つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

煌夜祭の夜が来る……

2007-01-31 23:16:15 | ファンタジー(異世界)
さて、この文庫は初めてだったりする第792回は、

タイトル:煌夜祭
著者:多崎礼
出版社:中央公論新社 C★NOVELS(初版:H18)

であります。

第二回C★NOVELS大賞受賞作。
死海に隔てられた十八諸島を舞台に、人と魔物の接触を描く物語です。



故郷も名も持たず、島から島へとさすらう者達がいる。
仮面で素顔を隠し、異国の話を伝えて歩く漂泊者。
人は彼らを語り部と呼ぶ。

冬至の夜、語り部は島主の館に集い、夜通し物語を語る。
容易に越えられぬ死海の向こうの島の物語は金に等しく、良き話には島主が褒美を出す。
数多の知恵と知識が披露される語り部の大祭、人はそれを煌夜祭と呼ぶ。

今年もまた煌夜祭が始まる。
島主のいない館で、ナイティンゲイルとトーテンコフ、たった二人だけの煌夜祭が。
習いに従って、ナイティンゲイルが先に語り始めた……煌夜祭の真の目的を明かす物語を――!



読み終わった後の素直な感想――

うわ~、壁だわこれ。

第一回ファンタジーノベル大賞を受賞した『後宮小説』のように、これも以後の投稿者の前に立ち塞がる壁となるのは間違いありません。そのぐらい出来がいい。

物語としては、いわゆる『千夜一夜物語』タイプです。
おとぎ話のような短編の間に、語り部と聞き手の話が入っているというもの。
ただ、千夜一夜物語と異なるのは、ナイティンゲイルとトーテンコフはどちらも語り部かつ聞き手であり、しかも偽名と仮面で正体を隠しているということ――このミステリ調の設定が実に秀逸。

当然と言えば当然ですが、二人が語る物語は、彼らの人生に大きく関わっています。
そのため、ある程度読み進めていくと、得体の知れない二人の正体がおぼろげながら解ってきます。
片方の正体はすぐに判明するのですが、もう片方がなかなか難物で、それだけで終盤までぐいぐい引っ張られてしまいました……読ませる力が半端じゃないぞ、この方。(爆)

各個の短編の出来も素晴らしいものでした。
人を食う罪に葛藤する魔物、魔物を愛し憎悪する人間、二つの種族の接触を実に丁寧に描いています。
それぞれの話は独立していますが、スポット的にリンクしており、流れと共にゆっくりと収束して終章で結合します。連作短編のお手本ですね。
ストーリーの腰を折ることなく自然に情報がばらまいてあり、悲しい宿命を背負って生まれてくる『魔物』と、不思議な世界『十八諸島』のことがすんなり理解出来るようになっているのも見事。

魔物はなぜ生まれてくるのか?
ナイティンゲイルとトーテンコフ、二人の正体は?
何のために煌夜祭は存在し、数百年もの間続けられてきたのか?
数々の謎を解き、物語は静かに幕を閉じます――

ここ近年で読んだ一冊完結物の中では、ぶっちぎりでトップですね。

文句なし、五重丸のオススメです。
ファンタジー好きを自認する方は、必ず一度は読んどきましょう。


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら

頭はぶつけません

2007-01-30 23:49:30 | ゲームブック
さて、記憶が間違ってなければいいけど、な第791回は、

タイトル:カイの冒険
著者:健部伸明
出版社:東京創元社 創元推理文庫(初版:H2)

であります。

ナムコの『カイの冒険』のゲームブック。
原作はパズルアクションですが、こちらはちょっと不思議な冒険もの。
悪魔ドルアーガからブルークリスタルロッドを奪還するため、イシターの巫女カイがドルアーガの塔に挑みます。

『ドルアーガ三部作』と同じ会社から出ていますが、作者も内容も全く別物です。
もっとも、だから面白くないなどと言うつもりは毛頭ありません。
むしろ雰囲気だけならこちらの方が好みかも知れない。

主人公カイと彼女の目的はゲームと同じなのですが、舞台となるドルアーガ塔の内部構造は原作と全く異なります。

つーか、そもそも塔の中じゃないし。(笑)

ドルアーガの魔力により塔内は一種の異空間と化しており、各階が独立した世界として存在しています。
その世界ごとに設定された条件をクリアしない限り、次の階に進むことはできません。
次々と登場する箱庭世界はバラエティに富んでおり、非常に不思議な旅を楽しめます。

しかし、これで素直に最上階まで行けたら面白くない。

カイは各階をクリアするごとに、女神イシターから授かった神具を一つずつ失っていきます。
全部で七つある神具すべてを失った時、たどり着いた場所は何と冥界。(!)
そこで彼女は、女神イシターの姉で冥界の女神でもあるエレシュキガルから衝撃の事実を知らされます……バビロニア神話の『イシュタルの冥界行』を再現したこの展開は非常に上手い。

女神の力を借りたカイは、天界を経由して再びドルアーガの塔に戻るという荒技を敢行するのですが――それ以降は本編で。
個人的には、神様ごっこができる天界第一層のエピソードが好きでした。
「どうですか、神になってみた気分は?」という、ナムタル霊の皮肉っぽい台詞が良いです。(笑)

『ドルアーガの塔』以前の話のため、カイが悪魔に破れるのは確定なのですが、ストーリー的にかなり上手く処理していました。
何より、彼女の旅が全くの無駄ではなかった、ということになっているのがいい。(原作ゲームでは単に石にされるだけだったしね……)
戦闘システムもかなり簡単なものを使用しており、ややこしいゲームは嫌いだという方でも楽しめます。

紛れもない怪作ですが、オススメです。
ただし、現在ではかな~り入手困難……らしいけど。

暴走したっ!

2007-01-29 23:56:24 | ファンタジー(異世界)
さて、すいません……最近死にっぱなしです、な第790回は、

タイトル:砂の覇王8 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H14)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の八巻目。
兄弟の国ルトヴィア、夫の国エティカヤ、二つの大国の間で揺れるカリエの姿を描きます。
今回の表紙は……いや、何も言いますまい。しかし、これが六巻の御子様と同一人物とは……。



カリエは、ギウタ皇国最後の皇女カザリナとしてルトヴィア貴族との婚姻を要求されていた。
候補は二人――現ルトヴィア皇帝であるドミトリアス、そして、死の淵から生還し、トルガーナ伯となったミューカレウス。
だが、かつて皇子宮で共に過ごした兄弟との婚礼など、カリエには考えられなかった。

そんな中、カリエはミューカレウスとともに、先帝マルカーノスが座すコーフィリアを訪問した。
コーフィリア――別名廃帝宮の主とミュカの会話は、彼女に失った両親の顔を思い出させる。
愚帝として知られるマルカーノスの顔と、現帝ドミトリアスのそれが重なった時、カリエは奇妙な幻覚を視た……敬愛する兄の未来の姿を。

コーフィリアには意外な人物が滞在していた。
バルアンの先兵としてルトヴィアに留まり、首尾良くゼカロ北公を籠絡した第一妾妃・ビアンである。
彼女はカリエに、バルアンの正妃としての心構えを説き、その上で自分のやりたいようにやるよう言い渡した。

ルトヴィア皇帝ドミトリアス、トルガーナ伯ミューカレウス、エティカヤの第二王子バルアン……カリエが最後に選ぶのは――。



前回の記事では伏字にしてましたが、今回は堂々とバラしてしまいました。
そう、帝国の娘(後編)で重傷を負った悪ガキ皇子・ミュカ復活です。
身長が一気に伸びただけでなく、性格もかなり良くなりました……苦労したんだね、君も。

もっとも、いつものように――
どこぞの性悪女神が関わってたりしますが。(怖)

前から思ってたのですが、ザカリア流血女神に関わった人間って、少年漫画の改造人間に良く似てますね。
スペックだけはやたら高くなるけど、決して幸せにはなれない。
一番好き勝手に生きてるように見えるトルハーンも、結局バルアンの思惑に乗らざるを得なくなったし、皆さん大変です。

もっとも、今回一番貧乏籤を引いたのは主役のカリエ。
彼女が自分の思い通りにならないのが気に喰わなかったのか、今回、女神は実力行使に出ます。
女神の力でトランス状態に陥ったカリエは、ある人物と出会い、ある儀式を行います。でもその相手が……をい、よりによってそいつかよ。(苦笑)

他にイベントと言えば、トルハーンの裁判がいよいよ始まります。もちろん、死刑オンリーの方向で。(爆)
置いてけぼり状態のバルアン&ラクリゼ&海賊達も一応出てきますが、ほんの触り程度。
後、今でも充分危険な状態のドーン兄さんとグラーシカが、さらに死亡フラグを立てました。このままいくと洒落抜きでベルばらでギロチンエンドかも……。
(※女神伝シリーズはまだ終わってないので、どうなるかはまだ未定です)

次巻はエティカヤ編最終巻です。
バルアンの国盗り物語が全く進展してないのに大丈夫か? って感じですか、それについてはまた来週。



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連載ってのもあるんだろうけどさ

2007-01-28 00:41:18 | ファンタジー(現世界)
さて、予定通り日曜はラノベなのさの第789回は、

タイトル:麒麟は一途に恋をする
著者:志村一矢
出版社:メディアワークス 電撃文庫(H16)

であります。

毎週恒例にしつつあるライトノベルの日の今日は、Amazonで見ると7巻まで出ているこれも人気シリーズ。
どうやら前シリーズの「月と貴女に花束を」と世界観を共有する別作品とのこと。

では、ストーリーはと言うと……。


新進気鋭のイラストレーターで、ゲームのキャラクターデザインなども手がけている春原麻由は、順調に仕事をこなしていた。
夜も更けて一段落したときに、マンションから見える先の学校で大きな火柱が上がるのを目撃する。
数年前の大災害を経て現れた妖魔……駆逐されたはずのその存在を思い起こしつつも、避難すべきはずの事態にただ何もしなかった。

後日、仕事が早く上がって気晴らしにスケッチに出かけた麻由は、酔っ払いに絡まれたところを色合いの深い黒髪をした青年に助けられる。
麻由のことを知っているふうな青年に出会ったときから、麻由の人生は大きく変貌していく。

その始まりは、飲み物を切らしたために夜、マンション裏手の自販機に飲み物を買いに出かけたときだった。
目の前に現れた蜥蜴の姿をした妖魔、そこに現れた青年……国見遙は麻由を守るために妖魔と凄惨な戦いを始めた。


中盤から終盤にかけて読んでいて、こりゃ確実に続き物だからこの1巻、オチはつけてくれないな、と思ったらその通り……。
まぁ、どうやら雑誌のほうで連載をしているものなので、仕方がない部分もあるだろうが、本編の3話分は麻由に実はこれこれこういう話なんだよ、と言うところで終わり。

あー、そーですか。

しかも4話目かと思いきや、前シリーズを引きずりまくった特別編というのが入っていて、余計にげんなり。
それなら1話ごとに短編連作のようにオチをつけてくれているかと言うと、それもなし。
大きく編の名前をつけるなら「邂逅編」みたいな感じで引きまくりですべて終わってくれているので、げんなりついでに溜息。

連載、連載だから仕方がないさっ! と思おうとしてもやっぱりオチなし引きまくりで終わってしまうとねぇ……。

ならばダメなのか、と言うと客観的に見れば、そうとは言い切れない。
まずは文章。
最初は下半分がかなり白かったので、眉をひそめる感はあったが、それも最初だけで分量は適度。
描写にやや難があり、会話文などキャラの見分けがしづらいところがあるが、どちらかと言うと重めの文章は、物語にも、けっこう凄惨な戦闘シーンにも合ったものとなっている。

ストーリーは……まぁ、序盤も序盤だからあれこれ言うべきではないだろうが、大きな破綻はいまのところなく、文章面のやや難を除けば流れは悪くない。
狙った部分はあるが、明らかなキャラものと言うわけでもなく、人類の存亡を賭けたドラマをきちんと描こうとするところは好感が持てる。
こうした話をおもしろく感じられれば、引きまくりの1巻なので続きを読みたいと思わせるだけのものはあろう。

……が、伏線として短く語られる部分がそこかしこに散りばめられており、しかもこうした脇の話のほうが濃ゆいので、主人公である麻由と遙の影が薄くなっているのがどうかと思うが。

とは言え、個人的なところは除けば、総評は悪くはない。及第以上だとは確実に言える。
ラノベにしては重厚でしっかりとした現代ファンタジーになりそうな気配があり、こうしたところはラノベ点を加味しなくとも評価できるところだ。
今後の展開に期待。

……なのだが、個人的にはさして続きが気になるほどではないので、そのうち、ネタがなくなったらと言ったところかなぁ。
とりあえず、図書館に続きはあったし。



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区分けしづらいんだよね

2007-01-27 16:16:31 | 小説全般
さて、小説全般のカテゴリってさの第788回は、

タイトル:海の短編集
著者:原田宗典
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

なんか、何のひねりもなにもないタイトル……だけど、まぁ、いっそこれくらいあっさりしてくれたほうが逆に印象深いかもしれない……かな?

……さておき、このタイトルから想像して、どんな短編集を思い浮かべるか。
って、ひねりも何もないんだから、そのまんま、海を舞台にした短編。

と言うより、ショートショートと言ったほうがいいくらいの掌編12作が収録されたもの。
どの作品も概ね20ページ以内、と言う短さで、基本的に「南国の海」と言うのが舞台で、冬の波打ち寄せる日本海、とかそういうものではない。
どこ、とは言明していないので、旅行した、もしくはテレビや本で見た、などでもいいので、自分の好きな場所を想像して楽しむことが出来る。

では短編集なので例の如く……と言いたいところだけど、数が多いので、パス。
各作品のタイトルは、

「取り憑く島」
「何を入れる箱」
「願いをひとつ」
「黒魔術」
「成長する石」
「デジャヴの村」
「岬にいた少女」
「夕陽に間に合えば」
「人の魚」
「中には何が」
「贋のビーチ」
「美しすぎる風景」

の12編。

この中でおもしろかったのを上げるとすると……。

ひとつは、取り憑いた人間に様々な奇行を起こさせる”エニ”と言う森の奥に住む魔物を扱った「取り憑く島」
ホラーっぽい感じのラストがぞくぞくっとさせてくれておもしろい。

ふたつめは、引き潮のときに波が穏やかになり、シュノーケリングに最適な岬で出会った現地の少女との語らいを綴る「岬にいた少女」
これもちょっとしたホラーの掌編で、少女が何事でもないように語る中にある凄惨さがいい。

あと、恋人とともに訪れた南国のビーチで売られていた贋物が赤く見えると言うサングラスを買った男の話である「贋のビーチ」
予想通りのラストだが、けっこう笑える。

こんなところかなぁ、これは。
どの作品にも言えるが、幻想的な要素や、不可思議を盛り込んだもので、ホラーっぽい話などはあるが、作品の雰囲気は軽め。
短いことも、そうした軽さにつながっている一因だとは思うが、軽薄な軽さではなく、軽妙と表現してもいいだろう。

でも、こういう掌編は一気に読むもんじゃないねぇ。
1編がとても短いので、少々じっくり読んだとしても5分程度で読み終わる作品ばかり。
なので、ぽっかりと空いた待ち時間とか、短い移動時間とか、そうした長いのを読むには時間がなさすぎるようなときに、1編づつ読むのが最適かと。

総評としては、いいのもあればいまいちなのもありだし、作品によって好みもあろうかと思うので、及第ってところが妥当かな。

若さゆえに……?

2007-01-26 18:43:40 | 小説全般
さて、やっぱり解説って「あー、そー、ふ~ん」だなの第787回は、

タイトル:壊音 KAI-ON
著者:篠原一
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H10)

であります。

薄さ。
それは記事のために時間のないときには必要な要素……サボってるわけではないよ、決して(爆)
と言うか、本の薄さと内容の薄さは必ずしも比例はしないもので。

さて、本書は150ページあまりの中に、短編が2編、収録されている作品集。
著者は、「文学界」新人賞を弱冠17歳の若さにして受賞したと言うもので、その受賞作である表題作+1の構成となっている。
作品集なので、各話ごとに。

「壊音 KAI-ON」
ハジメは、ドラッグでトリップしているタキを眺めていた。
12、3歳のころから、そうしているタキを知っていたハジメだが、そんなタキを見捨てきれずにいた。

いつのころか、タキは自分が見た夢を語り始めた。
誰もいない街、廃墟……そんな話を聞いていくうちに、ハジメはタキの感覚を自らのものとして共有し始める。

「月齢」
「僕」……ユアンは、ピアノが置いてあるユアンの第二の部屋で、月が満ちる日に訪れるレンとともに時間を過ごしていた。
月が満ちる夜、それはユアンに言いようのない飢餓感をもたらす日であったが、それを知ってか知らずか、レンはそんな日に訪れては、昔住んだことのある街の話やトキと言う人物と過ごした日々などを語ったりしていた。

もうすぐ夏になる、ある日、姉とともに学校へ行ったユアンは、しかし飢餓感のために昼には家に戻ってしまう。
微睡みを過ごし、夕暮れになって訪れたレンは、夢にうなされ、そのことを話したユアンに街の腐敗を語り始める。


若い、と言うのはこの2編に共通して言えるひとつの要素、かもしれない。
濁った水のようにとらえどころがない……悪く言えば乱雑にも見える文章は、しかし作品の荒んだ世界観を十二分に伝えていて、また引き込むだけのパワーに満ちているように感じる。
と言うか、物語だの構成だの言うより先に、その印象がとても強い。
私にとっては、感性部分に働きかけるところがかなりあったのだろう。
こうしたところは理屈抜きで感じ取れる部分で、こういう感じる何かがある作品というのは個人的に嫌いではない。

しかし、では物語としてどうか、と言うとあまりいい出来だとは言えない。
文章の力強さ、表現、世界観など、17歳の作品とは思えないものとは言えるが、そうしたものが描き出すものに物語が埋もれて曖昧模糊としている。
また、両作品とも、基本的にハジメやユアンの視点で進んでいき、登場人物は少ない(「壊音」はタキとドラッグを売るトト、「月齢」はレン、トキ、姉)にもかかわらず、視点がぶれるのも物語の弱さを助長している。

もっとも、年齢からすれば荒削りな部分が残るのは仕方がないか。
作品全体が持つ力や世界に引き込む引力は十分なので、物語を作る筆力がついて、こうした力強さを持続し続けていられるのならば、おもしろい作家になるのではないかと思う。
……つか、もうデビューして何年も経ってるんだから探せばいいだけか。
3,4年経ったくらいのを探してみるかな。

と言うわけで、総評として良品とは言えないが、受賞作であることや年齢などを考慮すれば、十分及第と言えよう。

しかし……、本としては薄いクセに、中身はとても濃ゆい作品だったね。
薄さで勝負! と思ったのに思いっきりアテがはずれたいい例かも……(笑)

超人、つーか、神

2007-01-25 22:52:36 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、古い方は一度紹介した第786回は、

タイトル:超人ロック(全47巻)
著者:聖悠紀
出版社:少年画報社 ヒット・コミックス(初版:S55~)

であります。

扇:超人と聞くと、いやはや、と言ってしまうSENでぇー~ー~す。

鈴:超人と聞くと、吉野家の牛丼を思い出すLINNで~す。

扇:かなり貢献したからなぁ……ゆでたまご

鈴:あれは貢献しただろう。けど、なんかいいことでもあったんかな、こいつ。
高橋陽一は、「キャプテン翼」のおかげで、FCバルセロナの試合に招待されたことがあるらしいしな。

扇:確か、マイどんぶりもらったって、どこかのインタビューで言ってたぞ。
今だとカルビ丼かねぇ……二世まともに読んでないから解らないけど。

鈴:なんか、高橋陽一とは扱いがかなり違う気がする……。
かたやマイどんぶり、かたや世界的なサッカークラブに感謝される、もしくは怒られる……。
まぁ、売れ方も違うんだけどね。

扇:売れ方はともかく、どっちが好きかと聞かれると翼君かなぁ。
ただし、続編の出来は二世の方が良いみたいだけど。(笑)

鈴:続編はなぁ……。
結局、舞台が変わっただけの翼くんと、いちおう別ストーリーで突っ走ってる二世とじゃぁねぇ。

扇:それ以前に、翼君の続編って完全に破綻してると思う。
キャラ壊れてるし、ストーリー滅茶苦茶だし、絵も崩れてると、いいとこなしだ。
二世の方が遥かに真面目だね。ロビンの息子が主役に勝っちゃうなんていう、少年誌ではなかなか出来ないことまでやったみたいだし。

鈴:主役が負けるってのは、少年マンガじゃぁなぁ……。
あ、いちおう、「ヒカルの碁」はラストで主人公負けて終わったから、これもけっこう珍しかったよなぁ。

扇:打ち切りなんだろうが、上手い終わらせ方だったな。
少なくとも、ヒカルにはまだ目指す先があるという感じにしてた。
塔矢アキラがライバルじゃなかったのかよ? ってツッコミは入るが……。

鈴:ライバルはライバルだろう。
たぶん、打ち切りでなければ、アキラに佐為の話をしてから対戦してって感じで終わるのが通常だろうしな。

扇:そうさな。
その場合のみ、どっちが勝っても綺麗に終われる。
つーか、対局シーンなしでもいいな。始めよう、みたいなエンドもアリだ。

鈴:ん~、対局シーンなしでもいいとは思うが、大勢はどうかのぅ。
さすがにここまでやると、決着つけろよ、って言うほうが多いかもしれんな。
逆に、対決しないまんまだったから、あれで終わっとけたかもしれん。

扇:かもな……つーか何で真面目にヒカ碁の話してるんだ?
確か今日はサイキック・フォースの話だった筈だが。

鈴:ぜんぜんちゃうわっ!
まぁ、超能力ものってところだけは合ってるが。

扇:違ったか……。
じゃあ、サイキック・ソルジャーだな?

鈴:誰が麻宮アテナの話をしとるかぁっ!!

扇:だから何で、「てめぇら許せねぇ!」とか叫ぶ学生公務員なんだ!?

鈴:「おまんら、許さんぜよ!」のほうではないのか?(笑)

扇:あんな安直な、アイドル売っとけ計画の産物なぞいらん。

鈴:喧嘩売ってんなぁ。
まぁ、私はもともと原作知らずにこのドラマ見てたから、さして気にはしとらんが。
ただ……、いま考えると、2作目だったっけな、ガキのころからずっと鉄仮面つけてたって設定は、ぶっ飛んでるよなぁ。

扇:ツッコミどころ多すぎだよな。
洗顔してないから顔が凄いことになってるとか、伸びた髪の処理はどうすんだとか、そもそも成長に合わせてマスク新調しないとサイズ合わねぇだろ、とか。

鈴:確かにな。
まぁ、さすがにあの当時で、いちいちそんなことを考えて見てはいなかったから、それなりに見れたんだろうが……。

扇:すまん、当時から考えてた。ちょっと、ツッコミ好きな子供だったんでね。
頃も良いので、本題に入りましょう。
ロックという名の超能力者(既にこれも疑わしい)が無敵街道まっしぐらで戦うサイキック・アクションです。
ロックは死にません。年を取っても若返るし、心臓撃ち抜かれても、「このぐらいで死にはしない」とか言って立ち上がってきます。ある意味、無敵主人公の究極型です。
一応、少年の姿をしていますが、軽く千年以上生きています。おまけに、女性の姿をとることもあるので、性別もないに等しい。
突っ込みどころ満載の人物ですが、その精神は超越者のそれではありません。長く生きているにも関わらず、ネガティブでもありポジティブでもあり、非常に人間的です。そこが人気があるのかも。女性に対する態度はちと問題があるような気がしますけどね。(笑)

鈴:どっかで見た文章やな……。
って、前書いた記事と「(笑)」まで一緒じゃねぇかよっ!!

扇:わざわざ調べたのか? マメだな。
じゃあ、まともな解説はヒット・コミック版全巻読破した君に任せよう。

鈴:任せてくれてもなぁ……。
ロックの話はしてるから、とりあえず、様々な銀河、惑星で起きる超能力者……エスパーが絡む事件を、ロックを中心としたキャラたちが解決していく話を、1巻ごとのオムニバス(上下巻などはあるが少数)で描くSFマンガ、であります。

扇:短編毎に、時代が百年単位で飛んだりしますが、気にしないで下さい。
んじゃ、CM。


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扇:では、主人公のロック。
無敵――以上。

鈴:それだけで終わるなぁっ!!
まぁ、まったく否定できる要素はないんだが……。

とりあえず、反則的なエスパーで、通常、強いはずの敵エスパーも、すべて「潜在能力」ということでそれ以上の超能力を引き出し、勝利してしまう、まさに反則キャラ。
基本的には、そこまで争いを好むタイプではない……はずのキャラとして描かれてはいるが、ある巻では革命を成功させるために、それまでの指導者は死んだことにして革命を成功させようとするなど、長く生きているため、えげつないこともたくさんする。

扇:無敵で、不死身で、話が進むごとに都合のいい能力が増えるという化け物エスパー。
ま、よーするに究極の御都合主義キャラですね。
こいつのバトルは、安心出来ると言えば安心出来るんだけど、裏を返せば、作者の自己満足を見せられているだけのような気も……。

鈴:まぁなぁ……。
とりあえず、どんなピンチになろうと、最終的にはこいつが勝つのがわかりきってるから、盛り上がりもクソもないしなぁ。
たいてい超能力が使えない場面での話のほうが、盛り上がったりするし(爆)

扇:そだな。
つーかこいつ精神体みたいなもんだから、肉体やられたところで関係ないけどな。
あと他に、紹介する奴っているけ?

鈴:ん~、オムニバスだからさしていないんだよなぁ。
いちおう、印象に残ってるのは8巻の「アウター・プラネット」に出たフランシス連邦軍大尉、その後聖霊フランと呼ばれて、ラフノールで精神体として生き続けてることになっている女性キャラかな。
憶えてるキャラで言えば、こいつくらいだからなぁ、ロックとおなじ不老になったのって。

扇:ん~、俺は一巻に出てきたマリアンぐらいかなぁ。
いわゆる、勝手に惚れて、勝手に命賭けて、勝手に退場してくれる、実に男に都合のいい娘だぁね。
印象が強いとか、いいキャラだとかじゃなくて、単に作者の好みの女性キャラの典型ってことで。
実際、ロックの恋人(?)役の女の子は、このタイプが大部分を占める。

鈴:まぁ、確かに……。
と言うか、マリアン自身、ロックの昔の恋人と似てるからという理由で、監視役に選ばれてるしなぁ。
いかにロック(=作者)がタイプなのか、ってのはよくわかる。

扇:とまぁ散々書きましたが、やたら長いだけあって、通して読むとネタはいくつも転がってたりします。
どっかのサッカー少年漫画と同じく、作者が主人公と同化して、俺はすげーぜ! とか喜んでる姿を想像してしまい、凄まじく萎えることがありますが、まぁ……細かいことは考えずに楽しみましょう。(消極的)
では、ファンの怒りの声から逃げつつ、さよーならー。

鈴:まぁ、確かに、細かいことを突っ込み出すときりがないからねぇ。
意外にロック以外に印象的な味方キャラや敵キャラも少ないし、ストーリーはワンパターンだし……って、なんかいいとこないな……(爆)
……って、何最後にまた喧嘩売るようなこと言ってんだか……。
と言うわけで、最後にろくでもないことを言いっぱなしで逃げることにします。
それでは、さよ~なら~

ジーザスッ!

2007-01-24 23:54:26 | マンガ(少年漫画)
さて、このところずっと遅くてすいません、な第785回は、

タイトル:ジーザス(全13巻)
原作:七月鏡一  漫画:藤原芳秀
出版社:小学館 少年サンデーコミックス(初版:H5)

であります。

今だと『闇のイージス』で知られる名コンビの放つ、ハードボイルド・アクション。
元傭兵の暗殺者ジーザスが、なぜか高校教師になってしまうという奇抜な設定で人気を博しました。
七月鏡一の特徴である芝居がかった台詞回しと、『拳児』で知られる藤原芳秀のアクション描写の相性は絶品で、非常にノリのいい娯楽作品に仕上がっています。



闇の世界には、伝説めいた話がいくつも転がっている。
その中の一つに、奇妙な通り名を持つ暗殺者の物語があった。
血と炎にまみれた死神……奴の名は、ジーザス!

狙った獲物は必ず仕留め、襲い来る敵はすべて血の海に沈める……ジーザスはまさに無敵だった。
だが、ある巨大な犯罪組織から1トンものヘロインを強奪したことが、彼の寿命を縮める。
逃亡の末、追い詰められたジーザスは、数十発の銃弾に貫かれて東京湾に浮かんだ。

翌日、市立新星高等学校に一人の教師が赴任してきた。
黒板にまともな字が書けず、生徒に間違いを指摘されて赤面する、絵に描いたような素人教師。
藤沢真吾……彼こそ、身代わりを使って生まれ変わったジーザスだった――!



本作の内容は一言で言えます――

「ジーザスッ!」
(畜生、くそったれ、何てこった等の意)


これがすべてです。(笑)

作品中でしつこいぐらい使われるこの台詞、単に主役の名前ってだけではありません。
これ実は、ジーザスと対決して破れた者が最後に叫ぶ定番台詞なのです。
この後に、「それが俺の名だ――地獄に堕ちても忘れるな」とつなげるのが基本パターン。
悔しそうに、「ジーザス!」と叫ぶ敵→それを嘲笑いつつ決め台詞を吐くジーザス……最終回まで続くこの連続技は作品に不動の個性を与え、他所でパロディネタにされるぐらい有名になりました。

ストーリーは東京を舞台にしたガンアクションなのですが、そこかしこにハードボイルドをおちょくるようなネタが転がっており、少年漫画らしさを出しているのも特徴。
そもそも、凄腕の暗殺者であるジーザスが高校教師をやるというシチュエーションからしてギャグ調なのに、シャーペンのキャップを抜く音を手榴弾のピンを外す音と勘違いしたり、背後に立った同僚に手刀を入れそうになったり、隠し持っていた愛銃を発見されて至近距離でぶっ放されたり(初弾は抜いてあった)と、学校は危険が一杯です。(笑)
その癖、闇の住人が関わってきて、平和な学校が本当に危険なバトルフィールドと化すと、ジーザスは途端に元気になります。ここらへんは、変身ヒーローのノリに近いかも。

ジーザスが光と闇の境界線にいるためか、異なる属性のサブキャラが登場し、その誰もが何らかの形で自分の属さない世界に足を踏み入れることになるのも面白い要素でした。
天ボケ体質ながら異常な度胸を誇る新任教師・水谷小百合は弟絡みでヤクザと関わることになり、一匹狼の不良生徒・戸川誠治はジーザス打倒に固執するあまり何度も命を落としかけます。
ジーザスのみならず、こういったサブキャラの変化も丁寧に描くことで、ちゃんと群像劇を成立させているのは見事。

中でも最も変化が顕著だったのが、ジーザスの裏キャラとも言える凄腕のスナイパー・御堂真奈美。
ジーザスの正体を掴み、確実に抹殺するために新星高校の養護教諭となった彼女は、生徒と関わることで次第に光の世界に傾倒していき、眠っていた自我に目覚めます。
スーツが似合う長身、遠距離からの一発で戦況を覆す腕前、凄惨な過去、ジーザスとの奇妙な友情……彼女の魅力を挙げていったらキリがありません。
当然、私の一押しキャラです。(笑)

とまぁ、いいとこばかり挙げてきましたが、引っかかる点も多少あります。

一つは、重要な敵キャラだった三崎かおるの没落っぷり。
御堂の上司であるこの方、最初こそ意味深な台詞を吐きまくる素敵な悪役だったのですが、一度ジーザスに破れてからは組織に寄生する小物と化し、株が急落。
ジーザスを仲間に誘ってもまったく相手にされず、俗物根性が目立ちだしたため御堂にも見切りを付けられ、ほとんどいいとこなしのザコと化して破滅しました。合掌。

あと、後半になって絵が崩れ始め、どのキャラも平面顔になってしまったのもマイナス。
同時に人気も下降したのか、最終エピソードはほとんど駆け足状態で終わってます。
それでも、最終回は結構好きだったりするけど。(爆)

劇画調ですが、紛れもない少年漫画です。オススメ。
ジーザスは『闇のイージス』にもゲスト出演しているので、よろしければそちらもどうぞ。

絵と内容は多少異なります(笑)

2007-01-23 23:55:34 | ファンタジー(異世界)
さて、本当は分けて紹介するつもりだったんだけど……な第784回は、

タイトル:機械仕掛けの神々(上)(下)
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H6)

であります。

五代ゆうの長編ファンタジー。
以前紹介した『はじまりの骨の物語』に続く、第二作です。
作者の心の中では、本作は『はじまり~』の姉妹編にあたるらしいのですが……確かに似てるかも。



金緑色の瞳、鋭い牙、黒灰色の毛に覆われた長い耳――人とは異なる姿で生まれた少年・スノウは、家族と別れ、錬金術師ルルスの徒弟として平和に暮らしていた。
しかし、『組織』の使者が持ってきた知らせにより、彼の平穏な生活は脆くも崩れ去る。
師のルルスが、旅先で行方不明になったというのだ……。

二月前、師の元に届いた組織の召喚状は偽物だった。
ルルスは世界でも指折りの錬金術師の一人、恐らく、皇帝と法王の権力闘争に巻き込まれたのだろうと使者は言う。
スノウは使者に連れられて、都の組織本部に向かうことになった。

七歳の時にルルスの元に来てからずっと、スノウは外の世界に出たことがない。
かつて人に滅ぼされた種族・エリンの血を引くが故に、迫害の対象となるからだ。
だが、大恩ある師を救うため、スノウは危険な旅に出る……人間そっくりの姿を持つ機人マシーナ・ライムンドゥスとともに――!



うん、確かに姉妹編だよね。

本作と『はじまりの骨の物語』に直接的なつながりはありません。
キャラクター、固有名詞、世界観、すべて異なっており、どちらも独立した作品として成立しています。無論、時間的つながりもなし。
しかし……作者本人が後書きで触れているように、本作は紛れもなく『はじまり~』の姉妹編なのです。

理由の一つに、本作の主人公スノウの旅が、前作の主人公ゲルダのそれのバリエーションであることが挙げられます。
二人は全く異なるキャラですが、境遇だけは非常に良く似ており、どちらも自分の居場所を求めて最果ての地を目指します。
周囲から恐れられる存在として生まれ、自分を育ててくれた存在を失い、辿り着いた地で己の秘密を知る……協力者、敵対者の配置に相違点はあるものの、二つの物語は根本的に同質のものです。

まぁ、それが悪いとは言いませんが――

オチまで一緒ってのは勘弁して下さい。

焼き直し、という言葉が脳裏に浮かんで、一気にテンション下がりました。

スノウ以外のキャラクターの扱いが低いのも難点。
最重要キャラである、声を失った代わりに心で話をすることができる少女ヴィーからして、スノウの心を支えるだけのアイテムです。
機人ライムンドゥスは単なる序盤の案内役で終わってるし、イザンバールは『はじまり~』や『〈骨牌使い〉の鏡』にもいた『脈絡もなく味方になってくれる無頼者』でしかないし、もう一体の機人オリンピアに至っては何のために出したのかさっぱり解らないし……と、どのキャラもまともにドラマを描いてもらってません。ひどっ。

しかし、私が一番引っかかったのは、十二世紀と十五世紀をごっちゃにした本作の世界観です。
スノウの旅は、位置的に言うとイギリスにあたるアルビオンに始まり、モンゴル帝国にあたるザナドゥで終わるのですが、道中に出てくる固有名詞、歴史、イベント(フリードリッヒ二世と法王の対立とか)など、すべて現実世界のものをそのまま使っています。
ちょっと世界史をかじった方ならすぐ解る単語が山のように出てくる上、歴史上の人物を多少いじくった『もどきキャラクター』が何人も登場するため、とても異世界の話とは思えませんでした。
これが、現実世界の中に機人や妖精といった架空の存在を放り込んだ歴史ファンタジー、というなら私もここまで五月蠅いことは言わないんですけどね。

正直、読むのが苦痛でした。廃棄確定。
ごちゃごちゃ言わず、素直にスノウの成長物語として読めばいい? すいません、私には無理です。(爆)

結婚するっ?

2007-01-22 23:53:38 | ファンタジー(異世界)
さて、あと二冊でネタが切れる第783回は、

タイトル:砂の覇王7 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H14)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の七巻目。
ルトヴィア帝国に逆戻りすることになり、周囲の思惑に翻弄されるカリエの姿を描きます。
今回の表紙は海賊姿のカリエとその肩に乗るオロキ鳥のリリアン、そして固い表情で遠くを見つめるギアス海佐。何か……これだけ見ると海洋冒険物みたいですね。(笑)



海賊王トルハーンと天才指揮官ギアス、旧友同士の戦いは後者に軍配が上がった。
戦闘中に、ギアスの旗艦に回収されたカリエは、そのままバルアンと離ればなれになってしまう。
海賊を打ち破り、帝国の威信を取り戻したルトヴィア艦隊はトルハーンを連行し、皇都タイアークへと帰還した。

国を追われ、異国の妃となり、挙げ句海賊の捕虜となった悲劇の皇女カザリナ・ユファトニー。
そんな空っぽの偶像を押し付けられることに辟易し、カリエは飽くまで海賊として皇都に降り立つ。
困惑する者達の中にあって、ドミトリアスとグラーシカだけは以前と変わらず、兄、及び、友として接してくれた。

だが、周囲の状況は平穏な時間を与えてくれるほど甘くはなかった。
ギアスの助命嘆願も虚しくトルハーン処刑の日は近付き、さらに、カリエの立場が宮殿内に波紋を呼ぶ。
カリエはグラーシカの親衛隊に入ることで周囲の雑音を封じようとするが、そんな彼女の前にトルガーナ辺境伯なる人物が現れ――。



とにかく変わり身の激しいカリエですが、今回は遂にグラーシカの親衛隊になってしまいました。
ルトヴィア帝国の設定が、いかにも革命以前のフランスっぽいことから、いつかやるんじゃないかと思ってましたが――。

狙ったな、須賀。

って感じですね。(笑)

ベルばらごっこですよ、ベルばらと書いてベルサイユのばら!
もう後は、バスチーユ監獄の前で美しく散るだけですね。(笑)
でもそーなると、エドがアンドレか……何か間違ってる気がする。

まぁ、それは置いといて。

流血女神伝の特徴は、お馬鹿なノリとシビアな展開が共存していることですが、本巻は特にその傾向が強いです。
必殺の抱き付き攻撃で過去最高の三機撃墜を果たすカリエ、慎みのない格好のカリエを見て絶句するドーン兄さん、夫の堅物ぶりを笑い飛ばすグラーシカ等、各キャラのしょーもないネタ(※最高の賛辞)を放り込みながら、同時に、過去と現在を語り合うトルハーンとギアス、カリエを失っても動じないバルアンに怒りを覚えるラクリゼ、強者には厳しいが弱者には甘々なドミトリアスを批判する×××といった真面目なネタもちゃんと入れているのは凄い。
相変わらずと言ってしまえば相変わらずなんだけど、この絶妙なバランス感覚は正直羨ましいなぁ。

ストーリーは、大体上記の粗筋で全部です。
最大のハイライトは、現実逃避まっしぐらなカリエを、地獄から生還した×××が諭す場面。
いや~、本当にいい男になって帰ってきました×××。本人も言ってるけど、確かにドミトリアスより皇帝向きかも。
(ん? 伏字の意味なし?)

舞台がルトヴィアに移ったため、今回、エティカヤ勢は殆ど出てきません。
せいぜいバルアンが腹をくくった、ってぐらいで、エドとかコルドとかヒカイが何をしてるのかは不明。
本当に残り二巻でシャイハンを倒し、国を分捕れるのか? ってとこですが、それについては最終巻で。

次巻は、カリエが一つの儀式を行います。
ところでこの娘、いつの間に十七歳になったんだ……?(爆)



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