つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

アリス・イン・ミラーランド

2005-09-20 10:16:10 | ファンタジー(異世界)
さて、こっちはいまいちマイナーな第294回は、

タイトル:鏡の国のアリス
著者:ルイス・キャロル
文庫名:新潮文庫

であります。

『ラビリンス』
『ARMS』
『キャベツ畑でつまずいて』
『真女神転生』
『アリス・イン・ナイトメア』

『不思議の国のアリス』をネタにした、もしくは影響を受けた作品を挙げだしたらきりがありません。
それぐらいこの作品は――現代から見ても――特異であり、その名が示す通り不思議な話だったのです。(個人的には不気味と言いたいが)

で、本作はその続編。
前作のベースが語りの中から生まれたのに対し、本作は始めから続編として書かれたためか、非常にロジカルな色彩が濃くなっています。
ビックリ箱的展開が薄れたためかイマイチ人気が低いのですが、前作より解りやすい作品になっているのは間違いありません。

本作のアリスは鏡の国を訪れます。
前作がトランプの国だったのに対してこちらはチェスの国。
そこでアリスは白軍の最下級の駒(白のポーン)の役割を与えられ、チェスで言うところの敵陣の最下行を目指します。

一応、元のゲームを知らなくても話の筋は解るようになっていますが、知っていれば多少楽しみが増えるのは事実。
ポーンが一手目は二マス動けることや、駒による王手、クイーンの凄まじい移動力等が、作品内でちゃんと表現されています。
個人的にはキャスリングもやって欲しかったけど。(笑)

禅問答のような会話も健在。
数学者らしく、妙な所で筋は通っています。
もっとも、御子様にはわけが解んないかも知れませんが。

一番面白かったのは赤の王の話。
この方ずっと寝っぱなしなのですが、すべては彼の夢なのだとか。
でも読者はこれがアリスの夢だと知っているわけで、じゃあ赤の王はアリスの夢の一部なのだけど、アリスもまた彼の夢の一部で……あ~こんがらがる。

ファンタジー好きよりむしろSF好きに向いてます。
ただ、今回読んだ新潮版の訳と絵はあまりオススメでない。
お兄さん風の語り口調で書かれているのがなんか気持ち悪いし、絵もテニエルのものに慣れてしまうとやはり違和感があります。
邪婆有尾鬼(ジャバウォッキ)、の表記は笑えましたが。

ちなみに昔読んだ岩波版(だったと思う)には、全キャラクターと駒の対応表が付いていました。もっとも、登場人物の殆どが実際の駒の動きとは関係ない行動を取るのであまり意味はありませんが。

ちょっと、振り向いて、見ただけの……♪

2005-09-19 09:37:38 | 文学
さて、水と氷の魔術師ではない第293回は、

タイトル:異邦人
著者:カミュ
文庫名:新潮文庫

であります。

カミュと来れば異邦人とまで言われる、彼の代表作。
文章はちとくどいですが、短いのでさらっと読めます。

ムルソーの母が死んだ。
しかし、彼は悲しみの表情を浮かべたりはしない。
彼女を愛していたのは事実、死んだのも事実、ただそれだけのこと。

翌日、ムルソーは女と戯れていた。
その後、彼女は彼に自分を愛しているかと尋ねる。
彼はよく解らなかったので正直に答えた、恐らく愛していない。

ムルソーは人を殺めた。
燃え上がる大気に包まれた浜辺の沈黙を、銃弾で破壊した。
その瞬間、彼は幸福だった……たとえ、裁かれることになろうとも。

ムルソーはいわゆる快楽殺人者ではありません。
薬物により幻覚症状に陥ってるわけでもありません。
ただひたすらに正直なのです、それを異常と呼ぶのかも知れませんが。

弁護士はムルソーの精神に異常を感じ、それを嫌悪する。
判事はムルソーに神を否定され、激高して吠える。
検事はムルソーが母の死に無関心だったことを責め、勝ち誇る。

自らを正常であると信じる人々によって、ムルソーは断罪されます。
彼らにとって、ムルソーは許されざる異分子であり、異邦人なのです。
殺人罪を問う裁判が、魔女狩りの異端審問と化すのは……怖い。

一歩引いて考えれば、ムルソーの犯した殺人は正当防衛です。
問題は、彼の態度が周囲の人々の常識の範囲内になかったこと。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、解らないものは語らない。
そんな彼は『白痴』のムイシュキン公爵を彷彿とさせます。

短い作品ですが、時間の合間ではなく、腰を据えて一気に読むのが吉。
ムルソーを狂人と取るか、別のものと取るか、それは貴方次第です。

なかなか……とは思いつつ

2005-09-18 19:15:48 | ファンタジー(異世界)
さて、久々にクラシックのコンサートに行って来たの第292回は、

タイトル:雄飛の花嫁 涙珠流転
著者;森崎朝香
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

……前ふりと小説の内容はぜんぜん関係ないです(笑)

さておき、本書は古代中国をベースにした中国風のファンタジー。
主人公は、綏(すい)と言う国の公主である珠枝という少女。

公主とは言うものの、母親の身分が高くなく、近親婚を繰り返して血統を重んじる王宮にあって、周囲の冷たい蔑みを受けながらも、王である兄を慕って日々を暮らしていた。

だが、北方の蛮族の国である閃(せん)が、いくつかの小国を打ち破りながら綏へ迫っていた。
これまでの小国と違う規模の綏国に、戦うことはたやすいがその戦力や、自国の状況を勘案し、公主を正妃に迎えることを条件に和議を提案する閃。

珠枝とともにもうひとりいる公主……だが、珠枝は結構主義に固執する王太后の言葉に押し切られるように、慕っていた兄王から閃王である巴 飛鷹(は ひよう)のもとへ送り出されてしまう。

そうして、閃と言う異国で珠枝の物語は始まる……。

なーんて(笑)

まぁ、本の解説文だったらこんな感じかなぁ。
基本的には、珠枝の成長物語であり、飛鷹とのささやかな恋愛物語である、と言っていいと思う。

中国風と言うことで、格闘ゲームばりの派手な戦いや、得体の知れない道士が怪しげな術を使ったり、なんてことはまずない。
だいたいは珠枝の描写……生まれ育った綏への思いや、兄王への思慕、閃での役目、飛鷹との関わりなど、とても細やかに、珠枝の気持ちが語られている。

文章も1文がそこまで長くないけれど、珠枝の心理描写がしっかりしているので、適度に軽く読みやすい。
するすると入っていけるので、おそらくキャラへの感情移入もしやすいのではないかと思える。

ストーリーは、まぁ、上の解説文もどきを読めば、だいたいの流れはわかるはず。
奇を衒うこともなく、意外な結末がある……ほんのちょっとあるくらいで、大筋はとても安心して読めるお約束な話ではある。

ただ、文章の中で珠枝を表現する描写で、「悲愴な覚悟を背負った、けれど凛とした透明感のある姿」というような描写が、何度も何度も出てくるのは閉口する。
時折、強調するのにはいいけれど、こうも何度も出てくるとうざったくなってくる。

あと、ラストに歴史家が記す、と言ったような、珠枝や閃国、綏国などのその後を語った部分があるんだけど、個人的にここは失敗以外の何者でもないと思う。

まぁ、その前のクライマックスが終わったあとに流れが、だらだらしていて、それまでのいい流れを阻害しているので、全体としてラストはいただけない。
歴史家が記す、みたいな感じで書くにしても、十二国記のように史書の文章として、簡潔に書かれると、ラストがぴしっと締まるとは思うので、書き方をもっと考えればいいと思う。

ただし、ラストのこれを我慢すれば、全体としてなかなか読める話ではあった。
この手の中国ものが好み、と言うのを差っ引いても、十分に及第点を超えるだけの話になっている。

たぶん、ホワイトハートなのでライトノベル系に分類されるんだろうけど、ライトノベルというくくりでいけば、かなりの高得点をつけてもいいだろうね。

ようやく4冊目!

2005-09-17 14:52:28 | 古典
さて、カテゴリーを作った割にぜんぜん増えてないなぁの第291回は、

タイトル:日本霊異記(上)
著者:景戒 (全訳注:中田祝夫)
出版社:講談社学術文庫

であります。

前に古典の記事書いたのっていつだっけと思って目録見てみると、3月19日……。
ちと増やさんとなぁ。
相棒ともども、これでも日本文学科出身なんだし。

さて、本書は日本古代の仏教説話集で、概ね5世紀~7世紀くらいの説話を集めたもの。
上中下の全3巻で、基本的なコンセプトは「因果応報」
善い行いをすればよいことが、悪い行いをすれば悪いことが……と言う仏教の教えを説話の中で説いている。

だいたい古典と言うと、学術文庫を選ぶんだけど、これはやはり原文、現代語訳、語釈、と言う構成だから。

古文とかを離れて久しいけれど、昔取った杵柄で、それでも何となくこんな感じ、とわかるものなので、原文というのはあったほうがいい。
でも、やっぱり忘れてることはあるので、語釈があると、「ん?」ってのを語釈で見ながら読む。

んで、最後に現代文を読んで確認。

と言う感じで読めるので、この構成が基本の学術文庫になる。

でも、この日本霊異記、成立年代は概ね平安初期なんだけど、原文は漢文。
なので、本書はちょっとイレギュラーで原文が読み下し文になっている。

なので、実はふつうの古文よりも読みやすい。
さすがに漢字がそのままの意味だったり、違う意味だったり、単語の意味が掴みにくかったりするところがあるけど、それは語釈を見ながらであれば読めるし、語釈があれば、そう古文の知識がなくても読めるんじゃないかな、と思う。

ただ、やはり仏教説話だけあって、抹香臭い……もとい、説教臭い。
コンセプトが因果応報だけあって、こういうことをすればこうなるから、善行を積みなさい、ってのがほとんどだし。

でもまぁ、今昔物語集のもととなった話がたくさんあったりするし、説話なので1話1話はとても短い。

この上巻は35話。
まー、たまには古典でも、そして抹香……いや、説教臭いものでも、と言うひとには古典の割に読みやすいのでどうぞ。

とりあえず2冊目

2005-09-16 21:27:18 | 伝奇小説
さて、戦ってばっかなのは少年マンガに通じると思ったの第290回は、

タイトル:ヴァンパイヤー戦争2 月のマジックミラー
著者:笠井潔
出版社:講談社文庫

であります。

本屋で何かないか探すのも面倒だったので2巻を買ってみた。

1巻は副題でもある吸血神ヴァーオゥ。
このヴァーオゥというのがいったい何なのか、そしてそれにまつわるふたつの知的生命体の宇宙間戦争、ムー大陸の謎、そしてヴァンパイヤーについての話を、主人公である鴻三郎、ヒロインのラミアのふたりを中心にして語られていた。

で、ヴァーオゥはどういう存在なのかなどの一定のネタばらしをして、2巻、と言った感じだった。

2巻はラミアと、ラミアと関わりのあるメインキャラのミルチャは、ヴァーオゥに関することでトランシルヴァニアの山奥の寒村に出向いてしまっていることになるので、鴻三郎のひとり舞台。

舞台は日本。
パリから始まった物語の中で、ムー大陸がなぜ出来て、なぜ滅んだか、と言ったことが語られていたけれど、2巻では日本のムー大陸との関わり、ヴァーオゥとの関わりが語られている。

……にしてもまー、相変わらず説明台詞(又は文)が長いのなんの。

1巻のヴァンパイヤー絡みの説明やヴァーオゥのこと、ムー大陸のことなど、とにかくこれでもか、ってくらい長かったけど、今度は日本の石器時代やら縄文時代からの話が、これまた、これでもかってくらい長い。

いや、きっちりと解説してもらえるのは、世界観とか、そういうのがよくわかっていいんだけど、もうちょっと文章の流れの中に溶け込ませてくれてもいいんじゃない? と思ってしまう。

どうやら評論も書いてる作家さんみたいなので、そういう論理的な説明の仕方は得意なんだろうけど……。

さておき、この2巻、説明台詞は長いものの、1巻よりは読みやすくなっているほうだと思う。
と言うか、基本的に常人よりも遙かに強い主人公だけど、そうした能力を上回る困難や事件と言ったネタを持ってきて、それを切り抜ける、と言う展開は、ほとんど少年マンガのノリ。

まぁ、読みやすかったのはそれだけではないけどね。
1巻に較べて、戦闘シーンとそうでない部分とのメリハリがはっきりしていた、と言うのもあると思う。

とりあえず、続きは読んでみよう。
……と言うか、ここまででっかくした設定を使って、どうオチをつけてくれるのか、ひじょーに気になる(笑)

よくある、途中はおもしろいけど、ラストで全部台無し、ってのになるか、読後感良好で終わるのか……。

11巻完結か……長いな……。

あ、そうそう、もうひとつ。
文庫版になってからだろうとは思うけど、解説が入っている。

この解説、果てしなく、うざい。

1巻でもそう思ったけど、2巻でも20ページ以上の解説があり、菊地秀行だの何だのの台詞を持ってきたり、あーだらこーだらとうんちくを並べ立てて、解説とは言いにくい。

つか、20ページって、もしかしてこのページ数も値段に入ってるんだったら、はっきり言って、いらない。
こっちは「ヴァンパイヤー戦争」という話を読みたいんであって、誰もうんちくたらたらの解説を読みたいわけではないんだしさ。

解説者も、もうちょっと……いや、100%くらい考えろよな。
まー、ただでさえ、読む気が薄い解説を、ここまで無視できてしまうんだから、ある意味、すごい解説を書いてるよな。
笹川吉晴っておっさんはよ。

指圧の心は母心~♪

2005-09-15 15:11:20 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、自覚はないけど凝ってるらしいの第289回は、

タイトル:親指からロマンス(第1巻~4巻:以下続刊)
著者:椿いづみ
出版社:白泉社花とゆめコミックス

であります。

鈴:どう考えても背骨が歪んでいるに決まっているLINNで~す。

扇:肩関節が十年単位でガタガタいってるSENでーすっ。

鈴:……さておき、今回は早速ストーリー紹介に行きませう。
ふと、いま思ったけど、まるで親指姫あたりを下敷きにしたような話かなぁ、と想像できそうな名前ではあるけれど、実は「マッサージ」をネタにした話であります。

扇:親指姫ってどんな話だったっけ? 一寸法師の親戚?

鈴:検索するとアンデルセンあたりの名前が出てるから日本の話ではないな。
ちっこいまんま王子様と結婚したともあるし……って、よく結婚許したな、この国……(笑)
さておき、本作のストーリーは、けっこうべたべたなラブコメで、1巻はホントにそのまんま。
ストーリー紹介を詳しくするとキャラ紹介にもなるので、キャラ紹介と合わせて、のほうがいいかな。

扇:って、ちっこいまんまかい……じゃ、そこの国の家系は途絶えたんだな。(笑)
確かに、間にギャクが入ってなかったら、私は死んでるなぁ。

鈴:家系が途絶えたか……当然だなっ!(笑)
さておき、キャラ紹介と言うことで、主人公の東宮千愛(とうぐうちあき)。
基本的にはただとろいだけの、ふつうの女の子キャラだが、第1話の冒頭から、男の姿形ではなく、背中のこり具合に、眼がお星様になっているマッサージマニア。

扇:森泉陽介、学校一の凝り男。
運動神経が悪いわけではないが、全身のツボが悲鳴をあげるぐらいの凝り男。
当初は振られた弟の敵討ちのために千愛に接近したが、人違いであることが判明し、見事に堕ちた人。(笑)
女なぞウザイだけと考えているタイプだが、眠くなるとエロモードに移行する。

鈴:凝ってるな、陽介。たいてい千愛にマッサージされてるし(笑)
では次に、ツボーズ。
凝っている肩、背中などから千愛を誘惑するツボの精(?)
いろんなところから、千愛を誘惑し、ときには陽介すらを凌駕する誘惑光線で千愛を虜にするこのマンガ独特のキャラ(?)

扇:つーか、ツボ押しで愛を再確認する二人だからな……。
阿部夏江、マッサージ研究会の女王様(会計)。
仕事は有能だが、言動にエロスがにじみ出ている人。
大人役っぽく、千愛にアドバイスすることもあるが、半分は楽しんでるだけに見える。
バックにキラキラ背負って登場しても全然違和感ないのはこの人ぐらい。(笑)

鈴:再確認してるのは千愛だけのような気がしないでもないが。
では、次に東宮武。千愛の兄で、マッサージ師になるために家出した千愛を凌ぐマッサージマニア。
千愛同様、ツボーズが見える特殊能力者。
さらに常識知らずで、かなり天然入っているが、後輩を落とすために天然たらしになるところが陽介と通じるところがある。

扇:てか、家出しても学費だけは払ってもらってるみたいだが……。
はて、こんなとこか。
後は、普通人代表の部長と優奈がいるが、やはり薄さは否めんか。
逆に普通だから安心できる二人ではあるんだがな。

鈴:そうだなぁ。キャラはふつうなのだが、相方が夏江と東宮兄だからなぁ。
影が薄いのも、多分にこいつらの濃さが影響しているような気がしないでもないが。

扇:どちらかと言えば、濃い奴等の方が多い漫画だからな。
ま、濃い奴等にはツッコミ役が不可欠なんで、普通人は必要なんだが。
あ、ちなみにギャグのキレはそれなりに良いです。(つーか、夏江さんステキすぎ)

鈴:……思いっきり趣味が出てるな……。
まぁ、私もこのマンガ中、どのキャラがいちばんいいかと言われれば、迷わずツボーズを勧めるがな(爆)

扇:いや、全然方向性違うし。
つかなんでツボが喋るんだ、ツボがっ!
てか某ツボ師の男に至ってはモロに人間の姿に見えてるし。

鈴:確かナビ機能付きだったはずだ。どこが一番凝ってるかとか。
……なんか、かなり色物的なキャラがたくさん出ているような気はしないでもないが……。
さておき、ネタはマッサージというけっこう意外なものを題材にして、なかなかおもしろい作品であります。
中身はべたべたなラブコメなので、そういうのを受け付けないひとにはちとつらいかもしれないけど、そうでなければオススメでしょう。
と言うわけで、今回はこの辺で、さよなら、さよなら、さよならっ

扇:主役二人のロマンスはさぶいぼ全開ですが、上手いことギャグを絡めて毒気を抜いているので、苦手な人でもどうにかなる……かも知れません。
ではでは、次回は雲に乗った少年が戦うバトル漫画です。

明智君、とはまだ会ってない?

2005-09-14 15:00:15 | マンガ(少年漫画)
さて、先々週乱歩を紹介したからではないけど第288回は、

タイトル:二十面相の娘1~5(以下続刊)
著者:小原愼司
文庫名:MFコミックス

であります。

怪人二十面相……が子供を産んだわけではございません。
悪辣な叔母夫婦の手からさらってきただけです。(笑)

時は昭和初期。
両親を失った少女チコは、財産を狙う叔母夫婦に命を狙われる。
颯爽と現れた怪人二十面相に誘われ、チコは怪盗の道を選ぶが――。

かなり人を選ぶ絵だと思いますが、この方結構好きです。
作品の雰囲気としては怪奇物というより猟奇物といったところ。
二十面相とか明智小五郎のビジュアルもなかなかいい感じです。

チコと二十面相一味の旅。
二十面相の失踪、再び日本に戻るチコ。
明智先生の暗躍(笑)、大戦の亡霊の出現。
白髪の魔人、二十面相の遺産を巡る戦い。
というふうに、物語は二転三転します。

年齢のせいもあって、チコはどちらかというと巻き込まれるか流されるかなのですが、それでも必至扱いて逆境に立ち向かうところが何とも凛々しい

二十面相もただの怪盗ではなく、何かしら目的がある御様子。
しかもその因縁は大戦時代まで遡るらしい。
黙って立ってるだけなら、少し影のある素敵なオジサマですが。(笑)

少年探偵団ものではない方の明智小五郎とか、電人Mとか、白髪鬼とか、乱歩作品のネタがちょこちょこ顔を見せるのも楽しいです。
乱歩のエログロテイストを味わいたいなら高橋葉介を漁るのが良いかと思われますが、飽くまで二十面相と明智君を追っかけたいならこっちがオススメ。

「彼は若い、大戦の頃は子供だったろう。だから私達を理解できない」
「永遠に埋まらないミゾさ」
(某悪役と二十面相の会話)

なーんて会話がかなりいい味出してます。

とりあえず、五巻で白髪の魔人編が終了。
この先どうなるのか、期待しています。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『二十面相の娘』のまとめページへ
 ◇ 『コミックス一覧表(白組)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

ティーガーかタイガーか?

2005-09-13 11:16:07 | 時代劇・歴史物
さて、別にミリタリー・マニアってわけじゃないけど第287回は、

タイトル:独ソ大戦車戦―クルスク・史上最大の激突
著者:G・ジュークス
文庫名:光人社NF文庫

であります。

クルスクという町がある。
1943年、ドイツとソ連はこの町を巡って激しい攻防を繰り広げた。
両軍合わせて415万強の兵力が激突した未曾有の戦いの結末は……。

ナポレオンもヒトラーも冬将軍に負けたものだと思ってました。(無知)
どうもドイツ対ソ連というと、スターリングラード攻防戦の印象が強いのですが、このクルスクの戦いはその後、なおも東部戦線を維持しようとするドイツとウクライナの首都キエフまでの版図を取り戻そうするソ連の激突です。

スターリングラード奪回後、追撃を続けるソ連は途中でドイツの反撃を喰らい、やむなく後退することになりました。
この際、一部の土地を保持しておいたのですが、それは当然のごとくドイツの占領地に挟まれていました。
「<」こんな形で、尖った先っちょがクルスクです。

次の戦いの争点は明らかでした。
ドイツ側は総攻撃のために戦力を集中させ、ソ連側は防備を固める、しかし上層部からの会戦命令はなかなか来ません。
ヒトラーはアフリカ、イタリア方面が気になって、なかなか全面対決に踏み切れなかったのです。

んで、タイトルの通り戦車戦がメインになるのだけど、これに関してもドイツ側には不安材料がありました。
戦車は男の子のロマンの一つですが、ドイツな方々も三つ子の魂百までの感覚が抜けきれなかったのです。
ロシアの戦車T34が結構強かったのに対抗して、ティーガーI型という戦車を作ったはいいが、そっちの生産を増やすために今までの標準機のラインを止め、生産力が一気に低下してしまいました、おいおい。

現場からすれば、旧型でいいから数を増やして欲しいところ。
やって来る新型は確かに強いんだけど、部品は現行機のものが使えない。
逆にロシアはT34の生産に専念し、月産千台ぐらい作る。
この時点で既に勝負が見えてます……。
(ちなみに、ティーガーIは確かに強力だったけど構造的な欠陥があったらしいです、装甲が平面なので弾を弾きにくいとか)

でも、両軍にとって最大の敵はしょっちゅう口を挟むお偉方(ヒトラーとスターリン)だったかも知れません。
特に、いったん手に入れた土地を放棄し、後方で戦力回復に努めるなんてことを上申すると大抵怒られます。
なんか現代にも適用できそうな話です。

とにかく町の名前が沢山出てくるので、地図を片手に読み進めていくことを苦にしない方にオススメ。
戦争の狂気がいかに人間の判断力を狂わせるのかがよく解ります。

僕は103歳まで生きるらしいよワトスン君

2005-09-12 18:21:55 | その他
さて、NHKでやってたドラマは名作だ、な第286回は、

タイトル:シャーロック・ホームズ――ガス燈に浮かぶその生涯
著者:W・S・ベアリング=グールド
文庫名:河出文庫

であります。

コカイン愛好家。
化学実験フェチ。
犯罪学者の弟子。
あと……なんかあったかな?

世界で一番名の売れている探偵シャーロック・ホームズの伝記。
当然架空のです、まさか実在の人物と思っている人はいない……よね?

ゆりかごから墓場まで、年代順にホームズの人生を追ってます。
つーか、ここまでやるかって細かさです。
多分、作者のコナン・ドイルより詳しい。(笑)

ワトスンの記述の誤りの指摘。(かなりある)
ホームズの犯したミスに対するツッコミ。(結構ある)
よく話題にされるワトスンが三回結婚したことの謎解き。
などなど作品の情報整理も充実。

問題は、これらの情報源には原作以外も含まれているということ。
つまり、ドイル以外の作家が書いた作品を元にした情報もある。
ディープな原作ファンからするとちと反則っぽいかも知れません。
特に、ホームズとアイリーンの息子がアメリカで探偵やってるなんてのは個人的に、やれやれ……って感じですね。

色々混ざってる割にはルパン対ホームズは取り上げられていない。
まぁ、ファンからするとあんなマヌケな男はホームズじゃないのかも。
相棒の名もウィルソンだし、やっぱり別人なのでしょう。(笑)

事件の解説も細かく書かれており、粗筋代わりとしても読めます。
この事件の最中に別のこの事件を追ってたとかが解るのも楽しい。
同時代のイギリスの歴史もちょこっと学べます。

シャーロキアンは必読。
原作を読んだり視たりする時のサブテキストとしても優秀です。
(ところで、モリアーティって間抜けだと思うのは私だけ?)

マンガと漫画

2005-09-11 15:10:55 | 学術書/新書
さて、マンガだけどそうじゃないの第285回は、

タイトル:江戸のまんが ~泰平の世のエスプリ
著者:清水勲
出版社:講談社学術文庫

であります。

まんが、と言ってもいまで言うマンガではなく、江戸時代の木版刷りの絵についての紹介と、考察を行っているもの。

前半分は、「江戸まんがの世界」と題して、江戸時代に描かれた様々な「まんが」の紹介を、豊富な写真で紹介している。
江戸時代の絵と言うと、「浮世絵」や武者、役者、力士、女性などを描いた人物絵などがすぐに思い浮かぶかもしれないけれど、これにはそういうものはない。

そういったよく知られたものではなく、「鳥羽絵」や「大津絵」「寄せ絵」など、当時の風俗や政治、社会と言ったものを題材に、諧謔や滑稽、風刺と言った要素を取り入れた「江戸のまんが」を、わかりやすい文章で解説している。

後半分は、「江戸まんが群像」として、まんがに対する著者の考えなどが紹介されている。

読んでみて、ふと、江戸時代のまんがって、けっこうおもしろいのね。
マンガというと、4コママンガとかは別として、ストーリーがあるのがいまは当たり前。
でも、この時代はいまみたいに何十枚、何百枚も簡単に印刷できるわけがないから、1冊数十枚だったり、数枚揃えがせいぜい。
1枚なのも当たり前、な時代だけに、そういった1枚の中にいろんな意味が込められていて、読み解く楽しさみたいなのがある。

たとえば、「子供遊絵」に出てくる「子供遊お山の大将」という絵では、子供の文字が入っているにもかかわらず、戊辰戦争を題材にしたものだったりする。

副題のとおり、けっこうエスプリの効いたのがたくさんあって、解説を読まずに絵をまず見て、どういうものかを想像してみる楽しみ方もできるのではないかと思う。

ただ、写真が多くても、そこまで大きくないし、白黒なのでよくわからないところも多い。
文字も当時のままの書き方だから読みにくいし、判別しにくいところが多いのが残念。

雑学っぽいものではあるけど、興味深く読めるものだと言える。
……言えるけど、さすがに講談社学術文庫。
200ページ程度の文庫で880円は、高いっ。