つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

三匹目が斬る!

2007-02-21 23:53:26 | 文学
さて、知ってる人いる? な第813回は、

タイトル:三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
著者:マーシャ・ブラウン  訳者:せた ていじ
出版社:福音館書店(初版:S40)

であります。

北欧民話をベースにした童話です。
不思議な空気を生み出す数々の擬音、少しずつ変化して期待感を煽る繰り返し表現、手加減無用の戦いを描くクライマックス等、魅力的な要素がつまった名作。
手元に原本がないので、幼少時の記憶を頼りに書きます。間違った箇所があったら……すいません。



むか~し、昔のことじゃった。
とても寒~い北の国に、山羊達の小さな村があった。
彼らは裕福ではないが、それなりに幸せに暮らしておった。

そんなある日のこと……村の若い山羊が、長老の家に走り込んできてこう叫んだ。

「て~へんだぁ! て~へんだぁ! 谷の下に鬼が住みついちまっただぁ!」

この村の山羊達は、谷の向こうにある山のてっぺんを餌場にしておった。
谷には一本だけ吊り橋がかかっており、これを渡らないと山に行くことはできない。
谷底に住みついたトロルという鬼は大きな音が嫌いで、橋を渡ろうとした山羊達をみんな喰ってしまう……若者は、そう言ってさめざめと泣いた。

「このままじゃあ、オラ達は飢え死にだぁ」

長老は慌てて村の者達を呼び集めたが、誰も良い考えが浮かばす、途方に暮れるだけじゃった。

「村を捨てるしかねぇべ……」

誰かが、ぽつりとそう言った時、ゴンゴン、と長老の家の戸を叩く音がした。
すうっと戸が開き、中に入って来たのは、村の者ではない三匹の山羊じゃった。

「話は聞かせてもらった。俺達に任せてもらおう」
「お、おめぇさん達はいったい……」
「鬼狩の大」
「謀略の中」
「泣き落としの小」
「人呼んで、三匹のがらがらどんとは俺達のことだ」
「あんた達が、あの鬼を退治してくれるって言うのかい?」
「ああ……報酬は山の上の草だけでいい」
「そりゃ~、ありがてぇこったぁ」

みんな同じ名前のがらがらどん達は、そのまま、谷へと向かったのじゃが――。



とまぁ、嘘の粗筋は置いといて……。

名前は同じ、姿は別物の三匹の山羊『がらがらどん』が、腹一杯草を食べて太るため、山のてっぺんを目指す物語です。
山に通じる吊り橋の下には、トロルという毛むくじゃらの化物が住んでおり、こいつをどうにかしないと谷を渡ることができません。
三匹はそれぞれの持ち味を発揮して、一匹ずつ橋を渡っていきます。

トップバッターは一番若い『がらがらどん小』。
他の二匹は、「俺達がついてるぜ」とか言いながら、一番非力な奴の背中を押します。
さすが、名前こそ同じものの兄弟でも何でもない三匹組、まずはヒエラルキーの最下層にいる奴を送り込んで様子をみようってことらしいです。(笑)

半分泣き落としのような形で、『がらがらどん小』は橋を渡ります。
「かた、こと」という可愛らしい足音に騙されたのでしょうか? 次の奴喰えばいっか~、と納得して道を通してやるトロル君……甘々ですね。
通行料として命寄こせっ! とかいう阿漕な商売やってるんだから、もっと非情にならないと生き残れないと思います。
(どっちの味方だ、私?)

二番手は、「がた、ごと」という微妙に中途半端な足音の『がらがらどん中』。
一言で言ってしまいましょう。こいつは、舌先三寸で世の中を渡っていく詐欺師です。
「俺の後に来る奴の方が美味いぜ」、とにこやかに仲間を売り飛ばし、彼は悠々と橋を渡ります。

そして……やって参りました、最凶最悪のラストバッター『がらがらどん大』。
こいつは生物兵器です。
黒い巨体、血走った目、蒸気吹き出しそうな鼻、岩でも砕けそうな馬鹿でかい角……トロルと対峙したシーンの彼の姿は、とても山羊のそれではありません。つーかもう、誰がどう見たって化物。(笑)

しかし、腹をすかせたトロル君、無謀にも化物山羊に因縁を付けます。
「おうおうおう、俺の橋をがたごと言わせやがるのは誰でぇ!」
「俺だ……お前を殺しにやってきた大がらがらどん様だ!」

台詞は微妙に変わってますが、大体こんな感じの会話の後、二人は仁義なき戦いに突入します。
結果は……当然ながら、大がらの圧勝。哀れトロル君は、肉をひきちぎられ、その屍を谷底に晒すことになります。
冗談みたいに聞こえるでしょうが、マジでヴァイオレンスな戦いでした。今のところ、童話でこれほど残酷な戦闘シーンにお目にかかったことはありません。しかも、絵でしっかり描いてあるって、をい!

殆ど記憶だけで書きましたが、話は大体それで全部です。
今から考えるとツッコミ所満載ですが、幼少時は夢中になって読んでいました。
何と言うか……トロルをぶっ殺す時のカタルシスが、子供心を捕らえて放さなかったって事なんでしょうか?
(最初から大が渡ればいいんじゃん、というツッコミは当時から入れてたような憶えがあります。スレたガキやなぁ……)

いわゆる『子供に勧めたい童話』の範疇からは、はみ出しまくってるかと思いますが、オススメです。
しかし、子供って本当に残酷話好きだよなぁ……。

年取ったよなぁ……

2006-12-01 23:28:10 | 文学
さて、しみじみと思ったりもするの第731回は、

タイトル:レキシントンの幽霊
著者:村上春樹
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H11)

であります。

ファンのひとには悪い……とも思わないが、高校、大学とこの人の作品を読んで、二度と読むかと思っていたほど嫌いな作家だったのだが、ふとしたことで読んでみることに。
いきなり長編はきついので、短編で……と言うことで、表題作を含む7作が収録された短編集。
では、例の如く、各話ごとに。

「レキシントンの幽霊」
ケンブリッジに住んでいた「僕」(著者)は、親しく付き合うようになったケイシー(仮名)が家を空けることになり、その留守番を頼まれた。
貴重なジャズのレコードを聴きながら、静かな夜を過ごしてきた留守番の初日。
夜半に目が覚めた僕は、階下でパーティをしているらしき音を聞き、その様子を窺っていたとき、そのパーティは幽霊たちがしていることに気付く。

「緑色の獣」
夫が仕事に出てから、何もすることがない「私」のもとへ、椎の木の根元から緑色の鱗に覆われた、心を読む獣が現れる。
「私」のことを好きだと言う獣に、「私」は獣を苦しめるような想像をし、そのことで同じように苦しんでいく獣を眺める。

「沈黙」
僕は、大沢さんに「これまで喧嘩をして誰かを殴ったことはありますか」と訊ねた。
それをきっかけに、大沢さんはボクシングジムに通い、習っていたことや学生時代に唯一ひとを殴ったことがあることなどを語ってくれた。

「氷男」
私は、友人に連れられて行ったスキー場で氷男に出会い、その人柄に惹かれ、ついには結婚をする。
順調な結婚生活だったが、退屈な日々……それを紛らわすために提案した夫婦での旅行で、夫となった氷男の変化を知る。

「トニー滝谷」
ジャズミュージシャンの仕事で生計を立てていた、気楽な独り身となった父のもとに生まれたトニー滝谷は、父とおなじようにイラストレーターの仕事で生計を立て、気楽な独り身を過ごしていた。
そこに現れた出版者のアルバイトの女性に恋をし、結婚することになる。

「七番目の男」
その夜、最後に話すことになった七番目の男は、幼いころ、仲のよかった年下の友達が台風の際の高潮に浚われて以来、その影をずっと引きずっていることを淡々と語り始めた。

「めくらやなぎと、眠る女」
僕はいとこの少年が病院で行く付き添いのために、一緒にバスに乗って目的の病院に向かっていた。
病院で、いとこの診察を待つ間、僕は食堂から見える庭から、高校時代の友人の彼女が入院した病院に、連れだって見舞いに行ったことを思い出す。

やはり短編を選んで正解だった、と思うのと、あれほど昔嫌っていたと言うのに、おもしろく読めた作品がいくつかあったのが意外だったなぁ。
おもしろかったのは、「緑色の獣」「沈黙」「トニー滝谷」の3作。
特に「緑色の獣」は、10ページくらいの短い作品ながら、獣を責める女性の姿と、冒頭の一文からいろんな想像が出来ておもしろかった。

「沈黙」は、ほとんどが大沢という人物の語りで占められ、読むのははっきり言ってうざいだけだが、話の内容はすとんと落ちてくれる作品だったので読後感は良好。
「トニー滝谷」も落ちてくれる作品で、「沈黙」のような語りでなかっただけ、読みやすく、2番目によかったかな。

文章は……簡潔且つ明瞭だが、描写は緻密。
しかし受ける印象はやや硬質なぶん、くどさは感じさせないのは興味深い。
ただ、「沈黙」や「七番目の男」のような独白の文章は、まったくおもしろみのない講演を聴いているみたいで、読むのに苦労するし、眠くなるしでいいところはない。
また、傍点が多用されているところもうざったい。

この気に入らない部分を除けば、このひとの文章はすごいと思うんだけどなぁ。

……しかし、○年前まではあれほど嫌いだった作家だと言うのに、読めて、しかもおもしろかったのがあったりするなんて……年取ったなぁ……と、ホントしみじみ、思うよなぁ。

河童でGO!

2006-08-13 22:55:30 | 文学
さて、またやってしまったGOシリーズの第621回は、

タイトル:李陵・山月記 ~弟子・名人伝
著者:中島敦
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

中国古典に材を取った6編の短編が収録された短編集。
例の如く、各話ごとに。

「李陵」
漢の武帝の時代、一種の将軍職にあった李陵という歴史上の人物と、史記を編纂した司馬遷のふたりの物語。
李陵についてはもとは班固と言う人物の李陵伝が原典。

内容は、僅か五千の歩兵のみを率い、北伐に向かい、少ない兵で軍功を上げるものの、最終的に匈奴に捕らえられ、帰還を望むも武帝側近の讒言にあい、一族郎党殺されるに至って匈奴の地に死した李陵。
その李陵の讒言にたてついたために、いわゆる宦官とおなじ身体にされた司馬遷が執念で史記をまとめ上げるふたりの人物の悲運を描いたもの。

「弟子」
儒教の祖、孔子の弟子である子路が孔子の弟子となり、孔子とともに旅をし、そしてひとつの国の政治家として活躍しながら悲運の死を遂げるまでの物語。
儒教は嫌いだし、孔子も嫌いだが、ここで描かれる子路と言う人物はとても明快で、愛すべき快男児として描かれていておもしろい。

「名人伝」
天下無双の弓の名人になろうと志す紀昌と言う人物が飛衛と言う人物に学び、さらに甘蠅老師という名人に学ぶ物語。
「不射之射」という極意を得たものの、晩年弓そのものを見て、その用を訊ねるに至った説話だが、これ、聞いたことがあるなぁ。

「山月記」
「人虎伝」という自らの才を驕り、ひとと交わることをしなかったために、虎となりはててしまい、住んでいた山中でかつての友人に出会ってその悲運を語る李徴と言う人物の物語。
この原典も有名。

「悟浄出世」
妖怪でありながらただ「何故」という深遠な問いに心を捕らえられた西遊記でおなじみの沙悟浄が、その答えを求めるために様々な妖怪を訊ね歩き、その果てに菩薩の声を聞き、三蔵法師の弟子になるまでの物語。

「悟浄歎異 -沙門悟浄の手記-」
これも悟浄を主役としたもので、三蔵法師の弟子となり、すでに弟子であった孫悟空、猪八戒とともに旅をする中で、悟浄が三蔵、悟空、八戒について評しているもの。

この悟浄を主人公とした2作は、原典の西遊記を読んだことがないのでわからないが、少しでも西遊記を知っているひとならば、おもしろく読めるかもしれない。

総じて、中国古典に材を取っており、中国哲学に関わることや漢詩が出てきたりするし、この著者、昭和17年に死去している関係もあって、いまの文章に慣れているとやや取っつきにくいところがある。
だが、有名ですでに知っている作品(「名人伝」「山月記」など)はいまいちだったものの、それ以外の作品については難しそうに見えるのだが、どこかはっきりとは説明できないものの、何となく理解できる感じがして、見た目よりは読みやすい。

特に、「弟子」と沙悟浄の2編はとてもおもしろく読めたし、いちおう近代文学の類に入るものであろうが、他の近代の作家よりはいま読んでも楽しめるものではないだろうか。
あまり期待はしてなかったけど、けっこう当たりかも。

星の王女さまはどこ?

2006-01-09 23:53:23 | 文学
さて、こんなに短い話とは知らなかった第405回は、

タイトル:星の王子さま
著者:サン=テグジュベリ
文庫名:集英社文庫

であります。

名前だけ知ってて読んだことのない本でした。
有名な作品だから下手なことは書けないな――
などと私が思う筈もないので
いつものように斬るべきとこはバッサリ斬ります。

飛行機の故障で砂漠に不時着してしまった男。
彼は、そこでとても不思議な子供に出会う。
その子――星の王子さまは出会い頭に言った、「すみません、ヒツジの絵を描いて」

王子さまはしつこくヒツジの絵を描くことを要求する。
男は、ヒツジを描いたことがなかった、飛行機も早く直したかった。
しかし余りにも王子さまがしつこく同じ言葉を繰り返すので、しぶしぶペンを取り出して絵を描き始めた。

王子さまは別の星から来たのだという。
それはそれはとても小さな星から……。
王子さまはゆっくりと、ここへ来るまでに出会った人々のことを話し始めた。

遠い星からやってきた王子さまと語り部である男の対話、という形を取った物語。
男はモロにサン=テグジュベリ自身ですが、実は王子さまも作者であることはすぐに解ります。
とはいえ、この王子さまのキャラクターが素晴らしい……まさに子供そのもの、しかも賢さを備えた。

王子さまは疑問を素直に口にします、答えてくれなかったら何度でも尋ねる。
王子さまは非常に前向きです、大人が切り捨てたものを楽しむことができます。
王子さまは自分の話を最優先します、口を挟まれても無視。

人の話を聞けっ!

五分だけでもいい~♪
いや、そこが子供らしくていいんですけどね。(笑)
王子さまが出会った人々にぶつける疑問も非常にそれらしいし。

とはいえ、気になる点もないではありません。
王子様と風刺化された人々の会話が非常に説教臭いのです。
作者が自分の哲学を、直接表現で書いているとしか思えない。

あと、これは翻訳の問題……多分。
最重要キャラのキツネが語る、『仲良くなる』ことが『飼い慣らす』という言葉になっていました……どうにかしてくれ、酷い表現だ。
もっともキツネとの会話をよく読んでみると、男性至上主義の臭いがちらほらしてるので、この訳語も間違いではないのかも知れませんけど。

総評としては微妙、子供の頃に読んでいたら印象変わってた、とは思いますが。
童話、ではなく、哲学書に近いかも、あとは好みの問題ですね。

あ、最後に。
王子さまが旅立つきっかけとなった一本のバラの花――
物凄くいい女
です、これが最大の収穫かも。

ちょっと、振り向いて、見ただけの……♪

2005-09-19 09:37:38 | 文学
さて、水と氷の魔術師ではない第293回は、

タイトル:異邦人
著者:カミュ
文庫名:新潮文庫

であります。

カミュと来れば異邦人とまで言われる、彼の代表作。
文章はちとくどいですが、短いのでさらっと読めます。

ムルソーの母が死んだ。
しかし、彼は悲しみの表情を浮かべたりはしない。
彼女を愛していたのは事実、死んだのも事実、ただそれだけのこと。

翌日、ムルソーは女と戯れていた。
その後、彼女は彼に自分を愛しているかと尋ねる。
彼はよく解らなかったので正直に答えた、恐らく愛していない。

ムルソーは人を殺めた。
燃え上がる大気に包まれた浜辺の沈黙を、銃弾で破壊した。
その瞬間、彼は幸福だった……たとえ、裁かれることになろうとも。

ムルソーはいわゆる快楽殺人者ではありません。
薬物により幻覚症状に陥ってるわけでもありません。
ただひたすらに正直なのです、それを異常と呼ぶのかも知れませんが。

弁護士はムルソーの精神に異常を感じ、それを嫌悪する。
判事はムルソーに神を否定され、激高して吠える。
検事はムルソーが母の死に無関心だったことを責め、勝ち誇る。

自らを正常であると信じる人々によって、ムルソーは断罪されます。
彼らにとって、ムルソーは許されざる異分子であり、異邦人なのです。
殺人罪を問う裁判が、魔女狩りの異端審問と化すのは……怖い。

一歩引いて考えれば、ムルソーの犯した殺人は正当防衛です。
問題は、彼の態度が周囲の人々の常識の範囲内になかったこと。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、解らないものは語らない。
そんな彼は『白痴』のムイシュキン公爵を彷彿とさせます。

短い作品ですが、時間の合間ではなく、腰を据えて一気に読むのが吉。
ムルソーを狂人と取るか、別のものと取るか、それは貴方次第です。

階段

2005-06-22 22:10:33 | 文学
さて、和名の方が有名だよなと思いつつ第204回は、

タイトル:怪談
著者:ラフカディオ・ハーン
文庫名:岩波文庫

であります。

小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの短編集。
『耳なし芳一のはなし』『むじな』等、二十編を収録。
全編書く気力はないので、気に入った短編の感想を書きます。

『耳なし芳一のはなし』……誰もが知ってる怪談話。芳一の耳を奪った怨霊の人間臭い台詞が面白い。もっとも、やってることはまさに化性の者のそれなのだが。

『おしどり』……たった3頁で起承転結を描ききっている非常に完成度の高い短編。最後にギョッとさせて終わりじゃないのが良い。

『かけひき』……首を斬るなら呪ってやるとのたまう科人と、やれるものならやってみろと豪語する屋敷の主人の対決。さらっとしたオチが上手い。

『鏡と鐘』……読者に結末を委ねるリドル・ストーリー。最後の一文にくすっとしてしまうのは私だけではあるまい。さて、貴方はどう思いますか?

『むじな』……ヒトケタ台の時に読んで本気で怖がってました、これ。ラストのオチと台詞は余りにも有名。そういや、怪人二十面相も同じようなことやってたなぁ。

『ろくろ首』……ろくろ首って、首を伸ばして行灯の油を舐める女怪じゃなかったっけ? この話だとちょっと違ってます、なぜだろう?

『雪おんな』……言っちゃ駄目、に限らず、禁忌を破るのは物語の永遠の定番ですね。しかし雪おんな、結構いい人だ。

以上、非常に味のある短編が揃っています。
短編好きなら、かなーりオススメ。

書け、書くんだエバ!

2005-06-14 20:46:08 | 文学
さて、久々の強敵だった第196回は、

タイトル:エバ・ルーナ
著者:イサベル・アジェンデ
出版社:国書刊行会

であります。

以前紹介した『エバ・ルーナのお話』の姉妹編、というか本編。
他者に翻弄されつつ、物語を作ることに目覚めていくエバの姿を描いています。

彼女の名はエバ・ルーナ。
エバは生命、ルーナは月を意味する。

インディオの父はエバが生まれる前に立ち去った、その行方は誰も知らない。
孤児だった母はエバが六歳の時に死んだ、料理女が彼女を引き取った。

エバは女中として様々な家に仕えるが、諸事情で長続きしない。
耐えきれなくなったある日、彼女はたった一人で町へと飛び出す。

エバの才はたった一つ、物語を紡ぎ出すことだけ。
しかしそれが、彼女と人々をつなぐ唯一の絆だった。

独裁者に支配された国でエバは生きる。
あたかも、その名を象徴するかのように……。

主人公エバ・ルーナは不思議なキャラクターです。
彼女は安住の地に着くまであっちこっちを転々としますが、陰鬱さがまるでない。
かといって、何があってもどうにかなるさと達観している楽天家でもありません。

彼女は夢想家です。
一つの言葉から、一枚の絵から、一人の人物から発想を得て、物語を構築します。
そして、それを語って聞かせることをコミュニケーションの手段としている。

もちろん、彼女の物語が心に届かない人々も多数います。
言葉によって作られた関係が物理的なもので破壊されることも多々あります。
自然、彼女はそれから逃げること、立ち向かうことの両方を覚えていきます。
中盤で非常に親切な人(私のお気に入り)に拾われるのですが、その時も、「嫌だったら一ヶ月で逃げます」と言い切ったりしている。

空想家で反骨心の塊という不思議な人物、エバ・ルーナ。
そんな彼女を取り巻く環境はリアリズムに満ちています。
感情に流されやすい彼女を支える人々の言葉は非常に重く、現実的です。

人物および政情不安な国の描写が見事で、物語をがっしりと支えています。
ただし、日本人の肌には合わないかも……ピンとこない人は多分沢山いる。

ステレオタイプなキャラクターに食傷気味な方にオススメ。
サブキャラおよびそれにまつわる話が非常に多彩で、読ませます。
カメラマン、移民者、娼婦、軍人、政治家、ゲリラ、両性具有の天使(笑)等々、主人公であるエバを忘れてしまうぐらいバリエーションがあります。
いったい何人ストックしてるんだか……。

ハードカバー、字ぎっしり、入手困難となかなか手強い相手。
読む場合は気合い入れましょう、半端な気持ちだと挫折します。

ちなみに『エバ・ルーナの物語』、先に読んで正解でした、私は。
読み進めていく過程で、聞いたことのある名前や地名がちらほら出てくるのが楽しかったので(笑)。

おお、ナースチェンカ!

2005-06-13 23:01:40 | 文学
さて、短いので速攻で読めたの第195回は、

タイトル:白夜
著者:ドストエフスキー
文庫名:角川文庫

であります。

ドストエフスキーにしては珍しい、100頁ちょっとの短編です。
副題に感傷的ロマンとある通り、トルストイも真っ青のロマンス。

主人公はインテリで夢想家の青年。
ヒロインは祖母に束縛された少女ナースチェンカ。
夜のペテルブルク、運河の欄干に身をもたせかけて泣くナースチェンカを主人公が見た時、ドラマは開幕する。

浪漫ですよ、はい。 

全編、主人公の一人称で書かれており、妄想が炸裂してます。
特に序盤、主人公が自分のことを解説するくだりが凄い。
彼にとって毎日見かける人はすべて知人であり、馴染みの建物は友人なのです!
ネジが数本飛んでると言うか……妄想癖もここまで来ると立派なものだ。

ナースチェンカは彼が自分から接触を試みた初めての女性です。
しかし、欄干で泣いているところでは声をかけられない。
彼女が暴漢にからまれているところを助け、初めて話ができる。
このシチュエーションもまた永遠のロマンですね(笑)。

毎夜、彼女と出会い言葉を交わす時間は彼にとって至福の時。
二人の出会いはまぎれもなく現実です、互いの想いは違えど。
しかし、共有している世界は夢の延長でしかありません。
すべては白夜が見せた幻、脆くはかなく消えるさだめなのです。

以前紹介した『白痴』や『罪と罰』などの大作とはかなり趣が違うので注意。
ドストエフスキーをもっと知りたい方は必読。
必ずや、彼の別の面が見えてくることでしょう。

短いですが、今日はこのへんで……。

恋は遠い日の花火ではない

2005-05-09 12:29:34 | 文学
さて、スカーレットの続きは四日後な第160回は、

タイトル:エバ・ルーナのお話
著者:イサベル・アジェンデ
出版社:国書刊行会

であります。

まず最初に断っておくと、本書は同じ作者の『エバ・ルーナ』の姉妹編です。
登場人物、物語、場所等に共通点が存在する……らしい。(笑)
しかし、ひねくれ者の私はこっちを先に読みました。初めて読む作家はまず短編集から拾うというポリシーを守っただけですが、果たしてこれが当たっていたか間違っていたかは、『エバ・ルーナ』を読んでから考えることにします。

ベネズエラに生きる人々の様々な愛の物語を集めた短編集です。
全二十三編を収録。一編の密度がとんでもなく濃いのでかなりの強敵と言えます。
全部紹介するととんでもないことになるので、気に入った作品をいくつか紹介します。

『二つの言葉』……一番のお気に入り。言葉を売って生計を立てている暁のベリーサのキャラが素晴らしい。彼女は大統領になることを望む軍人に選挙用の演説を売るのだが、同時にある魔法をかけた。時間とともにそれは、軍人の心を支配していく。魔法と言ったが、ファンタジーにあるような超常現象を起こすようなものではなく、たった二つの言葉というのがいい。かける際の描写も秀逸。

『心に触れる音楽』……ヤクザのボスの息子アマデオはとある村で出会った少女オルテンシアとつかの間の逢瀬を楽しんだ後、すっかりそのことを忘れてしまった。その後、140キロの道を歩いて会いに来たオルテンシアの処遇に困ったアマデオは、彼女を地下に隠す。一見、アマデオの方が立場が上に見えるが、実はこの二人の関係はイーブンである。閉じこめられたのは少女か、それとも男の方か?

『恋人への贈り物』……母に捨てられたトラウマのため本気で女性を愛せない男が、人妻に本気で惚れてしまうというコメディタッチの話。悩む主人公に祖父が与えたアドバイスが素晴らしい。つーか、お爺さんいくつになってもいい男ですな。

『トスカ』……夢見る女性マウリツィアの一生。ピアノ奏者を捨てて歌手を目指すも、途中で断念して平凡な主婦を選び、同じように夢見る学生と恋に落ちて旅に出てしまう。彼女の一生は夢と演技であったが、クライマックスでその二つに背を向け、現実を見ることを知る。ギリギリの瞬間まで夢を捨て切れていないところはいかにも彼女らしいが、最後に取った行動は見事だった。

『小さなハイデルベルグ』……ダンス・ホールで四十年間ペアを組んで踊ってきたにも関わらず、互いに一度も口を聞いたことのない船長とラ・ニーニャ・エロイーサ。船長の母国から来た親切な観光客が小さなハイデルベルグの扉を叩いた時、事態は大きく動き始める。傲慢に見えて、深い優しさを内に秘めたメキシコ女のキャラが良い。

『判事の妻』……いずれ女のために命を落とすと言われた荒くれ者ニコラス・ビダルと慎ましき判事の妻カシルダのロマンス。冒頭で予言が成就することが示されており、ラストまで破綻なく読ませてくれる。ところで産婆さん、いくらニコラスの運命が見えたからって、生まれた瞬間にそれを口にするのはひどくないですか?

『ある復讐』……復讐者ドゥルセ・ローサと彼女の家族を皆殺しにしたタデオ・セスペーデスの物語。憎悪と愛が表裏一体であることを示す、本書中、最も激しい話。プロット自体は目新しいものではないが、ラストの締め方が完璧なので気にならない。

とりあえず、ここでストップ。
基本的に大人の愛の物語なので、苦手な人は苦手かも。
物語の構成、描写の上手さは特筆に値します。
問題があるとすれば、手に入りにくいことか。(笑)

後は『エバ・ルーナ』が手に入るかどうかだな……。

羅生門へGO!

2005-05-04 21:27:17 | 文学
さて、特務作業と未読の本の間で揺れる第155回は、

タイトル:芥川龍之介集(日本文学全集16)
著者:芥川龍之介
出版社:河出書房

であります。

私は日本文学が苦手です、人に勧めることもしません。
鴎外と一葉は個人的に好き。あれは何というか……素敵なのです。でも他はいいや。
山嵐と一緒に喧嘩しかける奴も下田の海で美少女に惚れる奴もカップルに写真撮ってくれと言われて空撮る奴もいりません。ましてや書生に片思いして布団に顔突っ込んで泣く奴など蹴り倒したくなります。

ただし、これだけは言っておこう。

芥川は凄ェ!

私の中で彼は別格なのです。
その短編の切れといったらもう……文学論なんて戯言にしか聞こえなくなりますね。

本書はそんな芥川の作品を集めたハードカバーの強敵です。
全四十三編、かなり手強いので図書館で借りてきてじっくり読むのが吉。
全部書くと凄いことになるので、好きな作品をちょこっとだけ紹介します。

『戯作三昧』……南総里見八犬伝の作者である曲亭馬琴を主人公にした話。物書きにとってはなかなか耳の痛い話がぽろぽろと出てくる。最後に姑のお百がもらす台詞が強烈。

『蜘蛛の糸』……とっても有名な話。子供時分、偉そうな御釈迦様に対して怒りを覚えた。後にこれのパロディ版を読んで御釈迦様が地獄に堕ちる様を見て大笑いしたのは秘密である。ちなみに、この話自体もドストエフスキーの話の書き換えだったりする。

『地獄変』……映画にもなったこれまた有名な話。個人的には語り口調ではなく、三人称で書いて欲しかったところだが、ま、それは私の我が儘か。底が見えない大殿様のキャラが良い。

『老いたる素戔嗚尊』……素戔嗚は櫛名田姫の面影を残す娘――須世理姫をそれは大層愛していた。しかし彼女も成長し、ついに父の元から旅立とうとする。素戔嗚は何とかして相手の男を始末しようとするが(以下略)。一番好きな話。親父イズム全開の素戔嗚が素敵である。最後の台詞の迫力が凄まじい。

『アグニの神』……童話(?)。香港の日本領事の娘である妙子が何者かにさらわれた。書生の遠藤は彼女を捜して上海に赴き、ある占い師と対峙する。ちょっと深読みすると、実は妙子が一番恐いんじゃないか、と思える話。

『侏儒の言葉』……世の様々な物事に関する芥川のおしゃべり。とにかく皮肉満載で、拾い読みするだけでも楽しい。接吻するときに目を閉じるべきか開けるべきかと問う女学生と、教課の中に恋愛の礼法がないのは遺憾だと述べる芥川が可愛い。

まだまだ書き足りないけど、今日はこのへんで終わります。
芥川評はまたやるかも……。(笑)


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