「おばあちゃんっ子は『マダムと泥棒』という映画を見ろ!」。
というのが、私が世にうったえかけたい意見である。
映画の楽しみはストーリーやアクションとともに、ヒロインの魅力というのも大きい。
『ローマの休日』におけるオードリー・ヘップバーンの気品、『七年目の浮気』のマリリン・モンローのかわいらしいお色気。
他にも、「墓にアレの彫刻を彫ってくれ」と遺言したくなった『アベンジャーズ』におけるスカーレット・ヨハンソンの見事な尻とか、「オレの足も撃って!」と思わず土下座してお願いしたくなるような『普通じゃない!』のキャメロン・ディアスとか。
さらには、『桐島、部活やめるってよ』に出てきた松岡茉優さんに放課後、裏庭に呼び出されて棒でつつかれながら、
「オマエは気持ち悪いんだから、《キモイ税》として3万円払えよ」
などと理不尽なカツアゲをされたいとか、語りだすと枚挙に暇がないのである(一部不適切な発言があったことをおわびします)。
そんな中、女の価値は若さだけではないと気炎を上げるのが、世界のおばあさん女優たち。
『八月の鯨』『狩人の夜』のリリアン・ギッシュや、『毒薬と老嬢』の明るく狂った殺人姉妹と並んでキュートなのが、この『マダムと泥棒』のウィルバーフォース夫人であろう(以下ネタバレあります)。
映画の内容は、ユーモアたっぷりの犯罪コメディ。
アレック・ギネスやピーター・セラーズといった名優が演ずる強盗団が、現金輸送車を襲う計画を立てる。
彼らがウィルバーフォース夫人に近づいたのは、彼女の貸す部屋をアジトとして、そして怪しまれず現金を手に入れるための「運び屋」として利用するためだった。
作戦は見事成功し、大金を手に入れた強盗たちは、すみやかにウィルバーフォース夫人の家から去ろうとするが、ひょんなアクシデントから彼女に奪った金を発見されてしまい、事態は一転する……。
というイギリス風のドタバタ喜劇なのだが、その脚本やセリフ回しのおもしろさもさることながら、やはりなんといっても、ヒロインであるウィルバーフォース夫人が、すこぶるつきに存在感を発揮しているのが見どころ。
善良でお人好しで、ちょっと抜けているところもある彼女は典型的な
「近所のかわいいおばあちゃん」
なのだが、そんな人が海千山千の悪党どもとからむと、その噛み合わなさぶりに見ているほうは悶絶する。
犯行計画を練っているときに、しつこく「お茶はいかが」と誘ってイライラさせたり、
「ゴードン将軍と同居している」
と口走って「誰だ? 警戒しないと」と思わせたら、それが飼っているオウムのことだったり。
正体がバレて逃げようとすると彼女の仲間の老婦人がドヤドヤおとずれてジャマしたりと、それはそれは楽しく場をひっかきまわしてくれる。
なにより彼女が起こした最大のトラブルが、強奪した金を見られた後のこと。
正体がバレてしまった強盗団は、
「もうこうなったら、婆さんをバラしてとんずらするしかねえ」
との意見の一致を見るが、ではだれがやるのかと問うならば、誰一人名乗り出ない。
「お前やれよ」「いや、お前こそ」という逆ダチョウ倶楽部状態から、「経験者もいるから……」と水を向けても、そっと顔を伏せられたり、話が一向に進まない。
そう、彼らが老嬢殺害をためらうのは、ビビっているわけではなく(「経験者」もいるわけだし)、これはもうどう見ても、
「おばあちゃんがかわいくて殺せない!」
という理由によるものなのである。
そんなんできるわけないやん! そりゃ、ちょっとはイラッとさせられたし、「運び屋」のときもおせっかいからトラブルに巻き込まれてハラハラさせられたりもしたけど。
それでもあんな善良でやさしいおばあさんを殺すなんて、そんなん人間のすることちゃう!
などと、おのれの悪党ぶりを棚に上げて、もう嫌がりまくるのだ。
ラチがあかないので、最後の手段とクジ引きで決めるのだが、当たったヤツがまた、
「ムリやっていうてるやん! かくなるうえは……」
と、なんと仲間を裏切って金を持ち逃げしてしまうのだが、アッサリと見つかって殺されてしまう(そっちは平気なんやね)。
それどころか、力仕事担当で少々おつむの弱い「ワンラウンド」など、その「おばあちゃん萌え」が高じすぎて、彼女が眠っているのを「殺された!」と勘違い。
仲間を追いかけまわして、これまた殺してしまうのだ(やっぱ、そっちは全然OKなんやなあ)。
こうして、金のことも口封じも逃亡計画も、なにもかもとっちらかるどころか、ついには仲間割れが高じて全員が相打ちのような形で死んでしまう。
危険な強盗どもはいなくなり、なんと盗まれたお宝はウィルバーフォース夫人のもとに残されることに……。
というのは、まあ設定を見たところで、だいたい見当がつくオチではあるけど、では「漁夫の利」を得たウィルバーフォース夫人が、この間なにをやっていたかといえば、ずっと寝ていたのだ。
自分の殺害計画が立てられていたなどつゆ知らず、寝椅子でぐっすりおやすみ。
気がついたら一人になって、手元には大金が。
おやまあ、おばあちゃん、びっくりや。天然ぶりも、ここに極まれりである。
ラストの、警察署から出るときのちょっとしたオチも、なんとなくイギリス風に粋でニヤリとさせられる。
もう最初から最後まで、フワフワしたウィルバーフォース夫人が絶好調!
うーん、これって、映画の本だと
「豊潤な英国風のユーモアとウィットが楽しめる大人の喜劇」
なんて紹介されることもあるけど、
「紅一点のあふれる魅力で男どもの結束を破壊する」
という意味では、要するに「サークルクラッシャー」のお話なんだなあ。見直して、今気づいたよ。
「昔、おばあちゃんっ子だったなあ」とか思い出したりする人は、絶対にハマること間違いなしの傑作。おススメです。