つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

すいません^^;

2012-08-22 20:23:04 | 恋愛小説
さて、だいぶん間隔が長くなってしまってすいませんの第1024回は、

タイトル:陽だまりの彼女
著者:越谷オサム
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'11)

であります。

いや、本は読んでなかったわけではないのです。(なんか前にも言ったな、これ(爆))
今回は読んでいたのが、すでに記事になっている9Sシリーズだったりとかして、記事にならなかったんです^^;

で、ようやく予約の順番が回ってきた本書をようやく読了したので、記事にすることができました。
確か書店で見たときには「女子が男子に読ませたい」という帯の文句があって、それに興味を惹かれて図書館で予約したと思います。

さて、ストーリーは、

『僕――奥田浩介、鉄道関係の広告代理店に勤めるまだ二年目の平社員。
今日はいわゆる「お供の若手」として、近年成長著しいランジェリー・メーカー「ララ・オロール」の営業に上司にくっついてきていた。
だが、そこにいたのは中学時代の幼馴染み、渡来真緒とその上司だった。

中学時代、かわいいけれど、分数の計算もできない学年有数のバカだった真緒。
そのこともあってか、真緒はいじめられっ子だった。
だが、あることをきっかけに僕は真緒を助けることになり、またそれをきっかけにして僕と真緒は中学時代、浮いた存在としてクラスからも教師からも見られるようになっていた。
それは僕が中学三年のときに転校するまで続き、その間、僕は真緒に懐かれていて、よく勉強を教えてやっていたりしていた。

そんな真緒が十年ぶりに僕の前に現れたときには美人で、モテ系の出来る女へと変身していたのだ。
新規のクライアントとして「ララ・オロール」との交渉に挑む資料を作ったのは僕で、その資料にミスがあって、さらにはそれを真緒に指摘されてしまったのだ。
それがきっかけで交渉は真緒のペース。
中学時代とはまったく逆転してしまっていた。

けれど、仕事でのやりとりを続けていくうちに、真緒とのやりとりは次第に仕事絡みの他人行儀なやりとりから、次第にくだけたものに変わっていった。
そして仕事以外で会うことも多くなり、徐々に僕と真緒の距離は縮まっていく……』

すいません、あらすじが短いのはネタバレを防ぐためです。
あんまり長く書いてしまうとホントにネタバレになってしまって、どうしようもないのでこれくらいにしておきます。

さて、第一印象ですが、やはり男性の書く恋愛小説だなぁ、と言うところでした。
はっきり言って情趣にも雰囲気にも乏しく、世界観に浸れない作品で、読み進めるのにだいぶ苦労しました。

ストーリーは、僕こと浩介と真緒の甘々のラブストーリーです。
ここで断言しておきますが、さぶいぼ症候群の方は手を出さないほうがいいです。
ベタ甘です。
幸せオーラ満載です。
そういうのが苦手な人にはこの作品は無理でしょう。
私はまだ耐えられるほうなのでいいのですが、そうでなければ読み進めるのは無理だと思います。

さて、さぶいぼ症候群を発症しない方には、出来のいい恋愛小説である、といえるでしょう。
甘々な僕と真緒のやりとりや真緒の不可解な行動、些細な喧嘩と仲直りなど、恋愛小説の定番は揃っていますし、そんな中にラストに至る伏線が周到に張り巡らされていたりと、小説の構成としてはかなり出来がいい作品です。
ラストまで読んで、なるほど、あの日常の光景や過去話は伏線だったのかと、うまく作られた展開には素直に感心しました。
またタイトルと作品の内容とのマッチングもよく考えられているなぁ、と言う印象があります。

ストーリーは再会から付き合うようになり、そして駆け落ちまがいの結婚をしてのふたりの十ヶ月を描いたものです。
ラストは作品解説でも触れられていますが、私はハッピーエンドだと思っています。
確かに作品解説で語られているように浩介の今後を不安視する視点もありだとは思いますが、個人的には悲恋ものとは思えないので、ハッピーエンドでいいのではないでしょうか。

キャラはしっかりしています。
……が、平凡な浩介と、ラストで明かされる真緒の正体とその性格の関連性など、主人公ふたりはよくできています。
まぁ、ほとんどふたりだけの世界を作って構成されているので、脇役などはほんのスパイス程度です。強いてあげるなら真緒の養父母ですが、これも浩介の上司と言ったスパイス程度よりは出番が多いと言う程度のものなので、やっぱりスパイスの域を出ないでしょう。
もっとも、浩介と真緒ふたりの激甘ラブストーリーなので、さほど気にする必要はないでしょう。

文章も一貫して浩介の視点で描かれ、ブレがないのが好感が持てます。
読みづらい点もありませんし、章立ての最後に語られる浩介の一言などにくすりとさせられる場面もあるでしょう。(私はさしてありませんでしたが(笑))
文章面でも及第点ですし、ちょっとしたスパイスもあり、よくできた文章と言えるでしょう。

さぶいぼ症候群の方を除けば、客観的に見て、小説としてよくできた作品、と言えます。
万人にオススメできるほうではないですが、作品として見るならば良品と言えると思います。

ですが、作品の帯にあった「女子が男子にすすめたい」という文句――これははっきり言って疑問です。
中学時代の幼馴染みがモテ系の美人になって再会し、恋人になり、幸せな結婚生活を送る――男性受けはするでしょうが、女子が薦めたくなるような作品とはとうてい思えません。
個人的にも雰囲気に乏しいし、おもしろい作品だとは思いませんが、周到に張り巡らされ、日常の中に隠された伏線やそれを収斂したラストなど、小説としての出来はかなりいいので良品の評価をしたいと思います。
個人的な感想と客観的評価は別ですので。

と言うわけで、総評、良品。
……でもやっぱり男性向けで、「女子がすすめる」と言うところには違和感を拭えません^^;


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う~ん、こんなもんか……

2012-04-15 14:45:42 | 恋愛小説
さて、第1008回は、

タイトル:雨恋
著者:松尾由美
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'07)

であります。

相方が読んでいましたね、この人(笑)
読み返してみると、なかなかミステリとしてはそれなりの評価をしているようですが、本書はミステリではなく恋愛小説。
紹介文には「驚愕の事実」とか、「名手が描く、奇跡のラブ・ストーリー」とか、煽りまくってくれているけれど、どうなることやら……。

ストーリーは、

『沼田渉は、些細なことでアパートの隣人との関係が険悪になったことで、引っ越したいと考えていた。
そこへ降って沸いたのが叔母の寿美子がロサンゼルスへ異動になったために、住んでいたマンションと管理と2匹の子猫の世話を兼ねて住んでみないかという話だった。
結局、その話を承諾し、叔母のマンションに引っ越してきた渉だったが、そこにいたのは2匹の子猫だけではなかった。

ある日、マンションに帰ってきて家事をしていると、リビングのほうから話し声が聞こえた。自分以外は誰もいないはずの部屋で聞こえる声に薄気味悪さを抑えながら入っていくと、はっきりと声が聞こえる。
声の主は小田切千波。このマンションで自殺したとされるOLだったのだが、千波の話では自殺ではなく、誰かに殺されたと言うのだ。
実際、自殺しようとして遺書も書き、青酸化合物も手に入れた千波だったが、青酸化合物を飲むために開けたシャンパンのコルクが天井につり下げられた扇風機に引っかかったことがきっかけで自殺を取りやめたのだが、どうやらそこに居合わせた誰か――犯人に――扇風機に引っかかったコルクを取ろうとして椅子から転げ落ち、気絶した千波に青酸化合物の入ったシャンパンを飲ませて殺害した、らしい。

犯人が誰なのか知りたいのか、未練があるのか、死んでから千波は幽霊としてマンションに現れるようになっていた。
渉としてはこんな幽霊がいては精神衛生上よろしくない。単なるオーディオメーカーの営業に過ぎない渉に何ができるかはわからないものの、千波からの情報を得て、渉は犯人捜しに協力することになるのだが……』

ミステリ風味の恋愛小説もどき――。
第一の感想はそんなところでしょうか。

ストーリーは、犯人捜しに協力することになった渉が、いろいろと情報を得て犯人である可能性のある人物に会ったり、話をしたりして、千波の他殺を証明しようとする中、千波はと言うとひとつひとつ可能性をつぶして納得していく過程で、声だけだった姿が足だけ見えるようになり、ひとつ納得していくと今度は下半身、上半身と姿を取り戻し、それに渉は不気味さと居心地の悪さを感じつつも千波に惹かれていく、というもの。
犯人捜しの手法は、ミステリっぽいものですが、あくまで「っぽい」だけで「驚愕の事実」というほどのトリックがあるわけではない。
恋愛小説部分も、どこが「奇跡のラブ・ストーリー」なのか教えてもらいたいくらい、淡々と進んでいく。
文体が渉の一人称なので、その心の動きはしっかり描かれてはいるものの、さして感慨を覚えるような展開はない。
まぁ、相手が幽霊なので、恋愛小説としてのオチは定番なので、そこに切なさを感じるかもしれないけれど、私にはまったくそういった感慨は感じられなかった。
ミステリとしても恋愛小説としてもなんか中途半端で、消化不良を起こしてしまいそうな感じかなぁ。

ストーリー展開としては無理はない。
「驚愕の事実」はないにしても、犯人捜しから解決に至るまでの流れはスムーズで破綻はないし、納得できる内容にはなっている。
文章も渉の一人称の範囲を逸脱することなく、視点がぶれることもないので読みやすいほうでしょう。
雨の日にしか現れることができない千波を、最初は薄気味悪く、また姿が見えるようになってからの不気味さから、千波に惹かれていく展開も、うまく描いているほうでしょう。
共感できるかどうかは別として。

ただし、作品としてはよくまとまったものだとは言えるけど、恋愛小説と言うほど甘さや人間関係のドロドロした部分もなければ、雰囲気も感じられない。
解説ではいろいろといい点を挙げてはいるものの、はっきり言ってそこまで褒めるような内容になっているのか疑問……。
唯一、あぁ、そうね、って思えるのは「雨恋」が「雨乞い」でもある、と言うところくらいだろうか。
千波は雨の日にしか出てくることができないのだから。

なので、総評としてはかなり微妙なライン……。
客観的に見て、ストーリー展開とかには難がないものの、個人的には雰囲気も余韻もなく、おもしろみに欠ける作品と言ったところだから、及第にするべきか、落第にするべきかが悩ましいところ。
まぁ、あえて判断するとすれば、紹介文のまずさから、落第と言ったところかな。
ホント、いったい何をもって「驚愕の事実」だとか「奇跡のラブ・ストーリー」なのか、書いた人間の顔が見てみたいくらいの内容なので、紹介文にだまされて読むとバカを見る、と言うところでマイナスをつけておきましょう。


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地域限定って……

2012-03-10 13:45:49 | 恋愛小説
さて、なにげに角川文庫が多い気がしないでもない第993回は、

タイトル:まほうの電車
著者:堀田あけみ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'96)

であります。

……読んだことないひとだと思っていたら、読んでいましたね、この人……(笑)
しかも×つけてるし……。

ブランクが長いと1回でも読んだことがあるひとなのかどうかもう忘れてますね。
はてさて、2冊目となる本書はどうなることやら……。

ストーリーは、

『ひめこは、怒りにまかせて渋滞で止まっている車から降りて歩き出してしまう。
運転席に座っているはずの恋人は追いかけてきてもくれない。赤信号で止まらざるを得なくなって車を振り返って誰に言うともなしに呟いた一言に、思わぬ返事が返ってきた。
それがタツヤとの最初の出会いだった。
第一印象は最悪。けれど、ほとんど勢いと機嫌の悪さでタツヤを自棄酒に付き合わせることに。

でもそれっきりの関係のはずだったが、偶然タツヤと再会することに。
そのとき、特に行く気もなかった店長の恋人の誕生パーティへ向かう途中だったひめこは、それをキャンセルしてタツヤに誘われるままに食事をすることになる。
その席で美容師見習いのタツヤにワンレンボディコンの容姿を指摘され、髪を切ったほうがいいと言われる。

そのときは反発したものの、後になってひめこは友人と行ったコンサートの帰りにタツヤが務める店へ赴き、タツヤに髪を切らせ、ショートカットにする。(無論、見習いのため、ひどいことになって後から師匠であるジュンさんに整えてもらった。)
そこからひめこは変わり始め、タツヤとの関係を進展させていくことになる。』

前に読んだ「恋愛びより」でも書いたけど、

ホントに読みにくいね、

この人の文章。


体裁は「恋愛びより」と同様、彼彼女で語られる一人称なんだけど、とにかく視点がころころ変わるのが読みづらくてかなわない。
視点を変えるために、「※」を使って区切る手法は別段問題ないのだが、視点の変化が長くても数ページ、短ければ20行もしないうちに、ひめこ、タツヤ(中盤からミヤコと言う女性も加わる。)と変わっていくため、ストーリーがぶつぶつ途切れてしまうような印象を与えてしまう。
おまけに誰の視点かを判断するのが彼、彼女と言う単語で、しかも彼女(=ひめこ)の視点で書かれていても、タツヤのことを「彼」と表現していたりして(これはタツヤの視点の場合でも言える)、どっちの視点なのか判然としない場合も多々あるなど、読みづらさ倍増。

それにめげずに読んでいってストーリーはと言うと、舞台は名古屋。偶然の出会いから始まり、その出会いから変わっていく24歳のブティック勤務のフリーターひめこと、19歳の美容師見習いのタツヤとの恋愛の過程が描かれたもの。
中盤以降、モデルをやっているミヤコと言うタツヤに惚れる女性が火種を置いていくものの、基本的にはひめこ、タツヤの両方の視点で思いを深めていくと言ったストーリー展開。

ドロドロした部分は少なく、ストーリーとしてはあっさりめで、そのせいか、ひめこがタツヤと付き合っていく中での心理描写とかが薄っぺらい印象。
これはタツヤの視点で書かれている場合でも言えることで、おかげでキャラに深みが感じられない。
視点がころころ変わる読みづらさと相俟って、全体的に薄っぺらい作品になってしまっている。

おまけにこの作品が名古屋の情報誌の連載だったものだから、地元色が強いのも難点。
あとがきで「この話の舞台は、一話ごとに地下鉄東山線の駅を名古屋から一社まで西から東へ、一つずつ進んでいます。」と書いてあって、そんな地元民でなければわからないようなことをアクセントにされても地元民でなければまったくアクセントにもなりゃしない。
最初は名古屋の出版社で別の題名で出版されていた作品で、改題して本書になったわけだが、はっきり言ってそこで止めておけばよかったものを、と言う気がする。
薄っぺらいストーリーとキャラに加えて地域限定のネタがアクセント、って全国区で売り出すには不向きすぎる。

と言うわけで、満場一致(?)で落第。
あーあ、結局2冊目もダメだったか……。もう読まないだろうな、この人……。


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うろ覚え真っ最中

2008-01-27 00:41:54 | 恋愛小説
さて、昔読んだのを記事のするのは初めてだなぁの第941回は、

タイトル:e・tude―由梨香・思春譜
著者:吉岡平
出版社:富士見書房(初版:'88)

であります。

えー、昔読みました。
つーか、何年前だ? ってくらい昔で、いまでは絶版になっている文庫です。
ちなみに、知っているとは、ピンッと来るかもしれませんが、一部ではかなり有名な「くりぃむレモン」というアダルトアニメシリーズの中の作品のひとつで、その小説版です。

ストーリーは、
『由梨香は、外交官の父、ピアニストの母の間に生まれ、幼いころから外国で育った帰国子女だった。
母とおなじようにピアノを習っていたが、性格はおとなしいふつうの少女で、日本に戻ってきてからは転入した高校で仲のよい友人も出来、平穏な日々を送っていた。

そんな中、友人のひとりがはまっているインディーズのバンドのメンバーである亮に惹かれる由梨香。
だが、ふたりの関係はもともと心臓に持病があり、そのことを由梨香の父から知らされた亮が由梨香から離れていってしまう、と言う現実を招いてしまう。

その哀しみを癒すべく、友人たちとともに出かけた海辺の別荘で由梨香たちは別荘にあったピアノを調律するために呼んだ調律師、圭吾に出会う。
音大生なのに休学し、稼業のピアノ店を継ぐために調律師として働く圭吾は、しかし独特の感性を持つ優れたピアニストであった。
亮のときとおなじように、友人が惹かれていたおなじ相手……圭吾に惹かれていく由梨香。

友人の豹変、圭吾のピアニストとしての力……様々な経験を経て、圭吾とおなじコンクールへ出場することになった由梨香は……』

えー、とてつもなく懐かしい作品……というと年齢がバレるか……(笑)

しかし、うろ覚えながらこの作品、かなり印象的な作品で手元に本がないながら、ほとんど思い出せます。
まず、アニメ版のこの作品、2巻に分けられているが、アニメ版と小説版では結末がまったく違う、と言うこと。
アニメ版では、亮との恋に終止符を打たざるを得なくなった由梨香は、従弟で年下の少年との恋愛に活路(?)を見出すことになる。

だが、小説版では著者の吉岡平があとがきで書いているように、安易に流されてしまったアニメ版を反省し、今度はしっかりと主人公である由梨香の成長物語として、ごくごくふつうの物語になっている。

それが圭吾との出会いであり、コンクールの話につながるわけだが……。
「くりぃむレモン」というとアダルトアニメの金字塔、美少女系アニメの先駆けとして極めて有名なのだが、はっきり言って、いま考えるとこの程度……というか、これをアダルト=18禁で出していたのが不思議なくらい真面目な話だね。

確かに、心臓病をおして亮と結ばれることを選んだことや、ピアニストとして惹かれあい、圭吾と身体を重ねると言う描写そのものは18禁と言えなくもないが、いまどきのラノベ(酷評したROOM NO.1301など)から見れば、まぁかわいいもの。
実際、初めて惹かれあい、破瓜を経験した亮、成長物語として必要だった圭吾との同衾、など、物語として不必要なものか、と言うとそうは言えない。
由梨香がピアニストとして成長するために必要な要素としてそういうシーンが描かれていて、無理がない。

ラストのほうでも、由梨香の母が、コンクールでおなじピアニストとして、少女から「女性」に成長した音だと評したのも、そうした経験を経て、由梨香が女性としてもピアニストとしても成長したのだ、と言うことをきちんと表現し、単にアダルトなだけの小説とは一線を画すもの、と言えるだろう。

ただ、いままでさんざんいろんな作品を読んできた経験から総評をするのであれば、上記にも書いたように、主人公である由梨香のふつうの成長物語としか言いようがない。
とは言え、アダルトアニメベースながらそこまで激しくはないし、成長物語としてはごくふつう。
いまでは絶版で手に入りにくい、と言うところがネックではあるけれど、もし手に入れられることがあれば、元ネタがなんであれ、手にするには安心な作品であると言えよう。

と言うわけで、総評は及第。
入手のしにくさ、ありきたりな物語の展開、ストーリー、と言う意味ではこのあたりが妥当ではないかと思う。
(著者注:この時点ですでにビール2リットル以上は消費しています(爆))

これはあり? それとも

2007-04-06 20:19:11 | 恋愛小説
さて、名前は知ってるけどねぇの第857回は、

タイトル:恋愛物語 ラブピーシィズ
著者:柴門ふみ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'97)

であります。

「あすなろ白書」や「東京ラブストーリー」なんかで有名なマンガ家である柴門ふみだけど、これはなんと短編小説集。
このひとの作品、ドラマはもちろん、コミックスさえ読んだことがないんだけど、短編集なんか出してたんだとちと感心して借りてきた。
全部で11編が収録された本書のストーリーは、以下。

……と言いたいところだけど、いちいちおもしろくもない話を書く気にはなれないので、印象に残ったいくつかを。

「サイクリング・デイズ」
『ぼくが大学生のとき、突然加那子がいくつかの質問をぶつけてきて、そして「あたしたち、結婚するのよ。ねえ、いい考えだと思わない?」と言ってきた。
そんな加那子だったが、ぼくは加那子を自転車の後ろに乗せて、いろんなところを回りながら加那子への愛情を深めていった。

資産家のひとり娘で誰もが羨むような結婚を手に入れたぼくだったが、ふたり自転車でいろんなところへ行った日々はもう過去のものだった。』

最初の作品で、恋に落ちる過程をすっ飛ばしたところが唐突ではあるが、逆玉となった「ぼく」の不器用な加那子に対する気持ちを表現したラストの余韻がいい。

「届かぬコール」
『江梨子と薫子は、まったくの赤の他人なのに、とてもよく似た友達同士だった。
趣味や嗜好すらも似ていたふたりだったが、男の趣味だけは違っていたため、いつも仲良しで、似ていることをいいことに、いろいろといたずらを想像しては楽しんでいた。

しかし、いつの日か、薫子は行方不明になってしまう。
帰ってこない薫子を待つ江梨子と、薫子の恋人の遠矢。江梨子がいない微妙な距離感の中、江梨子は遠矢を励まそうとするが……。』

これは江梨子の微妙に揺れる心情を中盤から後半にかけてうまく描いた作品。
プロローグの部分とも対応させたラストの余韻がよいのがいい。

「ハウ・トゥ・フォール」
『旅客機の着陸のとき。
航空機事故で失った夫の恐怖を思い起こしてしまい、恐怖心を紛らせるのが常の私だった。
けれど、夫の死以来、落下という現象に恐怖していた私は、もう結婚するつもりはなかったけれど、結婚しないことを「大した問題じゃない」と言ったタカオの軽口と、私の手を握る手のぬくもりのおかげで、いつもよりも恐怖心は薄らいでいた。』

たった8ページのショートストーリーだが、夫の死や落下に対する恐怖、神様と言うキーワードをうまく使って、前向きに生きようとする「私」の姿がよく描かれている。
短く、一場面を区切ったようなストーリーなだけに、様々な想像力を掻き立てられる良品と言えよう。

「十月の天気予報」
『里美は、司法試験の勉強をしている久夫と一緒に暮らしながら、学習塾の受付をしていた。
だが、久夫は司法試験専門の予備校に通っているはずなのに、通っていない事実が発覚する。

けれど、それを見て見ぬふりをしていたあるとき、塾でとても成績のいいまちこが登校拒否になったため、塾で一緒にいてやってほしいと塾側と、まちこの母親に頼まれてしまう。
ちょっとした諍いから冷戦状態になった里美とまちこだったが、まちこの登校拒否の理由を徐々に理解し始めた里美は、まちこと徐々にうち解け始める。』

恋愛小説と言えばそうだが、どちらかと言うと、登校拒否の理由ともなった10歳のまちこが抱える少女らしい悩みのほうがほほえましくてよかった。

……と、印象的なのはこれくらいかなぁ。
他にも、「十一月のガーデン・パーティ」とか、逆の意味で印象的だったりするのもあったりするけど、これは悲劇を作りたいがためのあざとさみたいなのが感じられてダメ。
あとは盛り上がりに欠けたり、ラストが物足りなかったりと、いまひとつなのがほとんど。
中には、共感できるならばとてもおもしろいだろうと思える作品(「スプリング・コート」)があるが、完全に女性向けなのが残念。

それにしても、エッセイも書いているからか、文章で気になるような使い方とかがほとんどないのはいい。
時折、女性らしい細やかな感性をうかがわせる情景描写などもあり、もともとマンガ家の割に、文章は悪くない。

総評としては、短編小説として出来のいいもの、余韻の素晴らしいものなどはあるが、いまいちなのもある、と言うことで短編集の定番気味の及第、ってところだろうね。

このカテゴリは久しぶり?

2007-03-06 23:24:55 | 恋愛小説
さて、前は2月3日だったの第826回は、

タイトル:deep
著者:正本ノン
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

久々だなぁ……と思っていたら、2月3日の前は12月31日だった……(笑)
意外にカテゴリ分けてから伸びてないなぁ、とこれを書きながら気付く今日このごろ。

さて、早速本書ですが、表題作の「deep」に「flesh」という、ともに100ページ程度の中編が収録された作品集。
ともに、報われないことがわかっていながら、それでも関係を捨てられない女性の姿を描いた物語。
各話は次のとおり。


「deep」
コンパニオンをしているヨーコは、コンパニオンを必要とするイベントなどを運営する会社の哲生と付き合っていた。
妻がいて、さらに哲生が運命だと言う出会いをした愛人までいる哲生と、最初は遊びのつもりだった。
遊びのつもりがいつのまにか離れがたくなる。……妻がシャワーを浴びている合間、仕事先で、唐突に……たいてい哲生からの誘いを待つだけの関係。
ただ翻弄され、報われないままで過ごす関係にヨーコはようやく決心をする。

ヨーコの一人称で語られるもので、文章は段落が多く、けっこう紙面の白さが目立つものの、叙情的な語り方なので、独自の文体という印象がある。
キャラもほぼヨーコと哲生のふたりしか登場しないので、ヨーコの心の動きなどはよく見て取れる。
ストーリーも、報われないままでなく、ラストに颯爽とした余韻を残していて、出来は悪くない。

「flesh」
彼……山田真魚とは、広告代理店として仕事の依頼をすることで出会った。
恋はしてはいけない。けれど、真魚に惹かれるあなた(=私)は、彼の秘密の恋人である青年に、彼がホモセクシュアルであることを告げられる。
女性として愛してはもらえない相手。
だが、それでも最も身近で、安心できる相手だと思っていた。
そうした立場も、彼のエージェントだと言う女性によって崩れ去ろうとしていた。

これは「deep」のような雰囲気や文体を残しつつも、散文的な文体で、些細な出来事での別れと、事故死という別れに至るまでの「あなた」の姿を描いている。
彼を思い続ける中での期待、落胆、嫉妬などなど、登場キャラも多く、より情念の描き方が丹念。

また、この「あなた=私」という文章。こうした二人称を使うことで、読んでいる読者を主人公とする、と言う意図があるのだろうし、こうした作品やキャラに感情移入できるひとならば、この書き方はいいかもしれない。
まぁ、個人的にはかなり違和感のある文章なので、ふつうに「私」と一人称で語ってもらいたいところ。
最初のころは、いったい誰のことをさしてんのか、ぜんぜんわからんかったし。

さて、個別にはこんな感じとして……。
総じて、いまいちおもしろくない……と言う感じ、かなぁ。
と言うのも、山本文緒の「恋愛中毒」とおなじように、こうした報われないながらも離れられない主人公の姿に共感できるか、と言うところがミソではないか、と思うから。

共感できればおもしろく読めるのだろうが、共感できなければおもしろくないだろうと思う。
私も共感できるか……って言われるとなぁ……。
そういうわけで、出来ない派なのでおもしろくない、と。
しかし、出来る派にはおもしろい小説になるだろうと思われるので、及第と言ったところだろうねぇ。

どちらからでも

2007-02-03 14:33:31 | 恋愛小説
さて、これまた毛色の違う作品ねの第795回は、

タイトル:変奏曲
著者:姫野カオルコ
出版社:角川文庫 角川書店(初版:H7)

であります。

新しいひとに手を出してバカを見るよりやっぱ安心して読めるひとを……と思っていたらすでにこれが6冊目……。
一昨日も宇佐美游は4冊目かぁ、と思っていたが、こっちが一歩リードかな。

さて、本書は短編連作の形を取る4作の短編が収録されたもので、登場人物は時代は変わっているものの、すべて同一人物となっている。
華族の家柄である郷戸家、そこに生まれた男女の双子で姉の洋子、弟の高志。
姉の洋子は、幼いころ、伯母の家に預けられ、長い間、ふたりは離ればなれに育ってきた、と言う設定もすべて一緒。
各話は次のとおり。

「桜の章」
時代は現代。
婚約者の勝彦と仲人の家を訪れた帰り、洋子はふと立ち止まってしまう公園や街並みに既視感を感じ、克彦を連れて近くを散策していく。
目にした洋館、そこの離れにあるはずの八角形の建物……知らないはずのそれら。

結婚を取引だと考えていた洋子は、あるレストランで友人の潤子、そして知らない男の姿に帰り際、勝彦にある重大な決断を告げる。

「ライラックの章」
時代は大正。
洋子は、勝彦との婚約をすませ、あとは嫁ぐだけとなった残りの時間を、勝手気儘に過ごしていた。
先生について絵を描いたり、誘われて行った旅行先で高志、その友人の佐々木や、そこで知り合った女性たちとの楽しい語らいや遊び……。

結婚し、離れていってしまう姉に高志は秘かに思いを寄せていた。
それを知っているかのように戯れる姉、絵の先生である池田との嬌態をアトリエにしている八角形の建物で高志に見せつける姉。
あるとき、積み重なった欲望を姉の持ち物で慰めていた高志を姉は見つける……。

「柘榴の章」
時代は戦後。
借金を残して蒸発してしまった父。住み慣れた家を追われ、ヴァイオリンだけでは借金を返すことすら難しい中、元華族のみを扱う娼館で働くことにした洋子。
客を取り、身体を売る商売の最中、召集され、戦地で没した双子の弟、高志のことを思い出す。

勝彦との婚約、破談、絵の教師である池田との不倫……しかし、どの誰よりも洋子は高志の「帰ってくる」、その言葉だけを信じていた。

「羊歯の章」
時代は近未来。
不眠症の高志は、友人の佐々木からもらった睡眠薬を酒で飲み下し、朦朧とした意識の中、過去を思い起こす。
稚いころ、それが禁忌であることを知りながら、経血を陰部から吸い出すような関係を持っていた高志と洋子。

結婚し、家を出た洋子につけられた掌の傷。誰が好きなのか、そんな問いに姉以外の女性の名を続ける高志の掌に洋子がブローチの針でつけたものだった。
狂おしいまでに洋子を求める高志。……だが、一昨年、洋子は勝彦の上司である池田との不倫に逆上した勝彦に殺されていた。


なんつーか、もう、かなり淫靡なお話ね。
まぁ、離れて育った姉弟(兄妹でも可)が恋に落ちる、な~んて話はこの手の設定ではありがち。
けど、キャラは一緒だが、時代を変え、シチュエーションとかを変えた、淫靡な姉弟愛のお話は珍しいのかも。
探せば転がってるかもしれないけど。

構成は、「桜の章」から洋子の視点の話と、高志の視点の話が交互に語られ、「桜の章」は高志が出ず、「羊歯の章」は洋子が出ない、と言う形で対比を成している。
時代も最初と最後が現代以降、中のふたつが過去、と言ったふうに作られている。
キャラも「ライラックの章」「柘榴の章」はほぼ似たイメージだが、「桜の章」「羊歯の章」は微妙に主人公の双子が違うイメージがある。

こうしたところは、おなじキャラではあるものの、違った時代ということもあって、関連性が見えながらも違う話としてきちんと読める要素のひとつであろう。

また、「桜の章」と「羊歯の章」の視点が違うことと、その視点から見える物語の流れと結末によって、「桜の章」から見た場合と、「羊歯の章」から見た場合とで、作品全体の見え方が違ってくる、と言うのもおもしろい。
最初は「羊歯の章」のラストを読んだとき、「それが全部のオチかい」と思ったが、いろいろと考えてみると、そうしたいろんな見方が出来る、と言うのも本書の魅力のひとつであろうか。

しかし、あとがきで「男のひとが読んでもちっともおもしろくないやつを一度、やってみたかった」ってあーた……。
ここにふつうに、それなりにおもしろく読んだ野郎がいるんですが……(笑)

とは言え、これは確かに男性にはきついだろうなぁ。
おきれいな姉弟の禁断の恋愛を描いたものではなく、情念に満ちてどろどろしているし、読むひとによっては淫靡、と言うよりも淫猥で下品な物語に見えてしまうだろう。
個人的にはこういうのは嫌いではないのだが、やはり誰にでもオススメ、ってところがないと良品とは言い難いやね。
と言うわけで、及第がやっぱ妥当かね。

あぁよかった(笑)

2006-12-31 14:21:09 | 恋愛小説
さて、スリーセブンはどちらに? って計算しろと突っ込まれそうなの第761回は、

タイトル:蕎麦屋の恋
著者:姫野カオルコ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H16)

であります。

いったい何冊目だ、このひと……と思ったらすでにこれが5冊目だった……(笑)
ここまで数読んでる作家は、意外と少ないからなぁ。
まぁ、おもしろいから読んでしまうんだけど。

さておき、本作は表題作を含む3つの短編が収録された作品集で、3作とも違った形の恋愛小説となっている。
では、各話ごとに。

「蕎麦屋の恋」
一 京浜急行に乗った男の章
山藤製薬経理部課長、秋原健一。算盤が得意で、妻子のいる平凡なサラリーマンだが、妙に女性に好意を持たれるタイプだった。
会社初の女性部長の笛子、暗算の出来るところに憧れた間宮恵理、取引のある広告代理店の室長沙耶など……仕事に、愛する家族。平凡だがごくふつうの生活の中で、ふと関係を持ってしまう姿が描かれている。

二 京浜急行に乗った女の章
大学を卒業し、務めていた三隅商事を退職し、調理師専門学校を経て、その学校の臨時講師のようなことをしている波多野妙子は、成長過程から炬燵に入って誰かと一緒にテレビを見る、と言うのが何よりの幸せだった。
だが、そうした気持ちが理解されることなく、30を超えてしまった彼女は、いつもの「快速特急」で見かける男と短い会話を交わす。

三 京浜急行を降りた男と女の章
ふとしたことで知り合った秋原と妙子。ある日、秋原から仕事が終わった後、逢う約束をする。
ただ「快速特急」に乗っている間でも話が出来れば……それくらいのことだったが、途中普段は降りない駅で降りたふたりは、近くの蕎麦屋で夕食を取る。

その店の座敷席で、妙子は誰かとテレビを見ながら食事をする……そんな幸せを味わい、秋原もそんな妙子の様子を大人の余裕を持って眺めていた。

なんか、ほっとするような感じのラストだったなぁ。
蕎麦屋っていつまでたっても出てこないからどうなんだ、と思っていたけど、こういう使われ方なのね、って妙に納得。
しかし、三部作の主人公の境遇と似た感じのヒロインだが、こちらは何となくハッピーエンドな終わり方なので、すっきりしていい感じ。

「お午後のお紅茶」
総合美容師を目指す小林くんは、緊張したり恥ずかしいことがあると足の指がまるまる癖がある、美しいものには性別を問わないバイセクシャルな青年だった。
そんな小林くんが、恋人の二階堂さんと入ったときが初めてのお店「ポプリ」で知った女主と、その料理のコンセプトに足がまるまるのだった。

2度の食事から行かなくなった「ポプリ」だったが、美容室の先輩との話が弾んでいたため、3度目の来店となったそこで、足の指だけでなく、手の指までまるまりそうに……。

皮肉に満ちたユーモアで、くすっとさせられる良品。
ラストのオチにつけたのも皮肉が効いていておもしろい。

「魚のスープ」
学生時代の友人から送られてきた旅行代金半額のチケットでスウェーデンに行くことになった江藤夫妻。
夫である「ぼく」は、妻の桜子とともにスウェーデンで友人である本城和……通称カズと言う女性の案内で6日間の観光をすることになる。

大学時代の微妙な思いを抱えながら、カズと接する「ぼく」だったが……。

これは珍しく穏やかであっさりとした短編で、最後に「ぼく」が気付く大学時代の「ぼく」とカズ、そして最終的に桜子との生活を、改めて心に固める「ぼく」と短いながらもすっきりとまとまったものになっている。

とは言え、やっぱり、らしいのは「蕎麦屋の恋」や「お午後のお紅茶」だろうなぁ。
特におもしろかったかのは「お午後のお紅茶」だね。
「蕎麦屋の恋」はハッピーエンドっぽいところが意外だが、これはこれでありかな。三部作のうちの2冊だと、こういう終わり方はしていないから、たまにはこういうのがあるのはうれしいかも。

それぞれオチがけっこうよくて、この作品集は比較的、誰にでもオススメしやすい作品が集まっているのではないかと思うね。

うおぅっ、アテがはずれたぁっ

2006-12-16 16:44:28 | 恋愛小説
さて、こんなはずではなかったのにの第746回は、

タイトル:さよならから始まる物語
著者:倉本由布
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H1)

であります。

図書館、と言うのはおもしろいものがあるところだねぇ、としみじみ思う今日このごろ。
っつーか、こんなふっるいコバルト文庫あたりが平然と転がっているんだし。
とは言え、なぜそんなものを……となると、理由は単純。

このタイトル、この時代のコバルト文庫……
きっとさぶいぼ満開笑えるに違いないっ!(笑)
まぁ、あとは本棚にぎちぎちに詰められて、きっと誰も手に取っていないんだろうなぁ、とちと哀れになったのもあるんだけど……。

……と、はっきりと著者に失礼な期待をしつつ読んでみたところ……。


14歳の主人公、本田奈生は、学校の音楽室、合唱の伴奏の練習のため、音楽の先生を待っている間、居眠りをしているところに聞き覚えのあるピアノ曲が流れてくる。
それに目を覚ました奈生に、ひとつ先輩の森村和音は、それをショパンの「子守歌ベルスーズ」だと告げる。
その優しい調べと、優しい先輩に惹かれ、付き合うようになる。

大好きな和音とともに高校生へと成長していく中で、奈生は和音への思いで、ある気持ちを覆い隠していた。
しかし、それは奈生が望み、ピアニストへの決心をさせた和音の事故死によってなくなってしまう。
そのきっかけとなってしまった兄、尚樹。

様々な思いを押し隠し、成長していく過程で起きる家族の変化の中で、奈生はそのすべてに区切りをつけていく。


えー……、すいません、こういうしっとりとした雰囲気のあるお話は、大好きです(爆)
さぶいぼ満開で笑えるどころか……。
けっこう……いや、だいぶん、楽しませてもらいました(さらに爆)

まぁ、物語そのものは、奈生の幼いころの初恋を起点として、過去の家族の出来事や和音のこと、尚樹との関係の変化などを通じた、奈生のひとつの成長物語と言えるだろう。
べたべたなラブコメを期待していたのだが、そういうわけではなく、結局奈生は誰ともくっつかないのが、この時代のコバルト文庫にしては珍しいんかな。

ただ、こうした雰囲気の話だから仕方がない部分はあるが、展開がおとなしすぎるのが物足りないと見られることはあるだろう。
作品の雰囲気がいいから私は気にならないが。
あとは、時代もあるだろうが奈生を始めとする各キャラのいい子ちゃんぶりに耐えられなければ、読み進めるのは結構苦労するかも。

文章は奈生の一人称だが、奈生の友人、特に女のコ同士の会話となると、話し言葉がほとんど一緒のため、ときどき誰が何を喋っているのか、わからなくなるところが難点。
それ以外は特に問題はないが、区切り区切りの最後に奈生の、短い気持ちの単語が繰り返しになるところは好みが分かれるだろう。
私は作品の雰囲気を助長するいい使い方だと思うが、しつこいと思うひともいよう。

とは言え、個人的にはかなりいい意味でアテがはずれたほうなので、私的に良品……と言いたいところだが、オススメするにはいろいろと躊躇せざるを得ない部分があるので、及第、かと。
こういう時代のコバルト文庫を読んでいたひとには、懐かしさもあるので手に取るのは悪くないかもしれないけど。

へ~、ほ~、ふ~ん

2006-11-17 01:48:09 | 恋愛小説
さて、初手からけっこう冷めてしまったの第717回は、

タイトル:迷宮の月の下で
著者:水上洋子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H9)

であります。

確か、このひとはお初の作家……と思ったら同じ名前が二宮の「ふたりで朝まで」にあったりして……(笑)
さておき、確か、ではなく、ほんとうにお初の作家。

カメラマンをしている日高彩子は、個人の事務所を持ち、カメラマンとしての仕事が軌道に乗ってきたころだった。
そんな彩子に、結婚はしていないがすでに5年、同棲している藤本章吾は、妻としての役割を求めるようになり、それがふたりの気持ちにすれ違いを発生させる。

そんなとき、雑誌の表紙を撮影するための小道具として使ったアンフォラに描かれた女神の姿と、雑誌の編集長である石原美和子の言葉から、長年の夢でもあったギリシャでの撮影旅行の話が持ち上がる。
章吾の求める妻の役割や、カメラマンとして仕事を持ち、自立する自分などの答えを出すために、ギリシャへ渡った彩子は、そこで島田亮一という男性に出会う。

クレタ島で見た、アンフォラに描かれたひとりの女神。
ヘラ、ヴィーナス、アテーナへと3人に引き裂かれたギリシャ神話の女神たち。
古代の女神たちの姿と、古代から変わらぬ女性としての悩みとに翻弄されながら彩子はやがて……。

日高彩子と言うひとりの女性が、仕事や家庭、愛と言ったものに対して、語られる物語で、いちおう、島田亮一との恋愛部分が中盤以降、強くなっていくのでカテゴリは恋愛小説に。
また、仕事、家庭、愛をそれぞれアテーナ、ヘラ、ヴィーナスの3柱の女神、そしてギリシャ神話以前には、ひとりであったとされる完全な女神になぞらえて語られているところが特徴。

ストーリー的には、そうした女神たちの特徴とうまく絡めており、彩子に関してはカメラマン、章吾との生活、島田との恋愛と進んでいく。
また島田との恋愛の中では、3女神の誰かを投影した女性キャラを配して構成されており、ストーリーの核である「女神」というものをうまく利用している。
ただ、彩子以外の他の女神を投影した女性キャラが、ほとんどストーリーを展開させるためだけのお人形になっているのがいまいちだが……。

文章的にも読みづらいところなどはあまりなく、読み進めるのに苦労はないが、中盤以降、それまで彩子のみの視点だったのが、突然亮一の視点になったり、さらに三人称で書かれているのに唐突に一人称になるなど、目につく部分が出てくるのが難点。
ストーリーは彩子が抱える問題を丁寧に描いており、すごいおもしろいとは言えないまでもじっくりと読めるものになっているだけに、こうした文章の一貫性のなさは残念だねぇ。

もっとも、それ以上に気になったのは、いったいいつからギリシャ神話の愛と美の女神はヴィーナスになったんだ? ってとこだったりして。
何か、物語に絡んでヴィーナスにする必要があるのかと思ってはみたけれど、関係なかったし……。
著者紹介で「女神の文明を訊ねる旅を続けている」とあるにしては、お粗末でないか? って気はするね。
ストーリーはよくても文章やこうしたところがダメだと、総評としていい評価は出来ないなぁ。
まぁ、すんごいダメってわけではないので、ぎりぎり及第、かな。