しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

消滅の光輪1-3 眉村卓著 ハヤカワ文庫

2018-03-25 | 日本SF
ほんとうは小松左京全集の「SFってなんだっけ?/SFへの遺言/未来からのウィンク」を図書館で借りて読んだのでそちらを書かなきゃなぁとも思っていたのですがなんとも書く気がおきなかったので「小松左京自伝」とそれほど感想変わらないので、記事には書かないで割愛します。

さて本書、「覆面座談会事件」流れで興味を持った日本SF作家第一世代の作品として手に取りました。
もっとも本書の発刊は1979年と覆面座談会事件の10年後の作品です。
SFマガジン連載は1976年2月-1978年10月、当初は中編のつもりで連載したらしいですが延々と連載が続けられ結果大長編となったそうです。(元ネタwikipedia司政官シリーズ

覆面座談会で俎上に上げられていた「EXPO'87」を読んで厳しめなことを書いていて「眉村卓こんなものではないだろう」という思いもあり代表作である本作を手に取りました。

SFマガジン国内長編オールタイムベストで'06年28位'14年でも28位と安定した人気をもつ作品です。

本作はこれまで未読でしたが、図書館通いをしていた小学生高学年の頃(80年頃)分厚い単行本の本書を読もうとして何度か借り出した記憶があります。
(ハヤカワ文庫の初版が昭和56年-1981年-なので当時は文庫出ていなかったような気がします)
眉村卓はジュブナイルのイメージが強くなんとなく親しみやすい気がしていたのですが....。

当時の私には歯が立たずでそのたび数ページ読んで返すが続いていました。
私にとっては今回当時のリベンジともなったので感慨深いものがありました。

本自体はブックオフと古本屋1と2,3別々に見かけて108円・100円でハヤカワ文庫版を購入。

現在は創元で文庫2分冊で発売されており容易に入手が可能なようです。

司政官シリーズは1971年から中短編7作品が書かれており創元文庫で2008年「司政官全短編」としてまとめられておりこちらも割と容易に入手できるようです。

本書と並ぶ長編、1996年星雲賞受賞の「引き潮のとき」(1983年ー1995年SFマガジン連載)は(こちらも長いようで早川で単行本5分冊で刊行)文庫ではでていないのでamazonで調べたら一冊辺り6000円前後とかなり高い....。
文庫化かKindle化を望みたいところです。

本作冒頭の献辞に「アイザック・アシモフ氏へ」とあります。
3の鏡明氏の解説から引きますが「最初に<アイザック・アシモフ氏>へと書いたのは、アシモフ氏の「宇宙気流」で住民を退避させる話があるでしょう、一年かそこいらで。あれを読んであれっと思ったことがあるんです。そういう作業が現実に可能であるかどうか」(SF宝石創刊号での矢野徹と伊藤典夫との対談で著者が語ったとのこと)
ということが動機で書き出されたようです。

アシモフの作品の中でも割とお気楽な作品である(私の個人的感想)「宇宙気流」を読んでそんな感想をいだく発想が素晴らしい。
確かに大変でしょうね....。
その辺の回答は確かに本書を読むとよくわかります。(笑)

それを自分事と捉え、組織の人間として実現する立場として描いた著者のインサイダーSF論の象徴的作品といえるのではないでしょうか。

ちなみにインサーダ-SF論興味をもって調べたら覆面座談会事件の1年前のSFマガジン1968年2月号の日本作家特集の「新春SF放談会 SF人がこう評価する」にその源があるようで思わず入手してしまいました。

眉村氏熱く「インサイダーSF論」を語っているのですが誰にも理解されずで可哀想な気がしました。

なお座談会の他の部分で評論家の斉藤守弘氏が山本周五郎とSF作家比較的な話やら「最近のSFには発見性がない」などと発言して険悪なムードになりかけていいました、この辺が1年後の火種になってくるんでしょうねぇ..。

内容紹介(裏表紙記載)
1:
若き司政官マセは、初めての担当惑星となる1325星系唯一の惑星、ラクザーンについての情報を受けとっていた。最初の入植以来、わずか50年で異常なまでに繁栄しているラクザーン。だが、まもなくラクザーンの運命も終焉を迎える。太陽が新星化するというのだ。全住民、全企業体のすみやかな異星への移住---それは、かざりものとなりさがってしまっている司政官にとって、とてつもなく困難に思えた・・・・・惑星を覆う壮大なドラマを背景に、体制内で真摯に生きるひとりの司政官の生きざまを見事に描き出し、泉鏡花文学賞に輝いたSF巨編。
2:
太陽新星化にともなう全住民退避という課題を与えられた惑星ラグザーンの司政官マセは、かざりものの司政官から、絶対権力者たる司政官へと変貌をとげた。
そして緊急事態対策会議を乗りきり、住民投票により移住先を決定することに成功する。投票日当日、ロボット完了から次々に送られてくる投票経過報告。だが先住者ラクザーハはひとりとして投票所に現れない。結局、投票は植民者だけで終わった。やがて、ラクザーハ説得のため、マセは科学センターのランとともに先住者居住区を訪れたのだが・・・・・・泉境花文学賞受賞に輝く眉村SFの白眉
3:
1325星系の惑星ラクザーンの司政官マセは、太陽の新星化による全住民退避計画を推し進めていた。 すでに390万人の住民が移住先の惑星ノジランに旅立っていった。だが、通貨ラックスは日ごとに下落し、ロボット官僚や司政設備は頻繁に暴徒に襲われるようになっている。そして、ついに首都ツラツリットに大規模な暴動が起きた。治安部隊はすでに辺境地の暴徒鎮圧に赴き、いない。堅固な司政庁の壁も多勢の反乱者によってつぎつぎと打ち破られていく。しかも、反乱者たちは連邦軍の装備を身につけていた・・・・・・泉鏡花賞受賞に輝くSF巨編ここに完結


読後の感想、とても面白かったです。

時間が取れたこともあり1-3ほぼ1日で読み通してしまいました。(小学生のころが嘘のよう)

「もったいない」とも思ったのですが....手を止めることができませんでした...(笑)
日本SFの歴史に是非残して欲しい作品と思います。

筒井康隆の文学的才気あふれる作品とも小松左京のスケールの大きさもないですし、今どきの作家の「うまさ・たくみさ」もないかと思いますし、ヒロイン ランとのラブストーリーも何ともぎこちなくなのですが....。

ただただひたすら真面目に「インサイダー」の人間として奮闘を続ける司政官マセの姿を描いていく内容にはなんとも身につまされるものがあります。

50近いサラリーマンの私から見ると青臭いところもあるのですが、30前後くらいのちょっと大きい仕事を任されたサラリーマンにはかなり共感するところがあるのではないでしょうか。

無理矢理移民を進めていって最後の暴動が起こる辺りでは「どうなっちゃうの?」とはらはらしましたがまさか、ああいう風にもってくとは....。

あそこまでマセに頑張らせた後のベテラン司政官カデットのざっくり感...全部ひっくりかえしちゃう展開はなんともやりきれないところがありますが...。
まぁその辺もこの作品の味ですね。

ラスト近くの挫折感含め全体的に新人司政官の成長物語としても読めますね。

上記のとおり全体的にはよくできたすばらしい作品だと思うのですが何点か気になったところ。

冒頭、先住者ラクザーハと人類は「混血可能」との記述があったのですが...。
混血児はどこにいってしまったのでしょう?

そもそも現代の生物学(人類学?)の常識からするとかなり近接した種でないと混血できないはずなのですが...。
ラクザーハは太古の昔に移住した人類の設定????。
全体からすると細かい話なのですが気になってしまいました。
当初中編のつもりだっとのことなのでその辺深く考えていなかったのかもしれませんね。

ラストのラクザーハの話。
「移住できない」謎についてはいいと思うのですが、人類との哲学的な生き方の違いというか、精神体・超越者的概念を持ってくるところは日本SFにありがちともいえる「幼年期の終わり」的抹香臭さで私的にはいただけませんでした。

この部分もっとぼかしてか「そんなことも考えられるかなぁ」くらいにほのめかす程度でスマートに処理すれば現代でも十分通用する不朽の名作になったと思うのですが....。
ここ部分があることでなんとも古臭い感じがしました、大長編(「果てしなき流れの果に」「百億の昼と千億の夜」と同様)

にしてしまったのでついつい書いてしまった、もしくはもともとこの辺のテーマを中心に書こうとしていたのか?

最後ちょっとけなしたようですが....とても面白い作品です。

おじさん目線でのお薦め読書層は30前後のサラリーマンなのですが、ほんとにウケるかどうかは「???」です。(主人公と一体化するとどっと疲れるとは思いますが...。)

最後になりますが、ロボット官僚機構を使って植民惑星を司政官を統治するというスタイル。
著者はかなり頭をしぼったのでしょうがなんとも興味深い設定です、他の司政官シリーズも是非読んでみたいなと思います。
(そのうちですが....)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
懐かしい・・・ (木曽のあばら屋)
2018-03-26 22:17:58
「消滅の光輪」懐かしいです。
SFマガジンに連載されてましたね。
かなり昔に読んだので、ほぼ忘れています。
いまでも入手できるのですね。
再読したくなってきました。
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Re:懐かしい・・・ (しろくま)
2018-03-27 06:18:20
木曽のあばら屋様
おはようございます。
「消滅の光輪」既読なんですねすごい!
記事にも書きましたが分厚い単行本のイメージが強くなんとなく敬遠していました。
若干の古さはありますが組織の中で悪戦苦闘するというテーマは今も変わらずかと思いますので楽しく読めました〜。
おすすめです。
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