つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

こういうのが好きなのかな?

2012-02-19 13:18:54 | 伝奇小説
さて、第985回は、

タイトル:沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一
著者:夢枕獏
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'11)

であります。

この人の作品を読むのは「陰陽師」以来だなぁ。
と言うか、「陰陽師」以外、まったく知らないんだけど(笑)

さて、ストーリーは、

『密教を学ぶために遣唐使船で唐へ渡った空海、そして同じ船で儒学を学ぶために唐へと渡ってきた橘逸勢(たちばなのはやなり)。
目的地とは遠く離れた地方で足止めを食いながらも、何とか唐の副帝都である洛陽にたどり着いた空海一行。

爛熟期にある唐の副帝都で道士の技に、大唐帝国の懐の深さを垣間見、長安への道すがらちょっとした怪異を鎮めたりしながら旅を続け、長安へと入ることができた。

その頃、長安では劉雲樵(りゅううんしょう)という役人の家に猫の妖物が取り憑き、妻の春琴を寝取っただけでなく、様々な予言をして的中させたりしていた。
中でも徳宗皇帝の死まで予言し、的中させてもいた。

また同時期、驪山(りざん)の麓、除文強の綿畑では夜になるとどこからともなく声が聞こえると言う怪異が起きていた。
その声もまた皇太子である李誦(りしょう)が病に倒れることを予言し、これまたそのとおりになっていた。

長安に入った空海は、それらの怪異を聞きつけ、興味を覚える。
実際に劉雲樵の屋敷に出向いて猫の妖物と問答をしたり、逸勢とともに行った妓楼で情報を集めたりしながら空海は唐で起きている怪異に深く関わっていくこととなる。』

……どう見ても空海と逸勢の関係が「陰陽師」の晴明と博雅の関係とダブってしまう。
まさかこういう関係しか書けないわけではないだろうから、単に似てしまったと言うだけだろうけど、「陰陽師」を読んでいてこれを読むとちょっと引いてしまう。

初手から「なんだかなぁ」と言う気持ちにさせられる先制攻撃はさておき……。
全四巻の第一巻ということで、ストーリーは序盤。
空海一行が地方で足止めを食らっているところを空海が解決して旅が再開できたり、怪異を調査したりする空海側のエピソードと、長安や驪山で起きる唐での怪異を巡るエピソードなどを絡めてストーリーは進んでいく。

19年という年月をかけて書かれた作品だけあって、よく調べたよなぁと言う印象が強い。
歴史だけでなく、漢詩や密教のこと、当時すでに長安に入っていたキリスト教やゾロアスター教にまで言及しているところは素直に感心できる。

……で、肝心のストーリーのおもしろさはと言うと……。

微妙……。

まぁ、まだ序盤だからこれからの展開が気にならないわけではないけれど、でも続きが読みたい! と思わせるような勢いは乏しい。
Amazonの評価はけっこういいので、歴史ものや伝奇小説好きの人には一見の価値があるかもしれないけど、そうでない人にとってはおもしろみに欠ける作品かもしれない。
巻ノ一も読んだので、一応巻ノ二も読んでいる途中ではあるけど、個人的にあまり食指が動かない。
まぁ、たとえば図書館で予約していた本が借りれる状況になったら、そっちを先に読んで後回しでもいいや、くらいにしか感じていないわけで……(^^;
(実際、予約が入っていないことをいいことに貸出期間延長したりしたもんなぁ……)

文章も相変わらず簡潔……と言えば聞こえはいいけど、軽くて深みはない。
まぁ、これは「陰陽師」のときから変わらないので、この人の文体として許容してしまえばいいんだろうけど、ちょっとくらい文章にも気を配ってほしいとは思う。
もっとも文章に拘ってしまうのは私の悪い癖なので、あまり気にしないでもいいかも(^^;

……と、なんかとりとめもなく書いてしまったけど、総評としては可もなく不可もなくと言ったところで、まぁ、及第と言ったところかなぁ。
夢枕獏のファンや歴史ものとかが好きな人にとっては、空海という珍しい素材を扱った伝奇小説と言うことでおもしろく読めるかもしれないのでね。


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時代伝奇にしては

2007-01-13 17:30:12 | 伝奇小説
さて、菊池秀行以来になるのかなの第774回は、

タイトル:陰陽宮1 安倍晴明
著者:谷恒生
出版社:小学館 小学館文庫(H12)

であります。

昼休憩、と言うのは1時間しかないので、こんなときに図書館に行くといつもに増して考えもせずに適当に手に取るわけなんだけど、これもその一冊。
まぁ、個人的に平安ものは好き、と言う理由だけだったので期待せずに読んでみたかな。

ストーリーは、タイトルのとおり……と言いたいところだけど、実は違って21歳の若き藤原道長の物語。
若く、凛々しく、覇気と才気に溢れる道長は、謙譲術数に長け、親兄弟で骨肉の権力争いを続ける藤原北家にあって、栄達を求めない風変わりな京人だった。

あるとき、屋敷に出入りする風の法師なる男とともに京の都に出かけていた道長は、人買いから逃げ出してきた少女を助ける。
その少女は、道長に泉州信太の森へ来るように告げ、道長は学生がくしょう時代からの友人橘逸人とともに信太へと赴く。
そこで再び出会った、助けた少女サキに連れられ、深い森の奥にある庵で安倍晴明に出会い、その自らに与えられた運命の一端を知る。

だが、そんな道長の前に現れるのは、花山帝を巡る父兼家、兄道隆たちの権力争いや、京を跳梁跋扈する凶悪な盗賊たち……。
源雅信の娘倫子との恋、結婚、後の一条帝中宮となる彰子の出生などの幸せな出来事の中、道長は時代を担う者として歩み始める。


私は、道長が大っ嫌いです。
理由は単純。
定子様への扱いのためです(爆)

なので、最初は道長が主人公で、しかもいい感じの貴公子に描かれているところに、かなり抵抗感があったわけなんだけど……。

時代ものの伝奇小説としての出来は、かなりよい。
タイトルではちと晴明を前面に出しているが、内容は道長が腐敗した平安王朝を建て直すような展開を予想させる物語となっており、そうした中で要所要所で道長を助けるために晴明が登場する、と言うパターンになっている。
伝奇小説らしい戦いは、この巻では道長と盗賊たちの斬り合い、晴明の助力など、どちらに偏るわけでもなく、荒唐無稽なところが強すぎず、バランスがいい。

またストーリーの主体が、道長を中心とする王朝での話となっており、そうした部分も、史実に基づいてきちんと描かれている。
戦闘に偏りがちな伝奇小説としてはこうしたところはしっかりしていて好感が持てる。

ただ文章がとにかく硬い。
こうした政争を描いたりする場合には、重々しい文章は似合っているのだが、使う漢字に難しいものが多いのが難点。
時代の用語は仕方がないが、それ以外にも多用されているので気軽に、と言うわけにはいかない。

また、他に適当な単語がなかったのだろうが、「リズム」と言ったカタカナが入るのもマイナス。
他はすべてカタカナなしの文章になっているので、こうしたカタカナ文字を安易に使うよりもきちんと漢字の単語を使ってもらいたいところ。

とは言え、総じて腐敗した王朝のどろどろした雰囲気はしっかりとあり、物語としても続きを読ませられるだけの力がある。
いままで伝奇小説は、ワンパターンだが菊池秀行が安心して読める唯一の作家だったが、これは菊池以外に読めそうな伝奇小説だろう。

ただ、どうしても道長が主人公となると、個人的にとてもいやぁな予感がしてしまうのが難点だが……(笑)

Simple is Best?

2006-11-24 20:58:50 | 伝奇小説
さて、これはこれでひとつの特徴なのかもの第724回は、

タイトル:陰陽祓い 鬼龍光一シリーズ1
著者:今野敏
出版社:学習研究社 学研M文庫(初版:H13)

であります。

名前だけは知っていたけど、読んだことがなかった作家だったのでいい機会だと思って手に取ってみたもの。
いろいろと出てる本のタイトルから、ジャンルとしては伝奇小説だろうと思っていたけれど、これも見事な伝奇小説。

さて、ストーリー紹介は次のとおり。

少年課の巡査部長である富野輝彦は、暴行の上、絞殺する、と言う連続強姦殺人事件の捜査本部に、心理学者の本宮奈緒美とともに参加していた。
手口から同一犯であるとされる殺人事件。
被害者がうち捨てられた現場で、本宮とともに捜査に当たっていた富野は、そこでひとりの男に目をとめる。
職務質問から、鬼龍光一と名乗った男は、茫洋とした様子ながらもはっきりと富野にお祓い師だと告げる。
さらに、この事件は警察の領分ではないと言い切った。

妙な男だと思いつつも、捜査を続ける富野たちだが、犯人逮捕に際し、その犯人とともに、またもや鬼龍の姿を見る。
しかし、逮捕したのも束の間、またもや似た手口での強姦殺人事件が発生し、富野は再び捜査本部へ出向く。
行きずりの犯罪で捜査に行き詰まる中、富野は鬼龍の語る「亡者」と言うキーワードに鬼龍を訪い……。

陰陽のバランスが崩れた亡者を祓う鬼龍光一と、一連の連続殺人事件を追う富野巡査部長とが、ともに事件の捜査を進め、殺人事件のもととなった亡者を突き止め、祓うまでを描いた伝奇小説。
ストーリーの進み方は、殺人事件やその他、黒幕となる亡者によって亡者にされた少年少女たちの行動などを辿り、黒幕と対峙する、というもの。

よく言えば、とても素直なストーリー展開。
黒幕が誰か、なんてのはだいたい半分も読めば、想像がつく……と言うより、3分の1くらい読んで、「あ、こいつだな」と思ったのがビンゴだったりする(笑)
脇道に逸れることもないし、一本のまっすぐな線のような進み方なので、あれこれと予想する楽しさはないが、安心して読める作品であろう。
ただ、伝奇小説という割に、派手な戦闘シーンなどはほとんどなく、そうしたところを期待すると拍子抜けするかもしれない。

また、文章もストーリー上の事実、行動などを淡々と簡潔に描写しており、読みやすく、読み始めてしまえばすらすらと読み進めることが出来る。
逆に言えば、まったく味気ない文章で、情緒的な部分の微片もないが、これはこれで意外と悪くない、と思ったりして。

全体としては、突出したものもなければ、反対にここが悪い、と言うところもなく、中途半端、と言うのが一番ふさわしいかも。
あえてオススメする理由も見つからないし、さりとてオススメしない理由も見つからないもんなぁ。
総評は……悪くはない、と言う程度なのでいちおう及第、かな。

いかにもな

2006-09-30 14:38:34 | 伝奇小説
さて、これぞ男性作家の第669回は、

タイトル:白妖鬼
著者:高橋克彦
出版社:講談社 講談社文庫(初版:H8)

であります。

時代は平安初期、内裏の陰陽寮に勤める弓削是雄ゆげのこれおは、命により陸奥の胆沢鎮守府で陸奥支配の一翼を担っていた。
しかし、突然の免官や都の不穏な情勢に占いを試みるとそこに表れた八卦は不吉なものだった。

自らの卦にも不可解な結果が出て戸惑う是雄は、過日に蝦夷の村で頼まれた占いをするために鎮守府を出た途中に何者かに襲われる。
撃退し、蝦夷の村で淡麻呂というすいかほどの大きな頭を持つ少年を見た是雄は、この少年が自らの占いに出たひとりの仲間だと言うことを悟り、ともに都へ戻ることになる。

是雄といわゆる付き人で弟子の甲子丸きねまるとともに都へ戻るそのとき、襲われた是雄とおなじように術士として名の高い者たちが次々と殺されていた。
是雄もまた、最初の襲撃からいくつかの襲撃を受けるもこれを撃退。
途中、夜盗の女頭目、芙蓉丸と出会い、なぜか付け狙われるものの、ともに都に戻る。

道中、殺された陰陽師のひとりの霊魂から得た情報や、都で聞いたその現状に、鬼の存在を確信した是雄は、鬼を駆逐することを使命とする陰陽師として、その鬼退治の決意を固める。
自らの卦に出てきた仲間である淡麻呂と芙蓉丸とともに。

平安時代が舞台、と言うと中期~後期の貴族文化華やかりしころ、と言うのが多いとは思うが、この時代は藤原基経の時代で9世紀後半。
陰陽師ものならばたいていは安倍晴明あたりが出るものだが、それよりももっと時代が前というのは珍しい。

とは言うものの、珍しいだけでそれ以上でもそれ以下でもない。
まず文章。
なんかいかにも男性らしい簡潔だが、これっぽっちも味気のない事実列記型。
先日の「奇術師の家」とは正反対。
こんな文章からその作品の雰囲気だの何だのを感じられるわけがない。

展開のほうは、無理はないし、すらすらと読めるのだが、ラストが尻切れトンボ。
拍子抜けしたと言う意味では意外なラスト、と言おうと思えば言えるがそれがいい意味でのラストかと言えばそんなことはない。
また、キャラだが、全員ロボットにしか見えない。

雰囲気は感じられずに無味乾燥、文章は事実列記型で味わいもなし、キャラはロボットでラストは尻切れトンボ。
いろんな意味でインパクトのある作品というわけでもなく……うわ……、いいとこなしやな、これ……(爆)

まぁ、おもしろくなかったので仕方がない。
総評、落第。

ハレー彗星って危険?

2006-08-29 15:45:36 | 伝奇小説
さて、これまた世代を選ぶ第637回は、

タイトル:魔の星をつかむ少年
著者:鈴木悦夫
出版社:学習研究社

であります。

昨日に続き、今日もまたおぼろげな記憶と多少の下調べで書きます。
シーンの順序等、間違いがありましたら、遠慮なくツッコンでやって下さい。

学研『5年の学習』に『魔の星が帰る日』の題名で連載されていた伝奇アクション。
児童版幻魔大戦と言っても過言ではない話で、当時はかなりハマってました。
私は単行本で読んだのですが、連載の方だとラストが違ってたらしいです。(後述)

主人公は星界小学校の五年生、火ノ瀬流……当然だけど、若っ!
運動神経抜群な上、任意で自分の記憶を固定・消去できる超能力者ですが、この手のサイキック物の基本通り、最初は自分の超常能力にあまり疑問を抱いていません。
中身は、クラスメイトの恵子ちゃんのラブアタックをかわしつつ、虎視眈々と美人教師・月路映子先生を狙う、至って普通の御子様です。普通です。普通なんですってば。(笑)

物語はハレー彗星の授業内容をすっかり忘れてしまった流が、教え子の不真面目っぷりに涙する映子先生に、ちょっとアタシが住んでる寺まで来いやと誘われた所から始まります。
映子先生は自分がテレパシー能力者であることを明かし、師匠の怪呑和尚(ハルマゲドン?)を紹介した上で、同じ超能力である流に協力してもらいたいことがあるとぶちまけます。
要するに教室の一件は芝居だったわけですね。いたいけな妄想小僧をウソ泣きで騙すとは、罪な女だぜ映子先生。

映子先生の頼みとは、異星人の地球侵略計画を阻止するため、貴方の超能力を貸して欲しい、というものでした。
過去に異星人の実験台にされたおかげで超能力に目覚めた怪呑和尚によれば、敵は近々地球に接近するハレー彗星を利用して計画を進めているとのこと。
このへんの無茶っぷりは、さすが『ムー』で知られる学研ですね。

しかし、そこは超能力者の火ノ瀬流。あっさり異常な状況に適応して、異星人と戦うことを決意します。
おまけに、この状況を利用して憧れの映子先生と親密な仲になってしまおうというとんでもない計画まで立てる始末。
何せ呼び名を月路先生から映子先生に変えた後の心理描写が――
「いずれ映子姉さんと呼ばせてもらおう」
だからもー、奴を止められるのは異星人軍団しかいません! ここまで妄想全開な主人公も珍しい。

その後も様々な展開があるのですが、長いんで箇条書きにします。

・『愛の伝書バト会』なる怪しい宗教の一員である美少女・葉麗が登場。彼女の魔の手が恵子に伸びる。
・映子先生が異星人の手に落ちる。敵は全員、フルフェイスヘルメットに黒いライダースーツといういでたち。
・このままじゃ戦力足りへんから、君も儂と同じ試練を受けてみーへんか? という怪呑和尚の誘いに乗り、流は怪しい銀色の卵の中に入る。一流の超能力者として覚醒し、感覚能力が大幅にアップ。
・目覚めた流に、怪呑和尚が酸化ナイフなる武器を与える。万年筆の中に切れ味鋭いワイヤーを仕込んだもので、酸素を苦手とする異星人が身に付けている特殊皮膜を切り裂くことが出来る……って、それ宇宙人じゃなくても死ぬから。
・葉麗も超能力者であること、異星人の計画に荷担していることが判明する。怒りに燃える流は直接対決を挑むが、その場に恵子がいたため動揺。か弱い少女のフリをした葉麗にハメられて完敗する。
・怪呑和尚が敵の基地に潜入。後を任された流は、指示に従って先生と和尚のクローンを作り、『愛の伝書バト会』の調査を進める。本物とクローンの区別を付けるため、先生のクローンを『映子姉さん』と呼び、野望を達成する。

しかし、この程度で驚いていてはいけません――クライマックスはもっと凄い。

敵の基地に連れて行かれる葉麗と子供達を救うため、酸化ナイフで異星人を殺しまくる流!
異星人に騙されていたことを悔やむ葉麗をお姫様ダッコして、星空の下で人類愛を語ってしまう流!
葉麗と恵子に挟まれ、それでもやっぱり俺は映子先生がいいなぁ、と最後の最後まで妄想に生きる流!

君、年齢詐称してない?

あ、そう言えば、伊藤良子の綺麗なイラストも印象的でした。
今見ると……どの絵も狙いまくってますね。そのままライトノベルにしても通じそうです。
学研つながりで『コミックNORA』に漫画版連載したら受けたかも知れない。

色んな意味でぶっ飛んだ作品です。オススメ。
単行本はハッピーエンドで終わってますが、連載版は異星人と戦って葉麗が死ぬという角川映画超大作みたいなラストを迎えるのだと聞きました。
読んだのが二十年近く前なので、今だと色々辛いかも知れませんが……そっちも読んでみたいですね。かな~り入手困難だろうけど。



ここまで激しく解説しといて何ですが――本書は絶版になっています。(爆)

しつこく

2006-08-25 23:59:00 | 伝奇小説
さて、なんのかんの言って読んでしまったの第633回は、

タイトル:外法陰陽師(三)
著者:如月天音
出版社:学習研究社 学研M文庫

であります。

中つ国から、世を乱さず平穏に暮らすことを強いられた、「外法使い」と称される陰陽師、漢耿星あやのこうせいは、いつものように何もせず暮らしていたが、それに付き合っているお目付け役の黒猫の羅々は退屈のあまり、以前(1巻、2巻)で起きた事件のことにかこつけて、耿星を中宮定子と藤原道長との争いに巻き込もうとする。

いやいやながらも中宮定子ていしが里下がりをしている屋敷や後宮に忍び込み、情報収集などをしていた耿星は、中宮定子と、その側につく播磨流陰陽師、蘆屋清高あしやのきよたかが、今一度権力に返り咲くために行う修法の存在などを知ることとなる。

捨て置けばよいはずのそれも、唯一友人扱いをしてくれる藤原行成がかかわっているとなれば、行成がお気に入りのお目付け役の手前もあり、また自分でも理解できない気持ち故に、蘆屋清高との対決に挑む。

えーっと……、いちおうこれでとりあえずは完結、なのかな。
ラストには「第三巻 終」とあったけど、いまのところ、続きは出てないし、いちおうの決着はつけてはいるから、終わりだと思っておこう。

さて、上記のようなこともあり、なんかこの3巻だけでなく、全体を通してみても、かなり中途半端。
個人的には途轍もなく気に入らない部分があるが、その部分は横に置いといたとしても、ダメだねぇ。

1巻だけならばそれなりによかったのだが、2巻で登場した道長の娘の彰子。作中では大姫と呼ばれているが、なんかこいつが出てくる意味があったのか、疑問。
定子も最初は重要そうに描かれてはいたのだが、巻を追っていくに従ってキャラが希薄になっていっている。

最終的には耿星と清高の物語に収斂していく……とは言いながらも、最初からこのふたりの争いをやや太めでも1冊にまとめたほうがすっきりとしたのではないかと思える。

また、3巻の展開上、クライマックスを戦闘シーンが占めているのだが、ここが無駄に長く、展開の区切りなどで1行開けて一拍おく、などの方法でメリハリをつければ読みやすくなるのだろうが、それもなく一直線に進んでいくため、読んでいて飽きてくる。
総体として中途半端な上に、クライマックスがだらだらと進んでいき、脇キャラの扱いもいまいち。

1巻がなかなか読めただけに、残念といえば残念だが、続きを買うだけ馬鹿を見るので、まぁまず手を出さないでよろしい、といっておこう。
個人的趣味の問題をきっちりと取り除いても、総評は落第。

ついでに1巻で、黒幕っぽい感じで興味をそそられた中宮定子様の扱いが何が何でも気に入らないので、これも含めると赤点通り越し、落第=この単位を落としただけで留年決定(笑)
まぁでも、ひとつだけ、いいとこも書いておこう。
1巻からもそうだったが、きっちりと歴史に沿って、その中できちんと物語を作り、キャラを動かしている、という点においてのみ、評価はできる。
道長の台頭や、伊周が起こした事件、左遷と帰郷、再度の捕縛、定子の内親王の出産などなど、知っている人間にとってはおもしろいのでね。
とは言っても、それを入れたところで、物語としてダメなら単位をやるわけにはいかんよなぁ(笑)

そいや伝奇だった

2006-08-18 20:33:25 | 伝奇小説
さて、ほんとうはファンタジーのカテゴリを増やそうと思ってたのに~、の第626回は、

タイトル:外法陰陽師(二)
著者:如月天音
出版社:学習研究社 学研M文庫

であります。

2巻、と来れば当然1巻があるわけで、ちょうど2ヶ月前に記事になっている。
まぁ、とある理由のみで×にしたものの、その理由のもととなったことが気になって読んぢゃったのね。

さて、ストーリーだが、時代は平安、貴族文化華やかりしころで、藤原道長が甥の伊周との官位争いにとりあえず勝利し、右大臣になったころ。
中つ国で国を滅ぼしたとする咎で太上老君から罰としてひとと交わりながら生きていくことを命じられた外法使いと称される陰陽師、漢耿星あやのこうせいは、お目付役の羅々(黒猫。実は妖怪)の言い分を渋々聞いて、平安の三蹟として後世に名を残す藤原行成のもとを訪れる。

そこで出会った男童おのわらわの姿をした少女に、鬼に浚われた自分の乳母子めのとごを探し出してほしいと頼まれる。
そんなことなどかまっていられないはずの耿星は、しかしその少女が、右大臣藤原道長の娘、彰子であったがために、協力せざるを得なくなる。
貴族関係などにまったく興味がなく、関係を持つ必要性をまったく感じない耿星だが、ことが道長絡みとなるとそうは言っていられない事情があった。

かくして、いまを時めく右大臣家の姫とはとうてい思えない闊達で剛毅な少女、彰子とともに乳母子を探し、そして当時の中宮定子とその系列である高階家を再興させようとする者たちとの、否応ない争いに巻き込まれていく。

前作と変わらず、伝奇小説にしては読める作品、と言うところは変わらず。
ただ、今回は続きを意識してか、ラストに耿星とライバルと位置づけられている相手との戦闘シーンが盛り上がりに欠ける。
まぁ、このあたりは3巻を読んでみなければわからないが、2巻だけで見るならば不満。

気になっていた定子様の悪役ぶりもかなりいまいちだし、2巻に関して言えば、あまりいいところはない。
知っていれば、にやりとさせられるところは前作同様、多々あるにはあるが、知らなければそこがおもしろさにつながるわけではない。

次巻へのつなぎ、としてもこれではねぇ。
……と言うか、つなぎとして読まないと物足りなさだけが残ってしまいそう。
好みを別にしても、2巻単体としては落第だ~ね。

表裏一体

2006-06-17 00:05:40 | 伝奇小説
さて、まぁカテゴリはこっちだろねの第564回は、

タイトル:外法陰陽師(一)
著者:如月天音
出版社:学研M文庫

であります。

時は平安、一条天皇の御代。
中つ国(中国)から訪れ、無法地帯と化している平安京の右京に居を構える陰陽師の漢耿星あやのこうせいは、おっとりとしたいかにもなお人好しの藤原行成に、ときの関白藤原道隆が呪詛を受けているらしいことを告げる。
中つ国で国を滅ぼしたとして太上老君から罰としてひとと交わりながら生きていくことを命じられた耿星にとって、東の島国の権力争いなどには興味はない。

しかし、耿星のお目付役の黒猫の羅々の脅迫まがいの言葉から、耿星は後宮へ忍び込み、呪詛の潜り込み調査を行うことになる。
そこで繰り広げられる一条天皇を中心とした藤原道隆の子伊周とその妹で中宮の定子、一条天皇の母の東三条院と藤原道長の関係の中から、行成が言う呪詛の大元を突き止める。
その呪詛を行っていたのは……。

平安時代を舞台にしたファンタジー、ではあろうがどちらかと言うと伝奇小説っぽい感じがしたので、カテゴリはこちらに。

外法陰陽師とは、当時の政府の一機関である陰陽寮に伝わる日本的な陰陽道ではなく、中国から来た主人公の耿星が陰陽道に似て非なる術を使うことから、こういう言い方をしている。
とは言うものの、単に毛色が違うだけでさして目新しいものではない。
外法、なんてのでどんなものかと期待しないほうが身のため。

さて、評価としては時代ものらしく、文章はまず及第。
昨日の「王昭君」のように、気をつけろと言うべきところはない。
まぁ、「四尺(120センチ)」などと言う注釈には目をつぶろう。

キャラ設定は、夢枕獏以来の王道……と言うか、夢枕獏の「陰陽師」をちょろっとだけひねった程度の耿星と行成。
まぁこのあたりはどうしようもないかと思ったりもするけどね。

ストーリー展開は、まぁ伝奇小説と判断したわりには読めるほうだろう。
一条天皇に中宮定子、その兄伊周と言えば、清少納言の「枕草子」を読んだことがある人間にとってはおなじみ。
さらに、何段かは忘れたが、ストーリーの中に「枕草子」で描かれる場面……中宮とその妹の東宮妃、両親が一堂に会し、それを清少納言が屏風の間からその姿を眺める……など、読んでいるとにやりとさせられる場面などが散りばめられていて、そう言う意味ではいい感じだし、「枕草子」を知らなくても、そうした場面を描くことで時代の雰囲気を演出することが出来ている。

総じて、悪くない……ように思えるのだが、やはりダメなところはある。
それはストーリーではなく、設定。
この時代の貴族の美意識は、ふくよかな瓜実顔が美人の条件。
描写の中で、中宮定子や伊周などはそうした表現で、中宮の女房などは伊周などがいかにすばらしいかを語っていたりする描写がある。
にもかかわらず、主人公の耿星の周囲では、現代的な美人とされるような耿星や他のキャラが「美しい」と表現されている。
それが耿星の感性として描かれている場合もあり、それならいいのだが、行成や道長など、当時の美意識を備えていると考えられるキャラでさえ、耿星と同様の美意識を備えているように描かれている。

きちんと統一しなされ。
時代背景をきっちり描くなら耿星以外の美意識を合わせるべきだろうし、逆に現代的な美意識にすべてを変えると言うほうがすっきりすることもあろう。
どうせこの時代の常識なんかわからないさと侮っているのならば、バカにするのも甚だしい。
……まぁ、さすがにそういうことはなかろうが……。

細かいことだと思うかもしれないが、知っているほうにしては極めて不自然に見えて、それが読んでいてもずっとつきまとう=そういう描写がそれなりにあるのだから仕方がない。

だが、そうしたいくつかの問題点を加味しても、客観的に見て、伝奇小説としては読み応えがあるのではないかと思う。
あまり聞かない文庫の名前だし、ラノベか? と最初は思ったが、それだけではない力がしっかりと感じられる。

ただし、極めて個人的な趣味及び好みで、落第決定。
中宮定子様を悪役にするなど、以ての外である(笑)。
まぁ、悪役な定子様もちょろっとは気にならないでもないが……(爆)

ナンセンスの極地

2006-05-24 23:31:47 | 伝奇小説
さて、伝奇か? 時代劇か? な第540回は、

タイトル:剣鬼喇嘛仏
著者:山田風太郎
文庫名:徳間文庫

であります。

風太郎忍法帖、最後の作品集。
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『女郎屋戦争』……田沼意知がお庭番として使っていた男が不祥事を起こした。こともあろうに、吉原に行く金が欲しさに辻斬りをしたのである。報告を受けた意知は、呆れながらも、そこから一つの金儲けを思いついた――。
侍専門の公営遊郭を造ってしまおうというアイディアが面白い。突如現れたライバルにあたふたする吉原、最初は調子が良かったもののサービスの悪さから次第に落ち目になっていく新遊郭の姿が皮肉っぽく描かれている。身に付けた技を発揮することも出来ず、ひたすら落ちぶれていく服部億蔵に哀愁を感じるのは私だけではあるまい。

『伊賀の散歩道』……伊勢の老公・藤堂高次が新しい妾を連れて帰国した。名はおらん。彼女自身は申し分のない聡明な人物だったが、一緒に連れてきた弟・歩左衛門に問題があった。大目付は配下の風忍斉に命じ、歩左衛門の調査をさせるが――。
師匠である江戸川乱歩をネタにしたパロディ小説。『江戸川乱歩傑作選』を先に読んでおくとかなり笑えると思う。個人的に、こういう遊びは好きではないが、最終行で「そうきたか」と思わせてくれたので黙認。

『伊賀の聴恋器』……忍の術を否定し、軍学をもって身を立てようとする男・服部大陣。柳生但馬の娘・お万様に一目惚れした彼は、自ら発明した『聴恋器』を使って恋を成就させようと企むが。
ことごとくこちらの予想を裏切ってくれるドタバタ話。口八丁手八丁で売り込んだ怪しげな機械・聴恋器に振り回されていく大陣も笑えるが、いかにも雑魚っぽい登場をしておきながら最後まで出張る××もなかなか楽しい。にしても、サドマゾって単語を堂々と時代劇で出しても違和感ないのは山田風太郎ぐらいのものだと思う。

『羅妖の秀康』……家康の子ながら、その容貌故に遠ざけられた男・秀康。梅毒のために鼻を失い、さらに荒れていた時、彼は興味深いものを目にする。部下の忍が、失った耳を取り戻していたのだ――。
ネタが下品……って、風太郎忍法帖では当たり前と言えば当たり前だけど。主人公より、彼に敗れた忍者の方が憐れな気がするのは私だけだろうか?

『剣鬼喇嘛仏』……小次郎との死闘を制し、素早く船に乗って巌流島を後にする宮本武蔵。だが、彼の前に新たな挑戦者が現れ――。
表題作、ちなみに主人公は武蔵ではない。これまたネタが下品。書くとネタバレになるので伏せておくが、あの姿で挑戦されたら、武蔵じゃなくても絶対引くと思う。ただ、主人公の姿は武蔵の末路の一つかも知れない、と考えて読むと意外と深い話……かも。でもやっぱりナンセンスな部分の方が目立つんだよなぁ。

『春夢兵』……大探検家から忍びへと転身した男・間宮林蔵。彼は八戸藩の異変を探るため、次々と忍びを送り込む――。
ネタがバラバラで、まとまっていない感じのする短編。間宮林蔵が出る必要はあまりないし、半ば独立国のようになっている八戸藩の設定も生かされているとは言い難い。要は三匹の子豚ならぬ三人の忍者の忍法を描いて終わりといった感じ。しかも、事件を解決する最後の忍法が……もの凄く汚い。(卑怯という意味ではなくて)

『甲賀南蛮寺領』……甲賀は追いつめられていた。信長より、南蛮寺の寺領になれという命が下ったのである。甲賀五十三家は甲賀宗家の家老格が出した策に命運を賭けるが――。
甲賀忍者軍団! 対 伴天連の妖術! という妖怪大戦争みたいな話……ではない。何だかんだ言って数の暴力には歯が立たず、起死回生の風太郎流忍法(色仕掛けとも言う)も役に立たずに、甲賀衆は追いつめられていく。派手さはないが、最後の最後に使った策は面白かった。

微妙です……下品なとこをさっぴいても。
小粒な作品が多く、これは当たり! とオススメできるものがない。
戦闘シーンは盛り上がりに欠けるし、『甲賀忍法帖』のようなカタルシスもない、と来ては……ハズレかなぁ。

本当に久々だと思う

2006-05-23 20:21:23 | 伝奇小説
さて、たまには、ということで第539回は、

タイトル:ブルー・マン〈神を食った男〉
著者:菊地秀行
文庫名:講談社文庫

であります。

菊地秀行の伝奇ホラーです。
超絶美形の殺人鬼・八千草飛鳥が悪を……斬らない、つーか、こいつ自体がかなりの悪。(笑)

18歳で57人を惨殺した殺人鬼・八千草飛鳥。
類い希なる美貌を持ちながら、肉欲と殺戮欲に支配されたこの男に、一柱の神が降臨した。
かつて日本を闇の側から支配し、渡来の神によって駆逐された――国津神と呼ばれる存在である……。

再び現世に害を為さんとする災神を打ち破るため、日米の猛者が奈良に集結した。
だが、神は用意された依代には降りず、大仏の指の示す先にいる青年を選んだ。
法力、呪力、超能力を駆使して、彼らは飛鳥を追った!

何というか……菊地ですね。

普通の人間に神が宿り、スーパーパワーを発揮する、ここまでは至って普通。
問題は、宿った相手がサドでヘタレで外道だと言うこと――しかも、改心したりしない。
神の力を使ってやりたい放題やります、おおよそヒーローらしいところは一つもありません。

気に入った相手は全部食う!(色んな意味で)
権力者に近づいて身の保身を計る!(死体の始末もそっち持ち)
強いヤツにボコられたらひたすら逃げる!(泣いて命乞いをする場合もあり)

素晴らしくセコイですね。(笑)

このセコさがキャラを立てているんだから、世の中面白い。
力を手に入れた途端に聖人君子になったり、軟弱ながらも努力する主人公ってのはよく見かけますが、ここまで情けない主人公って初めて見ました。
これが単に情けないだけなら愛嬌があるんですが、やること為すことすべてが自分の欲望の発散のためだけという外道なので同情の余地なし。

それでも、その美貌だけで人がふらふら~っとなってしまうのはさすが菊地と言うべきでしょうか。
敵も餌食も一般人も、飛鳥の顔だけは褒めてます……それ以外は相手にしてもらえないのだけど。
ちなみに一つだけやった善行『某少女の敵討ち』も、顔絡みでした、ある意味不幸な人物かも知れない。

ストーリーは……まぁ、あってないようなものです。
国津神と天津神の因縁とか、法力がどーしたとか、ESPがどーたらとか、日本の支配者は古来より~云々とか、それっぽいネタは転がってるけど大した特徴なし。
よーするに、強力な力を持った存在が出現したんで、それを巡って怪しい方々が暗躍する、それだけです。(伝奇物って大体そうか?)

菊地ファンならオススメ、なのかなぁ?
例によって御子様にはオススメできません。

最大のサプライズは――これ、一冊で完結していないこと。
かなり中途半端な終わり方の後に、「この物語はさらにつづく」と言われた日にゃ、目が点になりました。
続き読むか? と聞かれたら、別にいーやと答えますが。(笑)