しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

1984年 ジョージ・オーウェル著 新庄哲夫訳 ハヤカワ文庫

2013-02-15 | 海外SF
前々から(それこそ1984年)から気になっていたんですが、どうも手が出ずにいた本です。
年末にブックオフで105円で売られていて「お得」ということで購入しました。

最近「SFの名作」を調べるためにで色々ネットで見ていたら米ローカス誌のオールタイムベスト
で本作が長編SFの7位に入っている。
「SFなのか?」という疑問はありましたが、そんなこともあり読み始まました。

内容(裏表紙記載)
1984年、世界は三つの超大国に分割されていた。その一つ、オセアニア国では<偉大な兄弟>に指導される政府が全体主義体制を確立し、思想や言語からセックスにいたるまですべての人間性を完全な管理下に置いていた。この非人間的な体制に反発した真理省の役人ウィンストンは、思想警察の厳重な監視をかいくぐり、禁止されていた日記を密かにつけはじめるが・・・・・・社会における個人の自由と人間性の尊厳の問題を鋭くえぐる問題作

読了後の感想。

とにかくすごい、読み終わった後しばらく呆然としました。

世の中には未読の名作があるんだなーというのがよーくわかりました。
この本を読まないで「本が好き」などといっていた自分が恥ずかしくなりました。
未読の方は是非!
「権力」「社会」「個人」「人間関係」というものに違った見方ができるようになる気がしますし、ある意味究極の「恋愛小説」でもあります。(この本を読まずに大学で政治学系ゼミにいたのも恥ずかしくなりました)

基本設定は無茶苦茶な世界(どこぞの北の方にある国を考えればそうでもないのか?)を描いていますが、それ以外は徹底的にリアリズムというか乾いた思想で、「湿った」思想をもつ主人公が徹底的に切り刻まれていきます。

展開として第一部から第二部は想像がつきましたし第二部の最後の方までは明るい展開になるのかな??という感じもあったんですが...、第三部は予想外の展開でした、まさにやられた~という感じ。

なお第二部最後の方で「権力とはなにか?」ということを、危ないくらいぶっちゃけで徹底的に解明する「ゴールドスタインの禁書」唸りました....。
前提条件がこの作品の設定で世界・社会が成り立っているということなので、本来怪しい議論ですが説得力があり妙に納得させられます。
(どこか詭弁がありそうな気もするのですが)

全体主義というものは「こういうものかな?」と、理解できたような気になりましたし、昔の上司がここで書かれていたような権力維持活動をしていたなーというのを思い返して、「なるほどこういうことだったんだ」というのが納得できました。

第3部で出てくる「権力維持」の目的もなるほどでした。

すごいすごいの連発で感想になっていませんが、私ごときではこの作品を語りつくせません。

読了後wikipediaで本作「1984年」の項を見ましたが一般的な評価もすごく高い作品のようですね。

ランダム・ハウス、モダン・ライブラリーが選んだ「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」とかノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」に選ばれているとのこと。

SFオールタイムベストでも7位ですしね。
(これは書かれていなかった、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が日本SFベストに選べれているようなものですね)

作者のオーウェルはこの作品が刊行された翌年の1950年には亡くなっているようです。
まさに「命」を削って書いたという作品なんでしょうね。

とにかくすごい...。

↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

MONSTER 浦沢 直樹著 小学館

2013-02-14 | 漫画
この作品が出だしたころ(‘94~5年くらい?)4巻くらいまで読んで、なんだか進まずそのままになっていました。
2~3年前に古本屋で全18巻セットを衝動買いしたのですが、またまた10巻くらいで中断してそのままになっていたのを今回読み返しました。


私的にはなんだかざらざらして読みにくい作品なんだと思います。
今回も一気に読むという感じでなく、正月からちびり、ちびりと読みました。
今回終わりまで読み通せてなんだかホッとした気分です。

ストーリーは....、売れた漫画なのでよく知られているかと思いますが、ドイツの大病院に勤める日本人天才脳外科医 Dr.テンマが助けた双子の兄妹の兄が実は旧東側で計画的に教育されたとんでもない子供で、数々の悪行を行い続け10年後....。

というお話。

読了後第一感は、前述の通りすらっと受け入れ難い展開の作品なので、この作品がよく週刊誌に連載され、完結まで辿りついたなぁというものです。

何かで読んだ記憶があるのですが、浦澤氏が何かのインタビューで「自分の描きたいものを描きたい形で連載できるように、YAWARAなど売れる作品を積み重ねていきやっとMONSTERを書くことができた」と語っていたような気がします。

まさにそんな作品。

構成的には双子の兄妹の出生の謎を追いかけていくことを軸に、悪魔=双子の兄ヨハンと善良な人間テンマとの争いを描くことと、レミゼラブルのジャベールvsジャンバルジャン的なルンゲ警部とテンマの関係を入れ込むという割と古典的な展開だと思います。

「謎」を最後まで不気味な感じを発しながら引っ張り、ヨハンの悪行を浄化していくテンマと、テンマの善行をこれでもかと潰していくヨハン。
職務に超人的集中力でのめり込むルンゲ警部、基本的には単純な展開を飽きさせず最後まで持っていく技には感心しました。

ただキャラクター的には「ルンゲ警部」が非常に個性的な造形であった以外は、全体的に薄い印象でした。
主人公のテンマ、ヒロインのニナも今一つ「キャラ立ち」していないような感じがしました。
意図的に主要人物のキャラを薄めて脇の人たちを引き立たせようとしたのかも知れませんが...。

ただ「漫画」として面白く読むことを考えると、もう少し主要人物のキャラは立てた方が読みやすいような気がしました。
(この後に書かれている「20世紀少年」はキャラ立ちしているような気がする)

最後はここまで広げて引っ張ってきた「謎」を「どう解決するのかなぁ?」と思って読んでましたが、基本ハッピーエンドで、ちょっと肩すかしな感じは受けました。
最後の方で正体を現した重要人物もインパクト薄かったですし。

ラストもここまでの惨劇を繰り広げるほど衝撃の事実なのかなぁ?とは感じました。
(この辺20世紀少年も同様で動機がちょっと??)
でも思いっきりバッドエンドにするとか、松本零児ばりに謎を謎のままにしておくとかしない限りはこれぐらいが限界なのかもしれませんね。

いろいろ書きましたが意欲的な名作だと思います。
また間を置いて読み直したい作品ではあります。

↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村

アシモフのミステリ世界 アイザック・アシモフ著 小尾 芙佐・他訳 ハヤカワ文庫

2013-02-08 | 海外SF
この本は「アシモフ初期短編集」と同じ頃(数年前)ブックオフで見かけて購入。
105円だったので「得した」と思った記憶があります。

105円だけに外観は今一つですが...。

今回のアシモフ読み直しの流れでやっと読めました。
この前に「鏡の影」「日蝕」と若干重めのものを読んでいたので、気楽な(失礼か?)アシモフ博士の作品楽しめました。

内容(裏表紙記載)
月面上で前代未聞の殺人事件が発生した。月世界植民地が建設されてから50年、交通手段の限られた月でわざわざ殺人を犯す者などいなかったというのに。しかも、間違いなく犯人である容疑者には崩すに崩せぬアリバイが・・・・・・「歌う鐘」をはじめ、地球や宇宙空間で起こる難事件を自室から一歩も出ずに解決する地球外環境学者アース博士の活躍を描く連作短編や、デビュー作の「真空漂流」を含む傑作SFミステリ13編を収録!

例によって寄せ集め短編集の感はあるので玉石混交という感じですが、「石」でもきれいな石という感じで全編楽しめました。
わざわざ「ミステリ」としていますが、アシモフ作品は謎解き要素が強い作品が多いので、まぁ普通にアシモフ作品を堪能するということで読めます。
構成としてはこの本もアシモフの一言が各編に添えられているのでそれも楽しめます。

例によって各編感想など。
○歌う鐘-福島 正実訳
 裏表紙記載の月面での殺人事件のお話です。
 この本の目玉である「アース博士」シリーズ第一作です。
 地球外環境学者なのに乗り物が大嫌いで、家の周り以外には殆ど出かけないという、乗り物嫌い、閉所愛好家のアシモフ本人の理想を体現したような人物設定です。
 アリバイ造りは凝っていますが、謎解きは「これでいいのか?」とは感じました。

○もの言う石-田中 融二訳
 エイリアンものかつアース博士もの。
 アシモフの科学エッセイで「シリコン生命体」の可能性を読んだことを思い出しました。
これも謎解き部分のキレは今一かと思いますがシリコン生命体とその展開がアシモフ作品らしい理屈付けで楽しめます。

○その名はバイルシュタイン
 アシモフ本人も言っているように、いわゆる「SF」ではないですが、化学者であるアシモフのいたずら心が楽しめる作品です。
タイトルそのままの結末です。
いたずら心を楽しむにはいい作品です。

○やがて明ける夜-田中 融二訳
アース博士もの。
アシモフ本人のコメントから見ると、ロボットの時代収載の「校正」を書いた辺りの作品。
登場人物の心理がいろいろ書かれ「誰が犯人なんだろう?」という展開を楽しめる作品です。
謎ときはアース博士ものを何作か読んでこの作品を読むと途中で想像がつきます。
科学の進歩で成り立たなくなっている謎解きですが...、前提条件は作中にきちんと書かれているので作者いわく「細かいこと言わないでー」とのことです。

○金の卵を産むがちょう-深町 眞理子訳
タイトルそのままの作品です。
アシモフ版錬金術のお話。
科学的遊び心とSFに対する暖かな愛が伝わってくる作品です。
「鏡の影」「日蝕」の後なのでこの作品が一番ツボにはまりました。
同じ錬金術を扱っていてもある意味一番この作品が「人間」を書いているような気がしました。

○死の塵-浅倉 久志訳
本人いわく、最初はアースもので書こうとした作品。
パターンとトリックはアース博士ものを踏襲している感じ。
よくまぁ同じパターンでマニアックなトリックが出るものだと感心します。
なんだか研究所の実験室にいる気になる作品です。
研究者の描き方がアシモフらしいです。

○ヒルダ抜きでマーズポートに-福島 正実訳
本人いわくジェームス・ボンドもどきの作品。
確かに007もののパロディという感じもする内容です。
(書く前に読んではいないといっていましたが)
編集者に「ラブ・シーンを書くのが苦手」と言われてSF恋愛小説として書いたようですが、恋愛小説としてはどうかなぁ...。
ミステリとしても「???」ですが軽やかな仕上がりが楽しめます。

○真空漂流-風見 潤訳
著者デビュー作(最初に商業誌に掲載されたという意味で)この作品自体はミステリーという感じはしませんでした。
その20年後を(デビュー20周年として書いた)次の「記念日」と合わせて読むとミステリー仕立てになるというお話。
デビュー作だけに冗長な部分がありますが、その部分が次作の伏線になるという凝った仕掛けです。

○記念日-風見 潤訳
前述のとおり真空漂流のメンバーが20年後に集まり、ある謎を解くというもの。
真剣過ぎない軽い仕上がりです。

○死亡記事-田中 融二訳
アガサ・クリスティ風に感じました。
最初から犯行を告白しているのですが、いかにもSF的トリックが楽しめます。

○スター・ライト-風見 潤訳
ショート・ショート風です。
本人いわく「歌う鐘」と似た展開。
言われてみればそうですねという感じ。
これまた大がかりなトリックというかオチです。

○鍵-小尾 芙佐訳
アース博士シリーズ4作目、3作目から10年後に書かれたとのこと。
(作中の設定はそのままです)
アシモフの筆もこなれており、アース博士登場までの仕立てはかなり重くハードな「読ませる」SFになっていますが、アース博士登場後は「あれっ」という程軽い展開になっています。
その辺がひっかけにもなっています。
アシモフはかなり楽しんで書いたんだろうなーというのがわかる作品です。

○反重力ビリヤード-深町 眞理子訳
本人いわく一般相対性理論とミステリを結びつけたのはこの作品くらいだろうとのこと。
この作品集を通じて随所に見られる、ハードSFぶり・科学者心理の描写・軽妙なラストが見事に融合しています。
ビリヤードと相対性理論をこう結びつけるとは....、圧巻です。
いかにもアシモフらしい作品の名作だと思います。

○解説及びアシモフコメント訳-風見 潤

全編通しての感想、この作品集の目玉である「アース博士もの」は執筆年代順に収録されているのだと思いますが、編を追うごとにアシモフの成長が見えて楽しめます。

「金の卵を産むがちょう」が私的にはつぼにはまりましたが、最後の2編「鍵」と「反重力ビリヤード」はアシモフの作品の短編の中でもかなりの出来ではないかと感じました。

↓よろしければクリック下さい
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へにほんブログ村