『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』を観る。
ジョー・ダンテ監督。1960年代のアメリカ、フロリダ州の田舎町を舞台にした青春ラブコメディーだ。
子供たちのういういしい恋愛感情に、世界を震撼させた「キューバ危機」をめぐる混乱と、監督自身の映画への愛をまぶした、なかなかいい感じの佳作に仕上がっているが、やはりこの映画の最大のポイントは、オープニングで紹介されるアレ。
主人公たちが恋のドタバタを披露するのは、街にある映画館(と、その地下にある核シェルター)なんだけど、そこでかかる映画というのがイカしている。
忍び寄る突然変異体、逃げまどう群衆、絹を切り裂くような美女の悲鳴……。
そう、それこそが蟻と人間の合体した「アリ人間」が人を襲う恐怖映画、『MANT!』なのだ!
『MANT!』。
これを見せられた時点で、みんな思いますよね。
あ、これ絶対オモロイ映画やん、と。
オープニング・クレジットのバックに予告編が流れるんだけど、これがやたらと演出がおどろおどろしいとか、悲鳴がやかましいとか、役者の演技が微妙とか。
でも、アリ人間の着ぐるみだけやけに出来がいいとか(笑)、いやもう、
「ジョー、わかってるやん!」
という内容。タイトルもすばらしい!
開始数分で「勝ったも同然」と思わせる出だしだが、さらにピュウと口笛でも吹きたくなるのが、『MANT!』の監督であるローレンス・ウールジー。
アルフレッド・ヒッチコックのバッタもんのようだが(劇中間違えられて不機嫌になるシーンもある)、モデルはオーソン・ウェルズとか、ウィリアム・キャッスルとか、エド・ウッドとか、ロジャー・コーマンとか、そのへんの「ハッタリ」系の天才映画人が持つケレン味を詰めこんだ感じ。
口八丁の手八丁、サービス精神旺盛で、映画が当たりさえすればどんなウソでも平気でつけるという、クリエイターというよりは興行師という呼び名の方が似合うタイプ。
この人が実に味があって、「アトモ・ビジョン」(もしかして「アトミック・ビジョン」?)なる、あからさまにうさんくさい「発明」を看板にあげながら、堂々と会場に乗りこんでくる。
その正体は映画のアクションに合わせて音が出たり、煙が立ち込めたり、スクリーンの向こうから本物(?)のアリ人間が飛び出してくるなど、今でいう「4DX」の走りのようなもので、これがなかなかのアイデア。
実際、劇中の上映シーンでも観客は大喜びで、ストーリとともにそのドタバタもゴキゲンで楽しいのだ。
そのB級感が、なんともいえない。「4DX」のような「流行の最新設備」ではなく、どちらかといえば移動遊園地の「見世物小屋」テイスト。
マリトッツォやカヌレでなく、カルメラ焼きやベビーカステラのお店。チープだけど、それがいい。楽しい!
本編の恋模様と、このやたらと大仰なスラップスティックのバランスがよく、実にうまくできている。
いやあ、オレも、この映画館行きたいよ!
ストーリー自体は正統派なラブコメで、中学のクラスメートであるジーンとサンドラが、ひょんなことから地下の核シェルターに2人きりで閉じこめられて、もうドキドキ。
そのうち『MANT!』が上映されると、その音や振動で2人は「第三次大戦」がはじまったとカン違いして、
「どうせ死ぬんやったら……」
顔が徐々に近づいて行って、いやもうこれキスするんちゃうか……。
……て、ワシらがアリ人間の映画観てるウラで、お前ら、そんなイチャイチャすな!(笑)
そんな、とってもカワイイお話です。
バカっぽく見せかけてるけど、当時の風俗とか、「核戦争」「第三次大戦」の緊張感など、意外と幅広い見どころのある作品。
上映時間も90分ちょっとと、コンパクトでサクッと見られるし、それこそ土曜日のデートにもいいかも。
あと、この映画とかローレンス・ウールジーに魅せられた人は、ぜひセオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』という小説もどうぞ。
ちょっと長くてマニアックだけど、メチャクチャにおもしろいです。『このミス』1位は伊達じゃない!
★おまけ ウールジーの傑作『MANT!』(ジョーはちゃんと全編撮っているのだ。エライ!)は→こちら