つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

へぇ、こんなのも描けるんだ

2012-05-20 16:07:37 | マンガ(少年漫画)
さて、マンガが続くねぇの第1016回は、

タイトル:高杉さん家のおべんとう(1~5巻:以下続刊)
著者:柳原望
出版社:メディアファクトリー MFコミックス(初版:'10~)

LaLaDXを読んでいたときに、この人の作品はずっと読んでた。
けど、はっきり言って、いまいちパッとしない作品が多い印象で、1巻帯にある「一清&千沙姫シリーズ」って名前は聞いたことがあるから、LaLaDXで読んだことはあるんだろうけど、キャラも内容もまったく思い出せない。
なので単行本も買うこともなかったのだけど……。

本屋で1巻の試し読みができて、ぱらぱらっと3話くらいかなぁ、読んでみたところ、なかなかよい雰囲気を感じたのでとりあえず、出てある5冊、買ってみたんだけど……。

さて、ストーリーは、

『高杉温巳は困っていた。いろいろな意味で。
大学の地理学で博士号を取ったのはいいけれど、研究機関、大学教員の公募に落ちまくり、不況のおかげで就職もままならず。
両親が遺してくれたマンションのおかげで住むところには困らないけれど、非常勤講師などをやりながら何とか生活している三十路の31歳。

その温巳の目下の困難は、亡くなった叔母の美哉の娘である久留里の親代わり(正確には未成年後見人)になってほしい、というものだった。
美哉の遺言で、温巳が指名されていたと言うことだったのだが、久留里はこの春中学生になったばかりの12歳の少女。
はっきり言って無理だと思いつつも、弁護士に示された美哉の生命保険などから得られる養育費にぐらりと来るところへ、強引に久留里と引き合わされることに。

なし崩し的に「家族」とされてしまった温巳。
だが、困ったことはそれだけではなかった。叔母の美哉は、温巳が高校3年生のとき、美哉を迎えに行った両親が事故死してしまったことに責任を感じて温巳のもとを去っていった経緯があったのだ。
それが何の因果か、久留里を引き取ることになってしまって、どう接していいのかさっぱり。

とりあえず、家に連れて帰ったのはいいけれど、「家族」になるなんてどうすればいいのかわからない。ネットで検索してみてもネガティブな話題ばかりが眼について、結局諦めてご就寝。
翌朝、起きてから久留里のことを思い出した温巳は急いでキッチンへ向かうと、そこには朝ご飯を作っている久留里の姿。
おまけに貧乏だからと言うことで、久留里はお弁当まで作ってくれていた。

しかしながらお弁当と言っても文字通り蓋を開けてみればきんぴらごぼう1品のみ。
入り浸っている大学のゼミで同級生の香山や特別研究員の小坂にからかわれながらも、先日きんぴらごぼうは作れると、美哉に習ったと泣いていた久留里を思い出して、その特別な思いに気付く温巳。

それから数日、高杉家では保護者として成すべきこととして、ひとつのルールが決まった。
仕事をしている温巳は朝起きて、朝ご飯とお弁当を、久留里は晩ご飯を作る、と言うもの。
そうしておべんとうを通じて、温巳と久留里は一歩ずつ「家族」への道を歩いて行くことになる。』

うん、やっぱり第一印象って大事だねぇ。
1巻をぱらぱらっと読んで、いいと思って買ったものだけど、当たりだった。

てか、タイトルにも書いたけど、この人、こんないい雰囲気を持った作品を描けるんだなぁ、と正直感心したよ。
LaLaDX時代のを知っているだけに、余計に感心度合いが強かったねぇ。
まぁ、白泉社から離れて花ゆめのレーベルに合わせたものを描かなくていい、ってのもあるのかもしれないけど。

さて、ストーリーだけど、基本、1話完結の短編連作形式のお話。
タイトルにあるように、キーワードは「おべんとう」
おべんとうに入る1品を主体に、温巳と久留里の心の交流を描くのがメイン。
とは言っても、場所やネタは様々。温巳が入り浸っているゼミでの香山や小坂と言った面々とのやりとりや、温巳の就職問題、中学校へ通う久留里の日常や友達問題、はたまた温巳のフィールドワークに久留里やその友達がついていったりと、いろんなところでいろんなおべんとうの品や郷土料理などが披露されている。
また、テーマとなる1品には必ずレシピがついていて、これも感心させられる。レシピは温巳が美哉に作ってもらっていたころのものから、特別研究員の小坂の地元北海道のものだったり、舞台となっている名古屋特有のものだったりと、多種多様。
毎回テーマとなる1品を考えるのも苦労するだろうに、レシピまで入っているのにも感心。

帯に「ハートフルラブコメディ」とあるように、ほんとうにハートフルな雰囲気満載で読んでいてほんわかした気分になれるのがいい。
ラブコメディ部分は、人の機微にまったく気付かない残念男温巳に対する小坂と、「家族」の枠を越えてちょっと淡い恋心を温巳に抱く久留里のふたり。
しかし……、小坂は5巻時点で29歳と同じく5巻時点で34歳の温巳とは釣り合うが、久留里、君はまだ中学生だ。5巻時点で中学3年生になって卒業とは言え、温巳はもう34歳。いいのか、久留里!? 相手は19も年上のもうおっさんだぞ!(笑)
まぁ、温巳も温巳で小坂を逃せば、もうこのまま一生独身まっしぐらな気がしないでもないのだが……(笑)

さて、キャラのほうに移るとして、主人公の温巳。典型的な学者バカで人の機微にはこれっぽっちも気付かない残念三十路男(笑)
何とか久留里の保護者として奮闘しつつも、たいてい空回り気味なのがおもしろい。
また、あとがき曰く、いい加減就職しないと困ると言う理由で、1巻最後でゼミの助教授にしてもらったこれまた残念男(笑)
小坂さん、こんな男のどこがいいんですか? と聞きたいが、まぁ、そこはあばたもえくぼと言うことで(笑)

で、ヒロインの久留里。この子はとても個性的。
無口であまり感情を表に出さないけれど、時折見せる笑顔がとてもかわいい女のコ。
人付き合いが苦手で、当初は友達すらいなかったけれど、香山の娘のなつ希など、徐々に友達も増えていったりと、こちらは順調に成長中。
趣味は倹約。特売、底値、割引などに目がないとても中学生とは思えない渋い趣味で、温巳がときどき倹約を無視して買い物をすることに腹を立てることも。
喋り方も独特で、これも久留里のチャームポイントのひとつとなっていると言っていいでしょう。

あとは脇役の強引ぐマイウェイで温巳の同級生で准教授の香山、特別研究員の小坂、キノコ狩りで仲良くなった香山の娘で久留里のクラスメイトのなつ希など、適度に場をかき乱したり、コメディに仕立ててくれたりと、雰囲気を壊さない程度にいいキャラが揃っていて読んでいて楽しい。

5巻の帯で「マンガ大賞2012」ノミネート作品とあって、正直そういうのを見ると逆に引いてしまうタチなんだけど、これはコメディとしても楽しめるし、雰囲気も楽しめるとあって個人的にはかなりオススメなマンガだね。
基本1話完結の話なので、手軽にも読めるし、ゆっくりながらも「家族」となっていく温巳と久留里のストーリーも、穏やかな雰囲気と相俟ってじれったさを感じることもない。
総じて、オススメしやすい良品と言えるだろうね。
まだ5巻までしか出ていないので、お財布にも大ダメージを与えるほどではないので、読んだことのない方はハートフルな雰囲気を満喫してほしい、そんな作品だね。


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すいません、好きなんです(笑)

2012-05-19 16:47:55 | マンガ(少年漫画)
 さて、少年漫画か少女漫画か、悩んでしまったけどレーベルから少年漫画にしましたの第1015回は、

タイトル:くちびるためいきさくらいろ(全2巻)
著者:森永みるく
出版社:双葉社 アクションコミックスハイ(初版:'12)

であります。

注意:当作品は百合です。同性愛作品に免疫がない方、嫌悪感を抱く方は読まずに引き返すことをオススメします。

注意書きも書いたことだしっと……。
本作は、前にも1回出ています。同じ題名で一迅社から'06に短編集として出たものの再版……と言うことだと思ったいたのですが、全2巻?
再版にしては2巻に分けるような分量なんてあったっけなぁ? と思いつつも悲しいかな、好きなんです、森永さんの作品(笑)

やわらかい絵柄が好きで、18禁描いてたころからずっと買っていたし、そのときから百合をちょくちょく描いていたのは知っていたのですが、百合だろうが何だろうが抵抗がないので、迷わず購入。
2巻に分けた理由はなんなのかと思いつつも読んでみました。

さて、ストーリーは、

『奈々は目覚めの悪い夢を見てしまった。
中学時代の夢――幼馴染みで、いちばん仲のよかった友達の瞳。子供のころからずっと一緒で、高校も同じところへ通うことを信じて疑わなかったのに、瞳は内緒で他校を受験し、奈々とは同じ高校には行けない……そんな事実を知らされたときの夢。

高校生活も二ヶ月が経ち、中高大と一貫校の桜海女子に慣れてきたころ。――それでも一緒に通えないと知ったあのときから瞳とはメールも電話すらもしない日々。
そんなある日のこと、コンビニへ買い物へ出かけた奈々は、その帰りに偶然部活帰りだと言う瞳に出会う。
髪も短くなって、友達とも仲良く高校生活を過ごしているように見える瞳。
そんな姿に複雑な思いを抱く奈々の心を知ってか知らずか、瞳は奈々との約束があると言い出して強引に奈々の家に行くことになってしまう。

奈々の家では中学時代と変わらずに接してくる瞳。制服がかわいいからと言う理由で桜海女子を奈々に薦め、制服姿を一番最初に見せてと約束した中学時代のことを持ち出して、仕方なく奈々は制服姿を瞳に見せることになるのだが、「似合っている」――そんな瞳の一言で裏切られた瞳への思いが溢れ出す奈々。
けれど、瞳には瞳の理由があった。それは奈々への思い――友達ではなくなった感情のために、奈々から距離を置くことにしたのだった。

それでも、奈々は瞳が離れていってしまうことがイヤだった。
そんな思いを吐露する奈々に口づけをする瞳――このままでは友達ではいられない。そう告げる瞳に、中学時代の出来事やいま思う瞳への思いが奈々の脳裏をよぎり――
奈々は、瞳と「友達」でなくなることを決意する。』

短編集ですが、全2巻の中心を成す奈々と瞳の物語の第1話のあらすじだけ、書いてみました。
と言うか、一迅社から出た短編集のときは、このふたりの物語は2話で終わっていたのですが、続いていたのですね。
これ以外は一迅社時代の短編集の内容の再録となっています。

まず、奈々と瞳のストーリーですが、晴れて恋人同士となったふたりが思いを深めていく中、突然瞳に外国への転校の話が持ち上がって、それに抗議するために瞳は奈々とともに家出をして――と言う内容。
最終的には大団円なのですが、各話がどうもやっつけ仕事に見えてしまうのが残念なところ。
大団円のラストも拍子抜けしてしまうオチなので、一迅社のときの2話で余韻を残したまま、終わってくれていたほうがマシだったような印象を受けます。

で、他の短編ですが、個人的にはこちらの短編のほうが雰囲気も余韻もあって好みです。
舞台は基本的に桜海女子高校です。

『天国に一番近い夏』――桜海女子に彷徨う幽霊の加藤なつかと、桜海女子OGで養護教諭として働いていて、なつかとは学生時代保健室で仲良くなった小松先生との触れ合いを描いた作品。オチもくすっと笑えて、百合成分は薄めなほうですが、いい余韻を持つ小品。

『キスと恋と王子様』――奈々の友達で演劇部所属の安倍と、演劇部の顔だけど内実は天然系ボケキャラの橘のふたりの物語。役としてキスをしたと誤解して悩む安倍の心情が細やかに描かれている小品。

『いつかのこのこい。』――入学当初に水城から手ひどい言い方をされてしまった鈴木と、それでも何故か水城に心惹かれてしまう恋愛感情を疑似恋愛だと思い込む鈴木の恋の苦しさを描いた小品。

『くちびるにチェリー』――吹奏楽部の演奏を聴いて絵里に恋をしたちはるが、自分の恋心を抑えて絵里の親友として過ごす中での心情を細やかに描いた小品。この作品も心地よい余韻のある好みの短編。

『ホントのキモチ。』――文芸部で古風な恋愛小説を書いている野坂と、それを読んで野坂の人となりに恋してしまった後輩の遠藤のラブコメディ。この短編集の中ではコメディ要素の強い作品で、森永さんらしいコメディ作品。

最後の『ホントのキモチ。』以外は上記に書いたように、雰囲気、余韻ともにあって恋愛ものとしてはいい作品に仕上がっています。
でも、百合ですが……。

個人的には好きなマンガ家さんですし、オススメしたいところなのですが、いかんせんジャンルがジャンルだけにオススメしきれません。
メインとなる奈々と瞳のストーリーがいまいち残念なところがあるのも、百合に抵抗がない人にもオススメしにくいところです。
短編のほうはいい作品が多いので、前の一迅社時代の短編集で終わってくれたほうがオススメしやすかったですね。
もっとも、一迅社時代のはもう古本でしか手に入らないので、新刊ならこちらを買うしか手はないのですが……。(マイナーな百合姫コミックスなので、古本屋でも手に入るかどうかは疑問ですが)

と言うわけで総評ですが、まずジャンルから拒否反応を示す方がいらっしゃるであろうこと、メインとなる奈々、瞳のストーリーがいまいちなことから当然ながら良品とは言えないでしょう。
さりとて短編にはいい作品があるので落第にするのも忍びない。
なので、中間を取って及第というところに落ち着くでしょう。
まぁ、マイナーなジャンルなので、いくら良品並みの評価ができても、読み手限定になってしまうので、良品の評価はできないのではありますが……。


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原作よりも

2012-03-11 15:02:57 | マンガ(少年漫画)
さて、久々にマンガなんかを紹介するの第994回は、

タイトル:とある科学の超電磁砲レールガン とある魔術の禁書目録外伝(1~7巻:以下続刊)
著者:原作 鎌池和馬  作画 冬川基
出版社:アスキー・メディアワークス 電撃コミックス(初版:'07~)

であります。

原作は本編、新約併せて20冊以上出ている人気ラノベの外伝で、本編のヒロインのひとりである御坂美琴を主人公にした外伝作品です。
これも実はアニメ先行で見て、おもしろかったので原作を買ってみました。

さて、ストーリーは、

『人口230万人の約8割が学生という学園都市。その中で7人しかいない超能力者レベル5で第3位の御坂美琴は、夏休みも間近に迫った7月の半ば、いつものように暴漢に絡まれ、撃退していた。
そこへ現れたのは同じ常盤台中学の後輩で、学内の治安維持組織である風紀委員ジャッジメントの白井黒子。
これまたいつものようにレベル5ではあるものの、一般市民に違いはないと説教をされながらも歩いていると、黒子と同じ風紀委員の初春飾利ういはるかざりと出会う。
そんな中、銀行強盗の現場に出くわした3人。風紀委員の黒子と初春はその犯人を取り押さえようとするが、うちひとりが逃げ出そうとする。
無駄な抵抗と静観していた美琴は、犯人が逃げる際にいた美琴を押しのけようとして、美琴が持っていたクレープをはじき飛ばし、あろう事か美琴の制服を汚してしまう。
それにキレた美琴は車で逃げようとする犯人を、車ごと必殺の超電磁砲レールガンでぶっ飛ばしてしまう。

そんな非日常に近い日常の中、学園都市では連続虚空爆破グラビトン事件が発生し、黒子たち風紀委員はその事件を追っていた。
アルミを基点に重力子を加速させ爆弾に変える能力で起こされる事件――人を負傷させるほどの爆発を起こさせる能力者はすぐに調べられたものの、アリバイがあり、犯人ではない。
捜査が行き詰まっている中、初春と同じ中学で親友の佐天涙子から都市伝説として聞いた幻想御手レベルアッパーなるものの存在。

連続虚空爆破事件の犯人が自らの能力以上の能力を発揮して犯行に及んでいたこともあり、幻想御手についても調査を開始する黒子たち。
幻想御手とはいったい何なのか――連続虚空爆破事件に関わった当事者として美琴も加え、黒子たちは事件の解決に乗り出す。
その中で、美琴は学園都市を取り巻く闇に関わっていくこととなっていく。』

原作は1巻しか読んでませんが、原作よりもこっちのほうがおもしろいのは何故だろう……(笑)
原作のほうもまぁストーリーは悪くなかったけど、文章面での評価が悪かったので印象が悪いのだけど、こっちはマンガと言うこともあるだろうけど、さくさくと読めるのもいい。

ストーリーは、導入部の銀行強盗撃退から始まって、マンガオリジナルの幻想御手編、その後の美琴のクローンである妹達シスターズを利用した原作と重複する絶対能力者進化レベル6シフト計画への美琴の介入などが語られる。
オリジナルの幻想御手編は、幻想御手を広めた犯人の動機など、きちんと説得力のあるものになっていたりするし、絶対能力者進化計画編は原作とかぶるものの、こちらも美琴視点での行動やそれを迎え撃つ暗部組織との戦闘など、アクションも充実。
このあたりは原作を知らなくても十分楽しめる内容になっていて、好感が持てる。

持てるのだが、これも6巻までで、7巻がちょっと……。
絶対能力者進化計画編は、7巻で終わるので、これはまだいいとして、その後が問題。
オリジナルの細かいエピソードを挟んで、大覇星祭に一気に話が飛躍するのだが、絶対能力者進化計画編と大覇星祭の間のエピソードがごっそり原作依拠なので、原作(またはアニメ第二期)を読んでいないと、なぜ黒子が車椅子に乗っていて大覇星祭に出場していないのか、一方通行がなんで杖ついて歩いてるのか、などわからないことが出てくる。
おまけに超電磁砲レールガンアニメを見ていないとわかんないネタとかもあったりして、せっかく原作知らなくても楽しめる作品だったのに、かなり残念。
もっとも、この作品を知っているまたは持っている人は原作を知らない人間のほうが少ないだろうからいいのかもしれないけど……。

そんなわけで原作が好きな人には買いでしょうけど、そうでないと7巻でマイナス点がついてしまったので総評としては及第。
まぁ、7巻のマイナス点さえなければ良品と言えるので、及第以上良品未満とそれなりにいい点数はつけられるので、興味を持った方はどうぞ、ってくらいにはオススメできます。

あ、ちなみにアニメはオススメです。
アニメのほうも原作アニメよりもおもしろかったし、完全に原作を知らなくても楽しめる内容になっているのでね。


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どっちだよ、このマンガのジャンルはよ(笑)

2008-02-03 01:02:52 | マンガ(少年漫画)
さて、たぶん少年マンガ……だろうなぁの第943回は、

タイトル:GIRL FRIENDS -ガールフレンズ-(1巻)
著者:森永みるく
出版社:双葉社アクションコミック(初版:'06)

であります。

これまたマイナーなマンガ家を……と自分でもぢつは思ってたりします(爆)
もともとは18禁系で描いてたマンガ家で、いわゆる百合系が主体のその手のマンガだったりしたんだけど、某人気小説(ちなみに私のお気に入り(爆))のおかげで、その手のものも、堂々と市場に出回るようになったこともあってか、こんなところから出てました。

つーか、18禁系の時代からぢつは知ってるマンガ家さんで、18禁系のクセに18禁か? ってくらいソフトな話や、ほほえましい話など、とても雰囲気のいい話が多かっただけに、隠れたお気に入りのマンガ家だったりします(^_^;

で、今回は18禁系ではなく、ふつうのマンガ雑誌ということで、題名通り、高校生の少女たちの生活を描いた作品。
ストーリーは、

『熊倉真理子はおとなしくて真面目で読書好き。高校ではなかなかクラスに馴染めず、ひとりでいることが多いような少女だった。
そんな真理子が、風邪のために休んでしまった英語の追再試を終えたそのとき、不意にひとりのクラスメイトが「まりちゃん」と声をかけてきた。
誰もが名字で呼ぶ中、突然の呼びかけに戸惑う真理子をクラスメイトの大橋は、あっさりとこれまた「あっこって呼んで」と言い出す始末。
二学期になって初めて会話をしたと言うおまけ付きで。

挙げ句、帰る方向が似ているからと一緒に帰ることになり、ついでにマックにまで寄り道。
寄り道禁止に少し焦る真理子をヨソに、あっこは強引とも言えるくらいの勢いで真理子に語りかけ、ついには翌日、一緒に美容室に行くことに。

あまりになれなれしくて強引なあっこに、一瞬断ることも考えた真理子だったが、結局一緒に美容室へ行くことに。
美容室へ行くまでの道のり、美容室でのカット、そしてロングからショートヘアにイメージを変えた真理子を見たあっこの反応……感情が素直でいまどきの女の子だけど裏表のないあっこに、真理子は翌日、下駄箱で「あっこちゃん」と挨拶をした。』

だいたい第1話がこんな感じ。
第2話からは、あっこの友達でサブのすぎさんこと、杉山さとこ、たまみんこと関根珠実を加えて、真理子とあっこたち、4人組がプリクラを一緒に撮ったり、服を買いに出かけたりと、いままで真理子が経験したことがないことをする学園生活。
そこから2年生になって、真理子はあっことおなじクラスになったものの、すぎさん、たまみんとは別クラスに。

そんな様々なことをしながら仲良くなっていく真理子とあっこの姿がとてもかわいらしく描かれている。
また、サブのすぎさん、たまみんも、真理子やあっこと被らないようにキャラがしっかり区別されていて、サブだけど個性的で魅力的なキャラに描かれている。

とは言え、やはり主人公は真理子。
高校になってようやく出来たとても仲のいい友達のあっこ。
2年生になってクラスも替わり、新しいクラスメイトともあっさりとうち解けてしまうあっこや、新しい友達が「あっこ」と気軽に呼んだりすることに小さな嫉妬をしたり、「まり」と呼び捨てにするのがあっこだけだからそう呼んでほしくないのに断れない性格に悩んだりと、話の中でさりげなく、けれど細やかに真理子の心情が描かれている。

また、あっこのほうも真理子に近付いた理由や動機などもしっかり描いてあって、さらに付き合うに連れて親友になっていく経過というのも見どころ。

もちろん、甘々なだけでなく、さすがに著者が女性だけあって、女の子らしい裏の部分もさりげなく入っていたりとアクセントもある。

ただ、どーしても著者の趣味(Wiki曰く「おかっぱ頭とロングヘアの少女の組み合わせを気に入っている。」とのこと。ちなみに、真理子はショート、あっこはロングです(笑))とか、まぁ、過去の経緯とか、いろいろとあるのか、1巻の最後で友情ものに終わらない百合系に移行する匂いがぷんぷんするところが、この手の作品を受け付けないひとにはきついだろう。
このまま、友情ものとして続いてくれるなら、かわいらしい絵柄、やわらかい雰囲気、魅力的な主人公ふたりと、比較的オススメできる部類に入りそうだし、特に雰囲気を重視する感性派にはいいと思うんだけどねぇ……。

私は昔からのお気に入りのマンガ家さんだし、いまのところほほえましい友情ものになっているしで、個人的にはかなり好みなのだが、百合系と言うジャンルの壁の高さなど、多くのひとにオススメできるかと言うとやはり無理。

と言うわけで、個人的趣味を除いて総評すれば、ぎりぎり、……ホンットにぎりぎりに及第ってとこかな。
甘々大好きで、百合系でもぜんぜんOK、ってひとは一読の価値はあるとは思うけど。

……しかし……、なんか「マリみて」にハマって以来、なんかどんどん嗜好が変な方向に行ってる気がするな、オレ……(爆)

なぜこっちで番外編……?

2007-04-02 23:59:59 | マンガ(少年漫画)
さて、やべぇ、時間がねえっ! な第853回は、

タイトル:ベイビーリーフ
著者:二宮ひかる
出版社:少年画報社 ヤングキング・コミックス(初版:H15)

であります。

二宮ひかるの一冊完結物です。
内容は、ぶっちゃけて言うと、『ハネムーン・サラダ』の番外編。
クラスで孤立している少女・斎藤陽子と、イッコ下の彼氏・夏川実の恋愛話です。



中学二年、14歳にして、私は世の中のことを一通り知っている……つもりでいた。
そんな態度は同年代の生徒を遠ざけ、気付けば『たった一人の彼』しか残っていなかった。
しかも、近付けば近付く程、私は『彼』のことすら知らないのだと解り、愕然としてしまう。

お互い望んで、肌の触れ合いを求めたことが私は嬉しかった。
しかし、それで同じ気持ちになれたと思ったのは大いなる勘違いだったらしい。
私にとって彼がたった一人なのに、彼にとって私が大勢の中の一人なのは全く変わらない……そう思った。

一緒にいると彼に無理をさせているような気分になる。
だけど、離れるとまた一人になって寂しくなる。
堂々巡りを続ける私はついに――。



と言うわけで、白泉社で出ていた五冊完結物の番外編が、なぜか少年画報社で登場。
全六編で、陽子と実の初×××から、別れまでを描きます。
一応、一花の読み切りも収録されていますが、出会うのはもっと先なので、陽子や実との絡みはありません。

番外編ですが、過去の話なので『ハネムーン・サラダ』を知らなくても読めます。
自分でもどうして欲しいのかよく解っていない陽子と、どうしたら満足するんだとイライラする実の関係は、十数年後と同じかも。(笑)
ただ、陽子の迷いは最初から一貫しており、ずっと同じ悩みを蓄積して第五話でとどめを刺されたという感じなので、ストーリーがちと単調に感じられたのはマイナス。

ちなみに、『ハネムーン・サラダ』ではイマイチ不明瞭だった、「サル山のサルの話」もしっかり出てきます。
実にとっては何でもない世間話なのですが、陽子にとってそれは、自分の立場を再認識させる痛烈な一撃でした。
何と言うか……そりゃ、別れるわな。

『ハネムーン・サラダ』とセットでならオススメ。
先にこっちを読んだらどう感じるかは……すいません、永遠の謎です。



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少し不思議な物語

2007-03-31 23:53:00 | マンガ(少年漫画)
さて、実は初登場! な第851回は、

タイトル:愛蔵版 藤子不二雄 SF全短篇 第一巻 カンビュセスの籤
著者:藤子不二雄
出版社:中央公論社(初版:S62)

であります。

藤子不二雄の短編集です。表題作を含む全三十五篇を収録。
子供向けの作品とは雰囲気が大きく異なり、SF、ホラー要素が詰まった作品が非常に多いのが特徴。
全部紹介するととんでもないことになるので、気に入った短編をいくつか紹介するにとどめます。


『どことなくなんとなく』……平凡なサラリーマン・天地は、ある夢を見た日を境に、世の中のあらゆるものに実在感を感じなくなっていた。まるで、この世にいるのは自分だけで、他はすべて想像の産物であるかのような感覚。それは、次第に強まっていき――。
「白い夜があった――」という不思議なモノローグで始まる恐怖短編。藤子不二雄の作品は、何でもない日常に異質な要素が違和感なく溶け込んでいくものが多いが、本作は逆に、何でもない日常に異質なものを感じさせるという手法を用いている。主人公の感じる恐怖は、現実ならば単なる妄想と取られようが、それで終わらないのがSFの怖いところだ。

『ミノタウロスの皿』……水も食料も底をつき、宇宙をさまよう一隻の船があった。たった一人生き残った男は通信で救助を求めるが、救助艇到着までは二十三日もかかるという。ボロボロになってようやく辿り着いた惑星、そこは、ズンと呼ばれる牛型ヒューマノイドと、ウスと呼ばれる人類そっくりの家畜が暮らす奇妙な星だった――。
まったく異なる文化に立ち向かう者の虚しさを描いた作品。作中で主人公は、「彼ら(ズン)には相手の立場で物を考える能力がまったく欠けている」とこぼすが、実際のところズンが地球にやって来て、牛を食べる人類に向かって、「残酷だ!」と言ったところで取り合う者は誰もいまい。自分が食べられることの喜びを語るヒロインの笑顔はなかなか不気味。

『カンビュセスの籤』……エチオピア遠征の途中、部隊を脱走した兵士・サルク。追いすがる仲間達を振り切り、霧のたちこめた谷を抜けると、そこは荒廃した未知の世界だった。見渡す限りの砂漠を歩き続け、彼はようやく人の存在を確認するのだが――。
世に言う『カンビュセスの籤』をネタにした、凄まじくハードな終末物語。十人の内一人が食料にされるという地獄から、さらに恐ろしい事態が待ち受ける地獄へと放り出される主人公はひたすら悲惨である。なぜ、同族を食らってまで生きのびるのか? 読者に根源的な問いを突きつける傑作と言えよう。ちなみに、アニメ版にはオリジナルの演出があり、それがまた鳥肌が立つほど怖かった。必見。

『箱船はいっぱい』……マイホームに憧れる大山は、隣に住む細川から、地価だけでも二千万はする新築の家を五百万で買ってくれないかと持ちかけられる。喜び勇んで家に帰るが、妻は何かおかしいと思案顔。そんな時、ノア機構の連絡員と名乗る男が現れ――。
現代版、彗星騒ぎの話。溺れる者は藁をも掴むと言うが、自分達だけでも生き延びられるなら、と、資金繰りに走る人間の姿が実にリアルだ。自分さえ助かればそれでいいのか! と主人公は怒るが、立場を変えれば彼も同じように他者を騙したであろう。二段構えのオチのついた、完成度の高い作品。


他にも沢山あるのですが、割愛。
個人的には、『ひとりぼっちの宇宙戦争』『流血鬼』なども欲しかったが、それは二巻に収録されている……のだろう。

ブラックなオチが嫌いじゃない方にオススメ。
でも、今でこそ子供漫画の顔になっている『ドラえもん』も、初期はダークな話が多かったなぁと思ってみたり。(笑)

見よ、彼女達はかくも美しい……

2007-03-20 23:55:11 | マンガ(少年漫画)
さて、奇しくもちょうど一年ぶりの紹介な第840回は、

タイトル:妖女伝説(全二巻)
著者:星野之宣
出版社:集英社 集英社文庫(文庫版初版:H8)

であります。

『ヤマタイカ』『2001夜物語』等、SF漫画の第一人者として知られる星野之宣のオムニバス短編集。
タイトルにある通り、どの短編も女性がキーキャラクターとなっているのが特徴。
漫画では珍しいパターンですが、気に入った作品をかいつまんで紹介します。

『砂漠の女王』……キーパーソンはエジプトの女王クレオパトラ。と言っても、物語はエジプトがローマに敗北するアクティウムの海戦から始まっており、その後、バア転生の秘法により復活する彼女の姿を追っていく。最初は自分を売ったヘロデ王の孫サロメとして、その次は、パルミラの女王ゼノビアとして転生したクレオパトラの行き着く先は……? サロメ対イエスの問答、ゼノビアと哲学者ロンギノスの奇妙な友情など、見所多数。ゼノビアのエピソードはサロメの話の八年後に描かれた続編だが、驚く程上手くつながっている。

『蜃気楼―ファタ・モルガーナ―』……キーパーソンは謎の美女モルガン。1928年の飛行船イタリア号遭難事件にアーサー王伝説の妖女モルガン・ル・フェを絡ませた意欲作で、北極の海を舞台に、見えども掴めない幻を追い続ける男達の姿を描いている。現れては消える謎の島と、どこにも存在しない理想の女性、二つが重なっていく展開は見事。ゲストとして、南極点に初めて到達したことで知られる探検家アムンゼンが登場するのも面白い。

『歴史は夜つくられる』……キーパーソンは秘密(笑)。1912年をキーワードに、ある豪華客船(これまた秘密)に歴史の有名人を集めてみました~、という作品。普通なら空中分解しそうなものだが、世界中が注目する秘密文書(これも秘密……)を核にすることで、かなり面白い話に仕上げてくれている。謎の登場人物達の正体が、物語の最後で一気に明かされるラストは圧巻。

『ボルジア家の毒薬』……キーパーソンはルクレツィア・ボルジア。イタリア全土征服の野望を抱くチェーザレ・ボルジアの軌跡を追いつつ、彼の妹ルクレツィアの奥に潜むドス黒い感情、それを知ったレオナルド・ダ・ヴィンチの苦悩を描く豪華な一品。本当に醜いのはルクレツィアか、それともこの世のすべてか? 謎の毒薬カンタレラの真実が明かされるシーンの迫力は凄まじい。

非常に豪華な短編集です。三重丸のオススメ。
歴史物に秀作が多いのですが、作者の真骨頂であるSF話もあったりします。

ゲーム業界って……

2007-03-12 23:15:09 | マンガ(少年漫画)
さて、本当は少女漫画家になりたかった……らしい第832回は、

タイトル:ジャングル少年ジャン番外編 ドッキンばぐばぐアニマル(全三巻)
著者:柴田亜美
出版社:アスペクト アスペクトコミックス(初版:H10)

であります。

週刊ファミ通に連載されていた、ゲーム業界四方山話漫画。
格闘ゲーム大好きでホラーゲーム大嫌いな作者が、担当のオザワ君と共に、あちこちのゲーム会社を荒らして回ります。(笑)
ジャングル少年ジャンの番外編、ってことになってますが、本編とはまったく無関係です。(をい)

一言で言うと――
変です。
何がって? いや、何もかもが。(笑)

基本的な内容は、「アポなしでゲーム会社を訪れ、暴れる」か「行く暇がなかったので作者の日常を描いて穴埋めする」のどちらか。
日常編も笑えるのですが、本作の目玉はやはり、作者の暴走が凄まじい取材編でしょう。

取材先の仮眠室で寝る!(をい)
受付に座って電話を取る!(こら)
案内役の目を盗んで金庫を調べる!(犯罪)
開発室のキーボードに日本刀をぶっ刺す!(危険)
肉じゃが作って、鍋ごと差し入れに行く!(微妙にいい人だ)
ちなみに全部証拠写真付き。(これが一番笑えるかも)

無論、作者が暴走するだけではお話にならないので、迎え撃つゲーム会社の方々も変な人が揃ってます。
接待ゲームで本気を出す大人げない人、仕事サボってワールドカップ見に行く人、発売日の二日前に手に入れたゲームを見せびらかす人……ゲーム業界ってこんな人ばっかりかい、ってな方々がズラリ。
特に、ほぼレギュラーと化しているセガ、SNK、カプコンの方々はキャラが立ちまくっており、「ギャグめかしてるけど実話だろ?」とツッコミ入れたくなるヤバイ話をさんざんして下さいます。

ルポ漫画だけあって会話が非常に多く、その殆どが掛け合い漫才になっているのも特徴。
どちらかと言うと大ゴマの印象が強い方ですが、本作は小さなコマを多用し、可能な限り台詞を詰め込んでます。一話四ページだけど、情報量はかなりのもの。
殆ど創作なのでは? と思われるかも知れませんが、時々、妙に現実臭い台詞が混じっており、侮れません。
(柴田亜美の電話番号とFAX番号を間違えた時、電子手帳を確認して、「つまりこの事件の犯人は最初からいなかったということですね!」とにこやかに言い放った中×光一とか、かなりガチっぽい)

どこまでデフォルメで、どこまで現実なのか考えずに読むのが吉。
しかし……失敗作とか、ポシャったネタの話は冗談抜きでヤバイよなぁ……。

実はカードの方がオマケだったり(笑)

2007-02-17 20:41:43 | マンガ(少年漫画)
さて、別にカードゲームに興味はないが、な第809回は、

タイトル:デュエルファイター刃(全7巻)
著者:中村哲也
出版社:ホビー・ジャパン

であります。

対戦型カードゲーム『マジック・ザ・ギャザリング(以下、ギャザ)』をネタにした少年漫画。
ボンボン、コロコロ等でよく見かける『主人公がある遊びにハマってライバル達と戦う漫画』と同じ系列の作品……だったのですが、終盤はむしろファンタジーバトル物に近くなりました。

ストーリーは、東京ジュニアトーナメント準優勝の実績を持つ主人公・竜ヶ崎刃が、ヴァーチャル対戦システム『Planes Walker』を使用したギャザの大会に参加し、ライバル達としのぎを削るというスタンダードなもの。
全日本ジュニアトーナメント終了後は、大会で得た仲間達とともにジュニア世界選手権に挑むという、これまた王道な展開が待っています。
普段は割と大人しいけどギャザのこととなると熱くなる主人公・刃、刃の幼馴染みでひたすらつくすタイプのヒロイン・マドカ、刃の親友で東京ジュニア王者のシュン、『Planes Walker』のテストプレイで刃を破った強力なライバル・アキラなど、キャラクターのラインナップも非常に王道――。

誰だ、王道ばかりで面白くないとか言ってるのは?(笑)

しかしこの漫画、王道に見えて王道でないところが一つあります。
このテのタイアップ漫画という奴は、商品の紹介を行い、販売促進の一翼を担わなくてはならないという宿命があるのですが、本作は途中からほぼ完全にその役目を放棄し、ストーリー重視の方向にシフトチェンジしているのです。
もっとも、ギャザはさっぱり解らないし、プレイする気もない私にとって、これは非常に有り難い話ではありましたが。(笑)

そもそも初手からして、アンタップやマナカーブといったゲーム専門用語がバンバン飛び出す上、キャラが使用するカードの情報も小さく表記されるだけという、初心者お断り仕様。
一応、キャラ同士の対戦の解説コラムが各話の間に入っているのですが、やはり元ゲームを知らない人間にとっては、ちと解り辛い内容でした。
この時点で既に、新たな購買層を作るという目的はすっ飛ばされています。ある意味潔いとは言えるが。

では、既存のプレイヤーから見て、ギャザを視覚化した楽しい漫画だったかと言うと……実はツッコミ所満載だったようです。
カード情報の間違い、ルールの間違い、プレイの稚拙さなど、とにかく対戦部分のアラが多かった、と聞きました。(元ゲー知らない私はただ聞いてるだけ)
まぁ、ギャザ自体が、カードに幾つものバージョンが存在し、時間と共にルール変更でバランス調整をしているゲームらしいので、正しいプレイもしくは上手いプレイを演出するのが難しいという事情はあったようですが。

じゃあ、私自身はどうだったかと言うと……結構面白かったです。
対戦で何をやってるかは憶測で補えばいいし、キャラクターも結構出てくるし、作者も開き直ったのかゲーム無視してキャラ同士のストーリーをガンガン進めるしと、普通の少年漫画として楽しめました。
特に、最終六、七巻は普通の対戦そのものがなくなり、ギャザのカードの怪物や呪文を使ったファンタジーと化して、『Planes Walker』の秘密、開発者であるブラスの正体、ヴァーチャル世界を彷徨うアキラの妹・アーシュラの真実など、数多くの謎に迫るストーリーがノンストップで展開されます。
取って付けたようなオチでまとめてるけど、視覚的に格好良いシーンが多かったので、少年漫画的にはオッケー……かな。

ゲームのファンにはオススメしませんが、な~んも考えずにさらっと読むには結構悪くない作品。
割と可愛らしい絵柄なので、ビジュアル重視の人にも向いているかも知れない。
刃の兄貴分である『火事場力』が異常に格好良いので、私はそれだけでも満足だったりしますが。(爆)

ジーザスッ!

2007-01-24 23:54:26 | マンガ(少年漫画)
さて、このところずっと遅くてすいません、な第785回は、

タイトル:ジーザス(全13巻)
原作:七月鏡一  漫画:藤原芳秀
出版社:小学館 少年サンデーコミックス(初版:H5)

であります。

今だと『闇のイージス』で知られる名コンビの放つ、ハードボイルド・アクション。
元傭兵の暗殺者ジーザスが、なぜか高校教師になってしまうという奇抜な設定で人気を博しました。
七月鏡一の特徴である芝居がかった台詞回しと、『拳児』で知られる藤原芳秀のアクション描写の相性は絶品で、非常にノリのいい娯楽作品に仕上がっています。



闇の世界には、伝説めいた話がいくつも転がっている。
その中の一つに、奇妙な通り名を持つ暗殺者の物語があった。
血と炎にまみれた死神……奴の名は、ジーザス!

狙った獲物は必ず仕留め、襲い来る敵はすべて血の海に沈める……ジーザスはまさに無敵だった。
だが、ある巨大な犯罪組織から1トンものヘロインを強奪したことが、彼の寿命を縮める。
逃亡の末、追い詰められたジーザスは、数十発の銃弾に貫かれて東京湾に浮かんだ。

翌日、市立新星高等学校に一人の教師が赴任してきた。
黒板にまともな字が書けず、生徒に間違いを指摘されて赤面する、絵に描いたような素人教師。
藤沢真吾……彼こそ、身代わりを使って生まれ変わったジーザスだった――!



本作の内容は一言で言えます――

「ジーザスッ!」
(畜生、くそったれ、何てこった等の意)


これがすべてです。(笑)

作品中でしつこいぐらい使われるこの台詞、単に主役の名前ってだけではありません。
これ実は、ジーザスと対決して破れた者が最後に叫ぶ定番台詞なのです。
この後に、「それが俺の名だ――地獄に堕ちても忘れるな」とつなげるのが基本パターン。
悔しそうに、「ジーザス!」と叫ぶ敵→それを嘲笑いつつ決め台詞を吐くジーザス……最終回まで続くこの連続技は作品に不動の個性を与え、他所でパロディネタにされるぐらい有名になりました。

ストーリーは東京を舞台にしたガンアクションなのですが、そこかしこにハードボイルドをおちょくるようなネタが転がっており、少年漫画らしさを出しているのも特徴。
そもそも、凄腕の暗殺者であるジーザスが高校教師をやるというシチュエーションからしてギャグ調なのに、シャーペンのキャップを抜く音を手榴弾のピンを外す音と勘違いしたり、背後に立った同僚に手刀を入れそうになったり、隠し持っていた愛銃を発見されて至近距離でぶっ放されたり(初弾は抜いてあった)と、学校は危険が一杯です。(笑)
その癖、闇の住人が関わってきて、平和な学校が本当に危険なバトルフィールドと化すと、ジーザスは途端に元気になります。ここらへんは、変身ヒーローのノリに近いかも。

ジーザスが光と闇の境界線にいるためか、異なる属性のサブキャラが登場し、その誰もが何らかの形で自分の属さない世界に足を踏み入れることになるのも面白い要素でした。
天ボケ体質ながら異常な度胸を誇る新任教師・水谷小百合は弟絡みでヤクザと関わることになり、一匹狼の不良生徒・戸川誠治はジーザス打倒に固執するあまり何度も命を落としかけます。
ジーザスのみならず、こういったサブキャラの変化も丁寧に描くことで、ちゃんと群像劇を成立させているのは見事。

中でも最も変化が顕著だったのが、ジーザスの裏キャラとも言える凄腕のスナイパー・御堂真奈美。
ジーザスの正体を掴み、確実に抹殺するために新星高校の養護教諭となった彼女は、生徒と関わることで次第に光の世界に傾倒していき、眠っていた自我に目覚めます。
スーツが似合う長身、遠距離からの一発で戦況を覆す腕前、凄惨な過去、ジーザスとの奇妙な友情……彼女の魅力を挙げていったらキリがありません。
当然、私の一押しキャラです。(笑)

とまぁ、いいとこばかり挙げてきましたが、引っかかる点も多少あります。

一つは、重要な敵キャラだった三崎かおるの没落っぷり。
御堂の上司であるこの方、最初こそ意味深な台詞を吐きまくる素敵な悪役だったのですが、一度ジーザスに破れてからは組織に寄生する小物と化し、株が急落。
ジーザスを仲間に誘ってもまったく相手にされず、俗物根性が目立ちだしたため御堂にも見切りを付けられ、ほとんどいいとこなしのザコと化して破滅しました。合掌。

あと、後半になって絵が崩れ始め、どのキャラも平面顔になってしまったのもマイナス。
同時に人気も下降したのか、最終エピソードはほとんど駆け足状態で終わってます。
それでも、最終回は結構好きだったりするけど。(爆)

劇画調ですが、紛れもない少年漫画です。オススメ。
ジーザスは『闇のイージス』にもゲスト出演しているので、よろしければそちらもどうぞ。