つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

資料のつもりだったんだけど

2012-03-24 15:32:02 | 学術書/新書
さて、小説ではないよの第998回は、

タイトル:源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり
著者:山本淳子
出版社:朝日新聞出版 朝日選書(初版:'07)

であります。

Amazonで本を探すと中身がわからない、ってのが欠点だよなぁ。
資料のつもりで買ってみた本書。資料としてははっきり言って役立たずでしたが……。

構成は、

『「序章 一条朝の幕開け」
一条天皇の先帝、花山天皇の退位とそれにまつわる策謀を中心に描く。

「第一章 清涼殿の春」
若くして即位した一条天皇と、その一条天皇に最初に入内した定子との生活を中心に、出仕したばかりの清少納言や定子の兄伊周などの中関白家の面々を加えた生活、一条天皇の政治への思いを垣間見せる章段。

「第二章 政変と悲劇」
時の権力者で関白の藤原道隆が病で死亡したあとの権力争い――伊周と道長との確執の中、発生した花山院と中関白家の次男隆家とが起こした事件から始まる中関白家の没落を基本に、義兄である伊周を断罪せざるを得なかった一条天皇の苦悩、出家してしまった定子の姿を描く。
また、「枕草子」の執筆の契機となった清少納言の心にも触れる。

「第三章 家族再建」
髪を下ろし、出家してしまった定子を一条天皇が連れ戻し、復縁することを描く章段。

「第四章 男子誕生」
定子の出産――敦康親王の誕生と、道長の娘彰子入内にまつわる章段。力をつけつつある道長に迎合して第一皇子誕生にもわびしさの漂う定子近辺の様子を「枕草子」などから引用し、描写。

「第五章 草葉の露」
定子の三度目の出産とその死を中心に、一条天皇の彰子との幼い関係やその苦悩などを描く章段。

「第六章 敦成誕生」
ここからは定子中心から彰子中心へと描写がシフトする。紫式部が夫を亡くし、彰子に出仕する話や彰子サロンでの紫式部の立ち位置、彰子サロンの特徴などが描かれる。
また、章題にあるように彰子が皇子である敦成親王を出産するまでを「紫式部日記」などから描いていく。

「第七章 源氏物語」
道長という後見人を持つ敦成親王の晴れ晴れしい誕生からの儀式の軌跡と、道長、彰子の後援を受けて「源氏物語」が書物として成立していく様を描く章段。

「終章 一条の死」
一条天皇が死の病にかかったころから、皇太子問題などを経て、おとなしくただ父道長の言うがままだった彰子が自らを変えていく姿を描く。』

ほんとうに資料としてはまったく役に立ちませんでした(笑)
でも、読み物としてはとても興味深く、古典に慣れ親しんでいる私から見ても、新たな視点や発見があってけっこうおもしろかったです。

小説ではないので主人公と言うにはふさわしくないかもしれませんが、本書の中心をなすのは一条天皇とその后である定子と彰子。
「この世をば……」で有名な藤原道長の影に隠れて存在感の薄い一条天皇ですが、在位25年に渡る長期政権下で、どのように政治を執り行ったのか、また貴族たちの白眼視が免れない中で行った定子への復縁とその愛情など、実は賢帝として長く治世を敷いた姿が見事に描写されています。

定子の側では定子サロンの特徴や、「枕草子」や「栄花物語」から窺える政治に翻弄される姿、一条天皇との関係などが描かれ、彰子の側でも、サロンの特徴や定子サロンとの違い、幾代もの天皇を見守り87歳まで生きた彰子の成長の記録が描かれている。

個人的には「枕草子」は読んでますし、定子のほうにはさほど目新しいものを感じませんでしたが、彰子の側については特に興味深く読めました。
両サロンの違いはもとより、彰子が自らの子を差し置いて、兄弟順であることを理由に定子の子である敦康親王を皇太子に立てることを道長に直談判したりする逸話や、一条天皇の政治理念を受け継いでその権力をふるう話など、彰子の持つイメージががらりと変わりましたね。

本書は「源氏物語の時代」が主題となっていますが、どちらかと言うと副題の「一条天皇と后たちのものがたり」のほうがしっくり来ます。
もちろん、主人公3人に終始するわけではなく、藤原行成の日記などの資料をもとに、貴族たちの動向や「枕草子」「源氏物語」の成立にまで話題は及んでいますが、柱はやはり一条天皇と定子、彰子の3人です。
なので、「源氏物語」に関する事柄を深く知りたいと思っていると、これはハズレになります。
本書の柱はあくまで主人公3人なので、その点は注意しておく必要があるでしょう。

ともあれ、源氏物語が成立した時代に生きた主人公3人に貴族たちなどを見事に活写した本書は古典好きならまずオススメです。
そうでない方にも学校で習ったはずの「枕草子」や「源氏物語」の時代がどのように流れ、人物が生きてきたかを知ることができる良書です。
学術書に分類はしましたが、読み物としての出来はかなりいいので、総評として良品と言っていいでしょう。


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方言……

2006-08-04 21:44:29 | 学術書/新書
さて、そんなもんじゃなくて確かに別の言語だよなの第612回は、

タイトル:アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心
著者:萱野茂
出版社:平凡社新書

であります。

北海道で暮らす、アイヌの伝統を伝える著者が記した歳時記。
序章から始まり、第1章~第5章までの本文5部構成になっており、

第一章 四季のくらし
第二章 神々とともに生きて
第三章 動物たちとアイヌ
第四章 生きることと死ぬこと
第五章 アイヌの心をつづる

となっている。

第一章はタイトルどおり、戦前に生まれ、アイヌ語を当たり前のように使って暮らしていた当時から、アイヌに残っていた四季の中での風習や、祭り、思い出話、収集した昔話、季節ごとに味わう食材の話などなどが記載されている。
この第一章が、本書の半分近くを占め、歳時記の体裁を唯一成している部分であろう。

……が、基本的に思い付くまま、と言うか、思い出すまま、と言うか。
まぁ、もともと文筆家ではないのだから、その辺は仕方がないとは思うのだが、ほんとうに「あ、そうだ、こういうことがあったな、これも入れとけ」と原稿に向かう姿が見えてしまうのではないかと思うくらい、書き方は雑。

第二章は、自然の動植物や火水、果ては器物にまで神が宿ると信じていたアイヌの神々に対する考え方や、祭り、まじないなどが紹介されている。
けっこう、「おいおい、それでええんかい」と突っ込みを入れたくなるようなこともあったりして、楽しく読めるところではある。

ただ、戦前戦後まで、色濃くアニミズムの文化が残っていたのはすごい。

第三章は、第二章にも通じるところがある動物との関わりについてのこと。
子供だからこその残酷さで死なせてしまった動物を神の国へ送るエピソードや狩猟のことなどが著者の体験、収集した話などを元に描かれている。

第四章は、アイヌの冠婚葬祭。
とは言え、祭りなどのことに関しては、他の章でも紹介されているので、ここでは特に、婚と葬が主。

第五章は、言うなればアイヌ的、と言うこと、ものの紹介、とでも言えばいいだろうか。
風習、慣習についての紹介であろう。

以上が、各章の概略であるが、はっきり言って文章はひどいものである。
……が、まぁ、そこは専門家ではないので目を瞑ろう。

とは言っても、内容そのものはアイヌ民族の中で息づいてきた様々な風習などが紹介されており、また、頻繁に出てくるアイヌ語での表記と意味などはとても興味深く、特筆すべき点であろう。
ただ、筆者の考え方には一部、鼻につくようなところがあるのが、少し残念なところだが、基本的な部分には大いに共感し、納得できる。

こうした民俗学にも片足を突っ込んでいるようなものに興味がないとつらいかもしれないが、そうでなければ一度手に取ってみるのはいいだろうと思う。

さよか~

2006-07-28 23:55:19 | 学術書/新書
さて、東京1泊してからもう畳が恋しくなったの第605回は、

タイトル:神 一語の辞典
著者:大野晋
出版社:三省堂

であります。

「日本語のカミ(神)という言葉の由来をたずねて見ようと思う。」

著者が本書の冒頭で書いていることだが、この本はまさにこの「日本の神」という言葉がどういうものなのか、どういう変遷を辿ってきたのか、どういう扱いをされてきたのか、と言ったことを述べている。

構成は次のとおり。

I 日本のカミ
古来……万葉の時代に、日本のカミと言う存在がどういうふうに考えられていたか、捉えられていたかを解説。
まぁ、まずはやはり前提というところ。

II ホトケの輸入
仏教の輸入から神仏習合が起きる前までの間で、仏教がカミとの関係でどういうふうに扱われていたかを解説。

III ホトケの習合
基本的にはタイトルのとおりだが、仏教に対するカミの劣勢とそれを盛り返そうとして、神道理論を構築していった人物、派の解説がある。
結局、儒仏の理論を神道に応用して、外来のものから脱せずに神道理論を構築する、と言うのはけっこう痛いかも……。

IV カミとホトケの分離
明治時代に入っての廃仏毀釈……ではなく、本居宣長に代表される国学に関しての解説。

V ホトケのぶちこわしとGodの輸入
で、こちらが廃仏毀釈に代表される神仏分離令と、日本のカミをどう翻訳するかなどについて解説。

以上が時代ごとの時系列での説明、と言っていいだろう。

VI カミの輸入
ここが本書の最大の見せ場、であろう。
言語学や音韻学などを駆使し、いわゆる語族に共通する特徴から、万葉時代の古語とインドのタミル語との関連性を中心に論じている。
特に万葉仮名に見られるカミに関わる言葉を、それぞれの音韻などから共通であることを詳細に述べている。

VII 日本の文明と文化
タイトルがどうあれ、締めは締め、と言うことで。

と言うことではあるけれど、なんか、論文ね、これ。
いや、別にタミル語との関連とか、いろいろと読んでいておもしろい部分はあるんだけどねぇ。
まぁ、万人受け……どころか、マイナーですらない気がする。

中身をさらっと見て、これはおもしろそうだと思えるくらい、こういうのに興味がないとダメだろうねぇ。
まぁ、へぇ、と思うところもあれば、そうかぁ? と思うところもあったりするのは、この手の本だから仕方がないところ。

でもまぁ、ほんとうに読める人間限定だよなぁ。
いちおう、時系列で解説しているところはまだいいけれど、それを含めてもオススメできるものではないないよね。
まぁ、個人的には読める本だとは思うけど。

手品と言うよりは豆知識

2006-07-04 23:35:30 | 学術書/新書
さて、子供に受けるかどうかは保証の限りではない第581回は、

タイトル:子どもにウケる科学手品77
著者:後藤道夫
文庫名:ブルーバックス

であります。

中学の時は読み漁ってたのに、最近はとんと御無沙汰だったブルーバックス。
なぜブックではなく、バックなのかは今でも不明です……。

タイトルからも解るように、本書の主旨は科学で子供とコミュニケーションすること。
文中に「パパが~」とか「ママに~」といった単語が頻出するだけでかなり引き気味なのですが、それ以上に、章ごとに掲げられているキャッチコピーが凄まじい。

・第一章『ファミリーレストランで科学手品』……「(略)料理を食べたあとのひととき、なにげなくパパの威厳を発揮できたなら、最高です」
・第三章『お風呂で科学手品』……「(略)ここで『パパ』を上げておけば、『パパと一緒にお風呂入るの、もうイヤ』なんて宣言されるその日を一日でも先延ばしできるかもしれません」
・第五章『パパは超能力者』……「(略)子どもが指定する通りの現象を起こしてしまいます。今後、パパは『超能力者』として子どもからあがめられることになるでしょう

電波を通り越して、邪神が宿っているような凄い自信ですね。(毒)
実際にファミリーレストランでやって失敗したら間違いなく怒られる第一章、披露した次の日からパパは不要になると思われる第三章も素敵ですが、極めつけはやはり第五章。これで超能力者としてあがめられたら、逆に子供の将来が心配だ。

内容的には、みんなが知ってる科学マジック総まとめといった感じ。
座った子供を指一本で立たせない方法とか、食塩水を使って卵を中途半端に浮かすとか、米を詰めた瓶に割り箸突っ込んで持ち上げるとか、懐かしいやつが満載。
思わず、このレベルでいいなら俺でも知ってるぞ、風呂場の水をホースで吸い出すとかな!(それは生活の知恵) とツッコミを入れてみる。

で、先を読んでみると、それも紹介されてました、あなどれん。(笑)
しかし、ホースの空気を口で吸い出す方法ってどうよ。
水の中でホースの空気を抜いて、片方の端を指で塞げば済むことなんだが……。

77個も紹介されてるだけあって、知らないのもいくつかありました。
でもインパクトとなると……放電現象ぐらいかなぁ。多少ショックを受けるってことで、白い目で見られなければの話だけど。
黒いゴミ袋を使った熱気球なんかは、小学校の校庭なんかで生徒相手にやると受けるかも。後で校長に怒られる覚悟があるなら、屋上でも可。

ある意味一番インパクトがあったのは、落下する一万円札をつかませない手品(?)かな。
クラブでホステス相手にやる遊びを子供相手にしますかパパ
人の反応時間は平均0.2秒で、その間に下方に20センチ落下するからうんぬん、と科学的説明をされても、これを手品と呼んでくれる子供はいないと思われます。

『ガキどもにウケる』かは別として、昔を懐かしむには悪くないかも知れません。
「科学手品って楽しいなぁ」とか呟きながら、くすっと笑う邪道な読み方もアリ。
820円も出す価値があるかと言われると甚だ疑問ですが。

入門書

2006-05-19 23:21:35 | 学術書/新書
さて、たまにはこんなものをの第535回は、

タイトル:道教 シリーズ世界の宗教
著者:P.R.ハーツ 訳:鈴木博
出版社:青土社

であります。

もともとFacts On File社と言うアメリカの出版社から刊行された「Taoism」という本の訳書。
入門書、と書いたとおり、道教がどういうものか、どういう歴史を辿ってきたかなどを概説したもので、専門的で難解なものではない。

章立ては、

「道教の世界」
道教全体を概説した章。

「道教の起源と歴史」
歴史、とあるがどちらかと言うと起源のほうに重きを置いた章。
老子を始め、時代時代で道教の発展に大きな功績を残した荘子などの紹介、功績などを紹介している。

「教団道教の成立と発展」
歴史、と言う意味ではこちらのほうがふさわしい。
二世紀の初めに天師道を興した張陵から時代時代の道教や、各派の概説を経て、近現代の状況を紹介。

「経典と教義」
これはそのまま、道教における経典類や教義(理論)についての解説。

「儀式と瞑想」
道士が行う規模の大きな儀式から家族などの小さな集団が行う儀式や、道士や信者が行う瞑想の意味についての概説など。
儀式はどちらかと言うと、道士の行うそれが主体。

「道家思想と芸術」
道教の持つ思想、理論などの影響を大きく受けた中国芸術のうち、文学、絵画、書などを中心に概説。


「道教の現状」
いまの中華人民共和国の体制の中での道教を解説したもの。

内容はこんな感じで、ときおりコラムのように短く解説したものや、道徳経などの原文と訳があったりするけれど、概ね平易に書かれている。
解説を読むと、学術的には「成立道教」「民衆道教」「民間信仰」などと分けられているらしいが、そうした分類もしていない。
まぁ、ある程度の知識を持っているひとならば物足りないだろうが、入門書としてはいいんじゃないかな、と思う。

それにしても、出版されたのが1993年だからか、それとも別の理由か、結構訳者注みたいな感じで、補足があったり、実際はこう、みたいなのが書いてあったりと、それなりに手が加えられている。
また、解説の中で説明されている本書の内容よりもやや細かい説明のほうがあれば、歴史の部分は解説の部分だけでOKなんじゃないかと思えるくらいのものがあった。

まぁでも、ほんとうに、道教ってどんなの? ってくらいのひとにはいいんじゃないかなぁ。
ただ、これで2200円は確実に高いと思うけどね。

ファルカンの定理……ではなくて

2006-02-01 00:14:15 | 学術書/新書
さて、単純なものほど難しいと思う第428回は、

タイトル:天才数学者たちが挑んだ最大の難問―フェルマーの最終定理が解けるまで
著者:アミール・D・アクゼル
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

三百五十年もの長きに渡り、数学者達を悩ませ続けてきたフェルマーの最終定理。
彼らはいかにして、この難問に取り組んだのか? そして、なぜこんなものが出てきたのか? を解き明かしていく好著。

フェルマーの最終定理は至って簡単です。
本書のカバー裏から引用すると――

「Xn+Yn=Znは、nが2より大きいとき、自然数解をもたない」
(表示の問題でこう書いてますが、nは乗数です)

以上!
nが2の時、つまり

「Xの二乗+Yの二乗=Zの二乗」

の式は成り立つけど、

「Xの三乗+Yの三乗=Zの三乗」
「Xの四乗+Yの四乗=Zの四乗」
「Xの……(以下無限)」

は成立しないと言っている、そんだけです。
ちなみに二乗の場合は、

X=3 Y=4 Z=5
3×3+4×4=5×5
9+16=25

であっさり解けます。
三乗も簡単にいけるんとちゃう? と思った方、やってみて下さい。
一生やり続けても無理です。(笑) 

序盤はこの定理のルーツとなる乗法、代数の歴史。
起源はなんと古代バビロニアまで遡ります。租税を取るため、土地の広さを正確に記録する必要があったのですね。
三平方の定理で有名なピタゴラス、「エウレカ!」という言葉をメジャーにしたアルキメデスなどの話もあります。

中盤は直接的、間接的にフェルマーの最終定理に関わった数学者達の紹介。
やっかいな問題を残して後世の数学者をシメたフェルマー、世界で最も美しい公式で知られるオイラー、偉大なる巨人ガウス等々……有名人がいっぱい。
彼らの数学者としての業績やフェルマーの最終定理に果たした役割についてダイジェスト的に触れています。

終盤はいよいよ、証明の最終段階に突入。
この簡単な定理を証明(あるいは否定)するために知恵をしぼる近代~現代の数学者達の奮闘を描きます。
個人的にP185のケン・リベットとバリー・メイザーの会話は大好き、格好良いぞメイザーじっちゃん。

フェルマーの最終定理の解説本、ではなくて、数学のプチ歴史本、かな。
数学好きな人にはかなーりオススメ、でも数学嫌いな人は手を出しちゃ駄目。
専門知識がなくても楽しめると書いてはあるけど……最低でも高校数学Iぐらいまでは理解してないと読んでて疲れると思います。

あ、また『不思議の国のトムキンス』をオススメしたくなってきた。
あれは数学嫌いの人が読んでも面白いです。

隠れん坊

2006-01-31 12:19:18 | 学術書/新書
さて、最後まで見つけてもらえなかった覚えがある第427回は、

タイトル:神隠しと日本人
著者:小松和彦
文庫名:角川ソフィア文庫

であります。

神隠しと聞いて、何を連想しますか?
千と千尋の神隠し? いや、ジブリはラピュタがあればそれでいいです。
神隠し連続殺人事件? 何か、ぼさぼさ頭の探偵とか出てきそうですね。
未来へタイムスリップして救世主伝説? それは『リュウ』ですってば。
中国風の世界へ連れ去られて国造り……って、それは『十二国記』

いい加減、しつこくなってきたのでやめます。

というわけで(なにがだ?)、神隠しの研究本です。
原題は『神隠し――異界からのいざない』、弱冠の加筆・修正あり。
特に専門的知識がなくても読めますし、約230頁と長さも手頃。

神隠し事件の真相を探る、いわゆる謎解き本ではありません。
背後の真相は種類こそあれど簡単に想像がつく、とした上で、なぜ神隠しという概念が生まれたのか、なぜ必要とされたのかを探るのが主題です。

まず何を以て神隠しとするか、すなわち、神隠しの定義。
次いで、神隠しに共通するお約束――目隠しされるとか、失踪者の草履が揃えてあったりとか、消えた者を探す方法とか、色々。

筆者はここで神隠しを四つのタイプに分類しています。
A1――戻ってきた失踪者が自分の体験を覚えている。
A2――戻ってきたけど、失踪者は自分の体験を覚えていない。
B――失踪者は戻ってこない。その後の消息は不明。
C――失踪者が死体で発見される。

そしてさらに、A1タイプの神隠し事件で語られた体験談、大陸から伝来した神仙伝説、天狗信仰、鬼伝説などが融合して生まれた様々な神隠し譚を紹介。
『浦島太郎』のような異界訪問譚も外部の人間から見ると神隠しであることを指摘した上で、最後に神隠しという社会装置の有用性について述べています。

広く浅く、体系的に述べているので、てっとり早く神隠しを知りたい方には最適の書と言えるでしょう。
時代ごとの細かい変化や事件の暗部などを理解したいというディープな神隠しマニア(?)の方は、ぶっとい専門書を漁るしかないかと思われますが……。

ともあれ、通して読めば神隠しという言葉にどっぷり浸かれます、オススメ。
様々なタイプの神隠し事件が引用されており、資料としても役に立ちます。
昔話、伝説に限らず、近年の事件についても触れているのも良し。

本能寺に燃えろ!

2006-01-30 21:21:06 | 学術書/新書
さて、今だと館ひろしだなーと思う第426回は、

タイトル:謎とき本能寺の変
著者:藤田達夫
文庫名:講談社現代新書

であります。


(タラララ~♪ タタタ~♪)

疲れた顔でデスクに座るお市。
お市「人間五十年なら……あと一年で兄上は死ぬわ」
柴田「冗談でもそんなことを口にしてはならん!」

茶室でぎろりと部下を睨む光秀。
明智「私の事を嗅ぎ回っている者がいる?」
部下「いや、あんた堂々と反逆宣言してるし」


(タタタタタ♪ タタタ♪ タタタ♪)

堺の街でうめく家康。
徳川「明智の背後には、とんでもない大物がおる!」
半蔵「格好付ける前にさっさと伊賀越えましょうね」

新幹線に乗る秀吉。
サル「殿を殺めたのが誰かは問題ではないわ」
部下「そういうこと言うからお市さんに嫌われるんですよ」


(タララララ~♪ タタタ~~~~~ッ♪)

本能寺跡地に立つお市。カメラ目線で――
「犯人が解ったわ」

『女検事お市(3)――本能寺に消えた兄』
一五八二年、六月二日放映。

なぜか土曜ワイド劇場。
(解りにくくてすいません……ちなみに火サス・バージョンはこっち


前フリはさておき……誰もが知っている本能寺の変、の謎解き本。
当時のトップスター暗殺というだけでも話題としては充分だけど、その下手人があっさり殺されたということで、昔から人気のあるテーマですね。
真相当てとしては、○○黒幕説、○○共謀説、光秀単独犯行説、ちょっと変わったところで信長自殺説がありますが、本書では黒幕説を扱っています。

では、各章のちょっとした解説を。

・第一章 明智光秀が背いた原因は何か?
本能寺までの信長の歩みを追いつつ、彼が目指したもの、他の人々との軋轢などについて考察しています。天下人としての意識、統一後の支配構想、具体的な政策などがおぼろげながらに見えてきます。

それと並行して、反信長包囲網を形成した足利義昭、最後に手を下した明智光秀、二人の立場と動向についても探っていきます。資料として紹介されている、謀反に先だって光秀が上杉に送った書状、がなかなか面白いです。

第二章 画策する足利義昭
信長によって京を追われた足利義昭のその後の動向。ここで作者は将軍追放(一五七三)を以て室町幕府滅亡とする通説を否定し、義昭は毛利の力をバックに幕府を維持していたと論じます。

さらに、義昭が行った対信長工作、光秀との利害の一致、光秀が雑賀衆に宛てた書状に義昭を暗示する箇所があることなどを挙げ、明智光秀の背後にいたのは足利義昭であると結論づけています。

第三章 「秀吉神話」を解く
秀吉の行った情報戦、本能寺後の光秀の迷走、中国大返しから山崎の戦いまでの経緯、秀吉の天下統一、についてのさらっとした解説。歴史のおさらいといった感じで、特に目立った特徴はありません。

以上、各章解説でした。

本能寺の謎解きというより、非常に影の薄い足利義昭にスポットを当てた書と言った方が正しいかと思われます。
飽くまで義昭黒幕説の証明だけで、信長が無防備状態で本能寺にいたミステリの謎解きや、秀吉or家康陰謀説の潰し等は行っていません。
ま、新書なので分量の問題もあるでしょうが……。

歴史の再確認、という意味では面白いと思います。
ただし、「謎はすべて解けた!(どっかの探偵少年?)」みたいな内容を期待すると肩すかし喰らうので注意。

ちと(?)古いけど

2006-01-06 21:18:28 | 学術書/新書
さて、やっぱり素直には記念にしないかもの第402回は、

タイトル:クラシック音楽のすすめ
著者:大町陽一郎
出版社:講談社現代新書

であります。

初版1965年。

古っ!

まぁ、実際、本の内容にも古さが出てたりする。
特に第6章の「レコードによる鑑賞法」
まぁ、オーディオの世界ではレコードは根強い人気があるとは思うけど、いまはCDの時代だからねぇ。

とは言うものの、これを「CDによる鑑賞法」とすればぜんぜんOKだったりするけど。

といきなり、第6章に行ってしまったけど、本書はクラシックの基礎から、歴史、聞くための基礎知識、演奏会でのエチケット、そして曲の紹介までを、指揮者である著者がとても平易に、わかりやすく解説しているクラシックの入門書のようなもの。

もともとクラシックは好きなほうだけど、このところ、ぜんぜんCDとかも買ってなかったけど、こういうのを読むと、あぁ聞きたいなぁ、なんて思ったり。

でも実際、この本はほんとうにわかりやすい。
何拍子とか、対位法、ソナタ形式などの作曲に関する話とか、長調・短調の解説など、基礎知識としての解説のやさしさはかなりいいと思う。

音楽会のエチケットでは、「拍手」に関する話など、そうなんだぁ、と感心させられたりするところも多い。
また、レコード(CD)の選び方でも、いろんな指揮者のものがあったりするけど、まずはこういう方法で、ってのも、まだまだ聞いたことがない曲が私もたくさんあるので、とても参考になる。

曲の紹介も有名どころを押さえているので、CDの1枚でも買ってこようかなぁ、なんて気になったりして……。
私はなったけど(笑)

ともあれ、出版年代が古いので、その時代のクラシックに対する状況はやっぱりいまとは違うから何だけど、それ以外ではほんとうに入門書としては適していると思う。
ただ単に、曲の紹介だけではなく、いろんな話題もあり、良書と言える本だと思うよ。

こういうのが欲しかったのよっ!

2005-10-15 12:43:42 | 学術書/新書
さて、資料的にかなり当たりを引いたの第319回は、

タイトル:印と真言の本
著者:藤巻一保、羽田守快、大宮司朗
出版社:学習研究社

であります。

まず、タイトル通りの本、と言える。
構成は、次のとおり。

巻頭:秘密仏教のシンボリズム
第1章:印明とは何か
第2章:密教の不思議な話
第3章:秘儀秘伝の世界
第4章:印と真言の事典
第5章:修験・神道・陰陽道の秘呪
巻末特集:秘伝・密教行法次第

第1章から第3章までは読み物。
それでも、印と真言の本であるので、そこかしこにどういう印を組むのか、どういう真言を唱えるのか、と言うことが書いてある。

でも、資料目的で買う、と言う時点で3章までのはおまけのようなもの。
第4章からは、とにかくそのタイトルに違わない充実の本。
とは言うものの、どうやらひとつの仏に対していくつもの印があったり、真言があったりするので、基本的に一仏一印一真言なので、必要十分、と言うわけではない。

それでも資料としては十分。
密教が主体というのは、まぁ、仕方がないが、第5章でそれ以外のもぼちぼちある。
そこがまた資料としてはいい。

もっとも、この手の話はけっこう好きなので、資料として買ったわりにはふつーに読んで、ほー、とか、へー、とか言ってたりするけど(笑)

ちなみに、密教占星術では私の守護仏は文殊菩薩。
なので、とりあえずそういうのもきっちり載っていたのだけでも、OKだったりして(笑)