雨宮処凛『悪の枢軸を訪ねて』がおもしろく、前回(→こちら)は北朝鮮のプロパガンダ標語のセンスがなかなかという話をしたが、今回はお笑いの世界について。
彼の国ではサーカスなどエンターテイメントに力を入れており、命綱なしで危険なアクロバットに挑戦したり、熊のレスリングがあったり、お手玉の代わりにハンマーやスパナを使ったジャグリングなど(共産国ですから)、なかなかの充実っぷり。
そこでは、芸人によるコントも披露される。
そのコントはやや辛口で、そういうテイストであるなら、もちろんこと「エスニック・ジョーク」も満載である。
「ポーランド人が電球を代えるには何人が必要か」
「ヒトラーとゲッベルスとゲーリングが乗っていた飛行機が墜落した。
助かったのは誰か?」
といった定番のネタは各国にあるものだが、彼の国がやっつける民族といえば、もちろん我々大日本帝国臣民である。
まず日本人役で出てくる役者の衣装というのが、
「着物」
「七三の髪形」
「千鳥足のだらしない酔っぱらい」
この三点セットであるという。
「酔っぱらい」以外はハリウッド映画などに見られる日本人の典型であり、
「うむ、やはり『外国人が見た間違った日本人』はこうでなくてはな」
納得させられるものであったが、そこからの展開がなんともイカす。
「韓国を搾取する欲深日本人を、北朝鮮の実直な若者がギャフンと言わせる」
みたいな、一昔前の日本で言えば悪のアメリカ人をやっつける
「力道山、怒りの空手チョップ」
みたいなわかりやすいものもあれば、ショーのクライマックスではドラムロールとともに軍服姿の男が落ちてきて、着地と同時にバックスクリーンにデカデカと、
「自爆精神」
おまけに、もうひとり落下してきて今度は、
「肉弾精神」
とどめに金正日総書記のドアップがドドドーンと映し出されて会場大拍手で終了というものも。
なんだか笑ってほしいのか、どうしてほしいのか、これ以上反応に困るお笑いライブというのもあるまい。
今の日本なら三四郎の小宮君が
「絶望的な活舌だから察してくれよ!」
と声を荒げたとたんに、「人間魚雷」の文字がスクリーンに映り、
「ボケだから異常であれ!」
と諭すと「爆弾三勇士」の文字。
「終わりでーす」
と漫才が終了すると、そこに大音量の君が代が流れ、浩宮様の特大写真がアップになるようなものか。
リアクションが難しすぎるネタだが、なんたって独裁国。それでも拍手せなしゃあない。
どんなエンターテイメントなのか。おもしろすぎるではないか。
かくのごとく、日本ではなかなか知ることのできない北朝鮮の、中でもお笑い文化を知ることができるのは、おもしろいところ。
昨今、日本のお笑い芸人も、ヨーロッパでライブをやったり、「アメリカでデビューしたい」なんて人もいるが、やはりここはひとつ、
「北朝鮮で政治ネタに挑戦」
という選択肢も、あっていいのではないか。
昨今ネットで叩かれがちな「日本ディス」なネタも、ここなら堂々とできるというか、それしかできないのも困りものだけど。