つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

またですか……

2012-05-05 16:14:10 | 小説全般
さて、ようやく2巻でありますの第1013回は、

タイトル:祝もものき事務所2
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C☆NOVELSファンタジア(初版:'11)

であります。

けっこう読んでも記事にしない小説が多々あります。
何の感慨もなかったり、感性が拒否反応を起こして途中で読むのを断念したりと理由は様々ですが……。

そんな中、茅田さんの作品は比較的安心して読める話が多いのですが、この2巻はどうなっていることやら……。

ストーリーは、

『事務所に訪れたのは宿根と名乗った人物だった。事務所所長の百之喜太朗は厄介ごとが嫌いな面倒くさがり。どんな依頼なのかと思っていたが、宿根の依頼は拍子抜けするほどのことだった。
依頼内容は、とあるビルのカフェで出くわした人物の安否の確認をしてほしい、と言うものだった。

宿根が言うには、とあるビルのカフェで遅い昼食を摂っていたとき、そこに居合わせた客で、同じビルの山根コーポレーションに勤めている小林という人物のことで、そのとき、その小林と言う人物は糖尿病の発作で倒れてしまったのだ。
騒然とする店内で、当初は宿根も何もできないでいたが、カフェには医療関係者が居合わせていたらしく、小林にインシュリンを投与しようとしていた。
だが、宿根には過去に猫の糖尿病で得た知識があり、その医療関係者が投与しようとしていたインシュリンの量が半端ではなかったのだ。

高血糖ではすぐ死なないが、低血糖では死ぬ。そのことを知っていた宿根は小林が倒れた原因が低血糖であると判断し、血糖値を下げるインシュリンではなく加糖するべきだと判断して、グルコースを飲ませたのだった。
その後、小林は救急車で運ばれてしまい、安否はわからずじまい。
本当に自分のした処置は正しかったのか、そのことで悩んでしまった宿根は、百之喜も恐れる大家の越後屋銀子の紹介で事務所を訪れたと言うのだ。

どんな厄介な依頼かと思いきや、案外簡単そうな相談だったので依頼を受けた百之喜は、秘書の凰華とともに小林が勤めている会社に向かったのだが、そこには該当する人物がいない。
仕方なく件の事件が起きたカフェで聞き込みをしていると、倒れた当の小林が現れた。――のだが、彼は小林ではなく、樺林慎であり、山根ではなく、周コーポレーションに勤めている会社員だった。

そしてそこから事態は泥沼の様相を呈してくる……。』

読んでいてまず思ったのは、また親族ネタですか……、ってとこでしょうか。
1巻も相続絡みの親族ネタでしたが、今回はそれに輪をかけて複雑な親族、人間関係が絡んだ遺産相続にまつわる話でした。

ストーリーは、宿根の依頼を受けていろいろと調査をするうちに、徐々に明らかになってくる離婚、再婚などを巡って発生する遺産相続問題に樺林が巻き込まれ、最初の事件であるインシュリン投与事件に端を発する樺林の殺人未遂などを絡めて、誰が樺林を殺そうとしているのか、が解き明かされていく、と言う内容。
相変わらず、何でもないことや他愛ない出来事から事件を大きくしていく手腕は見事ですが、今回はキャラがとてもたくさん出てきて、しかも離婚、再婚で親族関係や遺産相続問題が絡んでいて、人間関係がとてもややこしいです。
はっきり言ってさっくりと一読した限りでは、相関関係を想像するがかなり難しいくらいです。
……と言うか、この人間関係の複雑さには辟易しました。

キャラも主人公の百之喜や凰華は変わらずですが、これまた相変わらず非常識人といろんな意味で強い女性を描くのは茅田さんらしいところでしょう。
特に女性キャラ。昔、スニーカー文庫で出ていたころの「桐原家の人々」シリーズのあとがきで、著者本人が「強い女性が好き」と語っていましたが、芯の強い女性キャラがこれでもかと言うくらい出てきます。
この辺りは著者の趣味でしょうか。……と言うか、億単位の遺産相続をそれがどうしたってくらいに剛胆に構えられる人物はそうそういないと思うのですが、当たり前のように出てきます。
まぁ、非常識を書かせれば天下一品の著者ですから、逆に言えばこうした強い女性たちも非常識の範疇に入るのかもしれませんが……。

ともあれ、人間関係のややこしさを除けば、上記のとおり、小さな出来事から事態を大きくしていく著者らしい展開で、ファンにとっては楽しめる作品ではないでしょうか。
もっとも連続して親族ネタで攻めてくるのはいかがなものかと言う気はしないでもありませんが……。
あと、前作よりも人間関係がややこしすぎて、著者の魅力である何も考えずに読める、と言うのが阻害されているところもマイナスでしょうか。
でもまぁ、まだ2巻。今後はどんな事件を扱うことになるのか、期待はしたいところです。

と言うわけで、総評としては及第と言ったところでしょうね。
個人的に茅田さんの作品は好きだけど、「デルフィニア戦記」のように手放しでオススメできるような作品ではないけど、さして落第にするようなひどい話でもないので、こういうところに落ち着いてしまいますね。


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意外だったのは……

2012-04-21 18:23:31 | 小説全般
さて、いつの間にやらここまで来てたんだなぁの第1009回は、

タイトル:幸せのかたち
著者:松村比呂美
出版社:双葉社 双葉文庫(初版:'06)

であります。

著者は携帯小説出身らしいです。
携帯小説と言うと、どうしてもあの狭いディスプレイで読むことを考えて、書いていくものだろうから、いろいろと偏見があったりなかったり……^^;
なので、はっきり言ってまったく期待はしていなかったのですが……。

ストーリーは、

『買い物からの帰り道、紗江子は中学時代のクラスメイトだった美幸に声をかけられた。
クラスメイトと言っても卒業前に転校して、半年くらいしか一緒にいなかった美幸をすぐには思い出せなかったが、地味でおとなしかった当時とは打って変わって美幸は積極的に紗江子に話しかけ、住んでいると言うマンションに向かう。
そこで見つけた自分の顔が3Dで映し出されるクリスタル――薄気味悪さを覚え、美幸と電話番号の交換はしたものの、二度と会うことはないだろうとマンションを後にする。

一方、紗江子の昔ながらの友人の香織は、紗江子と共同経営で開いたリサイクルショップで暇をもてあましていた。
共同経営と言ってもすでに紗江子は手を引いていてひとり。その原因は香織が持ち込まれた品を言い値で買い取ってしまうからだった。
高値で買い取ってくれると評判になり、売り手は来るが買い手がなく、立ちゆかなくなっていたのだ。
結局、リサイクルショップは失敗、紗江子とも喧嘩別れしたままで味気ない生活を送っていた。

そんな紗江子と香織に転機が訪れる。
紗江子には夫の浮気疑惑、香織には夫の浮気による浮気相手の産まれたばかりの子供、と言う出来事だった。
紗江子はそのことから耳を背けるように、美幸が提案した輸入雑貨の店を出すと言う計画に飛びつき、香織は働いていたころの先輩の様子から育児は無理だと思っていたし、夫の浮気で離婚なんて惨めだと思って動けずにいた。
美幸は美幸で紗江子との輸入雑貨の店をオープンすることに満足していた。

三者三様、それぞれの出来事と思惑が入り乱れる中、紗江子は意外な事実を知ることになる……。』

まず、文章のことですが……。
偏見その1(笑)
どうしても携帯というもので見せる場合には、文章的な制約があって軽い文章を想像していたのですが、いやはや、まともでした。
と言うか、ラノベの文章の乱れっぷりを見ていると、かなりこちらのほうがマシでした。
表現に難はないし、文章の作法も乱れることなく、そつなく書いていて、期待していなかったぶんだけ意外な好感触でした。

ストーリーは、タイトルどおり紗江子、香織、美幸の3人の「幸せのかたち」を描いたもの。
美幸と出会ったことで起きる紗江子の夫の浮気騒動や、それを仕組んだ美幸。
また、美幸のほうも実際は早くに結婚していて子供もいたが、それに伴う苦労、そして夫の両親を含めての交通事故による家族の死、地味でおとなしかった中学時代に出会った紗江子への憧憬と執着……。
そうしたものが過去話とも絡んでしっかりと描かれていて好感が持てます。
ただ、物語の軸が紗江子と美幸にやや重点が置かれているせいか、香織の存在が蚊帳の外と言ったふうに見えるのが残念ですが、夫の浮気相手が生んだ赤ん坊と接し、名前もつけてやったりしているうちに、その子を育てるように思えるようになる下りには無理がありません。
3人の女性が選んだ「幸せのかたち」――タイトルのとおり、それぞれの幸せが何であったのかがしっかりと描かれています。

これまた期待していなかったぶんだけ、ストーリーも好感触です。
でも紹介文にある「人生の岐路に直面した三人の女性の姿を描く、ミステリアスな物語」のミステリアスってどういう意味なんでしょうね(笑)
「人生の岐路に~」という下りはわかりますが、この作品のどこにミステリアスな部分があるのか教えてほしいくらいです。
あえて挙げるとすれば、美幸の仕組んだ紗江子の夫の浮気騒動くらいでしょうか。
でもそれは美幸が持つ紗江子への憧憬と執着という面を描くためのもので、ミステリアスと呼ぶほどのものではないでしょう。
この言葉が持つ印象からストーリーを期待すると、はっきり期待外れになってしまうので注意しましょう。

と言うわけで総評ですが、期待していなかったぶんだけ好印象が多く、文章もストーリーもそつなくこなしてくれている本書ですが……。
及第以上良品未満――悪くはないんだけど、そこまでオススメできるほどの雰囲気があるわけでも勢いがあるわけでも秀逸な点があるわけでもないので、こういったところに落ち着いてしまうでしょう。
決してハズレではないので、手に取ってみてもいいとは思いますが、強いてオススメできる点がないのでこういう総評に落ち着いてしまいます。


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これは少女小説になるのかな?

2012-03-30 21:17:51 | 小説全般
さて、あっさり越えてしまっちゃったなあぁ第1001回は、

タイトル:サマースクールデイズ
著者:深沢美潮
出版社:ジャイブ ピュアフル文庫(初版:'06)

であります。

この人と言えば、「フォーチュンクエスト」シリーズが真っ先に思い浮かびます。
てか、古いですねぇ、「フォーチュンクエスト」(笑)
リアルタイムに読んでいた(あぁ、年がバレる(笑))身としては、しみじみ懐かしいなぁと思ってしまいます。

それはさておき、主に比較的王道のファンタジーを書いている著者ですが、本作はファンタジーではありません。
ストーリーは、

『千里は道に迷っていた。セント・ジェームスというアメリカンスクールのサマースクールに行く途中だったのだが、道がわからなくなってしまったのだ。
近くのコンビニで道を聞こうと思っても、なかなかできないでいるところに出会ったのがセント・ジェームスに通っている少年ジャスティンだった。
ジャスティンに連れられ、無事セント・ジェームスに辿り着いた千里――彼の優しさと際立った容姿に浮かれていたが、サマースクールの始業式で、高校に入ってから突然よそよそしくなって、千里の悪口を吹聴するようになった幼馴染み、瑞穂がいることに気付いて落胆する。

時は少し遡って――引っ込み思案で言いたいこともなかなか言えないような性格の千里は、瑞穂のこともあって学校を休みがちになっていた。
それを見かねて母親に勧められたのがセント・ジェームスのサマースクールだった。
当然、気乗りはしなかったけれど、両親にあれこれ言われるのも面倒くさかったので通うことにしたのだった。

けれど、いいこともあれば悪いこともある。その逆もまたしかり。
大阪から来て親戚の家から通っていると言う有紀と知り合いになり、それが縁でサマースクールに通ってきている子たちとも仲良くなったりもできた。
他にも、コンビニで助けてくれたジャスティン。彼はとても気さくで、見かけると気軽に声をかけてきてくれたりする。
ジャスティンに対する千里の反応から有紀は千里が彼に好意を持っていると思い込んで……』

本作の紹介文を読むと、恋愛小説のように受け取れそうですが、どちらかと言うと友情のお話です。
ストーリーは、引っ込み思案で言いたいことも言えない千里が、サマースクールで出会った有紀たちとの触れ合いやすれ違いを描き、最後には親友だった瑞穂と和解するというもの。
ジャスティンは折に触れて登場しますが、恋愛要素は低く、有紀たちとの関係を描く上で出てくる脇役に過ぎません。
なので、恋愛小説として期待しないほうでいいです。

とは言え、紹介文の「揺れ動く少女の心を瑞々しくもリリカルに描いた、ひと夏の青春物語」というのは、本作を端的に表していて納得できます。
文体は千里の一人称で、引っ込み思案な千里の心情をよく表現しています。
サマースクールの授業の発表で動揺する様子や有紀たちとすれ違いを起こして逃げ出してしまう姿など、千里のキャラは生き生きと描かれています。
逆に、有紀たちやジャスティンと言った脇のキャラたちが相対的に薄くなっているのが難点かな。

まぁ、千里以外のキャラの薄さを除けば、枚数も少なめで、文体も一人称で読みやすく、手に取りやすい部類に入るでしょう。
ただし、男性向きではありません。
女性ならば、友達との関係で仲良くしたりぶつかったり――そんな若い時代の感慨にふけることができるかもしれません。
千里と同世代ならば、共感できる部分もあるでしょう。
解説でも同趣旨のことが書いてありますので(もちろん、解説者は女性です)、女性には比較的オススメしやすい作品です。

と言うわけで、総評ですが、悪くはない作品なのですが、及第とさせてもらいます。
どちらかと言うと女性向けですし、良品と言えるほどの感動や雰囲気があるわけでもないので、良品未満と言わざるを得ないでしょう。
ただ、及第とは言っても点数は高めです。Amazonの5段階で☆をつけるなら4つくらいはつけられるとは思います。

なお、少女小説としたのは千里が高校生だからです。
これが中学生くらいの話だったら児童文学に分類してもいいかもしれませんね。


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迷宮には入れませんでした

2012-03-25 14:42:53 | 小説全般
さて、1000回まであと1回になりましたの第999回は、

タイトル:この闇と光
著者:服部まゆみ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'01)

であります。

予約を入れている本がまだのときに手に取る本は、ホンットにてきとーです。
この前は「ナ行」だったなー、じゃー、次は「ハ行」かなー、とかそんな感じで読んだことがなさそうな作家さんを選んで借りてきます。
本屋で平積みされてたりするような小説は、たいてい予約が入っているので、どうしても読むのが遅くなってくるんだよねぇ。

それはさておき、本書もそんな感じでてきとーに選んで読んでみた作品です。
ストーリーは、

『3歳で盲目になった姫、レイアにとって世界は「冬の離宮」と呼ばれる別荘の2階の自室から行ける範囲、それと父王が話してくれる物語やぬいぐるみのプゥ、犬のダークが世界のすべてだった。
父王は隣国との戦争に負け、レイアとともに別荘で過ごしている――そんな環境ではあったが、幼いレイアにとっては優しい父やプゥ、ダークがいればそれだけでよかった。

だが、それを侵す者もいた。侍女のダフネや階下の兵士たち……。
特にダフネが見せるレイアへの憎悪に満ちた言葉は、レイアにとっては恐怖の対象でしかなかった。
それでも、占領された自国の民への説得などへ出かけ、離れることはあるけれど、父とともに物語を聞いたり、読んだり、音楽を聴いたりする時間は満たされたものだった。

そんなレイアは、成長していくに従って物語は絵本から小説へと代わり、それらから様々なことを学んでいく。また、父からも様々な事柄を学んできた。
折に触れて現れるダフネとその憎悪、それによる恐怖――そんな恐ろしい出来事はあるものの、レイアは満ち足りた生活を送っていたが、突如それは崩壊する。
城下で暴動が起きたのだ。父はそれを沈めるために出向き、レイアはダフネに連れられ、城下の安全な場所へと連れて行かれてしまう。

初めて降りる階段、車、そして知らない場所――安全な場所と言われ、そこで父を待っていたレイアを訪れたのは、レイアの両親と名乗る男女だった。
大好きな父、プゥ、ダークとも離れ、両親と名乗る彼らが連れて行った場所は病院。目が見えるようになる手術をするということで連れられた病院で視力を回復したレイアは、そこで自分が3歳の頃誘拐されたこと、それから自分の本名、女ではなく男であること、ここが日本と言う国であることなど、思いもよらない事実を知ることになる。』

裏表紙の作品紹介の引用。
「魅惑的な謎と優美な幻影とに彩られた、服部まゆみワールドの神髄。一度踏み込んだら抜け出せない、物語の迷宮へようこそ。」

……魅惑? 幻影? 迷宮? なんですかそれは?(笑)
読後、これらの言葉に対する印象は、まったくなし。
かろうじて、幻影の部分のみ、該当するかな? って程度。

ストーリーは、作品の大半を占めるレイアの物語と、そのファンタジーにも似た世界から現実へ連れ戻されたレイア――本名大木伶がレイアとして育った環境と現実とのギャップを主体とした内省、実はレイアとして成長した年月を描く前半は伶が小説仕立てにしたもので、それをもとに誘拐犯でもある若手作家との邂逅を描いて物語は終わる、というもの。
ファンタジー風味の前半から、現実世界に移行すると言う構成ながら、ストーリーの流れは破綻がなく、引っかかるようなところもない。
文章も過不足なく書かれており、文体も特筆するようなところはないが、とりたてて気になるようなところもない。

悪いところはないようにも見えるのだが……。
この作品の鍵は作中で出てくる各種物語であろう。
幼いころの「赤頭巾」「小公子」「小公女」、長じては「嵐が丘」「罪と罰」「デミアン」、そしてアブラクサスという神。
おそらくは、これらの物語を知っている(読んでいる)のとそうでないのとではかなり違いがあるのだと思う。
そしてこれらを知っていることが、作品紹介に書かれているように、魅惑的な物語の迷宮に誘い込んでくれるのだろうと思う。

逆に言えば、これらの作品を知らなければ、魅惑も幻影も迷宮もへったくれもない。
翻訳本の文章が性に合わないので、私はほとんど……と言うよりまったく海外作品を読まないので、絵本になっているような有名な「赤頭巾」や「小公子」「小公女」はともかくも、「嵐が丘」「罪と罰」「デミアン」などはあらすじすら知りません。
アブラクサスだの、グノーシス主義だのという言葉にもまったく縁がありません。
Wikipediaとかで調べればだいたいのことはわかるかもしれないけど、エンターテイメントとして小説を読んでいるのに、いちいちこれらの作品だの言葉だのを調べながらも読むわけがない。

なので、作品紹介にあるような「ワールド」にはまったく引き込まれずに、淡々と終わってしまったと言う印象。
と言うか、知っていること前提で話を進められても、知らない人間にとってはまったく意味をなさないし、元ネタがわからなくても楽しめるパロディではなく、作品の根幹に関わっているらしいとなるとお手上げです、と言うしかない。
おもしろみもなにもありません。

私は週に3冊平均くらいで本を読むので、読書家の部類に入ると思いますが、読書家だから有名な海外の作品なども読んでいるわけではないでしょう。
さらにそれらを読んでいて、本書を読んでいるときにそれらを想起できて、物語と関連して読める人がどれだけいるか。
そういう意味で、この作品はかなり読者を限定してしまうのではないかと思う。

なので、一般的にオススメできるかと言われれば、否としか言いようがない。
そういうわけで、総評としては落第。
ちなみに、解説を読むと他の作品も似たような感じらしいので、2冊目を読むかどうかはかなり疑問……。


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サスペンスらしいです

2012-03-18 14:57:09 | 小説全般
さて、このジャンルって初めてかもしれないなぁの第997回は、

タイトル:記憶 ニライカナイより
著者:永嶋恵美
出版社:双葉社 双葉文庫(初版:'11)

であります。

読んでいるうちに、ミステリっぽいなぁなんて思っていたのですが、解説によるとサスペンスらしいです。
テレビでもサスペンスなんて見ない……と言うより、テレビそのものをほとんど見ないで読書三昧なので、サスペンスと言うジャンルがどんなものか、はっきり言ってよくわかっていません(笑)

でもまぁ、ジャンルに拘らないで読めたので別にかまいはしませんが。
では、ストーリーですが、

『水野春菜がそのことを知ったのは、夫とともに朝食の席でつけていたテレビのニュースキャスターの声からだった。
沖縄で起きた殺人事件。その被害者、副島奈槻の訃報を知らせる内容だった。同姓同名の他の誰かだと思いたい春菜は、しかしいくつかの局のニュースで、それが恋人の奈槻であることを知らしめられ、愕然とする。

奈槻と出会ったのは、新宿二丁目のレズビアンバー「イリス」だった。
漫画家の幼馴染みの友人池谷千恵子が描くマンガで、同性愛者を主人公に据えると言うのでその取材も兼ねて訪れた「イリス」で知り合ったのだ。
ただそれだけで終わればよかったのだが、春菜は既婚であることなど、嘘をついていたことに罪悪感を覚え、奈槻と再び会うことにする。
そこから、春菜は奈槻との恋人関係を始めていくことになる。

その奈槻が殺された。しかも遠く沖縄の地で。
抵抗した様子もなく、物盗りでもない殺人事件――怨恨の可能性が高いと判断された警察から、春菜は事情聴取を受けることになる。
春菜と奈槻の関係をすでに知っているらしい刑事は、まるで春菜が犯人であるかのように事情聴取を進めていく。
夫にはもちろんのこと、周囲にも秘密にしていた関係……それを知るのは「イリス」の常連としか思えない。

さらにふたりの関係を記事にした週刊誌が出回り、奈槻との関係を夫にまで知られてしまう。
激昂する夫の姿に耐えられず、家を飛び出してしまった春菜は、離婚の相談をしていた弁護士の荻津の助けもありながらも一所に落ち着くことができたかに見えたが、そこにも刑事の姿があった。
発作的に荻津まで振り切って逃げ出してしまう春菜は、自身に罪はないとわかっていながらも、そのまま逃亡者になってしまう。』

まず、同性愛に関して寛容になれない方は、ちょっと手を出しづらいかと思います。
性描写などはまったくと言っていいほどありませんが、春菜と奈槻の関係に嫌悪感を抱くのであれば読みづらいでしょう。
私は気にしませんし、同性愛者の友人もいますし、BLだって読もうと思えば読める人間なので、まったく苦になりません。
(BLもレーベルが確立されていない昔は、スニーカー文庫のレーベルで出てたりして、表紙買いで間違えて買ってもったいないから読んだりしたものです。今は進んで読もうとは思いませんが、読めと言われれば読めるでしょう(笑))

この1点をクリアできたならば、本書はいい作品だと言えるでしょう。
まずよい点から上げていくと、春菜のキャラ。描写のほとんどが春菜視点で描かれていますが、春菜の心の動き――心理描写が巧みで、過去に起きた出来事や、それに関連して形成された人格など、まったく無理がありません。
また、春菜視点と言うことで散りばめられた伏線も無理なくストーリーに溶け込んでいて、犯人はいったい誰なのかと言う想像を二転三転させてくれます。
ただ、逆に春菜の視点からの情報だけですので、奈槻を含めた他のキャラが薄い印象は否めません。これだけはちょっと残念なところ。

ストーリー展開は、起伏に富んでいると言うわけでもなく、割合淡々と進みます。
描写が春菜視点であること、春菜の心理描写が多用されていることからも、盛り上がりに欠けるきらいはあります。
読むひとによっては、春菜の逃亡劇にどきどきしたりはらはらしたりすることもできるかもしれませんが、私にはそれはありませんでした。
ラストで犯人が誰なのかが判明しますが、劇的なものがあるわけでもありません。
まぁ、その結末には納得できますので、ストーリーとしてはうまくまとまっている作品でしょう。

……あれ? なんか最初にいい作品と書いた割にはあんまり褒めてないような……(爆)
あー、でもサスペンスって初めて読んだ(と思う)のですが、著者の特徴なのか、やはり心理描写の巧みさは特筆すべき点でしょう。
これがなければ落第を決定づけてしまいかねない凡百の作品に成り下がってしまいそうです。

少々気になるところはあるものの、ストーリー展開に無理はないし、結末も納得できるものですし、心理描写は秀逸。
読んでも損はない作品で、比較的オススメしやすい作品と言えるでしょう。
ちょっと甘めの評点ながら、総評、良品。


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ミステリじゃないけれど

2012-03-04 16:22:41 | 小説全般
さて、この人としては異色作になるのかなの第991回は、

タイトル:7人の敵がいる
著者:加納朋子
出版社:集英社(初版:'10)

であります。

優しい雰囲気を持ったミステリを描く加納さんですが、本作はミステリではありません。
とは言え、お得意の短編連作の形式で書かれているので、各章ごとにストーリーをば……。

『「女は女の敵である」
山田陽子はかなり苛立っていた。一人息子が小学校に入学して最初の保護者会。編集者としてバリバリ働いている陽子は、後々のためになるかと仕事を抜けて来ていた。
――と言うのに、無為に時間だけが過ぎていく。
母親ばかりの保護者会では簡単な自己紹介などをすませたあとに、PTAの役員を決めることになっていたのだが、ここで陽子は失敗してしまった。
仕事が深夜にまで及ぶことなどざらで、土日出勤も当たり前の編集者である陽子に、役員など無理。だから正直に言ってしまったのだ。滔々と無理な理由を挙げたあとに。
「そもそもPTA役員なんて専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」と。
この瞬間、陽子はそこに居合わせたほとんどの母親を敵に回してしまった。

「義母義家族は敵である」
嫁姑問題もなく、陽子は義母とも義理の家族(夫の妹や姉)ともうまくやっていると思っていた。
だが、それも義理の姉の加代子の一言から、それに自信がもてなくなってしまう。
ついでに義理の妹美佐子との衣装の貸し借りのトラブルや、自治会の子供会のことなどが重なって、ますます自信を失いかけたところに新たな火種が投入され……。

「男もたいがい、敵である」
1年前の経験を踏まえ、息子が2年生になった際の保護者会。PTA役員にならないために、手を打っておいてから臨んだ学童保育所の父母会。
父母会の役員も決まり、これでおしまい……とはならなかった。
新会長に選ばれた男性が6月に行われる親子遠足について理想論を語り始めたのだ。
ツッコミどころ満載でも黙って聞いていた陽子は、しかし堪えきれなくなって新会長氏の理想論を完膚無きまでに叩き潰してしまったのだ。
かくして、またもや1年前と同じ轍を踏む形で、陽子は新会長氏を敵に回してしまった。

「当然夫も敵である」
仕事に家事、育児、学童保育役員会にと忙しい陽子は、夫である信介に自治会の会合に出るように(表向きは)頼んだ。
――のだが、それが失敗だった。会合から帰ってきた夫は、なんと自治会の会長になってしまい、おまけに総務の仕事まで引っ張り込んできてしまったのだ。
自治会の仕事なんて夫に任せるつもりだったが、それもかなわず、自治会の次の定期総会に夫の代理として出席した陽子は、総務の仕事までは無理と説得を試みるが……。

「我が子だろうが敵になる」
学童保育で預かってくれるのは3年生まで。4月から4年生になる息子に、陽子は習い事をしてみないかと薦めてみる。
放課後をひとりで過ごさせるのもイヤだし、義母に頼りすぎるのも無理。仕事を辞めるつもりはない陽子と夫との話し合いで出た結論だった。
それに息子の陽介はサッカー少年団に入りたいと言った。
とりあえず、入りたいと言うサッカー少年団の練習試合を観戦することにした陽子家族。いろいろと見て聞いて、人見知りの気がある陽介には団体スポーツを経験させるのもいいか、なんて暢気に考えていたのだが、ところがどっこい。
スポーツ少年団はそんなに甘いものではなかった。

「先生が敵である」
突然かかってきた村辺と言う保護者からの電話に陽子は戸惑っていた。何とか記憶を掘り起こして該当者を見つけたものの、電話をかけてくるような間柄ではなかった。
しかし、親にはなくともその娘の村辺真理ちゃんには、間接的ながら陽介を不審者から救ってくれたと言う過去の出来事があった。
その恩義もあって、村辺から話を聞いてみると、それは真理ちゃんが3年生になってからの担任若林先生のことでの相談だった。

「会長様は敵である」
上条圭子PTA会長は、陽子の出した秋の学年レクリエーション活動の予算申請書にダメ出しをして再提出を命じた。
これで3度目。さすがにこれ以上作り直してきても時間の無駄だと思った陽子は、上条会長にどこがいけないのかを聞くと返ってきたのは、ぐうの音も出ないほどの正論で、陽子はかつてないほどにこてんぱんにやり込められてしまった。
だが、ここで負けては女が廃る――わけではないが、陽子は細心の注意と根回しによって、敵を陥落しにかかった。』

今まで読んできた加納さんの作品は、総じて優しい雰囲気の作品が多く、それが魅力でもあったのですが、本作は優しさではなく、軽妙という表現がぴったりの作品になっています。
著者あとがきでも触れていますが、コメディ的な要素もあって、こういう話も書けるんだとけっこう素直に感心しました。

ストーリーの柱は、主人公の陽子――迂遠で遠回し、言わずとも察してほしいと言う女性的な面を嫌う男勝りなキャリアウーマンが、PTAや自治会と言った活動で巻き起こる騒動や案件を乗り越えていく奮戦記と言ったところでしょうか。
各章のタイトルからもわかるように、その章ごとに敵(最終的には敵ではない場合もある)がいて、それに絡んだエピソードが語られていきます。

私は親ではありませんので、作中で語られるしがらみや義務などは、そういうものなのかと軽く流してしまいそうなのですが、共働きで兼業主婦をやっている方にとってはけっこう身につまされる話ではないかと想像します。
実際、主人公の陽子は編集者ですし、昨今では女性編集者も珍しくないでしょう。著者にとって取材には困らないでしょうから、多分にリアリティのある作品ではないかと思います。

各話にしても、お得意の短編連作でもあるため、きちんとオチもついているし、おまけにエピローグでもタイトルに絡めたオチをつけてくれていて、ストーリー展開にそつがありません。
キャラも主人公の陽子の性格や息子の陽介のために頑張ってしまう理由など、納得できるキャラ設定ですし、他の登場人物にしてもわかりやすく、無理のないキャラ設定になっています。
違和感なく、すんなりと想像できるキャラ設定は見事です。

ストーリー展開にそつがなく、文章も軽妙で、キャラに問題もなし――といいことずくめのようですが、あとがきにも書いてあるように「PTA小説? なんか小難しくて、つまんなそう……。」というのは確かにネックかもしれません。
あとがきから読む方もいるでしょうから、この作品がPTAだの自治会だのと言った題材を扱っていることを知って、興味をそがれる場合もあるかもしれません。
また、ミステリが好きな人にはミステリではない作品なので、敬遠される場合もあるかもしれません。

ですが、そうしたところを鑑みても、作品としての魅力は損なわれることはありません。
単純に小説としておもしろいし、各話で語られるエピソードから見えるそれぞれの人間関係などの妙味もあるし、小難しそうなテーマでありながら軽妙さを失わないところなどなど。
テーマがテーマだからと敬遠するにはもったいない作品です。

久々にオススメできる作品だと言えるでしょう。
ほんとうに加納さんの作品は外れが少なくて助かります。


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いちおうラノベかな

2012-02-25 15:17:48 | 小説全般
さて、雑誌のダ・ヴィンチって読んだことないんだけどの第987回は、

タイトル:吉野北高校図書委員会
著者:山本渚
出版社:メディアファクトリー MF文庫ダ・ヴィンチ(初版:'08)

であります。

MF文庫と言うとラノベの印象なんだけど、あとにダ・ヴィンチとつくとどこに分類していいやら迷いました。
本書に限って言うならラノベっぽいのですが、内容は恋愛小説っぽい(あくまで「っぽい」)ものなので、「小説全般」に分類。

で、ストーリーはと言うと、

『徳島県徳島市の吉野北高校に通う川本かずらは、校舎とは別館になっている図書室に滑り込んだ。
今日は自らが所属する図書委員の臨時委員会があるからだ。
委員会までには時間があるけれど、もうすでに委員長の岸本一――通称ワンちゃんに、同じクラスの藤枝高広、後輩の上森あゆみが来ていた。

かずらは、他の委員が揃うのを待つ間、いつものメンバーと雑談しながら他の委員を待つ間、かわいい後輩のあゆみのほんとうにかわいい姿に感じ入ったりしていた。
けれど、そこには少々複雑な気持ちも混ざっていた。

同じ図書委員で気の合う男友達でもある武市大地とあゆみは付き合っているのだった。
「どうせ大学に行くときに別れるのならば彼女なんて作らない」――そんなふうに言っていた大地があゆみと付き合っていることを告げられたときはびっくりした。
……したけど、大地の説明を聞いて腑に落ちた気がしたけれど、その実、かなり動揺していた。

大地とは気が合って、本の趣味や価値観、考え方が似ていて、ちょっと特別な男友達だった。
でも大地とあゆみがうまくいって欲しいと言う気持ちもまた本音だった。

そんなかずらに、藤枝は「かずらは大地のことが好きなんだろう」と言ってくる。
けれど、かずらは大地への気持ちは恋愛感情ではないと答える。あゆみのような強い感情ではないからだ。

それに納得したように引き下がった藤枝は、かずらのことが好きだった。
一年生のとき、ほとんど不登校だった藤枝はワンちゃんと知り合い、その縁で図書室に顔を出したとき、ちょうどワックスがけをする日で、かずらに半強制的に手伝わされたことがきっかけで、図書室に入り浸るようになり、二年生になったときに図書委員にもなった。

居心地のいい場所をくれたかずらを好きな藤枝は、大地への気持ちに蓋をしてしまうようなかずらの態度にもどかしさを感じていた。
その反面、自分の気持ちを知って欲しいと言う欲望もあり、またそれを知ったときのかずらの態度が容易に想像できてしまうがために好きだと言うことができてないでいた。

そんな中、大地があゆみと別れると言いだし――それは大地の考えすぎの単なる誤解だったのだが、その顛末を聞いたかずらの態度に、藤枝はとうとう……』

う~ん、数回程度じゃ要約の感覚を取り戻すのはまだまだってとこだなぁ。

それはさておき。
本書の第一印象は、「まぁ、かわいらしいお話だこと」ってな具合でしょうか。(もちろん、いい意味ではない)
ストーリーは図書委員をやっている高校生たちの恋愛を絡めた感情の機微を描いた作品、と言ったところで、第3回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞を受賞した表題作に、あゆみを主人公にした書き下ろし「あおぞら」の中編2作が収録されている。

とにかくキャラ全部がいい子ちゃんすぎて、リアリティに欠けている。
山本文緒の「恋愛中毒」みたいにドロドロしたのとは真逆で、嫉妬や独占欲と言った高校生であろうと持っていて当然な感情の表現というものがほとんど、ない。
あえてそれに該当すると言えば藤枝だろうが、このキャラもそこまで強い印象を与えるものではなく、リアリティのなさを補うまでにはいってない。

と言うか、かわいくてかずらに「素敵女子」と評されるあゆみを筆頭に、メインで登場する図書委員のキャラが全員「いるかよ、こんなヤツ」ってな具合。

ストーリーの構成は、かずら視点から藤枝視点へ移行しながらストーリーを展開する表題作と、あゆみ視点の書き下ろしだが、ともに奇を衒うような展開もなく、いい子ちゃんたちのいい子ちゃんな感情の起伏を日常の中で表現しているだけで、これと言った盛り上がりがあるわけではなく、至って平板にストーリーは進んでいく。
まぁ、ごくありふれた日常を描いていくのは難しく、それを描けている点は評価できるが、いかんせんキャラがこれじゃぁねぇ……。

その割にはAmazonのレビューの評価っていいんだよなぁ。
さわやか、とか、切ない、とか――すんませんが、いったいどこからそういう評価が出たのか教えてもらいたいです。
(単に私がひねくれているだけだろ、と言うツッコミはなしの方向で(笑))

と言うわけで、総評としていいところがあまりにも少ないので、落第にせざるを得ないだろうなぁ。



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完全な新シリーズ……だけど

2012-02-18 15:41:58 | 小説全般
さて、あ、茅田さん続いたなの第984回は、

タイトル:祝もものき事務所
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C.NOVELS(初版:'10)

であります。

「デルフィニア戦記シリーズ」「スカーレット・ウィザードシリーズ」のキャラと世界観を長らく引っ張ってきた茅田さんですが、中央公論新社からの新刊ではようやくの新シリーズです。(後は角川スニーカーの「レディ・ガンナーシリーズ」、再販の「桐原家の人々シリーズ」くらいしかありません)
舞台は日本、ジャンルは……何なんでしょうね(^^;
分類するのがとても難しい作品です。

そのストーリーは、

『椿江利は、弁護士の雉名に紹介された事務所を訪れていた。
所長の百乃喜太朗(もものき たろう)と秘書の花祥院凰華(かしょういん おうか)のふたりだけの事務所で、探偵でもない何やらよくわからない事務所だった。
だが、江利はここに一縷の望みを託して来ていた。
弟の無実を証明してもらうために。

しかし、それは難しい注文だった。
弟である黄瀬隆は殺人の罪で捕まっており、なおかつアリバイはない、凶器はある、目撃者もいる、ついでに(強要されたと隆は言うが)自白供述調書にまでサインしている。
普通の弁護士なら無実を主張するのは到底無理、減刑を焦点に裁判で争うのが賢明と考えるしかないほどの状況であった。

もともとは警察職員で、探偵でもない百乃喜は、ついでに親の遺産で食っていけるだけの財産があることもあってか、仕事に対してやる気は皆無、刑事ですらなかったため調査能力なども皆無、弱気で根性すらもなしというダメ人間。
面倒くさい仕事と断ろうと思っていたのだが、秘書の凰華に押し切られる形で江利の依頼を受けることになった。

だが、何の能力もないダメ人間の百乃喜には何から取り掛かっていいのかすらわからない。
そこで江利に百乃喜を紹介した弁護士の雉名を始め、幼馴染の舞台役者の芳猿、女顔だけどそこそこ名の知れた格闘家の犬槇、ハッカーの才能のある鬼光に協力を依頼する。
一方の百乃喜は、凰華の最大の武器である人脈をもとに、黄瀬隆が勤めていた会社の社員から隆と被害者との関係について聞き込みをする。

聞き込みである程度の事情を知った百乃喜は、寄りたいところがあるという凰華と別れ、ひとり事務所へ帰ろうとしたのだが……。
ここでも百乃喜のダメっぷりが発揮される。
百乃喜は、重度の方向音痴だったのだ。

だが、それこそが百乃喜のはた迷惑ではあるが重要な特殊能力(?)でもあった。
方向音痴を遺憾なく発揮してたどり着いた場所は、西多摩郡嶽井町。辛うじて東京都内にある田舎町だが、この場所とそこに住む人々と江利たち姉弟にとって浅からぬ縁があった。
百乃喜の特殊能力を身をもって知っている雉名たち幼馴染は、嶽井町という地名を手がかりに、隆の無実を証明するために動き出す。』

犬も歩けば棒にあたる。
百乃喜が歩けば手がかり、または証拠に当たる。

そういう小説です。(どういう小説やねん!(笑))

それはさておき、一見覆りそうにない有罪確定の被告を無罪にするために奔走する「凰華や雉名たちのお話」と言ったところでしょうか。
百乃喜ははっきり言って活躍しません。
手がかりや証拠に「偶然」ぶち当たってしまうという特殊能力(?)を除けば、本当に役立たずなのでこいつが本当に主人公なのかと疑ってしまいたくなるくらいです(笑)
実際、出番は弁護士の雉名のほうが多いので、こっちのほうが主人公なんじゃないのかというくらいです。

ストーリーは江利の依頼を発端とする古い因習に囚われた人々とそれを打破しようとする江利たちのお話の部分、隆の無実を証明するための部分のふたつに分けられるでしょう。
それらが絡み合ってストーリーが進むわけですが……。

正直、説明がだらだら続くのに辟易しました。
まぁ、無実を証明するための調査なのですから、何がどうなっているのかの説明は必要不可欠なのですが、新たに判明した事実を説明していくのをただ単に積み上げていって、ストーリーが完結してしまった、という印象が強い。
事件はすでに起きているものなので、新たに発生するわけでもなく、そのため盛り上がりに欠けるし、地道な事実の積み重ねなので派手さもないし、著者自身あとがきで書いているとおり、地味~に話が流れていきます。

非常識を書かせたら天下一品の茅田さんなので、そういった部分は相変わらずおもしろく読ませてもらいましたが、逆に言えばそういう部分以外に見るべきところがなかったり……。
茅田さんのファンならば、らしい作品とは言えるので買いでしょうが、客観的にオススメできるかどうかと言えば疑問。

と言うわけで、総評としては及第と言ったところが妥当かな。


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ベストセラー作家……だけど

2008-04-20 18:50:30 | 小説全般
さて、第965回は、

タイトル:ガールズ・ブルー
著者:あさのあつこ
出版社:ポプラ社 ポプラ文庫(初版:'08)

であります。

あさのあつこ、と言えば「バッテリー」がベストセラーになって、ドラマ化までされたり(されてるはず)と、いわゆる時のひとって感じだろうか。
だいたい、そういうベストセラー作家ってのは読まないほうなんだけど、いまいち探すのがめんどくさかったので手に取ったわけなんだけど……。

こういういい加減な選び方をしたときほど、いい作品だったりする確率は高かったり……(^_^;

ともあれ、ストーリーは。

『高校なのに、中学並みの授業をして、それでも毎年進級できない脱落者が出る、地元でも有数のダメ学校、稲野原高校に通う2年生の理穂。
夏も間近の6月、バイト先で知り合った彼氏に振られたりはしたものの、幼馴染みの美咲や如月、友人のスウちゃんたちとともに、誰かの誕生日には必ずやるゲームをしていた。

携帯を取り出し、最後まで鳴らなかったひとがその場の食事代を支払う、というゲームをしながらお喋りに花を咲かせる。
学校のレベルは低いけれど、高校生活を謳歌する少年少女たち。
優秀な兄弟、連続して起きた猫殺しの事件、夏祭り、友人たちと老いた飼い犬の染子と行った海……。

日常の中で、それぞれが様々な思いを抱えながら、けれど理穂たちは元気に、いつものように毎日を過ごしていく。』

……短っ!(笑)
と言うか、ストーリー紹介するような話じゃないよなぁ、これ。
100%、主人公の理穂と幼馴染みの友人、美咲を中心として描かれる少年少女たちの「日常」でしかないし。

とは言え、この作品、理穂や美咲、如月と言ったメインキャラたちがとても生き生きしていて、キャラもしっかりしているから、単に日常を描いているだけで大きな事件とか、出来事がないにもかかわらず、読んでいて飽きない。

解説にも理穂と美咲、このふたりの魅力のことを述べているが確かにそのとおり。(解説なんてほとんど信用しないんだけど、これは納得)
優秀だがやや不登校気味の弟の真央を持つが、ふつうの少女である理穂。
超虚弱児で生まれ、入院が定例行事になっているが、歯に衣着せぬ言動と強固な意志とプライドを持つ美咲。
また、理穂とおなじように野球でプロも注目する兄、睦月がいるがマイペースで独特のキャラを持つ如月。

それぞれがしっかりとした個性と魅力を持っていて、それが行動や言動から十二分に感じられる。
だから、「単なる日常」だけど淡々とした印象がない。
むしろその逆の印象すら受けるくらいの作品になっている。

日常の中に事件を織り込んで話を作るより、日常に徹する話を書くほうがよほど難しいと思うのだが、それをきっちりと描ききる著者の力量はすごい、としか言いようがない。
ベストセラーになった「バッテリー」のほうは知らないが、これだけのものを書けるのであれば、ベストセラー作家になるのも頷ける。

文句なし……とまでは言わないけど、読むひとを限定せずにオススメできる小説と言うのはかなり久々ではないだろうか。
様々な事件や社会の歪みを抱える現代に生きる少年少女たちの、生き生きとした日常を是非とも感じてもらいたい一品だろう。

と言うわけで、かなり久々、総評、良品。
2巻も出てるみたいだし、早速買ってくるかな。

誰かがそこに……

2008-03-10 21:33:51 | 小説全般
さて、一日遅れで申し訳ありませんな第953回は、

タイトル:暗いところで待ち合わせ
著者:乙一
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:'02)

であります。

久々に乙一読みました。
以前読んだのは……わっ、一年以上前だ。
名前だけは知っていたのですが、表紙にビビって手を出していなかったのは秘密。(爆)



視力を失った本間ミチルは、暖かい暗闇の中、いずれ訪れる静かな消滅を待っていた。
小学校以来の友人・二葉カズエと一緒に出かける以外、外との接触は皆無に等しい。
しかし、喉が渇けば水を飲むし、空腹になれば食事も摂る……何もせずじっとしていればすべては終わるのに……そんな意気地のない自分が嫌だった。

憎悪の対象だった人物が死んだにも関わらず、大石アキヒロは疲れ果てていた。
それまであった憎しみも、その原因が消えた嬉しさも、死を目の当たりにした悲しさもない。
あるのはただ虚夢だけだった……何もかもが抜け落ちてしまったと感じながら、彼は他人の家の片隅に座り続けていた。

事件のあった駅のすぐ近くにある家。
二人は互いに異なる理由で外界を避け、そこにいる。
息を潜めて存在を隠すアキヒロと、気付かない振りをするミチル……奇妙な同居生活が始まった――。



ミステリ、サスペンス、恋愛といった様々なジャンルの要素を盛り込んだ長編です。
白黒分けでいくと白乙一。『CALLING YOU』や『しあわせは子猫のかたち』と同じく、対人関係の構築が苦手で孤立しがちな主人公が、一人の異性との出会いで変わっていく様を描きます。
と、こう書くといつものパターンのように思えますが、今回は男女どちらも主人公扱いで、それぞれの境遇、心境、変化が交互に描写されており、非常に密度の高い作品に仕上がっています。

会話を交わすことなく、互いに相手のことを色々考える、という状況設定が非常に面白いです。
ミチルはアキヒロの存在を薄々感じてはいるのですが、一人暮らしということもあって、なかなか大胆な行動を取れません。
一方、アキヒロはアキヒロで警察に追われており、ミチルが自分を視認出来ないと解っていても、息を潜めてじっとしているしかない。

当然ながら、こんな状態が長続きする筈はありません。
アキヒロのミスもあって、二人ははっきりと、「ミチルはアキヒロの存在に気付いている」という認識を共有することになります。
相変わらず会話はないのだけれど、互いに相手の存在を認め、可能な限り干渉せずに時間を過ごす……ハタから見ると極めて異常な状況なのですが、相変わらず丁寧な心理描写でそういった違和感を感じさせないのはさすが乙一といったところ。

本作の白眉はやはり、ミチルが卵の殻を破壊する第三章でしょうか。
詳しいことは書けませんが、今までの静かな展開から一転、怒濤のイベントラッシュで物凄い盛り上がりを見せます。
ミチルはひたすら健気だし、アキヒロは格好良いし、さりげに、友人のカズエもいい仕事してたりと、もう満腹。
素晴らしいとしか言いようがないです、いやマヂで。

残る章では、アキヒロが逃走する原因となった事件の顛末が書かれます。
正直、ミステリとしては、「それしかないよね」という実に素直過ぎる展開で、多分ほとんどの人が序盤で予想が付いてしまうのではないかと。
じゃ、それが作品のクオリティを落としているかと言うと――さほど影響はありません。本作のメインは主役二人の再生であって、ミステリ要素なんてものは単なる枝葉に過ぎませんから。(さりげに凄いこと言ってるな、私)

久々に三重丸のオススメです。
いわゆる、乙一の『せつない系の話』が好きな方は、必読でしょう。
ちなみにホラー要素は皆無です、表紙とタイトルの割には。(笑)



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