つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

集まれ奇人ども

2005-05-31 22:20:57 | その他
さて、私自身はいたって普通の人間……の筈な第182回は、

タイトル:妖人奇人館
著者:澁澤龍彦
出版社:河出文庫

であります。

唐突ですが――。

貴方には奇人の素質があります

凄く面白味のない一般論だけど、誰しも何かしら変な部分やら嗜好があるもんです。
まぁ人間=獣ですから、食事と性欲に関しては深くツッコムとなかなか危険ですね。

世界に名だたる奇人変人についてさらっと述べてあるコラムです。
切り裂きジャックの正体を断定してみたり、ノストラダムスを絶賛してみたりと怪しい臭いがかなりしますが、世界にはこんな人もいたんだよ~、とちょっとだけ知るには悪くないかも。

ラスプーチン、切り裂きジャック、パラケルスス、サン・ジェルマンなど、ちょっと怪しい伝奇ものに出てきそうな奴等から、女装した外交官、錬金術師、カニバリズムな人々まで、色々います。笑い飛ばすのは簡単ですが、自分にも似たようなところがあるかも……と思った方、自分を一般人だと信じ込んでいる方々の眼を逃れてひっそりと生きていきましょう。(笑)

ちょいと多忙なので今日はこんなところ。
また明日をお楽しみに。
(だから私はただの一般人ですってば……あははは。)

彼女の名はトンボ

2005-05-30 00:34:18 | ファンタジー(異世界)
さて、買ってきてすぐに読み終わってしまった第181回は、

タイトル:ゲド戦記外伝
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

先々週、先週と紹介してきたゲド戦記の外伝です。
またの機会に、と言いつつ速攻で買ってきて速攻で読んでしまいました。
正伝全五巻については、第167回第168回第169回第174回第175回を御覧下さい。

アースシー世界をよく知るには打って付けの作品です。
中編集なので、一つずつ感想を述べていきます。

カワウソ……暗黒時代を駆け抜けた魔法使いカワウソの一生を描いた力作。勇士マハリオンの死後、海賊の横行する無法地帯と化したハブナー。魔法の才を持ちながらそれを隠すことを余儀なくされたカワウソは、周囲のまじない師から正義を学び、海賊に抵抗を試みるが――。三百年前のアースシー、特にロークの成立を知ることができるファンにはたまらない一品。魔法使い同士の対決、カワウソのロマンスなど見せ場も充実。

ダークローズとダイヤモンド……表題になっている二人のロマンス。ハブナーの裕福な商人ゴールデンの息子ダイヤモンドは少女ダークローズと魔法使いの間で揺れる。人生いいとこ取りとはいかないが、三つは駄目でも二ついっぺんにぐらいならいけるんじゃないか、と考えたくなるのが人のサガ。しかしダイヤモンドはローズの恋人、商人、魔法使い、楽士の四つのうち一つしか選べないと思いこんでしまう。彼のラストの選択を責めはしないが、親父のゴールデンがかなーり可哀相な気がするのは歳を食ったせいか?

地の骨……ゲドの師匠の師匠の話。そのまた師匠も話もあるし、もちろんゲドの師匠もめいっぱい登場する。空に向かって「師匠ぉ~っ!」と叫ぶ(大嘘)ゲドの師匠に沈黙の師匠の威厳はないが、師匠然としていない師匠の姿を見られるのはなかなか嬉しい。師匠ばかりで読むのに支障をきたしそうな解説だが、私は何回師匠と言ったでししょう? 物語としては、オジオンがゴントの地震を止めた時の話です。←真面目な解説これだけかいっ。

湿原で……ゲドが大賢人だった時のショートエピソード。つまり、時系列では二巻と三巻の間に当たる。ハブナーの北西に位置するセメル島をガリーという魔法使いが訪れる。家畜の伝染病を治しに来たという彼にはある秘密が――。なんといっても、ゲドが登場するのが良い。三巻、その他でも何かとお騒がせな呼び出しの長トリオンもちょっとだけ話に出る。物語としては、ロマンスかな、多分。

トンボ……五巻で大活躍したアイリアンの生い立ち。女人禁制の魔法聖地、比叡山ならぬローク島の現状が描かれる。カルガド生まれの様式の長とアイリアンの交流が美しい。魔女による名付け、魔法使いとの出会い、まぼろしの森での時間、最後の対決、と流れるようにストーリーは進む。アイリアンの男前っぷりが炸裂しているのでファンは必見。第五巻を読む前に読んだ方がいいかも知れないが、後から読んでも支障はない、かな。ラスの驚きはなくなってしまうだろうが。

アースシー解説……アースシー世界の解説。ページは少ないが、竜、神聖文字、歴史、魔法等、内容はかなり充実している。読むと一巻から読み直してみたくなること請け合い。

以上、非常にお得な中編集です。
発表順でいくと四巻の後、五巻の前なので、順番通りに読むとアースシーの風がもっと解りやすくなるかも知れません。私の場合五巻の後でしたが、『トンボ』以外は特に問題ないと思いました。

というわけで今度こそゲド戦記は終わり。
だよね……ル・グウィン



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思ってたのとはちと違うけど

2005-05-29 21:16:25 | 学術書/新書
さて、開設して半年までもうそろそろの第180回は、

タイトル:風の名前 風の四季
著者:半藤一利、荒川博
出版社:平凡社新書

であります。

「風」にまつわる話題を中心に、著者ふたりの対談という形の本。

対談、と言う割にはけっこう話が飛んだり、風とは関係のない話になったりと、けっこう節操がない。

基本的には、風の話題を、万葉集から始まる歌集、近現代の俳句、狂歌、都々逸、民謡、文学などを絡めながら話をつなげていく、というもの。

本のタイトルから事典ってぽい感じかと思っていたけど、違っていたのでちと残念ではあったけれど、けっこうおもしろい。

最初のほうは、対談と言っても語り口も硬いんだけど、そのうち調子が出てきたのか、読みやすくなっていく。

それにしても、風というわりには「かぜ」とか「ふう」言う名前がつかないのはけっこうあるなぁ。
「二百十日」って知らなけりゃ誰も風の名前だとは思わないだろうし。

さて、本そのものの評価としては万人向けではないだろうってのが正直なところ。

まず、短歌(和歌)と俳句が必ず入る。
このあたり、特に日本文学に少しくらい興味があるとかでないときつい。
名前や名字の成り立ちのようなものなら、ちょっとした興味で読めるかもしれないけれど、これはちょっとそういうものではないので、ある程度の基礎知識が必要なぶんだけ、敷居が高い。

また事典のような感じならば資料っぽい使い方もできるのでいいかもしれないけど、これまたそうとは言えない。

まぁ、この手の新書にはそういうところがあるとは思うけど、なかなかオススメしやすいほうではないと思う。

好きなひとにはいいとは思うんだけどね。

ふつうは読まないんだけどね

2005-05-28 21:33:28 | その他
さて、たまにはこういうのもありかなの第179回は、

タイトル:マイ・ライフ
著者:綾戸智絵
出版社:幻冬舎文庫

であります。

珍しく……と言うより、ここでエッセイを取り上げるのは初めてじゃないかなぁ。
タイトルどおり、まずエッセイは読まない。

だって、作家は物語で語ってくれればいいわけであって、いちいち言い訳のように説明してくれなくてもいい。

なので、読んだのも山田詠美の「熱血ポンちゃんが行く」しかないし。
(しかも古い(笑))

ただ、個人的にすごいこの綾戸智絵という人物が好きなので、手に取ってみた。
(山田詠美も同様の理由)

内容は自伝的なエッセイで、子供時代のことから、ジャズシンガーとしてのこと、音楽のこと、結婚、離婚のこと、息子のことなどなど、いろいろと書かれている。

そのまんまやな、綾戸さん(笑)

初めて知ったのはNHKのトップランナーと言う番組。
こてこての関西弁のおばはん、って感じで、トークがすごいおもしろかった。

なのに、番組の中であった演奏。
弾き語りで、何の曲かわからなかったけど、ただすごかった。

それから、このひとがすごい好きになったんだけど、こう読んでいると、やっぱりすごい。

とにかくポジティブ。
このひとの人生ってけっこう波瀾万丈。
癌との戦い、声帯がつぶれて声がでなくなったり、子供を連れてアメリカから帰国したり……。

なのに、とにかく前を向いて、いろいろ考えて立ち止まるなら動け! って感じ。

それはこのエッセイからも十分感じられる。
また、そのポジティブな考え方も、すごい感じられる。

いちいち内容を説明するのはやぼってもんで、とにかく読んでもらいたい。

はっきり言って、陳腐すぎて使いたくはないけど、
読むとホントに元気が出てくる。

そんなエッセイ。

綾戸さんが好きでもそうでないひとでも、このひとのキャラクター、ポジティブさは、魅力があると思う。

ちなみに、3枚目のアルバム「Life」を聞きながら、書きました(笑)

さぁ次いってみよー!

2005-05-27 21:57:30 | 小説全般
さて、次もいいかなではなくいこうと言えるのがうれしい第178回は、

タイトル:西の魔女が死んだ
著者:梨木香歩
出版社:新潮文庫

であります。

初っぱなからこういうのも何だと思いつつも、まず、文章のこと。
基本形は一人称なんだけど、この一人称、つまりそのキャラの視点で語られる形を取る、と言うことは、そのキャラの言語能力に左右されるはず、と言う思いがある。

なので、中学生に成り立ての主人公まいの一人称でありながら、その言い回しや単語はどうよ? ってくらいなところが、かなり気になった。
途中から、形式は一人称だけど、文章の書き方は三人称っぽくなって、文章的なところはさして気にならなくなってきたのでOK。

それと、区切りの最後に出てくる、「このあと、○○を知るのだった」とか、そういう下り。
よく使われるものだけど、これが個人的に好きじゃないので、ここが「うーむ……」と眉間に皺が寄る。

……と、ひとしきり個人的に欠点だと思うところを上げつらねてひとつ。

次を買ってもいい、じゃなくて「買おう」と思った作品はホントに久しぶりだ。

主人公まいは感受性が強く登校拒否になってしまい、大好きな「おばあちゃん」のもとで暮らすことになる。
そこで、外国人のおばあちゃん(実の祖母)が魔女であることを知り、おばあちゃんの教えのもと、魔女になるための訓練を積むことになる。

そんな「魔女になるための修行」みたいな中での日常の、まいの生活、心の動き、おばあちゃんとのやりとりなどなどが、とてもやさしく、穏やかな筆致で描かれている。

また、おばあちゃんの家の近くに住むゲンジさんに対する嫌悪感や自分の居場所に対する幼い愛情、おばあちゃんへの気持ち、思い、そしておばあちゃんのまいへの愛情などなど、生き生きと描かれている。

そしてラスト。
おばあちゃんとの約束。
それが果たされた瞬間。
そして、いつもの「おばあちゃん大好き」に応じる「アイ・ノウ(I Know)」

あぁ、うまいわ……。

このラストの雰囲気は読んでみてもらいたい。

そしてもうひとつ。
本編である「西の魔女が死んだ」のあとに、まいのその後を描いた「渡りの一日」という短編。

ここ最近、最高の短編と言っていいかもしれないくらい、いい。

学校へ戻ったまいと、そこで出来た友人のショウコとのふたりの一日を描いた小品。

いちばん印象に残ったのはキャラクター。
まいは「西の魔女が死んだ」から出てきているのでいいとしても、ほとんど名前しか出てこなかったと言っていいくらいのショウコ、クラスメイトの少年、少年の兄、少年の兄の恋人などなど……。

短編だから、登場する期間は短いのに、話の中での役割はもとより、キャラの性格、行動など、作品世界に自然に溶け込んでいて、日常すら感じられるほどうまく描けている。

また、クラスメイトとその兄のやりとりのおもしろさや、結局まいの予定通りになったこと、閉館間際の画廊で見た絵で涙を流すまいの姿、ショウコとのやりとりなどなど。

最初から最後まで、作品の世界にどっぷりと浸かって、その世界の空気のような感じで、それぞれの人間模様、結果的に予定通りになる不思議さ、そこに感じるまいやショウコのキャラクター……。

あー、何を言っても意味がない。

とにかくよすぎてこの感覚を説明するのは難しい。

くろにゃんこさんが経営するくろにゃんこの読書日記や、まんださんのまんだの読書日記に紹介されていた梨木さんですが、かなーり、ヒットであります。

本屋で、なんか読者とかが選んだ本の1位とかなんとか書いてあったけど、んなもんはどうでもいい。

いいものはいいっ!

短編がよかったので、次は「家守奇譚」でも買おうかと思っていたり、する。

王道、年の差カップル

2005-05-26 10:30:14 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、けっして地雷ではないぞの第177回は、

タイトル:ディア マイン(全4巻)
著者:高尾滋
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

鈴:相方へ親愛なる地雷を届けてみたいLINNでーす。

扇:だからマインの意味が違うだろーがとツッコむSENでーす。

鈴:じゃぁ、鉱山(笑)
……さておき、今週の木曜劇場は少女マンガの王道の年の差カップルの話です。
少年マンガや青年マンガの場合は、ヒロインのほうが年下ですが、少女マンガの場合は、男性キャラのほうが年下なのが横道です……いや、王道です。

扇:まぁ、男女問わず可愛い年下にメロメロ~みたいな話は受けがいいということですね。
今回は珍しくストーリー紹介からいくとしますかね。

鈴:では、主人公の咲十子(さとこ)はちょっと……じゃないような気がするくらいとろくて、かなりぽやっとした女性で、働く母を助けて主婦する高校生。
そこへ、ある日突然、大金持ちで社長で10歳の許婚・風茉(ふうま)が現れ、そのお屋敷で同居する……と言うところから始まり、お定まりのいざこざを乗り越えて、ハッピーエンドへまっしぐらなお話であります。

以上!

扇:早いな、オイ!

鈴:いや、ここで書いたらネタバレになっちまうからねぇ。

扇:そうさねぇ、かなーり素直な話なので粗筋書くと全部バレる。(笑)
ってことは結局、今回もキャラ紹介……。
半年前に、究極の書評ブログを作ると夏の海に誓ったあの心意気を忘れたかぁ!

鈴:は?
冬の凍った湖に誓ったから、速攻で滑りまくってどっかへ行っていまったんじゃなかったっけか?(笑)
さておき、主人公の咲十子。ぼんやりでとろい……とはもう書いたけど、結局生活無能力者の母親のおかげで苦労したぶん、けっこう計算高いほうかも。

扇:とにかくよく泣きます。なんか少年漫画のヒロインみたい(笑)。
父親の形見を落として泣き、母親のアホっぷりに泣き、七歳下の婚約者にうすらボケと言われて泣き……と、毎話泣いてる主人公。
基本的に流され型の子ですが、いざとゆー時になけなしの勇気を出すところはなかなか凛々しい。妙なところで頑固だったりもするので、ひょっとしたら父親似なのかも。

鈴:かもしれんな。
では、次に咲十子の婚約者の風茉。天才、金持ち、でも子供っぽく寂しがり屋で咲十子にべた惚れな少年。
口が悪いが、純情なところがおそらく世の女性たちの萌え心を鷲掴みなのだろう。

扇:十歳で寝不足と神経性胃炎を抱え、スーツを着こなすお子様。
子供らしく楽しむということを自前で封印しているため、高校生にしては異様に子供臭い咲十子にイライラをつのらせる。しかしそれも愛ゆえ。(笑)
この手の年の差カップルの例にもれず、矯正不可能なほどのマザコンである。

鈴:あとは……母親だったり、おつきのおっさんorお兄さんだったりするけど、基本的にこの話はふたりだけの話だから、他のキャラって添え物なんだよなぁ。

扇:基本的に、二人の関係をつないだり、かき回したりするのが役目だから仕方ないな。主人の婚約者のとこに間男しに来る小鉄さんとか、ある意味咲十子の影である風茉のおばさんとか、好きなキャラはいるんだけどね。

鈴:まぁでも、そのあたりは結局脇役で、でも、うまい具合に目立たないようには描いてるとは思うけどね。
なんのかんの言っても咲十子と風茉のふたりのラブコメだし。

扇:二人の相思相愛っぷりに引かなければ楽しい……と思う。
個人的にはこの二人、結構好きなコンビです。
つーか、十歳の子供に「人間はっ人間はなぁっ、多細胞動物なんだよっ。お前の脳はおサルの脳だっ」とか言われる咲十子って……(笑)。

鈴:私もこのふたりは好きかなぁ。
絵柄も関係するとは思うけど、べたべたな感じはあんまりしないし、かわいいふたりの恋愛物語、みたいな感じで見ると、それなりにほっとするような話にはなってると思う。
べたべただと、どうしても固まりきらない接着剤みたいな感じがするからなぁ。耐えられないことはないけど~(笑)

扇:お金持ちと庶民のギャップとか、年の差の弊害とか、職持ちと学生の立場の違いとか、色々と障害は発生しますが、基本的にうまいこと切り抜けていくので、ハッピーエンドが好きな人には向いてると思います。つか、ハッピーエンド嫌いな私にしては珍しいな……。

鈴:……うん、そうだろうな(爆)
嫌い、と言うより、ホントに嫌いなひとはそうそういないとは思うので、そう言う意味では万人受けするようなタイプの話かもしれない。
さて、ではそろそろ字数の関係もあるのでそろそろこの辺で。
さよ~なら~

扇:素直に納得するな。(怒)
絵も可愛らしいし、安心して読めます。よろしければどうぞ。
では、次週もまたこの時間にお会いしましょう。さよーならー。


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狙われたフールズ

2005-05-25 14:51:58 | SF(海外)
さて、以前の記事を読み返すのが怖い第176回は、

タイトル:銀河おさわがせパラダイス
著者:ロバート・アスプリン
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

第25回で紹介した『銀河おさわがせ中隊』の続編です。
前作で宇宙軍一のおちこぼれ集団『オメガ中隊』を立ち直らせたウィラード・フール君が、再び底知れぬ悪知恵と有り余るお金を使って大活躍します。

プリッツクリーク大将には目の上のコブがあった。
言うまでもなく、あのオメガ中隊を率いるジェスター大尉(偽名)である。
ごろつきどもをてなずけて、のうのうと惑星ハスキンに居座る若き大金持ち。
軍規違反を犯したにも関わらずいけしゃあしゃあと自分の正当性を主張し、軍法会議を切り抜けたばかりか、勲章まで勝ち取ったあのウィラード・フールである!

フールに好意的なバトルアックス大佐が休暇に出たのが運のつき。
大将はこれ幸いとばかりにオメガ中隊を自分の直属に配置換えした。
異常な熱意を持って彼は難題を探し、それをオメガ中隊に押しつける。
一見気楽に見えるカジノの警備任務、だがその背後にはマフィアが絡んでいた。
我らがフールズの運命やいかに!

というわけで、銀河を部隊にしたポリス・アカデミー第二弾。
前作で登場した個性豊かな面々が所狭しと大暴れします。
迎え撃つはマフィアの女ボスマクシーンとその頭脳ラヴェルナ。

この作者、とにかく会話が上手です。
経営、人事、陰謀、小難しくなりがちな話も軽妙な会話でさらっと読めてしまう。
映画化してくれないかぁ、フール君のキャスティングがかなり難しそうだけど。

オープン間近のカジノはマフィアに乗っ取られてしまうのか?
それとも、前作と同じくフール君の一人勝ちで終わるのか?
スポ根から一転、コメディタッチのスパイ物となった本作。前にも増して楽しく読めます。個人的にはシリーズ最高。

ちなみにこの後もシリーズは続きますが、私はここで読むのをやめることをオススメします。三巻以降共作になって、ノリが悪くなってしまった気がするので……。



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姫の名はセセラク

2005-05-24 23:03:37 | ファンタジー(異世界)
さて、一応最後な第175回は、

タイトル:アースシーの風――ゲド戦記V
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

ついに、ゲド戦記最終巻です。
ゲドの次世代の者達の戦いが描かれます。
前四巻については、第167回第168回第169回第174回を御覧下さい。

ハブナーに王が立って十五年。
表面上、世界は平和を保っていました。
しかし、眼に見えぬ浸食は少しずつその勢力を拡大しつつあったのです。

ある日、ル・アルビで余生を過ごすゲドの元をハンノキと名乗る男が訪れます。
彼は妻の死後、幾度となく夢に見る死の世界のビジョンに悩まされていました。
ゲドはその話に耳を傾け、ハブナーに座す王のもとへ彼を送り出します。

ハンノキがハブナーを訪れた時、王もまた別の悩みを抱えていました。
東方を支配するカルガド帝国が、和平の条件として王族の姫君を送ってきたのです。
彼はカルガド出身のテナーの知恵を求め、彼女を王宮に招いていました。

悪夢を抱え、かつてゲドが見た死の世界を語るハンノキ。
未だ大賢人を選出できぬロークの賢人達、及び魔法使い。
テナーの娘であり、偉大なる種族の末裔でもあるテルー。
竜の代表として女性の姿でハブナーに降り立つアイリアン。
人種は違えど、少しずつ互いに歩み寄っていく王と姫君。
彼らが集結する時、アースシーに新たな風が吹く……。

前作から一転、非常に派手な話になっています。
色々と語ることはありますが、何よりまずこれだけは言っておきましょう。

祝、ゲド復活!

前巻でドン底まで落っこちて醜態をさらした彼ですが、歳も七十歳になり、今や立派な山羊飼いのおじーちゃんとして威厳を取り戻してます。訪れたハンノキに語りかける姿はまさしく大賢人! 魔法は使えませんが、年の功は伊達じゃありません。前作で、こんなゲドは嫌じゃ~、と叫んだ人もこれなら納得できる筈。もっとも人生山谷ですから、前巻の人間臭いゲドも非常に好きですけどね。

で、話を戻して最終巻です。
主役は……実は誰とも言えません。
ゲドは最初と最後しか出ませんが、深く考えるといいとこ取りかも。
ハンノキの視点、王の視点、テナーの視点とグルグル視点が変わるので、厳密に誰が主役とは言えない作品です。その分群像劇として見応えがあり、それぞれがいい味出してます。中でも異彩を放っているのが新キャラのアイリアン。竜の姿で颯爽と現れたかと思いきや、女性に変化して人間に向かって言いたい放題、謎めいた竜のイメージを吹っ飛ばす格好いいキャラです。

一方ストーリーですが、これでもかというぐらい謎解きの嵐が吹き荒れます。

カルガド帝国ってどんなとこ?
アースシーの竜ってどんな存在?
ロークが定めた魔法の根幹とは?
その昔、竜と人間との間に何があった?

ゲドに関わった人々の心のぶつけ合いの中で、未消化になっていた謎が次々と明かされていく展開は非常にテンポ良く、ラストまで一気に読めました。つか、ル・グウィン……貴方いくつですか?(1929年生まれで、これ書いたのが2001年)

他にも、さりげなーく三巻で出てきたチョイ役の話があったり、テナーがアチュアン時代を振り返る話があったりとサービス満点です。少なくとも、四巻まで読んできたなら絶対オススメ、読むべし読むべし。

というわけで、ゲド戦記はこれにて終了です。
実を言うと外伝があったりするのですが、そちらは未読なのでまたの機会に。

ちょっと蛇足。
前期三部作と比較して何かと賛否両論な四、五巻ですが、個人的にはこれも立派にゲド戦記だと思っています。I・III・Vが世界を巡るマクロな戦い、II・IVが個人を対象としたミクロな戦いを描いているという点で、上手くバランスを取っていると思います。



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娘の名はテルー

2005-05-23 22:00:12 | ファンタジー(異世界)
さて、最後の書と言いつつ最後じゃない第174回は、

タイトル:帰還――ゲド戦記最後の書
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

先週に引き続き、ゲド戦記の紹介です。
巻数的には第四巻に当たります。
前三巻については、第167回第168回第169回を御覧下さい。

ゴハという女がいる。
夫を失い、息子と娘が家を出た後も一人でかしの木農園に住むよそ人である。

テルーという娘がいる。
心なき者達に強姦され右の顔と腕を焼かれながらも、彼女は生きることを選ぶ。

ハイタカという男がいる。
死との戦いで魔法の力を失った時、彼はすべてに背を向けて逃走を開始する。

三人に人並み外れた力はない。
だが、自由を維持するという最も困難な闘いに挑まなくてはならない。

権力、我欲、妄執、様々なものを抱えた者達が三人を包み、翻弄していく。
すがるものは既に失われ、過ぎた時間は過酷な現実を浮き彫りにするばかり。
そして、悪意がその重囲を狭めていき、ついに――。

暗っ!

とか言ってはいけない。
重い話なのは確かです、地味さで行くとシリーズトップ。
しかし屁理屈抜きにして、現実を描いた大人のための物語です。

主役はかつてゲドとともに闇からの脱出を果たしたテナー。
ゲドの師オジオンに魔法か現実かの選択を与えられた時、彼女は後者を選びました。
女だけの世界から男女が共存する世界に飛び出した彼女は、そこに厳然と存在する男性的権威に憤りを覚えつつ、二十五年の時を過ごします。

ファンタジーの象徴とも言える魔法を捨て、日常に身を置いたテナーの視点は非常にハードです。そこには謎めいた神秘のヴェールも、哲学的な知のカーテンもありません、徹底したリアリズムのみがあります。その意味では、前巻までと本巻は完全にベクトルが違います。

ただし、ここで引いてはいけない。
どんな世界にも時間の流れがあり、現実があります。
華々しい物語だけが人生のすべてではないのは物語の主人公も同じなのです。

子供時代に読んで欲しいとは言いません。
ゲドやテナーのように世界を知り、現実を知った時に読んでみて下さい。必ず何か得るものがあります。

というわけで今回はこれまで。
ちなみに、副題が最後の書となっていますが五巻目があります。
それについてはまた明日。

P・S
真面目なことを書いたら頭がぐるぐる巻きになりそうになったので、ちょっとだけ不真面目な話をします。題してゲド戦記刑事物化計画。
第一巻が自分が逃がした犯人を追う新米刑事、第二巻が他国に潜入捜査を行う警部補、第三巻がなぜか現場に出てくる警視総監、んで本巻は定年で仕事をやめた後、昔捕まえた犯人の影に怯える元刑事……どうでしょう?
単なる思いつきなので深く考えないで下さい、何となく難解な物語が解りやすくなるような気がしただけです。(なんで刑事物やねんというツッコミは不許可っ!)



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日本語もの第2弾

2005-05-22 15:37:15 | 学術書/新書
さて、まだたぶん引かれないくらいの趣味の話をしているの第173回は、

タイトル:名字と日本人 ~先祖からのメッセージ
著者:武光誠
出版社:文春文庫

であります。

20日のはいろんな名前に関する話題の本だったけど、こちらは完全に名字のみの本。

読みやすさは「名前のおもしろ事典」のほうが読みやすい。

この本はどちらかと言うと論文に近いような印象。
日本の名字が鎌倉幕府の武家支配によって作られたとする視点から名字の歴史を説明する、と言う前書きの言葉どおりなんだけど……。

けっこう読みづらい。
いちおう構成上は概略から始まって時代ごとの説明で、最初はいいんだけど、時代が下るに従って、その前の時代の話題と絡めている関係上、時代感覚があやふやになりがち。

当然、名字の歴史を説明すると言う性質上、どうしようもないことなんだけど、読んでるほうにとっては引っかかりを憶えて、確認し直すのが頻繁にあるので、気軽に読む、と言う感じではない。

ただ、最後に出てくる名字のルーツを探す先祖探しのところはおもしろかった。

私の名字は読み方はありふれているけれど、漢字のほうがめずらしいので、こういうのには興味があった。

しかし、えらいめんどくさそー……(笑)

職場の関係で、いわゆる相続図の書き方は知っているし、いまの戸籍から、いわゆる壬申戸籍まで読み方を知ってるから、ここまでは比較的簡単にたどれるはず。

その前がなぁ……。
いわゆる過去帳からどんどん遡っていくことになるらしいので、ここからがきついだろうなぁ。

でも、時間があれば一度はやってみたいかもしれない。