しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

旅のラゴス 筒井康隆著 新潮文庫

2018-01-20 | 日本SF
これまた「覆面座談会事件」がらみで日本SF作家第一世代の作品を読み返そうという流れで読みました。
もっとも本書は1986年刊行とずいぶん後になりますが...。

とりあえず手持ちだったのと最近人気がじわじわと上がってきているらしい(新潮社記事)ということもあり手に取りました。

もともとSFアドベンチャーに不定期連載されていたようです。

じわじわ人気が上がっている影響か'06年SFマガジンベストでは51位だった本書は'14年に31位にランクアップしています。
(SFマガジンベストの日本SF版記事まとめようと思いながらまとめられていません....。)

内容紹介(裏表紙記載)
北から南ヘ、そして南から北ヘ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隸の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間のー生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

読後の感想としては...。

「メタSF?」

往って還る物語、主人公がやたらもてまくりということでは「新しい太陽の書」との類似性を感じました。
「新しい太陽の書」4部作が1980年-1982年刊、邦訳が1986-1988年。
発刊タイミングからみると原書で読んでいれば「あり」ですね。
(同様なことを前に書いた記憶があったので探してみたら「脱走と追跡のサンバ」の感想でで「ユービック」との類似性を書いていました。これも「原書読んでる?」)
真相は「?」ですが、連作短編というところ、失われたテクノロジーの復興という意味では「黙示録3174年」との類似性も感じました。(こちらは間違いなく前)

この辺加味すると筒井康隆、意図的に「メタSFにしたのかなぁ・・・・」などとも勘ぐりたくなりましたが確証はありません。

まぁそもそも「知識」をまとめたものを求めて苦難を乗り越えて遠方に旅をするという面では「西遊記」的でもあるわけですが…。

1984年刊行の「虚航船団」で挑戦的な作風にひと段落つけ、力を抜いて書いているのか本書はとても読みやすい作品になっています。

前半に出てくる個性的かつ活力旺盛な脇役男性陣、全作通じて出てくる魅力的な女性陣とラゴスの関わりがしみじみと楽しめます。
ファンタジーになりそうな展開ですが、文明が失わられた理由やら、人々がこの星に住む人たちが「ちょっとした」超能力を持つ理由をきちんと理屈をつけて「SF」にしているところはさすがSFの大家である「筒井氏」...というか生真面目さなんでしょうねぇ。

主人公「ラゴス」は作中諸所の素敵な女性にもてまくるわけですがそれ以外は「知識欲」以外はこれといって野心はなく、様々な「状況」に対して巻き込まれる形で物事が進みます。

名門の家に生まれている「ラゴス」が、いろいろ俗っ気のある欲望もてばいろんなことができたのではないかと思いますが....。
常に一つ所に留まらず旅を続けるというところがこの物語に無常感のようなものをもたらしている理由でしょうね。

これといって欲もなく「草食系」だけど美女に言い寄られたい...。
というのは本書を読みそうな読者層とかなり重なりそうな気がするのでその辺も人気の原因なんでしょうかねぇ。

「連作短編」という形式もこんな風に「長期間」を描写するのにしているのかと思います。

火星年代記」「都市」「銀河帝国興亡史三部作」前述の「黙示録3174年」などがそうですね。

もっともこれらの作品は個人の年代経過ではないですが…。

本作のように短いページ数であたかも悠久のときが流れたかのような感じになるのは形式のおかげもあるかと思います。
その辺も構成の才能ですよねー。

内容各編ごとに見ると目的地へ至るまでの「集団転移」「解放された男」「顔」「壁抜け芸人」「たまご道」「銀行」「着地点」は単品で短編でも楽しめる内容になっています、ラゴスのもてまくりうらやましいですが....。

目的地「王国への道」へたどり着き、2人の少女と出会った段階で「長く逗留」してできちゃうんだろうなぁ…というのは読み筋でした。(笑)
その後の「赤い蝶」「顎」「奴隷商人」「氷の女王」は前段読んでなければ単品の短編としては成り立ちにくい作品ですが、「旅」も「人生」も黄昏に向かいつつあるラゴスの哀愁がとてもよく現されていました。

感想を書くのに本書をちらっと読み返しましたが驚くほど短いページで情感溢れる場面を描写しています。

「虚人たち」やらでメタフィクション・実験的作品を究めた筒井氏のひとつの到達点かと。

230ページに満たない分量で青春期のラゴスから老境に至ったラゴスの心境まで筆を抑えて書きながらなんともいえない感情を巻き起こす手腕は「さすが」としかいいようがありません。

派手さはないですが多くの人が楽しめる作品かと思います。
一読お薦めいたします。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
どうしてこんなにもてるのか (木曽のあばら屋)
2018-01-20 16:30:52
こんにちは。
この作品、最近人気が上がっているみたいですね。
スラップスティックなところやグロテスクなところがないので、
SF好き以外の読者にも受け入れられたのかな。
全体的に明るいトーンで希望を感じさせるのもいいですね。
しかしラゴス、どうしてこんなにもてるのか・・・?
返信する
Re:どうしてこんなにもてるのか (しろくま)
2018-01-21 11:32:34
木曽のあばら屋様
こんにちは。
確かにもてまくりですね~(笑)

筒井作品としては癖が少ないというのもあるのでしょうが、比較的おとなし目であろう読書男子の妄想に支えられて売れたのではないかと勝手に想像しています。
返信する

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