卒業式といえば「お礼参り」である。
学校の「ワル」と呼ばれた生徒たちが、在校中自分たちを締め上げた先生を、
「もう、お前らにペコペコせんでええんや!」
とばかり、卒業式のあとボコボコにするというものらしい。
そんなステキなイベントはぜひ見たいものだと、毎年この季節になると大いに期待したものであったが、今のところまだ観戦する機会を得られていない。
そんなヤンキー文化のひとつである、お礼参りで思い出すのが、K高校の逸話。
ここは学区内一の進学校であり、歴史もあり校風も自由な、いわゆる「かしこ」(関西弁で頭のいい人の意)の行く学校であった。
そんなK高の某年卒業式のこと。
卒業生、在校生が集まり、先生と保護者の方々が見守るなか、卒業証書授与。
卒業生代表の言葉あり、在校生の送り出しの歌に、人民軍11万人によるマスゲーム……はないけど、そういった毎年おなじみの光景がくり広げられていた。
卒業証書授与が終わり、あとは蛍が光ってお終いかあ、ああおつかれさん。
というところで突然、バーンというすごい音とともに、式場の扉が開いたのである。
おごそかな空気の中、いきなりなんなのか、と皆が後ろを振り返ったところ、そこに立っていたのはレスラーパンツ一丁のタイガーマスク。
タイガーマスク。
なぜ佐山サトルが、こんなところにいるのか。
だれもがいぶかしんだが、タイガーは気にする様子もなかった。
よく見ると、右手にはこんもりと白いクリームの盛り上がった大皿が。
ざわめく式場の中、突然タイガーは走り出した。
どこへ。その先にいたのは、K高の生徒指導であるT先生。
へ? と、まさに鳩が豆鉄砲を食ったようなT先生だが、タイガーはかまわず見事なダッシュでアプローチすると、体育館じゅうに響く声で、
「天に代わりて不義を討つ!」
一発決めてから、見事なスリークォーターで、パイをT先生の顔面にヒットさせたのだ。
皆が呆然となる中、タイガーは
「それではこれにて」
一礼すると、見事な見得を切って、高笑いとともに去っていったという。
しばらく静寂に包まれた式場であったが、どこからか拍手がはじまり、だれかがそれに応える。
やがてそれは、式場中に響き渡る大拍手へと成長していったという。
いうまでもなく、T先生はK高一の嫌われ者だった。
おそらくは在校生による粋な送り出しなのだろうが、それを平然と受け止めた卒業生もまたすばらしい。
頭がいい人は、こういうときの遊び心にたけていることがある。なんとも、味のある卒業式ではないか。
この話をK高の友人に聞いたとき、なんで自分ももっと勉強してK高に行かなかったんだと悔やんだものであった。
昨今、タイガーといえば、子供たちにランドセルを贈ったりするイメージだが、私が思い出すのはそれよりも、ウェイン町山並みの「大物へのパイ投げ」である。
ちゃんとパイを命中させたところとかも、しっかりした準備を思わせて感心する。やはり、虎の穴でピッチング練習をしたのだろうか。
今日あたりもまた、日本のどこかでこのような「お礼参り」が行われているのだろう。
卒業おめでとうございます。