所に見られます。
舞台がほぼ新婚旅行先(であり新別荘)となるトールボーイズ屋敷に限定されていること、1階と2階でピーター卿・ハリエットがそれぞれで独白している場面などいかにも舞台向けです。

序文でセイヤーズ自身も書いていたように煙突掃除人もまぁ舞台受け用でしょう。

殺人トリックについてはチャンドラーが安直なトリックの典型ということで上げていたようですが、まぁ舞台受け狙ってあのようなトリックになったんでしょうね。

「学寮祭の夜」も途中で犯人の目星がついてしまいましたが、本作でも途中でほぼ犯人と殺人に使った道具の見当はついてしまいます。

前述の遠し謎解きの場面は舞台で上演したら映えるんだろうなぁという感じですが、まぁ予想通りで意外感はないのですが....。
「実際にそんなにうまくいくかねぇ」という感はぬぐえません。

作品世界は戯曲の小説版ということもあり肩の力が抜けているためか「学寮祭の夜」「ナイン・テイラーズ」のような重々しさがなく、全体的には軽い感じでコメディタッチで「誰の死体」から「ベローナクラブの不愉快な事件」あたりまでのテイストに戻った感があり、気楽に読めて楽しめました。
まぁその分物足りなさはあったりしましたが…。

ただ殺人事件とは別にピーター卿とハリエットの関係は「夫婦」へと深化していきます。

新婚旅行なのに殺人事件捜査に巻き込まれる夫ピーター卿に対しハリエットが「妻」として苦言を呈する場面などは「学寮祭の夜」から引き継がれたテーマの深化といえるのでしょう。

ラスト辺りでウィムジィ家の邸宅に巣食うご先祖様とハリエットの対面、ラストで人間としての弱さをハリエットにさらすせたピーター卿の姿はシリーズの大団円にふさわしくはありました。

なお「ピーター卿シリーズ長編」通しての感想ですが、一番「いいな」と感じたのは第2作「雲なす証言」です。
テンポの良さとピーター卿のカッコよさが際立つ作品ですね。

第1作「誰の死体?」第2作「雲なす証言」第3作「不自然な死」第4作「ベローナ・クラブの不愉快な事件」第5作「毒を食らわば」までが前期作に分類できるかと思いますが、いずれも重厚感はありませんがテンポがよくライトで楽しく読めました。

従僕のバンターやクリンプソン嬢など脇の個性的面々が活躍するのも読んでいて楽しめました。

第6作目以降のシリーズ後期の作品はそれぞれ個性派でした。

パズル的作品としては第6作「五匹の赤い鰊」が一番純粋に謎解きしていたように思います。
第7作「死体をどうぞ」もまぁ謎解きを楽しむ作品ですが、ハリエットとの恋愛の進展を楽しむ作品でしょうかねぇ。

第8作「殺人は広告する」はミステリーというより都市型サスペンス風、実験作?という感じ。

第9作「ナイン・テイラーズ」は英国田舎と中世を引きずったドロドロ感と重さの表現。

第10作「学寮祭の夜」は「女性」というもの中心に置いた心理小説。

第11作(本作)は軽いコメディタッチと大団円。

世間的には後期の作品、特に「ナイン・テイラーズ」「学寮祭の夜」の評判が高いようですし得難い「個性」は感じましたし相当力を入れて書いているんだろうなぁとも感じましたが現代的視点から見るとちょっとテンポが遅いかぁとも感じました。
クリスティの作品なども今読むと時代のズレのようなものは感じるので、まぁしょうがないことなんでしょうけどねぇ。

第1作「誰の死体?」はさすがにこなれていない感じがありましたが、前期作の方が純粋に娯楽小説していてトリックに古さは感じるもののアップテンポに話が進むので今読んでも十分楽しめる作品なのかなぁとも思います。

まぁとにかく本シリーズ読了(短編除く)うれしかったです。

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学寮祭の夜 ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2016-11-19 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第10長編です、1935年刊。

ピーター卿シリーズの長編も本作読めば、もう1作を残すだけとなりました。

本作は1990年英国推理作家協会ベスト4位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト18位と英米では「ナイン・テイラーズ」より評価が高い作品のようです。
また700ペーシにおよぶ大作でもあり、下記の内容紹介にもありますが英国ミステリ有数の大長編です。

内容紹介(裏表紙記載)
探偵作家ハリエットは醜聞の年月を経て、母校オクスフォードの学寮祭りに出席した。するとその夜、けがらわしい落書きを中庭で拾い、翌日には嫌がらせの紙片を学衣の袖に見つける。幻滅の一幕。だが数ケ月後恩師から、匿名の手紙と悪戯が学内に横行していると訴える便りが・・・・・・。学問の街を騒がせる悪意の主は誰か。ピーター卿の推理は? 英国黄金時代有数の大長編、畢生の力業!


読了後の感想としては、確かに力業ではあるのですが…。
「推理小説としてはどうなんだろう?」と感じました、殺人事件も起こりませんしなんともやりきれない動機ですし…。
まぁ1930年代の英国のキャンパスライフ(というのか?)は楽しめましたが。(笑)

ジャンルとしては恋愛小説というか「女性」及び「学問」「知性とは?」「生活とは?」といったものを問い詰めた作品のように感じました。

前作「ナイン・テイラーズ」でも「謎解き」というよりも謎を解いていくことで「業」や「運命」というようなものが浮かび上がって登場人物はそれに「直面」していかねばならなくなるという仕立てになっているように感じましたが、本作もそんな仕立て。

解説にもありましたが、ここまで突き詰めてしまうと「もう推理小説などかけないだろうなぁ」という感じ。
次作「忙しい蜜月旅行」(本文書いている段階で既読)は戯曲のノベライズなので本作がセイヤーズの最後の本格長編推理小説となるわけですが、それもまぁわかるような気もします。

ということで古き良き大時代的 名探偵ミステリを読もうと思うと見事に肩透かしをくらう作品です。

そんな作品ですから古臭くは感じませんが、現代的視点で見て目新しさ感もないのも事実なので読み通すにはそれなりに忍耐が必要かもしれません。

お話の方は、全編ほぼ「毒をくらわば」で登場以降シリーズのヒロインとなっているハリエットが主役といっていい展開。
とくに前半部分ではピーター卿は手紙やらハリエットの回想シーンで登場するのみでまったくといってほど登場しません。

オックスフォードのシュローズベリ・カレッジ(女性だけ!150人規模)を優秀な成績で卒業して、人気推理小説家となっている才女・ハリエットがカレッジの学長から「内密に」ということで事件解決を頼まれ動くわけですが….。
これがまたまったく解決していかない….。

中世英文学を学んだインテリで「推理小説作家」であっても、実際に事件捜査なんかできるわけはないということ、女性に犯罪捜査のような論理的思考や思い切った犯罪予防策や捜査ができやしないというのを徹底的に思い知らせるように書かれています。
(私が思っているのでなく小説の展開です)
これをオックスフォード出のインテリ、かつ堂々たる実績をもつ女性推理小説作家であるセイヤーズが書いているならというのがなんとも自虐的設定です。

犯人自体は前半部分ハリエットがオックスフオードの男子学生ボンフレットといちゃついているあたりで、賢明な読者にはなんとなーく見当がつくような仕掛けになっているような気がしますが、ハリエットはもどかしいほど気づかない…。

第三者的立場である読者にはわかっても、「女性」ならではの陰にこもった内密調査の渦中の現場にいる人物=ハリエットにはなかなかわかるものではないということなんでしょうね。
本作「推理小説論」的なことをピーター卿とハリエットが交わす場面がありメタフィクション的との評価もあるようなことを解説に書いてありましたが、前記のように設定そのものがメタフィクション的な気がします。

そんな状況で名探偵=ピーター卿の登場を読者もハリエットも切望するわけですが…。

なかなか登場せずで…やっと登場するのが427ページ目。
1章始まりが23ページ、ラストが703ページですから本編部分680ページ分の427…。
63%はハリエットのみで悪戦苦闘している…。

どうにもならないところで、なんとかピーター卿に来てもらおうとハリエットが動いているところで颯爽とピーター卿登場!かっこいい(笑)

前回ハリエットが登場した「死体をどうぞ」では呼ばれもしないのに来ていたピーター卿なのに本作ではそのじらせ感が素晴らしい。
恋愛的にはこのタイミングで現れたことでほぼ成就している感じです。(笑)

なかなか登場しないのも、第二次世界大戦勃発(1939年)間近ということできな臭くなっていたヨーロッパ中を英国の特命情報工作員としてなにやら暗躍していたためというすごい理由...。

ヨーロッパの危機がどうなろうともハリエットが呼べば駆けつける(殺人事件も起こっていないのに…)という辺りも、「男性」と「女性」の問題を提示しているように感じました。

ハリエットの説明を聞いただけでほぼ事件の全容をつかんでそうなピーター卿がまたかっこよく(現実感乏しかったりするのも意図的か…)ハリエットのどうみてもまずい推理やら対応にたいしても寛容なのもまたかっこいい….。
一方でハリエットは従属した「女性」でなく独立した「人間」でありたいという意思が強い設定ですから....なんとも皮肉です。

繰り返しになるようですがそれを書いているのが女性作家でありオックスフォードで文学を学び、卒業後結婚に恵まれず私生児を抱え、経済的にも困窮してとりあえずやっつけで推理小説を書き出したセイヤーズというのがなんともすごい構図です。

犯人や動機は推理小説的なトリックというよりも上記のような伏線を回収している感じですが...セイヤーズの本心はいったいどこにあったのでしょう。

セイヤーズは後年ダンテの「神曲」の英訳などに力を注いだようですから、象牙の塔的な知に向かったとも思えますが…どうなんでしょうか?

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ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2016-06-11 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第9長編、1934年刊行です。

殺人は広告する」に続き勢いで読み始めました。

本書は1990年英国推理作家協会ベスト18位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト28位2012年週刊文春海外ミステリベスト45位にランクインしています。

江戸川乱歩が名作推理小説ベスト10の10位に推した作品ということもあり、セイヤーズの中では最も日本で有名な作品である本作ですが、永らく「幻の名作」扱いされていた作品とのこと。
(海外では次作「学寮祭の夜」の方が英国4位、米国18位と評価が高いようですが…。)

作品自体はブックオフで入手済でした。

有名作だけにブックオフでもセイヤーズ作品としては最も目にする作品だったりします。

内容紹介(裏表紙記載)
年の瀬、ピーター卿は沼沢地方の雪深い小村に迷い込んだ。蔓延する流感に転座鳴鐘の人員を欠いた村の急場を救うために久々に鐘綱を握った一夜。豊かな時間を胸に出立する折には、再訪することなど考えてもいなかった。だが春がめぐる頃教区教会の墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたことを告げる便りが舞い込む・・・・・・。堅牢無比な物語に探偵小説の醍醐味が横溢する不朽の名作。


前作「殺人は広告する」がモダンなロンドンのあわただしさを描いた作品なのに対し、一転して中世の香りを引きずる田舎町が舞台になっています。

名作の評判高くかなり期待して読んだのですが…。

「探偵小説」としてみて名作かと聞かれると「う~ん」というのが正直な感想です。
中世の香り漂う沼沢地方を舞台にしたファンタジーというか幻想小説という雰因気です。

車で中世的世界に訪れる所、少女(ヒラリー・ソープ)を助けるおじさん(ピーター卿)、ラストの水と中世のイメージがなにやらとても「ルパン三世カリオストロの城」のイメージとダブりました。
ネット上を調べてみても誰も書いていませんでしたが…私は宮崎駿は本作読んでいたんじゃないかと確信しております。

殺人(?)方法が突飛という評価になっているようですが、殺人場所と時期がわかった段階で普通の人ならまぁ推察つくと思います、しかしまぁそうくるか…という感じではありますが...。

中世的雰因気と幻想的な因果応報、ラストのクライマックスと楽しめる部分はいっぱいありますが純粋にミステリーとして期待して読むと肩すかしされた気分になる作品かもしれません。

正直「ミステリー」として「不朽の名作」とは私には思えませんでした。

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