ブラジルサッカーならこれを読もう! アレックス・ベロス『フチボウ 美しきブラジルの蹴球』

2015年04月20日 | スポーツ

 アレックス・ベロス『フチボウ 美しきブラジルの蹴球』を読む。

 「フチボウ」とはブラジル・ポルトガル語でフットボール。つまりはサッカーのこと。

 といえば、もうおわかりのように、ブラジルのサッカーについて語られた本。

 英雄ペレと天才ガリンシャ、「黄金の中盤」ソクラテスのインタビューに、98年W杯決勝について語るロナウドといった本格的な記事から、リオのカーニバルとサッカーの関連性。

 はたまた、熱すぎるクラブチームの成り立ちから、そこにはびこる「帝王」のような支配者の存在といった、いかにもブラジルなエピソードも満載。

 しまいには、フィールドにカエルを埋めて相手チームに呪いをかけるとか、名もなき少数民族のサッカー事情など、南米文学的「マジックリアリズム」なノリもあって、もう盛りだくさんの内容。

 分厚い本だが、文体は軽妙で、どんどん読み進む内に、いつのまにかブラジルサッカーとブラジルという国にずっぱまりしている良書である。

 中でも語られるべきは、ブラジルサッカーにおいて、はずすことのできないこの事件。

 そう、1950年ワールドカップ・ブラジル大会決勝リーグ第3戦。ブラジル対ウルグアイ

 そう、いわゆる「マラカナンの悲劇」である。

 世にいうサッカーの古豪強豪といわれるチームは、たいてい一度は地元でワールドカップを開催し、また多くはそこで優勝を果たしている。

 ウルグアイイタリアイングランド西ドイツアルゼンチンフランスなどが、そのそうそうたる面々だが、意外なことにブラジルは優勝できなかった。

 舞台は1950年7月16日の、エスタジオマラカナン

 運命の一戦を前に、なんとスタジアムには20万人近い観客が詰めかけていた。

 当時決勝トーナメントがなかったワールドカップでは、決勝リーグで1位になったチームが優勝というシステム。

 ブラジル、ウルグアイ、スウェーデンスペインで争われたリーグで抜け出したのが、地元ブラジル。

 スペインとスウェーデンに大勝したことによって、トップをひた走り、事実上の決勝戦となる3戦目のウルグアイ戦に勝てばもちろんのこと、引き分けでも優勝が決まるという状況だった。

 地元ということもあって、圧倒的に有利と思われたブラジルは、後半開始すぐに先制点を奪う。

 ふつうに見れば、もう大会はおしまいである。

 20万の観客、いやブラジル国民の歓喜は、ここに絶頂に達したことだろう。

 ところが、勝負というのは下駄を履くまでわからないというのが常であり、勝つしかないウルグアイは必死に攻めて、なんと後半21分同点ゴールを奪う。

 そうして悲劇の舞台は整った。

 運命の時は後半34分

 ウルグアイのギジャが放ったシュートは、無情にもGKバルボーザが懸命に伸ばす手をすり抜けて、ゴールに流れ込んでいった。

 この瞬間、マラカナン・スタジアムは恐ろしいほどの静寂に包まれた。

 まさかの出来事に、ただでさえ凍りついていた選手たちも、



 「あれほど静まり返った瞬間というのは、後にも先にも体験したことがなかった」



 というほどの、のような静寂だったという。

 まさかのうえにも、まさかの付くギジャのゴールによって、ウルグアイの劇的逆転優勝が決まった。

 あまりの衝撃に、その場で2人が自殺

 ショック死する者も出るほどの、まさに二重の惨事と相成ったのである。

 こうして起こってしまったブラジルの敗北は、たしかに悲しい出来事だった。

 だが、ここに、さらにもうひとつ悲劇が生まれてしまう。

 それは、ブラジル敗北の責任を負わされることになってしまった、マラカナンで戦っていた選手たちのことだ。


 (続く


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