海外旅行で会ったゲイの人々 その6 チェンマイのルーマニア人&フランス人 編 

2018年11月18日 | 海外旅行

 前回(→こちら)の続き。

 タイチェンマイ象トレッキングツアーで、ゲイカップルと同行することになった私。

 白人ジェイムズ君と褐色の肌をしたサルマンさん(それぞれニックネーム)は、ちょっとめんどくさい(『ヒカルの碁』に出てきた三谷君みたいな感じ)ジェイムズ君を、大人の雰囲気のサルマンさんが世話するというパターンの仲のようだ。

 その様子が仲睦まじく、無駄に好奇心だけは旺盛な私は、ちょっと声をかけてみたくなった。

 とわいえ、なんだかおもしろがっているように思われたら失礼だし、どうしようかなと迷っているところに、なんと、むこうから誘い水かかかったのだ。

 ツアーの昼食時のこと。ビュッフェ形式のレストランで、タイ風焼きそばをまりまり食べていると、



 「ここ、空いてますか?」

 


 皿から顔をあげると、くだんのカップルであった。

 声の主はサルマンさん。

 ジェイムズ君はあいかわらずブスッとして、こちらと目を合わせようとしない。相変わらずの、不機嫌ぶりである。

 ま、それはいいとして、タイミングを計っていたら、むこうから飛びこんでくるとは幸運であった。

 もちろんのことオーケー。どうぞどうぞ、一緒に食べましょう。

 思わぬ成り行きのランチタイム。会話はサルマンさんとすすんだ。

 ジェイムズ君はしゃべらないどころか、スープだけ飲むと、さっさと出て行って煙草を吸っていたようだが、そんな子供じみた態度にサルマンさん、



 「なんか、ウチのがすいません」



 苦笑いして、あやまっていた。

 ふたりはやはり、ルーマニアフランスの国際カップルであった。くわしくは訊かなかったけど、おそらくは今時らしく、ネットで知り合ったのだろうか。

 こういうとき、どういう訊き方をすればいいのか、よくわからなかったので、とりあえず、



 「彼とは友人?」



 そう投げかけると、サルマンさんは、



 「はい、恋人同士なんです」



 ハッキリと、そう言ったのであった。

 そんなストレートに伝えてしまっていいんだろうか。

 こちらに偏見があって「ゲ、マジか。気持ちわりぃ」みたいな態度を取ったら、どうするのだろう。

 一瞬、私も「同類」と思われたのかなとも思ったが、このときの同行者は女性だったので、それはないなと考えをあらためる。

 まあ、向こうはかなりオープンだったし、私もボーっとした男なので、

 

 「こいつやったら、おかしなことも言わんやろ」

 

 と判断したのかもしれないし、まあこっちが自意識過剰なだけかもしれない。

 理由はさておき、めずらしい相手とランチをともにするというのは、なかなかに貴重な体験である。

 サルマンさんは旅行好きで、ヨーロッパやアジア、日本なら東京京都も行ったことがあるという。

 そんな中でも、一番いいのはどこの街ですかとたずねると、



 「タイがいいけど、全般的にアジアはどこでも快適です」



 ふーん、やっぱヨーロッパ人は暑いところが好きなんやなあ。むこうは寒いもんなあ。

 なんてボンヤリ考えていると、サルマンさんはこうつぶやいたのである。



 「タイは、フリーですから……」



 そのときの彼は笑顔であったが、そこにはさっきまでの「日本はいい国です」と言ってくれていたときの、素直な快活さに、ややがさしている気がした。

 一瞬どういっていいかわからなかったが、気をつかってくれたのか、サルマンさんはおどけたように両手を広げ、すぐフレンドリーな彼に戻った。

 彼の言う「フリー」とは、単純にアジアの気候などによる開放感のことか、それとも自分たちの文化に対して「フリー」だということか。

 なんとなく、聞くタイミングを逸してしまった。

 それからも我々はチェンマイのおすすめスポットや、おいしいタイ料理などについて語り合った。そのあともツアーは続き、楽しくにも乗った。

 エレファント・ライドのあと、乗っているところを撮った写真を買えるのだが、ジェイムズ君がそっけなさそうに選んだものを、サルマンさんがニコニコしながら購入していた。

 その様子を見ながら、やはり思ったものだ。

 こないだも言ったが、彼らはその愛の対象がわれわれと違うだけで、他は別にふつうの人なんだよなあという、ごくごく当たり前のことだ。

 それでもやっぱり、あんなさわやかな人なのに、それこそサルマンさんなんかも、まだまだいわれなき偏見の目にさらされてしまうこともあるのだろう。

 思い出すのは、さいとう克弥さんと小野まゆらさんのマンガユニット「さいとう夫婦」の名作『バックパッカーパラダイス』のエピソード。

 ジンバブエの首都ハラーレで、強盗につけねらわれた、克弥さんとまゆらさん。

 と、そこに親切な黒人のおじさんがあらわれて、それとなく助けてくれたのだが、おじさんが南アフリカ共和国の人と聞いて、現地を訪れていた旅行者からアパルトヘイトのえげつなさを聞いていたまゆらさんは、



 「ぶっそうな夜の街で、いかにもカモな日本人を宿まで送るなんてなかなかできる事じゃないよね」



 しみじみしたあと、



 「あんなりっぱな人でも(南アの黒人だから)理不尽にプライドを傷つけられる事があるんだろうなあ」



 似たようなことを私も思ったのだ。

 サルマンさんみたいな、明るくていい人でも、「フリー」じゃないところでは、理不尽プライドを傷つけられることもあるのだろうか。

 私は善人ではないし、世のあらゆるマイノリティーにまったく偏見がないかといえばそんなこともないだろう。

 差別をしてないつもりでも、自覚せずに誰かを傷つけていることも、きっとあると思う。

 でもやっぱり、今さら正義漢ぶるつもりもないけど、もしどこかで昼飯をともにしたサルマンさんが、なにかで嫌な目にあっていたとしたら、どうだろう。



 「そういうことは、あってはならない」



 これは、心からそう言える。

 私ごときが世界を変えることはできないし、そもそもそれだけのすぐれた人間性もない。

 だからせめて、



 「《違う》人に対して、偏見を一回なくしてフラットに接してみる意思」

 「なくせなかったら、せめてそれを失礼な形で外に出さない気づかい」



 そしてなにより、



 「自分が《正しい》《ふつう》《常識》と思いこんで、無自覚に加害者になる可能性に無頓着であること」



 に注意すること。

 それくらいのことは、常に頭の片隅には入れておこうと思う。

 サルマンさんが、多くいるツアー参加者の中で、なぜ私たちに声をかけてくれたかはわからない。

 おそらくたまたまなのだろうけど、もしそこに、ほんの少しでも、私たちが彼らのことを、「理不尽にプライドを傷つけ」たりしないだろうと、踏んでくれたとしたら。

 私はその判断を、少しばかりうれしく思うのだ。



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