つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

少し不思議な物語

2007-03-31 23:53:00 | マンガ(少年漫画)
さて、実は初登場! な第851回は、

タイトル:愛蔵版 藤子不二雄 SF全短篇 第一巻 カンビュセスの籤
著者:藤子不二雄
出版社:中央公論社(初版:S62)

であります。

藤子不二雄の短編集です。表題作を含む全三十五篇を収録。
子供向けの作品とは雰囲気が大きく異なり、SF、ホラー要素が詰まった作品が非常に多いのが特徴。
全部紹介するととんでもないことになるので、気に入った短編をいくつか紹介するにとどめます。


『どことなくなんとなく』……平凡なサラリーマン・天地は、ある夢を見た日を境に、世の中のあらゆるものに実在感を感じなくなっていた。まるで、この世にいるのは自分だけで、他はすべて想像の産物であるかのような感覚。それは、次第に強まっていき――。
「白い夜があった――」という不思議なモノローグで始まる恐怖短編。藤子不二雄の作品は、何でもない日常に異質な要素が違和感なく溶け込んでいくものが多いが、本作は逆に、何でもない日常に異質なものを感じさせるという手法を用いている。主人公の感じる恐怖は、現実ならば単なる妄想と取られようが、それで終わらないのがSFの怖いところだ。

『ミノタウロスの皿』……水も食料も底をつき、宇宙をさまよう一隻の船があった。たった一人生き残った男は通信で救助を求めるが、救助艇到着までは二十三日もかかるという。ボロボロになってようやく辿り着いた惑星、そこは、ズンと呼ばれる牛型ヒューマノイドと、ウスと呼ばれる人類そっくりの家畜が暮らす奇妙な星だった――。
まったく異なる文化に立ち向かう者の虚しさを描いた作品。作中で主人公は、「彼ら(ズン)には相手の立場で物を考える能力がまったく欠けている」とこぼすが、実際のところズンが地球にやって来て、牛を食べる人類に向かって、「残酷だ!」と言ったところで取り合う者は誰もいまい。自分が食べられることの喜びを語るヒロインの笑顔はなかなか不気味。

『カンビュセスの籤』……エチオピア遠征の途中、部隊を脱走した兵士・サルク。追いすがる仲間達を振り切り、霧のたちこめた谷を抜けると、そこは荒廃した未知の世界だった。見渡す限りの砂漠を歩き続け、彼はようやく人の存在を確認するのだが――。
世に言う『カンビュセスの籤』をネタにした、凄まじくハードな終末物語。十人の内一人が食料にされるという地獄から、さらに恐ろしい事態が待ち受ける地獄へと放り出される主人公はひたすら悲惨である。なぜ、同族を食らってまで生きのびるのか? 読者に根源的な問いを突きつける傑作と言えよう。ちなみに、アニメ版にはオリジナルの演出があり、それがまた鳥肌が立つほど怖かった。必見。

『箱船はいっぱい』……マイホームに憧れる大山は、隣に住む細川から、地価だけでも二千万はする新築の家を五百万で買ってくれないかと持ちかけられる。喜び勇んで家に帰るが、妻は何かおかしいと思案顔。そんな時、ノア機構の連絡員と名乗る男が現れ――。
現代版、彗星騒ぎの話。溺れる者は藁をも掴むと言うが、自分達だけでも生き延びられるなら、と、資金繰りに走る人間の姿が実にリアルだ。自分さえ助かればそれでいいのか! と主人公は怒るが、立場を変えれば彼も同じように他者を騙したであろう。二段構えのオチのついた、完成度の高い作品。


他にも沢山あるのですが、割愛。
個人的には、『ひとりぼっちの宇宙戦争』『流血鬼』なども欲しかったが、それは二巻に収録されている……のだろう。

ブラックなオチが嫌いじゃない方にオススメ。
でも、今でこそ子供漫画の顔になっている『ドラえもん』も、初期はダークな話が多かったなぁと思ってみたり。(笑)

こうゆうほうが好きかも

2007-03-30 20:43:25 | ファンタジー(異世界)
さて、読むべきかなんて言いながらもう読んでしまったの第850回は、

タイトル:空ノ鐘の響く惑星で2
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

読んでみるかなぁ、と書いたので悩んでたはずなのに、もう読んだんかいっ! ってツッコミはなしで(笑)
しかし、1巻はいまいち勢いに欠けてるところがあったので、2巻はどうなんかなぁ、と期待よりも不安のほうが先だった本書ですが……。
ストーリーは次のとおり。

来訪者ビジターであるリセリナを追ってきた、同じく来訪者である集団によって、フォルナム神殿を訪れていたアルセイフ王国の王と皇太子を殺された惨劇の後。

第四王子で神殿の親善大使であったフェリオは、政治的に有利と進言してきた幼馴染みの女性司祭ウルクとともに王宮へと戻ってきた。
だが、そこでは放蕩者の第二王子レージクと、皇太子の息子であるアーベルトを王位に推す政務卿と軍務卿による争いがあった。

肥沃なアルセイフを狙う北方の大国タートムの侵略の影が忍び寄る中、葬儀などの一連の儀式の途中に事件が起きる。
それによってアルセイフでは大きな政変が勃発する。
そんな中、権力から縁遠いはずのフェリオは、様々な思惑が錯綜する謀略に巻き込まれようとしていた。』

う~む……、なんか私は1巻のような話より、こういう政治向きの物語のほうが好きなのかもしれない。
ストーリーは、とにかく王と皇太子の暗殺に端を発した王位継承のごたごたが描かれている。
構図も対立する二大派閥に、キャスティングボードを握る第三勢力と言ったもので、政治向きと言ってもごちゃごちゃしすぎていないので、話は飲み込みやすい。
また、終盤に至っての話も、第三勢力側のフェリオを絡ませるのに不自然な点はない。
……まぁ、順調な展開なので不自然だったらどうかと思うが。

しかし、珍しいと言うか何というか……ヒロインあるはずのリセリナが最後、エピローグのような短い章でしか出てこない、と言うのはおもしろい。
逆に、1巻では目立たなかったウルクがフェリオの側に付きっきりなので、出張っている。
恋愛要素がまったくないわけではないが、政治向きの話のほうが強くて目立たないのはいいね。
とにかくあざとくヒロインと主人公の絡みを入れてくれるものが多い中、こうしたところは、いかにストーリー重視で書いているかがうかがえて好印象。

キャラも、ややふらつき気味だったフェリオが、政変の中で見据えるべき視点が定まってしっかりしてきた。
ただ、2巻での政治向きの話を担う政務卿などの要人のキャラがいまいち。
平和すぎると腐敗するのが王宮や貴族の常なのに、けっこう国のことを本気で考えているいいひとばっかりで、毒があんまりないからつまんない。(をい(笑))

あとは文章かな。
1巻でも読みやすいと思ったが、2巻でも読みやすさは健在。
変な言い回しや表現はしない。表現に過不足はなく、且つわかりやすい。……など、段落が多いのがちと残念だが、こうした読みやすさ=平易さと言うのは特筆に値するだろう。
誰が読んでもわかりやすく、と言うのはとても難しいものだが、それをある程度達成できているのだからすごい。

総じて、ストーリー、展開、キャラ、文章ともに高レベルの物語と言えるのだが……やっぱまじめすぎて勢いが……。
まぁそれでも、十分読む価値がある作品であることを確認させてくれる2巻だったと言ってもいいだろう。
総評、良品。



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エディルレイドって本当に強いの?

2007-03-29 22:12:53 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、やっと外伝も紹介、な第849回は、

タイトル:EREMENTAR GERAD ―蒼空の戦旗―(1~4巻:以下続刊)
著者:東まゆみ
出版社:マッグガーデン ブレイドコミックス(初版:H16)

であります。

扇:最近、ベベルからピースライトに鞍替えしようかと本気で悩んでるSENでーす。

鈴:大学時代から○年、ずっとMarlboro(赤ボックスのみ)のLINNで~す。

扇:そろそろニコチンとタールが落ちる歳の筈なんだがなぁ……。

鈴:いちおう落ちてるぞ。
Malboro自体、大学時代よりもニコチンもタールも減ってるし。

扇:おやま、それは初耳。
つーか、マルボロって……スカスカだよね。
以前吸ってた人間が言うのも何だけどさ。

鈴:すかすかってなぁ……。
まったく否定できんのだよなぁ、それ……。吸い口のほうを打ち付けて詰める、と言うのは会話中の手持ち無沙汰解消に、よくやられていることだが、Marlboroは、延々やり続けると、1センチくらい平気で詰まるからな。
これで他の銘柄より、値段高めだから、ぼったくりやろ! とか、思うことは、……多々あったな。

扇:ベベルも下がることは下がるが、マルボロほどじゃないな。
でも、時たま無性に吸いたくなるんだよねぇ……ボシュッ!(ジッポの音)

鈴:Marlboloはクセがあって、特徴的だからなぁ。
まぁ、これしか吸わないのも、このクセがいいからであって、他の銘柄になると物足りないんだよなぁ。

扇:嗜好品ってホント、個人の趣味が出るよなぁ。
煙草以外だと、コーヒーとか紅茶とかかな。

鈴:それなら私は断然、紅茶だな。
ティーサーバーとか、耐熱ガラスのティーポットとか、GFOP以上のグレードの茶葉が欲しいとか、それからそれから……。

扇:五個入り百円のティーバッグで充分だろ?
そんな私は珈琲党。

鈴:十分なわけあるかぁっ!
砂糖入れて、牛乳入れて、どーでもいいミルクティーにするならまだしも、ちゃんと紅茶の香りと味を楽しむならばリーフを使うのが当然じゃ。
……そこまで楽しむほど、金もないが……(爆)
しかし、まぁ相棒が珈琲党ってのは知ってるがな。
たいてい、えすぷれっすぉを最初に頼むし。

扇:とりあえず、茶っ葉の中ではダージリンが一番甘いんだろ?
俺にとって紅茶=ジュースだから、それさえ知ってりゃ充分。
そう、俺の一杯目と二杯目は必ずエスプレッソだ。もちろんブラックハートで。

鈴:それはマーブルスーパーヒーローズじゃっ!!
ったく、何をここで電脳のネタ振りをしてんねん。
しかし……、紅茶=ジュースだとぉ!?
「午後の紅茶」に毒されてるな……。

扇:∞(インフィニティッ)!
違うな、俺はリプトン派だ。(笑)
家でインスタント飲む時は珈琲にも砂糖入れるがな。

鈴:……ここは電脳ちゃうで。
リプトンだろうとギブソンだろうとニクソンだろうと、ティーバッグの話をするなぁっ!
まぁ、そうは言っても、ティーバッグなら砂糖に牛乳は必須だが(爆)

扇:いや、ヒクソン・グレーシーの話はしてないんだが。
ま、インスタントとかティーバッグとか手軽な物で済ませようとしたら、嫌でも誤魔化しが必要になるわな。
砂糖は入れてもミルクだけは入れんぞっ……とか思ってた俺ですら、一時期クレマトップ入れてたからなぁ。

鈴;それは大統領ちゃうし(笑)
しかし、インスタント関係はたいてい砂糖と牛乳は必須だな。
粉ミルクでもOKだが、とりあえず、牛乳だけは常備してるからそっちになるな。

扇:しばらく牛乳飲んでないなぁ。
飲んだ方が胃腸にいいのは解ってるんだが、生牛乳苦手なんだよね。
混ぜて飲むならミロが一番手軽なんだが、珈琲と同じ感覚でがばがば飲むから腹を下すことが多い……。

鈴:私も生は苦手だな。だから、いつもココア。
ミロは、子供のころから好きだったんだが……あれ、値段高い割に、消費量でかいから投資対効果に難ありなんだよなぁ。
……って、飲み過ぎたら牛乳なんだから下すのは当然じゃ。

扇:そぉ?
半額引きの奴を一日で飲み干しただけなんだがなぁ。

鈴:余計悪いわっ!!

扇:はぁ……俺の胃も随分弱くなったもんだ。
オチが付いたところで、真面目な話に移りましょう。
ひょんなことから、最強のエディルレイド――七煌宝樹の一人レンと出会った少年・クーが、彼女と共にエディルガーデンと呼ばれる謎の地を目指すバトル・ファンタジーです。

鈴:それは赤レーベルの話や!
ったく、赤レーベル紹介のときとおんなじことをするか。
やり直しっ!!

扇:では、改めて。
エディルガーデンの支配者・総統の放った遊星爆弾によって、愛する父と国を一度に奪われた王女アシェアが、故国フアジャールの最終兵器である生体戦艦ジィンとともに復讐の旅に出るSFバトル・ファンタジーです。
最大の見所は、メインキャラの一人メルが、「こんなこともあろうかと」という決め台詞とともに必殺兵器を取り出すシーンで――。

鈴:勝手に宇○戦艦ヤ○トを持ち出すなぁっ!!
ったく、とりあえず、遊星爆弾とか生体戦艦とか、その辺りが激しく違うが、故国フアジャールをエディルガーデンの支配者・総統に滅ぼされたため、その復讐と国の再建を誓う王女アシェアと、そのパートナーである七煌宝樹ジィンの旅の物語であります。

扇:そういや、そういう話だったな。
さて、相棒が真面目な解説をやってくれたので、素直にCMに参りましょう。
いや~、理由はよく分かんないけど、最近ストーリー解説が楽だな~。

鈴:思いっきり解説担当のクセにサボってるだけじゃねぇかっ!
……まぁいいや。じゃぁ、私が担当の少女マンガのときも、ボケまくって相棒に解説書かせようっと(笑)
……っと、そういやCMだったな。


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扇:では、主人公のアシェアことアシェアブルカ=フアジャール。
エディルガーデンに滅ぼされた国フアジャールの王位継承者で、七煌宝樹ジィンのパートナー。
非常に真面目かつ堅い性格な上、親父が総統に惨殺された場面を目の当たりにしてしまったこともあって、年頃の女の子らしさはどこかに置き忘れてしまったような状態で旅を続けている。
心の拠り所としてイドラという青年がおり、彼と話す時だけは弱音を吐くものの、基本は国の復興と父の敵討ちのためだけに肩肘張って生きる不遇のヒロインである。
ジィンと同契(リアクト)して戦う姿はなかなかに勇ましいが、経験不足がたたってボコられ、最後はキレて暴れるか王の責任を背負って満身創痍で立ち上がるかのパターンが多く、ここらへん、パワーとノリだけで勝ってしまうクーとは好対照。(つーか、ひたすら悲惨だな、この娘)
ちなみに、この作者のヒロインらしく、第二巻であっさりと脱いだ。(笑)

鈴:では、アシェアのパートナーとなったジィリオ=ヴェルスーンこと、ジィン。
エディルレイドは女性のみ、と言うことを知らなければ100%青年にしか見えない容姿の、最強のエディルレイド七煌宝樹の一属。
一度受けた技は二度と通用しない、と言うどっかで聞いたような戦士連中が特性として持つ技を持っているが、いちおう無関係だと思われる。……たぶん。
性格は冷静沈着で、猪突猛進系のアシェアを宥めたり、引き留めたりするほう……のはずだが、途中キャラバンで水を得るために、色仕掛けを仕掛け、それが通用しない場合には強硬手段に訴えることを画策していたあたり、実はアシェアよりもタチが悪い猪突猛進系。
エディルレイドであるため、プレジャーがいなければどうにもならない……わけではない(ナイフ使い)あたり、ほんとうにタチが悪いキャラである。

扇:明らかに、アシェアの方が押されてるよなぁ……キャラ的に。
では三人娘最後の一人、メルフォンド=リブロディク。通称メル。
シスカの姉で、性格は妹とどっこいどっこい。自分の武器商店を持つためにフアジャールを訪れた際、戦火に巻き込まれ、なし崩し的にアシェアに同行することになる。
筋金入りの守銭奴なのは妹と同じだが、こちらは責任とか義務とかに縛られるのが嫌いなタチらしく、いつも思い詰めているアシェアを気にかける場面もある。
ちなみにグラフィックはまんまギルティギアのイノ。(禁句?)

鈴:あとは……まぁ、やっぱり、このひとに登場してもらうしかないでしょう。
ヴォルクス=ハウンドくん。
赤レーベルでも、クーやシスカたちの前に立ちはだかった人物だが、今回、出張登場。
相変わらず、エディルレイドのチルルとともにハンター稼業を続けているが、取引先はアークエイルになっていたりする。
ちなみに、敵側のウィルトに、ヴォルくんは「エディルレイドなんて道具」だと思ってるんでしょと言われたが、チルルに対しては「こいつは俺の道具だ」とのたまい、とうとうチルルに落ちたことを告白してしまった。
あの、ヴォルくん、それ、言い換えれば「こいつは俺の女だ」と同じですが……(笑)
あー……、いちばんまともそうで、影のあるキャラだったはずなのに、ロリ度全開ってどうよ……。
まぁ、だからこのひと、私は大好きなんだけど(笑)

扇:つーか……ツンデレ街道まっしぐらですね、ヴォル君。(笑)
ともあれ、まだ立ち上がりって感じの作品だぁね。
赤レーベルの二年後の話なので、そこらへんをどう処理していくかが勝負だろう。

鈴:まぁ、男版ツンデレだわなぁ、ヴォルくん。チルルが、ウィルトに対して、女心がわからない、と言ったのもそのとおりって気がするし。
しかし、確かにこっからどうするか、だよなぁ。
赤レーベルの話も終わってないことだし、同時進行でどういうふうに物語を薦めていくか、ってのは気にはなるな。
同時進行が崩れて、両方とも整合性もクソもなくなってしまうのだけは、勘弁してほしいがな。

扇:ふむ、すべてにおいて同感だ。
とまぁ、先行き心配なところはありますが、赤レーベルともども割とオススメな少年漫画です。
絵はかなり安定しているので、ビジュアルを気にする方も問題はないでしょう。
完結の際にはまた記事を書くと思いますが、今日の所はこのへんで……シーユーネックスタ~イム、バイバ~イであります。

鈴:先行き不安ってなぁ……オススメなのか、ちと疑問が残るセリフだな。
まぁでも、赤レーベルのボーイ・ミーツ・ガールとは違う、正統派の少年マンガのストーリーだとは思うので、ほんとうに先行き(整合性など)が不安なところは残りつつも、単純に楽しめる作品であります。
と言うわけで、今回の木劇は、なんかエセ英語を使ってる相棒はほっときながら、お開きであります。
再見~

略して夜ピク?

2007-03-28 23:59:40 | ファンタジー(現世界)
さて、これまたようやく読んだ、な第848回は、

タイトル:夜のピクニック
著者:恩田陸
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H16 文庫版初版:H18)

であります。

映画化もされた、恩田陸の青春長編。
高校生活の最後を飾るイベント「歩行祭」と、それに参加するちょっと訳ありの生徒二人の心理を描きます。



甲田貴子の学校には修学旅行が存在しない。
その代わり、全校生徒が朝の八時から翌朝八時まで80キロ歩き通す、歩行祭と呼ばれる行事があった。
それは、定められた休憩時間を挟みつつ、二列縦隊で歩く団体歩行と、仮眠後、母校のゴールまで仲の良い相手と連れ立って歩く自由歩行からなる。

高校生活の最後を飾るこのイベントに際し、貴子は一つの賭をしていた。
同じ学年にいながら、一度も話したことがない異母兄弟・西脇融に話しかけること、そして――。
その賭けに勝ったら、彼と面と向かって自分達の境遇について話をするよう提案する、そう決めていた。

だが、融が自分を憎悪していることを貴子はよく知っていた。
高校に入る前、二人の共通の父親の葬儀で出会った時の彼の視線は、今でも心の中に突き刺さっている。
三年間、ずっと無視され続け、不用意に眼があってしまった時は敵意を向けられた……そんな相手に話しかけることができるのか? 勝算はかなり薄いが、それでもそのまま卒業してしまうことに貴子は耐えられなかった――。



二時間の仮眠だけで80キロ歩くって何かの拷問ですか?

異色の野外活動『歩行祭』を利用し、二人の生徒の心理を丹念に描いていく青春長編です。
主人公は、どちらも高校三年生で、実は異母兄弟だったりする甲田貴子と西脇融。
例外もありますが、基本的にはこの二人の心理描写で物語は進行します。

実際あったとしたら、誰だこんなイベント企画した奴はっ! と叫んで、時の彼方に逃走したくなる『歩行祭』ですが、飽くまで物語の中のイベントと割り切るなら、三年間の出来事を語り合い、思い出を振り返るための場として効果的に使われています。
軽口を叩きながら、タイトル通りピクニック気分で歩く序盤。疲労もたまってきて、話すことも億劫になる中盤。全員で歩くという枠組みから解放され、仲の良い友人と最後の道程を行く終盤。それはあたかも、自分の心の中に踏み込んでいく行為のようです。
過去を振り返る時間と現実に追われる時間の配分が絶妙で、自分も一緒に歩いているような気分にさせられるのはかなり秀逸。
(実際はもっと余裕がないと思うけれど。つーか、下手したら倒れる)

で、物語の核となる貴子と融の関係ですが、これも秀逸。
貴子は融の家族にとって自分達親子が汚点であることは自覚しているものの、彼への興味が捨てきれず、一方、融は貴子に罪はないと知っていても、彼女を受け入れることがどうしても出来ません。
しかも同級生ということは、とうに亡くなったクソ親父は同時期に二人の女性に……ってわけで、二人はあれこれ悩みつつも、なかなか相手を見られない。そんな、まだるっこしいけど、どうにもならない関係は終盤までずっと続き、先を読ませる力となっています。まんま恋愛小説の手法ですね。

ただ、二人の話だけではバラエティに乏しいので、いくつか小さなイベントも用意されています。
ざっと挙げると、去年の歩行祭に現れた『誰も知らない生徒』の話、他校の生徒を妊娠させた犯人探し、融とお近づきになろうとする女生徒、そして、アメリカに旅立ってしまった神キャラ・榊杏奈がよこした手紙にあった謎の言葉……といったところ。
これらの要素は、貴子、融、その友人達に大きく関わっており、ある時は話題の中心、ある時は波乱の引き金となって、ともすれば単調になりがちな物語にアクセントを与えています。

青春小説としては王道で、『歩行祭』を通して、貴子と融は自分の気持ちに整理を付けることになります。
ただ、二人の接触については……出来過ぎの友人達が用意してくれた舞台に乗っかって、ご対面~! という感じだったのがちと引っかかりました。
かなりややこしい問題の割にはあっさりカタがついた印象もあり、青春小説という点を考慮しても、話が綺麗過ぎるところは否めません。

それでも面白かったけどね。(爆)

そういえば、一個未解決の問題があった筈だけど、あれはどうなったんだろう……?

何だかんだ言いましたが、オススメなのは間違いないです。
ベストセラーとは相性悪いと思ってたけど、例外もあるもんですねぇ。(自虐的)



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うん、いいと思うよ

2007-03-27 23:58:02 | 小説全般
さて、読んだのだいぶん前だなぁの第847回は、

タイトル:LOVE ASH
著者:桜井亜美
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:H12)

であります。

前に読んだことはあって、それなりの評価だったのも関わらず、手に取らなかったんだよなぁ。
そいで前の回数を見てみると、第262回……。
2年前やし……。

さて、鬼門をようやく返上しかけた幻冬舎文庫の本書は、ひとりの不遇な過去を背負った青年の物語であります。
ストーリーは、

『両親に捨てられ、借金取りが連日訪れる家でたったひとり暮らし、その後、父親の知人である養い親に育てられた風尋響は、大学生のはずだった。
しかし、大学にも行かず、ミルクというネットで知り合った女性と金で抱かれる以外は、ただアパートで引きこもっているだけだった。

だが、その生活はミルクのたった一言で終わりを告げ、収入を絶たれたキョウはペットショップでバイトを始めた。
そこで出会った怪しげな男と密猟で店主が手に入れたワニ……コビトカイマンを巡る出来事の中で、昔、半同棲生活にまでなっていた元恋人のマシュリに出会う。

マシュリに連れられて行ったそこで自らの境遇を知ったキョウは、マシュリやそこで出会った人物たちと同様、ネット内で生きることを選び、データ上の死と実際の死を遂げた神流ヒカルの一部になろうとしていた。

しかし、それを止めたのは、ネットの延長線上で実在感のほとんどなかったけれど、それをキョウの中で実在にまで押し上げた、ミルクからの電話だった。』

不遇な環境で成長せざるを得ず、自ら社会不適応者と思い、心に大きな空洞を抱えた青年キョウの物語で、飢えた心が、自らを捨てる方向へ傾くか、それとも望むものを手に入れるかの天秤に揺れる姿が描かれている。
ストーリーとしては、ほんとうに天秤のように、捨てるほうへ傾き、手に入れるほうに傾きを繰り返しながら、ラストに至るもので、展開そのものはまとまっている。
ラストも、ありふれたものながら、その後を読み手に任せ、好みによって明と暗を選べるようになっているところも悪くない。

キョウのキャラクターは、ある程度のデフォルメはあるだろうし、設定された境遇の稀少性もあろうが、若い世代には共感できるところが多々あると思われる。
そういう意味では若いひと向けのように感じるが、そうした若い世代の心情を見る、と言う意味に取れば、そうでなくともそれなりにおもしろく読めるのではないかと思う。
戸籍を抹消し、非実在になろうとするマシュリ側と、キョウを求める実在側のミルクの対比もわかりやすく、他のキャラもしっかりしている。

物語としてはそれなりに興味深く読めたのだが……文章がちとねぇ……。
「てにをは」くらい、作家なんだからもうちょっと考えて書いてくれんかねぇ。
少々ならいいのだが、「てにをは」が変なおかげで、意味が通じない文や表現が散見されるところはマイナス。
流れで読んでいて引っかかり、読み返しては意味が通じず、ようやく「てにをは」を直して意味が通じる……なんて、何度も読み返さないといけない作業は面倒くさいって。

ストーリーとかはいいのに、これではやはり良品とは言い難い。
文章面も少々のことなら目をつぶるが、文章の基本中の基本「てにをは」がなっていなければねぇ。
まぁ、それでもいいところのほうが多いので、及第の中では評価は高いほうだろう。

リアルバウト加納伝説

2007-03-26 23:59:59 | ミステリ
さて、奇しくも第821回の問答が現実となった第846回は、

タイトル:いちばん初めにあった海
著者:加納朋子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'96 文庫版初版:'00)

であります。

加納朋子の作品集です。
『いちばん初めにあった海』と『化石の樹』、二つの中編を収録。
相棒が激賞していたのでなかなか手を出し辛かったのですが、ようやく読みました。
例によって、それぞれ感想を書いていきます。


『いちばん初めにあった海』……誰の干渉も受けず、静かに暮らしたいと願う堀井千波は、ずっと深夜の騒音に悩まされていた。だが、いざ引っ越しを決意して本の片付けを始めた際、「いちばん初めにあった海」という見覚えのない本を発見し、その内容に引き込まれてしまう。しかも、驚きはそれで終わらなかった。本の間に、〈YUKI〉と名乗る謎の人物からの手紙が挟まっていたのだ――。

どこか無気力な雰囲気の女性・千波が、過去からのメッセージをきっかけに、記憶を再構築していくミステリです。
〈YUKI〉を正体を探る現在と、奇妙な友人と語り合う過去が交錯し、次第に接近していく展開に、決定的なシーンまで書かれない「ある謎」を加え、最初から最後まで綺麗につなげています。
千波の人格に大きく影響している要素として、死んだ双子の兄弟、彼ばかり見ていた母親、そして、自分の半身の死を願ってしまった自分、という関係を用いているのも秀逸。

ただ……ちょっと気になる点がいくつか。(ちょっとじゃないが)

まず、現在の千波を揺さぶる作中作「いちばん初めにあった海」。この内容が実にあざといこと。
『ガラスの麒麟』の「お終いのネメゲトサウルス」もそうでしたが、執筆者、引いては作者の意図があからさま過ぎて萎えました。
ファンタジーっぽい空気は出ているものの、その中に存在するメッセージが濃すぎて、「ハリボテ」としか感じません。千波の心には響くのかも知れないけど、読んでるこっちは白けるばかり。

後は、締めのエピソード。
本作のクライマックスは二つ存在し、抽象的な表現で言うと、「帰還」と「免罪」なのですが、前者に比べて後者が薄い……。
いや、伏線使い切った綺麗なラストだとは思んですよ。でもね、現在におけるこの二人の関係ってものすごーく嘘臭く感じるのです。
(読んでない方には意味不明な書き方ですいません……)

ちなみに、もう一つ引っかかる点があったのですが、これは『化石の樹』で解消されました。
そういう意味では、この二作が一緒に収録されているのは、極めて自然だと思います。
ただ、『化石の樹』が一作でちゃんと完結しているのに対し、『いちばん初めにあった海』の方は……なんだかなぁ。(毒)


『化石の樹』……〈ぼく〉の記憶の中には一人の少女がいる。木の化石を抱いて、それと話をしている不思議な少女だ。ただ、話の本題はそれじゃない。彼女と出会ってから十数年後、僕が手に入れたあるノートのことだ――。

語り手である青年〈ぼく〉が、金木犀の下に埋められていた『ノート』の謎を解いていくミステリです。
〈ぼく〉が自分とノートの事を語るAパート、ノートの内容をそのまま記したBパート、再び青年がノートについて語るCパートの三部から成り、進む毎にいくつかの謎が明らかになっていきます。

正直、Aパートは読んでて疲れました。
〈ぼく〉が謎の誰かに語りかけるという形式で書かれているのですが、彼の喋り方が果てしなくうざい。
自分がちょっと変わった子供だったことや、バイト先の上司が変わり者だったことなど、退屈な話題を延々聞かされた後、ではこのノートを読んでくれと言われた時は心底安堵しました。お前、もう帰ってこなくていいよ。(毒)

で、本作のキモとなるBパート。
某保母の手記という体裁の作中作なのですが、これが非常に出来がいい。
母親から虐待を受け、何かに期待することを諦めてしまった少女と、彼女の親でありながらその自覚がまるでなく、子供のような行動を取り続ける女性について丁寧に書かれており、独立した短編として最後まですらすらっと読めました。
少女が母親に対する複雑な感情を見せる場面、語り手が、本来ならば咎めるべき相手に惹かれていく過程、最後に訪れる別れと語り手の願い等、見所も多く、非常に読ませる作品に仕上がっています。

んで、最後のCパート。
また〈ぼく〉が帰ってきて、偉そうに講釈をたれます。
手記から読み取れることとその謎解き、これまで不明だった『聞き手』の正体明かし等、ミステリ的展開が楽しめるようになっているのですが、相変わらずこいつの喋り方は不快。

加えて言えば、最後に明かされる「解答」も納得がいくものではありませんでした。
別に〈ぼく〉の説明が破綻しているわけではありません、判明する事実に説得力がないだけの話です。
一言で言うと、「安易な救い」で、それに至るまでの伏線は張ってあるものの、某キーパーソンの心理にまったく必然性を感じないのは不満。
『いちばん初めにあった海』に足りなかった部分を補っているのはいいと思うんですが……無理にハッピーエンドにする必要ってあるんでしょうか?


どちらの作品も、凄く好きな部分と嫌いな部分が混在しており、総評は二つセットで辛うじて△。
まぁ、可もなく不可もなくな作品に比べれば余程良いのだけど。


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら

ちょいと捻ってはいるが

2007-03-25 15:35:06 | ファンタジー(現世界)
さて、人気シリーズもたまには予約なしだったの第845回は、

タイトル:とらドラ!
著者:竹宮ゆゆこ
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

人気シリーズでも、それなりに1巻が3,4年くらい前だったりすると、すんなり図書館で借りられるんだけど、これは比較的新しい割に、すんなり借りられたなぁ。
まぁ、おかげで日曜ラノベのネタに困らなくてすむんだけど。

さて、人気シリーズと書いておきながらたぶんそうだったはずと自信がなかったりする本書は、この著者のシリーズ2作目で、作品紹介を見ると3冊目。
ストーリーは次のとおり。

『とてつもなく目つきは悪く、無駄にひとを威嚇しているようにしか見えないが、料理上手で清潔好きなふつうの高校2年生、高須竜児は、4月の新学期、”手乗りタイガー”と呼ばれ怖れられている逢坂大河と出会い、その秘密を知ってしまったことで、夢見ていた新たな学校生活は終わりを告げた。

その秘密とは、145センチの小さな身体ながら暴力的な大河は、竜児の親友である北村祐作が好きだ、と言うことだった。
そのために夜討ちされたりとさんざんな目に遭いつつも、大河が北村に接する機会を作ろうと協力していくうちに、竜児は大河の暴力的な表面に隠れて見えない姿を知ることとなる。』

基本的には、単なるラブコメ。
とは言え、ラノベのラブコメに必須というか、定型と言うか、主人公とヒロインがくっつくような話ではなく、ヒロインの大河は北村、主人公の竜児は大河の友人である櫛枝実乃梨に惚れている、と言うところが、ちょいと捻ったところか。
まぁでも、ラノベの中では、と言う注釈付きであって、こうした互いの友人などに惚れていて、協力して……と言う展開は、そこかしこに転がっている定番ネタなので、実際には特段目新しいものではない。

ストーリーは、ほとんど脅されるような形で協力していく中で、竜児が大河のほんとうの姿を知っていく、と言うもので、とりあえずオチをつけて完結させている。
シリーズを前提に書いていると、1巻を伏線ばかりでオチなしの作品があったりするが、きちんとオチをつけて2巻の引きを作っているところは好印象。
また、ストーリー展開は定番中の定番だが、大河の無茶苦茶な行動にはドタバタが、竜児の一人称の文体にはコメディらしい軽快さがある。
作品全体としても勢いがあり、こうしたところは評価できる。

キャラも竜児の見た目は怖いが、ふつうの少年であるところや、大河の暴力的で傍若無人なところ、その裏にある姿など、きちんと描かれており、主人公ふたりのキャラは掴みやすい。
なんだそりゃ? な設定があったりして興醒めするところがあるが……まぁ、目をつぶっておこう。きっと何か今後の伏線にして何か重要なファクターにでもするんだろう。……と思っておこう。

あと、脇役のメインとなる北村、櫛枝の2キャラ。櫛枝は大河との絡みでエピソードがあり、これも定番キャラなので掴みやすいが、北村のキャラが弱い。
どういうキャラなのかをほとんど紹介しているだけで、エピソードが櫛枝に較べて少なすぎるためだろうが、脇役のメインを張る片割れがこれではねぇ。
大河の絡みで重要な位置を占めるはずのキャラだけに、キャラが弱いのはいただけない。

とは言え、定番だが勢いがあるストーリーで、コメディらしさもある。
キャラもメインキャラは北村を除けば比較的掴みやすく、あとはこうした作品が好きか嫌いか、と言うところになるだろう。

……のだが、文章がまずいのが気になる。
竜児の一人称で、きちんと竜児の視点を大きくはずれることなく書いているのはよいところなのだが、表現に難があるところがけっこうあるので、流れが悪い。
こうしたところは勢いを殺してしまう大きな要因となってしまうので、せっかく勢いがあるほうなのだから、気をつけて書いたほうがいいのではないかと思う。

総じて悪い作品ではない。いいところもあり、悪いところもあり、及第が妥当だろう。
オススメできるかと言うと悩むところだが、こうしたラブコメやツンデレのヒロインが好きなひとにはおもしろい作品ではないだろうか。



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まじめなほうは

2007-03-24 23:59:39 | ミステリ
さて、もう600回以上も前なんだなぁの第844回は、

タイトル:鑑定医シャルル 見知らぬ遊戯
著者:藤本ひとみ
出版社:集英社 集英社文庫(初版:'96)

であります。

だーいぶ前にこのひとの作品を読んだけど、けっこう酷かったのでしばらく手を出さないでいたんだけど、まじめそうな話っぽかったので借りてみたもの。
まぁ、あんまり期待はしていなかったんだけど、ストーリーは次のとおり。

『フランス、ノルマンディの小さなレミ村で起きた事件。
閉鎖的で、非協力的な村人のせいで迷宮入りになりそうな事件だったが、県憲兵隊の女性憲兵アニエスはどうしても犯人を捕らえたかった。
しかし、手がかりはハロウィンで使う蝋燭を立てた林檎、焼いた胡桃、満月の霧深い夜だけ。
そこで、上司のツテを辿って、パリでおなじような殺人事件を鑑定したシャルルという鑑定医に協力をしてもらうことに。

しかし、分裂気質で人嫌いのシャルルは当初アニエスの依頼を請け負うことはしなかった。
それでも事件の解決を執拗なまでに求めるアニエスに繰り下がられ、シャルルは協力することになる。

その卓越した様々な心理学の知識を用いて、シャルルはアニエスとともに、レミ村の事件、そしてパリで起きた殺人事件の謎に迫る。』

まじめそうな、と思っていたら、ほんとうに、ふつうにまじめなミステリでした。
ストーリーは、パリとレミ村で起きた事件との関連性から事件を解決に導くものだが、主人公のひとりが鑑定医で心理学者であることから、心理学の話題がよく出てくる。
だが、心理学を駆使しつつも、事件を解決するためだけに終始しているわけではなく、閉鎖的なレミ村の社会環境や犯人の家庭環境、さらにはアニエスの人物像、シャルルとアニエスの関係など、豊富な心理描写によって人物がきちんと描かれているところは好感が持てる。

展開は素直。
少ない手がかりを集め、新たな事実とともに、解決に導く、と言う展開。
ただ、犯人とされる人物の描写が時折挿入されるので、ここで読者の読みを惑わせるように作ってある……のだが、たぶん、ミステリ好きのひとには比較的簡単な謎ではないかと思われる。
私はそういうタイプではないので、「あ、そっちが犯人……」と思ったが、あとから思い返してみると、そこかしこにネタは転がっていたので、じっくりと考えながら読めば犯人は読めただろうなぁ、と思うし(笑)

文章は心理学のところなんかは取っつきにくいかもしれないが、概ね良好。
やや視点が定まらなかったり、シャルルとアニエスの視点の入れ替わりが不自然だったりするところもあるが、大きく評価を下げるほどではない。

ストーリー、文章ともに大きな破綻はなく、作品の出来としてはいいほうだろう。
ただ、シャルルとアニエスの関係があざとい展開を見せるのが、なんかなぁ、って気はしないでもない。
純粋なミステリではなく、恋愛小説の要素も強いので、ミステリにそんなのはいらない、ってひとにはつらいかもね。
総評としては……う~ん、出来は悪くないんだけど、いまいち盛り上がりに欠けるし、すごいおもしろい! ってところまでは行かないので、及第が妥当、かな。

珍しいこともあるもんだ

2007-03-23 20:16:15 | 小説全般
さて、聞き慣れた曲ってなんかいいよねの第843回は、

タイトル:ア・ルース・ボーイ
著者:佐伯一麦
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'94)

であります。

ドラマにもなった「のだめカンタービレ」のおかげか、有名なクラシックを集めまくった5枚組、6枚組なんてCDが安く手に入ることもあって、ちょいと買ってみた。
クラシックというと印象派がメインなので、モーツァルトなんか滅多に聞かないけど、久々に聞くといいもんだなぁ、とこの記事は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」なんかBGMにしてたりして(笑)

さて、本書は三島由紀夫賞を受賞した作品で、ひとりの少年の成長物語。
ストーリーは次のとおり。

『ア・ルース・フィッシュ――だらしのないヤツ
それがブラックと言うあだ名の英語教師がぼく……斎木鮮につけた烙印だった。
loose。ずさんとか、だらしがないとかの他に、自由な、そんな意味のある単語。

進学校でもあった高校を中退した自由になったぼくは、中学のときに付き合っていた幹とともに暮らしていた。たった3畳しかない安アパートで、幹がぼくではない誰かの私生児とともに。
家にも帰れない幹と、梢子と名付けた赤ん坊を養うために、ずっと続けてきた新聞配達をやめて職探しをするも、なかなか見つからない。

けれど、ある公園で見た街灯の設備保守をやっている沢田さんに出会い、電気設備の仕事につくことが出来た。
仕事をしながらぼくと幹と梢子とともに暮らす日々。
だが、いつの日か、梢子の病気が原因でちょっと出てくると言う書き置きを残して幹と梢子はアパートからいなくなって、戻らなくなってしまった。
ふたりがいないアパートで、ぼくは仕事を続けながら、ずっとふたりを待ち続けていた。』

三島由紀夫賞……う~む、いままでこれっぽっちも縁がない、と言うか、純文学の賞なんかにまったく興味はなかったけど……。
単純に、物語としておもしろく読めました。

ストーリーは、進学校に入学しながら中退した「ぼく」こと斎木鮮は、母親に愛されないまま成長したり、幼少時代の体験から自虐的な行動を繰り返したり、幹を抱けない意気地のなさを露呈したりと、ネガティブな部分を持ちながらも、仕事や幹、梢子との生活を通じて、「loose」……だらしないではない、自由なひとりの人間として成長する姿を描いたもの。
どうやら私小説の範疇に入るようだが、そういう先入観がなければ、17歳の少年の衒いのない姿を十二分に感じられる良品と言える。

また、作品の雰囲気も十分感じられ、特に作中でよく使われる細かい描写……料理や電気設備の仕事の際の、見方によってはくどく思えるほどに細かい表現が、逆に高校を中退し、3人での「生活」を選んだ生活臭のようなものを醸し出す、効果的な文章になっている。

ラストも、純文学系にありがちなオチなしのほったらかしではなく、納得のいく「ぼく」の姿で締めてくれていて、好印象。

作中に散りばめられた「ぼく」の背景とか、そういうものからあれこれと考える分析型にも向くだろうし、物語としても単純におもしろく読めるので、そういう分析とも無縁のひとにもオススメしやすい。
私小説ということを差っ引いても、これは十分良品に値するだろう。

しかし、純文学系で男性作家……それで良品と思える作品があるとは……。
ホントに、私にしてはかな~り珍しい作品だわ(笑)

時代もの定番中の定番

2007-03-22 20:30:44 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、なんとな~くネタだけはお互いたくさん出るよねの第842回は、

タイトル:はちみつの花
著者:木内たつや
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

鈴:いろいろとやってたりするんだよねぇのLINNで~す。

扇:ああ、世界制服計画練るとかか? と尋ねるSENでーす。

鈴:誰が練るかっ!
私は制服なんぞに大して興味はない。

扇:世界制服計画ではないとすると……人類抹殺計画かっ!
あれだな、昔のSFヒーロー物のお約束、愚かな人類が自ら災厄を招くとかそーゆー話だな?

鈴:それはお約束なのか?

扇:お約束だぞ。
反乱起こすロボットとか、マッドサイエンティストとか、泥田坊とかが敵に回るわけだ。

鈴:ロボットやマッドサイエンティストはわかるんだが、どこの世界に泥田坊が出てくるSFヒーロー物があるんだ!!

扇:え?
ゲゲゲの鬼太郎ってSFだろ?

鈴:ぜんぜんちゃうわぁっ!!
いちおう、あれは妖怪ものだろに。

扇:だからSF妖怪ものだろ?
だって、鬼太郎ってば完全に生物兵器だし。
髪は短針銃、指は鉄鋼弾、下駄は誘導ミサイルで、おまけに体内電気まで使うんだぞ。
格闘ゲームに出てくる、サイボーグとかミュータントそのまんまではないか。(笑)

鈴:……そこまで揃えれば、まぁ、確かにそうは見えなくもないが……。
それより、なんで世界制服計画が、「ゲゲゲの鬼太郎」になるんだ?

扇:人類すべてにちゃんちゃんこを――

鈴:いるかそんなもんっ!

扇:もちろん全国の親父はみんな目玉に――

鈴:それは鬼太郎ひとりで十分じゃっ!!

扇:ノリが悪いなLINN君。
せめて片目を髪で隠すぐらいはしてくれ。

鈴:それはイヤ。
きっと髪が目に刺さって痛い……はず。
と言うか、大学時代経験済み(爆)

扇:やったのかよ、をい。
何なら、右から見ても左から見ても目が隠れてるように見えて、実は真正面から見ると鼻が隠れてるだけっていう、花形満カットでも良いぞ。(笑)

鈴:いちおう、大学2年のころは、肩胛骨のあたりまで伸びてたからな(笑)
しかし、ぢつは鼻が隠れているだけって……。
まぁ、でもそうでなけりゃ、花形、ゼッタイ打てねぇよな。

扇:長髪LINN……なんか落ち武者みたいだな。
壇ノ浦あたりでバイトしてたのか?

鈴:するかっ!
それに、落ち武者とはなんだ。
あの髪が長いとき、友人と遊びに行った先で、ちょうど後ろから来た自転車のあんちゃんが、振り返った途端、コケそうになった、と言う実話まであると言うのに(笑)

扇:髪が長けりゃ女かよ。(笑)
まー、あんた肩幅狭いし、がに股でもないから、髪だけ見て勘違いしたんだろうなぁ。
俺は俺で、六歳未満の時におかっぱ頭で妹と散髪屋に行ったら――
「じゃあ、お姉ちゃんからね」
と言われて、以後、理容師を信用しないことに決めた。(爆)

鈴:まぁなぁ。
あのとき、確か、ハーフコートだったし、概ねサイズのでかいのを着るからほとんど手は出てなかったし、天然パーマでソバージュかかってるみたいだったし、そりゃ間違えるよな、後ろ姿だけだと(爆)
しかし、6歳未満とは言え、よく間違えたな、その散髪屋。

扇:何か暴露話みたいになってきたから、そろそろ真面目な話をしよう。
『ハチミツとクローバー』だったかな?

鈴:ちゃうわっ!
「はちみつの花」だ。
ストーリーは、8歳のときに天涯孤独となり、田舎から子爵夫婦に下働きとして雇われた千歳が、久世家の養子として来た弟夫婦の次男ランと、身分違いの恋に落ちる、この手の時代ものでは、ごくごく定番で甘々のラブコメディであります。

扇:実際、それ以外のネタがまったくない漫画だな。
定番だけに、キャラだけ代えて何度も描かれるものではあるんだろうが……もちっと捻って欲しかった気はする。
主役二人もステロタイプで、特にこれといった印象がないしねぇ。

鈴:ないなぁ。
LaLaDXでも、この手の身分違いの恋愛ものってのは、たくさん読み切りで読んできたが、なんでこれが連載になってるのか、不思議だ……。
まぁ、ともあれ、CM行っとくかね。


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鈴:では、恒例のキャラ紹介から。
本作の主役兼ヒロインの千歳。久世子爵家に8歳のときに拾われ、女中として働いており、ランが来てからは年齢が近いと言う理由で、世話を任される。
初手からランに「大根」などと言われたりして前途多難な様子だったが、ランの容姿に近づけない女中たちの中、容姿のことなど意に介さず接することによって、子爵家跡取りのランを籠絡することに成功する。
性格は純朴。ランに迫られると赤くなったり、抜けきらない方言のことを揶揄されてへこむ、身分違いに悩む、などなどこれまた定番を外さないキャラとなっている。

扇:籠絡かい。(笑)
いわゆる、都会人特有の偏見がないおかげで、素のまんまの自分を見せてしまい、そのまま気に入られちゃったという、ただそれだけの娘だね。
バッサリ言い切るが、キャラの個性は微塵も感じられない。
あと……これは性格とは関係ないけれど、作者、この娘の大き過ぎる目を持て余しているのか、ラン君に比べて顔のパースが狂うことが異常に多いのもマイナス。
巻末に白泉社定番の『本作とは無関係の短編』が載ってて、そっちのヒロインの顔が安定しているだけに余計千歳のアラが目立つ……どうにかしてくれ。

鈴:あぁ、無関係な短編ね……。
まぁ、顔がどういうと言うより、短編として大しておもしろくなかったけど(毒)
さて、では本編の彼氏役のラン。イギリスに住む久世子爵家の弟夫婦の次男坊で、子供が出来なかった本家の養子として登場。
ハーフであるため、当時の言葉で言う「異端」などと呼ばれ、容姿の違いから敬遠されがちな境遇であるが、そのことをまったく意に介さない千歳にあっさりと転ぶ。
千歳に迫っては赤面させること多数だが、肝心なセリフはどもる、などイギリス育ちとは思えない一面を見せる。

扇:金髪の日本人、それだけのキャラ。
千歳を傷つける者に対する態度は、「そりゃ次代の子爵様ですから」の一言で済むので、結局の所、イギリスからやって来ましたという設定は性格にまったく反映されていない。
千歳に落ちるのは、物語上の必然だからいいとしても、それまでの過程の描写が安直かつ短すぎるため、単なる騙され易いおぼっちゃんという印象すら受けてしまう。
ところで、作者はこの子を『天性の女ったらし』のつもりで描いてたりするのだろうか? もしそうだとしたら、あからさまに失敗している。(冷笑)

鈴:……毒吐いてしかも(冷笑)かよ……。
しかしまぁ、ベタで甘々な時代ものとしては、特段見るべきところはいっさいないからなぁ。
なんか、久しぶりに、この木劇で×の洗礼を受ける作品かもしれんな。

扇:無理にいいところを探すとしても……ないな。
キャラに個性無し、ラブコメとしては吹っ切れてない、ストーリーは四話続けてほぼ同じ内容とあっては、何を褒めていいのかさっぱり解らん。
そもそも、トラブルと言うか、すれ違いの種火となる筈の、『ランは千歳のことを恋人だと思っているが、千歳はそんなことはあり得ないと思っている』を、二話であっさり解消しちまってる時点で、話を続ける意味まったくないしね。

鈴:そうねぇ。
あと、身分違いをネタにしても、それも3話でとりあえずすでに終わってるからな。
となると、結局、そのあたりはすべて千歳の独り相撲でしかないし、いつまでもこのネタを続けても意味はないわなぁ。
と言うか、どーも巻数の表示はないが、この4話で完結させてくれたほうが、よっぽどかよかったとは思うんだがなぁ……。
4話見るかぎり、まだ続きそうだし……。

扇:えー、久々に毒満載のレビューでしたが、これ以上敵を増やす前に終わっておきます。
可愛らしい恋物語として読めないこともないのでしょうが、私はオススメしません。
では、後味悪いけど、今日はこのへんで……さようなら。

鈴:後味悪いまんま、ほったらしで逃げるなっ!!
まぁでも、定番でお約束なので、この手のシチュエーションが好きなひと、もしくは純朴なヒロインに萌えな方はいいですが、そうでなければなかなかオススメしにくい作品です。
なんか、ほんとうに久々に○でも△でもない木劇って久しぶりだよなぁ、と思いつつも、今回はこの辺でお開きであります。
再見~


りるさんの記事にて紹介して頂きました。多謝!