つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

いちおうミステリだけど……

2012-09-25 19:28:40 | ミステリ
さて、フレに紹介してもらったのよの第1026回は、

タイトル:カナリヤは眠れない
著者:近藤史恵
出版社:祥伝社 祥伝社文庫(初版:'99)

であります。

探偵役の整体師がかっこいいのだそうです(笑)
薦めてくれたフレの言葉ですが、どんなふうにかっこいいのか、けっこう興味津々で読んでみましたが、さてどうなることやら……。

ストーリーは、

『「私」はまたやってしまった。
深いブルーグレーのワンピース――九万八千円。袖を通し、試着してしまったばかりにまた高いお金を使ってしまった。
しかもそれを買うためのカードは夫が作ってくれたもの。
レストランなどをいくつも経営している夫はカードの明細書になんか目を通さない。
それをいいことに何か――それは義母の訪問によるお節介だったり――があると、つい衝動的に買ってしまう。

「私」には前科があった。
大学を出て、就職してからのことだった。地元から出て、地元のデパートの数倍もあるようなデパートでカードを作ったことが原因だった。
カードならば月々いくらで買えてしまう。垢抜けた同僚に近づこうとカードを切り、カードの払いができなくなると消費者金融に走った。
気付くと四〇〇万以上の借金を背負ってしまい、返せなくなった「私」は親に泣きつくしかなく、親も「私」を叱り飛ばしながらも土地を売ってまで借金を返してくれた。

それからは地元に戻り、小さな会社で事務の仕事をしながら平穏な暮らしをしていた。
そこへ現れたのが、今の夫だった。些細な親切がきっかけで見合いを申し込まれ、何回か付き合ってみるうちに、その優しさに触れて結婚して、些細な不満はあるものの、幸せな結婚生活を送っていると思っていた。

一方、「週間関西オリジナル」の編集部の小松崎雄大は、寝違えたらしく、首が回らないほどの痛みだったが、出社。
そこで編集長に女性の買い物についての記事を書くように命じられる。
編集部で一番若いから女友達のつてでも辿って買い物依存症のような女性を見つけてこいと編集部を追い出された雄大は、路上で一人の女性とぶつかり、寝違えた首とも相俟って激しい痛みにしゃがみ込んでしまう。
それを女性は自分のせいだと勘違いしたものの、雄大の説得で納得した女性は、雄大を自分が勤めている合田接骨院という場所に連れて行く。

そこで営業していたのは、合田力という整体師で、商売っ気のない変わり者の整体師だった。
だが、腕は確かなようでたちまちのうちに雄大を治療してしまった。
その後、合田接骨院を紹介してもらったお礼も兼ねて顔を出すうちに、ちょくちょく通うようになった雄大は、ある日、ブランド物のバッグをたくさん抱えた女生と待合室で出会う。
出張治療に出かけていると言う力を待つ間に、その女性の問診票からその女性が墨田茜という名前だと知った雄大。
そして戻ってきた力は、先に来ていたはずの雄大を後目に、後から来た茜のほうを先に診察してしまう。

その後に診察を受けた雄大は、力から茜のほうを先にしてしまった理由の一端を聞かされる……』

読後の第一印象は「ミステリの名を借りた茜の成長物語」でした。
いちおう、読了後には「あぁ、ミステリっぽいなぁ」とは思いましたが、どちらかと言うと「私」こと茜が「自分」というものに目覚める過程に力点が置かれている感じで、ミステリっぽいと言うだけで、あんまりミステリという感じは受けませんでした。
とは言え、ミステリ作家らしいので、ミステリには分類しましたが。

さて、ストーリーですが、買い物依存症にかかってしまった「私」こと茜の導入部に始まり、雑誌記者の雄大が整体師の合田力と出会う下り、そして合田接骨院を訪れた茜を診た力が見てしまった茜の病理、それを治療しようとする力と茜のやりとり、そして茜にとって自分を取り戻す契機となる少年との出会いなどを経て、唯一のミステリらしい部分である自殺を装った殺人計画と茜の成長を描いていきます。
ちょっと力と雄大の関係が何故必要だったのかに違和感を覚えますが、主眼を茜の成長として見た場合にはよく描かれた作品だと思います。
茜の成長のキーパーソンとなる少年との出会いやそれからの茜との関係などもうまく描かれていて、女性作家らしい細やかな描写は好感が持てます。

文章は女性作家にしては淡泊なほうですが、茜の心理描写などは過不足なく描かれていて情報不足に陥ることはありません。
ただ、ミステリとして見た場合にはどうでしょうか。
序盤から中盤にかけてミステリらしい文脈が見当たらないので、ミステリとして手に取る方にとっては物足りないかもしれません。
解説文には「現代病理をミステリアスに描く」とあり、確かにミステリアスな部分はありますが、あくまでミステリアスであってミステリと言うには弱いでしょう。

次いでキャラですが、キャラはしっかりしています。
変わり者の整体師である力に雑誌記者の雄大、茜と同じく現代的な病理を抱えた合田接骨院の受付を担当する美人姉妹、そして物語の中心である茜――特に茜に関しては淡泊ながらも過不足のない心理描写で成長していく過程を楽しむことができます。
ところで、薦めてくれたフレの「かっこいい」力先生ですが……どうなんでしょうね?(笑)
終盤、茜を救うために自転車こいで奔走する力の姿が描かれますが……かっこいいんでしょうかねぇ。
まぁ、キャラの好みは人それぞれだとは思いますので、こういうキャラがかっこよく見える方もいるのだとは思いますが、私はさしてそういう印象は受けませんでした。

ただ、第一印象でも触れましたが、ミステリとしてではなく、茜の成長物語として読むのであればけっこうおもしろく読める作品ではないかと思います。
ミステリを期待するとあまりオススメはしませんが、そうでなければ手に取ってみてもいいのではないでしょうか。
キャラも文章もストーリーも及第点ですが、力と雄大の関係が何故必要なのかわからないのと、ミステリとしては弱い、と言うところから総評としては良品をつけることはできないでしょう。

と言うわけで、総評、及第。
でもジャンルとしてはミステリに分類して人は死なないし、成長物語としてはうまく描かれているので、個人的には次も読んでみようかと思います。
次が本格的なミステリになるのか、はたまた本作のような人間を描いた作品になるのか、そして力と雄大の関係性をどう説明してくれるのか、気になるところはありますのでね。


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