今日の茨城新聞は、ノンフィクション作家・保坂正康氏が、「自衛隊不祥事に見る劣化 旧軍の悪弊忘れたのか」の見出しで書いています。氏の洞察は鋭いものがあります。少し、長くなりますが、2回に分けて紹介します。
自衛隊不祥事に見る劣化
旧軍の悪弊忘れたのか
ノンフィクション作家・保坂正康
▼相次ぐ自衛隊の不祥事
防衛省・自衛隊の不祥事が相次いで明らかになっている。新聞の見出し風に表現するなら
「特定秘密のずさんな取り扱い」
「部下へのハラスメント」
「潜水手当の不正受給」
「靖国神社への集団参拝」
「公用車の不正利用」などうみが一気に噴き出した感がする。なぜこんな異様な事態になっているのか。
防衛省も述べ117人を懲戒処分、さらに103人を訓戒や注意処分としている。懲戒処分が最も多かった海上自衛隊はトップを交代する人事を発表した。
私はこの30年余、昭和前期における戦争の時代の検証を重要な世代的義務と考えて、旧軍人や戦前の政治家、官僚らを数多く取材してきたのだが、防衛省・自衛隊がこうなるとは考えもしなかった。日本の防衛を担う禁欲的組織として、防衛官僚、防衛大出身者の発言を聞いてきた立場からは、状況が変わったような感を受ける。
▼強気とおごり
私自身、10年ほど前からは防衛省・自衛隊の人たちから話を聞くことがなく、その変りようの推移は知らない。
それを前提にあえて言うのだが、変貌の理由には、次の点が挙げられるのではないか。箇条書きにしてみよう。
①対米防衛協力に伴う予算の拡大
➁憲法改正論議をめぐる中での自衛隊存在の公認化
➂靖国神社と自衛隊の近接感
④現実社会に即していない隊内教育ー。
この4点にはそれぞれ歴史的経緯があると思う。
①についてだが、岸田内閣は米国側の軍事的要求(予算拡大、自衛頼と米軍の指揮の一本化)に熟慮もなく、うなずいているのが現状だ。
2023年度から5年間で、防衛予算を総額43兆円に増やすことが決まっている。極東有事の際の、自衛隊と米軍の軍事協力の幅が拡大している。それは対米関係で必然的に自衛隊の地位が上がっていることであり、それが防衛省・自衛隊の強気やおごりにつながっているのであろう。
さらに憲法改正論議において自衛隊の存在を憲法に明記すべきだという議論につながっているとみることができる。かつての左派系の自衛隊全面否定のような乱暴な発言は影をひそめ、世代交代の過程で自衛隊のイメージも変化したように思う。
(つづく)